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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1257971
審判番号 不服2010-15268  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-07-08 
確定日 2012-06-07 
事件の表示 特願2004-541520「ビデオ・エンコーダにおける参照画像の陰解法による重みづけ」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 4月15日国際公開、WO2004/032506、平成18年 1月12日国内公表、特表2006-501761〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 経緯
本件出願は、2003年9月10日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年10月1日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成21年11月17日付けで手続補正がなされたが、平成22年3月8日付けで拒絶査定されたものである。
本件は、上記拒絶査定を不服として請求された拒絶査定不服審判である。

2 本願発明
本件出願の請求項1ないし14に係る発明は、平成21年11月17日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載されたとおりのものと認められるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」ともいう)は次のとおりである。

[本願発明](請求項1)
画像ブロックおよび複数の参照画像指標に関するビデオ信号データを符号化するビデオ・エンコーダであって、前記画像ブロックと前記複数の参照画像指標によって示される第1および第2の参照画像との相対的位置に応答する参照画像重みづけ係数割当て器を具え、該割当て器は、前記画像ブロックから前記第1および第2の参照画像までのそれぞれの距離に基づいて、前記第1および第2の参照画像についてのそれぞれの陰解法重みづけ係数を計算する、前記ビデオ・エンコーダ。

3 刊行物2、刊行物2発明
査定の理由として通知された刊行物2(Joint Video Team (JVT) of ISO/IEC MPEG and ITU-T VCEG,Joint Final Committee Draft (JFCD) of Joint Video Specification (ITU-T Rec. H.264 | ISO/IEC 14496-10 AVC),JVT-D157,2002年 8月10日,P.112-121)には、次の記載がある。

(刊行物2の記載)
「10 Decoding process for B slices」(p.112)
(10 Bスライスのデコード過程)、

「10.4.3 Implicit bi-predictive weighting

When weighted_bipred_implicit_flag is equal to 1, the prediction weighting factors are not sent explicitly and the luma and chroma predictions are generated as follows.

If the decoding order of the reference picture indicated by ref_idx_l0 is previous to or the same as that indicated by ref_idx_l1, or for skipped macroblocks or direct mode, the prediction signals are generated as follows:

P=clip1(P0×2-P1)

where
P0 = reference prediction block from list 0
P1 = reference prediction block from list 1;

otherwise, the prediction signals are generated as follows

P=(P0+P1+1)>>1

where
P0 = reference prediction block from list 0
P1 = reference prediction block from list 1.」(p.121)
(10.4.3 暗黙の両方向予測の重みづけ

weighted_bipred_implicit_flagが1に等しい場合、予測に重みを加える要因は明示的に送られません。また、輝度と色度の予測は以下のように生成されます。

ref_idx_l0によって示された参照ピクチャの解読する順序がref_idx_l1によって示されたそれに先立つ、あるいは、同じ場合、または、スキップしたマクロブロックの場合、または、直接モードの場合、予測信号は以下のように生成されます:

P=clip1(P0×2-P1)

P0=リスト0による参照予測ブロック
P1=リスト1による参照予測ブロック

そうでなければ、予測信号は以下のように生成されます

P=(P0+P1+1)>>1

P0=リスト0による参照予測ブロック
P1=リスト1による参照予測ブロック)
(刊行物2の記載、以上)

以上の記載によると、刊行物2には、Bスライスのデコード過程における暗黙の両方向予測の重みづけについて記載されており、
Bスライスのデコード過程における暗黙の両方向予測の重みづけは、予測に重みを加える要因は明示的に送られないものであり、「ref_idx_l0によって示された参照ピクチャの解読する順序がref_idx_l1によって示されたそれに先立つ、あるいは、同じ場合」等と「そうでな(ければ)」い場合、で場合分けし、
その場合の係数は、
P0=リスト0による参照予測ブロック
P1=リスト1による参照予測ブロック
として、
P=clip1(P0×2-P1)
では、2、-1であり、
P=(P0+P1+1)>>1
では、1/2、1/2である。

この、Bスライスのデコード過程における暗黙の両方向予測の重みづけについてのデコード技術を刊行物2発明と認め、刊行物2発明は次のとおりである。

[刊行物2発明]
暗黙の両方向予測の重みづけは、予測に重みを加える要因は明示的に送られないものであり、「ref_idx_l0によって示された参照ピクチャの解読する順序がref_idx_l1によって示されたそれに先立つ、あるいは、同じ場合」等と「そうでな(ければ)」い場合、で場合分けし、
その場合の係数は、
P0=リスト0による参照予測ブロック
P1=リスト1による参照予測ブロック
として、
P=clip1(P0×2-P1)
では、2、-1であり、
P=(P0+P1+1)>>1
では、1/2、1/2である、
Bスライスのデコード過程。

