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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01J
管理番号 1257987
審判番号 不服2010-29570  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-12-28 
確定日 2012-06-07 
事件の表示 特願2000-259241「排ガス浄化用触媒」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 3月 5日出願公開、特開2002- 66325〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯

本願は、平成12年8月29日の出願であって、平成21年11月2日付けで拒絶理由が通知され、同年12月24日に意見書及び明細書の記載に係る手続補正書が提出され、平成22年3月23日付けで拒絶理由が通知され、同年5月20日に意見書及び明細書の記載に係る手続補正書が提出され、同年10月8日付けで同年5月20日付けの手続補正書でした明細書についての補正の却下と拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月28日に拒絶査定不服審判の請求及び明細書の記載に係る手続補正書が提出され、平成23年1月31日付けで拒絶理由が通知され、同年3月15日に意見書及び明細書の記載に係る手続補正書が提出され、その後、同年11月28日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が通知され、これに対する回答書が提出されなかったものである。


第2.平成23年3月15日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成23年3月15日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1.補正後の本願発明

平成23年3月15日付けの手続補正(以下、必要に応じて「本件補正4」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
軸方向に排ガスが通過する管状通路を有する触媒担体基材と、
該触媒担体基材の表面に形成され、ゼオライトと、耐火性無機酸化物と、該耐火性無機酸化物の表面に担持された第一触媒金属と、を有するコート層と、
該コート層の該排ガスの上流側の端部である前段部に担持された第二触媒金属と、
からなり、
該コート層が、該コート層を構成する物質のスラリーを調製し、該触媒担体基材に均一にコートし、乾燥,焼成してなり、
該前段部が、該排ガス浄化用触媒の該軸方向の長さで端部から12?40mmの長さで形成されることを特徴とする排ガス浄化用触媒。」
に補正された。
この補正は、本件補正4前の平成22月12月28日付けの手続補正書により補正された本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明特定事項の「前段部」について、「該前段部が、該排ガス浄化用触媒の該軸方向の長さで端部から12?40mmの長さで形成される」ると限定したものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正4後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正4発明」という。)について、特許出願の際独立して特許を受けることができるものか、以下に検討する。

2.刊行物に記載された事項

ア.特許法第162条の規定による審査(以下、「前置審査」という。)における拒絶理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平11-104462号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(ア)「モノリス担体上に、炭化水素吸着能を有する吸着材からなる吸着層を被覆担持し、更に当該吸着層上に、排ガス中の有害成分の浄化能を有する触媒材からなる触媒層を被覆担持してなる排ガス浄化用の触媒-吸着体であって、前記触媒層の膜厚が10?120μmであることを特徴とする排ガス浄化用触媒-吸着体。」(特許請求の範囲、請求項1)
(イ)「前記吸着材が、ゼオライトを主成分とする請求項1記載の排ガス浄化用触媒-吸着体。」(特許請求の範囲、請求項3)
(ウ)「前記触媒材が、Pt、Pd及びRhのうちのいずれか1種あるいは複数種の貴金属と、当該貴金属を分散担持する耐熱性無機酸化物とからなる請求項1記載の排ガス浄化用触媒-吸着体。」(特許請求の範囲、請求項9)
(エ)「本発明は、排ガス中の有害物質、特にコールドスタート時に多量に発生する炭化水素を効果的に浄化できる排ガス浄化用触媒-吸着体とそれを用いた排ガス浄化方法に関する。」(段落【0001】)
(オ)「コールドスタート時におけるHCの放出を抑制するための手段の1つとして、同一のモノリス担体上に、ゼオライト等のHC吸着能を有する吸着材と、排ガス中の有害成分の浄化能を有する触媒材とを被覆担持させた触媒-吸着体と称されるものが開発されている。
これは、触媒材が昇温されるまでの間、同一モノリス担体上に近接して配置された吸着材によって排ガス中のHCを一時的に吸着しておき、暖機とともに吸着材から脱離してきたHCを、暖機とともに昇温し活性化した触媒材により浄化することを目的としたものである。」(段落【0003】?【0004】」)
(カ)「本発明の吸着-触媒体に用いるモノリス担体は、一般にハニカム構造体といわれ、実質的に均一な隔壁(リブ)で囲まれた貫通孔(セル)を有する構造体を意味する。」(段落【0018】)
(キ)「本発明の触媒-吸着体を用いた排ガス浄化方法について説明する。本発明の触媒-吸着体を内燃機関の排気管内に配置して、排ガス浄化を行う場合には、内燃機関のコールドスタート時のある一定期間、当該触媒-吸着体の前方(排ガス流れ方向上流側)より排ガス中に酸化性ガス(例えば二次空気)を導入したり、燃焼用空気量と燃料量とを排ガス中の酸素量が増加する方向へ調節したりすると、触媒の燃焼反応が促進されて、触媒層をより早期に着火させることができる。」(段落【0034】)
(ク)「本発明の触媒-吸着体は、単独で用いてもよいし、他の触媒体、吸着体及び/又は触媒-吸着体と組み合わせて用いてもよい。特に、脱離HCの浄化を一層確実なものとするためには、本発明の触媒-吸着体の後方(排ガス流れ方向下流側)に触媒体を配置するのが好ましい。また、この場合、触媒-吸着体には、排ガス流れ方向に沿ってモノリス担体の貫通孔(セル)の径よりも大きな径を有する吹き抜け孔を設けるようにしてもよい。このような吹き抜け孔を設けて、排ガスの一部を吹き抜けさせることにより、触媒-吸着体の後方に配置した触媒体の昇温を促進でき、触媒体による脱離HCの浄化効率が向上する。」(段落【0036】)
(ケ)「[触媒-吸着体の作製]:市販のγ-Al_(2)O_(3)(BET比表面積200m^(2)/g)に硝酸セリウム水溶液をCeO_(2)換算で6重量%となるように含浸担持し、600℃で3時間仮焼して、Al_(2)O_(3)・CeO_(2)複合酸化物を得た。得られたAl_(2)O_(3)・CeO_(2)複合酸化物を湿式法にて解砕し、これにCeO_(2)粉末をγ-Al_(2)O_(3)に対し20重量%添加し、更に硝酸パラジウム水溶液と酢酸を添加して、ボールミルで15時間解砕した。このようにして得られたスラリーを100℃で15時間乾燥し、更に550℃で3時間焼成して、Pd担持Al_(2)O_(3)・CeO_(2)粉を得、これを触媒材とした。また、吸着材には、市販のゼオライト粉末(H型ZSM-5、Si/Al=120)を用いた。
前記Pd担持Al_(2)O_(3)・CeO_(2)粉とゼオライト粉末とに、それぞれ水と酢酸とを適量加え、更にゼオライト粉末にはアルミナ固形分2.5重量%のアルミナゾルを添加し、ボールミルで15時間解砕して、触媒層担持用スラリーと吸着層担持用スラリーとを調製した。
モノリス担体(日本ガイシ(株)製のコーディエライトハニカム、外径1インチ、長さ2インチ、隔壁厚12mil、セル密度300cpi^(2))を、まず吸着層担持用スラリー中にディップして、モノリス担体単位体積当たりの担持量が0.15g/ccとなるように被覆し、100℃で1時間乾燥後、550℃で1時間焼成して吸着層を形成した。
続いて、これを触媒層担持用スラリー中にディップして、表1に示すような触媒層膜厚となるように各々被覆し、再び前記と同様の乾燥工程及び焼成工程を経て、前記吸着層上に様々な膜厚の触媒層が形成されたNo.1?6の触媒-吸着体サンプルを得た。なお、前記Pd担持Al_(2)O_(3)・CeO_(2)粉の調製時に硝酸パラジウム水溶液の添加量を変えることにより、完成した各サンプルのモノリス担体単位体積当たりのPd担持量が、触媒層の膜厚に関わらず全て100g/ft^(3)(3.53×10^(-3)g/cc)となるようにした。」(段落【0038】?【0041】)

