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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B62D
管理番号 1258013
審判番号 不服2011-18343  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-08-24 
確定日 2012-06-07 
事件の表示 特願2008-282334「作業車両のキャビン」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 4月 2日出願公開、特開2009- 67384〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年5月20日に特許出願した特願2004-150847号(以下「原出願」という。)の一部を平成20年10月31日に新たな特許出願としたものであって、平成23年5月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に特許請求の範囲及び明細書を対象とする手続補正がなされたものである。
特許請求の範囲に係る上記補正は、実質的に、補正前の特許請求の範囲の請求項1を削除するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号の請求項の削除を目的とするものに該当し、適法なものである。

第2 原査定
原査定における拒絶理由は、以下のとおりである。
「この出願の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
1.実願昭54-144877号(実開昭56-63652号)のマイクロフィルム
2.特開平8-123429号公報
3.実願昭56-62916号(実開昭57-174279号)のマイクロフィルム
4.実願昭62-152370号(実開昭64-56346号)のマイクロフィルム
5.特開平8-76773号公報
6.特開2001-233244号公報」

上記刊行物のうち特開平8-123429号公報を、以下「引用例」という。

第3 当審の判断
1 本願発明
本願の請求項2に係る発明は、特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。

「【請求項1】
作業車両のキャビン(1)であって、前記キャビン(1)内の空洞共鳴が生じたときの音圧の大きい位置であって、該キャビン(1)内の隅部または角部または端辺部に、エンジンの回転振動等に起因してキャビン(1)内で発生する低周波の音であるこもり音を低減する為に、
共鳴器の共鳴振動数fsが、
fs=C/4l
C=音速、l=共鳴器の長さ(奥行き)
で表現される、サイドブランチ型共鳴管(38)と、
共鳴器の共鳴周波数fhが、
fh=C/2π・(A/V・l)1/2
C=音速、A=開口部分面積、V=体積、l=共鳴器のくび部の等価長さ
で表現されるヘルムホルツ型共鳴箱(37)とを設け、前記キャビン(1)内であって、少なくとも2箇所以上の、音圧が大きく振動数が同じ場所に、該振動数と同じ共鳴周波数をもつ前記サイドブランチ型共鳴管(38)若しくはヘルムホルツ型共鳴箱(37)を配設したことを特徴とする作業車両のキャビン。」

2 引用刊行物
原出願の出願前に頒布された刊行物である引用例には、吸音装置に関し、図面とともに次の事項が記載されている。

(a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は吸音装置に関し、特に自動車等の車両閉空間内の低周波の騒音を低減する車室内騒音低減装置としての吸音装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】自動車等の車室内の騒音(こもり音)は、閉空間を形成する車室が一定の条件下で共振現象を起こすことによるものであり、その原因たる起振力はエンジンの回転振動成分等によるものと考えられている。」
(b)「【0010】
【作用】車両走行によるエンジン回転振動を起振源として車室内にこもり音が発生する。このこもり音はエンジン回転数に応じて発生し、このこもり音のはら(振幅の最大点近傍)、すなわち騒音レベルが高い箇所に共鳴型の吸音装置を設置する。」
(c)「【0014】
【実施例】図1は本発明に係る周波数可変型の共鳴吸音装置が適用された場合の車両を概略的に示しており、図中、1は車両、2は車両1の車室、3,4は車両1の乗員の頭、5-1,5-2は車両1の車室内における天井に設けられた吸音装置、そして6はエンジンをそれぞれ示している。
【0015】上記の吸音装置5-1,5-2は車室内で発生するこもり音のはら近傍、すなわち騒音レベルが高い箇所を予め測定しておき、このような箇所に設置されるようになっている。」
(d)「【0019】このようなこもり音を各こもり音周波数に関して分かり易く図3に示されており、図2に示したこもり音の周波数192Hz,204Hzのいずれにおいてもこもり音のはら(振幅の最大点近傍)が発生しており、このようなこもり音のはらが騒音レベルが高くなるのでこのような場所に吸音装置5-1,5-2を設置することとなる。図3の例では車両1の車室内の天井に設けている。」
(e)「【0026】図4に示した共鳴箱10は図5に示すような構造と等価なものである。すなわち、現在のこもり音の共鳴周波数をf_(p )とし、共鳴箱10における可動壁11によって形成される容積をVとし、共鳴口12の厚さをl_(p )とし、さらに共鳴口12の面積をS_(p )とした場合、共鳴周波数f_(p ) は以下の式(2)で表される。
【0027】
【数2】f_(p )=C/2π・(S_(p )/V・l_(p ))^(1/2) ・・・・・式(2)
但し、f_(p ):共鳴周波数
V :共鳴容積
l_(p ):共鳴口の厚さ
S_(p ):共鳴口の面積
C :音速」
(f)「【0030】すなわち、コントローラ22は式(2)から共鳴周波数f_(p )を求めた後、これに対応する共鳴容積Vを求めると、この求めた共鳴容積Vとリミットスイッチ15によって与えられる最大の共鳴容積V_(1) 並びにリミットスイッチ16で形成される最小の共鳴容積V_(2) とを比較し、より近い方の共鳴容積になるように共鳴容積を選択し、例えば求めた共鳴容積Vが最大の共鳴容積V_(1) の方により近いとすると、コントローラ22はサーボモータ23を制御して可動壁11を図示の右側に移動させリミットスイッチ15が作動する時点まで移動させることとなる。
【0031】また同様にして、求めた共鳴容積Vが最小の共鳴容積V_(2) の方により近いと判定したときにはサーボモータ23を制御して可動壁11を左側に移動させリミットスイッチ16が作動した時点で停止させるように制御を行う。
【0032】なお、リミットスイッチ15が作動する最大の共鳴容積V_(1) を形成するときにはこもり音周波数は192Hzであり、リミットスイッチ16が作動するときには上記のこもり音周波数は204Hzに対応している。」
(g)図3及び図4の記載より、車室内の2箇所の、音圧が大きく振動数が同じ場所に共鳴箱10を備えた吸音装置5-1,5-2を配設したことが看取できる。

