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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  B62D
審判 一部無効 1項3号刊行物記載  B62D
管理番号 1257701
審判番号 無効2011-800013  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-01-28 
確定日 2012-04-24 
事件の表示 上記当事者間の特許第3229297号発明「移動体の操作傾向解析方法、運行管理システム及びその構成装置、記録媒体」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
本件特許第3229297号(請求項の数[20],以下「本件特許」という。)の出願は,平成11年10月12日(優先権主張:平成10年10月12日)に特許出願された特願平11-290354号(以下「本願特許出願」という。)であって,その請求項1ないし請求項20に係る発明についての特許が平成13年9月7日に設定登録された後,平成14年5月20日に特許異議の申立てがなされ,平成14年8月16日に取消理由が通知された後,平成14年10月25日に訂正請求がなされ,平成15年1月21日に訂正(請求項1?20を請求項1?16に訂正)を認めた上で特許維持の決定がされたものである。
これに対して,前記本件特許の請求項9及び請求項15に係る発明の特許に対して,本件無効審判請求人(以下「請求人」という。)により,平成23年1月28日に無効審判〔無効2011-800013号〕が請求されたものであり,無効審判被請求人(以下「被請求人」という。)により,平成23年2月28日付けで審判事件答弁書が提出されたものである。
そして,平成23年5月27日に請求人・被請求人より口頭審理陳述要領書が提出され,平成23年6月10日に口頭審理が行われ,同日に口頭による審理終結通知がされたものである。

第2.当事者の主張
請求人の主張する無効理由は次のとおりである。
1.請求人の主張
甲第1号証ないし甲第3号証を挙げて,本件特許の請求項9及び請求項15に係る発明は,それぞれ(無効理由1)甲第1号証に記載された発明であって,特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであり,また,(無効理由2)甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであって,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから,特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきであるとし,証拠方法として甲第1号証ないし甲第3号証を提出している。


2.被請求人の主張
本件特許の請求項9及び請求項15に係る発明は,それぞれ甲第1号証に記載された発明とはいえず,また甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえないから,特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。

第3.口頭審理及び口頭審理陳述要領書における請求人,被請求人の主張
1.請求人
(1)本件特許発明の「特定挙動」とは「急発進、急停止、急旋回のときの移動体の動態」等を意味するとしても,具体的,技術的には任意の「閾値」を超える測定値が測定された場合の「移動体の挙動」を意味し,「事故が発生しない場合の移動体の挙動」のほか,「事故が発生した場合の移動体の挙動」も含む概念である。

(2)甲第1号証の【0022】には,「エンジンの回転数やブレーキ信号等を所定の閾値と比較した結果等を事故信号として用いることもできる。」と記載されており,「事故(信号)」が発生するエンジンの回転数やブレーキ信号が「所定の閾値」を超えた場合の移動体の挙動は,「所定の閾値で確定される移動体の挙動」といえ,本件特許発明の「特定挙動」と同一といえる。そして,このデータ収集装置は,事故の発生を前提としない「自動車教習所での運転結果の解析等」にも利用されている。

(3)明細書の記載では「操作傾向を解析」する具体的な方法の説明は不明確で,「記録されたイベントデータ等を時系列的に,位置情報を含めて表示することにより,その発生日時、場所、発生頻度等を視覚的に把握できるようにする処理」を意味するものと解され,同じような処理は甲第1号証(【0036】,【0038】),甲第3号証(【0052】)に記載されている。


2.被請求人
(1)本件特許発明は,明細書に記載の課題,作用効果と関連させて解釈すべきものである。

(2)甲第1号証(特に【0022】),甲第3号証は事故発生を前提においたもので,本件特許発明における「特定挙動」の発生については記載されていない。

(3)本件特許発明は,運転中何回でも発生する操作傾向(癖等)の解析に意義があり,それは請求項9に「操作傾向の解析が可能なように」と記載しているし,明細書の記載からも明確である。

第4.本件特許発明
本件特許発明は,その特許請求の範囲の請求項9及び請求項15のそれぞれに記載された事項によって特定されるとおりのものであり,本件審判事件の対象となる請求項9及び請求項15に係る発明は次のとおりである。

