• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) G01N
管理番号 1258126
判定請求番号 判定2012-600003  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2012-07-27 
種別 判定 
判定請求日 2012-01-19 
確定日 2012-05-21 
事件の表示 上記当事者間の特許第4013192号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 
結論 対象製品説明書ならびにイ号図面およびロ号図面に示す「包埋皿30号」および「包埋皿30号とカセットII-GとカセットIII-Sとを組み立てた包埋システム」は,特許第4013192号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨
本件判定請求は,対象製品説明書ならびにイ号図面およびロ号図面に示す「包埋皿30号」(以下「イ号物品」という)および「包埋皿30号とカセットII-GとカセットIII-Sとを組み立てた包埋システム」(以下「ロ号物品」という)が特許第4013192号発明(以下「本件発明」という)の技術的範囲に属する,との判定を求めたものである。

第2 本件発明
本件特許第4013192号は,平成14年10月2日の出願に係り,平成19年9月21日に設定登録されたものであって,本件発明は,その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるものであると認められ,その請求項1および5に係る発明は以下のとおりのものである。

「【請求項1】
包埋皿(59)の開口部(2a)の周縁外側に、四角形の病理試料用カセットのカセット枠状基体の外側面と水密に嵌合するため、前記カセット枠状基体の外側面と同じテーパーが付けられた内周面を有する水密枠(14)を一体的に突設し、
該包埋皿の開口部の周縁に、前記カセット枠状基体(11)の外側面の多孔底面外側(10b)を水密に覆い塞ぐ形状に嵌合する上端面(4)を形成し、
該カセット枠状基体(11)をミクロトームにワンタッチで脱着するアダプターの掛止め部でもあり該カセット枠状基体の外周面(11a)と多孔底面外側(10b)の交差部(11c)でもある下端縁とで形成された該カセット枠状基体(11)の凸状2角面を、前記上端面(4)と前記水密枠(14)の内周面(14a)とで形成された凹状2角面で、水密に嵌合することを特徴とする病理試料用バリ無し包埋皿。」(以下「本件発明1」という)

「【請求項5】
上側に開口部(21)を形成し、その下側に多孔底面(10)を形成した四角形の病理試料用カセットのカセット枠状基体(11)と、そのカセット枠状基体(11)のカセット開口部(21)に脱着自在に嵌合する多孔性の通液口(58a)を有する蓋体(58)からなる病理試料用カセットと嵌合する包埋皿に於いて、
該包埋皿(59)の開口部(2a)の周縁外側に、前記カセット枠状基体の外側面と水密に嵌合するため、前記カセット枠状基体の外側面と同じテーパーが付けられた内周面(14a)を有する水密枠(14)を一体的に突設し、
該包埋皿(59)の開口部(2a)の周縁外側に、前記カセット枠状基体(11)の外側面の多孔底面外側(10b)と嵌合する上端面(4)を形成し、
前記カセット枠状基体(11)をミクロトームにワンタッチで脱着するアダプターの掛止め部でもあり該カセット枠状基体(11)の外周面(11a)と多孔底面外側(10b)の交差部(11c)でもある下端縁とで形成された該カセット枠状基体(11)の凸状2角面を、前記上端面(4)と前記水密枠(14)の内周面(14a)とで形成された凹状2角面で、水密に嵌合して掛止める形状にし、
前記枠状基体(11)の外壁の外周面(11a)の高さ(H)より前記水密枠(14)の内周面(14a)の高さ(h)は低いが、
該包埋皿(59)の開口部(2a)の水密枠(14)は、その厚さ(t)が、包埋剤(32)が該枠状基体(11)の外壁の外周面(11a)と水密に嵌合する前記水密枠(14)の接触尖端部(14e)に多く溜まらない様な厚さに形成されるか、または、該水密枠(14)の尖端部(14e)に内側から外側に傾斜をつけて形成されていることを特徴とする病理試料用カセット及び包埋皿。」(以下「本件発明5」という)

そして,本件発明1は,分説すると以下の構成要件A?Dを備えるものである。

A 包埋皿(59)の開口部(2a)の周縁外側に、四角形の病理試料用カセットのカセット枠状基体の外側面と水密に嵌合するため、前記カセット枠状基体の外側面と同じテーパーが付けられた内周面を有する水密枠(14)を一体的に突設し、

B 該包埋皿の開口部の周縁に、前記カセット枠状基体(11)の外側面の多孔底面外側(10b)を水密に覆い塞ぐ形状に嵌合する上端面(4)を形成し、

C 該カセット枠状基体(11)をミクロトームにワンタッチで脱着するアダプターの掛止め部でもあり該カセット枠状基体の外周面(11a)と多孔底面外側(10b)の交差部(11c)でもある下端縁とで形成された該カセット枠状基体(11)の凸状2角面を、前記上端面(4)と前記水密枠(14)の内周面(14a)とで形成された凹状2角面で、水密に嵌合することを特徴とする

