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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B |
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管理番号 | 1257988 |
審判番号 | 不服2011-2383 |
総通号数 | 151 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-07-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-02-02 |
確定日 | 2012-06-07 |
事件の表示 | 特願2003- 19727「フォトニック結晶光回路及びその制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 8月19日出願公開、特開2004-233476〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成15年1月29日の特許出願であって、平成21年4月20日、平成21年7月27日及び平成22年7月20日に手続補正がされたが、平成22年10月25日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成23年2月2日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、これと同時に手続補正がされ、当審による平成23年12月12日付けの拒絶理由の通知に応答して平成24年2月13日に手続補正がされるとともに意見書が提出されたものである。 第2 当審による拒絶理由 当審により、特許法第36条第6項第2号について通知した拒絶理由は、次のとおりである(当審による拒絶理由の通知の「第3 拒絶理由1(特許法第36条第6項第2号について)」参照。)。 「本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 記 ・請求項1の記載について 1 以下の(1)及び(2)に示すとおり、「互いに誘電関数の異なる2種類以上の媒質を周期的に配列してなるフォトニック結晶」、「第1の構造体」及び「第2の構造体」の意味するものが不明である。 (1) 第1実施例について ア 本願の図4には、本願発明の実施例(以下「第1実施例」という。)として、空気孔32が空き、発光点33を有する1枚の基板31からなるフォトニック結晶光回路装置が記載されている。基板31は単一のものであるから、周期的に配列することは不可能であって、上記媒質になり得ない。基板から空気孔に光が入射し空気を光が伝われば、空気孔は光が伝わる物という意味での媒質といえる。発光点は、自らが発光するのであって、他から来る光が発光点の内部を伝わるのではないから、発光点自体は媒質ではない。すると、第1実施例の3つの構成要素のうち、媒質といい得るのは空気孔のみであるから、「2種類以上の媒質」があることにならない。 イ 請求項1において、「第1の構造体」は、「予め定められた第1の固有共振周波数を有する」ものであり、第2の構造体が光を受けるよう光を発するものとされ、「第2の構造体」は、「第1の構造体からの光を受けて他励振動により」「電磁場・光」を「放射」するものとされている。 光を発する点から、発光点が「第1の構造体」に相当する。すると、発光点は、「予め定められた第1の固有共振周波数を有する」ものでなければならないが、固有共振周波数の意味が不明である(共振とはレーザ発振することを指し、発光点はレーザ素子なのか。それとも、機械的に他の何かの振動に共振して振動する周波数が固有共振周波数なのか。)。 第1実施例において、発光点以外の構成要素は空気孔と基板だけであるから、どちらかが「第2の構造体」に相当する。空気が、第1の構造体からの光を受けて他励振動により電磁場・光を放射する(光で励起されて発光する?)とは想定しがたいので、基板が「第2の構造体」であって、第1の構造体からの光を受けて他励振動により電磁場・光を放射するとした際、「他励振動により電磁場・光を放射する」の意味が不明である(基板には共振ミラー等のレーザに必要な構成要素がないことから、「他励振動により電磁場・光を放射する」は、レーザ発光を指すとは考えられないので、蛍光体が光を受けてより長波長の光を放射することを指し、基板は蛍光体なのか。)。 (2) 第2実施例について ア 本願の図6には、本願発明の第1実施例以外の実施例(以下「第2実施例」という。)として、(真空中またはフォトニック結晶であってもよい)光の自由伝播空間41内に、1個の発光体42、3個ずつ2組ある反射体43、2個の導波体44、1個の受光体45を設けたものが記載されている。 光の自由伝播空間が真空であれフォトニック結晶であれ、それは単一のものであるから、周期的に配列することは不可能である。発光体と反射体はその中を外部からの光が伝わるものではないから、媒質ではない。すると、導波体と受光体が「周期的に配列」された「2種類以上の媒質」となるしかないが、受光体は1個しかないから周期的に配列することは不可能である。すると、第2実施例には、「互いに誘電関数の異なる2種類以上の媒質を周期的に配列してなるフォトニック結晶」に該当する構成要素が存在しない。 イ 請求項1において、「第1の構造体」は、「予め定められた第1の固有共振周波数を有する」ものであり、第2の構造体が光を受けるよう光を発するものとされ、「第2の構造体」は、「第1の構造体からの光を受けて他励振動により」「電磁場・光」を「放射」するものとされている。 光を発する点から、発光体が「第1の構造体」に相当し、光を受ける点から、受光体が「第2の構造体」に相当するとみることができる。すると、発光体は、「予め定められた第1の固有共振周波数を有する」ものでなければならないが、固有共振周波数の意味が不明である(共振とはレーザ発振することを指し、発光点はレーザ素子なのか。それとも、機械的に他の何かの振動に共振して振動する周波数が固有共振周波数なのか。)。また、受光体は、「発光体からの光を受けて他励振動により電磁場・光を放射」するものでなければならないが、その意味が不明である(例えば、受光体が、発光体からの光でポンピングされて発振するレーザであることを意味するのか、それとも発光体からの光を受けてそれより長波長の光を放射する蛍光体であることを意味するのか。)。 2 「第1の構造体」の「固有共振周波数」が何を意味するか不明である。 「第1の構造体」がレーザ素子であって、「固有共振周波数」とはレーザの発振周波数のことか。それとも、慣性体としての「第1の構造体」が機械的に振動する周波数が「固有共振周波数」なのか。 3 第2の構造体が、第1の構造体からの光を受けて他励振動により位相が互いにπ/2異なる電磁場・光を放射するとはどのようなことを指すのか不明である。 屈折率が異なる2つの物質の境界で光が反射するときは位相がずれないかπずれるかであって、π/2ずれることはない。ポンピング光でレーザ素子が励起されて発光するとき、レーザ光自体はコヒーレントな位相が揃った光であるが、レーザ光とポンピング光とは位相が無関係なインコヒーレントな関係にあり、位相がちょうどπ/2ずれるようにはできない。 ・請求項2の記載について 「空間領域」とは何を指すのか。フォトニック結晶内部のことか、それともフォトニック結晶外部の空間(例えばフォトニック結晶が置かれた室内の大気)も含むのか。 ・請求項3の記載について 「第2の構造体」の「第1の固有共振周波数とは異なる値の固有共振周波数」が何を意味するか不明である。 「第2の構造体」が「第1の構造体」からの光を反射するだけのものであれば、反射光の周波数は入射光と同じであり、異なる値とはならない。 (以下の「・請求項4の記載について」ないし「 ・請求項12の記載について」は省略する。)」 第3 請求人の主張 上記「第2 当審の拒絶理由」に記載したとおりの指摘に対して、請求人は平成24年2月13日に提出した意見書(以下「意見書」という。)において、次のとおり主張している。 「[2-1]上記手続補正書における特許請求の範囲の補正について (1)平成21年7月27日付提出特許請求の範囲請求項1を、当初明細書記載事項、図面に基づき、 「【請求項1】互いに誘電関数の異なる2種類以上の媒質を周期的に配列してなるフォトニック結晶光回路装置において、 フォトニック結晶に欠陥を導入することでそれぞれ、予め定められた第1の固有共振周波数を有する発光体と、前記第1の固有共振周波数とは異なる値の第2の固有共振周波数を有する反射体を備え、 前記反射体は、前記発光体からλ/4+nλ/2(ただし、λは、前記発光体の前記第1の固有共振周波数から規定される波長、nは非負整数)離間した位置に配置され、前記発光体と、前記発光体からの光を受けて他励振動により前記反射体からの光の位相が 互いにπ/2異なる、ことを特徴とするフォトニック結晶光回路装置。」と補正しました。 