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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F
管理番号 1257969
審判番号 不服2010-15032  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-07-06 
確定日 2012-06-07 
事件の表示 特願2007-101431「強磁性金属粉末製造用の先駆物質」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 8月 2日出願公開,特開2007-194666〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は,平成10年3月5日に出願した特願平10-71409号の一部を平成19年4月9日に新たな特許出願としたものであって,平成21年8月31日に手続補正書が提出されたが,平成22年3月26日付けで拒絶査定がなされ,それに対して,同年7月6日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2 本願発明の認定
平成21年8月31日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲は請求項1及び2からなるが,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「オキシ水酸化鉄または酸化鉄にCo,AlおよびR(RはYを含む希土類元素の少なくとも一種を表す)を含有し,かつAlとRの接触を減らすようにAlとRを添加する工程を経て合成させた針状粒子からなる,保磁力Hc2050?2410 Oeの強磁性金属粉末を製造するための先駆物質であって,該針状粒子が,Feに対してCoを0超え?50at.%含有し,且つ,Feに対して0.1?30at.%のAlを固溶した粒子の表層部にR層(ただし,粒子中のR含有量はFeに対して0.1?15at.%である)が被着した針状粒子である,前記強磁性金属粉末製造用の先駆物質。」

3 引用例の記載と引用発明
(1)特開平10-53421号公報
(1-1)引用例1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平10-53421号公報(以下「引用例1」という。)には,「塗布型磁気記録媒体の下層用粉末」(発明の名称)に関して,次の記載がある(下線は当審で付加したもの。以下同様。)。
「【0029】重層構造の磁気記録媒体において,本発明に従うオキシ水酸化鉄粉を用いた下層を形成する場合,上層の磁性層としては,次の成分組成をもつ針状のメタル粉を用いて構成するのがよい。
【0030】〔上層メタル粉の成分組成〕
Co:5?50at.%
Al:0.1?30at.%
希土類元素(Yを含む):0.1?10at.%,
周期律表第1a族元素:0.05重量%以下,
周期律表第2a族元素:0.1重量%以下(0重量%を含む),
をFe中に含有し,100℃で放出するH_(2)Oの量が2重量%以下または300℃で放出するH_(2)Oの量が4.0重量%以下である針状の強磁性金属粉。
【0031】ここで,周期律表第1a族元素の例としては,Li,Na,K等が挙げられ,これらが複合して含有する場合にもその総量を0.05重量%以下とする。周期律表第2a族元素の例としては,Mg,Ca,Sr,Ba等が挙げられ,これらが複合して含有する場合にもその総量を0.1重量%以下とする。また希土類元素としては,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Tb,Dy,Gd等が挙げられ,これらが複合して含有する場合にもその総量を0.1?10at.%とする。これらの元素が化合物として含有されている場合にも,化合物の量ではなく化合物中の当該元素の含有量を言う。
【0032】このメタル粉が具備すべき好ましい形状と物性は次のとおりである。
〔長軸長〕:0.01?0.4μm
〔比表面積〕:BET法で30?70m^(2)/g
〔結晶粒径〕:50?250オングストローム
〔保磁力Hc〕:1200?3000(Oe)
〔飽和磁束密度σS 〕:100?200(emu/g)
