• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16D
管理番号 1257974
審判番号 不服2010-19737  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-09-01 
確定日 2012-06-07 
事件の表示 特願2004-286091「等速ジョイント用フレキシブルブーツ」拒絶査定不服審判事件〔平成18年4月13日出願公開、特開2006-97820〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成16年9月30日の出願であって、平成22年5月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年9月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。

II.平成22年9月1日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年9月1日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、補正前の特許請求の範囲の請求項1の、
「【請求項1】
一端に等速ジョイントの軸部材に取り付けられる小径取付部を、他端に等速ジョイントの外輪に取り付けられる大径取付部を備えるとともに、前記両取付部の間に一つ以上の山および谷を備えた蛇腹部が設けられた等速ジョイント用フレキシブルブーツにおいて、
前記大径取付部と前記蛇腹部、および前記小径取付部と前記蛇腹部とを、それぞれ直線部で接続し、それぞれの前記直線部の軸方向距離は、前記蛇腹部が前記両取付部間で軸方向のほぼ中央に位置するように、前記大径取付部とそれに隣接する前記直線部との境界から前記小径取付部とそれに隣接する前記直線部との境界までの全体軸方向距離の20%以上であり、前記蛇腹部の軸方向距離は前記全体軸方向距離の20%?60%であることを特徴とするフレキシブルブーツ。」から、
補正後の特許請求の範囲の請求項1の、
「【請求項1】
一端に等速ジョイントの軸部材に取り付けられる小径取付部を、他端に等速ジョイントの外輪に取り付けられる大径取付部を備えるとともに、前記両取付部の間に一つ以上の山および谷を備えた蛇腹部が設けられた等速ジョイント用フレキシブルブーツにおいて、
前記大径取付部と前記蛇腹部、および前記小径取付部と前記蛇腹部とを、それぞれ直線部で接続し、それぞれの前記直線部の軸方向距離は、前記蛇腹部が前記両取付部間で軸方向のほぼ中央に位置するように、前記大径取付部とそれに隣接する前記直線部との境界から前記小径取付部とそれに隣接する前記直線部との境界までの全体軸方向距離の20%以上であり、前記蛇腹部の軸方向距離は前記全体軸方向距離の20%?60%であって、前記蛇腹部の山および谷がそれぞれ三つ以下であり、前記フレキシブルブーツが自動車のリアアクスルに使用される等速ジョイント用であることを特徴とするフレキシブルブーツ。」と補正された。なお、下線は対比の便のため当審において付したものである。
上記補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「蛇腹部」に関し、「前記蛇腹部の山および谷がそれぞれ三つ以下であり」と、同じく「等速ジョイント用フレキシブルブーツ」に関し、「前記フレキシブルブーツが自動車のリアアクスルに使用される等速ジョイント用である」として、それぞれの構成を限定的に減縮するものである。
これに関して、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「当初明細書等」という。)には、「本願では、上記フレキシブルブーツにおいて蛇腹部の山および谷の数をそれぞれ三つ以下としてもよい。」(段落【0010】参照)、及び「本願のフレキシブルブーツは、自動車のリアアクスルに使用される等速ジョイント用として適用することができ」(段落【0012】参照)と記載されている。
結局、この補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当し、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項追加禁止の規定に違反するものではない。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

1.原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物及びその記載事項
