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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05K
管理番号 1257991
審判番号 不服2011-5054  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-03-07 
確定日 2012-06-07 
事件の表示 特願2005-364544「電波試験室」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 7月 5日出願公開、特開2007-173280〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成17年12月19日の出願であって、平成22年12月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年3月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明

本願の請求項1ないし15に係る発明は、平成22年5月24日付けの手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
屋根パネルや壁パネルなどの電波シールド材で室全体を覆うとともに、電波吸収体を室内側に配置した電波試験室において、
前記壁パネルは、パネル状のコア材と、このコア材の周縁部に配置されたフレーム材と、前記コア材およびフレーム材の両面に貼り付けられた導電性表面材と、を備えており、
前記フレーム材のうち、少なくとも縦方向に延びるフレーム材には、嵌合溝が形成されており、
隣り合う壁パネル同士は、隣り合う一対の嵌合溝で構成される嵌合孔と嵌合する嵌合部材を前記嵌合溝に挿入するとともに、隣り合う導電性表面材間に導電性パッキンを介設することで、電気的に接触して接続され、
室外には絶縁変圧器が設けられ、この絶縁変圧器の出力側ケーブルは電源フィルタまたは導波管を介して室内へと引き込まれ、前記出力側ケーブルは室内に設けられた照明装置に接続され、
前記壁パネルには、開閉可能に形成され閉時に電波を遮蔽する扉が設けられ、
前記扉は、導電性の扉本体パネルと、導電性の扉枠材と、を有しており、
前記扉本体パネルの周縁部または、前記扉枠材の前記扉本体パネルとの当接部分の少なくとも一方に、扉用の導電性パッキンが設けられ、
前記扉本体パネルには、電波の遮蔽性を有するとともに室内を視認可能な窓が設けられた
ことを特徴とする電波試験室。」

3.引用刊行物とその記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に日本国内において頒布された刊行物は、次のとおりである。なお、刊行物1は、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1であり、以下同様に、刊行物2は引用文献2、刊行物3は引用文献10、刊行物4は引用文献8である。

刊行物1:実願平3-74559号(実開平5-20390号)
のCD-ROM
刊行物2:特開平9-199885号公報
刊行物3:実願昭57-129269号(実開昭59-33297号)
のマイクロフィルム
刊行物4:特開平2-281800号公報

(1)刊行物1(実願平3-74559号(実開平5-20390号)のCD-ROM)の記載事項

刊行物1には、「電磁波シールドパネルの連結構造」に関し、図面(特に、図1?4)とともに次の事項が記載されている。

(ア) 「【0001】
【産業上の利用分野】
この考案は電磁波シールドパネルの連結構造に関するもので、更に詳細には、例えば電磁波を発生する医療機器やコンピュータ関連機器等を設置する電磁シールド室を構成する電磁波シールドパネルの連結部に電磁波遮断機能を具備させた電磁波シールドパネルの連結構造の改良に係るものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、電磁波を発生する医療機器、コンピュータ関連機器あるいは半導体等を製造するクリーンルーム等においては電磁シールド室が使用されており、この電磁シールド室には一対の金属製表面板間に例えば発泡ポリウレタン等の断熱性芯材を充填した電磁波シールドパネル(以下にパネルという)が使用されている。このように構成される電磁シールド室においては、パネル間の連結部に電磁波の漏れを防止する必要がある。」