「【請求項9】 移動体の挙動を検出するセンサ部と,
前記挙動を特定挙動と判定するための挙動条件に従って前記センサ部で検出された当該移動体の挙動において前記特定挙動の発生の有無を判定し,前記移動体の操作傾向の解析が可能となるように,前記特定挙動の発生に応じて当該移動体の特定挙動に関わる情報を所定の記録媒体に記録する記録手段とを有し,
前記記録媒体は,前記移動体の識別情報,前記移動体の操作者の識別情報,前記移動体の挙動環境の少なくとも1つに従って分類される分類毎に作成されたカード状記録媒体であり,このカード状記録媒体に少なくとも前記挙動条件が記録されている, データレコーダ。」(以下「本件特許発明1」という。)

「【請求項15】 移動体の特定挙動に関わる情報を収集するための収集条件を所定の記録媒体に設定する処理,
前記設定された収集条件に適合する挙動に関わる情報が記録された前記記録媒体からその記録情報を読み出す処理,
読み出した情報から当該移動体の操作傾向を解析する処理をコンピュータ装置に実行させるためのディジタル情報が記録された,
コンピュータ読取可能な記録媒体。」(以下「本件特許発明2」という。)

第5.当審の判断
1.甲各号証とその記載事項
甲第1号証:特開平10-177663号公報
甲第2号証:実開平4-123472号公報
甲第3号証:特開平6-223249号公報

(1)甲第1号証の記載事項
移動体である業務用トラック,タクシー等に使用され,走行距離や車速の大きさ等の運航状態データを収集して記録するデータ収集装置に関し,特
にタコグラフの機能と,事故発生時の各種情報を収集するドライブレコーダの機能とを複合したデータ収集装置に関し,以下の事項が記載されている。

「【0010】運航状態データとは、移動体の稼働状況(例えば、タクシーにおける待機,回送,賃送や、トラックにおける荷役状況等)および運航状況(例えば、速度,変速段,制動信号,操舵信号,エンジン回転数,加速度信号,ヨーレート,温度,車載重量等)を示すデータ信号のことであり、詳細は表1のとおりである。また、事故信号とは車両の事故の発生を検出するための信号である。」

「【0022】MPU6は、データロギング部5によって解析された信号中の事故信号の有無を監視するとともにデータロギング部5等の各回路の動作を制御する制御手段である。なお、本実施の形態においては表1に示すようにエアバッグの作動信号を事故信号とするが、車両に設置された衝撃検出手段(図示しない)によって出力される加速度信号を用いてもよい。また、エンジンの回転数やブレーキ信号等を所定の閾値と比較した結果等を事故信号として用いることもできる。」

「【0028】その後、移動体が稼働を始めるとデータ収集装置1によって運航状態データの収集が開始される。すなわち、GPS受信部4は外部からGPSデータを受信および解析して移動体の位置,速度,高度,時間等のデータに変換して出力する。また、移動体の各所に設けられたセンサは表1に示すような種々の運航状態データを検出し、データロギング部5はこれらのデータをサンプリングする。」

「【0033】なお、ステップ101で事故信号を検出するとステップ108に移行し、RAM7に記録されているデータを補助記憶部8とメモリカード3とに転送してデータ収集を終了する。このとき、事故信号を検出してからもさらにサンプリングを継続することにより事故後のデータを記録することもできる。
【0034】また、事故信号を検出しなければ、予め設定した期間(例えば1日、1週間等)に亘ってデータ収集を行った後に上記操作を完了する。そして、乗務員または管理者によって、記録済みのメモリカード3はデータ収集装置1から取り外され、固定局サブシステム2のメモリカード入出力部10に装着される。メモリカード3に記録されているデータは直ちにデータ処理部11によって読み出され、運航データ保管部14に保管される。」

