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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  F16C
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F16C
管理番号 1257777
審判番号 無効2010-800192  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-10-21 
確定日 2012-06-11 
事件の表示 上記当事者間の特許第3930267号発明「ヒンジ装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
(1)本件特許第3930267号の請求項1ないし5に係る発明についての出願は、平成13年6月18日の出願であって、平成19年3月16日に特許権の設定登録がされたものである。
(2)これに対し、請求人は、平成22年10月21日に本件特許無効審判を請求した。
(3)被請求人は、平成23年1月11日付けで答弁書を提出した。
(4)平成23年4月12日付けで口頭審理陳述要領書が請求人及び被請求人からそれぞれ提出された。
(5)平成23年4月26日に口頭審理を行い、審理を終結した。
(6)その後、平成23年5月13日付けで請求人から上申書が提出された。

2.本件特許発明
本件特許第3930267号の請求項1ないし5に係る発明(以下,「本件特許発明1」ないし「本件特許発明5」という。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
第1のユニット上に取り付けられる底部とこの底部を挟んで両側に形成された側部からなるコの字状のベース部材と、第2のユニットが取り付けられて前記ベース部材の側部に回動自在に軸支されたアーム部材と、を備えるヒンジ装置において、
コの字状の前記ベース部材の両側部の内側で、かつ前記ベース部材の底面の領域内に配置され、前記第1のユニットとの間に前記ベース部材の底部を挟んで保持する保持部と該保持部に対して折り曲げられた折曲部を有する板状の保持部材と、
コの字状の前記ベース部材の内側に配置された前記折曲部と前記ベース部材との間に取り付けられ、該ベース部材の取付位置を調整する調整部材と、を備えたことを特徴とするヒンジ装置。
【請求項2】
前記調整部材を調整ネジと該調整ネジの端部に間隔を隔てて設けられた2つのフランジとで構成するとともに、前記フランジ間の凹部と嵌合するための切欠部を前記保持部材の折曲部に形成したことを特徴とする請求項1に記載のヒンジ装置。
【請求項3】
保持部材は、複数の取付ネジによって複数箇所で前記第1のユニットに取り付けられることを特徴とする請求項2に記載のヒンジ装置。
【請求項4】
前記ベース部材の底面に前記取付ネジを貫通させるための貫通孔を形成し、この貫通孔を前記取付ネジのネジ頭の直径よりも大きく形成したことを特徴とする請求項3に記載のヒンジ装置。
【請求項5】
第1のユニットに取り付けられるベース部材と、第2のユニットが取り付けられて前記ベース部材に回動自在に軸支されたアーム部材と、を備えるヒンジ装置において、
前記第1のユニットとの間に前記ベース部材を挟んで保持する板状の保持部材と、前記保持部材と前記ベース部材との間に取り付けられ、前記ベース部材の取付位置を調整する調整部材と、を設け、
前記調整部材を調整ネジと該調整ネジの端部に間隔を隔てて設けられた2つのフランジとで構成し、前記保持部材に前記調整部材の前記フランジ間の凹部と嵌合するために切り欠いた切欠部を形成したことを特徴とするヒンジ装置。」

3.請求人の主張
これに対して、請求人は、特許第3930267号の請求項1ないし5に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする(請求の趣旨)、との審決を求め、証拠方法として以下の甲第1号証ないし甲第12号証を提出し、無効とすべき理由を次のように主張している。

3-1.無効理由1
本件特許発明1ないし本件特許発明5は、甲第1号証ないし甲第8号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきものである。
具体的な主張は、概略、以下のとおりである。

3-1-1.本件特許発明1について(審判請求書14ページ3行?17ページ4行参照)
(1)本件特許発明1と甲第2号証に記載された発明との構成要件上の違いは、折曲部を有する保持部材が、ベース部材の折曲部の内側に位置しているか、外側に位置しているかの違いである。なぜならば、本件特許発明1においては、保持部材の折曲部がベース部材の折曲部の内側になるように配置されているので、保持部材がベース部材の領域内に配置されることになり、また、調整部材が、ベース部材の内側に配置された保持部材の折曲部とベース部材との間に取り付けられることになるからである。
(2)しかしながら、複写機のヒンジ装置において、複写機本体へ取り付けられるベース部材の取付位置を調整するために、保持部材と調整部材を用いることは、甲第2号証以外にも甲第3号証において示されているように周知である上に、甲第4号証と甲第6号証に記載されているように、一般的に取付位置の調整手段として、板状の保持部材でベース部材を挟んで本体へ取り付ける構成は、本件特許発明1の出願前において慣用されている慣用技術でもある。とくに甲第6号証には、折曲部を有するベース部材に相当する上壁147bを有する戸吊金147の内側でかつ戸吊金147の底面の領域内に配置された調整金151が記載されており、さらに、この調整金151の折曲部と戸吊金147の上壁147bとの間に本件特許発明1でいう調整部材51に相当する調節ボルト154が取り付けられると共に、戸吊金147はその底部に設けた複数の長孔状の取付穴を介して複数のボルト153で調整金151に取り付けられており、ボルト153を弛めて調節ボルト154の頭部を回転させると戸吊金147がスライドしてその取付位置を調整できる機構が記載されている。
(3)この記載は、甲第2号証と甲第3号証の記載と合わせて、本件特許発明1の出願前に、保持部材の取付位置を調整するのに、保持部材をベース部材の内側と外側のどちらの側にも配置する技術が公知であったことを意味している。
(4)ここにおいて、保持部材をベース部材の内側に配置すれば、本件特許発明1や甲第6号証に記載の公知技術のように、ベース部材を保持部材と第1のユニットとの間で挟むことになるし、保持部材をベース部材の外側に配置すれば、甲第2号証と甲第3号証に記載されているように、保持部材をベース部材と第1のユニットとの間で挟むことになるものであり、両者の上記構成要件上の違いは単なる設計上の微差、ないし単なる選択事項に過ぎないことになる。
(5)よって、複写機のヒンジ装置の位置調整手段として、甲第2号証と甲第3号証に記載されたベース部材と本体との間に挟んで保持部材を設け、調整部材でベース部材の位置を調整する公知技術に、甲第4号証?甲第6号証に記載されているように、位置調整手段として慣用されている公知技術を組み合わせて本件特許発明1のように構成することは、当業者にとって容易になし得たことである。また、その作用効果も同じであり評価されるほどにとくに優れたものと言うことはできない。したがって、本件特許発明1は、甲第1号証?甲第6号証に記載の公知技術を寄せ集めることによって、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3-1-2.本件特許発明2について(審判請求書17ページ5行?18ページ13行参照)
(1)甲第2号証と甲第3号証には、本件特許発明2の「調整部材を調節ネジ51」とした構成と、「この調整ネジ51を保持部材50より折り曲げた折曲部50aへ回転可能に取り付けた」構成が、甲第2号証においては、段落【0016】?【0022】及び図5に記載されているように、「調整ねじ114」と「この調整ねじ114を結合部材110の折曲部に回転可能に取り付けた」構成として示されており、甲第3号証には、段落【0008】?【0009】及び図2?図5に記載されているように、「調節ネジ25」と「この調節ネジ25を調節板22の折曲部に回転可能に取り付けた」構成として示されている。
(2)これらの甲第2号証と甲第3号証に記載の公知技術と、本件特許発明2との違いは、「調整ネジ51がその端部に間隔を隔てて設けた2つのフランジ51a、51aを有する」点と、「2つのフランジ51a、51a間の凹部を折曲部に設けた切欠部50bへ嵌入させた」点の2点である。
(3)この相違点は、甲第7号証と甲第8号証に記載されている。即ち、甲第7号証には、二つ折り扉を上側レールに吊る位置を上下及び前後に調節する装置として、その明細書の10ページ12行?20行の記載、及び第8図に、間隔を空けた頭40aと鍔部40bの二つのフランジ部を有する調節ねじ40と、頭40aと鍔部40b間の凹部に嵌合するための切欠部(指示記号はない)を形成した端面板37aが記載されており、甲第8号証には、その3ページ5欄29行?6欄28行、第1図、第5図、及び第6図にレーザ計測用機器の位置を微調整できる支持装置として、昇降揺動枠11に回転自在に支持された横位置調節ねじ22が記載されている。この横位置調節ねじ22は、甲第8号証に指示記号で説明してはないが、その機能からして2つのフランジ部が設けられていることは明らかである。このことから調節部材として調節ネジを用い、この調節ネジに2つのフランジ部を設け、このフランジ間の凹部を嵌合するための切欠部を保持部材に設けることは、様々な技術分野で慣用されている技術であることが解る。
(4)したがって、甲第2号証、甲第3号証及び甲第7号証、甲第8号証を組み合わせると、本件特許発明2の構成要件が全て記載されていることは明らかであり、本件特許発明2は、当業者が上記各甲号証に記載の発明から容易に発明をすることができたものである。

3-1-3.本件特許発明3について(審判請求書18ページ14行?23行参照)
(1)甲第2号証には、本件特許発明3の「保持部材」に相当する「結合部材110」が、複数のねじ112、113によって複数個所で「第1ユニット1」に相当する「複写機本体A」に取り付けられた技術が記載されており、その作用効果もまた同じであって、とくに優れたものということはできない。
(2)よって、本件特許発明3は、公知技術そのものであるか、或はそうでなくとも甲第2号証に記載された公知技術から当業者が容易に発明をすることができたものである。