(1)刊行物1:特開平5-149446号公報
(2)刊行物2:米国特許第5295914号明細書(発行日:1994年3月22日)
(3)刊行物3:米国特許第5027665号明細書(発行日:1991年7月2日)
(4)刊行物4:仏国特許出願公開第2686671号明細書(発行日:1993年7月30日)

(刊行物1)
刊行物1には、「ブーツ」に関して、図面(図1?3を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(a)「本発明は、自動車の等速ジョイントを覆うブーツに関するものである。」(第2頁第1欄第13及び14行、段落【0001】参照)
(b)「本発明に係るブーツによれば、引張弾性率が100?1000Kg/cm^(2)の比較的強度が大である弾性材料で構成されているので、使用環境の温度が80?100℃と高温下であり、回転数が毎分2000回転と高速回転状態であっても、全体として過度の膨張変形が生ぜず、しかも、良好な屈曲性および伸縮性が得られる。」(第2頁第2欄第1?7行、段落【0007】参照)
(c)「図面には自動車の等速ジョイント用ブーツが例示されている。図1および図3において、1はブーツであり、ブーツ1は、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリアミド系、ポリオレフィン系などの熱可塑性合成樹脂エラストマーの単体またはブレンド体を、ブロー成形、射出成形あるいは射出ブロー成形により単層あるいは多層状に成形したものである。ブーツ1は、蛇腹部2の一端に筒状の大径固着部3を、かつ他端に筒状の小径固着部4を一体に形成してなるものである。上記ブーツ1の蛇腹部2は、山部5と谷部6を交互に形成したものであり、蛇腹部2は大径固着部3側から小径固着部4側に順次山径が縮小する形状をなし、その山部5は7山、谷部6は6谷である。蛇腹部2の谷部6の一部には、環状溝7が形成されている。ブーツ1を構成する熱可塑性合成樹脂エラストマーは、引張弾性率が100?1000Kg/cm^(2)の比較的強度が大である弾性材料である。なお、蛇腹部2の山部5は、3山ないし8山であることが必要であり、前輪駆動(FF)タイプのインナーブーツとしては、3山?6山が好適であり、アウターブーツとしては6山?8山が好適である。後輪駆動(FR)タイプのブーツとしては、4山?8山が好適である。
【0009】
図1に示すように、8は等速ジョイントであり、9はその外輪、10は軸である。ブーツ1は外輪9と軸10との間を覆うものであり、ブーツ1の大径固着部3は外輪9に、小径固着部4は軸10に密に固着される。11は大径固着部3の締具、12は小径固着部4の締具である。」(第2頁第2欄第28行?第3頁第3欄第5行、段落【0008】及び【0009】参照)
刊行物1には、「蛇腹部2の山部5は、3山ないし8山であることが必要であり」(上記摘記事項(c)参照)と記載され、「蛇腹部2の山部5」が「3山」である態様が包含されていることから、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
【引用発明】
一端に等速ジョイント8の軸10に取り付けられる小径固着部4を、他端に等速ジョイント8の外輪9に取り付けられる大径固着部3を備えるとともに、前記両固着部3,4の間に一つ以上の山部5および谷部6を備えた蛇腹部2が設けられた等速ジョイント用ブーツ1において、
前記蛇腹部2の山部5が3山であり、前記ブーツが自動車のリアアクスルに使用される等速ジョイント用ブーツ1。

(刊行物2)
刊行物2には、「熱可塑性樹脂エラストマーシールブーツ」に関して、図面(特に、FIG.4?6を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。なお、翻訳は当審における仮訳である。
(d)「この発明は、一般に自在軸継手用エラストマータイプシールブーツ、特にストロークする等速自在軸継手用熱可塑性樹脂エラストマーから作られる熱可塑性樹脂エラストマータイプシールブーツに関する。」(第1欄第5?9行)
(e)「図4は、この発明の別の実施例に従った、プラスチックタイプシールブーツを有するストローク等速自在軸継手の長手方向の部分的な断面図である。自在軸継手はストローク0、角度0で示され、つまり、内部および外部の駆動部材が互いに内側の長手方向の位置に配置され、同心円状に整列された長手方向の個別の軸を有している。
図5は、図4と類似しているが、最大圧縮および最大角度の自在軸継手を示している。
