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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C10M 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C10M |
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管理番号 | 1258039 |
審判番号 | 不服2009-16830 |
総通号数 | 151 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-07-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-09-10 |
確定日 | 2012-06-06 |
事件の表示 | 特願2003-502131「高温用潤滑剤組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成14年12月12日国際公開、WO02/99021、平成16年 9月16日国内公表、特表2004-528477〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2002年 5月31日(パリ条約による優先権主張2001年 6月 1日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、 平成16年 1月27日に特許協力条約34条補正の翻訳文が提出され、 平成17年 5月30日に手続補正がなされ、 平成20年 6月18日付けの拒絶理由通知に対して同年 9月24日に意見書が提出されるとともに手続補正がされ、 同年12月 8日付けの最後の拒絶理由通知に対して平成21年 3月31日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、 同年 5月 7日付けで平成21年 3月31日の手続補正に対する補正却下及び拒絶査定がなされ、 これに対し、同年 9月10日に審判請求書が提出されるとともに手続補正がなされ、 平成23年 4月28日付けで審尋がなされたが、回答書が提出されなかった。 第2 平成21年 9月10日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成21年 9月10日付けの手続補正を、却下する。 [理由] 1 補正の内容 平成21年 9月10日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の、平成20年 9月24日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項28である、 「【請求項28】 以下の(A)及び(B): (A)下記の(i)と(ii)の反応生成物であり、得られるエステル混合物が40℃で少なくとも0.00012m^(2)/secの粘度を有するポリオールエステル基材: (i)ジペンタエリトリトールを少なくとも50重量%含むポリオール混合物と、 (ii)下記の(a)および(b)を含むC_(5)?C_(12)モノカルボン酸の混合物: (a)25重量%?50重量%の直鎖C_(7)?C_(8)?_(10)酸、および (b)50重量%?75重量%のiso-C_(9)酸; (B)3重量%?8重量%の酸化防止剤、1重量%?4重量%の極圧/耐摩耗剤、および0.01?0.05重量%の腐食防止剤を含む添加剤パッケージ、 を含み、 かつ、230℃の循環式エアーオーブンに80時間入れられたとき、前記潤滑剤の重量減少率が20重量%未満である、合成ポリオールエステル系潤滑剤。」 を、 「【請求項24】 以下の(A)及び(B): (A)下記の(i)と(ii)の反応生成物であり、得られるエステル混合物が40℃で少なくとも0.00012m^(2)/secの粘度を有するポリオールエステル基材: (i)ジペンタエリトリトールを少なくとも50重量%含むポリオール混合物と、 (ii)下記の(a)および(b)を含むC_(7)?C_(10)モノカルボン酸の混合物: (a)25重量%?50重量%の直鎖C_(7)?C_(8)?_(10)酸、および (b)50重量%?75重量%のiso-C_(9)酸; (B)前記ポリオールエステル基材100重量部に対して、4.5重量部の酸化防止剤、2.25重量部の極圧/耐摩耗剤、および0.03重量部の腐食防止剤を含む添加剤パッケージ、 を含み、 かつ、230℃の循環式エアーオーブンに80時間入れられたとき、前記潤滑剤の重量減少率が20重量%未満である、合成ポリオールエステル系潤滑剤。」 とする補正を含むものである。 2 補正の適否 (1)目的要件 上記補正は、補正前の請求項28に記載した発明を特定するために必要な事項である「モノカルボン酸の混合物」の炭素数について、「C_(5)?C_(12)」と規定されていたものを「C_(7)?C_(10)」と限定し、補正前の請求項28に記載した発明を特定するために必要な事項である「添加剤パッケージ剤」の組成について「3重量%?8重量%の酸化防止剤、1?4重量%の極圧/耐摩耗剤、および0.01?0.05重量%の腐食防止剤を含む」ものと規定されていたものを「前記ポリオールエステル基材100重量部に対して、4.5重量部の酸化防止剤、2.25重量部の極圧/耐摩耗剤、および0.03重量部の腐食防止剤を含む」ものと限定するものを含むものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (2)独立特許要件 そこで、本件補正後の上記請求項24に記載されている事項により特定される発明(以下、「本件補正発明」といい、上記補正後の明細書を「本件補正明細書」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについてみると、以下のとおり、本件補正発明は、その出願前に頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。 