3-1-4.本件特許発明4について(審判請求書18ページ24行?19ページ13行参照)
(1)甲第4号証には、その第2図及び第3図に記載されているように、本件特許発明4の「ベース部材30」に相当する「取付金具1」と、「取付ネジ35」に相当する「ネジ8、8」が記載されており、本件特許発明4の「取付ネジ35のネジ頭の直径よりも径を大きくした貫通孔30c」に相当する「長穴2、2」が形成された技術が示されている。
(2)甲第5号証には、本件特許発明4の「ベース部材30」に相当する「調節片7」と、「取付ネジ35」に相当する「ボルト11」が記載されており、本件特許発明4の「取付ネジ35のネジ頭の直径よりも径を大きくした貫通孔30c」に相当する「長孔22」が形成された技術が記載されている。
(3)よって、この本件特許発明4も、甲第4号証及び甲第5号証に記載の各公知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3-1-5.本件特許発明5について(審判請求書19ページ14行?22ページ6行参照)
(1)甲第2号証でいう「結合部材110」は、本件特許発明5の「保持部材50」に相当する。甲第2号証でいう「調整ねじ114」は、本件特許発明5の「調整部材51」と「調整ネジ」に相当し、「原稿搬送装置B」は「ヒンジ装置3」に相当する。
(2)甲第4号証には、その第2図と第3図に示したように、本件特許発明5の「ベース部材30」に相当する「取付金具1」が、「第1のユニット1」に相当する「窓W」と「保持部材50」に相当する「固定用部材5」との間に、「枠J」に移動調節可能に取り付ける「ベース部材30」に相当する「取付金具1」を挟んで「固定用部材5」を取り付けた「振れ止め装置」として記載されている。また、甲第5号証には、その第1図から第5図に示したように、「第1のユニット1」に相当する「受け片4」と「保持部材50」に相当する「座金10」との間に、「受け片4」に移動調節可能に取り付ける「ベース部材30」に相当する「調節片7」を挟んで「座金10」を取り付けた「調節部の結合装置」として記載されている。
(3)甲第6号証には、「取付位置の調整をすべき引戸43に取り付けたところの、一側部に上壁147bを有する戸吊金147の内側で、かつ当該戸吊金147の領域内に配置された折曲部を有する調整金151を設け、上壁147bと調整金151の折曲部との間に戸吊金147の取付位置を調節する調整ボルト154を取りつけ、戸吊金147を当該戸吊金147に設けた長穴状の取付穴49を介してボルト153で調整金151へ取り付けた引戸装置」が記載されている。この甲第6号証において、「戸吊金147」、「調整金151」、「調整ボルト154」は、それぞれ、本件特許発明5の「ベース部材」、「保持部材」、「調整ネジ」に相当する。
(4)甲第7号証には、二つ折り扉を上側レールに吊る位置を上下及び前後に調節する装置として、10ページ12行?11ページ20行の記載、及び第8図に、間隔を空けた頭40aと鍔部40bの二つのフランジ部を有する調節ねじ40、及び頭40aと鍔部40b間の凹部に嵌合するための切欠部(指示記号はない)を形成した端面板37aが記載されており、甲第8号証には、3ページ5欄29行?6欄28行と第1図、第5図、及び第6図にレーザ計測用機器の位置を微調整できる支持装置として、昇降揺動枠11に回転自在に支持された横位置調節ねじ22が記載されている。この横位置調節ねじ22は、甲第8号証に指示記号で説明してはないが、その機能からして2つのフランジ部が設けられていることは明らかである。
(5)よって、本件特許発明5は、甲第1号証?甲第3号証に記載された公知技術に、甲第4号証?甲第6号証に記載の公知技術、及び甲第7号証?甲第8号証に記載の公知技術を組み合わせたもので、当業者がこれらの公知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

3-2.無効理由2
本件特許に係る特許請求の範囲、発明の詳細な説明及び図面には、数々の誤記、用語の不統一があり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないので、同法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきものである。
具体的な主張は、概略、以下のとおりである。
(1)本件特許発明の用語について(審判請求書7ページ18行?23行参照)
本件特許発明は、明細書の発明の詳細な説明には記載されていない用語、例えば「第1のユニット」、「第2のユニット」、「側部」、「保持部」、「保持部材」、「凹部」などを用いており、特許法第36条第6項第1号に違反する。
(2)保持部材と保持部との対応関係について(口頭審理陳述要領書3ページ5行?28行参照)
「保持部」なる用語は、本件特許明細書の発明の詳細な説明中において全く用いられていない。この点について被請求人は、平成23年1月11日付け審判事件答弁書の11ページB(3)欄において、本件特許明細書の段落【0021】や【0032】の記載を根拠として「保持部」とは、「板部材34」や、これをL字状とした「板部材50」のことであり、図6における符号50の引き出し線がある部分を示すことは明らかである、と主張している。その一方で、同じ(3)欄において「保持部材」も、段落【0031】や【0032】の記載を根拠として「板部材50」に該当することは明らかである、と主張している。
そうすると、「保持部」も「保持部材」も同じ「板部材50」に該当することは明らかであることとなり、したがって、「保持部」と「保持部材」とは同一のものを指していることになる。しかしながら、これは、「保持部材」が「保持部」と「折曲部」とから形成されているとする請求項1の記載と矛盾することになる。このように被請求人(出願人)であっても、用語の不統一から「保持部」と「保持部材」の対応関係が不明りょうとなってしまうくらいであるから、一般当業者がその内容を理解することは、一層困難になることは明らかである。したがって、本件の場合には、まさに「請求項及び発明の詳細な説明に記載された用語が不統一であり、その結果、両者の対応関係が不明りょうとなる場合に該当し(審査基準2.2.1(3)丸囲み数字2)、この規定に違反するものとして、特許法第132条第1項第4号の規定により、無効とされるべきものである。
(3)請求項1記載の「ベース部材との間」について(口頭審理陳述要領書5ページ8行?14行参照)
本件特許発明1は、図6?図8に記載された変形例2を対象としている以上、「ベース部材に折曲部」を設ける以外に他の構成は考えられにくく、これを本件特許発明1のように、「前記ベース部材との間」としたのでは、明細書及び図面の記載と本件特許発明1との対応関係が不明りょうと言わざるを得ない。

[証拠方法]
本件特許発明1ないし本件特許発明5は各甲号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであることを立証するために、次の甲第1号証ないし甲第8号証が提出された。
(1)甲第1号証:特開平7-197929号公報
(2)甲第2号証:特開平11-261742号公報
(3)甲第3号証:特開平11-95339号公報
(4)甲第4号証:実願昭57-51042号(実開昭58-153675号)のマイクロフィルム
(5)甲第5号証:実願昭61-157237号(実開昭63-62620号)のマイクロフィルム
(6)甲第6号証:特開平7-119353号公報
(7)甲第7号証:実願昭63-162630号(実開平2-83990号)のマイクロフィルム
(8)甲第8号証:実公平4-4971号公報
また、本件特許発明の権利取得に至るまでの経緯を立証するために、次の甲第9号証ないし甲第12号証が提出された。
(9)甲第9号証:特開2003-4027号公報(本件特許公開公報)
(10)甲第10号証:特許第3930267号公報(本件特許公報)
(11)甲第11号証:拒絶理由通知書(最初の拒絶理由通知)
(12)甲第12号証:拒絶理由通知書(最後の拒絶理由通知)

4.被請求人の主張
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」(答弁の趣旨)との審決を求め、答弁書及び口頭審理陳述要領書を提出し、下記の理由から、本件特許は無効とされるべきものではない旨を主張している。
具体的な主張は、概略、以下のとおりである。
4-1.無効理由1について
(1)本件特許発明1について(答弁書4ページ27行?8ページ14行参照)
本件特許発明1は、「板状の部材(保持部材)にヒンジ装置のベース部材を第1のユニットとの間で挟んで保持する機能と、調整部材を連結してヒンジ装置(ベース部材)の位置を調整する機能と、を兼ねる」ようにしたものである。
甲第1号証?甲第6号証に記載のものは、本件特許発明1の「調整するための機能と保持するための機能を1つの部材に兼用させる」との課題を解決するものではなく、当該課題を解決するための本件特許発明1における「コの字状のベース部材の内側に配置され、第1のユニットとの間にベース部材の底部を挟んで保持する保持部と保持部に対して折り曲げられた折曲部を有する板状の保持部材と、コの字状のベース部材の内側に配置された折曲部とベース部材との間に取り付けられ、ベース部材の取付位置を調整する調整部材と、を設ける」との構成は、甲第1号証?甲第6号証の記載から当業者が容易に推考できたものではない。
本件特許発明1は、上記した構成によって、以下の種々の作用効果を奏し得るものである。すなわち、
(1) 第1のユニットに対して重量のある第2のユニットの位置調整が容易となり、第1のユニットに対して重量のある第2のユニットを何度回動させても十分な取付強度を得ることができる。
(2) 調整するための機能と保持するための機能を1つの部材に兼用させるので、部品点数が減りコストの低減が図れる。
(3) ベース部材の位置調整及び固定保持するための板状の部材(保持部材)がヒンジ装置内から飛び出すことがないので、ヒンジ装置のコンパクト化が可能となる。
(4) コの字状のベース部材の内側の底面上に保持部材を載せた状態でヒンジ装置の取り付けが可能となるので、取り付けが容易となる。
(5) 板状の保持部材と第1のユニットの上面で挟んだ状態でベース部材が移動するので、ベース部材が移動する際の摺動抵抗が分散されスムーズな移動が可能となる。
一方、甲第1号証?甲第6号証のいずれにも、本件特許発明1の「コの字状の前記ベース部材の内側に配置され、第1のユニットとの間にベース部材の底部を挟んで保持する保持部と保持部に対して折り曲げられた折曲部を有する板状の保持部材と、コの字状のベース部材の内側に配置された折曲部とベース部材との間に取り付けられ、ベース部材の取付位置を調整する調整部材」を備えるものではないことから、甲第1号証?甲第6号証に記載された各ヒンジ装置は、本件特許発明1の上記した作用効果を奏し得るものではない。
よって、本件特許発明1は、甲第1号証?甲第6号証に記載された各発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものでなく、請求人が主張する「無効理由1」に該当するものではない。
(2)本件特許発明2ないし4について(答弁書10ページ23行?27行参照)
本件特許発明2ないし4は、上記した本件特許発明1に従属し、本件特許発明1を限定して減縮したものであることから、本件特許発明2ないし4についても、請求人が主張する「無効理由1」に該当するものではない。
(3)本件特許発明5について(答弁書8ページ15行?10ページ22行参照)
甲第1号証?甲第8号証のいずれにも、本件特許発明5の「第1のユニットとの間にベース部材を挟んで保持し、かつベース部材の取付位置を調整する調整部材が取り付けられる板状の保持部材」の構成、及び「調整部材のフランジ間の凹部と保持部材に形成された切欠部を嵌合する」点について、何ら記載又は示唆するところがない。
したがって、本件特許発明5は、甲第1号証?甲第8号証に記載された各発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものでなく、請求人が主張する「無効理由1」に該当しない。