なお、フォトニック結晶に点欠陥を導入し周期性を乱すと光が局在し、共振器(点欠陥は固有共振周波数を持つ)となり、また、フォトニック結晶に線欠陥を導入すると、通常の光導波路のような屈折率差による全反射による光閉じ込めではなく、フォトニックバンドギャップによる光閉じ込めによって線欠陥における導波モードをつくり出すことができる(例えば非特許文献1参照)ということが、本願で開示される発明の前提であります。 請求項1において光の波長λが、前記発光体の前記第1の固有共振周波数に相当するものであり、2つの波長を用いるものでないことを明記しました。 (2)平成21年7月27日付提出特許請求の範囲請求項3を、当初明細書記載事項、図面に基づき、 「【請求項2】前記反射体の前記第2の固有共振周波数が前記第1の固有共振周波数と異なる値は、前記発光体と前記反射体からの光の位相が互いにπ/2異ならしめる値である、ことを特徴とする請求項1記載のフォトニック結晶光回路装置。」と補正しました。 (以下、平成21年7月27日付提出特許請求の範囲請求項4ないし12についての主張である(3)ないし(9)は省略する。) (10)上記補正はいずれも適法であるものと思料いたします。 [3]理由1(特許法第36条第6項第2号) [3-1]指摘事項 本願請求項について、以下のようなご指摘がなされております。 『・請求項1の記載について 1 以下の(1)及び(2)に示すとおり、「互いに誘電関数の異なる2種類以上の媒質を周期的に配列してなるフォトニック結晶」、「第1の構造体」及び「第2の構造体」の意味するものが不明である。 (1) 第1実施例について ア 本願の図4には、本願発明の実施例(以下「第1実施例」という。)として、空気孔32が空き、発光点33を有する1枚の基板31からなるフォトニック結晶光回路装置が記載されている。基板31は単一のものであるから、周期的に配列することは不可能であって、上記媒質になり得ない。基板から空気孔に光が入射し空気を光が伝われば、空気孔は光が伝わる物という意味での媒質といえる。発光点は、自らが発光するのであって、他から来る光が発光点の内部を伝わるのではないから、発光点自体は媒質ではない。すると、第1実施例の3つの構成要素のうち、媒質といい得るのは空気孔のみであるから、「2種類以上の媒質」があることにならない。 イ 請求項1において、「第1の構造体」は、「予め定められた第1の固有共振周波数を有する」ものであり、第2の構造体が光を受けるよう光を発するものとされ、「第2の構造体」は、「第1の構造体からの光を受けて他励振動により」「電磁場・光」を「放射」するものとされている。 光を発する点から、発光点が「第1の構造体」に相当する。すると、発光点は、「予め定められた第1の固有共振周波数を有する」ものでなければならないが、固有共振周波数の意味が不明である(共振とはレーザ発振することを指し、発光点はレーザ素子なのか。それとも、機械的に他の何かの振振動に共振して振動する周波数が固有共振周波数なのか。)。 第1実施例において、発光点以外の構成要素は空気孔と基板だけであるから、どちらかが「第2の構造体」に相当する。空気が、第1の構造体からの光を受けて他励振動により電磁場・光を放射する(光で励起されて発光する?)とは想定しがたいので、基板が「第2の構造体」であって、第1の構造体からの光を受けて他励振動により電磁場・光を放射するとした際、「他励振動により電磁場・光を放射する」の意味が不明である(基板には共振ミラー等のレーザに必要な構成要素がないことから、「他励振動により電磁場・光を放射する」は、レーザ発光を指すとは考えられないので、蛍光体が光を受けてより長波長の光を放射することを指し、基板は蛍光体なのか。)。 (2) 第2実施例について ア 本願の図6には、本願発明の第1実施例以外の実施例(以下「第2実施例」という。)として、(真空中またはフォトニック結晶であってもよい)光の自由伝播空間41内に、1個の発光体42、3個ずつ2組ある反射体43、2個の導波体44、1個の受光体45を設けたものが記載されている。 光の自由伝播空間が真空であれフォトニック結晶であれ、それは単一のものであるから、周期的に配列することは不可能である。発光体と反射体はその中を外部からの光が伝わるものではないから、媒質ではない。すると、導波体と受光体が「周期的に配列」された「2種類以上の媒質」となるしかないが、受光体は1個しかないから周期的に配列することは不可能である。すると、第2実施例には、「互いに誘電関数の異なる2種類以上の媒質を周期的に配列してなるフォトニック結晶」に該当する構成要素が存在しない。 