イ.同じく、前置審査における拒絶理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平5-154382号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(ア)「触媒担体に所定量のロジウムを含む触媒コート層が形成されてなるエンジンの排気ガス浄化用触媒であって、上記ロジウムは上記触媒コート層における上流側の端部に他の部分よりも高濃度に分布されていることを特徴とするエンジンの排気ガス浄化用触媒。」(特許請求の範囲、請求項1)
(イ)「図1に示されるように本発明のエンジンの排気ガス浄化用触媒1は、その軸線方向に貫通する多数の細孔2が設けられるハニカム状の触媒担体にロジウムを含む触媒コート層が形成されてなるものであり、排気ガスGが流入する上流側の端部3にロジウムの濃度が他の部分よりも高いロジウム高濃度分布部4が形成されたものとなっている。
この排気ガス浄化用触媒1は、例えばその軸線方向の長さLが2インチ(50.8mm)、直径Dが1インチ(25.4mm)とされており、上流側の端面から下流側に形成されるロジウム高濃度分布部4の上記軸線方向の長さL1 は後述するように2?10mmの範囲に設定される。」(段落【0020】?【0021】)
(ウ)「ロジウム高濃度分布部の形成
エンジンの排気ガス浄化用触媒に含まれる所定量のロジウムを上流側の端部に他の部分よりも高濃度に分布させるように配分して、第1コート層形成工程の硝酸ロジウムの濃度との関連で設定される下記所定量の硝酸ロジウム溶液を上記上流側の端部に含浸させる。しかる後250℃で2時間乾燥後650℃で2時間焼成して本発明のエンジンの排気ガス浄化用触媒1を得る。」(段落【0026】)
(エ)「ロジウム高濃度分布部4のロジウム分布濃度が他の部分よりも0.05g/1000ml高い排気ガス浄化触媒1について排気ガス中のNOxとHCとの浄化率を測定した。測定は本実施例の排気ガス浄化用触媒1を実車模擬テスト装置に装着し、理論空燃比のときに発生するものと同様の組成の排気ガスを空間速度SV60000h^(-1)で流すと共に上記流入排気ガスの温度を200?500℃の範囲で変化させることにより行い、各温度におけるNOxの浄化率を図4に、HCの浄化率を図5に示した。」(段落【0037】)
(オ)「図5に示される結果によれば本発明の実施例は従来例のものに比べてHCに対する触媒機能の立上りが低温側にシフトしている。
図4及び図5に示されるNOx及びHCの浄化率に示される本実施例の排気ガス浄化用触媒1は従来例のものに比べて低温での活性が優れており、このような特性は自動車の走行にしたがって理論又はリーン側の空燃比が得られるようになった状態のときはもとより、コールドスタート時のように空燃比がリッチ側のときにも変ることはなく上記の優れた低温活性が得られる。」(段落【0039】?【0040】)

