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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01G
管理番号 1257989
審判番号 不服2011-3531  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-02-16 
確定日 2012-06-07 
事件の表示 特願2010- 40223「電気二重層キャパシタ」拒絶査定不服審判事件〔平成22年10月 7日出願公開,特開2010-226100〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成22年2月25日(特許法41条に基づく優先権主張平成21年2月25日)の出願であって,平成22年3月24日付けの拒絶理由通知に対して,同年5月31日に意見書が提出されたが,同年11月10日付けで拒絶査定がされ,これに対し,平成23年2月16日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに,同日に手続補正書が提出され,その後,当審において平成23年12月7日付けで審尋がされ,平成24年2月13日に回答書が提出されたものである。

第2 平成23年2月16日に提出された手続補正書による補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成23年2月16日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は,本件補正前の請求項1?5を本件補正後の請求項1?4とする補正を含むものであって,本件補正前の請求項2及び本件補正後の請求項1は次のとおりである。
(1)本件補正前の請求項2
「3.5V以上の動作電圧が可能な電気二重層キャパシタであって,
一対の集電体と,
前記集電体の間に配置されるセパレータと,
少なくとも一方の前記集電体の表面のうち前記セパレータに対向する表面を被覆する導電性皮膜と,
前記集電体および前記導電性皮膜の少なくとも前記導電性皮膜の表面のうち前記セパレータに対向する表面に接するように形成される分極性電極と,
電解液と
を備える電気二重層キャパシタ。」

(2)本件補正後の請求項1
「3.5V以上の動作電圧が可能な電気二重層キャパシタであって,
一対の集電体と,
前記集電体の間に配置されるセパレータと,
少なくとも一方の前記集電体の表面のうち前記セパレータに対向する表面を被覆する導電性皮膜と,
前記集電体および前記導電性皮膜の少なくとも前記導電性皮膜の表面のうち前記セパレータに対向する表面に接するように形成される分極性電極と,
溶媒が含フッ素有機溶媒であり,前記分極性電極に含浸される電解液と
を備える電気二重層キャパシタ。」

(3)本件補正の内容
本件補正のうち,本件補正前の請求項1?5を本件補正後の請求項1?4とする補正は,次の補正事項をその内容とするものである。
<補正事項1>
本件補正前の請求項1を削除し,本件補正前の請求項2?5を補正後の請求項1?4とし,対応する引用請求項の番号を変更すること。
<補正事項2>
本件補正前の請求項2の「電解液」を,本件補正後の請求項1の「溶媒が含フッ素有機溶媒であり,前記分極性電極に含浸される電解液」と補正すること。

2 補正事項の検討
上記補正事項1?2について,新規事項の追加の有無及び補正目的の適否を検討する。

・補正事項1は,請求項の削除を目的とするものである。また,新規事項を追加するものでないことは明らかである。
・補正事項2は,本願の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲及び図面(以下「当初明細書等」という。)の【0006】,【0036】及び【0037】に基づくものであるから,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものである。また,上記補正事項は,補正前の「電解液」を補正後の「溶媒が含フッ素有機溶媒であり,前記分極性電極に含浸される電解液」と限定するものであるから,特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当する。

したがって,上記補正事項1?2は,特許法17条の2第3項の規定に適合し,同法17条の2第5項第1号及び第2号に掲げる事項を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件の検討
上記2で検討したとおり,本件補正は,特許法17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正(補正事項2)を含んでいる。そこで,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて,以下で更に検討する。

3-1 本件補正後の請求項1に係る発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)は,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである(上記1(2))。

3-2 引用例に記載された事項と引用発明
(1)引用例1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2002-231586号公報(以下「引用例1」という。)には,図1とともに,次の記載がある(下線は当審で付加。以下同じ。)。