4 対比、一致点相違点
(1)「画像ブロックおよび複数の参照画像指標に関するビデオ信号データを符号化するビデオ・エンコーダ」

本願発明は「ビデオ信号データを符号化するビデオ・エンコーダ」であって、ビデオ信号データの符号化に関する技術であるところ、
刊行物2発明はデコード過程であって、符号化されたビデオ信号データのデコード過程であり、デコード側の技術ではあるが、このようにデコードを行うことを前提に符号化を行うためのものといえるから、ビデオ信号データの符号化に関する技術であるということはできる。

刊行物2発明において
P=clip1(P0×2-P1)
P=(P0+P1+1)>>1
で求められるPは、ブロックであり、
P0=リスト0による参照予測ブロック
P1=リスト1による参照予測ブロック
であって、P0、P1はリスト0、1による複数の参照画像のブロックであり、
2、-1もしくは1/2、1/2の係数によってPを求めるから、
刊行物2発明は、ビデオ信号データの符号化に関する技術として、画像ブロックおよび複数の参照画像指標に関するものということができる。

そうすると、
本願発明と刊行物2発明とは、
「画像ブロックおよび複数の参照画像指標に関するビデオ信号データの符号化に関する技術」で一致し、
本願発明が「符号化するビデオ・エンコーダ」であることに対して、刊行物2発明は「デコード過程」であることで相違する。

(2)「前記画像ブロックと前記複数の参照画像指標によって示される第1および第2の参照画像との相対的位置に応答する参照画像重みづけ係数割当て器」

刊行物2発明で重みづけ係数は、場合分けして、リスト0、1によるP0、P1に対して係数2、-1もしくは1/2、1/2を用いるから、「複数の参照画像指標によって示される第1および第2の参照画像に参照画像重みづけ係数割当」をしているといえる。
もっとも、その割当は、「前記画像ブロックと前記複数の参照画像指標によって示される第1および第2の参照画像との相対的位置に応答する」ものではなく、また、装置として「割当て器」ではない。

そうすると、
本願発明と刊行物2発明とは、
「複数の参照画像指標によって示される第1および第2の参照画像に参照画像重みづけ係数を割当て」る点で一致し、
その割当が、本願発明では「前記画像ブロックと前記複数の参照画像指標によって示される第1および第2の参照画像との相対的位置に応答する」ものであることに対して、刊行物2発明はそうでない点、
および、
本願発明が「割当て器」であることに対して、刊行物2発明はそうでない点で相違する。

(3)「前記画像ブロックから前記第1および第2の参照画像までのそれぞれの距離に基づいて、前記第1および第2の参照画像についてのそれぞれの陰解法重みづけ係数を計算する」

刊行物2発明の重みづけ係数は、場合分けして、係数2、-1もしくは1/2、1/2を用い、予測に重みを加える要因は明示的に送られないものである。この係数2、-1もしくは1/2、1/2は、明示的に送られないのであるから、本願発明と同じく「陰解法重みづけ係数」ということができる。
そして、P0とP1に対する係数であるから、上記したように「(画像ブロックと第1および第2の参照画像との)相対的位置に応答する」ものではないが、「前記第1および第2の参照画像についてのそれぞれの重みづけ係数」ということができる。

本願発明は、その「前記第1および第2の参照画像についてのそれぞれの陰解法重みづけ係数」を「前記画像ブロックから前記第1および第2の参照画像までのそれぞれの距離に基づいて、」「計算する」ところ、刊行物2発明は、場合分けして、係数2、-1もしくは1/2、1/2を用いるから、上記したように「前記画像ブロックから前記第1および第2の参照画像までのそれぞれの距離に基づ」くものでないと共に、「計算する」ものでもない。

そうすると、
本願発明と刊行物2発明とは、
「該割当ては、前記第1および第2の参照画像についてのそれぞれの陰解法重みづけ係数を用いる」点で一致し、
本願発明では「前記画像ブロックから前記第1および第2の参照画像までのそれぞれの距離に基づいて、」「計算する」ことに対して、刊行物2発明はそうでない点で相違する。