そうすると、請求項28についての上記補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものとはいえない。 以下、詳述する。 ア 刊行物 a 特開平6-65587号公報(原査定における引用例1に同じ。以下、「刊行物1」という。) b 特開平10-81890号公報(原査定における引用例2に同じ。以下、「刊行物2」という。) イ 刊行物に記載された事項 (ア)刊行物1には、以下の事項が記載されている。 1a 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 ネオペンチルポリオール;および(1)約5個ないし10個の炭素原子類を有する少なくとも1個の直鎖酸および(2)イソ-C7酸;イソ-C8酸、イソ-C9酸、イソ-C10酸およびそれらの混合物からなる群から選択されたイソ酸を含む酸混合物の反応生成物からなる合成エステル潤滑剤基剤素材で、前記イソ-酸が、前記酸混合物の約60ないし約90重量パーセントの量で存在しかつ、合成エステル潤滑剤添加パツケージと混合した際に結果として生成したエステル類の混合物が210°Fにおいて少なくとも約7.0センチストークスの粘度を有する合成エステル潤滑剤基剤素材。 【請求項2】 前記イソー酸がイソーノナン酸であることを特徴とする請求項1に記載の合成エステル潤滑剤基剤素材。 【請求項3】 前記イソ-C9酸が、3,5,5-トリメチルヘキサン酸であることを特徴とする請求項1に記載の合成エステル潤滑剤基剤素材。 【請求項4】 前記ネオペンチルポリオールが、モノペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメチロールプロパンおよび/またはネオペンチルグリコールの高粘度のネオペンチルポリオールとの混合物およびそれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の合成エステル潤滑剤基剤素材。 【請求項5】 前記ポリオールが、モノペンタエリスリトールおよびジペンタエリスリトールの混合物であることを特徴とする請求項1に記載の合成エステル潤滑剤基剤素材。 【請求項6】 前記ポリオールが、工業用ペンタエリスリトールであることを特徴とする請求項1に記載の合成エステル潤滑剤基剤素材。 【請求項7】 前記直鎖酸が、ヘプタン酸(C7およびカプリル-カプリン酸(C8-C10)であることを特徴とする請求項2に記載の合成エステル潤滑剤基剤素材。 【請求項8】 前記C7およびC8-C10の直鎖酸類が、重量でほぼ等量存在することを特徴とする請求項7に記載の合成エステル潤滑剤基剤素材。 【請求項9】 前記イソーノナン酸が、前記酸混合物の約65ないし約75重量パーセント存在することを特徴とする請求項8に記載の合成エステル潤滑剤基剤素材。 【請求項10】 前記直鎖酸がバレリアン酸であることを特徴とする請求項2に記載の合成エステル潤滑剤基剤素材。 【請求項11】 前記潤滑剤の高温特性および配合係数を改良するために、有効量の合成エステル潤滑添加パツケージと混合されたことを特徴とする請求項1に記載の合成エステル潤滑剤基剤素材。 【請求項12】 モノペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールおよびそれらの混合物から選択されたポリオール;および(1)5個ないし10個の炭素原子類を有する直鎖酸類および(2)イソーノナン酸類を含むモノカルボン酸類の混合物の反応生成物から基本的に構成される合成エステル潤滑剤基剤素材であり、前記イソーノナン酸が、前記酸混合物の約60ないし90重量パーセントで存在しかつ、合成エステル潤滑剤添加パツケージと混合された時に生成するエステルが210°Fにおいて少なくとも約7.0センチストークスの粘度を有する合成エステル潤滑剤基剤素材。 【請求項13】 前記イソーノナン酸が3,5,5-トリメチルヘキサン酸であることを特徴とする請求項12に記載の合成エステル潤滑剤基剤素材。 【請求項14】 前記直鎖酸類がヘプタン酸およびカプリン-カプリル酸であることを特徴とする請求項12に記載の合成エステル潤滑剤基剤素材。 【請求項15】 ヘプタン酸およびカプリン-カプリル酸の前記直鎖酸類の混合物がそれぞれ、重量で等量含まれることを特徴とする請求項12に記載の合成エステル潤滑剤基剤素材。 【請求項16】 前記潤滑剤の高温特性および配合係数を改良するために、有効量の合成エステル潤滑添加パツケージと混合されたことを特徴とする請求項12に記載の合成エステル潤滑剤基剤素材。」 1b 「【0002】 【従来の技術】基剤素材由来潤滑剤は、高温において高粘度を有し高温用途において析出物を形成する傾向が低い。ガスタービンエンジン類のためのチエーンオイル類および潤滑剤類としての用途のための合成エステル基剤素材は、周知である。この基剤素材類は、標準的潤滑剤添加パツケージ類と混合して、潤滑剤を形成する。この潤滑剤が上記のような高温用途に適した特性を有するためには、この基剤素材がある物理的特性を有していなければならない。例えば、タービンオイル類用潤滑剤は、陸軍仕様書MIL-L-23699Dに記載の仕様書類に適合していることが要件となつている。チエーンオイル類は、高温において低析出特性を有し、少なくとも7.0センチストークス(cSt)の粘度、およびその大気保存温度以下の適当に低い流動点を有していなければならない。」 