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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G08B
管理番号 1257732
審判番号 不服2011-21090  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-09-30 
確定日 2012-05-28 
事件の表示 特願2005- 93081「火災警報器」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月12日出願公開,特開2006-277138〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願の発明
本願は,平成17年3月28日の出願であって,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成22年12月24日付の手続補正書により補正された明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。
「所定の監視領域内における所定の物理量の状態に基づいて火災を監視する火災警報器であって,
前記所定の物理量として煙の量を検出する第一の検出手段と,
前記所定の物理量としてCOの量を検出する第二の検出手段と,
前記第一の検出手段にて検出された煙の量及び前記第二の検出手段にて検出されたCOの量の変化率に基づいて,火災が発生したか否かを判断する制御手段と,を備えた,
火災警報器。」

2.引用文献
これに対して,原査定の拒絶の理由に引用された特開昭61-148597号公報(以下,「引用例」という。)には,「火災報知装置」と題し,図面と共に次の事項が記載されている。

・「第1図は本発明の一実施例を示したブロック図である。
まず構成を説明すると,1は受信機であり,受信機1より引き出された信号線L1には各警戒区域A1?An毎に複数のアナログ火災感知器を備えたアナログ火災感知器群2a?2nが接続される。アナログ火災感知器群2a?2nとしては,火災の発生に伴う物理的現像の変化量,例えば温度,煙濃度,COガス濃度等を検出し,この変化量に基づく火災検出情報を受信機1に送出する。このアナログ火災感知器は,1箇所の感知器設置位置に単一種類の火災感知器を設置する他,同じ設置箇所に検出対象の異なった火災感知器,例えば熱感知器と煙感知器の両方が設置される場合も含む。」(2頁右上欄11行?同頁左下欄7行)

・「7は受信部6で受信された感知器からの検出情報に基づいて火災を判断する火災判断部である。この火災判断部7における火災判断処理は,例えばマイクロコンピュータを用いたプログラム制御により実行される。また,火災判断部7による火災判断としては,次のいずれかの判断方法またはその組み合せが用いられる。
(1)火災検出情報から得られた煙濃度,温度等の検出信号レベルが予め定めた閾値レベルを越えたとき,火災と判断する。
(2)一定時間内における火災検出情報の変化率から火災と判断する。」(2頁右下欄17行?3頁左上欄10行)

これらの記載事項及び図示内容を総合すると,引用例には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「各警戒区域A1?Anにおける火災の発生に伴う物理的現象の変化量から火災を判断する火災報知装置であって,
前記火災の発生に伴う物理的現象の変化量として,温度,煙濃度,COガス濃度を検出する火災感知器であって,同じ設置箇所に検出対象の異なった火災感知器,例えば熱感知器と煙感知器の両方が設置される場合を含み,
(1)火災検出情報から得られた煙濃度,温度等の検出信号レベルが予め定めた閾値レベルを越えたとき,火災と判断するか,(2)一定時間内における火災検出情報の変化率から火災と判断するかのいずれかの判断方法またはその組み合せが用いられて,火災を判断する火災判断部7と,を備えた,
火災報知装置。」

3.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。

まず,後者の「各警戒区域A1?An」は前者の「所定の監視領域内」に,後者の「火災の発生に伴う物理的現象の変化量」は前者の「所定の物理量の状態」に,後者の「火災を判断する」態様は前者の「火災を監視する」態様に,後者の「火災報知装置」は前者の「火災警報器」に,それぞれ相当するから,結局,後者の「各警戒区域A1?Anにおける火災の発生に伴う物理的現象の変化量から火災を判断する火災報知装置」は前者の「所定の監視領域内における所定の物理量の状態に基づいて火災を監視する火災警報器」に相当している。

次に,後者の「温度,煙濃度,COガス濃度を検出する火災感知器であって,同じ設置箇所に検出対象の異なった火災感知器,例えば熱感知器と煙感知器の両方が設置される場合を含」む態様には,「煙感知器」と「COガス濃度感知器」の両方が設置される場合も含まれることが明らかであり,「煙感知器」は前者の「煙の量を検出する第一の検出手段」に,「COガス濃度感知器」は前者の「COの量を検出する第二の検出手段」に,それぞれ相当するから,結局,後者の「火災の発生に伴う物理的現象の変化量として,温度,煙濃度,COガス濃度を検出する火災感知器であって,同じ設置箇所に検出対象の異なった火災感知器,例えば熱感知器と煙感知器の両方が設置される場合を含」む態様は前者の「所定の物理量として煙の量を検出する第一の検出手段と,前記所定の物理量としてCOの量を検出する第二の検出手段と」を備える態様に相当している。