3.対比、判断

(1)刊行物1に記載された発明
ア. 刊行物1の記載事項(ア)には、「モノリス担体上に、炭化水素吸着能を有する吸着材からなる吸着層を被覆担持し、更に当該吸着層上に、排ガス中の有害成分の浄化能を有する触媒材からなる触媒層を被覆担持してなる排ガス浄化用の触媒-吸着体・・・」が記載されている。
この記載を「排ガス浄化用の触媒-吸着体」の構造に注目して整理すると、「モノリス担体と、モノリス担体上に被覆担持された炭化水素吸着能を有する吸着材からなる吸着層と、当該吸着層上に被覆担持された排ガス中の有害成分の浄化能を有する触媒材からなる触媒層とからなる排ガス浄化用の触媒-吸着体」が記載されているといえる。
イ. この「吸着材」は、同記載事項(イ)の「前記吸着材が、ゼオライトを主成分とする・・・」との記載によれば、「ゼオライトを主成分とする」ものであり、同じく「触媒材」は、同記載事項(ウ)の「前記触媒材が、Pt、Pd及びRhのうちのいずれか1種あるいは複数種の貴金属と、当該貴金属を分散担持する耐熱性無機酸化物とからなる・・・」との記載によれば、「Pt、Pd及びRhのうちのいずれか1種あるいは複数種の貴金属と、当該貴金属を分散担持する耐熱性無機酸化物」とみることができる。
ウ. また、この「排ガス浄化用の触媒-吸着体」は、同記載事項(ケ)に「Pd担持Al_(2)O_(3)・CeO_(2)粉とゼオライト粉末とに、それぞれ水と酢酸とを適量加え、更にゼオライト粉末にはアルミナ固形分2.5重量%のアルミナゾルを添加し、ボールミルで15時間解砕して、触媒層担持用スラリーと吸着層担持用スラリーとを調製した。
モノリス担体・・・を、まず吸着層担持用スラリー中にディップして、モノリス担体単位体積当たりの担持量が0.15g/ccとなるように被覆し、100℃で1時間乾燥後、550℃で1時間焼成して吸着層を形成した。
続いて、これを触媒層担持用スラリー中にディップして、表1に示すような触媒層膜厚となるように各々被覆し、再び前記と同様の乾燥工程及び焼成工程を経て、前記吸着層上に様々な膜厚の触媒層が形成されたNo.1?6の触媒-吸着体サンプルを得た。」と記載されているから、「吸着層」と「触媒層」は、「吸着層担持用スラリーと触媒層担持用スラリーを調整し、モノリス担体をこれらスラリー中にディップして被覆し、乾燥、焼成して」なるものであるといえる。

エ. 以上を踏まえると、刊行物1には、
「モノリス担体と、
モノリス担体上に被覆担持された炭化水素吸着能を有するゼオライトを主成分とする吸着材からなる吸着層と、
当該吸着層上に被覆担持された排ガス中の有害成分の浄化能を有するPt、Pd及びRhのうちのいずれか1種あるいは複数種の貴金属と当該貴金属を分散担持する耐熱性無機酸化物からなる触媒材からなる触媒層と、
からなり、
吸着層と触媒層は、吸着層担持用スラリーと触媒層担持用スラリーを調整し、モノリス担体をこれらスラリー中にディップして被覆し、乾燥、焼成してなる排ガス浄化用の触媒-吸着体」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認める。