図6は、図4と類似しているが、最大伸張および最大角度の自在軸継手を示している。」(第2欄第22?33行)
(f)「シールブーツ120は、一端に大直径スカート122を、他端に小直径リング124を有する。内部駆動部材112および駆動ローラー116を内蔵し、プラスチックタイプシールブーツ120を外部継手部材114に確実に取り付けているメタルクランプリング128によってクランプされている外部駆動部材114の開放端126に、スカート122が取り付けられている。
プラスチックシールブーツ120の反対端の小直径リング124は、一端に内部駆動部材112に接続されている駆動軸130に取り付けられ、プラスチックシールブーツ120を駆動軸130に確実に取り付けているメタルクランプリング131によってクランプされている。
プラスチックシールブーツ120は一般に、複数個のシリーズ配設される、類似サイズで実質的に均一な厚さの波形部132a、132bを備える円筒形ベローズ状の端部分132を有する。波形部132a、132bは従来の波形部よりも比較的浅く、従来の波形部の先端と溝が鋭いことに対して丸く、または放射状である。このため、ベローズ状端部132の軸方向断面は、従来のベローズ状シールブーツの深くV字型で蛇腹式の外観と異なり、波状または曲がりくねった形態である。
曲がりくねった端部132は、隣接する波形部132bの1つの根元から延長している円錐壁134によって大直径スカート122に一体化して連結され、スカート122の直径よりもはるかに小さい、シリーズ配設された波形部132a、132bの最大頂点によって決定される最大直径を有する。一例として、最大圧縮、最大拡張のそれぞれで15°、18°の最大角度になる41mmのストロークの大自在軸継手に対するこの発明の実行可能な実施例では、曲がりくねった終端部は、全長が120mm(スカート122とリング124の間)で直径が116mmの取り付けスカート122を備える、波形部32bで88mmの最大直径のプラスチックブーツを有する。
プラスチックシールブーツ128はさらに、ベローズ状端部分132の一部を形成する隣接波形部132aの連続した1つの根元である、大根元の直径の136aを有する中間双円錐部136を含む。また、双円錐部136の最大直径は、スカート122の直径よりも実質的に小さい。例えば、この発明の2番目の実行可能な実施例は、長さが120mmで大端部の直径が116mmのプラスチックシールブーツに対して、最大直径が83mmの双円錐部を有する。
さらに、双円錐部136の根元間の長さは、ベローズ状部132の波形部132a、132bそれぞれの根元間の長さよりも実質的に大きい。実際に、双円錐部136の長さは、ベローズ状部132の全長よりも大きい。
一例として、この発明の前述の実行可能な実施例を参照すると、全長が30mmのベローズ状部の波形部132a、132bの各長さが14mm、16mmであるのに対して、最大直径が83mmで長さが40mmの双円錐部を有する。
プラスチックシールブーツ120は、さらに、双円錐部136と、小直径のブーツ端にある取り付けリング124を相互連結する単一波形部138を備える。単一波形部138の最大直径は、実質的にスカート122の直径よりも小さく、実際に双円錐部36の各波形部132a、132bの直径よりも小さい。また、単一波形部138の根元間の長さは、ベローズ状部132の各波形部132a、132bの長さよりも大きいが、双円錐部136の長さよりも小さい。例えば、この発明の2番目の実行可能な実施例は、最大直径が60mmで長さが17mmの小直径端に単一波形部138を備える。
前述のように構成されたプラスチックシールブーツ120は、ストロークの各端で特定の最大ストロークと最大角度になるストローキングタイプ一定速度自在軸継手のために、ほとんど最小限の内部容積、または少なくとも実質的に縮小された内部容積を有する。これは、この発明の2番目の実施例の具体的な例では、ストロークが41mmで、最大圧縮、最大拡張のそれぞれに対する最大角度が15°、18°である。また、前述のように構成されたプラスチックシールブーツ120は、次の好ましい特性を有する。プラスチックシールブーツ120は、自身または駆動軸130に、図5に示される最大圧力と最大角度および図6に示される最大拡張と最大角度の極端な条件で顕著な摩耗を生じるような任意の著しい程度で接触しない。
この発明は図示された態様で記載され、使用された用語は限定することよりもむしろ記載の単語の性質を意図されていることを理解すべきである。
明らかにこの発明の多くの変更および変形が上述の技術の観点から可能である。したがって、添付の特許請求の範囲内で、本発明は、特別に記載された以外の形態で実施されてもよい。」(第4欄第46行?第6欄第19行)