D 病理試料用バリ無し包埋皿。

また,本件発明5は,分説すると以下の構成要件E?Jを備えるものである。

E 上側に開口部(21)を形成し、その下側に多孔底面(10)を形成した四角形の病理試料用カセットのカセット枠状基体(11)と、そのカセット枠状基体(11)のカセット開口部(21)に脱着自在に嵌合する多孔性の通液口(58a)を有する蓋体(58)からなる病理試料用カセットと嵌合する包埋皿に於いて、

F 該包埋皿(59)の開口部(2a)の周縁外側に、前記カセット枠状基体の外側面と水密に嵌合するため、前記カセット枠状基体の外側面と同じテーパーが付けられた内周面(14a)を有する水密枠(14)を一体的に突設し、

G 該包埋皿(59)の開口部(2a)の周縁外側に、前記カセット枠状基体(11)の外側面の多孔底面外側(10b)と嵌合する上端面(4)を形成し、

H 前記カセット枠状基体(11)をミクロトームにワンタッチで脱着するアダプターの掛止め部でもあり該カセット枠状基体(11)の外周面(11a)と多孔底面外側(10b)の交差部(11c)でもある下端縁とで形成された該カセット枠状基体(11)の凸状2角面を、前記上端面(4)と前記水密枠(14)の内周面(14a)とで形成された凹状2角面で、水密に嵌合して掛止める形状にし、

I 前記枠状基体(11)の外壁の外周面(11a)の高さ(H)より前記水密枠(14)の内周面(14a)の高さ(h)は低いが、該包埋皿(59)の開口部(2a)の水密枠(14)は、その厚さ(t)が、包埋剤(32)が該枠状基体(11)の外壁の外周面(11a)と水密に嵌合する前記水密枠(14)の接触尖端部(14e)に多く溜まらない様な厚さに形成されるか、または、該水密枠(14)の尖端部(14e)に内側から外側に傾斜をつけて形成されていることを特徴とする

J 病理試料用カセット及び包埋皿。

第3 イ号物件
請求人は,対象製品説明書4頁38行?5頁12行によれば,イ号物件を次のとおり特定している。

「a.
包埋皿(59)の開口部(2a)の周縁外側に、四角形の病理試料用カセットのカセット枠状基体の外側面と水密に嵌合するため、

b.前記カセット枠状基体の外側面と同じテーパーが付けられた内周面を有する水密枠(14)を一体的に突設し、

c.該包埋皿の開口部の周縁に、前記カセット枠状基体(11)の外側面の多孔底面外側(10b)を水密に覆い塞ぐ形状に嵌合する上端面(4)を形成し、

d.該カセット枠状基体(11)をミクロトームにワンタッチで脱着するアダプターの掛止め部でもあり
該カセット枠状基体の外周面(11a)と多孔底面外側(10b)の交差部(11c)でもある下端縁とで形成された該カセット枠状基体(11)の凸状2角面を、
前記上端面(4)と前記水密枠(14)の内周面(14a)とで形成された凹状2角面で、水密に嵌合することを特徴とする

e.病理試料用バリ無し包埋皿。」

しかしながら,上記請求人のイ号物件の特定では,本件発明1と具体的に対比することができる程度に特定されているとはいえないから,合議体は,請求人が提出した物件を参酌し,次のとおり特定する。なお,具体的な寸法0.3mmは,該物件を合議体が計測した結果である。
また,被請求人は,答弁書において乙第1,2号証の写真に基づいて,「明らかに同様のテーパーではない」(答弁書3頁4行)と主張しているが,上記物件を詳細に観察すると,「同じテーパーが付けられ」ているといえるから,次のとおり特定する。

a 包埋皿の開口部の周縁外側に,前記カセット枠状基体の外側面と同じテーパーが付けられた内周面を有する枠を一体的に突設し,該「内周面」と「カセット枠状基体の外側面」との間には,0.3mm程度の隙間が存在し,

b 該包埋皿の開口部の周縁に,前記カセット枠状基体の外側面の多孔底面外側を覆い塞ぐ上端面を形成し,

c 該カセット枠状基体をミクロトームにワンタッチで脱着するアダプターの掛止め部でもあり該カセット枠状基体の外周面と多孔底面外側の交差部でもある下端縁とで形成された該カセット枠状基体の凸状2角面を,前記上端面と前記枠の内周面とで形成された凹状2角面に対向させている