(2)一致点と相違点
本願補正4発明と刊行物1発明とを対比する。
ア. 刊行物1発明の「モノリス担体」は、刊行物1の記載事項(カ)によると「本発明の吸着-触媒体に用いるモノリス担体は、一般にハニカム構造体といわれ、実質的に均一な隔壁(リブ)で囲まれた貫通孔(セル)を有する構造体」であり、
さらに、同記載事項(キ)の「本発明の触媒-吸着体を内燃機関の排気管内に配置して、排ガス浄化を行う場合には、・・・当該触媒-吸着体の前方(排ガス流れ方向上流側)より排ガス中に酸化性ガス・・・を導入したり、燃焼用空気量と燃料量とを排ガス中の酸素量が増加する方向へ調節したりする・・・」との記載と同記載事項(ク)「本発明の触媒-吸着体の後方(排ガス流れ方向下流側)に触媒体を配置するのが好ましい。また、この場合、触媒-吸着体には、排ガス流れ方向に沿ってモノリス担体の貫通孔(セル)の径よりも大きな径を有する吹き抜け孔を設けるようにしてもよい。このような吹き抜け孔を設けて、排ガスの一部を吹き抜けさせる・・・」との記載を勘案すると、軸方向に排ガスが通過する管状通路を有するものと認められ、
この「モノリス担体」は、吸着層と触媒層が被覆担持されるものであるから、基材の機能を有するものである。
してみると、刊行物1発明の「モノリス担体」は、本願補正4発明の「軸方向に排ガスが通過する管状通路を有する触媒担体基材」に相当するものである。これは、本願の明細書【0019】に「モノリスハニカム担体等の触媒担体基材」と記載されていることからも導出されることである。
イ. 本願の明細書【0025】に「第一触媒金属は、Pt、Pd、Rhの少なくとも一種よりなることが好ましい。」と記載されていることから、刊行物1発明の「Pt、Pd及びRhのうちのいずれか1種あるいは複数種の貴金属」は、本願補正4発明の「第一触媒金属」に相当する。
ウ. 刊行物1発明の「耐熱性無機酸化物」は、本願補正4発明の「第一触媒金属」に相当する「Pt、Pd及びRhのうちのいずれか1種あるいは複数種の貴金属と当該貴金属を分散担持」し「触媒材」となるものであるから、本願補正4発明の「耐火性無機酸化物」に相当する。このことは、本願の明細書【0023】、刊行物1の記載事項(ケ)のそれぞれにおいて、触媒を担持するものとして「γ-アルミナ」が挙げられていることからも相当関係は明らかである。
エ. 本願の明細書【0033】には、「コート層は、ゼオライトよりなり触媒担体基材の表面に形成されたHC吸着層と、耐火性無機酸化物と、第一触媒金属と、からなりHC吸着層上に形成された触媒含有層と、からなることが好ましい。」と記載されており、同【0037】には、「コート層の形成は、コート層が、HC吸着層と触媒含有層とからなるときには、触媒担体基材にHC吸着層を形成した後に、触媒含有層を形成することで製造することができる。」と記載されていることからみて、本願補正4発明における「コート層」は、「「ゼオライトよりなり触媒担体基材の表面に形成されたHC吸着層」を形成した後に、「耐火性無機酸化物と第一触媒金属とからなりHC吸着層上に形成された触媒含有層」を形成することにより得られるもの」といえるから、本願補正4発明の「触媒担体基材の表面に形成され、ゼオライトと、耐火性無機酸化物と、該耐火性無機酸化物の表面に担持された第一触媒金属と、を有するコート層」は、「「ゼオライトよりなり触媒担体基材の表面に形成されたHC吸着層」を形成した後に、「耐火性無機酸化物と第一触媒金属とからなりHC吸着層上に形成された触媒含有層」を形成することにより得られるもの」とみることができる。
ここで、「HC吸着層」は炭化水素吸着能を有することは明らかであるから、刊行物1発明の「モノリス担体上に被覆担持された炭化水素吸着能を有するゼオライトを主成分とする吸着材からなる吸着層」と「当該吸着層上に被覆担持された排ガス中の有害成分の浄化能を有するPt、Pd及びRhのうちのいずれか1種あるいは複数種の貴金属と当該貴金属を分散担持する耐熱性無機酸化物とからなる触媒材からなる触媒層」とは、それぞれ、本願明細書に記載された上記「HC吸着層」と「触媒含有層」に相当する。
してみると、刊行物1発明の「モノリス担体上に被覆担持された炭化水素吸着能を有するゼオライトを主成分とする吸着材からなる吸着層と、当該吸着層上に被覆担持された排ガス中の有害成分の浄化能を有するPt、Pd及びRhのうちのいずれか1種あるいは複数種の貴金属と当該貴金属を分散担持する耐熱性無機酸化物とからなる触媒材からなる触媒層」は、本願補正4発明の「触媒担体基材の表面に形成され、ゼオライトと、耐火性無機酸化物と、該耐火性無機酸化物の表面に担持された第一触媒金属と、を有するコート層」に相当するものである。
オ. 刊行物1発明の「排ガス浄化用の触媒-吸着体」は、刊行物1の記載事項(ケ)によると、「触媒層担持用スラリーと吸着層担持用スラリーとを調製した。モノリス担体・・・を、まず吸着層担持用スラリー中にディップして、モノリス担体単位体積当たりの担持量が0.15g/ccとなるように被覆し、100℃で1時間乾燥後、550℃で1時間焼成して吸着層を形成した。続いて、これを触媒層担持用スラリー中にディップして、・・・触媒層膜厚となるように各々被覆し、再び前記と同様の乾燥工程及び焼成工程を経て、前記吸着層上に様々な膜厚の触媒層が形成された・・・触媒-吸着体サンプルを得た」ものであるから、モノリス担体をスラリーにディップして所定の担持量や膜厚となるように乾燥、焼成するものであり、膜厚を担体の各部位において変化させるような特別な工程を有していないことから、これら吸着層と触媒層は、モノリス担体上に均一にコートされているものと認められる。してみると、刊行物1発明の「吸着層と触媒層は、吸着層担持用スラリーと触媒層担持用スラリーを調整し、モノリス担体をこれらスラリー中にディップして被覆し、乾燥、焼成してなる」ことは、本願補正4発明の「コート層を構成する物質のスラリーを調製し、該触媒担体基材に均一にコートし、乾燥、焼成してな」ることに相当するものである。
カ. 刊行物1発明の「排ガス浄化用の触媒-吸着体」は、刊行物1の記載事項(オ)によると、「同一のモノリス担体上に、ゼオライト等のHC吸着能を有する吸着材と、排ガス中の有害成分の浄化能を有する触媒材とを被覆担持させた触媒-吸着体と称されるもの・・・。触媒材が昇温されるまでの間、同一モノリス担体上に近接して配置された吸着材によって排ガス中のHCを一時的に吸着しておき、暖機とともに吸着材から脱離してきたHCを、暖機とともに昇温し活性化した触媒材により浄化する・・・」ものであって、排ガスの浄化を行う触媒機能を有するものと認められるから、本願補正4発明の「排ガス浄化用触媒」に相当するものである。