【0033】このメタル粉を製造するにはCoを含むオキシ水酸化鉄または酸化鉄に所定量のAlを含有させ,これを加熱還元する方法が好適である。この加熱還元に供するオキシ水酸化鉄ないし酸化鉄を主体として含む化合物粉末としてはα-FeOOH,γ-FeOOH,α-Fe_(2)O_(3),γ-Fe_(2)O_(3),Fe_(3)O_(4)及びこれらの中間型に相当するものの他,これらにNi,Cr,Mn,Zn等の金属成分を含有したものが好適なものとして挙げられ,針状性の良いものが好ましい。そのさい,Alを含有させるのに使用できるAl化合物としては,Al_(2)(SO_(4))_(3),Al(NO_(3))_(3),AlCl_(3)等の水可溶塩,さらにはNaAlO_(2)などの水可溶性アルミン酸などが挙げられる。これらのAl化合物を被還元物の粒子表面に被着させるには,通常これらのAl化合物をアルカリ水溶液中に溶解させ,この溶液中に被還元物粉末を分散させた後,炭酸ガスを吹き込むか酸を添加して中和することによって行われ,結晶質ないし非晶質なAl_(2)O_(3)・nH_(2)O(含水酸化アルミニウム)として粒子表面に被着される。またAlを該被還元物の粒子に固溶させる方法でも良い。
【0034】Coを含むα-FeOOH,γ-FeOOHにAlを固溶させるには,FeSO_(4),FeCl_(2)等の第1鉄塩を主成分とした水溶液をNaOH,Na_(2)CO_(3),NH_(4)OH等の中和剤で中和した後に空気等により酸化してα-FeOOH,γ-FeOOH等を生成させる反応系に上記の水可溶性のAl塩やアルミン酸塩を添加すればよい。さらにCoを含むα-Fe_(2)O_(3)にAlを固溶させるにはFe_(2)(SO_(4))_(3),FeCl_(3)等の第2鉄塩の水溶液とNaOH,KOH等の中和剤を使用し,水熱合成法によりα-Fe_(2)O_(3)を合成する反応系に上記の水可溶性のAl塩やアルミン酸塩を添加すればよい。
【0035】このようにして得られたCoを含むAl含有オキシ水酸化鉄ないし酸化鉄を加熱してAlをAl_(2)O_(3)として固定し,このものを,Y(希土類元素を含む)を含有させる工程の原料として使用するのが良い。このときオキシ水酸化鉄は脱水反応により酸化鉄に変成されている。Yを含有する液中に原料粒子を分散させてアルカリを添加して水酸化物の形で析出させる方法,Y元素化合物含有液中に原料粒子を分散させ水分を蒸発させる方法等がある。
【0036】上記の各種方法にて所定量のCoとAlとY(希土類元素を含む)を含有させた酸化鉄の粉末は,還元性雰囲気中で加熱することにより還元され鉄を主成分とするCoとAlとY(希土類元素を含む)を含有する金属磁性粉となる。
【0037】金属磁性粉のY(希土類元素を含む)の含有量は0.1?10原子%,好ましくは0.2?5原子%が良い。0.1原子%未満ではY(希土類元素)の効果が小さくて焼結しやすくなり,10原子%を超えるとY(希土類元素)の酸化物の量が多くなって飽和磁化が小さくなり,上層用の金属磁性粉として不適当なものとなる。
【0038】金属磁性粉のAlの含有量は0.1?30原子%,好ましくは1?20原子%であるのが良い。0.1原子%未満では,焼結しやすくなり,30原子%を超えると飽和磁化が小さくなってしまう。
【0039】上記金属磁性粉において,周期律表第1a族元素を0.05重量%以下及び第2a族元素を0.1重量%以下とするには,原料として周期律表第1a族及び第2a族元素を含まないもの或いは出来るだけ含有量の低いものを使用することに加え,オキシ水酸化鉄,酸化鉄,金属磁性粉の各化合物の段階で十分な洗浄を行って除去することが好ましい。洗浄する場合,工程が進むにつれて上記元素は粒子表面に偏析してくるようになるので洗浄効率は良くなる。また洗浄水に温水や酸を加えpHを下げた洗浄水を用いれば更に効率よく除去することができる。
【0040】第1a族元素が0.05重量%を超えるとテープ化のときに樹脂との相溶性が悪くなって分散できなかったり,磁気塗料化しても塗膜強度の低いものとなる。またこの元素が可溶性であるために,テープを或る時間保持したときにテープ表面に析出して結晶性の化合物となり,この化合物がドロップアウトの増大等の原因となりテープ保存安定性を低下させる。また第2a族元素が0.1重量%を超えると樹脂との相溶性が悪くなると共に塗膜強度も低くなり,極端に多くなると第1a族元素と同様にテープ保存安定性も悪くなる。」
「【0087】〔媒体例1〕
・以下の組成からなる下層塗料を用意する。
オキシ水酸化鉄 100重量部
(本例では長軸長=0.15μm,100℃の水分量=1.0重量%)
ポリウレタン樹脂 20重量部
メチルエチルケトン 165重量部
シクロヘキサノン 65重量部