「【0038】
【発明の効果】以上説明したように、本発明は通常時には第2の周期で収集した運航状態データを外部メモリ等に記録し、事故発生時には第2の周期よりも速い第1の周期で収集した運航状態データを記録する。その結果、通常時には低サンプリングレートでデータ収集を行うため記憶容量を節約でき、種々の運航状態データを記録し従来のタコグラフとして機能する。また、衝突事故等の発生時には高サンプリングレートで運航状態データを記録することができ、事故発生前後における詳細な運航状態データを記録することができドライブレコーダとしての機能を得ることができる。このような効果を有することから本発明は、タクシーの稼働状況管理,宅配便等の効率的配送ルートの管理、長距離トラックの労務管理、アクシデント発生時のフライトレコーダ的使用、レンタカーの使われ方(速度、走行位置等)の管理、自動車教習所での運転結果の解析等に対して非常に有効であるといえる。」

以上のことから,甲第1号証には次の事項が開示されているものと認められる。
・タコグラフの機能と,事故発生時の各種情報を収集するドライブレコーダの機能とを複合したデータ収集装置であり,「運航状態データ」を検出し,収集・記憶する。
・「運航状態データ」とは,移動体の稼働状況(例えば,タクシーにおける待機,回送,賃送や,トラックにおける荷役状況等)および運航状況(例えば,速度,変速段,制動信号,操舵信号,エンジン回転数,加速度信号,ヨーレート,温度,車載重量等)を示すデータ信号のことであり,事故信号とは車両の事故の発生を検出するための信号で,例えば,エアバッグ信号であるが,エンジンの回転数やブレーキ信号等を所定の閾値と比較した結果等を事故信号として用いることもできる。
・通常時には第2の周期で収集した運航状態データを外部メモリ等に記録し,事故発生時には第2の周期よりも速い第1の周期で収集した運航状態データを記録し,種々の運航状態データを記録し従来のタコグラフとして機能するが,衝突事故等の発生時には高サンプリングレートで運航状態データを記録し,事故発生前後における詳細な運航状態データを記録することができドライブレコーダとして機能する。
・本データ収集装置は,タクシーの稼働状況管理,宅配便等の効率的配送ルートの管理,長距離トラックの労務管理,アクシデント発生時のフライトレコーダ的使用,レンタカーの使われ方(速度、走行位置等)の管理,自動車教習所での運転結果の解析等に対して非常に有効である。

(2)甲第2号証の記載事項
運転者の運転状況を把握するのに有効な車両の加速及び減速の履歴情報を有する車両運行データを収集する車両運行データ収集装置に関し,以下の事項が記載されている。

「【0006】
よって本考案は、上述した従来の問題点に鑑み、道路状況に左右されないで、運転者の運転状況を把握するのに有効な、加減速の履歴情報を含む車両運行データを収集することのできる車両運行データ収集装置を提供することを課題としている。
【0007】
【課題が解決するための手段】
上記課題を解決するため本考案により成された車両運行データ収集装置は、第1図の基本構成図に示すように、車両の加速及び減速の履歴情報を有する車両運行データを記憶媒体4に記録して収集する車両運行データ収集装置において、予め定めた加減速ランクの各々に対応した複数の回数記録エリア44a,44bを有する記録媒体4と、車両の加減速を予め定めた複数の加減速ランクデータの一つに変換する変換手段2aと、車両の停車を検出する停車検出手段2bと、最大ランク又はこれに近いランクの急減速を検出する急減速検出手段2cと、減速の開始から車速が連続して所定値低下したことを検出する車速低下検出手段2dと、車両の走行開始又は前回サイクルの終了から前記停車検出手段2b、前記急減速検出手段2c又は前記車速低下検出手段2dによる検出までを1サイクルとし、該1サイクルの間に前記変換手段2aによって変換した加減速ランクデータの内の最大の加減速ランクを検出する最大加減速ランク検出手段2eと、該最大加減速ランク検出手段2eにより検出した最大加減速ランクに対応する前記記録媒体4の回数記録エリア44a,44bのデータをインクリメントする書込手段2fとを備えることを特徴としている。」

「【0009】
以上のように、一定時間毎にでなく、停車毎の他、最大ランク又はこれに近いランクの急減速の検出や、減速の開始から車速の連続した所定値の低下の検出毎に、それまでの1サイクルの最大加減速ランクをインクリメントして車両の加速及び減速の履歴情報を有する車両運行データを収集しているので、停車の場合を除いては、運転がよくないときに一般道路と高速道路において区別なく起こり得、あまり道路状況に左右されない加減速の履歴情報が収集できる。」