4-2.無効理由2について(答弁書11ページ1行?23行参照)
(1)特許請求の範囲における「第1のユニット」は、本件特許公報における段落【0002】、【0017】の記載から発明の実施の形態に記載の「原稿読取装置本体1」に該当することは明らかである。また、「第2のユニット」は、本件特許公報における段落【0002】、【0017】の記載から発明の実施の形態に記載の「原稿送り装置2」に該当することは明らかである。
(2)特許請求の範囲における「側部」は、本件特許公報における段落【0018】、【0019】の記載から発明の実施の形態に記載の「側面部30a」に該当することは明らかである。
(3)「保持部」については、本件特許公報における段落【0021】の「ベース部材30の底面部30bの上には剛性の板部材34が設けられている。この板部材34は、原稿読取装置本体1の上面との間にベース部材30の底面部30bを挟んで保持する。」との記載と、「板部材34」をL字状とした板部材50を示す変形例2の段落【0032】の折曲部50aに係る記載と図6の記載から図6における符号50の引き出し線がある部分を示すことは明らかである。また、「保持部材」は、本件特許公報における段落【0031】、【0032】の記載から発明の実施の形態に記載の「板部材50」に該当することは明らかである。
(4)「凹部」は、本件特許公報における段落【0032】に記載があり、図8におけるフランジ51a間の窪みであることは明らかである。
(5)したがって、本件特許の特許請求の範囲に記載された各用語は、当業者であれば本件特許の発明の詳細な説明に記載された用語と一義的に特定されるものであり、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に違反するものではなく、請求人が主張する「無効理由2」に該当するものではない。

5.甲第1号証ないし甲第8号証
5-1.甲第1号証
甲第1号証(特開平7-197929号公報)には、「ヒンジ装置」に関して、図面とともに、次の事項が記載されている。
ア.「<構成>この実施例では、図1のように画像処理装置例えば複写機1に原稿押さえ装置例えば自動原稿送り装置2(以下、ADF2と言う。)が左右一対のヒンジ装置3を介して開閉自在に取り付けられている。なお、原稿押さえ装置はADF2に限らず原稿の搬送機能を持たない単に原稿を覆うものであっても良い。」(段落【0010】)
イ.「ヒンジ装置3は、図12?図15のように複写機1に取り付けられる鉄板で形成された第1の取り付け部20と、ADF2に取り付けられる鉄板で形成された第2の取り付け部21とを備え、これら第1および第2の取り付け部20,21は軸部材22により回動自在に結合されている。第1の取り付け部20と第2の取り付け部21との間には第1の付勢手段例えば2本のスプリング23が設けられ、軸部材22を中心に第1の取り付け部20と第2の取り付け部21とを開き方向に付勢している。」(段落【0012】)
ウ.図1、図12及び図16から、複写機1上に取り付けられる底部とこの底部を挟んで両側に形成された両側部からなるコの字状の第1の取り付け部20と、自動原稿送り装置(ADF)2が取り付けられて前記第1の取り付け部20の側部に回動自在に軸支された第2の取り付け部21と、を備えるヒンジ装置3が看取できる。

5-2.甲第2号証
甲第2号証(特開平11-261742号公報)には、「画像読取装置」に関して、図面とともに、次の事項が記載されている。
ア.「原稿搬送装置Bは図4における上辺において、結合部材110、及び210によって、複写機本体Aに結合される。図5、6に示されように、原稿搬送装置Bは複写機本体Aに固定される固定部21と、可動部20とからなる。可動部20は図1に示す原稿搬送装置の主要部を有し、図4における上辺の軸E(図5、図6に示す)を中心に回転可能であり、図5、6に矢印Dで示すように回転可能であり、この回転によって読取位置が開放される。
固定部21は可動部20を複写機本体Aに結合する原稿搬送装置Bの部分であり、結合部材110、210によって複写機本体Aに固定される。
複写機本体Aと結合部材110とは、ねじ112、113によって結合される。また、結合部材110と、固定部21とは段付ねじ111とねじ115によって結合される。段付ねじ111が貫通している結合部材110の孔は、該段付ねじ111との間に間隔110aが形成されるように構成される。調整ねじ114はEリング114aによって結合部材110に結合されたねじであり、固定部材21の立ち上がり部21aに螺合し、その回転によって固定部材21を矢印Cで示すように変位させる変位手段である。
また、複写機本体Aと結合部材210とは、ねじ212、213によって結合される。固定部21は段付ねじ211とねじ215によって結合部材210に結合される。段付ねじ211と結合部材210との間には、段付ねじ111と結合部材110との間におけるような間隔は形成されない。即ち、固定部21は結合部材210に対しては、段付ねじ211を中心に回転することはできるが、変位することはできない。なお、ねじ215が嵌入する固定部21の孔は、固定部21が段付ねじ211を中心に回転することができるように、図6における紙面に直角な方向に余裕を持った長孔に形成される。」(段落【0014】?【0017】)
イ.「原稿搬送装置Bの複写機本体Aに対する取付は次のような工程で行われる。
まず、従来の取付方法に従って、原稿搬送装置Bの複写機本体Aに対する大まかな位置がきめられて、複写機本体Aと、原稿搬送装置Bと、結合部材110、210とが結合される。そして、ねじ112、113、212、及び213を締めて結合部材110、210を複写機本体Aに固定する。
次に、画像読取及び画像の再生を行って、再生画像の歪みが測定される。画像の再生は、ハードコピーによる再生でも、或いは、モニタ上での再生でもよい。」(段落【0018】?【0020】)
ウ.「測定された歪みの程度に応じて、ねじ115及び215を緩めた後、ねじ114を回して、原稿搬送装置Bを段付ねじ211を中心に回転して、その角度を調整する。角度の調整が完了したら、ねじ115及び215を締めて固定部21を結合部材110及び215にそれぞれ固定する。
このように、原稿搬送装置Bの複写機本体Aに対する角度の調整は、ねじ114によるただ一カ所の調整作業により行われるので、単純、簡便、且つ微調整が行えるものであり、短時間の調整で高精度の調整をすることができる。」(段落【0021】?【0022】)
エ.図5には、複写機本体A上に取り付けられる底部とこの底部の少なくとも一側に形成された側部からなる固定部21と、原稿搬送装置Bが取り付けられて固定部21の側部に回動自在に軸支された可動部20と、を備えるヒンジ装置が図示されている。
オ.図5から、結合部材110は水平板部と該水平板部に対して折り曲げられた垂直板部とからなることが看取できる。また、図5によれば、結合部材110の水平板部は、複写機本体Aの上面にねじ112,113で取り付けられ、固定部21の底部の下面と複写機本体Aの上面との間に挟まれており、水平板部に螺合されたねじ115の頭部と水平板部との間に固定部21の底部が挟まれて結合部材110に保持されている。ここで、固定部21の底部は、結合部材110の水平板部に螺合されたねじ115の頭部と水平板部との間に挟まれて結合部材110に保持されるとともに、固定部21の底部に螺合された段付ねじ111の頭部で結合部材110の水平板部を挟むことによって結合部材110に保持されているので、ねじ115及び段付ねじ111を「保持手段」と呼ぶことができる。
オ.図5には、固定部21の外側に配置された結合部材110の垂直板部と固定部21の立ち上がり部21aとの間に取り付けられ、該固定部21の取付位置を調整する調整ねじ114が図示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合し、本件特許発明1の記載に倣って整理すると、甲第2号証には、
「複写機本体A上に取り付けられる底部とこの底部の少なくとも一側に形成された側部からなる固定部21と、原稿搬送装置Bが取り付けられて前記固定部21の側部に回動自在に軸支された可動部20と、を備えるヒンジ装置において、
前記複写機本体Aの上面に取り付けられ、前記固定部21の底部の下面と前記複写機本体Aの上面との間に挟まれ、前記固定部21の底部を保持する保持手段が設けられた水平板部と該水平板部に対して折り曲げられた垂直板部を有する板状の結合部材110と、
前記固定部21の外側に配置された前記結合部材110の垂直板部と前記固定部21との間に取り付けられ、該固定部21の取付位置を調整する調整ねじ114と、を備えたヒンジ装置。」(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

また、甲第2号証には、
「前記調整ねじ114はEリング114aによって結合部材110の垂直板部に結合されている引用発明1のヒンジ装置。」(以下、「引用発明2」という。)、
「結合部材110は、ねじ112,113によって複数箇所で前記複写機本体Aに取り付けられる引用発明2のヒンジ装置。」(以下、「引用発明3」という。)、及び
「前記固定部21の底面にねじ115を貫通させるための貫通孔を形成し、この貫通孔を前記ねじ115の頭部の直径よりも小さく形成した引用発明3のヒンジ装置。」(以下、「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。

さらに、甲第2号証には、
「複写機本体Aに取り付けられる固定部21と、原稿搬送装置Bが取り付けられて前記固定部21に回動自在に軸支された可動部20と、を備えるヒンジ装置において、
前記固定部21の下側に配置され、前記固定部21と前記複写機本体Aとの間に挟まれ、前記固定部21を保持する保持手段が設けられた板状の結合部材110と、前記結合部材110と前記固定部21との間に取り付けられ、前記固定部21の取付位置を調整する調整ねじ114と、を設け、
前記調整ねじ114は端部に頭部を有し、Eリング114aによって結合部材110に結合されているヒンジ装置。」(以下、「引用発明5」という。)が記載されていると認められる。