(刊行物3)
刊行物3には、「継手用の保護カバー」に関して、図面(特に、Fig.9及び10を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。なお、翻訳は当審における仮訳である。
(g)「この発明は、自動車専用ではないが、特に継手用の保護カバーに関する。
フレキシブルなゴムカバーは自動車で使用されて、ごみや湿気の浸入および潤滑油の流出を防止するために、等速継手、およびステアリングラックとトラックロッドとの間に構成される継手を保護する。」(第1欄第8?14行)
(h)「図9(同じ数字が図7の対応する部分に使用される)に示されるように、中央位置113でS字曲げを使用することの代替手段として、回旋が十分にフレキシブルで拡張性が高い場合は回旋を使用できる。さらに、段状部103の代わりに、波状外形の円周溝114を使用できる。
図10に示されるように、直線側の部分円錐型101,102が十分にフレキシブルで図のようにクランプするとサークリップや使用される結合115,116により継手部材にシーリング係合できる場合、この部分円錐型101、102を使用することができる。
この発明が例示のみの方法で示される上述の実施例の詳細に限定されることを意図するものではないことを当然理解すべきである。」(第5欄第55行?第6欄第2行)

(刊行物4)
刊行物4には、「ジョイント保護のための蛇腹付き筒型カバー」に関して、図面(特に、FIG.1を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。なお、翻訳は当審における仮訳である。
(i)「本発明は、とりわけ回転シャフトのユニバーサルジョイントなど2つのジョイント要素間のジョイント保護のための蛇腹付き筒型カバー(中略)に関する。」(第1頁第4?19行)
(j)「この種のカバーとしては、ジョイントの潤滑油が失われないよう、またジョイントが汚れや湿気を受けないように、ドライブシャフトの等速ジョイントやステアリングシステムのジョイントを保護する目的で、自動車においてとりわけゴム製のものが使用されているが、これに限定されるものではない。」(第1頁第21?25行)
(k)「図1は、製造される形のカバーの軸方向断面を表わし、このカバーは、これが保護すべきジョイント要素の各直径に適合させるために、この全体または短縮された形状で使用することができる。カバーはエラストマー材料製の筒型ボディ1により形成され、必要に応じ繊維要素により補強される。このボディの片側は、ジョイントの側面側からこれを係合するためボディを開くことを可能とする縦方向スリット2により分割される。このスリットは次いで後に説明するとおり再び閉じられる。カバーは全体として円錐形で、その長さ方向に3つの異なる部分を含む。これらの部分とはすなわち、保護すべき第一のジョイント要素に固定される第一の端部ゾーン3と、蛇腹を形成するひだまたは起伏5により軸方向に変形可能な中央ゾーン4と、第二のジョイント要素に固定される、第一の要素よりも直径の小さい第二の端部ゾーン6である。全体として、ユニバーサルジョイントまたはスライドジョイントの各要素間のこのような直径の差は、カバーの軸方向移動によりジョイントを容易に露出させることができるよう設けられる。
第一の端部ゾーン3は、環状切り込み部8を介して隔てられた5つの接続部環状断面7a?7eからなり、この環状切り込み部により、使用者は第一のジョイント要素にカバーを固定するために使用を望む、接続部ゾーンをはみ出すカバーを容易にカットすることができる。各環状断面7a?7eは、環状断面周囲のカラーの締め付けによりジョイント要素の外周面に押し付けられる内側環状表面9a?9eを呈する。内側表面9a?9eには、滑りを抑えるため筋が刻まれる。これら内側表面は円錐形で、この形状が、各表面に対しジョイント要素の有する一定範囲の直径に対する正確な押さえを保証する。これら表面は、図面に示すとおり、互いに共通の円錐に沿って並べられるか、またはジョイント要素のほぼ連続する一連の直径に適合するため、環状表面9a?9eのうち1つの縁部の直径が、すぐ横の環状表面の隣接する縁部の直径にほぼ等しくなるよう、このゾーンにおけるカバーの全体的な形状をなす円錐形よりも若干強調された円錐形を有する。
カバーの第二の端部ゾーン6は同様の外観を呈し、この例においては、環状切り込み部8を介して隔てられるとともに、同じく円錐形の内側環状表面9f?9iを呈する4つの接続部環状断面7f?7iからなり、その直径はカバー端部10に向かって小さくなっていく。」(第3頁第27行?第4頁第35行)