1c 「【0010】 【実施例】本発明にしたがつて調製された合成潤滑剤基剤素材は、標準潤滑剤添加パツケージ類と共に使用される。本潤滑剤基剤素材は、ネオペンチルポリオールおよび分枝鎖酸高含量を有するモノカルボン酸混合物の反応生成物であり、好適には酸総添加量を基準として分枝鎖酸約60-90重量パーセントである。この基剤素材を標準潤滑剤添加パツケージと混合したとき、この潤滑剤は、210°Fにおける粘度が少なくとも約7.0センチストークスでかつ少なくとも-10°F未満の可動下限温度を有する。 【0011】前記ネオペンチルポリオールは、融点255-259°Cの無色固体であるモノペンタエリスリトール、C5H12O4(MPE,CAS#=115-77-5);融点215-218°Cの無色固体であるジペンタエリスリトール、C10H22O7(DPE,CAS#=126-58-9);モノペンタエリスリトールおよび通常約6乃至15重量パーセントのジペンタエリスリトールを含む市販の工業用ペンタエリスリトール;通常、約85重量%のDPE,約5%のMPEおよび約10%のトリペンタエリスリトールおよびより重い素材を含んでいる市販のジペンタエリスリトール;融点60-62°Cの無色固体であるトリメチロールプロパンC6H14O3(TMP,CAS#=77-99-6)および/または無色の固体で融点123-127°CであるネオベンチルグリコールC5H12O2(NPG,CAS#=126-30-7)であることができ、少なくとも1種のより重い素材である他のネオペンチルポリオールと混合され、所望の粘度を有する潤滑剤を提供する基剤素材をもたらす。このポリオールは、本発明の好適な実施例では約12重量パーセントのDPEまたはMPEおよびDPEの混合物を含む工業用PEであり、約5乃至90重量パーセントのDPEを含む。 【0012】前記酸成分はモノカルボン酸であり、5個乃至10個の炭素原子を有する少なくとも1種の直鎖酸および7個乃至10個の炭素原子を有する分枝鎖酸を含む。この分枝鎖酸は好適には9個の炭素原子を有するもの、即ち、イソーノナン酸である。適切な直鎖酸類には、バレリアン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸およびカプリン酸が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。好適には、直鎖酸成分は、バレリアン(C5)酸であり、または、ヘプタン(C7)およびカプリルーカプリン(C8-C10)の混合物である。カプリルーカプリン酸は8個乃至10個の炭素原子類を有することが固定されているが、実際にはC6からC12の酸類を含み、実質的にはC12酸を含んでいない(1%未満)。本発明のエステル類調製に用いるために適する好適なヘプタン酸およびカプリルーカプリン混合直鎖酸成分の量は、大きく変動する。たとえば、本混合物は、約30乃至70重量パーセントのヘプタン酸であり、残部がカプリルーカプリン酸混合物である。直鎖酸混合物は好適な実施例においてヘプタン酸約40-60重量部であり、残部はカプリルーカプリン酸類である。 【0013】分枝鎖酸は、イソ-C7酸、イソ-C8酸、イソ-C9酸またはイソ-C10酸であることができる。好適には、使用する前記分枝鎖酸は、イソ-C9酸または特に3,5,5-トリメチルヘキサン酸として公知のイソノナン酸(3,5,5-トリメチルヘキサン酸CASNo.[03302-10-1])である。本文で使用したように、イソ-C9またはイソーノナン酸は、3,5,5-トリメチルヘキサン酸であり、次の構造式を有する。 【0014】 【0015】このイソーノナン酸の添加によつて、基剤素材に要求される前記の粘度特性が得られ、かつ、可動下限温度特性が向上し、また、酸化安定性および析出傾向が改良される。」 1d 「【0017】本発明によつて調製されたエステル基剤素材類を含む潤滑剤類は、従来の添加パツケージを従来濃度の本基剤素材と混合することによつて調製される。典型的添加パツケージ類は、米国特許第4,124,513号、第4,141,845号および第4,440,657号に記載されている。前者2つの特許類は、アルキルフエニルまたはアルカリルフエニル・ナフチルアミン、ジアルキルジフエニルアミン、ポリヒドロキシ・アントラキノン、S-アルキル-2-メルカプトベンゾトリアゾールまたはN-(アルキル)-ベンゾチアゾール-2-チオンとのヒドロカルビル・ホスフエート・エステルを基剤とした添加パツケージ類を記載している。第3の特許は、選択された3級ブチルフエニル置換ホスフエートおよび選択されたアルキルアミンの添加パツケージ類を記載している。本発明は、下記の実験例を参照にすれば理解が一層深まるであろう。百分率は、全て、重量パーセントで記載した。これらの実験例は、例示のためのみに記載されており、限定的意味に解釈されることを目的としていない。」 1e 「【0018】実験例1-12 種々のエステル基剤素材類を調製した。下記の実験のそれぞれにおいて、表1に示した原料およびシユウ酸スズを460-490°Fに到達可能な撹拌反応容器にいれた。本容器には、窒素スパージまたはブランケツトを設置した。添加物を約440°乃至450°Fの間の反応温度まで加熱し、反応水をトラツプに採取して、一方、この酸類を反応容器に戻した。還流をゆつくりと行ない、真空を適用して、適切な還流速度を維持した。水酸価が十分に(最大5.0mgKOH/gm)低下したときに、過剰の酸の全体を前記反応温度および最大真空度における蒸留によつて除去した。残りの酸度を石灰および水処理によつて除去した。結果として生成したエステル基剤素材を乾燥してろ過した。