(4)相違点の整理
上記のように構成要素に関して各相違が認められるが、これを技術的に整理すると、
本願発明が符号化側の装置である「エンコーダ」であることに対して、刊行物2発明が復号側の「デコード過程」であることにより、
本願発明が「符号化するビデオ・エンコーダ」であり、「割当て器」を具えることに対して、刊行物2発明は「デコード過程」であり、「割当て器」を具えないという相違と、
重みづけ係数の割当てに関する相違により、
係数の割当てが、本願発明では「前記画像ブロックと前記複数の参照画像指標によって示される第1および第2の参照画像との相対的位置に応答する」ものであり、「前記画像ブロックから前記第1および第2の参照画像までのそれぞれの距離に基づいて、」「計算する」ことに対して、刊行物2発明はそうでない点で相違とがあると認められる。

(5)一致点、相違点
以上対比によると、本願発明と刊行物2発明との一致点、相違点は次のとおりである。

[一致点]
画像ブロックおよび複数の参照画像指標に関するビデオ信号データの符号化に関する技術であって、
複数の参照画像指標によって示される第1および第2の参照画像に参照画像重みづけ係数を割当て、
該割当ては、前記第1および第2の参照画像についてのそれぞれの陰解法重みづけ係数を用いる、
ビデオ信号データの符号化に関する技術。

[相違点]
相違点1
本願発明が符号側の装置である「エンコーダ」であることに対して、刊行物2発明が復号側の「デコード過程」であることにより、
本願発明が「符号化するビデオ・エンコーダ」であり、「割当て器」を具えることに対して、刊行物2発明は「デコード過程」であり、「割当て器」を具えない点。

相違点2
重みづけ係数の割当てに関する相違により、
係数の割当てが、本願発明では「前記画像ブロックと前記複数の参照画像指標によって示される第1および第2の参照画像との相対的位置に応答する」ものであり、「前記画像ブロックから前記第1および第2の参照画像までのそれぞれの距離に基づいて、」「計算する」ことに対して、刊行物2発明はそうでない点。

5 判断
(1)相違点1について
デコード(復号)とエンコード(符号化)とは表裏一体であると普通に考えられ、エンコードはデコード過程を考慮してなすのが普通であるから、刊行物2のデコード過程に対応する符号化を行うエンコーダは容易に想到され、重みづけ係数の割当てをする装置として「割当て器」を具えるようにするのも自然である。そうであるから、刊行物2発明のデコード過程での割当てに対応するような「割当て器」を具える「(ビデオ信号データを)符号化するビデオ・エンコーダ」は当業者が容易に想到できるといえる。

(2)相違点2について
ビデオ信号データの符号化・復号の仕組みは、様々な観点から考慮されるが、できるだけ良い画像をできるだけ少ない伝送量で伝送できるようにすることは主要な観点といえる。
刊行物2発明で、「予測に重みを加える要因は明示的に送られない」、すなわち、係数が送られないことは、伝送量を少なくするという観点から、注目されるべき技術といえるところ、
刊行物1(特開平2-192378号公報)には、図面と共に次の記載がある。