「【0004】上記の活性炭を電極に用いる電気二重層キャパシタは,高出力および10万サイクルを超える高信頼性を期待できる。しかしながら,この電気二重層キャパシタは,電極の体積当たりの容量が小さく,充分な蓄電デバイスとして機能させようとする場合には,電気二重層キャパシタの体積増大が制約条件となり,実用に至らないケースが多い。特に,ハイブリッド自動車用あるいは自動車のスターター用の電気二重層キャパシタには,2kW/lを超える出力密度が要求されており,高出力密度と高エネルギー密度とを兼ね備えた電気二重層キャパシタの実用化が強く求められている。
【0005】高出力の電気二重層キャパシタを得るためには,内部抵抗を低下させることが必要である。電気二重層キャパシタの内部抵抗は,電極部の導電性のみならず,電解液の導電性にも大きく影響される。
【0006】電解液は,水系と有機溶媒系とに大別される。電気伝導度に関して,水系電解液と有機溶媒系とを比べると,水系電解液の方が高い値を示すが,耐電圧が低く,大きなエネルギーを取り出し難い。これに対し,有機溶媒系電解液は,耐電圧が高く,大きなエネルギーを取り出すために有効であることから,これを使用する電気二重層キャパシタの研究開発が現在広く行われている。
【0007】有機溶媒系電解液を用いる電気二重層キャパシタにおいては,電解液の低い電気伝導度に起因する高い内部抵抗値を低下させるために,電極層厚を薄くしかつ電極面積を大きくして,巻回するか,或いは電極を何層にも積層することにより,電極の総面積を増加させることが行なわれている。
【0008】しかしながら,電気二重層キャパシタの内部抵抗を低下させるためには,上述の様に電極面積を大きくするだけでは不充分である。例えば,電極材料スラリーを集電体としての銅箔,アルミニウム箔などの金属箔表面にドクターブレードなどにより塗工し,乾燥させて,電極とする場合に,集電が取りにくくなるという問題がある。その様な場合には,電極層と金属箔間での剥離が発生して,電気二重層キャパシタの作製中または使用中に内部抵抗が上昇する,或いは自己放電特性が悪くなるなどの点で,電気二重層キャパシタの信頼性に悪影響を及ぼすものと考えられる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】従って,本発明は,体積当たりの容量が高く,内部抵抗が低く,且つ量産性に優れた電気二重層キャパシタ用電極,および該電極を用いる電気二重層キャパシタを提供することを主な目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者は,上記の従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果,特定の物性を有する活性炭を用いる電極層と集電体との間に,熱可塑性樹脂をバインダーとしかつ黒鉛を含む導電性皮膜を介在させた電極が,電気二重層キャパシタ用の電極として優れた効果を発揮すること,しかもこの電極は製造が極めて容易であり,生産性に優れていることを見いだした。」
「【0012】
【発明の実施の形態】以下,本発明の一実施形態を示す図面を参照しつつ,本発明による電気二重層キャパシタについて説明する。図1は,本発明による電気二重層キャパシタの構成の一例を示す概略断面図である。
【0013】図1に示すように,一対の電極1,1’が,セパレータ2を介した状態で,外装缶4内に収納されている。電極1,1’およびセパレータ2には,電解液が含浸されており,また電流を外部に取り出すために,電極1,1’は,集電体3,3’と積層され,電気的に接続されている。なお,電気二重層キャパシタの形状は,特に限定されるものではなく,フィルム型,コイン型,円筒型,箱形などの形状に作製することができる。