210°Fにおける粘度を、ASTM D-445にしたがつて各基剤素材サンプルについて求め、これとともに、ASTM D-97にしたがつて流動点を求めた。 【0019】 【表1】 【0020】なお上記表1中の記号*は、生成物が室温で結晶化したことを示す。また、凝固点データは、一部液体が残留していたので近似値である。本発明によつて調製した潤滑剤類は、高温適応で使用した際にも析出物形成傾向が小さかつた。この低下傾向は、基剤素材を下記のように添加パツケージと混合することによつて、実証された。 【0021】 【表2】 【0022】この添加パツケージは、パネル試験において基剤素材類を比較するための標準パツケージとして選択された。 【0023】このベンチパネル試験において、ステンレスパネルを、ヒータ中の孔中に挿入した2個のヒータによつて電気的に加熱する。この温度を、熱電対によつてモニターする。パネルをわずかに傾斜させたところに置き、540°Fまで加熱する。試験する潤滑剤を加熱パネル上に落下させ、特徴を観察する。この潤滑剤は、傾斜の頂端近くでパネルに接触して、中央が暗いバンド状のものとして観察される。次にこの潤滑剤は、加熱パネル下端に向けて移動するに伴い、薄く伸びる傾向がある。潤滑剤の劣化が一番良く観察されるのは、オイル-空気-金属界面部分である。本実験例の実験1-4の組成物によつて調製した組成物類のためのパネル試験の結果は、オイル-空気-金属界面部分で劣化をほとんど示さなかつた。これらの潤滑剤類は、直鎖酸およびイソーノナン酸類としてのバレリアンまたはヘプタンおよびカプリン-カプリル酸を含む酸混合物と、工業用ペンタエリスリトールまたはジペンタエリスリトールを反応させることによつて形成されるエステル混合物である。実験5-7は、日本国特許出願55-105644の実験例中の実験5および6と同様に、工業用PEまたはMPEおよびドデカン酸を反応させることによつて調製した基剤素材類から形成された潤滑剤類であつた。ドデカン酸から形成されたこれらのエステル類から製造された潤滑剤のパネル試験結果は、実験1-4に比較してオイル-空気-金属界面において、炭化状態が顕著に増加することを示していた。」 (イ)刊行物2には、以下の事項が記載されている。 2a 「【0043】本発明の耐熱性潤滑油組成物は、ジペンタエリスリトールエステルを主成分とする潤滑油基油に(a)ジフェニルアミン類、(b)フェニル-α-ナフチルアミン類、(c)中性のカルシウムスルホネートおよび(d)トリスノニルフェニルホスファイトを含有させてなるものであり、高温用潤滑油として耐酸化性および耐摩耗性の両面において優れた性能を発揮する。従って、各種機械装置の高温部で用いることができ、例えば、二軸延伸機、パン製造装置等各種機械装置のチェーン部に塗布または滴下給油等により使用される潤滑油として極めて好適である。 【0044】 【実施例】以下に本発明の実施例を示すが、これらは本発明の態様を詳細に説明するためのものであり、本発明を限定するためのものではない。 【0045】なお、性能評価については、次に示す試験法により耐酸化性を評価した。 (1)耐酸化性(オーブン試験) アルミ容器(直径5mmφ、高さ2.5mm)に試料油10mgを採り、230℃のオーブン内に静置する。試験開始後、一定時間(4時間、8時間、12時間、24時間、48時間、72時間・・・・・・・)経過毎にアルミ容器をオーブンから取り出し、その重量を測定し、蒸発減量(重量減少率)を算出した。」 ウ 刊行物に記載された発明 刊行物1の請求項9は、その引用形式を全て書き下すと、 「ネオペンチルポリオール;および(1)ヘプタン酸(C7)およびカプリル-カプリン酸(C8-C10)が重量でほぼ当量存在する直鎖酸および(2)イソーノナン酸を含む酸混合物の反応生成物からなる合成エステル潤滑剤基剤素材で、 前記イソーノナン酸が、前記酸混合物の約65ないし約75重量パーセントの量で存在しかつ、 合成エステル潤滑剤添加パツケージと混合した際に結果として生成したエステル類の混合物が210°Fにおいて少なくとも約7.0センチストークスの粘度を有する、 合成エステル潤滑剤基剤素材。」 が示される(摘記1a)。 また請求項4には、請求項1に記載の「ネオペンチルポリオール」が「モノペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメチロールプロパンおよび/またはネオペンチルグリコールの高粘度のネオペンチルポリオールとの混合物およびそれらの混合物からなる群から選択される」ことが、請求項11には、請求項1に記載の「前記潤滑剤の高温特性および配合係数を改良するために、有効量の合成エステル潤滑添加パツケージと混合されたことを特徴とする請求項1に記載の合成エステル潤滑剤基剤素材」とすることが、それぞれ示されている(摘記1a)。 そして、そのような基材素材は「標準的潤滑剤添加パッケージ類と混合して潤滑剤を形成する」ものであり(摘記1b)、「高温用途に適した特性を有していなければならない」(摘記1b)ものとして示されている。そしてまた、「本潤滑剤基剤素材は、ネオペンチルポリオールおよび分枝鎖酸高含量を有するモノカルボン酸混合物の反応生成物」(摘記1c)であることが示される。 そうすると、刊行物1には、 「モノペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメチロールプロパンおよび/またはネオペンチルグリコールの高粘度のネオペンチルポリオールとの混合物およびそれらの混合物からなる群から選択されるネオペンチルポリオール;および (1)ヘプタン酸(C7)およびカプリル-カプリン酸(C8-C10)が重量でほぼ当量存在する直鎖酸25?35重量%および(2)イソーノナン酸65?75重量%を含むモノカルボン酸混合物 との反応生成物からなる合成エステル潤滑剤基剤素材であり、 合成エステル潤滑剤添加パツケージと混合した際に結果として生成したエステル類の混合物が210°Fにおいて少なくとも約7.0センチストークスの粘度を有する合成エステル潤滑剤基剤素材及び該添加パツケージとを混合した、高温用途に適した特性を有する潤滑剤。」 