(刊行物1の記載)
「(課題を解決するための手段)
本発明は上記の目的を達成するために、連続して入力される画像信号の連続フレームの中から一定間隔(数フレーム)おきに独立フレームを設定し、この独立フレームをフレーム内で独立に符号化する第1の符号化手段と、前記独立フレームの間の非独立フレームの予測信号を、前後の独立フレームの信号をもとに形成する予測信号形成手段と、前記非独立フレームの信号を、それに対応する前記予測信号をもとに予測し、その予測誤差について符号化する第2の符号化手段とを備えたことを特徴とするフレーム間予測符号化方式を提供するものである。
(作 用)
上記した構成のフレーム間予測符号化方式においては、連続して入力される画像信号の連続フレームの中からフレーム間予測を用いないでフレーム内で独立に符号化する独立フレームを予め一定間隔(数フレーム)おきに設定し、その間のフレームについては前後(新旧)の独立に符号化された独立フレームにより予測して符号化する。
この様子を第6図に示すが、Aが従来例のフレーム間予測方法で、Bが本発明の場合のフレーム間予測方法である。同図で、四角形は連続して入力される動画像信号の連続フレームであり、そのの中で陰を付けたものは独立にフレーム内で符号化されるフレームで、Aでは最初(またはリセット時)のみが独立フレームとなっているが、Bでは定期的に独立フレームがある。矢印はフレーム間予測の方向関係を示しており、Aでは各フレーム同様に前フレームからのみ予測が行なわれるが、Bでは前後の二つの独立フレームから予測される。
また、予測は独立フレームのみをもとに行なわれ、予測されたフレームが別の予測に使われることはない。
(実 施 例)
本発明になるフレーム間予測符号化方式の実施例について以下に図面と共に説明する。
第1図および第2図は符号化器の構成を、第3図は復号器の構成をそれぞれ示す。この符号化器および復号器の基本的な構成は、従来例に準じたものとなっており、前出の第4図および第5図中の同一構成部分には同一番号を付す。
第1図および第2図においては、予測に使われる独立フレームの符号化が済んでから非独立フレームを符号化するための(N-1)フレームメモリ31[Nは2以上の整数]を持つ。
また、予測信号(予測値)を前後二つのフレームをもとに形成するために、二つのフレームメモリ32,33と、それぞれの信号に重み付けをする二つの係数掛け算器{×α,×(1-α)}34,35と、それらの加算器36とがある。[但し、0<α<1]
さらに、切換えスイッチ37を画像信号入力端子1と(N-1)フレームメモリ31との間に、切換えスイッチ38を予測信号減算器2と直交変換器3との間に、切換えスイッチ39を量子化器4と逆量子化器7との間に、切換えスイッチ40を二つのフレームメモリ32,33の間にそれぞれ設ける。
ここで、後に詳述するが、第1図は従来と同様に復号器側と同じ予測信号を得るものであるが、第2図のものは、符号化される元の画像信号から予測信号を得るもので、予測信号は符号化器側と復号器側とで異なったものとなる。なお、第2図の構成は、符号器側で復号処理を必要としないが、本発明方式が従来例のように巡回型の処理ではないために可能となるものである。
第3図においては、直交逆変換器24から得られた信号に予測信号を加算する予測信号加算器41がある。
また、予測信号を前後二つのフレームをもとに形成するために、二つのフレームメモリ42,43と、それぞれの信号に重み付けをする二つの係数掛け算器{×α,×(1-α)}44,45と、それらの加算器46とがある。
さらに、切換えスイッチ47を直交逆変換器24と予測信号加算器41との間に、切換えスイッチ48を予測信号加算器41と再生画像信号出力端子26との間に、切換えスイッチ49を二つのフレームメモリ42,43の間にそれぞれ設ける。
第1図に示した実施例の構成において、画像信号入力端子1より入力された動画像の信号(連続フレーム)は、切換えスイッチ37,38で、独立に符号化されるフレームではa側に接続され、(N-1)フレームメモリ31や予測信号減算器2を介さずに直交変換器3へと導かれる。
直交変換器3,量子化器4,可変長符号化器5の動作は基本的に従来例と同様である。
一方、残りの非独立フレームはフレーム間予測されるので、予測信号を減算するが、本発明方式では独立フレームを先に符号化しておく必要があるので、残りのフレームについてその分遅延させる。
ここで、独立とするフレームをNフレームに1フレーム[Nは2以上の整数]とすると、その遅延量(N-1)フレーム分となる。すなわち、残りの非独立フレームの時には切換えスイッチ37,38をb側に接続し、信号は(N-1)フレームメモリ31で(N-1)フレーム分だけ遅延され、予測信号減算器2で予測信号が減算された後に直交変換器3に導かれ、その予測誤差(残差)について符号化される。
ここで、切換えスイッチ37,38は定期的にNフレームに1フレームだけa側に接続され、それ以外ではb側に接続されることになる。以降の直交変換器3,量子化器4,可変長符号化器5の動作は、独立フレームのときと同じである。以上の動作はもう一つの符号化器の実施例である第2図の場合も同様である。