【0014】電極1,1’は,公知の手法に準じて,製造することができる。すなわち,電極-集電体積層体は,集電体3,3’としてのシート状金属体乃至金属箔の表面に予め導電性塗料を塗布し,乾燥して,導電性薄膜(図示せず)を形成した後,公知の電気二重層キャパシタ用電極の製造における常法に従って,N-メチルピロリドンなどの溶媒に活性炭-バインダー混合物を分散させたスラリーを上記導電性薄膜上に塗布し,乾燥し,プレスすることにより,製造することができる。上記集電材としては,金属箔,エッチング金属箔,エキスパンドメタルなどが使用され,これらの中では,アルミニウム箔がより好ましい。集電材の厚みは,特に限定されるものではないが,通常10?70μm程度であり,より好ましくは20?50μm程度である。集電体が薄すぎる場合には,取り扱いが難しくなるのに対し,厚すぎる場合には,電極-集電体積層体中の金属部分の占有体積が大きくなり,容量を低下させる。
【0015】上記電極-集電体積層体の中間介在層としての導電性薄膜は,熱可塑性樹脂をバインダーとする黒鉛含有塗布組成物を用いて,形成される。熱可塑性樹脂は,特に限定されるものではないが,エチレン-アクリル酸共重合体であることが好ましい。黒鉛も,特に限定されるものではないが,天然黒鉛,人造黒鉛,黒鉛化炭素繊維の粉末などが例示される。黒鉛粒子の平均粒子経は,通常0.05?20μm程度であり,より好ましくは0.1?10μm程度である。導電性皮膜形成用の塗布組成物には,黒鉛以外にも,カーボン,金属粉などを配合しても良い。導電性皮膜の厚さは,通常0.5?10μm程度であり,より好ましくは1?5μm程度である。導電性皮膜が薄すぎる場合には,十分な集電が得られ難いのに対し,厚すぎる場合には,皮膜上に形成される活性炭含有電極層の体積が相対的に減少するので,容量が得られ難い。
【0016】電極は,上記集電体上に予め形成された導電性薄膜上に活性炭とバインダーを含む混合物を塗布することにより,形成される。」
「【0026】電極1,1’およびセパレータ2に用いられる電解液としては,特に限定されないが,非水系電解液を用いることが好ましく,単セル当たりの電圧が高い有機電解液を用いることがより好ましい。有機溶媒としては,特に限定されるものではないが,プロピレンカーボネート,エチレンカーボネート,ブチレンカーボネート,γ-ブチロラクトン,スルホラン,アセトニトリルなどの公知の非プロトン性溶媒が好適であり,これらのうちの1種或いは2種以上の混合物を使用することが好ましい。電解質としても,特に限定されるものではないが,テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート,トリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレート,テトラエチルアンモニウムヘキサフルオロフォスフェートなどの公知のものが使用でき,これらのうちの1種或いは2種以上の混合物を使用することができる。有機電解液は,非プロトン性の有機溶媒に対し電解質を通常0.5?3.0mol/l(より好ましくは0.7?2.0mol/l程度)に溶解したものを使用する。
【0027】上記のように構成された電気二重層キャパシタの充電電圧は,電気二重層キャパシタに用いる活性炭種,電解液,使用温度,目的とする寿命などを考慮して適宜決定すれば良く,上記有機電解液を用いた場合には,1.8?3.3Vの範囲に設定することが好ましい。充電電圧が,1.8V未満の場合には,利用可能な容量が減少するので好ましくなく,3.3Vを超える場合には,電解液の分解が激しくなるのでやはり好ましくない。
【0028】上記の様な工程を経て,集電体との間に導電性薄膜を介在させた電極が得られる。この電極は,導電性薄膜を介在させない電極に比して,抵抗値を大きく低下させることができるので,高容量の電気二重層キャパシタが得られる。」