5-3.甲第3号証
甲第3号証(特開平11-95339号公報)には、「原稿圧着板開閉装置」に関して、図面とともに、次の事項が記載されている。
ア.「図2乃至図4は補助的な機能を果たす原稿圧着板開閉装置Bの一実施の形態を示し、10は取付板10aと軸受板10bを断面略L字形状に曲折して成る取付部材であり、取付板10aを複写機等の装置本体11上へ取り付けた調節板22上へ取付ボタン23を介して摺動可能に取り付けられてある。24は取付部材10の平行位置調節手段であり、取付部材10の後部より突設した移動片10cと調節板22より突設した固定片22aとの間に捻子着された調節ネジ25と締付ナット26から構成されている。尚、この平行位置調節手段24は、後述する原稿圧着板開閉装置Aにも設けても良い。ドライバーを用いて調節ネジ25を左右いずれかの方向へ回わすことによって、取付部材10が前後いずれかの方向へ摺動する。12は原稿圧着板13を支持する支持部材であり、取付部材10の軸受板10bに固着した図示してない筒状の軸受部材と、この軸受部材に挿通させた大径部を有する第1ヒンジピン14を介して片軸受型かつ回動自在に軸支されている。尚、支持部材12と取付部材10の軸受板10bとの間には、第1ヒンジピン14をその中心部に挿通させてフリクションプレート15が介在され、ヒンジピン14の一端部をかしめることにより、フリクショントルクが発生するように工夫されている。」(段落【0008】)
イ.「16は断面略クランク形状を挺するように曲折されたリフト部材であり、支持部材12の自由端側に取り付け図示してない筒状の軸受部材とこの軸受部材に挿通させた同じく大径部付きの第2ヒンジピン17を介して片軸受型かつ揺動可能に軸支されている。尚、この支持部材12とリフト部材16との間にも第2ヒンジピン17をその中心部に挿通させてフリクションプレート18が介在されており、第2ヒンジピン17の端部をかしめることにより支持部材12とリフト部材16の軸支個所にフリクショントルクが発生するようになっている。このリフト部材16に設けた図示してない複数の係止孔の一つと支持部材12に設けた係止片12aとの間には引張コイルスプリング19が張設されリフト部材16を常に支持部材12と重なる方向へ附勢させている。支持部材12にはさらにガイド用ピン20が取り付けられ、リフト部材16に設けたガイド溝16aに嵌入されている。21は原稿圧着板13の水平位置調節手段であり、リフト部材16に捻子着され、その先端を支持部材12の背部12bに当接させた調節ネジ21aと、締付ナット21bから構成されている。そして、このリフト部材16の取付片16bに原稿圧着板13の取付部13aの後部が固着されている。尚、10dは支持部材12に対するストッパー片である。」(段落【0009】)
ウ.「次に、平行位置調節手段24は、自動原稿送り装置のローラが紙の送り方向に対して直角になるように調節するものであり、調節ネジ25を回すことにより原稿圧着板開閉装置Bの取付部材10が前後に摺動して自動原稿送り装置のローラが紙の送り方向に対して直角になるように調節するものである。」(段落【0020】)
エ.図2ないし図4から、装置本体11上に取り付けられる底部とこの底部の片側に形成された側部からなるL字状の取付部材10と、原稿圧着板13が取り付けられて前記取付部材10の側部に回動自在に軸支された支持部材12と、を備えるヒンジ装置において、取付部材10の下側に配置され、取付部材10と装置本体11との間に挟まれ、取付部材10を保持する取付ボタン23が設けられた板状の調節板22と、調節板22と取付部材10との間に取り付けられ、取付部材10の取付位置を調整する調整ネジ25と、を設けたヒンジ装置が看取できる。

5-4.甲第4号証
甲第4号証(実願昭57-51042号(実開昭58-153675号)のマイクロフィルム)には、「取付金具の捩れ止め装置」に関して、図面とともに、次の事項が記載されている。
ア.「1は取付金具で2,2は取付基板3に設けた取付ネジ位置の調節用の長穴、4は取付基板3に直角方向に折り曲げて形成した取付部で、例えば図示実施例の如く窓開放用のガススプリングなどの弾機6の一端7を取り付ける。
9,10は取付用のボルトおよびナットである。
5は、コの字状に形成した固定用部材で、側壁5_(1),5_(1)の内側寸法を前記取付金具1の取付基板3の巾寸法と略々等しく設けると共に、側壁5_(1),5_(1)の高さ寸法は前記取付基板3の板厚寸法と等しく設けてある。
5_(2),5_(2)はネジ挿通用の穴で、第3図示の如く固定用部材5を取付金具1の取付基板の上から当接してネジ8,8にて窓W又は枠Jに取付固定する。」(明細書2ページ7行?20行)
イ.「この時、取付金具1および固定用部材5はネジ8,8の締め付け力によって窓W又は枠Jに圧着固定されると同時に、取付金具1の取付基板3の上端1_(1)および下端1_(2)が固定用部材5の側壁5_(1),5_(1)に支えられて、取付金具1の傾きが阻止され、取付金具1の位置ズレが起こらない。」(明細書3ページ1行?6行)
ウ.第1図?第3図には、枠Jとの間に取付金具1を挟んで保持する固定用部材5が図示されている。また、枠Jと固定用部材5との間に取付金具1を挟んで保持し、枠Jに取付金具1を移動調節可能に取り付けた振れ止め装置が図示されている。
エ.第2図及び第3図から、コの字状の固定用部材5の内側に取付金具1が配置されている点が看取できる。

5-5.甲第5号証
甲第5号証(実願昭61-157237号(実開昭63-62620号)のマイクロフィルム)には、「長孔調節部の結合装置」に関して、図面とともに、次の事項が記載されている。
ア.「シフトレバー1とコントロールケーブル2を連結するには、ボルト11を緩めた状態で、調節片7を受け片4上でガイド9に沿って移動させ、シフトレバー1とコントロールケーブル2の相対位置を調整し、位置調整が終わった後ボルト1を締め付ける。」(明細書6ページ4行?9行)
イ.第2図及び第3図には、受け片4との間に調節片7を挟んで保持する座金10が図示されている。また、受け片4と座金10との間に調節片7を挟んで保持し、受け片4に対して調節片7を移動調節可能に取り付けた長孔調節部の結合装置が図示されている。

5-6.甲第6号証
甲第6号証(特開平7-119353号公報)には、「引戸装置」に関して、図面とともに、次の事項が記載されている。
ア.「次に本発明を鉄道車輌の引戸に適用した図1乃至図10に示す実施例について説明する。
10はドアレールで、出入口11の上部に形成された天袋内に水平に架設され、図6に示すように車体の外板12側に固定した取付部材13にボルト14により固着されている。」(段落【0014】、【0015】)
イ.「次に図12及び図13に示す他の実施例について説明する。
本実施例は上記戸吊具45,46の変形例である。図において、113はドアレールの取付部材で上記実施例の取付部材13に相当する。110は該取付部材113に固着したドアレールで、上記実施例と同様に水平に配置されているとともに、横断面形状がC型に形成され、かつ長手方向(紙面の表裏方向)の両端が開放されている。
145は戸吊具で、戸吊金147と調整金151とからなる。戸吊金147は上記実施例と同様に上壁147bと長穴状の取付穴149を有し、上壁147bには調節ボルト154が備えられている。調整金151は戸吊金147の裏面に嵌合され、取付穴149及びボルト153により、上記実施例と同様に戸吊金147に取付けられている。
上記調整金151の裏面にはリニアベアリング156が付設されており、これが上記のドアレール110に嵌合されている。本実施例における組付けは、先ず戸吊金147と分解された状態のローラ付調整金151を、ドアレール110の両端開放部からドアレール110に挿入する。次で、引戸43に固設された戸吊金147を、その調節ボルト154を介して調整金151の上面に引っ掛ける。次で、戸吊金147の取付穴149を通じてボルト153を調整金151に螺着し、該ボルト153を締め付けて、戸吊金147を調整金151側へ引き寄せる。そして、該ボルト153の仮締め状態において、調整ボルト154により高さ方向の微調節をした後、ボルト153を本締めする。」(段落【0048】?【0051】)

5-7.甲第7号証
甲第7号証(実願昭63-162630号(実開平2-83990号)のマイクロフィルム)には、「間仕切り」に関して、図面とともに、次の事項が記載されている。
ア.「レール側取り付け部34の端部には調節ねじ40を螺合してあり、調節ねじ40の頭40aをガイド筒37の端面板37aの外に位置させてあり、頭40aと鍔部40bとの間を端面板37aの透孔37bに回転自在に挿通してある。しかして止めねじ39を緩めた状態で調節ねじ40を回転操作することにより前後位置を調節できるようになっている。ローラ取り付け具36の上面には支持軸41を突設してあり、支持軸41の上端にローラ12を回転自在に装着してある。このローラ12は下側レール2にはめ込んであり、下側レール2に沿ってローラ12が転動するようになっている。このとき止めねじ39を緩めて調節ねじ40を調節することにより前後位置を調節できるようになっている。」(明細書11ページ6行?20行)
イ.第8図(a)から、調節ねじ40の頭40aと鍔部40bとの間に凹部が看取できる。また、第8図(a)には、頭40aと鍔部40bとの間の凹部が端面板37aの透孔37bに嵌合している態様が図示されている。第8図(b)から、透孔37bは切欠部であることが看取できる。

5-8.甲第8号証
甲第8号証(実公平4-4971号公報)には、「レーザ計測用機器支持装置」に関して、図面とともに、次の事項が記載されている。
ア.「上記昇降揺動枠11の溝内には、その底面に沿って移動される横スライド枠20が配置される。この横スライド枠20には一対の固定用ボルト34が回り止め状に挿通され、横スライド枠20の上面に突出するこれら固定用ボルト34の脚部はさらに昇降揺動枠11に形成された左右に延びる一対の長孔35(第2図)に挿通される。そして、これらのボルト34の上端に昇降揺動枠11の上側が螺合されたナット21および固定用ボルト34によって横スライド枠20が昇降揺動枠11に吊持される。第5図および第6図に示すように、この横スライド枠20の中央部には左右方向にねじ孔36が形成され、このねじ孔に螺挿された横位置調節ねじ22が昇降揺動枠11に回転自在に支持される。この横位置調節ねじ22の左端部にはこのねじ22を回転操作するつまみ23が固定される。上記横スライド枠20には更に下向きに開放され、前後方向に延びる溝形の取付枠24が支持されている。この取付枠24は、昇降揺動枠11が昇降スライド枠3に取付けられているのと同様の手法で横スライド枠20に取付けられている。すなわち、取付枠20の前部に回り止め状に挿通され、横スライド枠20の前部に回転可能に挿通された固定用ボルト25の上端に袋ナット26を螺着して取付枠24の前部を横スライド枠20に揺動可能に支持される一方、取付枠24の後端部に回り止め状に挿通された固定用ボルト25を横スライド枠25の後端部に形成された左右に延びる長孔27(第2図)に挿通し、横スライド枠20の上方から袋ナット26を螺合して取付枠24の後部を横スライド枠20の後部に吊持させてある。これらの袋ナット26を締め込んで、袋ナット26と取付枠24で横スライド枠20を挟持することにより取付枠24が横スライド枠20に対して固定される。上記取付枠24の後端側部分には第5図および第6図に示すように、横揺動位置調節ねじ28が回転可能に枢支されている。この横揺動位置調節ねじ28には横スライド枠20に回転自在に枢支されたナット29が螺合されるとともに、その左端部に横揺動位置調節ねじ28を回転操作するためのつまみ30が固定される。上記取付枠24の左右両側壁31の互いに対向する位置にレーザ計測用機器33を支持する止めねじ32が設けられている。」(3ページ5欄29行?6欄28行)