また,前者の「第一の検出手段にて検出された煙の量及び第二の検出手段にて検出されたCOの量の変化率に基づいて,火災が発生したか否かを判断する」態様に関しては,2通りに解釈(以下,「解釈1」,「解釈2」という。)できるため,それぞれの場合について対比する。
(解釈1の場合)
本願の出願当初の特許請求の範囲の【請求項1】の「前記第一の検出手段にて検出された前記第一の物理量の変化率,又は,前記第二の検出手段にて検出された前記第二の物理量の変化率が所定の閾値を越えた場合に,火災が発生したものと判断する」なる記載,当初明細書の段落【0021】の「この発明によれば,煙やCOの感知量が閾値を越えていない場合であっても,煙やCOの変化率が閾値を越えている場合には,火災警報を行うことができる。」なる記載及び同段落【0128】の「実施の形態1においては,COの感知量の変化率に基づいて火災判断を行っているが,煙の感知量の変化率に基づいて判断を行ってもよい。」なる記載によれば,本願発明の上記の態様は,「第一の検出手段にて検出された煙の量と第二の検出手段にて検出されたCOの量」の「変化率」に基づいて,火災が発生したか否かを判断する態様を意味するものと解される。
一方,引用発明の「(1)火災検出情報から得られた煙濃度,温度等の検出信号レベルが予め定めた閾値レベルを越えたとき,火災と判断するか,(2)一定時間内における火災検出情報の変化率から火災と判断するかのいずれかの判断方法またはその組み合せが用いられて,火災を判断する」態様は,(2)の判断方法のみを用いた場合に,煙の量を検出する第一の検出手段と,COの量を検出する第二の検出手段とを備えていることを踏まえれば,「第一の検出手段にて検出された煙の量と第二の検出手段にて検出されたCOの量」の「変化率」に基づいて,火災が発生したか否かを判断することに等しい態様であるといえる。

(解釈2の場合)
本願の当初明細書の段落【0040】の「図4は,火災警報器10の判断処理のフローチャートである。まず,各部屋の火災警報器10は,煙を感知したか否かを監視する(ステップS1)。この監視は,例えば,煙感知部11における煙の感知量が,判定部13に予め設定された所定の最小閾値を越えたか否かを判断することによって行われる。そして,煙が感知されていない場合(ステップS1,No),火災警報器10は,COを感知したか否かを監視する(ステップS2)。この監視は,例えば,CO感知部12におけるCOの感知量が,判定部13に予め設定された所定の最小閾値を越えたか否かを判断することによって行われる。そして,COが感知されていない場合には(ステップS2,No),ステップS1に戻って煙の監視を継続する。」なる記載,同段落【0042】の「一方,ステップS3においてCOの感知量が閾値を越えていない場合には(ステップS3,No),このCOの感知量の所定時間当たりの変化率が,所定の閾値を越えたか否かを判断する(ステップS4)。この判断は,例えば,図示しないタイマーにて計時を行い,各時間毎のCOの感知量を図示しない記憶部に記憶させておき,所定時間毎に記憶部から前回の感知量を呼び出して,その変化量を算定することで行うことができる。そして,変化率が閾値を越えている場合には(ステップS4,Yes),煙が感知されておらず,かつ,COの感知量が所定閾値を越えていない場合においても,燻焼火災が発生したものと判断して,火災警報を発報する(ステップS5)。」なる記載,同段落【0044】の「再び,図4において,ステップS1で煙が感知したと判断された場合(ステップS1,Yes),火災警報器10は,さらに,この煙の感知量が,火災発生を示す所定の閾値を越えたか否かを判定する(ステップS6)。そして,煙の感知量が閾値を越えた場合には(ステップS6,Yes),火災が発生したものと判断して,火災警報を行う(ステップS5)。具体的には,火災警報を発報するとともに,全ての部屋の火災警報器10に火災警報を発報するよう煙検出信号等を有線又は無線にて送信し,これを受けた他の火災警報器10は火災警報を発報する。」なる記載,同段落【0045】の「一方,ステップS6において煙の感知量が閾値を越えていない場合には(ステップS6,No),ステップ4と同様に,COの感知量の所定時間当たりの変化率が,所定の閾値を越えたか否かを判断する(ステップS7)。そして,COの変化率が閾値を越えている場合には(ステップS7,Yes),煙の感知量が所定閾値を越えていない場合においても,燻焼火災が発生したものと判断して,火災警報を発報する(ステップS5)。」なる記載及び図4に示された内容によれば,本願発明の上記の態様は,「第一の検出手段にて検出された煙の量」と「第二の検出手段にて検出されたCOの量の変化率」とに基づいて,火災が発生したか否かを判断する態様を意味するものと解される。
一方,引用発明の「(1)火災検出情報から得られた煙濃度,温度等の検出信号レベルが予め定めた閾値レベルを越えたとき,火災と判断するか,(2)一定時間内における火災検出情報の変化率から火災と判断するかのいずれかの判断方法またはその組み合せが用いられて,火災を判断する」態様は,(1)と(2)の判断方法の組み合わせを用いた場合に,煙の量を検出する第一の検出手段と,COの量を検出する第二の検出手段とを備えていることを踏まえれば,「第一の検出手段にて検出された煙の量」と「第二の検出手段にて検出されたCOの量の変化率」とに基づいて,火災が発生したか否かを判断することに等しい態様であるといえる。