(l)「スリット2の第一の縁部20が台形断面を有する突条21を備える一方で、もう一方の縁部22は突条21の断面に合致しているがわずかにこれより深い台形断面を有する溝23を含む。」(第5頁第20?23行)
(m)「本発明は以上説明した実施例に限定されるものではなく、この分野の専門家にとって明らかなあらゆる変更またはバリエーションに拡大される。」(第6頁第2?4行)

2.対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、引用発明の「等速ジョイント8」は本願補正発明の「等速ジョイント」に相当し、以下同様にして、「軸10」は「軸部材」に、「小径固着部4」は「小径取付部」に、「外輪9」は「外輪」に、「大径固着部3」は「大径取付部」に、「固着部3,4」は「取付部」に、「山部5」は「山」に、「谷部6」は「谷」に、「蛇腹部2」は「蛇腹部」に、「等速ジョイント用ブーツ1」は「等速ジョイント用フレキシブルブーツ」に、「ブーツ」は「フレキシブルブーツ」に、それぞれ相当するとともに、引用発明の「3山」は、本願補正発明の「山」が「三つ以下」に下位概念として包含されるので、両者は、下記の一致点、及び相違点を有する。
<一致点>
一端に等速ジョイントの軸部材に取り付けられる小径取付部を、他端に等速ジョイントの外輪に取り付けられる大径取付部を備えるとともに、前記両取付部の間に一つ以上の山および谷を備えた蛇腹部が設けられた等速ジョイント用フレキシブルブーツにおいて、前記蛇腹部の山が三つ以下であり、前記フレキシブルブーツが自動車のリアアクスルに使用される等速ジョイント用フレキシブルブーツ。
(相違点)
本願補正発明は、「前記大径取付部と前記蛇腹部、および前記小径取付部と前記蛇腹部とを、それぞれ直線部で接続し、それぞれの前記直線部の軸方向距離は、前記蛇腹部が前記両取付部間で軸方向のほぼ中央に位置するように、前記大径取付部とそれに隣接する前記直線部との境界から前記小径取付部とそれに隣接する前記直線部との境界までの全体軸方向距離の20%以上であり、前記蛇腹部の軸方向距離は前記全体軸方向距離の20%?60%であって、前記蛇腹部の」「谷が」「三つ以下であ」るのに対し、引用発明は、そのような構成を具備していない点。
以下、上記相違点について検討する。
(相違点について)
引用発明及び刊行物2に記載された技術的事項は、ともに等速ジョイント用フレキシブルブーツに関する技術分野に属するものであって、刊行物2には、「この発明は、一般に自在軸継手用エラストマータイプシールブーツ、特にストロークする等速自在軸継手用熱可塑性樹脂エラストマーから作られる熱可塑性樹脂エラストマータイプシールブーツに関する。」(上記摘記事項(d)参照)、「この発明の2番目の実施例の具体的な例では、ストロークが41mmで、最大圧縮、最大拡張のそれぞれに対する最大角度が15°、18°である。」(上記摘記事項(f)参照)と記載され、FIG.4には、円錐壁134及び双円錐部136からなる直線部の間に山及び谷がそれぞれ三つ以下の蛇腹部(波形部132a、132b等)を位置させることが記載されている。
引用発明及び刊行物3に記載された技術的事項は、ともに等速ジョイント用フレキシブルブーツに関する技術分野に属するものであって、刊行物3には、「この発明は、自動車専用ではないが、特に継手用の保護カバーに関する。フレキシブルなゴムカバーは自動車で使用されて、ごみや湿気の浸入および潤滑油の流出を防止するために、等速継手、およびステアリングラックとトラックロッドとの間に構成される継手を保護する。」(上記摘記事項(g)参照)と記載されるとともに、Fig.9及び10には、結合部115(大径取付部)と蛇腹部、及び結合部116(小径取付部)と蛇腹部とをそれぞれ直線部で接続することが記載されている。
引用発明及び刊行物4に記載された技術的事項は、ともに等速ジョイント用フレキシブルブーツに関する技術分野に属するものであって、刊行物4には、「この種のカバーとしては、ジョイントの潤滑油が失われないよう、またジョイントが汚れや湿気を受けないように、ドライブシャフトの等速ジョイントやステアリングシステムのジョイントを保護する目的で、自動車においてとりわけゴム製のものが使用されているが、これに限定されるものではない。」(上記摘記事項(j)参照)と記載されるとともに、FIG.1には、第1の端部ゾーン3(大径取付部)と中央ゾーン4(蛇腹部)、及び第2の端部ゾーン6(小径取付部)と中央ゾーン4(蛇腹部)とをそれぞれ直線部で接続することが記載されている。