上記記載事項a?g及び図面の記載によれば、引用例には次の発明が記載されているといえる(以下「引用発明」という。)。

「エンジン回転振動を起振源として閉空間を形成する車室が一定の条件下で共振現象を起こすことにより自動車等の車室内に発生する騒音(こもり音)のはら(振幅の最大点近傍)、すなわち騒音レベルが高い箇所を予め測定してこのような箇所に共鳴型の吸音装置を設置するものであり、車室内の2箇所の、音圧が大きく振動数が同じ場所に、192Hzのこもり音周波数に対応する最大の共鳴容積V_(1)または204Hzのこもり音周波数に対応する最小の共鳴容積V_(2)を選択した
共鳴周波数f_(p )=C/2π・(S_(p )/V・l_(p ))^(1/2)
但し、f_(p ):共鳴周波数
V :共鳴容積
l_(p ):共鳴口の厚さ
S_(p ):共鳴口の面積
C :音速
で表される共鳴箱10を備えた吸音装置5-1,5-2を配設した自動車等の車両閉空間内の低周波の騒音を低減する車室内騒音低減装置としての吸音装置。」

3 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「共鳴周波数f_(p )がf_(p )=C/2π・(S_(p )/V・l_(p ))^(1/2) 但し、f_(p ):共鳴周波数 V:共鳴容積 l_(p ):共鳴口の厚さ S_(p ):共鳴口の面積 C:音速で表される共鳴箱10」は、本願発明の「共鳴器の共鳴周波数fhが、fh=C/2π・(A/V・l)1/2 C=音速、A=開口部分面積、V=体積、l=共鳴器のくび部の等価長さで表現されるヘルムホルツ型共鳴箱(37)」に相当する。
引用発明の「自動車等の車室」と本願発明の「作業車両のキャビン」とは、「車両のキャビン」である点において共通する。
引用発明は、「エンジン回転振動を起振源として閉空間を形成する車室が一定の条件下で共振現象を起こすことにより自動車等の車室内に発生する騒音(こもり音)のはら(振幅の最大点近傍)、すなわち騒音レベルが高い箇所を予め測定してこのような箇所に共鳴型の吸音装置を設置するもの」であるから、引用発明は、本願発明における「キャビン(1)内の空洞共鳴が生じたときの音圧の大きい位置」に、「エンジンの回転振動等に起因してキャビン(1)内で発生する低周波の音であるこもり音を低減する為に、」共鳴器を配設する、との要件を備える。
引用発明は、「車室内の2箇所の、音圧が大きく振動数が同じ場所に」「共鳴箱10を備えた吸音装置5-1,5-2を配設した」ものであるから、引用発明は、本願発明における「キャビン(1)内であって、少なくとも2箇所以上の、音圧が大きく振動数が同じ場所に、」「ヘルムホルツ型共鳴箱(37)を配設した」との要件を備える。
引用発明は「192Hzのこもり音周波数に対応する最大の共鳴容積V_(1)または204Hzのこもり音周波数に対応する最小の共鳴容積V_(2)を選択した」共鳴箱10を用いるものであるから、引用発明は、本願発明における「音圧が大きく振動数が同じ場所に、該振動数と同じ共鳴周波数をもつ」共鳴器を配設した、との要件を備える。