そうすると,解釈1と解釈2のいずれに解釈した場合であっても,引用発明の「(1)火災検出情報から得られた煙濃度,温度等の検出信号レベルが予め定めた閾値レベルを越えたとき,火災と判断するか,(2)一定時間内における火災検出情報の変化率から火災と判断するかのいずれかの判断方法またはその組み合せが用いられて,火災を判断する」態様は本願発明の「第一の検出手段にて検出された煙の量及び第二の検出手段にて検出されたCOの量の変化率に基づいて,火災が発生したか否かを判断する」態様に相当しているといえる。

最後に,後者の「火災判断部7」は前者の「制御手段」に相当している。

したがって,両者は,
「所定の監視領域内における所定の物理量の状態に基づいて火災を監視する火災警報器であって,
前記所定の物理量として煙の量を検出する第一の検出手段と,
前記所定の物理量としてCOの量を検出する第二の検出手段と,
前記第一の検出手段にて検出された煙の量及び前記第二の検出手段にて検出されたCOの量の変化率に基づいて,火災が発生したか否かを判断する制御手段と,を備えた,
火災警報器。」
である点で一致し,両者の間に構成上の差異は存在しない。

したがって,本願発明は,上記引用例に記載された発明であるといわざるをえない。

なお,請求人は,平成23年9月30日付の審判請求書において,引用例には,複数の火災感知器からの火災検出情報を複合的に使用して火災発生を判断することや具体的にどのような検出対象を組み合わせるのかが開示されていない旨主張している。
ところで,上記主張における「複数の火災感知器からの火災検出情報を複合的に使用」するとは,その「複合的」の技術的な意味が明確ではないが,本願発明の「第一の検出手段にて検出された煙の量及び第二の検出手段にて検出されたCOの量の変化率に基づいて」とする態様を根拠にしているものとするならば,本願発明は,複数の火災感知器からの火災検出情報を使用するという概念以上の格別の使用形態が特定されていることにはならないため,引用発明との相違点を見出すことができない。
また,引用発明において,「火災の発生に伴う物理的現象の変化量として,温度,煙濃度,COガス濃度を検出する火災感知器であって,同じ設置箇所に検出対象の異なった火災感知器,例えば熱感知器と煙感知器の両方が設置される場合」には,「熱感知器と煙感知器の組み合わせ」の他に,「熱感知器とCOガス感知器の組み合わせ」及び「煙感知器とCOガス感知器の組み合わせ」が存在するのみであるため,「煙感知器とCOガス感知器の組み合わせ」は当然に想定された組み合わせとして含まれているというべきである。
したがって,請求人の上記主張は採用できない。

4.むすび
以上のとおり,本願発明は,上記引用例に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないため,本願は,同法第49条第2号の規定に該当し,拒絶をされるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-21 
結審通知日 2012-03-28 
審決日 2012-04-10 
出願番号 特願2005-93081(P2005-93081)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (G08B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 橋本 敏行  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 堀川 一郎
神山 茂樹
発明の名称 火災警報器  
代理人 斉藤 達也  
代理人 斉藤 達也  

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