に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 エ 対比 本件補正発明と引用発明とを対比する。 まず、引用発明の「モノペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメチロールプロパンおよび/またはネオペンチルグリコールの高粘度のネオペンチルポリオールとの混合物およびそれらの混合物からなる群から選択されるネオペンチルポリオール;および(1)ヘプタン酸(C7)およびカプリル-カプリン酸(C8-C10)が重量でほぼ当量存在する直鎖酸25?35重量%および(2)イソーノナン酸65?75重量%を含むモノカルボン酸混合物との反応生成物からなる合成エステル潤滑剤基剤素材」と、本件補正発明の「(i) ジペンタエリトリトールを少なくとも50重量%含むポリオール混合物」及び「(a)25重量%?50重量%の直鎖C_(7)?C_(8)-_(10)酸、及び(b)50重量%?75重量%のiso-C_(9)酸、を含む」「(ii)C_(5)?C_(12)モノカルボン酸の混合物」の「反応生成物」である「ポリオールエステル基材」とを対比すると、 両者は「ポリオール混合物」及び「モノカルボン酸の混合物」との「反応生成物」である「ポリオールエステル基材」である点で一致する。 さらにその「モノカルボン酸の混合物」の組成として規定される、引用発明の「(1)ヘプタン酸(C7)およびカプリル-カプリン酸(C8-C10)が重量でほぼ当量存在する直鎖酸25?35重量%」及び「(2)イソーノナン酸65?75重量%」は、本件補正発明の「(a)25重量%?50重量%の直鎖C_(7)?C_(8)-_(10)酸」及び「(b)50重量%?75重量%のiso-C_(9)酸」に相当する。そしてまた、引用発明のモノカルボン酸混合物は、上記成分(1)及び(2)の炭素数より明らかなように、本件補正発明と同じく、「C_(7)?C_(10)モノカルボン酸の混合物」であるといえる。 してみると両者は、 「ポリオール混合物及び酸混合物との反応生成物であるポリオールエステル基材であって、その酸混合物はC_(7)?C_(10)モノカルボン酸の混合物であって、(a)25重量%?50重量%の直鎖C_(7)?C_(8)-_(10)酸、及び(b)50重量%?75重量%のiso-C_(9)酸、を含む混合物であり、さらに添加剤パッケージを含む、合成ポリオールエステル系潤滑剤」である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1)「ポリオール混合物」について、本件補正発明は「ジペンタエリトリトールを少なくとも50重量%含む」ことが規定されるのに対し、引用発明は「モノペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメチロールプロパンおよび/またはネオペンチルグリコールの高粘度のネオペンチルポリオールとの混合物およびそれらの混合物からなる群から選択されるネオペンチルポリオール」であることが規定される点 (相違点2)「粘度」について、本件補正発明は「得られるエステル混合物が40℃で少なくとも0.00012m^(2)/sec」であることが規定されるのに対し、引用発明は「合成エステル潤滑剤添加パツケージと混合した際に結果として生成したエステル類の混合物が210°Fにおいて少なくとも約7.0センチストークスの粘度」であることが規定される点 (相違点3)「合成ポリオールエステル系潤滑剤」としたときに「ポリオールエステル基材」のほかに含有する成分として、本件補正発明は「(B)前記ポリオールエステル基材100重量部に対して、4.5重量部の酸化防止剤、2.25重量部の極圧/耐摩耗剤、および0.03重量部の腐食防止剤、を含む添加剤パッケージ」の含有が規定されるのに対し、引用発明は「混合した際に結果として生成したエステル類の混合物が210°Fにおいて少なくとも約7.0センチストークスの粘度を有する」ような「合成エステル潤滑剤添加パツケージ」の含有が規定される点 (相違点4)「合成ポリオールエステル系潤滑剤」としたときに、本件補正発明は「230℃の循環式エアーオーブンに80時間入れられたとき、前記潤滑剤の重量減少率が20重量%未満である」ことが規定されるのに対し、引用発明は「高温用途に適した特性を有する潤滑剤」であることが規定される点 オ 判断 (ア)相違点1について 引用発明の具体例が示される刊行物1において、その「実験番号3」には「ネオペンチルポリオール」として「ジPE」を用いた例が示される(摘記1e)。その「ジPE」とは、「約85重量%のDPE、約5%のMPEおよび約10%のトリペンタエリスリトールおよびより重い素材を含んでいる市販のジペンタエリスリトール」(摘記1c)である。 よって、引用発明において、そのネオペンチルポリオールとして、そのような「ジPE」すなわち「約85%のDPE」(ジペンタエリスリトール)を含むポリオール混合物を用いることは、刊行物1に記載されているに等しく、してみると相違点1は実質的な相違点ではない。また、たとえ実質的な相違点であったとしても、該記載を参照し「ジペンタエリトリトールを少なくとも50重量%含むポリオール混合物」とすることは当業者であれば適宜なし得た事項の範囲内にある。 (イ)相違点2について 引用発明の具体例が示される刊行物1には、上記(ア)に示した「実験番号3」のポリオールエステルの「210°Fにおける粘度」(およそ100℃における粘度)は「17.5」「cSt」であり、「粘度係数」(粘度指数)は「111」であることが示される(摘記1e)。