トルエン 165重量部
ステアリン酸 1重量部
アセチルアセトン 1重量部
遠心ボールミルで1時間分散させて得た上記組成の塗料を,ポリエチレンテレフタレートからなるベースフィルム上にアプリケーターを用いて塗布して下層を形成した。用いたオキシ水酸化鉄粉末の諸特性値と得られた下層の性質を表2に示す(下記の例及び比較例も表2に併記する)。
【0088】・以下の組成からなる上層塗料を用意する。
金属磁性粉 100重量部
(本例では,金属Fe中に,Co:30at.%,Al:10at.%,Y:4at.%,Na:0.002wt%,Ca:0.004wt%を含有する)
ポリウレタン樹脂 30重量部
メチルエチルケトン 190重量部
シクロヘキサノン 80重量部
トルエン 110重量部
ステアリンブチル 1重量部
アセチルアセトン 1重量部
α-アルミナ 3重量部
カーボンブラック 2重量部
遠心ボールミルで1時間分散させて得たこの組成の上層用塗料を,前記の下層の上にアプリケーターを用いて塗布してシート状試料を形成,これをさらにカレンダー処理を行った後8mm幅にスリットし磁気テープを得た。用いた金属磁性粉末の諸特性値と,得られた磁気テープの性質を表2?表3に示した(下記の例及び比較例も表2?表3に併記する)。」
さらに,段落【0116】の【表2】には,媒体例1の上層の金属磁性粉の磁気特性として,「Hc」(保持力)が「2340(Oe)」であることが記載されている。

(1-2)引用発明
引用例1記載の「媒体例1」の上層塗料に用いる「金属磁性粉」を参照し,上記記載事項(1-1)の内容を総合すれば,引用例1には,以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「金属Fe中に,Co:30at.%,Al:10at.%,Y:4at.%を含有するHc2340 Oeの針状の強磁性金属粉であって,
Coを含むオキシ水酸化鉄または酸化鉄にAlを含有させ,
このCoを含むAl含有オキシ水酸化鉄または酸化鉄を加熱して原料粒子とし,Yを含有する液中に原料粒子を分散させてアルカリを添加して水酸化物の形で析出させる方法,Y元素化合物含有液中に原料粒子を分散させ水分を蒸発させる方法等によりYを含有させ,
さらに,CoとAlとYを含有させた酸化鉄の針状の粉末を,還元性雰囲気中で加熱することにより還元させた鉄を主成分とするCoとAlとYを含有する強磁性金属粉。」

(2)特開平7-22224号公報
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平7-22224号公報(以下「引用例2」という。)には,「強磁性金属粉末」(発明の名称)に関して,次の記載がある。
「【0020】本発明に従う金属磁性粉を製造するには,オキシ水酸化鉄または酸化鉄に所定量の希土類元素とAlを含有させ,これを加熱還元する方法が好適である。被還元物のオキシ水酸化鉄ないし酸化鉄を主体として含む金属化合物粉末としては,α-FeOOH,γ-FeOOH,α-Fe_(2)O_(3),γ-Fe_(2)O_(3), Fe_(3)O_(4) およびこれらの中間型に相当するものの他,これらにNi,Co,Cr,Mn,Zn等の金属成分を含有したものが好適なものとして挙げられ,好ましくは針状性の良いものが使用される。
【0021】Alを含有させるのに使用できるAl化合物としては, Al_(2)(SO_(4))_(3),Al(NO_(3))_(3), AlCl_(3)などの水溶性塩, さらにはNaAlO_(2)( アルミン酸ナトリウム) などの水可溶性アルミン酸塩などが挙げられ, これらのAl化合物を被還元物の粒子表面に被着させるには, これらのAl化合物をアルカリ水溶液中に溶解させ, この溶液中に被還元物粉末を分散させた後, 炭酸ガスを吹き込むか酸を添加して中和することによって行うことができ,これによって,結晶質ないし非晶質なAl_(2)O_(3)・nH_(2)O(含水・酸化アルミニウム)として粒子表面に被着される。
【0022】またAlを該被還元物の粒子に固溶させる方法でも良い。α-FeOOHやγ-FeOOHにAlを固溶させるには FeSO_(4)やFeCl_(2) 等の第1鉄塩の水溶液をNaOH, Na_(2)CO_(3), NH_(4)OH等の中和剤で中和した後に空気等により酸化してα-FeOOH, γ-FeOOH等を生成させる反応系に上記の水可溶性のAl塩やアルミン酸塩を添加すれば良い。さらにα-Fe_(2)O_(3)にAl固溶させるには Fe_(2)(SO_(4))_(3), FeCl_(3) 等の第2鉄塩の水溶液と NaOH, KOH等の中和剤を使用し, 水熱合成法によりα-Fe_(2)O_(3)を合成する反応系に上記の水可溶性のAl塩やアルミン酸塩を添加すればよい。