一方、刊行物1には、「山部5は7山、谷部6は6谷である」(第2頁第2欄第39及び40行、段落【0008】、上記摘記事項(c)参照)と記載され、図1及び3には、蛇腹部2の山部5が7山、谷部6は6谷のものが図示されているが、等速ジョイント用フレキシブルブーツにおける蛇腹部は、作動角に対応するためのものであり、最大作動角が小さくなれば(例えば、15度程度)、蛇腹部の山と谷の数が少なくて済むことは、技術的に自明の事項である。
また、等速ジョイント用フレキシブルブーツにおいて、直線部及び蛇腹部の軸方向距離が、全体軸方向距離に占める比率の数値範囲は、フレキシブルブーツが良好な作動をするように、当業者が適宜採用し得る設計変更の範囲内の事項(例えば、刊行物3のFig.9及び10、及び刊行物4のFIG.1に図示されたフレキシブルブーツの直線部及び蛇腹部の軸方向距離の全体軸方向距離に占める比率は、「大径取付部とそれに隣接する直線部との境界から小径取付部とそれに隣接する直線部との境界までの全体軸方向距離の20%以上であり、蛇腹部の軸方向距離は全体軸方向距離の20%?60%」となっていることが図示されている。)にすぎない。
さらに、引用発明の蛇腹部の山部は3つであるので、蛇腹部の谷部も3つあるいは3つ前後となるのであるから、谷部を3つ以下とすることは、当業者が適宜なし得る設計変更の範囲内の事項にすぎない。
してみれば、引用発明の自動車のリアアクスルに使用される等速ジョイント用ブーツ1において、刊行物2?4に記載又は示唆された構成を採用して、大径固着部3と蛇腹部2、および小径固着部4と蛇腹部2とを、それぞれ直線部で接続し、それぞれの直線部の軸方向距離は、蛇腹部2が両固着部3,4間で軸方向のほぼ中央に位置するように、大径固着部3とそれに隣接する直線部との境界から小径固着部4とそれに隣接する直線部との境界までの全体軸方向距離の20%以上であり、蛇腹部2の軸方向距離は全体軸方向距離の20%?60%であって、蛇腹部の谷を三つ以下とすることにより、上記相違点に係る本願補正発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。

なお、審判請求人は、審判請求書の請求の理由において、「本願発明(注:本審決の「本願補正発明」に対応する。)のフレキシブルブーツはコンパクト化され、高速振れ回り性の向上が図れるものであります。すなわち、蛇腹部と両取付部とをそれぞれ直線部で接続することにより、その部分に従来設けられていた蛇腹部分をなくして蛇腹の総数を減らすことができ、また直線部とすることで蛇腹部分がなくなるため径寸法が小さくなりコンパクト化できるという作用効果を奏するものであります。
特に大径取付部に連なる部分を直線部とすることにより大径の山がなくなるためコンパクト化に著しい効果が得られ、さらに直線部を設けたことでフレキシブルブーツ内のグリースが高速回転時にジョイント側に移動して高速振れ回り性を向上できるという効果を奏するものであります。」(「【本願発明が特許されるべき理由】」「1.本願発明の説明」の項参照)」などと本願補正発明が奏する作用効果について主張している。
しかしながら、等速ジョイント用フレキシブルブーツにおいて、軽量化、コンパクト化、低コスト化は、当業者が通常考慮すべき技術事項にすぎないし、また、刊行物1の「本発明に係るブーツによれば、引張弾性率が100?1000Kg/cm^(2)の比較的強度が大である弾性材料で構成されているので、使用環境の温度が80?100℃と高温下であり、回転数が毎分2000回転と高速回転状態であっても、全体として過度の膨張変形が生ぜず、しかも、良好な屈曲性および伸縮性が得られる。」(第2頁第2欄第1?7行、段落【0007】、上記摘記事項(b)参照)の記載から、刊行物1には、耐久性、高速振れ回り性、屈曲性、伸縮性等についても記載又は示唆されている。そして、上記(相違点について)において述べたように、引用発明に、刊行物2?4に記載又は示唆された技術的事項を適用することは当業者が容易に想到し得たものであるところ、本願補正発明の構成を備えることによって、本願補正発明が、従前知られていた構成が奏する効果を併せたものとは異なる、相乗的で、当業者が予測できる範囲を超えた効果を奏するものとは認められないので、審判請求人の主張は採用することができない。