キ. そうすると、本願補正4発明と刊行物1発明は、
「軸方向に排ガスが通過する管状通路を有する触媒担体基材と、
該触媒担体基材の表面に形成され、ゼオライトと、耐火性無機酸化物と、該耐火性無機酸化物の表面に担持された第一触媒金属と、を有するコート層とを有し、
該コート層が、該コート層を構成する物質のスラリーを調製し、該触媒担体基材に均一にコートし、乾燥,焼成してなる排ガス浄化用触媒」である点で一致し、下記(A)(B)の点で相違する。
相違点(A);本願補正4発明が「コート層の該排ガスの上流側の端部である前段部に担持された第二触媒金属」を有したものであるのに対して、刊行物1発明はこれを有していない点。
相違点(B);本願補正4発明が「該前段部が、該排ガス浄化用触媒の該軸方向の長さで端部から12?40mmの長さで形成される」ものであるのに対して、刊行物1発明はかかる特定がない点。

(3)相違点についての検討
ア.相違点(A)について
ア-1 刊行物2には、その記載事項(ア)に、「触媒担体に所定量のロジウムを含む触媒コート層が形成されてなるエンジンの排気ガス浄化用触媒であって、上記ロジウムは上記触媒コート層における上流側の端部に他の部分よりも高濃度に分布されている・・・エンジンの排気ガス浄化用触媒。」が記載されており、同記載事項(ウ)には、ロジウムの高濃度分布部を形成するにあたり「エンジンの排気ガス浄化用触媒に含まれる所定量のロジウムを上流側の端部に他の部分よりも高濃度に分布させるように配分して、第1コート層形成工程の硝酸ロジウムの濃度との関連で設定される下記所定量の硝酸ロジウム溶液を上記上流側の端部に含浸させる。しかる後・・・乾燥後・・・焼成して本発明のエンジンの排気ガス浄化用触媒1を得る。」ことが記載されている。
一方、本願の明細書【0038】には、「第二触媒金属の担持は、第二触媒金属の溶液をコート層の所定の部分に含浸させた後に、乾燥、焼成させることで行うことができる。」と記載されているから、上記刊行物2に記載された「触媒コート層の上流側の端部に高濃度で担持されたロジウム」は、本願補正4発明の「第二触媒金属」に相当するものである。
ア-2 そして、刊行物1は記載事項(エ)によると「コールドスタート時に多量に発生する炭化水素を効果的に浄化できる排ガス浄化用触媒-吸着体とそれを用いた排ガス浄化方法」であり、刊行物2は記載事項(エ)と同(オ)によると「ロジウム高濃度分布部4のロジウム分布濃度が他の部分よりも・・・高い排気ガス浄化触媒1について排気ガス中のNOxとHCとの浄化率を測定した。・・・HCの浄化率を図5に示した。」「図5に示される結果によれば本発明の実施例は従来例のものに比べてHCに対する触媒機能の立上りが低温側にシフトしている。・・・HCの浄化率に示される本実施例の排気ガス浄化用触媒1は従来例のものに比べて低温での活性が優れており、このような特性は自動車の走行にしたがって理論又はリーン側の空燃比が得られるようになった状態のときはもとより、コールドスタート時のように空燃比がリッチ側のときにも変ることはなく上記の優れた低温活性が得られる。」ものであるから、刊行物1,2はいずれもコールドスタート時の炭化水素の浄化に着目したものであるといえる。
すなわち、刊行物1発明は、コールドスタート時の炭化水素を効率的に浄化することを課題とするものであるから、同じくコールドスタート時のHCの浄化率を向上させるための刊行物2に記載の上記「触媒コート層の上流側の端部に高濃度で担持されたロジウム」である「第二触媒金属」を配置して、コート層の排ガスの上流側の端部である前段部に担持された第二触媒金属を設けることは、当業者であれば容易に想到し得るものである。
イ.相違点(B)について
イ-1 刊行物2には、触媒コート層の上流側の端部に高濃度で担持されたロジウムについて、記載事項(イ)において「排気ガス浄化用触媒1は、例えばその軸線方向の長さLが2インチ(50.8mm)、直径Dが1インチ(25.4mm)とされており、上流側の端面から下流側に形成されるロジウム高濃度分布部4の上記軸線方向の長さL1 は後述するように2?10mmの範囲に設定される」と記載されている。
一方、本願の明細書【0032】には、「前段部の軸方向の長さは、それぞれ、排ガス浄化用触媒の軸方向の長さの1/3?1/10であることが好ましい。」と記載されており、本件補正4の根拠とされた実施例においては、触媒担体基材として「軸方向の長さが120mm、容積1.0Lのモノリスハニカム担体」が挙げられており、この「軸方向長さが120mm」の記載と、前段部の軸方向の長さが、排ガス浄化用触媒の該軸方向の長さの1/3?1/10との記載から、本願補正4発明のように「前段部が、排ガス浄化用触媒の該軸方向の長さで端部から12?40mmの長さで形成される」とされたものであるが、上記のように刊行物2に記載の実施例においても、本願補正4発明の前段部に相当するロジウム高濃度分布部は、軸線方向の長さLが2インチ(50.8mm)に対して2?10mmとされており、その割合は2/50.8?10/50.8と本願の明細書【0032】に記載された範囲と重複するものである。そして、刊行物2に記載されたような軸方向長さが50.8mmよりも長い触媒を用いる際には、排ガス浄化能の担保のために、その触媒の長さに合わせてロジウム高濃度部の長さを上記刊行物2に記載された範囲よりも大きく設定することは、当業者の通常の創作能力の範囲内のことであり、当業者が容易になし得るものである。