イ 請求項1において、「第1の構造体」は、「予め定められた第1の固有共振周波数を有する」ものであり、第2の構造体が光を受けるよう光を発するものとされ、「第2の構造体」は、「第1の構造体からの光を受けて他励振動により」「電磁場・光」を「放射」するものとされている。 光を発する点から、発光体が「第1の構造体」に相当し、光を受ける点から、受光体が「第2の構造体」に相当するとみることができる。すると、発光体は、「予め定められた第1の固有共振周波数を有する」ものでなければならないが、固有共振周波数の意味が不明である(共振とはレーザ発振することを指し、発光点はレーザ素子なのか。それとも、機械的に他の何かの振動に共振して振動する周波数が固有共振周波数なのか。)。また、受光体は、「発光体からの光を受けて他励振動により電磁場・光を放射」するものでなければならないが、その意味が不明である(例えば、受光体が、発光体からの光でポンピングされて発振するレーザであることを意味するのか、それとも発光体からの光を受けてそれより長波長の光を放射する蛍光体であることを意味するのか。)。 2 「第1の構造体」の「固有共振周波数」が何を意味するか不明である。 「第1の構造体」がレーザ素子であって、「固有共振周波数」とはレーザの発振周波数のことか。それとも、慣性体としての「第1の構造体」が機械的に振動する周波数が「固有共振周波数」なのか。 3 第2の構造体が、第1の構造体からの光を受けて他励振動により位相が互いにπ/2異なる電磁場・光を放射するとはどのようなことを指すのか不明である。 屈折率が異なる2つの物質の境界で光が反射するときは位相がずれないかπずれるかであって、π/2ずれることはない。ポンピング光でレーザ素子が励起されて発光するとき、レーザ光自体はコヒーレントな位相が揃った光であるが、レーザ光とポンピング光とは位相が無関係なインコヒーレントな関係にあり、位相がちょうどπ/2ずれるようにはできない。』 上記補正後請求項1により上記指摘事項はいずれも明確であるものと思料いたします。 上記したように、フォトニック結晶に点欠陥を導入し周期性を乱すと光が局在し、共振器(点欠陥は固有共振周波数を持つ)となります。したがいまして、固有共振周波数とは、フォトニック結晶に点欠陥などを導入することで生じる固有周波数であり、請求項1において用語等の不明点がいっさい無いものと思料いたします。 [3-2]請求項3の記載について以下のようなご指摘がなされております。 『「第2の構造体」の「第1の固有共振周波数とは異なる値の固有共振周波数」が何を意味するか不明である。 「第2の構造体」が「第1の構造体」からの光を反射するだけのものであれば、反射光の周波数は入射光と同じであり、異なる値とはならない。』 上記補正後請求項2により上記指摘事項はいずれも明確であるものと思料いたします。 (以下、平成21年7月27日付提出特許請求の範囲請求項4ないし12についての主張である[3-3]ないし[3-7]は省略する。) [3-8]上記補正により、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていることが明らかにされたものと確信いたします。」 第4 請求項1及び請求項2の「固有共振周波数」について 1 請求項1及び請求項2の記載 平成24年2月13日に補正された本願の請求項1及び請求項2の記載は次のとおりである。 「【請求項1】 互いに誘電関数の異なる2種類以上の媒質を周期的に配列してなるフォトニック結晶光回路装置において、 フォトニック結晶に欠陥を導入することでそれぞれ、予め定められた第1の固有共振周波数を有する発光体と、前記第1の固有共振周波数とは異なる値の第2の固有共振周波数を有する反射体を備え、 前記反射体は、前記発光体からλ/4+nλ/2(ただし、λは、前記発光体の前記第1の固有共振周波数から規定される波長、nは非負整数)離間した位置に配置され、前記発光体と、前記発光体からの光を受けて他励振動により前記反射体からの光の位相が互いにπ/2異なる、ことを特徴とするフォトニック結晶光回路装置。 【請求項2】 前記反射体の前記第2の固有共振周波数が前記第1の固有共振周波数と異なる値は、前記発光体と前記反射体からの光の位相が互いにπ/2異ならしめる値である、ことを特徴とする請求項1記載のフォトニック結晶光回路装置。」 なお、意見書の「[2-1]上記手続補正書における特許請求の範囲の補正について」に 「(2)平成21年7月27日付提出特許請求の範囲請求項3を、当初明細書記載事項、図面に基づき、 「【請求項2】前記反射体の前記第2の固有共振周波数が前記第1の固有共振周波数と異なる値は、前記発光体と前記反射体からの光の位相が互いにπ/2異ならしめる値である、ことを特徴とする請求項1記載のフォトニック結晶光回路装置。」