JIS-K-2283のB法をもとに、両数値より40℃における粘度を算出すると、171cSt(0.000171m^(2)/sec)である。よって、引用発明の具体例が示される刊行物1の実験番号3の「ポリオールエステル基材」は、「40℃で少なくとも0.00012m^(2)/sec」であることを満足している。 よって、引用発明の「エステル混合物」の粘度は本件特許発明24を満足するものであり、実質的な相違点ではない。また、たとえ実質的な相違点であったとしても、該記載を参照し「得られるエステル混合物が40℃で少なくとも0.00012m^(2)/sec」であるものとすることは当業者であれば適宜なし得た事項の範囲内にある。 (ウ)相違点3について 引用発明の具体例が示される刊行物1には、添加パツケージとして「基材素材100重量部」に対して「トリクレシル燐酸」2.0重量部、「P,P’-ジオクチル-ジフェニルアミン」1.0重量部、「オクチフエニル-α-ナフチルアミン」1.0重量部、「ベンゾトリアゾール」0.05重量部が示され、これら添加成分はそれぞれ「極圧/耐摩耗剤」、「酸化防止剤」、「酸化防止剤」、「腐食防止剤」であることは当業者に明らかである。 してみると、引用発明における添加パツケージとして刊行物1に具体例が示される各成分の含有量は、基剤素材100重量部に対して、酸化防止剤2.0重量部、極圧/耐摩耗剤2.0重量部及び腐食防止剤0.05重量部であるといえる。 これに対して、本件補正発明は「ポリオールエステル基材100重量部に対して、4.5重量部の酸化防止剤、2.25重量部の極圧/耐摩耗剤、および0.03重量部の腐食防止剤」であり、上記具体例と対比すると、添加三成分の含有量が相違しているものである。 この相違について検討してみるに、引用発明の「高温用途に適した特性」を付与するという目的が達せられる範囲で添加成分の含有量を調整することは当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内の事項であり、適宜なし得たものである。 (エ)相違点4について 引用発明の具体例が示される刊行物1には、その潤滑剤の「高温用途に適した特性」を見る手法として「540°F」での「ベンチパネル試験」が示される(摘記1e)ものであり、「230℃の循環式エアーオーブン」に入れたときの「潤滑剤の重量減少率」についての評価は示されていない。 ここで本件補正明細書を見るに、実施例2として作成された「高温用の潤滑剤組成物」(【0056】)は、実施例3において「230℃の循環式エアーオーブン」に入れたときの「潤滑剤の重量減少率」を計測する「乾燥機蒸発試験」(【0062】)がなされるとともに、実施例5として540°Fでの「ベンチパネル試験」(【0069】)に供されている。この実施例5のベンチパネル試験は、本件補正明細書【0069】の記載を参照すると、刊行物1の上記ベンチパネル試験(摘記1e)に同じである。そして、その試験結果は、刊行物1のベンチパネル試験では「本実験例の実験1-4の組成物によつて調製した組成物類のためのパネル試験の結果は、オイル-空気-金属界面部分で劣化をほとんど示さなかつた」(摘記1e)のに対して、実施例5のベンチパネル試験では「実施例2の組成に従って調製された組成物に対するパネル試験の結果は、油-空気-金属の境界に沿った分解がほとんどないことを示していた」(【0070】)ものであり、いずれも高温用の潤滑剤として同様の試験において同程度の結果が得られたものとして示されるといえる。 一方、本件補正明細書に示される上記「乾燥機蒸発試験」は、例えば刊行物2において、「ジペンタエリスリトールエステルを主成分とする潤滑油基油」を含有する「高温用潤滑油」に対する「性能評価」として、「次に示す試験法により耐酸化性を評価した。(1)耐酸化性(オーブン試験)アルミ容器(直径5mmφ、高さ2.5mm)に試料油10mgを採り、230℃のオーブン内に静置する。試験開始後、一定時間(4時間、8時間、12時間、24時間、48時間、72時間・・・・・・・)経過毎にアルミ容器をオーブンから取り出し、その重量を測定し、蒸発減量(重量減少率)を算出した」(摘記2a)ことが示されるように、引用発明同様のジペンタエリスリトールエステルを主成分とする潤滑油基油を含有する高温用潤滑油の評価手法として、本件特許出願優先日前に既知の試験である。そして、長時間の試験においても重量減少率の少ないものが望ましいことは当業者に明らかである。 引用発明の潤滑油も、刊行物2に記載の潤滑油も、いずれもジペンタエリスリトールエステルを主成分とする高温用の潤滑油である点で共通しているから、引用発明の高温用途に適した特性を有する潤滑油においても、刊行物2に示されるような高温特性を試験する乾燥機蒸発試験として「230℃の循環式エアーオーブンに」に「入れられたとき」の「潤滑剤の重量減少率」の少ないものと規定することは当業者が容易になし得たものであり、その試験時間及び具体的重量減少率について適宜の数値を定めることに格別の困難性はない。 (オ)効果について 本件補正発明の効果として本件補正明細書【0009】には「高温でのチェーン油用途における使用に好適な合成エステル潤滑剤を提供する」ものであることが示される。これに対して、引用発明の潤滑剤は「高温用途に適した特性を有する」ものであり、その具体的用途として刊行物1には「チェーンオイル類」(摘記1b)が示されているので、本件補正発明の該効果は、刊行物1に記載されているといえる。 また本件補正発明の効果として本件補正明細書【0012】には「熱に長時間さらされたときの重量減少が低下した改善された高温用ポリオールエステル合成潤滑剤を提供する」ものであることが示される。