上記甲第2号証の刊行物の摘記事項及び図面を総合すると,甲第2号証の刊行物には,次の事項が記載されているものと認められる。
「CPU2において,走行センサ1から得られる車両の加減速データを,加減速ランクデータと対比し,『車両の停車を検出する停車検出手段』『最大ランク又はこれに近いランクの急減速を検出する急減速検出手段』『減速の開始から車速が連続して所定値低下したことを検出する車速低下検出手段』を有する車両運行データ収集装置が記載され,前記加速ランク・減速ランクなどの(データ収集)条件は,ICメモリカード4の『設定データDs』に記録されており,当該設定データが,CPU2に読み出される構成になっている。」(以下「甲第2号証に記載された事項」という。)

(3)甲第3号証の記載事項
自動車レーダシステムにおける操作的なイベント(事象)を記録するための装置および方法に関し,以下の事項が記載されている。

「【0005】自動車事故復元の分野では、事故分析者は、横滑り形跡の長さや車両の大きさ、周囲の物体の損傷度、事故発生時の道路状況などを測定することによって最も可能性の高い事故発生状態を決定する。この事故再現方法は時として非常に費用がかかったり不正確であった。それゆえ、自動車にも事故記録ブラックボックスとして機能するシステムを備えることが望まれている。そのようなシステムは、車両および事故発生以前の周囲環境に関する情報を記録しているのが好ましく、記録された情報は、事故につながる事象を再現するために使用するために事故後の読み出しが可能であるべきである。事故後の測定データとは異なり、このシステムは実際の経過通りのデータを使用することによってより正確に事故の復元を行うことができる。
【0006】また、事故復元に有用なデータの記録以外にも、自動車機能、操作状態、環境データなどの標準的なデータも記録できることが望ましく、ドライバーの好みに合わせた装置配置や、許可されない者の運転を防止する認可機能、あるいは自動車電子制御システムやレーダシステム用の全システムソフトウェアをグレードアップするための適宜な手段を備えることも望まれる。
【0007】本発明は、上記の目的を満たし、かつ先行技術を越える利点を有するシステムを提供するものである。」

「【0035】第2操作モードの別の変形では、最新ページ以外のページの記録は、自動車の操作値あるいは性能値が所定のしきい値を越えたり、事故発生などの異常事態によってトリガされる。例えば、エンジン温度などひとつあるいは複数の値がしきい値を越えた場合にのみ運転整備センサ値が記録される。別の例として、最新ページ以外の記録は、突然の加速、減速、突然のブレーキ操作、エアバッグの作動など、事故を示し得るような異常状態によってトリガされる。また、記録は手動によってもトリガされる。メモリの個別のページにそのような情報が記録され、特別の事態にのみトリガされることによって、後の分析のための自動車/ドライバー機能のデータ捕獲が可能となる。」

「【0047】本発明のこの態様はまた、自動車の操作指標をドライバーの意向に合わせて「特別化」あるいは「個人化」するのにも用いられる。例えば、量販車あるいはバスなどのドライバーはRAMカード20を用いて、所望の前方間隔、警告しきい値、自動車の電子制御システムを介してセットされるその他のパラメータに関する各自の意向を車両に組み込むことができる。」

「【0052】
【発明の効果】以上のように、本発明のイベント記録装置は、偶発事故などが記録を停止するまでデータの記録を行い、事故後にRAMカード20を取り外して、その事故に至るまでの事象をマッチインターフェイスつきの標準パーソナルコンピュータを使用して再生することが可能となる。このように本発明は、様々な標準自動車機能、操作状態、環境データと同様に、事故復元においても非常に有効である。また、本発明のイベント記録装置はドライバーの特定の好みに応じて配置可能であり、許可されない者の運転を禁じる認可機能を随意に供えることもでき、さらに、自動車電子制御システムあるいはレーダシステムのために全システムソフトウェアをグレードアップするための適切な手段を設けることもできる。」