(イ) 「【0015】
電磁シールド室は、天井パネル1、壁パネル2及び床パネル3とで構成されている。そして、各パネル1,2,3は、それぞれ一対の金属製表面板4,4間に例えば発泡ポリウレタン等の断熱性芯材5を充填した断熱構造となっており、連結側端部には例えばプラスチック製の枠材6が表面板4の折曲縁4aの内側に位置した状態で取付られている。
【0016】
この場合、金属製表面板4は、例えばステンレス板、亜鉛メッキ鋼板あるいはアルミニウム板等の導電性板材が使用される。なおこの場合、少なくともパネル1,2,3(以下、壁パネル2で代表する)の一方の表面板4は導電性を有する必要があり、例えばアルマイト処理したアルミニウム板を使用する場合には、折曲縁4aのアルマイト部を研磨して導通部を形成する必要がある。
【0017】
上記のように形成される壁パネル2は、電磁シールド室の室側において、導電部に導電性シールド部材7を圧接固定した状態でパネル連結手段10によって連結されている。
【0018】
パネル連結手段10は、壁パネル2の連結側枠材6に設けられた凹状の連結溝6a内に嵌合する一対の嵌合凸条11,11を両端に有する嵌合部材12と、両壁パネル2,2の導電部間に導電性シールド部材7(以下にシールド部材という)を導通すべく嵌合部材12に係合する固定部材13とで構成されている。この場合、嵌合部材12は、例えばアルミニウム製押出形材にて形成されており、隙間14を形成する中空矩形状の基部12aの両側に中空状の嵌合凸条11,11を設け、また、基部12aの一方の面には固定部材13と係合する一対の係止爪12b,12bを有する係合受部12cが形成されている(図3参照)。固定部材13は、図3及び図4に示すように、アルミニウム製押出形材にて形成されており、断面ほぼI型の本体13aの先端に嵌合部材12の係合受部12cの係止爪12b,12b間に係合するテーパ状の係止凸条13b(係合部)を突設してなる。
【0019】
また、シールド部材7は、図4に示すように、弾力性及び復元性を有する内部芯7aと、この内部芯7aを被覆する可撓性を有する導電性被覆部材7bとで構成されており、例えば断面矩形状の2つの内部芯7a,7aを導電性被覆部材7bにて被覆した断面ほぼめがね状に形成されている。この場合、内部芯7aは、例えばシリコーン又はネオプレーンゴム等にて形成され、また、導電性被覆部材7bは、例えば可撓性を有する金属ワイヤーメッシュにて形成されている。なお、図4では内部芯7a,7a間の導電性被覆部材7bが固定部材13より離れた位置にあるが、固定部材13側に位置させてもよい。
【0020】
次に、壁パネル2,2の連結態様について図2ないし図4を参照して説明する。まず、連結する両壁パネル2,2の枠材6の連結溝6a内に嵌合部材12の嵌合凸条11を嵌合させて両壁パネル2,2を連結すると共に、両壁パネル2,2間に隙間14を形成する。なおこの場合、壁パネル2の組立て手順として端部側の固定された壁パネル2に順次、嵌合部材12を介して連結するため、中間に位置する各壁パネル2自体は固定手段によって固定する必要はない。
【0021】
このようにして、両壁パネル2,2を連結した後、シールド部材7の中央部に固定部材13の係止凸条13bを突き当てて固定部材13の本体13aの両側に内部芯7aを位置させた状態にして(図3参照)、固定部材13の係止凸条13bを嵌合部材12の係合受部12cの係止爪12b,12b間に嵌合させる。このとき、シールド部材7の内部芯7aの弾力性及び復元性によってシールド部材7は壁パネル2の導電部である折曲縁4aに圧接固定されるので、両壁パネル2の導電部間は確実に通電状態となる。このとき、固定部材13は表面が導電性のアルミニウム等の金属である方が好ましい。
【0022】
そして、電磁シールド室の室外側の隙間14にコーキング材15を充填して壁パネル2の連結作業は完了する(図2参照)。」

上記記載事項(ア)、(イ)及び図面(特に、図1?4)の記載を総合すると、刊行物1には、
「電磁シールド室は、天井パネル1、壁パネル2及び床パネル3とで構成されており、
壁パネル2は、一対の金属製表面板4,4間に断熱性芯材5を充填した断熱構造となっており、連結側端部には枠材6が表面板4の折曲縁4aの内側に位置した状態で取付られており、
壁パネル2は、電磁シールド室の室側において、導電部に導電性シールド部材7を圧接固定した状態でパネル連結手段10によって連結されており、
パネル連結手段10は、壁パネル2の連結側枠材6に設けられた凹状の連結溝6a内に嵌合する一対の嵌合凸条11,11を両端に有する嵌合部材12と、両壁パネル2,2の導電部間に導電性シールド部材7を導通すべく嵌合部材12に係合する固定部材13とで構成されており、
連結する両壁パネル2,2の枠材6の連結溝6a内に嵌合部材12の嵌合凸条11を嵌合させて両壁パネル2,2を連結すると共に、両壁パネル2,2間に隙間14を形成し、
両壁パネル2,2を連結した後、シールド部材7の中央部に固定部材13の係止凸条13bを突き当てて固定部材13の本体13aの両側に内部芯7aを位置させた状態にして、固定部材13の係止凸条13bを嵌合部材12の係合受部12cの係止爪12b,12b間に嵌合させ、シールド部材7の内部芯7aの弾力性及び復元性によってシールド部材7は壁パネル2の導電部である折曲縁4aに圧接固定されるので、両壁パネル2の導電部間は確実に通電状態となるようにした
電磁シールド室。」
の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2)刊行物2(特開平9-199885号公報)の記載事項