これに対して、引用発明の潤滑剤は上記(ア)?(エ)で検討したように高温用途に適したものとして本件補正発明と同様の成分を含有するものが示されている。そして、刊行物2には高温用ポリオールエステル系潤滑剤の高温性能の評価手法として乾燥機蒸発試験が示されており、長時間の試験においてもその重量減少率が少ないものが望ましいことは当業者に明らかである。してみると、本件補正発明の該効果は、刊行物1及び2に記載された程度のものに過ぎない。 よって、本件補正発明の効果は、格別ではない。 カ まとめ 以上のとおり、本件補正発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 よって、本件補正発明は、その特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるとはいえない。 3 むすび 以上のとおり、上記補正は平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合しないから、その余のことを検討するまでもなく、本件補正は同法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 第2のとおり、本件補正は却下されることとなったから、この出願に係る発明は、平成20年 9月24日付け手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、特許請求の範囲の請求項28に記載された事項により特定される以下のとおりの発明を含むものである。 「以下の(A)及び(B): (A)下記の(i)と(ii)の反応生成物であり、得られるエステル混合物が40℃で少なくとも0.00012m^(2)/secの粘度を有するポリオールエステル基材: (i)ジペンタエリトリトールを少なくとも50重量%含むポリオール混合物と、 (ii)下記の(a)および(b)を含むC_(5)?C_(12)モノカルボン酸の混合物: (a)25重量%?50重量%の直鎖C_(7)?C_(8)?_(10)酸、および (b)50重量%?75重量%のiso-C_(9)酸; (B)3重量%?8重量%の酸化防止剤、1重量%?4重量%の極圧/耐摩耗剤、および0.01?0.05重量%の腐食防止剤を含む添加剤パッケージ、 を含み、 かつ、230℃の循環式エアーオーブンに80時間入れられたとき、前記潤滑剤の重量減少率が20重量%未満である、合成ポリオールエステル系潤滑剤。」 (以下、「本願発明」という。) 第4 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、 「この出願については、平成20年12月 8日付け拒絶理由通知書に記載した理由1?3によって、拒絶をすべきものです。」 というものであり、 その備考欄には、 「出願人は、平成21年3月31日付け意見書において、本願発明がオリゴマー状芳香族アミン酸化防止剤を用いる発明であることを前提として、本願発明は、引用文献1?5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない旨を主張している。しかしながら、請求項1?8,10?13,27,28に係る発明は、オリゴマー状芳香族アミン酸化防止剤を必須の発明とするものではないので、上記の主張は採用できない。」 ということが記載されている。 そして、その平成20年12月 8日付け拒絶理由通知書に記載した理由1とは 「1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない」 というものであり、 その備考欄には、 「請求項1」について「当業者が容易に発明をすることができた」点を指摘するとともに、「請求項2?28」について「適当な酸化防止剤、極圧/耐摩耗剤、腐食防止剤を採用することは、当業者が適宜なし得る事項にすぎ」ない点が示されている。 してみると、原査定の拒絶の理由とは、 請求項28に係る発明すなわち「本願発明」は、引用文献1?4に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないという理由を含むものである。 そして、その「引用文献1」及び「引用文献2」とは、平成20年12月 8日付け拒絶理由通知書に記載された「引用文献等一覧」に示される、 「1.特開平6-65587号公報 2.特開平10-81890号公報」 である。 以下、この理由について検討する。 第5 当審の判断 当審は、本願発明は、原査定のとおり、下記刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、と判断する。 以下、詳述する。 1 刊行物 a 特開平6-65587号公報(原査定における「引用文献1」に同じ。また、上記第2の2(2)アに示した「刊行物1」に同じ。以下、同様に「刊行物1」という。) b 特開平10-81890号公報(原査定における「引用文献2」に同じ。また、上記第2の2(2)アに示した「刊行物2」に同じ。以下、同様に「刊行物2」という。) 2 刊行物に記載された事項 刊行物1及び2には、それぞれ、上記第2の2(2)イの(ア)及び(イ)に示したとおりの事項が記載されている。 3 引用発明 刊行物1には、上記第2の2(2)ウ(ア)に示したとおりの事項が記載されており、 してみると、刊行物1には 「モノペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメチロールプロパンおよび/またはネオペンチルグリコールの高粘度のネオペンチルポリオールとの混合物およびそれらの混合物からなる群から選択されるネオペンチルポリオール;および (1)ヘプタン酸(C7)およびカプリル-カプリン酸(C8-C10)が重量でほぼ当量存在する直鎖酸25?35重量%および(2)イソーノナン酸65?75重量%を含むモノカルボン酸混合物 との反応生成物からなる合成エステル潤滑剤基剤素材であり、 合成エステル潤滑剤添加パツケージと混合した際に結果として生成したエステル類の混合物が210°Fにおいて少なくとも約7.0センチストークスの粘度を有する合成エステル潤滑剤基剤素材及び該添加パツケージとを混合した、高温用途に適した特性を有する潤滑剤。」 