甲第3号証には,「自動車の操作値あるいは性能値が所定のしきい値を越えたり,事故発生などの異常事態によってトリガされ,データの収集を行い,ドライバーは,RAM力ード20を用いて,所望の前方間隔,警告しきい値,自動車の電子制御システムを介してセットされるその他のパラメータに関する各自の意向を車両,すなわち,車両に搭載したマイクロコントローラ22に組み込むことができるイベント記録装置」(以下「甲第3号証に記載された事項」という。)が記載されている。


2.本件特許発明
本件特許発明1及び2は,従来のデータレコーダが,事故等の発生原因を究明するためのもので,多大な記録領域を要し,運転者による(車両の)操作傾向を把握して事故等の発生を未然に防止する情報を生成するという観点がなかったという問題点を解決し,移動体,例えば車両の「操作傾向」を適切に把握できるようにすることを課題としている。(明細書【0004】?【0007】)
そして,「移動体の挙動」は車両の発進,停止,旋回のときの動く状態をいい,「特定挙動」とは急発進,急停止,急旋回のときの動態,すなわち危険挙動であり,「特定挙動の操作傾向」とは,車両の急発進のときの急なアクセル操作,急停止のときの急なブレーキ操作,急旋回のときの急なハンドル操作のような,通常時とは異なる特徴的な操作を指し,このような特徴的な操作が運転者の癖等になっていることをその運転者が確認できるようにした情報が「特定挙動に関わる情報」であり,具体的には特定挙動の発生前後の測定データで,この「操作傾向」を解析することにより事故等の発生を未然に防止することが可能となる。

(2-1)本件特許発明1について
(ア)本件特許発明1と甲第1号証に記載された発明との対比
甲第1号証の刊行物の摘記事項及び図面を総合すると,甲第1号証の刊行物には,次の発明が記載されているものと認められる。

「ブレーキ動作などの移動体の拳動を検出するセンサ部が備えられており,センサ部で検出された当該移動体のブレーキ信号等を『所定の閾値』と比較した結果を『事故(信号)』と判定し,事故発生時には,前記移動体の稼働状況および運行状況を示す制動信号を含む『運行状態データ』をメモリカード3に転送して記録する記録手段を有し,事故発生前後における詳細な運行状態データを記録し,前記メモリカード3は,前記移動体の『車両識別コード』『運転者識別コード』に従って分類される分類毎に作成されたカード状記録媒体であり,このメモリカード3には,予め固定局において,車両識別のデータや『データ収集時における指示』が記録されている事故発生時の各種情報を収集するドライブレコーダの機能と通常時のタコグラフ機能とを複合したことにより,当該移動体の稼働状況管理,効率的配送ルートの管理,労務管理,アクシデント発生時のフライトレコーダ的使用,レンタカーの使われ方(速度,走行位置等)の管理,自動車教習所での運転結果の解析等に対して非常に有効なデータ収集装置。」(以下,これを「甲第1号証発明1」という。)

本件特許発明1と甲第1号証発明1とを対比する。
本件特許発明1も甲第1号証発明1もともに車両等の移動体の挙動を表す運行データの管理システムに係るデータ記録装置であり,甲第1号証発明1の「データ収集装置」は本件特許発明1の「データレコーダ」に相当している。
以下同様に,「ブレーキ動作などの移動体の拳動」は「移動体の挙動」に,「メモリカード3に転送して記録する記録手段」は「所定の記録媒体に記録する記録手段」に,「前記メモリカード3には,前記移動体の『車両識別コード』『運転者識別コード』に従って分類される分類毎に作成されたカード状記録媒体」は「前記記録媒体は,前記移動体の識別情報,前記移動体の操作者の識別情報,前記移動体の運航状態挙動環境の少なくとも1つに従って分類される分類毎に作成されたカード状記録媒体」に,「このメモリカード3には,予め固定局において,車両識別のデータや『データ収集時における指示』が記録されている」は「このカード状記録媒体に少なくとも前記挙動条件が記録されている」にそれぞれ相当している。
そして,「事故」と「特定挙動」とはともに「異常な挙動」という点で共通している。