(2)記載事項の整理
以上の摘記を整理すると,引用例1には次の事項が記載されているといえる。
・【0027】から,充電電圧が1.8?3.3Vの電気二重層キャパシタが記載されている。
・【0013】から,一対の電極1,1’が,セパレータ2を介した状態で収納され,電極1,1’およびセパレータ2には,電解液が含浸され,電極1,1’は,集電体3,3’と積層されていることが記載されている。
・【0010】【0015】から,電極1,1’と集電体3,3’との中間介在層として導電性薄膜を形成することが記載されている。
・【0026】から,溶媒が有機溶媒である電解液を用いることが記載されている。

(3)引用発明
上記によれば,引用例1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「充電電圧が1.8?3.3Vの電気二重層キャパシタであって,
一対の電極1,1’が,セパレータ2を介した状態で収納され,
電極1,1’およびセパレータ2には,電解液が含浸され,
電極1,1’は,集電体3,3’と積層され,
電極1,1’と集電体3,3’との中間介在層として導電性薄膜が形成され,
溶媒が有機溶媒である電解液を用いる,
電気二重層キャパシタ。」

(4)引用例2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2008-16560号公報(以下「引用例2」という。)には,次の記載がある。

「【0018】
本発明者らは,含フッ素ラクトンをベースにし,電解質の非水系電解液の要求特性を満足させる化合物を鋭意検討した結果,含フッ素ラクトンに含フッ素メチル基を少なくとも1個配置させることにより上記の問題点を解消できることを見出し,さらに検討を進めた結果,含フッ素メチル基,要すればさらにフッ素原子で置換することでも充分に電気二重層キャパシタの電解液として優れた性能を発揮することを見出し,本発明を完成するに至った。」
「【0192】
こうした電解液は,難燃性,低温特性,電解質塩の溶解性および炭化水素系溶媒との相溶性を同時に向上させることができ,さらに3.5Vを超える,さらには4.0Vを超える耐電圧で安定した特性が得られるので,電気二重層キャパシタの電解液として優れている。」

3-3 補正発明と引用発明との対比
補正発明と引用発明とを対比する。

・引用発明における「セパレータ2」及び「集電体3,3’」は,補正発明における「セパレータ」及び「一対の集電体」にそれぞれ相当する。
・引用例1の【0013】,【0016】によれば,引用発明における「一対の電極1,1’」は,活性炭を含み電解液が含浸され,「セパレータ2」を介して収納された電気二重層キャパシタの電極であるから,補正発明における「分極性電極」に相当する。
・引用発明における「電極1,1’と集電体3,3’との中間介在層」である「導電性薄膜」は,補正発明における「少なくとも一方の前記集電体の表面のうち前記セパレータに対向する表面を被覆する導電性皮膜」に相当する。
・引用発明の「電解液」は,「溶媒が有機溶媒」であり,「電極1,1’およびセパレータ2」に含浸されるものであるから,引用発明の「電解液」と補正発明の「電解液」は,「溶媒が有機溶媒であり,前記分極性電極に含浸される電解液」である点で共通する。

以上を総合すると,補正発明と引用発明の一致点及び相違点は,次のとおりである。

<一致点>
「電気二重層キャパシタであって,
一対の集電体と,
前記集電体の間に配置されるセパレータと,
少なくとも一方の前記集電体の表面のうち前記セパレータに対向する表面を被覆する導電性皮膜と,
前記集電体および前記導電性皮膜の少なくとも前記導電性皮膜の表面のうち前記セパレータに対向する表面に接するように形成される分極性電極と,
溶媒が有機溶媒であり,前記分極性電極に含浸される電解液と
を備える電気二重層キャパシタ。」
である点。

<相違点1>
補正発明は「3.5V以上の動作電圧が可能な電気二重層キャパシタ」であるのに対し,引用発明は「充電電圧が1.8?3.3Vの電気二重層キャパシタ」であり,「3.5V以上の動作電圧が可能」であることの教示がない点。

<相違点2>
補正発明は「有機溶媒」が「含フッ素有機溶媒」であるのに対し,引用発明は「有機溶媒」がそのように特定されていない点。

3-4 相違点についての判断
(1)相違点1,2について
相違点1,2についてまとめて検討する。

ア 引用例1の【0006】には,水系電解液より耐電圧の高い有機電解液の方が好ましいことが,【0026】には,単セル当たりの電圧が高い有機電解液を用いることがより好ましいことが記載されているから,引用例1には,より高い耐電圧の有機電解液が好ましいことが示唆されているといえる。一方,本願優先権主張の日前に公知の文献である引用例2には,3.5Vを超える耐電圧を有する含フッ素有機溶媒が開示されており,加えて,当該含フッ素有機溶媒により,難燃性,低温特性,電解質塩の溶解性および炭化水素系溶媒との相溶性を同時に向上させることができることが記載されている。
そうすると,3.5Vを超える高い耐電圧を有し,難燃性等の優れた特性を有する引用例2の含フッ素有機溶媒を適用することにより,引用発明を「3.5V以上の動作電圧が可能」な電気二重層キャパシタとすることは,当業者が容易に想到し得たことであるということができる。