に係る発明(上記第2の2(2)ウ(ア)の「引用発明」に同じ。以下、同様に「引用発明」という。)が記載されているといえる。 4 対比 本願発明は、本件補正発明におけるモノカルボン酸の混合物の炭素数範囲「C_(7)?C_(10)」が「C_(5)?C_(12)」とされ、また、「添加剤パッケージ」の成分含有量が本件補正発明では「ポリオールエステル基材100重量部に対して、4.5重量部の酸化防止剤、2.25重量部の極圧/耐摩耗剤、および0.03重量部の腐食防止剤を含む」であったものが「3重量%?8重量%の酸化防止剤、1重量%?4重量%の極圧/耐摩耗剤、および0.01?0.05重量%の腐食防止剤を含む添加剤パッケージ」とされたものと、実質的に同じである。 そうすると、本願発明と引用発明とは、 「ポリオール混合物及び酸混合物との反応生成物であるポリオールエステル基材であって、その酸混合物はC_(5)?C_(12)モノカルボン酸の混合物であって、(a)25重量%?50重量%の直鎖C_(7)?C_(8)-_(10)酸、及び(b)50重量%?75重量%のiso-C_(9)酸、を含む混合物であり、さらに添加剤パッケージを含む、合成ポリオールエステル系潤滑剤」である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1’)「ポリオール混合物」について、本願発明は「ジペンタエリトリトールを少なくとも50重量%含む」ことが規定されるのに対し、引用発明は「モノペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメチロールプロパンおよび/またはネオペンチルグリコールの高粘度のネオペンチルポリオールとの混合物およびそれらの混合物からなる群から選択されるネオペンチルポリオール」であることが規定される点 (相違点2’)「粘度」について、本願発明は「得られるエステル混合物が40℃で少なくとも0.00012m^(2)/sec」であることが規定されるのに対し、引用発明は「合成エステル潤滑剤添加パツケージと混合した際に結果として生成したエステル類の混合物が210°Fにおいて少なくとも約7.0センチストークスの粘度」であることが規定される点 (相違点3’)「合成ポリオールエステル系潤滑剤」としたときに「ポリオールエステル基材」のほかに含有する成分として、本願発明は「3重量%?8重量%の酸化防止剤、1重量%?4重量%の極圧/耐摩耗剤、および0.01?0.05重量%の腐食防止剤を含む添加剤パッケージ」の含有が規定されるのに対し、引用発明は「混合した際に結果として生成したエステル類の混合物が210°Fにおいて少なくとも約7.0センチストークスの粘度を有する」ような「合成エステル潤滑剤添加パツケージ」の含有が規定される点 (相違点4’)「合成ポリオールエステル系潤滑剤」としたときに、本願発明は「230℃の循環式エアーオーブンに80時間入れられたとき、前記潤滑剤の重量減少率が20重量%未満である」ことが規定されるのに対し、引用発明は「高温用途に適した特性を有する潤滑剤」であることが規定される点 5 判断 相違点1’?4’について検討する。 相違点1’、2’及び4’は、上記第2の2(2)エにおける相違点1、2及び4に同じであり、相違点1’、2’及び4’に係る判断の内容も上記第2の2(2)オ(ア)、同(イ)及び同(エ)において相違点1、2及び4に関して検討したのと同じである。 相違点3’は、上記第2の2(2)エにおける相違点3において、本願発明の添加剤パッケージの添加剤含有量がそれぞれ範囲で規定されている点以外は同じである。相違点3’に係る判断の内容は、引用発明1の具体例が示される刊行物1の添加剤パッケージの極圧/耐摩耗剤及び腐食防止剤の含有量は本願発明の範囲内である点以外は上記第2の2(2)オ(ウ)における検討したのと同様であり、引用発明の「高温用途に適した特性」を付与するという目的が達せられる範囲で酸化防止剤の含有量を調整することは当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内の事項であり、適宜なし得たものである。 そして、その効果も、上記第2の2(2)オ(オ)に示したとおり刊行物1及び2の記載より予測可能な範囲内のものであって格別ではない。 6 まとめ よって、本願発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-01-06 |
結審通知日 | 2012-01-10 |
審決日 | 2012-01-23 |
出願番号 | 特願2003-502131(P2003-502131) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(C10M)
P 1 8・ 121- Z (C10M) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 藤原 浩子 |
特許庁審判長 |
井上 雅博 |
特許庁審判官 |
東 裕子 橋本 栄和 |
発明の名称 | 高温用潤滑剤組成物 |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 村山 靖彦 |
代理人 | 渡邊 隆 |
代理人 | 志賀 正武 |