第2図に示す構成の符号化器の場合、予測信号を符号化再生画像信号から得るのではなく、符号化する前の元の画像信号より得ている。予測信号を形成する際の動作は、符号化再生画像信号の代わりに元の画像信号を入力する以外は第1図の場合と同じである。
第2図の構成では、第1図における逆量子化器7や直交逆変換器8が必要なくなる。この場合、予測信号が送信側と受信側とで異なることになるが、本発明方式においては、その誤差がフレーム毎に累積されることはない。むしろ、量子化誤差が予測誤差(残差)に残留しなくなるので、従来例における空間LPFの必要性がなくなり、予測効率が向上する。
次に、本発明方式における予測信号の作り方について述べる。まず、従来例と同様に符号化器側と復号器側とで同じ予測信号を得る場合であるが、その例が第1図になる。ここで従来例と異なるのは、従来例ではすべてのフレームが予測信号を得るために使われているのに対し、本発明方式では独立に符号化されたフレーム(独立フレーム)のみによって予測信号が作られるため、切換えスイッチ39は独立フレームに対してのみa側に接続され、以降の処理が行なわれる。
量子化された信号は、従来例と同様に逆量子化器7により代表値に置き換えられ(代表値設定)、さらに直交逆変換器8により直交変換の逆変換処理を行なう。
このようにして得られた信号は、独立に符号化されているので、前フレームなどと加算されることなく、そのまま予測信号の作成に使われるためにフレームメモリ32に書き込まれる。このとき、切換えスイッチ40がa側に接続され、それまでフレームメモリ32に保持されていた一つ前の独立フレームの信号がフレームメモリ33に入れ換えられる。このような動作により、独立フレームの符号化処理と同時に予測で使われる再生フレーム信号がフレームメモリ32,33に準備される。
この再生フレーム信号は、次の独立フレームの信号が供給されるまで保持され、予測処理のために(N-1)回繰り返して出力される。
予測信号は、この二つの再生フレーム信号に係数掛け算器34,35により重み付け係数αおよび(1-α)が掛けられ、加算器36で加算されることにより得られる。
ここで、重み付け係数は、符号化されるため予測信号減算器2に入力されるフレームと、予測に使われるフレームの時間関係により決められる。最も一般的と考えられる手法は、2次線形予測による方法で、次式により与えられる。
α=(m-mp)/N
ただし、mは符号化対象フレームナンバー(1,2,3,・・・)、mpは過去独立フレームナンバー(0,N,2N,・・・)で、m>mpであり、Nは2以上の整数である。
このようにして作られる予測信号(予測値)の例をN=4の場合について第7図に示す。これにより時間的に近い方のフレームに大きな重み付けがされ、信号がフレーム毎に線形に近い形で変化した場合に、より適切な予測値が与えられる。
上記した第1図および第2図においては、入力画像信号はスイッチ37,38により数フレームおきに独立なフレームが得られ、そこで、符号化されたデータのフレーム間相関が切れる形になる。したがって、その単位でランダムアクセスや、独立フレームのデータのみを復号することによりビジュアルサーチが可能になる。
一方、非独立フレームの信号が(N-1)フレームメモリ31により遅延され、非独立フレームの予測処理を行なう前に、予測に使われる独立フレームの画像信号がフレームメモリ32,33により2フレーム分蓄えられることにより、前後(新旧)のフレームから予測信号が得られる。
また、係数掛け算器34,35で予測されるフレームと独立フレームの時間関係により適切な係数を掛けるため、画像の変化に適合した予測が可能となり、予測信号のS/Nも向上するので、より高い予測効率が得られる。
また、このようにして得られた符号化データは時間軸上で対称の構造となるので、逆転再生も容易に実現できる。
次に、復号器側の処理は、第3図に示した実施例の構成において、まず従来例と同様にデータ入力端子21より入力された可変長ディジタルデータは、可変長符号化器22,逆量子化量23,直交逆変換器24により、独立フレームでは再生画像信号が、非独立フレームでは予測誤差(残差)信号が得られる。独立フレームの信号は予測に使われるので、切換えスイッチ47をa側に接続し、フレームメモリ42に書き込まれる。このとき、切換えスイッチ48,49もa側に接続され、一つ前の独立フレームの信号がフレームメモリ43に入れ換えられ、同時に再生画像出力端子26より出力される。このように、独立フレームの復号処理と同時に予測で使われる再生フレーム信号がフレームメモリ42,43に準備される。
一方、非独立フレームによる再生予測誤差(残差)信号の時は、切換えスイッチ44,45をb側に接続し、予測信号加算器41で符号化器側と同じ予測信号(予測値)を加算して、再生画像出力端子26より出力される。また、係数掛け算器44,45および加算器46による予測信号の形成方法は符号化器側と同じである。
なお、符号化器側より伝送されるデータは、独立フレームのものが先行して送られてくるので、復号器側ではそれを補正するため、独立フレームの再生画像信号は予測処理が終了したときにフレームメモリ42より出力される。すなわち、フレームメモリ42は、時間補正を兼ねている。」
(刊行物1の記載、以上)