本件特許発明1と甲第1号証発明1は,
「移動体の挙動を検出するセンサ部と,
前記挙動を異常な挙動と判定するための挙動条件に従って前記センサ部で検出された当該移動体の挙動において前記異常な挙動の発生の有無を判定し,前記移動体の異常な挙動の発生に応じて当該異常な挙動に関わる情報を所定の記録媒体に記録する記録手段とを有し,
前記記録媒体は,前記移動体の識別情報,前記移動体の操作者の識別情報,前記移動体の挙動環境の少なくとも1つに従って分類される分類毎に作成されたカード状記録媒体であり,このカード状記録媒体に少なくとも前記挙動条件が記録されている,
データレコーダ。」で一致し,次の点で両者の構成が相違する。

相違点1:「異常な挙動」及び「異常な挙動に関わる情報」として,本件特許発明1では「特定挙動」及び「特定挙動に関わる情報」であるのに対して,甲第1号証発明1では「事故」及び「事故発生時には,前記移動体の稼働状況および運行状況を示す制動信号を含む『運行状態データ』」である点。

相違点2:本件特許発明1は「移動体の操作傾向の解析が可能となるように記録する」のに対して,甲第1号証発明1では「事故発生前後における詳細な運行状態データを記録し,事故発生時の各種情報を収集するドライブレコーダの機能と通常時のタコグラフ機能とを複合したことにより,移動体の稼働状況管理,効率的配送ルートの管理,労務管理,アクシデント発生時のフライトレコーダ的使用,レンタカーの使われ方(速度,走行位置等)の管理,自動車教習所での運転結果の解析等に対して非常に有効」なものである点。

(イ)相違点についての検討
相違点1について
本件特許発明1における「特定挙動」は,急停止,急旋回のときの動態,すなわち危険挙動であり,「特定挙動に関わる情報」とは急発進のときは急なアクセル操作,急停止のときは急なブレーキ操作,急旋回のときは急なハンドル操作のような特徴的な操作,すなわち操作傾向(運転者の癖等)に関わる,運転者が確認できるようにした情報を意味している。
それに対して,甲第1号証発明1は「事故」及び「事故発生時には,前記移動体の稼働状況および運行状況を示す制動信号を含む『運行状態データ』」であり,本件特許発明1の「特定挙動」及び「特定挙動に関わる情報」とは異なるものである。
さらに,上記相違点1の本件特許発明1の「特定挙動」及び「特定挙動に関わる情報」については甲第2,3号証のいずれにも記載も示唆もされていないから,甲第1号証発明1の「データ収集装置」に適用することができず,当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

相違点2について
本件特許発明1において,挙動の特徴が発生し易いのは,発進時,停止時,旋回特に交差点旋回時であることから,挙動の特徴を認識するための一つの閾値または複数の閾値の組み合わせ(条件パターン)とし,特定したい挙動の発生を検出して当該挙動に関わる情報を収集し,この情報をもとにして,例えば運転者毎の操作傾向の解析を可能にしている(【0023】,【0030】,図6等)。
そして,メモリカードヘは「特定挙動」が発生する都度,このような測定データが記録されるため,運転者は,これらの測定データを繰り返し確認することにより,操作傾向(癖等)を把握して「事故等の発生を未然に防止する情報」として活用することができる。

それに対して,甲第1号証発明1では,「事故発生前後における詳細な運行状態データを記録し,事故発生時の各種情報を収集するドライブレコーダの機能と通常時のタコグラフ機能とを複合」するものであり,その運行状態データを「移動体の稼働状況管理,効率的配送ルートの管理,労務管理,アクシデント発生時のフライトレコーダ的使用,レンタカーの使われ方(速度,走行位置等)の管理,自動車教習所での運転結果の解析等に対して非常に有効」に活用するもので,本件特許発明1の「移動体の操作傾向の解析が可能となるように記録する」とは異なるものである。
さらに,上記相違点2の本件特許発明1の「移動体の操作傾向の解析が可能となるように記録する」は甲第2,3号証のいずれにも記載も示唆もされていないから,甲第1号証発明1の「データ収集装置」に適用することがでず,当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