刊行物2には、「電波暗室」に関し、図面(特に、図1?4)とともに次の事項が記載されている。

(ウ) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、アンテナ試験、電子機器のEMC試験等に使用する電波暗室(電磁波遮蔽室)に係り、特に室全体に電磁波シールドを施し誘電体型電波吸収体や誘電体型電波吸収体とフェライトとの組み合わせによる電波吸収体(以下、複合型電波吸収体という)を電磁波シールド材上に配設してなる電波暗室に関する。」

(エ) 「【0012】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明に係る第1の電波暗室は、電磁波シールド材で室全体を覆い、電波吸収体を室内側に設置した構造を有し、さらに前記電磁波シールド材の室内面に金物を溶接し、該金物に支持された非導電性綱により、前記室内面の少なくとも天井部分に前記電波吸収体を配設した構成としている。」

(オ) 「【0020】これらの図において、1は電磁波シールド材であり、図3、図4の如く溶接ボルト4aを溶接しても、溶断等しないような材料として1.6mm厚以上の鉄板等を用いている。2は誘電体型電波吸収体で、発泡体としての発泡ポリエチレンにオーム損失体としてのカーボン粉末を分散させた材質のもので、底部2aとなる誘電体部分と複数個の角錐形の山部2bとなる誘電体部分とから構成されている。綱(ロープ)3は非導電性(非金属製)材質であり、例えば太さ6mmのビニロン合繊三つ打ち綱を使用している。図4に拡大して示すように、綱取付金具4は電磁波シールド材1の室内面に溶接(溶着)される溶接ボルト4aとこれに螺着されるアイナット(穴あきナット)4cとの組み合わせであり、電磁波シールド材1の室内面の天井部分等の必要個所に設けるものである。」

(3)刊行物3(実願昭57-129269号(実開昭59-33297号)のマイクロフィルム)の記載事項

刊行物3には、「電波遮蔽室」に関し、図面(特に、第1図)とともに次の事項が記載されている。

(カ) 「この考案は電波の伝播実験,電波雑音界の測定,電子機器の電波系の機能試験等に利用されている電磁遮蔽室(以下シールド・ルームという)に関するものである。
従来,この種のシールド・ルームの照明はシールド・ルーム内に照明装置を取付けて所要の照度を確保していた。
第1図は,その一実施例を示す断面図であり,図において(1)は天井,(2)は床,(3)は壁,(4)は照明装置,(5)は電源と照明装置とを電気接続する電線,(6)は電磁フィルター,(7)は照明装置点滅用のスイッチ,(8)は絶縁トランスを示している。
なお,照明装置(4)は天井面のみでなく,壁面に取付けることも可能であるが,ここでは説明を容易にする為に天井面に取付けられた場合を例にとって説明する。
ところで,シールド・ルーム内に照明装置を取付ける場合には通常の室内照明と異なり所定のシールド性能を得る為に,一般的に電磁フィルター(6)及び絶縁トランス(8)を設置することを必要とした。これは電磁フィルター(6)に於いて,所定周波数以外の電気的ノイズを除去し有害なノイズが室内に入るのを防止することを目的とし,絶縁トランス(8)は電撃防止及び電源側と室内側の電気的絶縁により電源側から来るノイズを低減させる目的としたものである。」(明細書第1ページ第11行?第2ページ第16行)

(4)刊行物4(特開平2-281800号公報)の記載事項

刊行物4には、「電波シールドルームと、その扉枠と窓枠」に関し、図面(特に、第1図、第9図、第10図)とともに次の事項が記載されている。

(キ) 「産業上の利用分野
この発明は、特に、医療用に使用されるMRI装置(核磁気共鳴画像診断装置)の設置等の用途に好適な電磁シールドルームと、その扉枠と窓枠に関する。」(第2ページ左上欄第2?6行)