【0023】こうして得られたAl含有オキシ水酸化鉄ないし酸化鉄を250?400℃で加熱してAlをAl_(2)O_(3) として固定したうえ, これを希土類元素を含有させる工程の原料として使用するのがよい。この時, オキシ水酸化鉄は該加熱時の脱水反応により酸化鉄に変成されている。希土類元素の含有させるには,希土類元素を含有する液中に原料粒子を分散させ, アルカリを添加して水酸化物の形で析出させる方法, 希土類元素化合物含有液中に原料粒子を分散させ, 水分を蒸発させる方法等が採用できる。
【0024】上記の各種方法にて所定量のAlと希土類元素を含有させた酸化鉄の粉末は,還元性雰囲気中で加熱する事により還元され, Alと希土類元素を含有する鉄を主成分とする金属磁性粉となる。加熱還元は被還元物の種類によって最適条件が異なるが,通常は水素気流中で300?700℃の温度下で行うのが良い。」
「【0037】〔実施例4〕純水5リットル中に硫酸アルミニウム[Al_(2)(SO_(4))_(3)] 4.8 gを溶解させ,さらに10%濃度のNaOH水溶液を使用してpHを12.5に調整した。この溶液中にFeに対して5%のCoを含む長軸長さ 0.2μm,軸比15のα-FeOOHを50g懸濁させ,充分に攪拌した後,このスラリー中に炭酸ガスを吹き込んでpH9以下に中和することにより,α-FeOOHの粒子表面に含水・酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3)・nH_(2)O) を被着させた。
【0038】この含水・酸化アルミニウムを被着したα-FeOOHを濾過, 水洗, 乾燥後, 400℃で3時間加熱して Al_(2)O_(3)被着α-Fe_(2)O_(3)に変成させた。次に, この Al_(2)O_(3)被着α-Fe_(2)O_(3)を解粒後, 純水に懸濁させ再度, 濾過・水洗し, Na及び周期律第1a族元素のほとんどない Al_(2)O_(3)被着α-Fe_(2)O_(3)とした。
【0039】このものを,硝酸ランタン [La(NO_(3))_(3)] 1.8g溶かした1リットルの水溶液中へ懸濁させ, 充分攪拌した後,このスラリーを乾燥機に入れ, 100℃で水分を蒸発させてLaをAl_(2)O_(3)被着α-Fe_(2)O_(3)に, さらに被着した。
【0040】こうして得られた Al_(2)O_(3)とLaを含有するα-Fe_(2)O_(3)を10g採取して回転炉へ装入し, H_(2)気流を導入して450℃で10時間加熱還元した。還元終了後N_(2)ガスを導入して室温まで冷却した後,1%のO_(2)を含むN_(2)ガスを導入して5時間の徐酸化処理を行いAlとLaを含有する金属磁性粉を得た。この金属磁性粉の分析値並びに粉体特性と磁気特性を表1に示した。」
段落【0059】の【表1】には,実施例4として,分析値がAl:5.0原子%,La:1.0原子%での磁気特性として「Hc1760」の磁性粉が記載されており,また,実施例16として,磁気特性「Hc1840」(Hcの最大値)の磁性粉が記載されている。

4 本願発明と引用発明との対比・判断
(1)本願発明と引用発明との対比
ア 引用発明の「Y」,「針状の粉末」,「強磁性金属粉」は,それぞれ,本願発明の「R(RはYを含む希土類元素の少なくとも一種を表す)」,「針状粒子」,「強磁性金属粉末」に相当する。また,本願発明の「オキシ水酸化鉄または酸化鉄」は択一的な記載であって,引用発明の「酸化鉄」はその一方と一致している。
イ よって,引用発明の「CoとAlとYを含有させた酸化鉄の針状の粉末」は,本願発明の「オキシ水酸化鉄または酸化鉄にCo,AlおよびR(RはYを含む希土類元素の少なくとも一種を表す)を含有した針状粒子」に相当する。
ウ 引用発明の「Hc2340 Oeの針状の強磁性金属粉」は,本願発明の「保磁力Hc2050?2410 Oeの強磁性金属粉末」に含まれる。
エ 引用発明の「金属Fe中に,Co:30at.%」「を含有する」ことは,本願発明の「Feに対してCoを0超え?50at.%含有」することに含まれる。
オ 引用発明の「Alを含有させ」た「原料粒子」と,本願発明の「Alを固溶した粒子」とは,「Alを含有した粒子」である点で共通する。また,引用発明の「金属Fe中に,」「Al:10at.%」「を含有する」ことは,本願発明の「Feに対して0.1?30at.%のAl」を含有することに含まれる。