6.無効理由1に対する当審の判断
6-1.本件特許発明1について
6-1-1.対比
本件特許発明1と引用発明1とを対比すると、各文言の意味、機能または作用等からみて、引用発明1の「複写機本体A」は本件特許発明1の「第1のユニット」に相当し、以下同様に、「固定部21」は「ベース部材」に、「原稿搬送装置B」は「第2のユニット」に、「可動部20」は「アーム部材」に、それぞれ相当する。
引用発明1の「前記複写機本体Aの上面に取り付けられ、前記固定部21の底部の下面と前記複写機本体Aの上面との間に挟まれ、前記固定部21の底部を保持する保持手段が設けられた水平板部」と本件特許発明1の「コの字状の前記ベース部材の両側部の内側で、かつ前記ベース部材の底面の領域内に配置され、前記第1のユニットとの間に前記ベース部材の底部を挟んで保持する保持部」とは、「前記ベース部材の底部を保持する保持機能を備えた保持部」である点で共通する。
また、引用発明1の「垂直板部」と本件特許発明1の「折曲部」とは、保持部に対して折り曲げられたものである点で共通し、「結合部材110」と「保持部材」とは、前記ベース部材の底部を保持する保持機能を備えた保持部と該保持部に対して折り曲げられた折曲部を有する板状の部材であって調整部材が取り付けられる点で共通する。
引用発明1の「調整ねじ114」と本件特許発明1の「調整部材」とは、ベース部材と保持部材の配置関係に違いがあるものの、保持部材に対するベース部材の取付位置を調整する機能の点で共通するものである。

してみると、両者は、
「第1のユニット上に取り付けられる底部とこの底部の少なくとも一側に形成された側部からなるベース部材と、第2のユニットが取り付けられて前記ベース部材の側部に回動自在に軸支されたアーム部材と、を備えるヒンジ装置において、
前記ベース部材の底部を保持する保持機能を備えた保持部と該保持部に対して折り曲げられた折曲部を有する板状の保持部材と、
前記折曲部と前記ベース部材との間に取り付けられ、該ベース部材の取付位置を調整する調整部材と、を備えたヒンジ装置。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1A:本件特許発明1では、ベース部材の側部が「底部を挟んで両側」に形成されており、ベース部材が「コの字状」であるのに対して、引用発明では、固定部21の側部が「底部の少なくとも一側」に形成されているといえるものの、両側に形成されているかどうか明らかでなく、それゆえ、固定部21がコの字状かどうか明らかでない点。
相違点1B:本件特許発明1では、保持部材は「前記ベース部材の両側部の内側で、かつ前記ベース部材の底面の領域内に配置され、前記第1のユニットとの間に前記ベース部材の底部を挟んで保持する保持部」を有しており、調整部材が「前記ベース部材の内側に配置された前記折曲部と前記ベース部材との間に取り付けられ」ているのに対して、引用発明1では、結合部材110は「前記複写機本体Aの上面に取り付けられ、前記固定部21の底部の下面と前記複写機本体Aの上面との間に挟まれ、前記固定部21の底部を保持する保持手段が設けられた水平板部」を有しており、調整ねじ114が「固定部21の外側に配置された前記結合部材110の垂直板部と前記固定部21との間に取り付けられ」ている点。

6-1-2.判断
(1)相違点1Aについて
そこで、まず相違点1Aについて検討する。
引用発明1の固定部21(ベース部材)は、底部とこの底部の少なくとも一側に形成された側部とからなる部材であり、コの字状かどうか不明である。甲第2号証に記載された図5(断面図)から判断すると、甲第3号証の図3に示されるようなL字状であるか、あるいは甲第1号証の図12に示されるようなコの字状であると推察される。
ところで、引用発明1のヒンジ装置は、複写機における原稿搬送装置Bを支持するものであり、比較的重量のあるものを支持することを考慮すると、構造上頑丈なものであることが望ましい。そして、強度的な観点からみると、断面L字状よりもコの字状とした方が望ましいことは当業者にとって明らかである。しかも、底部とこの底部を挟んで両側に側部が形成された「コの字状」のベース部材は、甲第1号証にも示されるように、複写機のヒンジ装置において従来周知である。
そうすると、引用発明1に上記周知技術を適用することは、必要に応じて当業者が適宜なし得ることであるから、引用発明1において固定部21をコの字状とし、相違点1Aに係る本件特許発明1のように構成することは、当業者であれば容易になし得たことである。

(2)相違点1Bについて
次に、相違点1Bについて検討する。
a.本件特許発明1における「板状の保持部材」は、「ベース部材の両側部の内側で、かつベース部材の底面の領域内に配置され、第1のユニットとの間にベース部材の底部を挟んで保持する保持部」を有するものであるから、板状の保持部材は、第1のユニットとの間にベース部材を直接挟んで保持するという意味において、保持するための機能を有し、また、調整部材が保持部材の折曲部に取り付けられているので、板状の保持部材は、調整部材を連結してベース部材の調整移動に作用を及ぼすことができるという意味において、調整するための機能を有する。即ち、本件特許発明1は、「保持するための機能」と「調整するための機能」の2つの機能を1つの部材(板状の保持部材)に兼用させたものである。そして、取付位置を調整する際に、ベース部材は板状の保持部で挟んで保持されているので、保持部の面積を十分大きくすることにより、ベース部材が移動する時の摺動抵抗が板状の保持部で分散され、スムーズな移動が可能になるという効果を奏するものである。
b.一方、引用発明1においては、結合部材110の垂直板部と固定部21との間に調整ねじ114が取り付けられており、結合部材110の垂直板部に取り付けられた調整ねじ114を介して固定部21の調整移動に作用を及ぼすものであるから、引用発明1の結合部材110は、本件特許発明1と同様の意味において「調整するための機能」を有しているということができる。また、引用発明1の結合部材110は、複写機本体Aの上面に取り付けられ、固定部21の底部の下面と前記複写機本体Aの上面との間に挟まれて設けられている。そして、固定部21は、結合部材110に設けられた保持手段を介して結合部材110に保持されている。即ち、具体的には、固定部21の底部は、結合部材110の水平板部に螺合されたねじ115の頭部と水平板部との間に挟まれて結合部材110に保持されるとともに、固定部21の底部に螺合された段付ねじ111の頭部で結合部材110の水平板部を挟むことによって結合部材110に保持されている。したがって、固定部21の取付位置を調整する際に、固定部21の底部とねじ115の頭部との接触面、固定部21の底部と段付ねじ111の頭部との接触面という、小さな接触面で保持されるだけなので、その接触面に力が集中し、移動がスムーズに行えないおそれがあるものである。
このように、本件特許発明1においては、板状の保持部材の保持部が第1のユニットとの間にベース部材の底部を直接挟んで保持しているのに対して、引用発明1においては、保持手段(即ちねじ115、段付ねじ111)が結合部材110の水平板部との間に固定部21の底部を挟んで保持するのであって、結合部材110が、第1のユニットに相当する複写機本体Aとの間に固定部21の底部を挟んで保持するわけではない。板状の結合部材110は、複写機本体Aに取り付けられ、複写機本体と一体となってその一部をなしているにすぎず、むしろ第1のユニットを構成するということもできる。
したがって、引用発明1の結合部材110は、固定部21の底部を保持するための保持手段(即ちねじ115、段付ねじ111)を備えているものの、結合部材110の水平板部で複写機本体Aとの間に固定部21の底部を直接挟んで保持するものではない点で、本件特許発明1でいうところの「保持するための機能」を有するものではない。
c.甲第4号証には、第1のユニットに相当する「枠J」との間にベース部材に相当する「取付金具1」を挟んで保持する保持部材に相当する「固定用部材5」が記載され、枠Jと固定用部材5との間に取付金具1を挟んで保持し、枠Jに取付金具1を移動調節可能に取り付けた振れ止め装置(位置調整手段)が記載されている(5-4.参照)。また、甲第5号証には、第1のユニットに相当する「受け片4」との間にベース部材に相当する「調節片7」を挟んで保持する保持部材に相当する「座金10」が記載され、受け片4と座金10との間に調節片7を挟んで保持し、受け片4に対して調節片7を移動調節可能に取り付けた長孔調節部の結合装置(位置調整手段)が記載されている(5-5.参照)。しかしながら、甲第4号証及び甲第5号証に記載の装置(位置調整手段)は、本件特許発明1のものとはヒンジ装置でない点でその基本構成が異なっているだけでなく、これらの位置調整手段には、本件特許発明1における「調整部材」に相当する構成要素が設けられていない点でも異なる。甲第4号証及び甲第5号証には、本件特許発明1の「コの字状のベース部材の内側に配置され、第1のユニットとの間にベース部材の底部を挟んで保持する保持部と保持部に対して折り曲げられた折曲部を有する板状の保持部材と、コの字状のベース部材の内側に配置された折曲部とベース部材との間に取り付けられ、ベース部材の取付位置を調整する調整部材」に対応する構成について何ら記載されておらず示唆もされていないし、調整するための機能と保持するための機能を1つの部材に兼用させるという技術思想がそもそも記載も示唆もされていない。
d.次に甲第6号証について見てみると、甲第6号証には、「コの字状のベース部材の内側に配置され、第1のユニットとの間にベース部材の底部を挟んで保持する保持部と保持部に対して折り曲げられた折曲部を有する板状の保持部材」に対応する構成について、何ら記載されていないし示唆もされていないから、調整するための機能と保持するための機能を1つの部材に兼用させるという技術思想が記載も示唆もされていない。
甲第6号証においては、5-6.ア.及びイ.に摘記した事項から明らかなように、調整金151の裏面にリニアベアリング156が付設され、これがドアレール110に嵌合されており、そのドアレール110は、出入口11の上部に形成された天袋内に水平に架設され、車体の外板12側に固定した取付部材113にボルト14により固着されているのであるから、結局、調整金151は、車体側に取り付けられているということができる。そして、「調整金151は戸吊金147の裏面に嵌合され、取付穴149及びボルト153により、・・・戸吊金147に取付けられている。」(5-6.イ.参照)のであるから、甲第6号証に記載された位置調整手段は、車体側に取り付けられた調整金151とボルト153との間に戸吊金147が挟まれて保持され、調整金151に対する戸吊金147の取付位置を調整し得るようにしたものであるといえる。つまり、甲第6号証の「車体、取付部材113、ドアレール110、リニアベアリング156」などが引用発明1(甲第2号証に記載された発明)の「第1のユニット」に相当し、以下同様に、「調整金151」が「結合部材」に相当し、「戸吊金147」が「固定部21」に相当し、「ボルト153」が「保持手段(ねじ115)」に相当し、「調整ボルト154」が「調整ねじ114」に相当するから、甲第6号証の位置調整手段は、結局、引用発明1の位置調整手段と同様の配置構成を備えたものであるといえる。したがって、引用発明1において、「結合部材110」及び「固定部21」を甲第6号証記載の「調整金151」及び「戸吊金147」に置き換えても、本件特許発明1を得ることができないことは明らかである。
e.また、甲第1号証及び甲第3号証には、本件特許発明1の「第1のユニット上に取り付けられるベース部材と、第2のユニットが取り付けられてベース部材の側部に回動自在に軸支されたアーム部材と、を備えるヒンジ装置」に対応する構成は記載されているものの、本件特許発明1の特に主要な構成である「コの字状の前記ベース部材の内側に配置され、第1のユニットとの間にベース部材の底部を挟んで保持する保持部と保持部に対して折り曲げられた折曲部を有する板状の保持部材と、コの字状のベース部材の内側に配置された折曲部とベース部材との間に取り付けられ、ベース部材の取付位置を調整する調整部材」に対応する構成については、何ら記載されておらず示唆もされていないから、調整するための機能と保持するための機能を1つの部材に兼用させるという技術思想が記載も示唆もされていない。
f.甲第7号証及び甲第8号証にも、本件特許発明1の「コの字状の前記ベース部材の内側に配置され、第1のユニットとの間にベース部材の底部を挟んで保持する保持部と保持部に対して折り曲げられた折曲部を有する板状の保持部材と、コの字状のベース部材の内側に配置された折曲部とベース部材との間に取り付けられ、ベース部材の取付位置を調整する調整部材」については、何ら記載されておらず示唆もされていない。また、調整するための機能と保持するための機能を1つの部材に兼用させるという技術思想が記載も示唆もされていない。
g.結局、甲第1号証ないし甲第8号証には、本件特許発明1の「調整するための機能と保持するための機能を1つの部材に兼用させる」との技術思想が記載も示唆もされていないし、その技術思想に対応する、本件特許発明1における「コの字状のベース部材の両側部の内側に配置され、かつベース部材の底部の領域内に配置され、第1のユニットとの間にベース部材の底部を挟んで保持する保持部と保持部に対して折り曲げられた折曲部を有する板状の保持部材と、コの字状のベース部材の内側に配置された折曲部とベース部材との間に取り付けられ、ベース部材の取付位置を調整する調整部材」とを設ける構成について、甲第1号証ないし甲第8号証のいずれにも記載されておらず示唆もされていないから、相違点1Bに係る本件特許発明1のように構成することは、当業者が容易に想到できたものということはできない。