(ク) 「電磁シールドルームは、その床面F1と、四周の壁面F2、F2…と、天井面F3とを、パネル材11、11…を連結して形成する(第1図)。
電磁シールドルームは、建築物の内部に構築され、その周囲は、建築物の壁W、W…によって囲まれるとともに、必要個所には、扉D、D付きの出入口ENと、覗き窓WDと、設置機器用のケーブル引込口CPとが設けられている。」(第3ページ右上欄第8?15行)

(ケ) 「出入口ENの扉D、Dは、内開きの観音扉である(第9図)。扉D、Dは、板材を適当に折曲げ成形してなり、その一方には、開閉ノブD1、D1を取り付け、また、他方には、シールドブロックD3を挿着するためのポケット部D2を形成してある。ただし、シールドブロックD3は、ゴム質の弾性体の表面に導電性の金属編組被覆を形成したパッキング材であって、扉D、Dを閉鎖するとき、扉D、Dの間に、完全な電気的接触を実現することができるものとする。扉D、Dは、ヒンジD4、D4を介して、扉枠の一部を形成する一対の立枠51、51に開閉自在に取り付けられている。
立枠51は、板材を折曲げ成形することにより、その内面に、前部のヒンジ固定部51aと、後部の戸当り部51bと、中間部のポケット部51cとを形成するものである(第10図)。ポケット部51cは、内向きに開口し、その内部には、シールドブロック51dが挿着されている。また、戸当り部51bの上下両端部には、別のシールドブロック51eが取り付けてある。
立枠51の外面は、壁面F2を形成するパネル材11の接合部11bと等ピッチにボルト締め連結されている(第9図)。ただし、立枠51には、補強材52を装着するとともに、このときのカバー部材12は、壁面F2の表面にまで到達するZ形に形成するものとする。」(第4ページ右上欄第10行?左下欄第16行)

(コ) 「以上の説明において、パネル材11、カバー部材12、扉D、扉枠を形成する立枠51、51、上枠53、下枠55、窓枠を形成する第1、第2部材61、62等の各構成部材は、導電性のよい金属板材を使用するものとし、たとえば、亜鉛メッキ鋼板、ステンレス鋼板等が好適である。また、その寸法形状は、所定のシールド効果が得られる限り、図示以外の任意の形態に変更することができる。」(第5ページ右下欄第14行?第6ページ左上欄第2行)

4.発明の対比

本願発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明の「天井パネル1、壁パネル2及び床パネル3」は、電磁波シールド機能を有する部材であるので、本願発明の「屋根パネルや壁パネルなどの電波シールド材」に相当し、刊行物1記載の発明の「電磁シールド室」と本願発明の「電波試験室」とは、ともに室全体が上記の電磁波シールド機能を有する部材で覆われる「電磁シールド室」といえるものである。
また、刊行物1記載の発明の「壁パネル2」は、その機能からみて、本願発明の「壁パネル」に相当し、以下同様に、「金属製表面板4,4」は「導電性表面材」に、「断熱性芯材5」は「コア材」に、「枠材6」は「フレーム材」に、「導電性シールド部材7」は「導電性パッキン」に、「連結溝6a」は「嵌合溝」に、「嵌合部材12」は「嵌合部材」に、それぞれ相当する。
そして、刊行物1記載の発明の「壁パネル2は、一対の金属製表面板4,4間に断熱性芯材5を充填した断熱構造となっており、連結側端部には枠材6が表面板4の折曲縁4aの内側に位置した状態で取付られて」いることは、本願発明の「前記壁パネルは、パネル状のコア材と、このコア材の周縁部に配置されたフレーム材と、前記コア材およびフレーム材の両面に貼り付けられた導電性表面材と、を備えて」いることに実質的に相当する。
また、刊行物1記載の発明の「連結溝6a」は、「壁パネル2の連結側枠材6に設けられた」ものであるので、本願発明の「嵌合溝」が、「前記フレーム材のうち、少なくとも縦方向に延びるフレーム材」に形成されていることに実質的に相当する。
さらに、刊行物1記載の発明の「連結する両壁パネル2,2の枠材6の連結溝6a内に嵌合部材12の嵌合凸条11を嵌合させて両壁パネル2,2を連結する」ことは、本願発明の「隣り合う壁パネル同士は、隣り合う一対の嵌合溝で構成される嵌合孔と嵌合する嵌合部材を前記嵌合溝に挿入する」ことに実質的に相当する。
さらに、刊行物1記載の発明の「シールド部材7は壁パネル2の導電部である折曲縁4aに圧接固定されるので、両壁パネル2の導電部間は確実に通電状態となる」ことは、本願発明の「隣り合う導電性表面材間に導電性パッキンを介設することで、電気的に接触して接続され」ることに実質的に相当する。