したがって、本願発明と引用発明は、本願発明の表記にできるだけしたがえば、
「車両のキャビン(1)であって、前記キャビン(1)内の空洞共鳴が生じたときの音圧の大きい位置に、エンジンの回転振動等に起因してキャビン(1)内で発生する低周波の音であるこもり音を低減する為に、
共鳴器の共鳴周波数fhが、
fh=C/2π・(A/V・l)1/2
C=音速、A=開口部分面積、V=体積、l=共鳴器のくび部の等価長さ
で表現されるヘルムホルツ型共鳴箱(37)を設け、前記キャビン(1)内であって、少なくとも2箇所以上の、音圧が大きく振動数が同じ場所に、該振動数と同じ共鳴周波数をもつヘルムホルツ型共鳴箱(37)を配設した車両のキャビン。」
である点で一致し、以下の各点で相違する。

[相違点1]
「車両のキャビン」及び該キャビン内における共鳴器の配設箇所に関して、本願発明は、「作業車両のキャビン」であって、該キャビン内において共鳴器を配設する「少なくとも2箇所以上」がいずれも「キャビン(1)内の隅部または角部または端辺部」であるのに対し、引用発明は、「自動車等の車室」であって、また、共鳴器5-1,5-2の配設箇所については、車室内のどの箇所であるとは規定されていない点。

[相違点2]
本願発明は、共鳴器として、ヘルムホルツ型共鳴箱(37)とともに「サイドブランチ型共鳴管(38)」も設けられているのに対し、引用発明は、ヘルムホルツ型共鳴箱のみであって、サイドブランチ型共鳴管は備えていない点。

相違点1について検討する。
引用発明は自動車等の車室を対象としており、作業車両の車室(キャビン)をもその対象として明示するものではない。しかし、一般に、作業車両も作業車両ではない自動車もともに、全体的形状として箱型のキャビンを備える点で共通しており、該キャビン内で発生するこもり音やその低減のための対策についても、作業車両とそれ以外の車両とで区別されるべき特段の事情はうかがえない。したがって、引用発明において、吸音装置を設置する対象を作業車両の車室(キャビン)とすることは、当業者であれば特段の困難なくなし得ることと考えられる。
また、本願明細書の「従来の作業車両のキャビンや発電機のパッケージに関しては、空洞共鳴周波数が空間を形成する壁面の形状、寸法によって決定されおり、」(段落【0004】)及び「トラクタ等の作業車両において、・・・キャビン1内には定在波が生じ、こもり音が発生する。定在波は、それぞれのキャビンの寸法に応じて発生する。つまり、キャビン内側の縦方向の長さや横方向の長さによって、定在波の周波数は異なるのである。・・・キャビン1内に定在波が生じこもり音が発生すると、図1に示すように、箱型のキャビン1の場合は壁面付近の音圧が最も大きくなり、」(段落【0038】?【0039】)との記載を参照すると、本願発明がこもり音低減の対象としている作業車両のキャビンにおいて、「箱型のキャビン1の場合は壁面付近の音圧が最も大きくな」るとの測定結果を得た上で、最終的に「キャビン(1)内の隅部または角部または端辺部」に共鳴器を配設していると解されるのであって、すなわち、こもり音低減の対象とする作業車両のキャビンにおいて音圧が大きくなる箇所を調べた結果、それを「キャビン(1)内の隅部または角部または端辺部」と特定したもの、と解するのが相当である。一方、引用発明も、「自動車等の車室内に発生する騒音(こもり音)のはら(振幅の最大点近傍)、すなわち騒音レベルが高い箇所を予め測定してこのような箇所に共鳴型の吸音装置を設置する」との技術事項に基づくものである。
そうすると、引用発明において対象を作業車両のキャビンに特定し、このように特定したキャビンにおいてどの箇所で音圧が大きくなるかを測定して共鳴器の設置箇所を定め、そのような設置箇所として例えばキャビン内の隅部または角部または端辺部を選択して上記相違点1に係る構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことといえる。

相違点2について検討する。
例えば原査定においても提示した特開2002-89228号公報(段落【0005】参照)、特開平9-234382号公報(段落【0057】?【0059】、【0089】?【0090】参照)、特開平8-75127号公報(段落【0023】参照)に開示されているように、サイドブランチ型共鳴管もヘルムホルツ型共鳴箱もともに、原出願の出願前に共鳴器として周知のものと解されることから、引用発明において、2つの共鳴箱10(ヘルムホルツ型共鳴箱)の一方をサイドブランチ型共鳴管とし、上記相違点2に係る構成とすることは、上記周知の技術を参酌することにより、当業者であれば容易になし得たことといえる。

そして、本願発明により得られる作用効果も、引用発明および周知技術から当業者であれば予測できる程度のものであって、格別のものとはいえない。

以上のことから、本願発明は、引用発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
したがって、原査定は妥当であり、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-28 
結審通知日 2012-04-03 
審決日 2012-04-17 
出願番号 特願2008-282334(P2008-282334)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B62D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西本 浩司鈴木 敏史  
特許庁審判長 千馬 隆之
特許庁審判官 小関 峰夫
栗山 卓也
発明の名称 作業車両のキャビン  
代理人 矢野 寿一郎  

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