そして,本件特許発明1は,本件明細書段落【0046】に記載の「このように、本実施形態の運行管理システム1では、初期情報や条件パターンを運転者毎にメモリカード20に設定しておき、条件パターンに適合するイベントが発生したときに、そのイベントに関わる情報のみをそのメモリカード20に記録するようにしたので、資源の有効活用を図りつつ、運転者毎の運転評価や操作傾向を解析することが可能になる。そのため、従来のように事故等が発生した場合のみならず、事故等の発生の有無に関わらない利用形態、例えば安全運転のための技術向上過程を確認したり、特徴的な挙動を確認して事故等の未然防止を図ったりすることが可能になる。」という作用・効果を奏するものである。
したがって,本件特許発明1は,甲第1号証発明1及び甲第2,3号証に記載の各事項を検討したが,いずれにおいても上記相違点1及び2に相当する構成は見いだすことができないから,甲第1号証に記載された発明とはいえないし,甲第1号証?甲第3号証に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(2-2)本件特許発明2について
(ア)本件特許発明2と甲第1号証に記載された発明との対比
甲第1号証の刊行物の摘記事項及び図面を総合すると,甲第1号証の刊行物には,次の発明が記載されているものと認められる。

「固定局において,車両識別のデータや『データ収集時における指示』をメモリカード3に設定する処理,
事故発生時には,制動信号を含む『運行状態データ』をメモリカード3に転送して記録し,固定局のデータ処理部11により,メモリカード3から前記記録情報を読み出す処理,
読み出した情報から当該移動体の稼働状況管理,効率的配送ルートの管理,労務管理,アクシデント発生時のフライトレコーダ的使用,レンタカーの使われ方(速度,走行位置等)の管理,自動車教習所での運転結果などを解析する処理,
以上を固定局サブシステムのコンピュータ装置に実行させるためのプログラム(ディジタル情報)及び当該プログラムが記録されたコンピュータに読取可能な記録媒体。」(以下「甲第1号証発明2」という。)

本件特許発明2において,「収集条件」とは操作傾向の解析に必要な情報を収集するための条件であり,具体的には,挙動の特徴を認識するための一つの閾値または複数の閾値の組み合わせ(条件パターン)に,収集したい範囲(時間,回数等)の条件が付加されたもので,「収集条件に適合する挙動に関わる情報」とは,挙動の特徴を認識するための一つの閾値または複数の閾値を超えた,或いは一つの閾値または複数の閾値を超え,且つ,設定された範囲分の測定データ,すなわち,特定挙動の発生前後の測定データを意味している。
そして,「収集条件」を「所定の記録媒体」に設定するとともに,この「収集条件に適合する挙動に関わる情報」が記録された「所定の記録媒体」から記録情報を読み出して,当該車両の「操作傾向を解析する」処理をコンピュータ装置に実行させるためのディジタル情報(ソフトウェア)が記録媒体に記録されている。
本件特許発明2は,上記「収集条件」が設定され,且つ,この「収集条件に適合する挙動に関わる情報」が記録された「所定の記録媒体」から記録情報を読み取ることが発明に欠くことのできない構成となっている。
また,「操作傾向を解析する処理」とは,読み取った情報から,例えば車両のアクセル操作,ブレーキ操作,ハンドル操作のような運転操作の傾向を把握できるようにするために,グラフ作成や定量化を行う情報処理である。
本件特許発明2と甲第1号証発明2とを対比する。
本件特許発明2も甲第1号証発明2もともに「コンピュータ装置に実行させるためのディジタル情報が記録されたコンピュータに読取可能な記録媒体」であるが,
甲第1号証発明2の「車両識別のデータや『データ収集時における指示』をメモリカード3に設定する処理」と本件特許発明2の「移動体の特定挙動に関わる情報を収集するための収集条件を所定の記録媒体に設定する処理」とは異なるものである。
以下同様に,「事故発生時には,制動信号を含む『運行状態データ』をメモリカード3に転送して記録し,固定局のデータ処理部11により,メモリカード3から前記記録情報を読み出す処理」と「設定された収集条件に適合する挙動に関わる情報が記録された前記記録媒体からその記録情報を読み出す処理」とは異なるし,「読み出した情報から当該移動体の稼働状況管理,効率的配送ルートの管理,労務管理,アクシデント発生時のフライトレコーダ的使用,レンタカーの使われ方(速度,走行位置等)の管理,自動車教習所での運転結果などを解析する処理」と「読み出した情報から当該移動体の操作傾向を解析する処理」とは異なるものである。