よって、本願発明と刊行物1記載の発明とは、
[一致点]
「屋根パネルや壁パネルなどの電波シールド材で室全体を覆う電磁シールド室において、
前記壁パネルは、パネル状のコア材と、このコア材の周縁部に配置されたフレーム材と、前記コア材およびフレーム材の両面に貼り付けられた導電性表面材と、を備えており、
前記フレーム材のうち、少なくとも縦方向に延びるフレーム材には、嵌合溝が形成されており、
隣り合う壁パネル同士は、隣り合う一対の嵌合溝で構成される嵌合孔と嵌合する嵌合部材を前記嵌合溝に挿入するとともに、隣り合う導電性表面材間に導電性パッキンを介設することで、電気的に接触して接続された
電磁シールド室。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
本願発明は、電磁シールド室が「電波吸収体を室内側に配置した電波試験室」であるのに対して、刊行物1記載の発明は、電磁シールド室がそのような電波試験室ではない点。

[相違点2]
照明装置に関し、本願発明は、「室外には絶縁変圧器が設けられ、この絶縁変圧器の出力側ケーブルは電源フィルタまたは導波管を介して室内へと引き込まれ、前記出力側ケーブルは室内に設けられた照明装置に接続され」ているのに対して、刊行物1記載の発明は、そのような照明装置を備えていない点。

[相違点3]
扉に関し、本願発明は、「前記壁パネルには、開閉可能に形成され閉時に電波を遮蔽する扉が設けられ、前記扉は、導電性の扉本体パネルと、導電性の扉枠材と、を有しており、前記扉本体パネルの周縁部または、前記扉枠材の前記扉本体パネルとの当接部分の少なくとも一方に、扉用の導電性パッキンが設けられ」ているのに対して、刊行物1記載の発明は、そのような扉を備えていない点。

[相違点4]
窓に関し、本願発明は、「前記扉本体パネルには、電波の遮蔽性を有するとともに室内を視認可能な窓が設けられ」ているのに対して、刊行物1記載の発明は、そのような窓を備えていない点。

5.当審の判断

(1)相違点1について

刊行物2の上記記載事項(ウ)には、「本発明は、アンテナ試験、電子機器のEMC試験等に使用する電波暗室(電磁波遮蔽室)に係り」と記載されており、当該刊行物2記載の「電波暗室」は、アンテナ試験、電子機器のEMC試験等に使用するものであるので、本願明細書の段落【0001】に記載の「電子機器のEMC(電磁環境適合性)試験やアンテナ試験を行うための電波試験室」、すなわち、相違点1に係る本願発明の「電波試験室」に相当する。
また、刊行物2の上記記載事項(エ)、(オ)及び図1?4の記載を総合すると、電波暗室は、電磁波シールド材1で室全体を覆うとともに、電波吸収体2を室内側に設置した構造を有している。
そして、刊行物1記載の発明の電磁シールド室において、天井パネル1、壁パネル2及び床パネル3とで構成されることに加えて、刊行物2記載の電波吸収体2を室内側に設置した構造を適用して、電波暗室、すなわち、電波試験室とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について