と補正しました。」 とあるとおり、補正後の請求項2は、補正前の請求項3に対応する。 2 当審による「固有共振周波数」についての指摘 上記「第2 当審による拒絶理由」における「固有共振周波数」についての指摘は、以下の(1)ないし(3)である。 (1) 「・請求項1の記載について 1 (1) イ 請求項1において、「第1の構造体」は、「予め定められた第1の固有共振周波数を有する」ものであり、第2の構造体が光を受けるよう光を発するものとされ、「第2の構造体」は、「第1の構造体からの光を受けて他励振動により」「電磁場・光」を「放射」するものとされている。 光を発する点から、発光点が「第1の構造体」に相当する。すると、発光点は、「予め定められた第1の固有共振周波数を有する」ものでなければならないが、固有共振周波数の意味が不明である(共振とはレーザ発振することを指し、発光点はレーザ素子なのか。それとも、機械的に他の何かの振動に共振して振動する周波数が固有共振周波数なのか。)。」 (2) 「・請求項1の記載について 2 「第1の構造体」の「固有共振周波数」が何を意味するか不明である。 「第1の構造体」がレーザ素子であって、「固有共振周波数」とはレーザの発振周波数のことか。それとも、慣性体としての「第1の構造体」が機械的に振動する周波数が「固有共振周波数」なのか。」 (3) 「・請求項3の記載について 「第2の構造体」の「第1の固有共振周波数とは異なる値の固有共振周波数」が何を意味するか不明である。 「第2の構造体」が「第1の構造体」からの光を反射するだけのものであれば、反射光の周波数は入射光と同じであり、異なる値とはならない。」 3 請求人の「固有共振周波数」についての主張 上記「第3 請求人の主張」における「固有共振周波数」についての主張は、以下の(1)ないし(3)である。 (1) 「[2-1] (1) フォトニック結晶に点欠陥を導入し周期性を乱すと光が局在し、共振器(点欠陥は固有共振周波数を持つ)となり、また、フォトニック結晶に線欠陥を導入すると、通常の光導波路のような屈折率差による全反射による光閉じ込めではなく、フォトニックバンドギャップによる光閉じ込めによって線欠陥における導波モードをつくり出すことができる(例えば非特許文献1参照)ということが、本願で開示される発明の前提であります。請求項1において光の波長λが、前記発光体の前記第1の固有共振周波数に相当するものであり、2つの波長を用いるものでないことを明記しました。」 (2) 「[3] [3-1] (途中省略)上記したように、フォトニック結晶に点欠陥を導入し周期性を乱すと光が局在し、共振器(点欠陥は固有共振周波数を持つ)となります。したがいまして、固有共振周波数とは、フォトニック結晶に点欠陥などを導入することで生じる固有周波数であり、請求項1において用語等の不明点がいっさい無いものと思料いたします。」 (3) 「[3] [3-2]請求項3の記載について以下のようなご指摘がなされております。 『「第2の構造体」の「第1の固有共振周波数とは異なる値の固有共振周波数」が何を意味するか不明である。 「第2の構造体」が「第1の構造体」からの光を反射するだけのものであれば、反射光の周波数は入射光と同じであり、異なる値とはならない。』 上記補正後請求項2により上記指摘事項はいずれも明確であるものと思料いたします。」 4 当審の判断 上記「2 当審による「固有共振周波数」についての指摘」に係る拒絶理由が解消したか否かについて検討する。 なお、補正前の請求項1及び請求項3における「第1の構造体」及び「第1の構造体」は、それぞれ、補正後の請求項1及び請求項2における「発光体」及び「反射体」に対応する。 (1) 請求人の上記「3 (1)」及び「3 (2)」の主張によれば、請求項1における「固有共振周波数」とは、点欠陥を導入することで生じるものである。一方、請求項1には、「フォトニック結晶に欠陥を導入することでそれぞれ、予め定められた第1の固有共振周波数を有する発光体と、前記第1の固有共振周波数とは異なる値の第2の固有共振周波数を有する反射体を備え」とある。 よって、「第1の固有共振周波数」は、フォトニック結晶に欠陥を導入することで、フォトニック結晶が備える発光体が有するものであり、「第2の固有共振周波数」は、フォトニック結晶に欠陥を導入することで、フォトニック結晶が備える反射体が有するものである。 