(3)請求人の主張に対して
a.請求人は、本件特許発明1と引用発明1(甲第2号証に記載された発明)とを対比して、「この構成要件上の違いは、折曲部を有する保持部材が、ベース部材の折曲部の内側に位置しているか、外側に位置しているかの違いである。何故ならば、本件請求項1発明においては、保持部材の折曲部がベース部材の折曲部の内側になるように配置されているので、保持部材がベース部材の領域内に配置されることになり、また、調整部材が、ベース部材の内側に配置された保持部材の折曲部とベース部材との間に取り付けられることになるからである。」(審判請求書15ページ9行?15行)と主張する。
しかしながら、「ベース部材の折曲部」という事項は、本件特許請求の範囲の請求項1に記載されていないし、明細書のどこにも記載されていない事項であるから、ベース部材の折曲部の内側か外側かという議論は、そもそも請求項1の記載に基づかないものである。(なお、実施例によれば、ベース部材30には背面部30dが設けられているので、請求人は、この背面部30dを指して「ベース部材の折曲部」と称しているものと推察される。)
ところで、引用発明1(甲第2号証に記載された発明)の結合部材110は、複写機本体Aの上面に取り付けられ、固定部21の底部の下面と複写機本体Aの上面との間に挟まれ、固定部21の底部を保持する保持手段が設けられた水平板部を有するものであるが、保持部に対応する水平板部がベース部材に対応する固定部21を直接挟んで保持するものではなく、水平板部に設けられたねじ115などの保持手段が挟んで保持するものであるから、引用発明1の「結合部材110」と本件特許発明1の「保持部材」とでは、調整するための機能の点で一致するとしても、保持するための機能の点において、保持手段を別途必要とするか否かの点で機能が全く異なるものである。
したがって、保持部材と結合部材110とで機能が異なる点を無視し、単なる配置の違いにすぎないと捉え、「構成要件上の違いは、折曲部を有する保持部材が、ベース部材の折曲部の内側に位置しているか、外側に位置しているかの違いである。」と単純化して論じている点には、論理的に無理がある。
b.請求人は、甲第6号証の記載と、甲第2号証及び甲第3号証の記載を合わせて、「保持部材の取付位置を調整するのに、保持部材をベース部材の内側と外側のどちらの側にも配置する技術が公知であったことを意味している。」(審判請求書16ページ4行?6行)と主張する。ちなみに、請求人は、甲第6号証に記載された発明が「保持部材をベース部材の内側」に配置した例、そして、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明が「保持部材をベース部材の外側」に配置した例であるとしている。
甲第6号証に記載された発明は、調整金151と戸吊金147の折曲部(調節ボルト154が取り付けられている部分)がいずれもドアレール110側に折れ曲がっているから、請求人の主張するように、調整金151がコの字状の戸吊金147の内側に配置されていると捉えることも可能であるが、上記折曲部がドアレール110と反対側に折れ曲がっている場合には、逆に、調整金151が戸吊金147の外側に配置されることになる。甲第6号証の場合、折曲部がどちら側に折れ曲がっていても位置調整の機能を果たすことができることからみて、どちら側に折れ曲がっているかということは位置調整手段としては本質的なことではなく、調整金151がコの字状の戸吊金147の内側に配置されているか外側に配置されているかは、技術的にはあまり意味のない議論である。
甲第6号証に記載されたものが車体に対する戸吊金147の取付位置を調整するための位置調整手段であることを考慮すれば、車体(取付部材113など)に取り付けられている調整金151を基準として部材相互の関係を考えるべきである。請求人は、甲第6号証の位置調整手段においては、「『本体』に相当するものは、『ボルト153』です。」(口頭審理陳述要領書6ページ7行)と述べているが、「ボルト153」のような小さなものを「本体」(第1のユニット)と見ること自体が不自然であることは、本件特許明細書において画像読取装置を指して本体といっていること(例えば段落【0001】?【0004】参照)からみても明らかであり、むしろ、車体側(取付部材113など)を「本体」と見るのが自然である。
また、本件特許発明1の保持部材は、第1のユニットとの間にベース部材の底部を挟んで保持するものである。即ち、保持部材は、第1のユニット(本体)に対してベース部材の底部を上から押さえ付けるようにしてベース部材の底部を挟んで保持するものであるから、保持部材の重量をベース部材の底部に付加する形で保持することができるものである。これに対して、甲第6号証の調整金151は、鉛直状態の戸吊金147をボルト153と協働して両側部から挟んで保持するものであるから、調整金151が戸吊金147をボルト153に対して上から押さえ付けるものではなく、それゆえ調整金151の重量が戸吊金147に加えられるものではない。
したがって、甲第6号証に記載された発明は、請求人が主張するように調整金151がコの字状の戸吊金147の内側に配置されたものであるとしても、戸吊金147を調整金151とボルト153の頭とで単に両側から挟んで保持しているにすぎず、調整金151(板状の保持部材)と本体(第1のユニット)との間に戸吊金147(ベース部材)を挟むようにして戸吊金147(ベース部材)を本体(第1のユニット)へ取り付ける構成を示唆するものではないから、本件特許発明1の「前記ベース部材の両側部の内側で、かつ前記ベース部材の底面の領域内に配置され、前記第1のユニットとの間に前記ベース部材の底部を挟んで保持する保持部」に対応する構成を開示するものということはできない。
c.請求人は、甲第4号証と甲第6号証を例に挙げて、「一般的に取付位置の調整手段として、板状の保持部材でベース部材を挟んで本体へ取り付ける構成」(審判請求書15ページ20行?21行)が慣用技術であるとして、「保持部材をベース部材の内側に配置すれば、本件請求項1発明や甲第6号証に記載の公知技術のように、ベース部材を保持部材と第1のユニットとの間で挟むことになるし、保持部材をベース部材の外側に配置すれば、甲第2号証と3号証に記載されているように、保持部材をベース部材と第1のユニットとの間で挟むことになるものであり、両者の上記構成要件上の違いは単なる設計上の微差、ないし単なる選択事項に過ぎないことになる。」(審判請求書16ページ7行?13行)と主張する。
甲第4号証に記載された発明は、固定用部材5で取付金具1を挟んで枠Jへネジ8で取り付ける構成であるから、請求人の主張するとおり、「板状の保持部材でベース部材を挟んで本体へ取り付ける構成」である。しかし、甲第4号証に記載された位置調整手段は、本件特許発明1のように保持部材に相当する「固定用部材5」をベース部材に相当する「取付金具1」の内側に配置したものではないから、保持部材をベース部材の内側に配置することの根拠にはならない。また、甲第4号証においては、固定用部材5と取付金具1とを「ネジ8」で枠Jへ取り付けているところからみて、仮に甲第4号証に記載されたものを引用発明1に適用する場合、当業者であれば、引用発明1におけるねじ115の頭部と固定部21の水平板部との間に板状の部材(固定用部材5)を設けることを想到し得るだけである。甲第4号証の固定用部材5は、本件特許発明1でいうところの調整するための機能を有していないだけでなく、保持部材に相当する「固定用部材5」がベース部材に相当する「取付金具1」の内側に配置されたものではないので、引用発明1において、固定部21の外側に配置されている結合部材110の配置を、わざわざ変更して固定部21の内側へ配置し、本件特許発明1のように構成することは、当業者が容易に想到できたこととはいえない。
また、甲第6号証の位置調整手段は、上記「(2)相違点1Bについて」のd.で述べたとおり、引用発明1(甲第2号証に記載された発明)の位置調整手段と同じ配置構成を備えたものであるから、請求人が主張するような「板状の保持部材でベース部材を挟んで本体へ取り付ける構成」を示すものでないことは明らかである。甲第6号証には、本件特許発明1の「コの字状の前記ベース部材の両側部の内側で、かつ前記ベース部材の底面の領域内に配置され、前記第1のユニットとの間に前記ベース部材の底部を挟んで保持する保持部」に対応する構成が記載されていないのであるから、引用発明1に甲第6号証に記載された発明を適用しても、上記の「保持部材をベース部材の内側に配置すれば、本件請求項1発明や甲第6号証に記載の公知技術のように、ベース部材を保持部材と第1のユニットとの間で挟むことになる」という結論にならないことは明らかである。
d.請求人は、被請求人が答弁書において主張している本件特許発明1の作用効果(1)?(5)(上記4-1.(1)参照)について、いずれも本件出願当初の明細書に一切開示されていなかった作用効果であり、これらの作用効果は全く奏さないか、奏するとしても予測可能な範囲内の格別顕著な作用効果とはいえないものばかりであると主張する(口頭審理陳述要領書8ページ(6)参照)。
被請求人が答弁書においてあげた作用効果(1)?(5)は、確かに本件特許明細書に直接の記載はされていないが、本件特許発明1の構成からみて、当業者が予測し得る範囲内の作用効果である。しかし、逆に、例えば上記(1) の作用効果は、甲第1号証ないし甲第8号証の記載からみると、予測し得る範囲内のものであるとはいえない。即ち、ヒンジ装置において、重量のある第2ユニットをアーム部材に取り付けた場合、ベース部材が第1のユニットから浮き上がって剥がれようとする力が作用するところ、本件特許発明1においては、板状の保持部材で第1のユニットとの間にベース部材の底部を上から挟んで保持しているので、ベース部材が第1のユニットから浮き上がって剥がれようとする力を板状の保持部材の底部全面で受けることができる。甲第2号証や甲第3号証などのように、ねじ115や取付ボタン23で部分的にベース部材の底部を保持する場合に比べて、力を板状の保持部材の全面で分散して受けることができ、ベース部材の底部が変形しにくく、重量のある第2のユニットを何度回動させても十分な取付強度を得ることができる。この点は、甲第1号証ないし甲第8号証に記載されたそれぞれの発明がもつ作用効果の総和以上の作用効果であるということができる。
よって、請求人の主張は採用できない。