以上の記載によると、刊行物1には、
ビデオ信号データの符号化と復号に関する技術について記載されているといえ、
符号化側で複数の参照画像(フレームメモリ32と33)に対して係数(α)(1-α)を掛け算器34、35で掛けている。
係数(α)(1-α)は、「フレームの時間関係により決められる」とされ、具体的には、
α=(m-mp)/N
ただし、
mは符号化対象フレームナンバー(1,2,3,・・・)
mpは過去独立フレームナンバー(0,N,2N,・・・)
m>mp
Nは2以上の整数
で与えられる。
復号側では「係数掛け算器44,45および加算器46による予測信号の形成方法は符号化器側と同じである。」とされる。

このビデオ信号データの符号化と復号に関する刊行物1の技術は、係数(α)(1-α)について、符号化側で α=(m-mp)/Nの計算により求められているということができ、復号側では「符号化器側と同じ」であるから、同じく計算によって求められているといえ、係数(α)(1-α)自体が伝送されないものと理解できる。
そして、第7図を用いて説明されるように、刊行物1のこの係数は、ブロックでは無くフレーム全体に対するものではあるが、本願発明において「係数」が「基づく」とする「距離」が、時間関係を示すT0、T1、T、もしくは、それに代わるものとしてPOC(画像順カウント)を実施例とすると同様に、「時間関係」であって「フレームナンバー」に基づくといえる。そして、この「時間関係」、「フレームナンバー」は、「信号がフレーム毎に線形に変化した場合」を想定しており、当然に、「連続して入力される画像信号の連続フレーム」における「時間関係」、「フレームナンバー」と認められる。「連続して入力される画像信号の連続フレーム」は、それが表示される順で入力されると認められるから、刊行物1の「時間関係」、「フレームナンバー」は表示される順に並べた場合のフレームとフレームとの相対的な位置関係といえ、「距離」といい得るものと認められる。したがって、刊行物1の係数は「画像と第1および第2の参照画像との相対的位置に応答」し、「画像から第1および第2の参照画像までのそれぞれの距離に基づいて、」「計算する」ことで求められているといえる。

この刊行物1の技術が「線形に近い形で変化した時に、より適切な予測値が与えられ」るとともに、係数を計算することで係数の伝送行わずに伝送量を少なくすることができる技術であることは、上記のような符号化・復号の仕組みに関する主要な観点をもつ当業者であれば普通に理解でき、「線形に近い形で変化した時に、より適切な予測値が与えられ」るように、刊行物1の技術を、複数の参照画像指標によって示される第1および第2の参照画像についての参照画像重みづけ係数の割当てを係数の伝送を行わない刊行物2発明の暗黙の両方向予測の重みづけの技術に採用してみようとすることは、当業者であれば容易に想到できることといえる。
そうすると、刊行物2発明で、ブロックについて、重みづけ係数として、場合分けして、係数2、-1もしくは1/2、1/2を用いることに代えて、刊行物1における上記技術を採用することで、刊行物2発明における係数の割当てを、「前記画像ブロックと前記複数の参照画像指標によって示される第1および第2の参照画像との相対的位置に応答する」ものとし、「前記画像ブロックから前記第1および第2の参照画像までのそれぞれの距離に基づいて、」「計算する」ようにし、そのような符号化を行うようにして、本願発明の相違点2に関する構成とすることは、当業者が容易に想到できることといえる。

(3)判断まとめ
以上のとおり、本願発明の相違点1および相違点2に係る構成は、それぞれ、当業者が容易に想到できるものといえるところ、本願発明の効果も予測できるものと認められるから、本件出願の請求項1に係る発明は、刊行物2、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

6 むすび
以上のとおり、本件出願の請求項1に係る発明は、刊行物2、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本件出願は、他の請求項2ないし14を検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-28 
結審通知日 2012-01-10 
審決日 2012-01-23 
出願番号 特願2004-541520(P2004-541520)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 古市 徹石川 亮  
特許庁審判長 奥村 元宏
特許庁審判官 小池 正彦
梅本 達雄
発明の名称 ビデオ・エンコーダにおける参照画像の陰解法による重みづけ  
代理人 吹田 礼子  
代理人 木越 力  
代理人 倉持 誠  
代理人 石井 たかし  

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