(イ)判断
上記(2-1)(イ)で検討したのと同様に,本件特許発明2の「移動体の特定挙動に関わる情報」,「操作傾向を解析する処理」は甲第1号証発明2及び甲第2号証,甲第3号証に記載の各事項を検討しても,見いだすことができない。
そして,本件特許発明2により,本件明細書段落【0046】に記載の「このように、本実施形態の運行管理システム1では、初期情報や条件パターンを運転者毎にメモリカード20に設定しておき、条件パターンに適合するイベントが発生したときに、そのイベントに関わる情報のみをそのメモリカード20に記録するようにしたので、資源の有効活用を図りつつ、運転者毎の運転評価や操作傾向を解析することが可能になる。そのため、従来のように事故等が発生した場合のみならず、事故等の発生の有無に関わらない利用形態、例えば安全運転のための技術向上過程を確認したり、特徴的な挙動を確認して事故等の未然防止を図ったりすることが可能になる。」という顕著な作用効果を有するものである。

したがって,本件特許発明2が甲第1号証に記載された発明とはいえないし,甲第1号証発明2及び甲第2,3号証に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。

第6.請求人の主張に対して
請求人は,本件特許発明1及び2の「特定挙動」とは,適宜設定された任意の「閾値」を超える測定値が測定された場合の「移動体の挙動」を意味する,換言すると,「特定挙動」とは「所定の閾値で確定される移動体の挙動」として,甲第1号証の【0022】記載の「エンジンの回転数やブレーキ信号等を所定の閾値と比較した結果等を事故信号として用いることもできる。」を,「事故信号」として発生するブレーキ信号が「所定の閾値」を超えた場合の移動体の挙動として本件特許発明の「特定挙動」に相当する旨,主張しているが,本件特許発明1及び2の「特定挙動」は,急発進,急停止,急旋回のときの動態,すなわち危険挙動であることは,本件特許発明の課題,作用効果からみて明らかである。「特定挙動」を認識するため,一つの閾値または複数の閾値の組み合わせ(条件パターン)として「特定挙動」の発生を検出し,これを「特定挙動に関わる情報」としている。
甲第1号証における【0022】の記載は「事故の発生」を前提としたもので,本件特許発明1及び2の上記の「急発進、急停止、急旋回のときの動態」を前提とした「特定挙動」と同じものとは認められない。
また,甲第1号証に記載のデータ収集装置は「自動車教習所での運転結果の解析等」にも利用されているが,このデータ収集装置は通常時は従来のタコグラフの機能であり,事故発生時にはドライブレコーダとして機能するものであることを鑑みれば,自動車教習所での利用はタコグラフの機能として利用しているものと認められるから,本件特許発明1及び2のように操作傾向(癖等)を把握して事故等の発生を未然に防止することを意味するものとは認められない。

第7.むすび
上記のとおりであるから,無効2011-800013号については,請求人の主張する無効理由1及び2は採用することができないので,この請求は成り立たない。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2011-07-11 
出願番号 特願平11-290354
審決分類 P 1 123・ 113- Y (B62D)
P 1 123・ 121- Y (B62D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 芳枝  
特許庁審判長 川向 和実
特許庁審判官 栗山 卓也
小関 峰夫
登録日 2001-09-07 
登録番号 特許第3229297号(P3229297)
発明の名称 移動体の操作傾向解析方法、運行管理システム及びその構成装置、記録媒体  
代理人 栗下 清治  
代理人 松本 司  
代理人 鈴木 正剛  
代理人 藤掛 宗則  
代理人 井上 裕史  
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