(4)まとめ
したがって、本件特許発明1は、甲第1号証ないし甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

6-2.本件特許発明2ないし本件特許発明4について
本件特許発明2ないし4はいずれも、本件特許発明1が記載された請求項1を直接または間接的に引用し、本件特許発明1をさらに限定したものである。
そうすると、請求項1に係る本件特許発明1が、当業者が容易に発明をすることができたものといえない以上、本件特許発明2ないし4も、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

6-3.本件特許発明5について
6-3-1.対比
本件特許発明5と引用発明5とを対比すると、各文言の意味、機能または作用等からみて、引用発明5の「複写機本体A」は「第1のユニット」に相当し、以下同様に、「固定部21」は「ベース部材」に、「原稿搬送装置B」は「第2のユニット」に、「可動部20」は「アーム部材」に、「調整ねじ114」は「調整部材」に、それぞれ相当する。引用発明5の「結合部材110」と本件特許発明5の「保持部材」とは、ベース部材を保持する保持機能を備えた板状の部材であって、調整部材が取り付けられる点で共通する。
引用発明5の「前記調整ねじ114は端部に頭部を有し、Eリング114aによって結合部材110に結合されている」点と、本件特許発明5の「前記調整部材を調整ネジと該調整ネジの端部に間隔を隔てて設けられた2つのフランジとで構成し、前記保持部材に前記調整部材の前記フランジ間の凹部と嵌合するために切り欠いた切欠部を形成した」点とは、「前記調整部材を調整ネジと該調整ネジの端部に設けられた係合部とで構成し、前記保持部材に前記調整ネジの前記係合部と係合するための被係合部を形成し」た点で共通する。
してみると、両者は、
「第1のユニットに取り付けられるベース部材と、第2のユニットが取り付けられて前記ベース部材に回動自在に軸支されたアーム部材と、を備えるヒンジ装置において、
前記ベース部材を保持する保持機能を備えた板状の保持部材と、前記保持部材と前記ベース部材との間に取り付けられ、前記ベース部材の取付位置を調整する調整部材と、を設け、
前記調整部材を調整ネジと該調整ネジの端部に設けられた係合部とで構成し、前記保持部材に前記調整ネジの前記係合部と係合するための被係合部を形成したヒンジ装置。」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点5:本件特許発明5では、板状の保持部材は「前記第1のユニットとの間に前記ベース部材を挟んで保持する」ものであり、「調整部材を調整ネジと該調整ネジの端部に間隔を隔てて設けられた2つのフランジとで構成し、前記保持部材に前記調整部材の前記フランジ間の凹部と嵌合するために切り欠いた切欠部を形成し」ているのに対して、引用発明5では、板状の結合部材110は「前記固定部21の下側に配置され、前記固定部21と前記複写機本体Aとの間に挟まれ、前記固定部21を保持する保持手段が設けられた」ものであり、「前記調整ねじ114は端部に頭部を有し、Eリング114aによって結合部材110に結合されている」点。

6-3-2.判断
(1)相違点5について
a.本件特許発明5においては、「板状の保持部材」は「前記第1のユニットとの間に前記ベース部材を挟んで保持する」ものであり、そして、「調整部材を調整ネジと該調整ネジの端部に間隔を隔てて設けられた2つのフランジとで構成し、前記保持部材に前記調整部材の前記フランジ間の凹部と嵌合するために切り欠いた切欠部を形成し」ているから、板状の保持部材は、第1のユニットとの間にベース部材を直接挟んで保持するものであるという意味において、保持するための機能を有し、また、板状の保持部材は、該保持部材に形成された切欠部に調整部材のフランジ間の凹部を嵌合させて連結しているので、調整部材を連結してベース部材の調整移動に作用を及ぼすことができるという意味において、調整するための機能を有する。即ち、本件特許発明5は、保持するための機能と調整するための機能の2つの機能を1つの部材(板状の保持部材)に兼用させたものである。そして、取付位置を調整する際に、ベース部材は板状の保持部材で挟まれて保持されているので、保持部材の面積を十分大きくすることにより、ベース部材が移動する時の摺動抵抗が板状の保持部材で分散され、スムーズな移動が可能になるという効果を奏するものである。
b.一方、引用発明5においては、結合部材110と固定部21との間に調整ねじ114が取り付けられており、結合部材110は、調整ねじ114を連結して固定部21の調整移動に作用を及ぼすものであるから、本件特許発明5と同様の意味で「調整するための機能」を有しているということができる。
また、引用発明5の結合部材110は、固定部21と複写機本体Aとの間に挟まれ、固定部21を保持する保持手段(即ちねじ115及び段付ねじ111)が設けられたものである。そして、固定部21は、結合部材110に設けられた保持手段を介して結合部材110に保持されている。即ち、具体的には、固定部21は、結合部材110に螺合されたねじ115の頭部と結合部材110との間に挟まれて結合部材110に保持されるとともに、固定部21に螺合された段付ねじ111の頭部で結合部材110を挟むことによって結合部材110に保持されている。したがって、固定部21の取付位置を調整する際に、固定部21とねじ115の頭部との接触面、固定部21と段付ねじ111の頭部との接触面という、小さな接触面で保持されるだけなので、その接触面に力が集中してしまい、移動がスムーズに行えないおそれがあるものである。
このように、本件特許発明5においては、板状の保持部材が第1のユニットとの間にベース部材を直接挟んで保持しているのに対して、引用発明5においては、結合部材110に設けられた保持手段(即ちねじ115及び段付ねじ111)が固定部21を保持するのであって、第1のユニットに相当する複写機本体Aとの間に固定部21を挟んで保持するものではない。板状の結合部材110は、複写機本体Aに取り付けられ、複写機本体Aと一体となってその一部をなしているにすぎず、むしろ第1のユニットを構成するということもできる。
したがって、引用発明5の結合部材110は、固定部21を保持するための保持手段を備えているものの、固定部21を結合部材110で直接挟んで保持するものではない点で、本件特許発明5でいうところの「保持するための機能」を有するものではない。
c.甲第4号証には、第1のユニットに相当する「枠J」との間にベース部材に相当する「取付金具1」を挟んで保持する保持部材に相当する「固定用部材5」が記載されている。また、枠Jと固定用部材5との間に取付金具1を挟んで保持し、枠Jに取付金具1を移動調節可能に取り付けた振れ止め装置(位置調整手段)が記載されている(5-4.参照)。また、甲第5号証には、第1のユニットに相当する「受け片4」との間にベース部材に相当する「調節片7」を挟んで保持する保持部材に相当する「座金10」が記載されている。また、受け片4と座金10との間に調節片7を挟んで保持し、受け片4に対して調節片7を移動調節可能に取り付けた長孔調節部の結合装置(位置調整手段)が記載されている(5-5.参照)。しかしながら、甲第4号証及び甲第5号証に記載の位置調整手段は、本件特許発明5のそれとはヒンジ装置でない点で基本構成が異なるだけでなく、本件特許発明5における「調整部材」に相当する構成要素を備えたものではない。したがって、甲第4号証及び甲第5号証には、本件特許発明5の「前記保持部材と前記ベース部材との間に取り付けられ、前記ベース部材の取付位置を調整する調整部材」及び「前記調整部材を調整ネジと該調整ネジの端部に間隔を隔てて設けられた2つのフランジとで構成し、前記保持部材に前記調整部材の前記フランジ間の凹部と嵌合するために切り欠いた切欠部を形成した」点について何ら記載されておらず示唆もされていないから、調整するための機能と保持するための機能を1つの部材に兼用させるという技術思想がそもそも記載も示唆もされていない。
d.次に甲第6号証について見てみると、甲第6号証には、本件特許発明5における少なくとも「前記第1のユニットとの間に前記ベース部材を挟んで保持する板状の保持部材」に対応する構成について何ら記載されていないし示唆もされていないから、調整するための機能と保持するための機能を1つの部材に兼用させるという技術思想が記載も示唆もされていない。
甲第6号証においては、5-6.ア.及びイ.に摘記した事項から明らかなように、調整金151の裏面にリニアベアリング156が付設され、これがドアレール110に嵌合されており、そのドアレール110は、出入口11の上部に形成された天袋内に水平に架設され、車体の外板12側に固定した取付部材13にボルト14により固着されているのであるから、結局、調整金151は、車体(本体)側に取り付けられているということができる。そして、「調整金151は戸吊金147の裏面に嵌合され、取付穴149及びボルト153により、・・・戸吊金147に取付けられている。」(5-6.イ.参照)のであるから、甲第6号証に記載された位置調整手段は、本体に取り付けられた調整金151とボルト153との間に戸吊金147が挟まれて保持され、調整金151に対する戸吊金147の取付位置を調整し得るようにしたものである。つまり、甲第6号証の「車体、取付部材113、ドアレール110、リニアベアリング156」などが引用発明5(甲第2号証に記載された発明)の「第1のユニット」に相当し、以下同様に、「調整金151」が引用発明5の「結合部材」に相当し、「戸吊金147」が「固定部21」に、「ボルト153」が「保持手段(ねじ115)」に、「調整ボルト154」が「調整ねじ114」に相当するから、甲第6号証の位置調整手段は、結局、甲第2号証の位置調整手段と同様の配置構成を備えたものであるといえる。したがって、引用発明5において、「結合部材110」及び「固定部21」を甲第6号証記載の「調整金151」及び「戸吊金147」に置き換えても、本件特許発明5を得ることができないことは明らかである。
e.また、甲第1号証及び甲第3号証には、本件特許発明5の「第1のユニット上に取り付けられるベース部材と、第2のユニットが取り付けられてベース部材の側部に回動自在に軸支されたアーム部材と、を備えるヒンジ装置」に対応する構成は記載されているものの、本件特許発明5の特に主要な構成である「前記第1のユニットとの間に前記ベース部材を挟んで保持する板状の保持部材」に対応する構成については何も記載されていないし示唆もされていないから、調整するための機能と保持するための機能を1つの部材に兼用させるという技術思想が記載も示唆もされていない。
f.甲第7号証及び甲第8号証には、本件特許発明5の「調整部材を調整ネジと該調整ネジの端部に間隔を隔てて設けられた2つのフランジとで構成し、前記保持部材に前記調整部材の前記フランジ間の凹部と嵌合するために切り欠いた切欠部を形成した」との構成に対応する構成が記載又は示唆されているものの、「前記第1のユニットとの間に前記ベース部材を挟んで保持する板状の保持部材と、前記保持部材と前記ベース部材との間に取り付けられ、前記ベース部材の取付位置を調整する調整部材と、を設け」ることについて、何ら記載されておらず示唆もされていない。また、調整するための機能と保持するための機能を1つの部材に兼用させるという技術思想が記載も示唆もされていない。
g.結局、甲第1号証ないし甲第8号証には、「調整するための機能と保持するための機能を1つの部材に兼用させる」という技術思想が記載も示唆もされていないし、その技術思想に対応する、本件特許発明5の「前記第1のユニットとの間に前記ベース部材を挟んで保持する板状の保持部材」であって、かつ「前記調整部材の前記フランジ間の凹部と嵌合するために切り欠いた切欠部を形成した」保持部材について、甲第1号証ないし甲第8号証のいずれにも記載されておらず示唆もされていないから、相違点5に係る本件特許発明5のように構成することは、当業者が容易に想到できたものということはできない。