イ また,以下の周知例の記載からも明らかなように,電気二重層キャパシタの内部抵抗は「充電エネルギーよりも放電エネルギーを小さくし,エネルギー効率の低下を招く」ものであること,そのため,内部抵抗の低減が望まれていたことは,当業者の技術常識である。
一方,引用例1の【0005】,【0009】及び【0028】の記載からみて,引用発明は導電性薄膜を形成することにより,導電性薄膜を形成しない電気二重層キャパシタに比べ内部抵抗が低減されたものであるといえる。
そうすると,導電性薄膜を形成し内部抵抗が低減された引用発明において,導電性薄膜を形成していない電気二重層キャパシタに比べ放電エネルギーの向上が期待できることは,上記の技術常識から当業者が普通に予測し得たことであり,さらに,引用発明において引用例2の有機溶媒を適用して動作電圧を向上させたもの(すなわち充電エネルギーを向上させたもの)についても同様に,導電性薄膜を形成していないものに対する定性的な放電エネルギーの向上を予測することは,当業者にとって自然なことであるといえる。しかも,そのような予測は,補正発明の課題である「高電圧印加時において,導電性皮膜がない場合よりも」「放電時の電圧降下を小さくして充電電圧に見合った放電にできるだけ近い放電を得られるようにする」(本願明細書【0005】,【0007】)との課題を解決することと実質的に同等であると理解できる。

ウ 以上のとおり,技術常識に照らしつつ引用発明において引用例2に記載された公知技術を適用することにより,補正発明の構成をすべて充足し補正発明の課題を解決し得るものを想到することは,当業者が普通に行う技術的創作活動の範囲内において容易になし得たことであるということができる。

・周知例:特開2000-286172号公報
本願の優先権主張の日前に日本国内で頒布された刊行物である上記周知例における「従来の技術」の項には,次の記載がある。
「【0003】該電気二重層コンデンサ素子を用いた電気二重層コンデンサは,前記分極性電極箔の両面に形成された前記活性炭層の電気抵抗や,電気二重層コンデンサの内部で使用されている電解液の電気抵抗,その他の構成部品の接触抵抗等を併せた内部抵抗を有する。また,前記電解コンデンサ素子を用いた電解コンデンサにおいても,その内部で使用されている電解液の電気抵抗やその他の構成部品の接触抵抗等を併せた内部抵抗を有する。
【0004】これらコンデンサの内部抵抗は,コンデンサに充電する際の充電電流を消費し,熱エネルギーとして放出してしまう。そのため,コンデンサに蓄積されるエネルギーは,コンデンサに入力された全充電エネルギーのうち,コンデンサの内部抵抗によって熱として失われたエネルギー分を差し引いた分となる。更に,該内部抵抗に伴う熱エネルギーとしての放出は,コンデンサからの放電時における放電電流についても前記充電電流と同様に前記内部抵抗により消費され,コンデンサに蓄積されていたエネルギーのうち,コンデンサの内部抵抗によって熱エネルギーとして失われる分を差し引いたエネルギーが外部に放出される。以上のように,コンデンサの内部抵抗はコンデンサに加えられる充電エネルギーよりも放電エネルギーを小さくし,エネルギー効率の低下を招くものであり,前述の充放電時に前記熱エネルギーとして消費されるエネルギ-量はコンデンサの内部抵抗の大きさに比例するものである。
【0005】特に,前記電気二重層コンデンサは電池の代替用等,電気エネルギーの蓄積部品としての用途が期待されるものであり,前記充放電の際のエネルギー効率の低下は好ましいものではない。そのため,電気二重層コンデンサの分野ではその内部抵抗の低減が強く望まれている。」