カ 粒子にR層を被着する点に関して,本願明細書には「【0025】このようにして得られたCo含有Al固溶オキシ水酸化鉄粒子にRを被着するには,水溶性R塩(例えばRの硝酸塩等)の水溶液にこの粒子を分散させ,この分散液から水分を蒸発させる方法や,この分散液にアルカリを添加して中和する方法により,該粒子の表面にRを被着させることができる。」と,引用発明のYを含有させる方法と同様の方法が記載されているので,引用発明の「Yを含有する液中に原料粒子を分散させてアルカリを添加して水酸化物の形で析出させる方法,Y元素化合物含有液中に原料粒子を分散させ水分を蒸発させる方法等によりYを含有させ」た「針状の粉末」は,本願発明の「粒子の表層部にR層」「が被着した針状粒子」に相当する。
キ 引用発明の「金属Fe中に,」「Y:4at.%を含有する」ことは,本願発明の「粒子中のR含有量はFeに対して0.1?15at.%である」ことに含まれる。
ク 引用発明として「強磁性金属粉」を認定したが,引用発明では「CoとAlとYを含有させた酸化鉄の針状の粉末を,還元性雰囲気中で加熱することにより還元させ」て,「鉄を主成分とするCoとAlとYを含有する強磁性金属粉」とするのであるから,引用発明の「CoとAlとYを含有させた酸化鉄の針状の粉末」は,本願発明の「針状粒子からなる」「強磁性金属粉末を製造するための先駆物質」及び「針状粒子である,前記強磁性金属粉末製造用の先駆物質」に相当する。
したがって,引用発明は,その製造過程において,「CoとAlとYを含有させた酸化鉄の針状の粉末」を先駆物質として包含しているといえるから,本願発明と引用発明とは,実質的に,「強磁性金属粉末製造用の先駆物質」であることにおいて共通しているといえる。

(2)一致点と相違点
そうすると,本願発明と引用発明とは,
「オキシ水酸化鉄または酸化鉄にCo,AlおよびR(RはYを含む希土類元素の少なくとも一種を表す)を含有した針状粒子からなる,保磁力Hc2050?2410 Oeの強磁性金属粉末を製造するための先駆物質であって,該針状粒子が,Feに対してCoを0超え?50at.%含有し,且つ,Feに対して0.1?30at.%のAlを含有した粒子の表層部にR層(ただし,粒子中のR含有量はFeに対して0.1?15at.%である)が被着した針状粒子である,前記強磁性金属粉末製造用の先駆物質。」
であることにおいて一致するが,以下の点において相違している。

《相違点》
本願発明は,「AlとRの接触を減らすようにAlとRを添加する工程を経て合成させた針状粒子」で,「Feに対して」「Alを固溶した粒子」であるのに対して,引用発明は,Alを含有するが,含有形態の特定がなされていない点。

(3)相違点の判断
ア 本願発明の「Alを固溶した」点に関して,請求人は,審判請求書の「請求の理由」(平成22年8月18日提出の手続補正書2ページ40行?3ページ7行)において,以下のとおり主張している。
「本願発明は「Alが固溶する」という形態を取るようにしたことで,Alと希土類元素が(一部)直接接触する場合があります。すなわち,Alを固溶させる段階でかなり希薄となる可能性はあるものの,最外層にAlが存在する場合も想定され,完全に遮断することを意図しません。具体的に形態について説明すれば,本願の採る方法がAlを徐々に添加する手法により固溶させる方法であることから,Alが一部表層に残存し,その上層部を希土類が被覆するような直接接触するという場合もあり得ます。よって,本願に規定する内容は「Alと希土類元素が直接接触する形態を除いた」形態ではないことは明白です。
また,被着のように完全に接触しないよう,接触を緩和する手法を採っていることを明確にするため,本願請求項1の規定に「AlとRの接触を減らすように」と明示することとしましたが,これが原審では十分に解釈されておらず,本願発明の事実認定に錯誤が生じたため,前記結論となったと思料します。
・・・(中略)・・・
本願発明は,上述の通り「固溶」という特殊な手法を用いて,従来の「被着」の手法に比較してAlと希土類元素の直接接触を減らした前駆体物質を提供します。」
以上の請求人の主張によれば,本願発明の「AlとRの接触を減らすようにAlとRを添加する工程」とは,「Alを被着する」のでなく「Alを固溶する」ことにほかならない。