しかしながら、該主張における、フォトニック結晶の光の局在及び共振が、どのような現象を指し、請求項1のどの構成と対応するか不明であるから、発光体の有する第1の固有共振周波数及び反射体の有する第2の固有共振周波数が、どのようなものであるか理解できない。 ただし、請求項1に「λは、前記発光体の前記第1の固有共振周波数から規定される波長」とあることから、発光体の第1の固有共振周波数は、発光体が発光して発する波長λの光の周波数を意味すると解する余地がある。 このように解した場合、反射体は、発光体から受けた波長λで周波数が第1の固有共振周波数である光を反射する。しかしながら、一般に、反射により光の周波数は変化しないから、反射体が反射する光の周波数は、発光体の光の周波数である第1の固有共振周波数と同じである。これは、請求項1に「第1の固有共振周波数とは異なる値の第2の固有共振周波数を有する反射体」とあることと矛盾する。 よって、上記のように解することはできない。 (2) 請求人は上記「3 (3)」で「補正後請求項2により上記指摘事項はいずれも明確であるものと思料いたします。」と主張するので、請求項2の記載を検討する。 請求項2には「前記反射体の前記第2の固有共振周波数が前記第1の固有共振周波数と異なる値は、前記発光体と前記反射体からの光の位相が互いにπ/2異ならしめる値である」との記載がある。 しかしながら、一般に、周波数が異なる2つの光は、ある時点で位相が同じであっても時間の経過とともに位相がずれて行くから、位相が互いにπ/2異なる状態を保つことは不可能である。 よって、「固有共振周波数」に係る上記記載が、どのような構成を意味するか理解できない。 (3) 上記(1)及び(2)より、上記「3 請求人の「固有共振周波数」についての主張」を検討しても、請求項1及び請求項2の記載からは、「固有共振周波数」がどのような構成を意味するか理解できないので、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参照する。 本願明細書の発明の詳細な説明には、「固有共振周波数」について次の記載がある。 「【0035】 以下に、実施例として、具体的な計算結果について図2及び図3を参照して説明する。ある固有共振周波数frの発光を行う発光体21(この例では、円柱)(図2(a)参照)に対して、発光体21の中心から約λ/4(ただし、λは波長)離れた位置に、固有共振周波数がわずかに低い(周波数:fr-Δf)構造体よりなる反射体22(この例では、円柱)を置くと、発光体21の放射パターンが、反射体22と反対方向に強くなることが、電磁界解析の結果からわかる(図2(b)参照)。」 しかしながら、 ア 上記記載には、計算による電磁界解析が如何なるものか開示されていない。 イ 反射体が発光体の光を反射するものであればその反射光の周波数は発光体の光の周波数と同じであってわずかに低くはならない。 ウ 反射体が、発光体の光の周波数よりわずかに低い周波数の光を発するものであったとしても、同じ周波数で位相が同期した2つの光ならば干渉により特定方向に光が強くなる放射パターンを形成することがあり得ても、周波数が異なる2つの光が干渉を生じることはない。 上記アないしウより、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参照しても、請求項1及び請求項2の「固有共振周波数」がどのような構成を意味するか理解できない。 (4) まとめ 上記(1)ないし(3)の検討より、依然として、「固有共振周波数」に係る構成を含む本願の請求項1及び請求項2の記載は明確でない。 第5 むすび 以上のとおり、本願の請求項1及び請求項2の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本願の請求項1及び請求項2に係る発明は、特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-03-30 |
結審通知日 | 2012-04-03 |
審決日 | 2012-04-16 |
出願番号 | 特願2003-19727(P2003-19727) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(G02B)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 和田 将彦 |
特許庁審判長 |
江成 克己 |
特許庁審判官 |
松川 直樹 北川 創 |
発明の名称 | フォトニック結晶光回路及びその制御方法 |
代理人 | 加藤 朝道 |