刊行物3の上記記載事項(カ)には、シールド・ルーム内に照明装置を取付けて所要の照度を確保するための構成に関し、「第1図は,その一実施例を示す断面図であり,図において(1)は天井,(2)は床,(3)は壁,(4)は照明装置,(5)は電源と照明装置とを電気接続する電線,(6)は電磁フィルター,(7)は照明装置点滅用のスイッチ,(8)は絶縁トランスを示している。」と記載されている。
ここで、刊行物3記載の「絶縁トランス(8)」は、本願発明の「絶縁変圧器」に相当し、以下同様に、「電線(5)」は「出力側ケーブル」に、「電磁フィルター(6)」は「電源フィルタ」に、「照明装置(4)」は「照明装置」に、それぞれ相当する。
そして、刊行物3の第1図の記載を参酌すれば、絶縁トランス(8)はシールド・ルーム外に設けられ、この絶縁トランス(8)の電線(5)は電磁フィルター(6)を介してシールド・ルーム内へと引き込まれ、上記電線(5)はシールド・ルーム内に設けられた照明装置(4)に接続されているものと認められるから、刊行物3には、本願発明の「室外には絶縁変圧器が設けられ、この絶縁変圧器の出力側ケーブルは電源フィルタを介して室内へと引き込まれ、前記出力側ケーブルは室内に設けられた照明装置に接続され」ていることに相当する発明が、実質的に記載されているものと認められる。なお、本願発明においては、「電源フィルタまたは導波管」と特定されているから、「電源フィルタ」か「導波管」かは選択的事項である。
ところで、刊行物1の上記記載事項(ア)の段落【0002】には、「電磁波を発生する医療機器、コンピュータ関連機器あるいは半導体等を製造するクリーンルーム等においては電磁シールド室が使用されており」と記載されており、電磁シールド室内で人が作業をする場合があることが予定されているから、当該電磁シールド室内に照明装置を取付けて所要の照度を確保することの動機付けは十分にあるといえる。
そうすると、刊行物1記載の発明の電磁シールド室に、照明装置に関する刊行物3記載の発明を適用することによって、相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(3)相違点3について

刊行物4には、「特に、医療用に使用されるMRI装置(核磁気共鳴画像診断装置)の設置等の用途に好適な電磁シールドルームと、その扉枠と窓枠に関する」(上記記載事項(キ))発明が記載されており、刊行物4の上記記載事項(ク)には、「電磁シールドルームは、その床面F1と、四周の壁面F2、F2…と、天井面F3とを、パネル材11、11…を連結して形成する(第1図)。電磁シールドルームは、……必要個所には、扉D、D付きの出入口ENと、……が設けられている。」と記載されている。
また同様に、刊行物4の上記記載事項(ケ)には、「出入口ENの扉D、Dは、内開きの観音扉である(第9図)。扉D、Dは、板材を適当に折曲げ成形してなり、……シールドブロックD3を挿着するためのポケット部D2を形成してある。ただし、シールドブロックD3は、ゴム質の弾性体の表面に導電性の金属編組被覆を形成したパッキング材であって、扉D、Dを閉鎖するとき、扉D、Dの間に、完全な電気的接触を実現することができるものとする。扉D、Dは、ヒンジD4、D4を介して、扉枠の一部を形成する一対の立枠51、51に開閉自在に取り付けられている。立枠51は、板材を折曲げ成形することにより、その内面に、前部のヒンジ固定部51aと、後部の戸当り部51bと、中間部のポケット部51cとを形成するものである(第10図)。ポケット部51cは、内向きに開口し、その内部には、シールドブロック51dが挿着されている。また、戸当り部51bの上下両端部には、別のシールドブロック51eが取り付けてある。立枠51の外面は、壁面F2を形成するパネル材11の接合部11bと等ピッチにボルト締め連結されている(第9図)。」と記載されている。
ここで、刊行物4記載の「壁面F2を形成するパネル材11」は、本願発明の「壁パネル」に相当し、以下同様に、「扉D、D」は「扉本体パネル」に、「立枠51、51」は「扉枠材」に、「シールドブロックD3、51d、51e」は「扉用の導電性パッキン」に,それぞれ相当する。
そして、刊行物4の上記記載事項(コ)の「……扉D、扉枠を形成する立枠51、51、……は、導電性のよい金属板材を使用するものとし」との記載を参酌すれば、刊行物4記載の「扉D、D」及び「立枠51、51」は、ともに導電性であり、両者を併せたものが、本願発明の「開閉可能に形成され閉時に電波を遮蔽する扉」に相当する。また、刊行物4記載の上記「シールドブロックD3、51d、51e」のうちの「シールドブロックD3」は、本願発明の「扉本体パネルの周縁部」に設けられる「扉用の導電性パッキン」に相当し、また同様に、「シールドブロック51d、51e」は、「前記扉枠材の前記扉本体パネルとの当接部分」に設けられる「扉用の導電性パッキン」に相当する。
よって、刊行物4には、本願発明の「前記壁パネルには、開閉可能に形成され閉時に電波を遮蔽する扉が設けられ、前記扉は、導電性の扉本体パネルと、導電性の扉枠材と、を有しており、前記扉本体パネルの周縁部または、前記扉枠材の前記扉本体パネルとの当接部分の少なくとも一方に、扉用の導電性パッキンが設けられ」ていることに相当する発明が、実質的に記載されているものと認められる。
ところで、刊行物1の上記記載事項(ア)の段落【0002】には、「電磁波を発生する医療機器、コンピュータ関連機器あるいは半導体等を製造するクリーンルーム等においては電磁シールド室が使用されており」と記載されており、電磁シールド室に人が出入りする場合があることが予定されているから、当該電磁シールド室の壁パネル2に扉を設けることの動機付けは十分にあるといえる。
そうすると、刊行物1記載の発明の電磁シールド室の壁パネル2に、扉に関する刊行物4記載の発明を適用することによって、相違点3に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(4)相違点4について