したがって、本願補正4発明は、本出願前に頒布された刊行物1,2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4.本件補正4についてのむすび

以上のとおり、本件補正4は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本願発明について

1.本願発明

平成23年3月15日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願発明1」という。)は、平成22年12月28日付けの手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
軸方向に排ガスが通過する管状通路を有する触媒担体基材と、
該触媒担体基材の表面に形成され、ゼオライトと、耐火性無機酸化物と、該耐火性無機酸化物の表面に担持された第一触媒金属と、を有するコート層と、
該コート層の該排ガスの上流側の端部である前段部に担持された第二触媒金属と、
からなり、
該コート層が、該コート層を構成する物質のスラリーを調製し、該触媒担体基材に均一にコートし、乾燥,焼成してなることを特徴とする排ガス浄化用触媒。」

2.引用刊行物

前置審査の拒絶の理由に引用された刊行物である刊行物1,2の記載事項は、前記「第2.2」に記載したとおりである。

3.対比

本願発明1は、本願補正4発明の前段部について、「前段部が、該排ガス浄化用触媒の該軸方向の長さで端部から12?40mmの長さで形成される」なる特定を削除したものである。

4.判断

本願発明1は、上記の通り本願補正4発明の「前段部が、該排ガス浄化用触媒の該軸方向の長さで端部から12?40mmの長さで形成される」という特定事項を削除し、その他の発明特定事項をすべて有するものであるから、本願補正4発明と同様の上記「第2.3」に記載した理由により、本出願前に頒布された刊行物1,2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.本願発明のむすび

以上のとおりであるから、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。


第4.追加の検討
「最後の拒絶理由通知」に対する補正を一旦受け入れた上で新たな拒絶理由を通知した場合には、先の「最後の拒絶理由通知」に対する補正が不適法なものであったことがその後に発見されたとしても、その補正を遡って却下することはしない運用がなされているため、本審決において、平成22年12年28日付けの手続補正書を許容して上記審決を行ったが、仮に平成22年12年28日付けの手続補正書が平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反し、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものであったとした場合について検討する。

1.本願補正1発明

平成23年3月15日付けの手続補正書は前記第2のとおり却下されており、平成22年12年28日付けの手続補正書も却下されると仮定した場合、平成22年5月20日付けの手続補正書は平成22年10月8日付けで却下されているので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願補正1発明」という。)は、平成21年12月24日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
軸方向に排ガスが通過する管状通路を有する触媒担体基材と、
該触媒担体基材の表面に形成され、ゼオライトと、耐火性無機酸化物と、該耐火性無機酸化物の表面に担持された第一触媒金属と、を有するコート層と、
該コート層の該排ガスの上流側の端部である前段部に担持された第二触媒金属と、
からなることを特徴とする排ガス浄化用触媒。」

2.刊行物に記載された事項

ア.原査定の拒絶の理由(平成22年3月23日付け拒絶理由)に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平6-205983号公報(以下、「刊行物3」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(ア)「ハニカム通路を有する複数個のハニカム担体を両端が開口したケース内に互いに間隔を隔てて直列に列設してなるタンデム型の排気ガス浄化用触媒において、
少なくとも排気ガス流の上流側に配置された該ハニカム担体には、入口側端面から軸方向に10?20mmの範囲の部分に触媒金属が他の部分より高濃度で担持された高担持部をもつことを特徴とする排気ガス浄化用触媒。」(特許請求の範囲、請求項1)
(イ)「エンジン始動時の排気ガス中のHC,COなどを浄化するためには、ハニカム担体を早期に暖機し触媒により燃焼除去することが必要である。・・・本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、タンデム型の排気ガス浄化用触媒において、エンジン始動時の浄化性能を一層向上させることを目的とする。」(段落【0005】?【0006】)
(ウ)「排気ガスは先ずハニカム担体の入口側端面に衝突して乱流化されてハニカム通路へ進入し、ハニカム通路壁と衝突しながらハニカム通路を移動する。これにより排気ガスの熱がハニカム担体に伝達され、ハニカム担体が昇温されるのである。」(段落【0009】)
(エ)「(実施例1)図1に本発明の一実施例の排気ガス浄化用触媒の概略断面図を示す。この触媒は、直径86mmで軸方向の長さが40mmの第1ハニカム担体1と、直径86mmで軸方向の長さが100mmの第2ハニカム担体2とから構成され、軸方向に間隔を隔ててケース3内に直列に収納されている。
第1ハニカム担体1及び第2ハニカム担体2は、それぞれAl含有フェライト系ステンレス製の板厚約50μmの箔から形成された平板と波板からなるメタル担体基材をもつ。そしてそれぞれのメタル担体基材表面には、活性アルミナからなる触媒担持層が形成され、その触媒担持層に白金(Pt)及びロジウム(Rh)が担持されている。
ここで表1にも示すように、第1ハニカム担体1では、ケース3の開口に向かう一端面から10mmの部分にPtが10.0g/lとRhが0.3g/l担持され、残りの30mmの部分にはPtが1.5g/lとRhが0.3g/l担持されている。すなわち、一端面から10mmの部分にはPtが高濃度で担持された高担持部10が形成されている。なお高担持部10では、Ptを高濃度で担持させるために、触媒担持層の厚さが他の部分より約1.5倍厚くされている。」(段落【0014】?【0016】)