(2)まとめ
したがって、本件特許発明5は、甲第1号証ないし甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

6-3.むすび
以上のとおり、本件特許発明1ないし本件特許発明5は、いずれも甲第1号証ないし甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

7.無効理由2に対する当審の判断
7-1.本件特許発明の用語について
(1)「第1のユニット」は、本件特許明細書(甲第10号証)における「ヒンジ装置においては、本体等のユニットに取り付けられるベース部材と蓋体やカバー等のユニットを取り付けるアーム部材とを回動ピンで連結し、この回動ピンを支点としてベース部材とアーム部材が相対的に回動するように構成されている。」(段落【0002】)との記載、及び「ヒンジ装置3は図3に示すように、原稿読取装置本体1の上面に取り付けられるベース部材30と、原稿送り装置2を取り付けるアーム部材31を備え、ベース部材30及びアーム部材31は略コ字形状に形成されている。」(段落【0017】)との記載から、発明の実施の形態に記載の「原稿読取装置本体1」に該当することは明らかである。
(2)「第2のユニット」は、本件特許明細書における同じく段落【0002】、【0017】の上記記載から発明の実施の形態に記載の「原稿送り装置2」に該当することは明らかである。
(3)「側部」は、本件特許明細書における「コの字形状に形成されたベース部材30の両側面部30aと同じくコの字形状に形成されたアーム部材31の両側面部31aとは軸ピン32によって連結されており、この軸ピン32を支点として、アーム部材31がベース部材30に対して回動するように構成されている。」(段落【0018】)との記載、及び「ベース部材30の両側面30aに軸着された第1の受部材33bとアーム部材31の両側面31aに軸支された第2の受部材33aの間にはベース部材30に対してアーム部材31が開く方向に付勢するスプリング33が設けられている。」(段落【0019】)との記載から、発明の実施の形態に記載の「側面部30a」に該当することは明らかである。
(4)「保持部材」は、本件特許明細書における「この板部材34は、原稿読取装置本体1の上面との間にベース部材30の底面部30bを挟んで保持する。」(段落【0021】)との記載、「変形例2では、図6に示すように板部材50をL字状に形成し、このL字状の板部材50の折曲部50a」(段落【0031】)との記載、及び「ベース部材を板状の保持部材にて挟み付けて決められた値置に保持する構成」(段落【0035】)との記載から、発明の実施の形態に記載の「板部材50」に該当することは明らかである。また、「保持部」については、本件特許明細書における「ベース部材30の底面部30bの上には剛性の板部材34が設けられている。この板部材34は、原稿読取装置本体1の上面との間にベース部材30の底面部30bを挟んで保持する。」(段落【0021】)との記載、上記段落【0035】の記載、「板部材34」をL字状とした板部材50を示す変形例2の「板部材50」の折曲部50aに係る記載(段落【0031】)、及び図6の記載から、図6における符号50の引き出し線がある部分(板部材50から折曲部50aを除いた部分)を指すことは明らかである。
(5)「凹部」は、本件特許公報における「調整ネジ51は図8で示すような板状部材50の板厚に対応した間隔で設けられたフランジ51aが設けられており、このフランジ51a間の凹部を板部材50の折曲部50aに設けた切欠51bに嵌め込むことにより板部材50と連結している。」(段落【0032】)との記載からみて、図8におけるフランジ51a間の窪み(凹部)を指すことは明らかである。
(6)したがって、本件請求項1ないし5に記載された発明特定事項と、発明の詳細な説明に記載した事項とは、実質的な対応関係が明確であるといえる。

7-2.保持部材と保持部との対応関係について
「保持部材」は、請求項1によれば、「保持部」と「折曲部」とからなる。また、「保持部材」は、本件明細書に記載された実施例における「板部材50」である(上記7-1.(4)参照)。
一方、「保持部」は、請求項1によると、「ベース部材の底部を挟んで保持する」ものを「保持部」と規定している。保持部は、発明の詳細な説明には全く記載されていない用語であるが、上記7-1.(4)で述べたとおり、段落【0021】、【0031】及び【0035】の記載からみて、「保持部」とは、板部材50における「ベース部材30の底面部30bを挟んで保持する」部分であり、折曲部50aを除いた部分であることは明らかである。
したがって、保持部材と保持部との対応関係は明確であるといえる。

7-3.「ベース部材との間」について
請求項1に記載された「ベース部材との間」という用語について、請求人は、「ベース部材に折曲部を設ける以外に他の構成は考えにくい」と主張するが、ベース部材に「折曲部」が存在するかどうかは明細書のどこにも記載されていない。ベース部材には「背面部30d」が設けられているということは記載されているが、折曲部が設けられているとは記載されていない。調整部材を設けるに当たり、ベース部材に折曲部を設けなければならない必然性はなく、例えば背面部30dを溶接などによって設けてもよいことは明らかである。調整部材は、例えば、本件特許明細書の段落【0033】に「ヒンジ装置3のベース部材30の位置を微小に調整する調整手段」と記載されているように、保持部材の折曲部に対するベース部材の位置を調整するための部材であるから、保持部材の折曲部とベース部材との間に設けられていればよく、不明りょうとはいえない。

7-4.特許法第36条第6項第1号について
特許法第36条第6項第1号は、いわゆるサポート要件であるが、請求項に記載した発明が、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであってはならないという趣旨のものである。発明の詳細な説明に記載していない発明について特許請求の範囲に記載することになれば、公開していない発明について権利を請求することになるので、それを防止しようというのがこの規定の趣旨であり、請求人が挙げた審査基準もその趣旨で用語不統一を例に挙げている。しかし、本件特許の場合、用語が不統一であるといっても、請求項に記載した発明特定事項と発明の詳細な説明に記載した事項とは、上述のとおり、実質的な対応関係が明らかであり、特に本件特許明細書の段落【0031】?【0033】及び【0035】などの記載を見ると、発明の詳細な説明に、当業者において本件特許発明の課題が解決されるものと認識できる程度に記載ないし示唆があると認められるから、本件特許の特許請求の範囲が、発明の詳細な説明に記載した範囲を不当に超えて広く記載されているということはできない。

7-5.まとめ
したがって、本件特許は、特許法第36条第6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものということはできない。

8.平成23年5月13日付けの上申書について
上記「1.手続きの経緯」に記載したとおり、本件は、口頭審理において審理を終結したものであるが、平成23年5月13日付けで請求人により提出された上申書の内容についても一応検討したので、以下に検討結果を述べることとする。
まず、第36条第6項第1号に関しては、請求人の主張する理由で本件特許を無効とすることができないことは、上記7.で述べたとおりであり、上記上申書を参酌しても、上記7.の判断が左右されるものではない。
また、第36条第6項第2号に関する無効理由は、新たな無効理由の根拠法条を追加するものであり、請求の理由の要旨を変更するものであるから、この請求の理由の補正については、特許法第131条の2第2項の規定に基づく許可の決定をすべきものではない。
第29条第2項に関しては、請求人は、甲第6号証について、図12と図13だけでなく、図2と図6の記載も考慮に入れるべきであるとして、新たな主張を追加している。即ち、甲第6号証の図2及び図6に記載された「枠体17」が「本体」に該当すると主張する。しかし、図2及び図6並びにそれに関連する記載を見ればわかるように、調整金51は、枠体17との間に戸吊金47を挟んで保持するものではないから、図2及び図6も、図12及び図13と同様、「コの字状の前記ベース部材の両側部の内側で、かつ前記ベース部材の底面の領域内に配置され、前記第1のユニットとの間に前記ベース部材の底部を挟んで保持する保持部」に対応する構成を開示するものではない。したがって、上記上申書を参酌しても、上記6.の判断が左右されるものではない。

9.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許の請求項1ないし5に係る発明の特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2011-05-23 
出願番号 特願2001-184150(P2001-184150)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (F16C)
P 1 113・ 537- Y (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼辻 将人  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 山岸 利治
倉田 和博

登録日 2007-03-16 
登録番号 特許第3930267号(P3930267)
発明の名称 ヒンジ装置  
代理人 西山 善章  
代理人 田中 正平  

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