(2)審判請求人の主張について
審判請求人は,意見書,請求の理由,及び回答書において,補正発明は新規な課題を解決したものであり,引用例1,2とは前提及び技術思想において大きく異なる旨を主張しており,例えば,請求の理由の「(d-3-1)新規な課題を解決した点について」において,次のように主張している。
「本願発明は,高い電圧を印加しても分解されにくいような高耐電圧の溶媒を含む電解液を,実際に電気二重層キャパシタに組み込んで応用してみた場合に初めて問題として確認することができうる“放電開始時の急激な電圧降下を抑制させること”を新規な課題として捕らえ,この新規な課題を,導電性皮膜を採用することにより解決して完成に至ったものです。
・・・(中略)・・・
具体的には,比較的低い電圧で充電した後の放電開始時には,急激な電圧降下は確認されないにもかかわらず,高い電圧で充電した後に放電する場合には放電開始時に著しい電圧降下が生じる,という現象を確認することができました。そして,このように高い電圧で充電した場合であっても,放電開始時に著しい電圧降下が生じにくいようにする,という新規な課題を見出すに至りました。
・・・(中略)・・・
したがって,上記新規な課題を見出すためには,電気二重層キャパシタにおいて,高い耐電圧の溶媒を含む電解液を実際に採用し,高い電圧と低い電圧とで充電および放電した際に生じる現象に着目することが必要になります。これに対して,従来の低い耐電圧の溶媒を含む電解液を用いて溶媒の分解が生じない範囲で充放電を行う場合には,『低い電圧で充電した場合よりも高い電圧で充電した場合のほうが,上記放電開始時の急激な電圧降下が生じやすい』という現象を確認することすらできません。
・・・(中略)・・・
引用文献1の記載からは,『3.5V以上の充電電圧に耐えうる溶媒の電解液を採用した電気二重層キャパシタにおいて,実際に,3.5V以上の充電電圧で充電を行う』,という操作が実際に行われたこと,もしくは,行われること,を把握することができません。
したがって,上述しましたように,引用文献1に接した当業者は,引用文献1の記載に基づいて『3.5V未満のような低い充電電圧によって充電した場合における放電時の電圧降下(小さな内部抵抗の発生)』の現象を確認することは可能であったとする余地は残りますが,少なくとも,本願発明が『新規な課題』として述べている『3.5V以上の高い充電電圧によって充電した場合における放電開始時の著しい電圧降下(大きな内部抵抗の発生)』の現象を確認することは,いかに当業者であっても不可能であったといえます。
・・・(中略)・・・
そうすると,当業者は,そもそも,本願発明の解決した『新規な課題』を発見することですら困難であったことになるため,そのような『新規な課題』を発見し,さらに,そこから,その『新規な課題』を解決するための解決手段を見出すことは,いかに当業者といえども困難であり,本願発明は進歩性を有していることになります。」

しかしながら,たとえ導電性皮膜のないキャパシタを高電圧で充電したとき充電電圧に見合った放電が十分に得られないことが,本願出願人によってはじめて見出された知見であって,当該知見を引用例1及び2からは見出し得ないとしても,そのことは上記(1)アで示した,補正発明の客観的構成を充足する電気二重層キャパシタに到達することが当業者にとって容易であったとの論理付けを妨げるものではない。
また,当該知見の有無あるいは導電性皮膜のないキャパシタを高電圧で充電したときのふるまいの詳細に関わらず,少なくとも,導電性皮膜のないキャパシタよりも導電性皮膜のあるキャパシタの方が放電エネルギーが向上することは,上記(1)イのとおり,当業者が十分に予測し得たことである。さらに,本願明細書等の表2及び図3によれば,導電性皮膜の存在により低電圧充電においても放電量が改善されていることが見て取れるから,補正発明の効果は,経緯としては導電性皮膜のないキャパシタを高電圧充電した場合との比較により見出されたものであったとしても,実際の効果としては,内部抵抗の低減による放電エネルギーの向上という上記の技術常識から直ちに察知し得たものと同様のものであるといえる。
したがって,審判請求人の上記主張は採用できない。

(3)小括
上記(1)(2)のとおり,相違点1及び2に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。したがって,補正発明は,技術常識に照らし引用発明及び引用例2の公知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

3-5 独立特許要件についてのまとめ
以上のとおり,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。したがって,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条5項の規定に適合しない。

4 補正却下の決定についてのまとめ
以上検討したとおり,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条5項の規定に適合しないものであるから,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成23年2月16日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1?5に係る発明は,本願の願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるものであり,その内の請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)は,上記第2,1(1)に本件補正前の請求項2として摘記したとおりのものである。

2 引用発明
引用発明は,上記第2,3-2(3)で認定したとおりのものである。

3 対比・判断
上記第2,2で検討したように,補正発明は,本件補正前の請求項2について,上記第2,2に示した補正事項2の点を限定したものである。
そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,これをさらに限定したものである補正発明が,上記第2,3で検討したとおり,引用発明及び引用例2の公知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたものということができる。

4 本願発明についての結論
以上検討したとおり,本願発明は,引用発明及び引用例2の公知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第4 結言
以上のとおりであるから,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-28 
結審通知日 2012-04-03 
審決日 2012-04-17 
出願番号 特願2010-40223(P2010-40223)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 竹口 泰裕  
特許庁審判長 齋藤 恭一
特許庁審判官 小川 将之
西脇 博志
発明の名称 電気二重層キャパシタ  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  

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