イ.原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平11-104462号公報は、前記第2.2に記載した「刊行物1」であるので、その記載事項は、前記「第2.2.ア」に記載したとおりである。

3.対比、判断

(1)刊行物3に記載された発明
ア. 刊行物3の記載事項(ア)には、「ハニカム通路を有する・・・ハニカム担体を両端が開口したケース内に・・・列設してなる・・・排気ガス浄化用触媒において、・・・排気ガス流の上流側に配置された該ハニカム担体には、入口側端面から軸方向に10?20mmの範囲の部分に触媒金属が他の部分より高濃度で担持された高担持部をもつ・・・排気ガス浄化用触媒。」が記載されている。この排気ガス浄化触媒の上記「触媒金属が他の部分より高濃度で担持された高担持部を有する」部分は、入口側端面から所定範囲に形成されることより、ハニカム担体の上流部であることは明らかである。
イ. そして、上記記載事項(ア)の実施形態である同記載事項(エ)をみると、「第1ハニカム担体1・・・は、それぞれAl含有フェライト系ステンレス製の・・・箔から形成された平板と波板からなるメタル担体基材をもつ。そしてそれぞれのメタル担体基材表面には、活性アルミナからなる触媒担持層が形成され、その触媒担持層に白金(Pt)及びロジウム(Rh)が担持されている。」と記載されており、「ハニカム担体」は、「Al含有フェライト系ステンレス製の箔から形成された平板と波板からなるメタル担体基材」をもち、そのメタル担体基材表面には、「活性アルミナからなる触媒担持層」が形成され、その触媒担持層に「白金(Pt)及びロジウム(Rh)」が担持されているといえる。ここで、「Al含有フェライト系ステンレス製の箔から形成された平板と波板からなるメタル担体基材」は、その平板と波形からなるメタル担体基材によってハニカム通路を形成しているものと認める。
ウ. さらに、同記載事項(エ)には、「第1ハニカム担体1では、ケース3の開口に向かう一端面から10mmの部分にPtが10.0g/lとRhが0.3g/l担持され、残りの30mmの部分にはPtが1.5g/lとRhが0.3g/l担持されている。すなわち、一端面から10mmの部分にはPtが高濃度で担持された高担持部10が形成されている。」と記載されており、上流部である端面から所定範囲の部分に「PtとRhが担持されており、かつ、Ptが高濃度で担持された高担持部が形成されている」ものと解される。
エ. 以上を踏まえると、刊行物3には、
「Al含有フェライト系ステンレス製の箔から形成された平板と波板からなるメタル担体基材によって形成されたハニカム通路を有するハニカム担体と、
該メタル担体基材の表面に形成された活性アルミナからなる触媒担持層と、該触媒担持層表面に担持された白金(Pt)及びロジウム(Rh)と、
排ガスの上流側の端面から10mmの部分にPtが高濃度で担持された高担持部とを有する排気ガス浄化用触媒」の発明(以下、「刊行物3発明」という。)が記載されていると認める。

(2)一致点と相違点
本願補正1発明と刊行物3発明とを対比する。
ア. 刊行物3発明の「ハニカム担体」は、刊行物3の記載事項(ウ)によると「排気ガスは先ずハニカム担体の入口側端面に衝突して乱流化されてハニカム通路へ進入し、ハニカム通路壁と衝突しながらハニカム通路を移動する。」ものであり、同記載事項(エ)によると「Al含有フェライト系ステンレス製の箔から形成された平板と波板からなるメタル担体基材」をもち、その平板と波形からなるメタル担体基材によってハニカム通路を形成しており、また、同記載事項(エ)には、これらハニカム担体が軸方向にケース内に収納されることも記載され、排ガスが上流から下流に流れることも勘案すると、「軸方向に排ガスが通過する管状通路」を有しているものと認められる。
してみると、刊行物3発明の「Al含有フェライト系ステンレス製の箔から形成された平板と波板からなるメタル担体基材によって形成されたハニカム通路を有するハニカム担体」は、本願補正1発明の「軸方向に排ガスが通過する管状通路を有する触媒担体基材」に相当する。
イ. 本願の明細書【0025】に「第一触媒金属は、Pt、Pd、Rhの少なくとも一種よりなることが好ましい。」と記載されていることから、刊行物3発明の「白金(Pt)及びロジウム(Rh)」は、本願補正1発明の「第一触媒金属」に相当する。
ウ. そして、刊行物3発明の「メタル担体基材の表面に形成された活性アルミナ」は、本願補正1発明の「第一触媒金属」に相当する「白金(Pt)及びロジウム(Rh)」を表面に担持するものであるから、本願補正1発明の「触媒担体基材の表面に形成された耐火性無機酸化物」に相当する。
エ. さらに、上記「メタル担体基材の表面に形成された活性アルミナからなる触媒担持層」は、基材表面に「層」を形成するものであるから、基材表面をコートする層、すなわち本願補正1発明の「コート層」に相当する。
オ. 本願の明細書【0029】?【0030】には、「第二触媒金属は、排気ガスの浄化を行う。この第二触媒金属は、Pt、PdおよびRhの少なくとも一種よりなることが好ましい。すなわち、Pt、PdおよびRhは三元性を有するため、第二触媒金属をPt、PdおよびRhの少なくとも一種とすることで、HC、COおよびNOxの浄化を行うことができる。
また、第一触媒金属と第二触媒金属は、同じ触媒金属であっても、ことなる触媒金属であってもよい。」と記載されていることから、刊行物3発明の「排ガスの上流側の端面から10mmの部分にPtが高濃度で担持された高担持部」の「高濃度で担持されたPt」は、本願補正1発明の「第二触媒金属」に相当し、上記「排ガスの上流側の端面から10mmの部分」は、排ガスの上流側の端面から所定範囲の部分であることから、本願補正1発明の「排ガスの上流側の端部である前段部」に相当する。
カ. そして、刊行物3の記載事項(エ)には、「一端面から・・・の部分にはPtが高濃度で担持された高担持部」が形成されており、この「高担持部」では、「Ptを高濃度で担持させるために、触媒担持層の厚さが他の部分より・・・厚くされている」と記載されているから、上記「高担持部」も触媒担持層が所定の厚さとなるように「層状」に担持されるものである。してみると、「Ptが高濃度で担持された高担持部」も、本願補正1発明の「コート層」を形成するものである。