なお、審判請求人は、当審の審尋に対する平成23年2月15日付けの回答書において、当初明細書等の段落【0015】及び図1の記載を根拠として、「・・・前記大径取付部と前記蛇腹部とを、直線状断面の傾斜した円筒部分で構成されかつ前記大径取付部から前記蛇腹部まで連続的かつなだらかに続く直線部で接続し、前記小径取付部と前記蛇腹部とを、直線状断面の傾斜した円筒部分で構成されかつ前記蛇腹部から前記小径取付部まで連続的かつなだらかに続く直線部で接続し、・・・」(以下、「補正事項」という。)などとする補正案を提示しているので、念のため検討をすると、上記補正事項に関しては、刊行物3のFig.9から、直線状断面の傾斜した円筒部分で構成されかつそれぞれの取付部から蛇腹部まで連続的かつなだらかに続く部分円錐型101及び102からなる直線部の構成及び両取付部のほぼ中央に蛇腹部が配置されている構成が看取でき、刊行物4のFIG.1から、直線状断面の傾斜した円筒部分で構成されかつそれぞれの取付部から蛇腹部まで連続的かつなだらかに続く第1の端部ゾーン3及び第2の端部ゾーン6からなる直線部の構成及び両取付部のほぼ中央に蛇腹部が配置されている構成が看取できることから、上記補正案は受け入れることが出来ない。

本願補正発明が奏する効果についてみても、引用発明、刊行物2?4に記載された発明が奏するそれぞれの効果の総和以上の格別顕著な作用効果を奏するものとは認められない。
以上のとおり、本願補正発明は、刊行物1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
平成22年9月1日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?5に係る発明は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。
「一端に等速ジョイントの軸部材に取り付けられる小径取付部を、他端に等速ジョイントの外輪に取り付けられる大径取付部を備えるとともに、前記両取付部の間に一つ以上の山および谷を備えた蛇腹部が設けられた等速ジョイント用フレキシブルブーツにおいて、
前記大径取付部と前記蛇腹部、および前記小径取付部と前記蛇腹部とを、それぞれ直線部で接続し、それぞれの前記直線部の軸方向距離は、前記蛇腹部が前記両取付部間で軸方向のほぼ中央に位置するように、前記大径取付部とそれに隣接する前記直線部との境界から前記小径取付部とそれに隣接する前記直線部との境界までの全体軸方向距離の20%以上であり、前記蛇腹部の軸方向距離は前記全体軸方向距離の20%?60%であることを特徴とするフレキシブルブーツ。」

1.刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物及びその記載事項は、上記「II.1.」に記載したとおりである。

2.対比・判断
本願発明は、上記「II.」で検討した本願補正発明の「蛇腹部」に関する限定事項である「前記蛇腹部の山および谷がそれぞれ三つ以下であり」という構成を省くとともに、「等速ジョイント用フレキシブルブーツ」に関する限定事項である「前記フレキシブルブーツが自動車のリアアクスルに使用される等速ジョイント用である」という構成を省くことにより拡張するものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに構成を限定したものに相当する本願補正発明が、上記「II.2.」に記載したとおり、刊行物1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明は、実質的に同様の理由により、刊行物1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
結局、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2?5に係る発明について検討をするまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-27 
結審通知日 2012-03-30 
審決日 2012-04-18 
出願番号 特願2004-286091(P2004-286091)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16D)
P 1 8・ 575- Z (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増岡 亘  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 倉田 和博
常盤 務
発明の名称 等速ジョイント用フレキシブルブーツ  
代理人 浅村 肇  
代理人 森 徹  
代理人 吉田 裕  
代理人 浅村 皓  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