イ ここで,引用例1の段落【0033】及び【0034】には,Coを含むオキシ水酸化鉄または酸化鉄に所定量のAlを含有させる方法として,Al化合物を被還元物の粒子表面に被着させる方法と,Alを被還元物の粒子に固溶させる方法(本願発明の「Alを固溶」に相当する。)の2通りの方法が記載されており,媒体例1の「金属磁性粉」を製造する際にも,上記の2通りの方法のどちらかの方法を採用したことは明らかであるから,その一方の方法である「Alを固溶」する方法を選択することに,格別の困難性は認められない。
ウ また,引用例2(段落【0020】?【0022】)にも,同様に,Coを含むオキシ水酸化鉄または酸化鉄に所定量のAlを含有させる方法として,Al化合物を被還元物の粒子表面に被着させる方法と,Alを被還元物の粒子に固溶させる方法が記載されており,Alを固溶させる方法は,従来より周知の手段であるといえる。
さらに,本願明細書中において,本願の出願前の背景技術として提示された特公昭59-17161号公報(特許文献9)には,以下の記載がある。
【特許文献9】特公昭59-17161号公報
・「本発明はアルミニウムを固溶したα-FeOOH等の鉄を主成分とする針状粒子をH_(2)等で還元することにより,針状性を保持しかつ粒子間の焼結の少ない強磁性金属粒子を得る方法に関するものである。」(1ページ2欄17?21行)
・「また比較のため,アルミニウムを固溶したとα-FeOOHと従来法の表面にアルミニウムを付着させたα-FeOOHとをH_(2)ガスを用いて500℃で5時間還元して得られた鉄を主成分とする磁性粉の磁気特性の結果を第4表に示す。」(3ページ5欄4行?6欄4行)
・3ページの第4表によれば,Al固溶(審決注:「固液」は「固溶」の誤記と認定した。)α-FeOOHのHcが1140又は1080(Oe)であるのに対して,Al付着α-FeOOHのHcが850又は970(Oe)であることが記載されている。
エ したがって,「Alを固溶」する方法は,単に従来より周知の手段であるばかりでなく,本願出願当時の技術水準を示す上記【特許文献9】によれば,表面にAlを付着させるよりも,Alを固溶した方が,磁気特性が良好な強磁性金属粒子を得られることは,本願出願当時の当業者において,良く知られた技術的事項であったと認められる。
そうすると,上記イの引用例1に記載されたAlを含有させる2通りの方法から「Alを被着」する方法でなく,「Alを固溶」する方法を選択することは,当業者にとって動機付けがあるといえる。
オ そして,引用例2では,引用発明と同様にオキシ水酸化鉄または酸化鉄にCo,AlおよびRを含有した針状粒子を用いているにもかかわらず,実施例では「Alを被着」しており,製造された磁性金属粉のHcが最大で1840(Oe)であり,十分な磁気特性が得られていないとの技術背景に立てば,上記エのとおり,Alを固溶した方が,磁気特性が良好な強磁性金属粒子を得られるとの周知の技術的事項に基づいて,高い磁気特性を得るために,引用例1に記載されたAlを含有させる2通りの方法から「Alを被着」する方法でなく,「Alを固溶」する方法を選択することは,当業者が容易に想到し得ることと言える。
カ 以上の点を考慮すると,引用発明において,Alを含有させる方法として「Alを固溶」する方法を選択して,本願発明のように,「AlとRの接触を減らすようにAlとRを添加する工程を経て合成させた針状粒子」で,「Feに対して」「Alを固溶した粒子」とすることは,当業者が容易になし得たことである。
キ また,「Alを固溶」することにより,本願発明が奏する効果も,格別顕著なものということはできず,当業者が予測し得る程度のものにすぎない。

(4)小活
したがって,本願発明は,本願出願当時の周知の技術的事項を勘案することにより,引用例1,2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 結言
以上のとおり,本願発明は,本願出願当時の周知の技術的事項を勘案することにより,引用例1,2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-27 
結審通知日 2012-04-03 
審決日 2012-04-16 
出願番号 特願2007-101431(P2007-101431)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 倍司  
特許庁審判長 齋藤 恭一
特許庁審判官 小野田 誠

松田 成正
発明の名称 強磁性金属粉末製造用の先駆物質  
代理人 小松 高  
代理人 和田 憲治  
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