キ. そうすると、本願補正1発明と刊行物3発明は、
「軸方向に排ガスが通過する管状通路を有する触媒担体基材と、
該触媒担体基材の表面に形成され、耐火性無機酸化物と、該耐火性無機酸化物の表面に担持された第一触媒金属と、を有するコート層と、
該コート層の該排ガスの上流側の端部である前段部に担持された第二触媒金属と、
からなる排ガス浄化用触媒。」である点で一致し、下記(a)の点で相違する。
相違点(a);本願補正1発明の「コート層」がゼオライトを含むものであるのに対し、刊行物3発明はゼオライトを含まないものである点。

(3)相違点についての検討
ア. 相違点(a)について
ア-1 刊行物1には、その記載事項(ア)に「モノリス担体上に、炭化水素吸着能を有する吸着材からなる吸着層を被覆担持し、更に当該吸着層上に、排ガス中の有害成分の浄化能を有する触媒材からなる触媒層を被覆担持してなる排ガス浄化用の触媒-吸着体であって、前記触媒層の膜厚が10?120μmであることを特徴とする排ガス浄化用触媒-吸着体。」において、その記載事項(イ)に「前記吸着材が、ゼオライトを主成分とする請求項1記載の排ガス浄化用触媒-吸着体。」が記載されている。そして、同記載事項(オ)には、「コールドスタート時におけるHCの放出を抑制するための手段の1つとして、同一のモノリス担体上に、ゼオライト等のHC吸着能を有する吸着材と、排ガス中の有害成分の浄化能を有する触媒材とを被覆担持させた触媒-吸着体と称されるものが開発されている。これは、触媒材が昇温されるまでの間、同一モノリス担体上に近接して配置された吸着材によって排ガス中のHCを一時的に吸着しておき、暖機とともに吸着材から脱離してきたHCを、暖機とともに昇温し活性化した触媒材により浄化することを目的としたものである。」と記載されているから、刊行物1に記載されたゼオライトは、コールドスタート時のHCの放出を抑制するために用いられるものと認められる。
ア-2 刊行物3は、記載事項(イ)によると、「エンジン始動時の排気ガス中のHC,COなどを浄化するためには、ハニカム担体を早期に暖機し触媒により燃焼除去することが必要である。・・・本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、タンデム型の排気ガス浄化用触媒において、エンジン始動時の浄化性能を一層向上させることを目的とする」ものであり、刊行物1も、記載事項(エ)によると「コールドスタート時に多量に発生する炭化水素を効果的に浄化できる排ガス浄化用触媒-吸着体とそれを用いた排ガス浄化方法」であるから、刊行物3,1はいずれもコールドスタート時の炭化水素の浄化に着目したものであるといえる。
すなわち、刊行物3発明の目的である、コールドスタート時の炭化水素をさらに効率的に浄化するために、同じくコールドスタート時のHCの浄化率を向上させるための手段である刊行物1に記載の上記「ゼオライト」をコート層に含ませることを併用し、上記相違点(a)に係る本願補正1発明の発明特定事項をなすことは、当業者であれば容易に想到し得るものである。

したがって、本願補正1発明は、本出願前に頒布された刊行物3及び刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

4.本願補正1発明のむすび

以上のとおりであるから、平成22年12年28日付けの手続補正書が却下されたと仮定しても、本願補正1発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。


第5.むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、仮に、平成22年12年28日付けの手続補正書が却下されたとしても、本願補正1発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-04-04 
結審通知日 2012-04-05 
審決日 2012-04-18 
出願番号 特願2000-259241(P2000-259241)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡田 隆介  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 國方 恭子
中澤 登
発明の名称 排ガス浄化用触媒  
代理人 大川 宏  

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