電磁シールド室の扉本体パネルに、電波の遮蔽性を有するとともに室内を視認可能な窓を設けることは、本願出願前に周知の技術である(例えば、特開2000-320042号公報(以下、「周知例」という。)の段落【0023】及び図1には、電磁波シールド構築ルームの扉Tに設けられている開口窓Gには、電磁波シールドガラスがはめ込まれている旨が記載され、また、段落【0046】?【0048】及び図8,9には、一方のガラス板41の内側表面に導電性フィルムからなるシールド材45が貼り付けられている旨が記載されている。なお、この周知例には、「室内を視認可能」との明示的な記載はないが、開口窓Gを設ける技術的意義や電磁波シールドガラスの構成からみて、上記開口窓Gが室内を視認可能な窓であることは明らかである)。
したがって、上記「(3)相違点3について」において検討した、刊行物1記載の発明の電磁シールド室の壁パネル2に、扉に関する刊行物4記載の発明を適用することによって設けられた扉D、Dに、上記周知の技術を適用することによって、相違点4に係る本願発明の構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

(5)作用効果について

本願発明が奏する作用効果は、刊行物1ないし4に記載された発明及び上記周知の技術から当業者が予測できる程度のものである。

(6)審判請求人の主張について

審判請求人は、審判請求書の請求の理由において、本願発明は、「前記出力側ケーブルを室内に設けられた照明装置に接続し」、これと同時に「前記扉本体パネルに、電波の遮蔽性を有するとともに室内を視認可能な窓を設けた」ことによって、電波試験室に入室する者は必ず室内を「明瞭に」視認することが可能となり、試験中に誤って扉を開けたりするのを「確実に」防止できるのに対して、刊行物1ないし4及び周知例には、「室外に絶縁変圧器を設け、この絶縁変圧器の出力側ケーブルを電源フィルタまたは導波管を介して室内へと引き込み、出力側ケーブルを室内に設けられた照明装置に接続する構成」と「扉本体パネルに、電波の遮蔽性を有するとともに室内を視認可能な窓を設けた構成」とが同時に設けられた構成については、示唆も開示もされていない旨を主張し、また、本願発明の特有の作用効果を考慮すると、「照明装置」と「扉本体パネルに設けられた窓」と小分けにして文献を引用するのは不当である旨を主張している。
しかしながら、電磁シールド室に限らず、一般的な作業室や実験室において、室内に照明装置を取付けて所要の照度を確保したり、室内を視認するための窓を設けることが、通常行われていることを考慮すれば、電磁シールド室において、「照明装置」と「扉本体パネルに設けられた窓」とを同時に設けるようにすることは、当業者が容易になし得ることである。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

6.むすび

したがって、本願発明(請求項1に係る発明)は、刊行物1ないし4に記載された発明及び上記周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項2ないし15に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-04-04 
結審通知日 2012-04-10 
審決日 2012-04-24 
出願番号 特願2005-364544(P2005-364544)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 遠藤 邦喜  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 所村 陽一
冨岡 和人
発明の名称 電波試験室  
復代理人 多田 悦夫  
代理人 磯野 道造  
復代理人 町田 能章  

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