d 病理試料用包埋皿。

以下,上記a?dを構成a?dという。

第4 ロ号物件
請求人は,対象製品説明書7頁29行?8頁26行によれば,ロ号物件を次のとおり特定している。

「g.
上側に開口部(21)を形成し、その下側に多孔底面(10)を形成した四角形の病理試料用カセットのカセット枠状基体(11)と、そのカセット枠状基体(11)のカセット開口部(21)に脱着自在に嵌合する多孔性の通液口(58a)を有する蓋体(58)からなる病理試料用カセットと嵌合する包埋皿に於いて、

h.
該包埋皿(59)の開口部(2a)の周縁外側に、前記カセット枠状基体の外側面と水密に嵌合するため、

i.
前記カセット枠状基体の外側面と同じテーパーが付けられた内周面(14a)を有する水密枠(14)を一体的に突設し、

j.
該包埋皿(59)の開口部(2a)の周縁外側に、前記カセット枠状基体(11)の外側面の多孔底面外側(10b)と嵌合する上端面(4)を形成し、

k.
前記カセット枠状基体(11)をミクロトームにワンタッチで脱着するアダプターの掛止め部でもあり
該カセット枠状基体(11)の外周面(11a)と多孔底面外側(10b)の交差部(11c)でもある下端縁とで形成された該カセット枠状基体(11)の凸状2角面を、
前記上端面(4)と前記水密枠(14)の内周面(14a)とで形成された凹状2角面で、水密に嵌合して掛止める形状にし、

l.
前記枠状基体(11)の外壁の外周面(11a)の高さ(H)より前記水密枠(14)の内周面(14a)の高さ(h)は低いが、

m.
該包埋皿(59)の開口部(2a)の水密枠(14)は、
その厚さ(t)が、包埋剤(32)が該枠状基体(11)の外壁の外周面(11a)と水密に嵌合する前記水密枠(14)の接触尖端部(14e)に多く溜まらない様な厚さに形成されるか、
(または、該水密枠(14)の尖端部(14e)に内側から外側に傾斜をつけて形成されていること)を特徴とする

n.
病理試料用カセット及び包埋皿。」

しかしながら,上記請求人のロ号物件の特定では,本件発明5と具体的に対比することができる程度に特定されているとはいえないから,合議体は,イ号物件の特定と同様に,請求人が提出した物件を参酌し,次のとおり特定する。

e 上側に開口部を形成し,その下側に多孔底面を形成した四角形の病理試料用カセットのカセット枠状基体と,そのカセット枠状基体のカセット開口部に脱着自在に嵌合する多孔性の通液口を有する蓋体からなる病理試料用カセットと嵌合する包埋皿に於いて,

f 該包埋皿の開口部の周縁外側に,前記カセット枠状基体の外側面と同じテーパーが付けられた内周面を有する枠を一体的に突設し,該「内周面」と「カセット枠状基体の外側面」との間には,0.3mm程度の隙間が存在し,

g 該包埋皿の開口部の周縁外側に,前記カセット枠状基体の外側面の多孔底面外側を覆い塞ぐ上端面を形成し,

h 前記カセット枠状基体をミクロトームにワンタッチで脱着するアダプターの掛止め部でもあり該カセット枠状基体の外周面と多孔底面外側の交差部でもある下端縁とで形成された該カセット枠状基体の凸状2角面を、前記上端面と前記枠の内周面とで形成された凹状2角面で,掛止める形状にし,

i 前記枠状基体の外壁の外周面の高さ(H)より前記枠の内周面の高さ(h)は低いが,該包埋皿の開口部の枠は,その厚さ(t)が,包埋剤が該枠状基体の外壁の外周面と前記枠の接触尖端部に多く溜まらない様な厚さに形成されている

j 病理試料用カセット及び包埋皿。

以下,上記e?jを構成e?jという。

第4 当事者の主張
1 請求人
判定請求書および弁駁書によれば,請求人は,甲第1?18号証を提出し,以下のとおり主張している。
(1)「上記イ号対比表、添付の対象製品説明書の1.イ号物件の欄から明らかなように、イ号物件である包埋皿30号は、本件特許発明1と相違点はなく、すべての構成を含む。・・・・・従って、イ号物件である包埋皿30号は、本件特許発明1の技術的範囲に属する。」(請求書9頁39行?10頁8行)
(2)「上記イ号、ロ号対比表、添付の対象製品説明書のイ号、ロ号説明の欄全体から明らかなように、ロ号物件は、本件特許発明5と相違点はなく、本件特許発明5の構成の全てを充足する。」(請求書15頁5?7行)

2 被請求人
答弁書によれば,被請求人は,乙第1?6号証を提出し,以下のとおり主張している。
(1)「しかしながら、上記(一)から(六)で被請求人が述べたように構成a.、構成b.、構成c.及び構成d.を備えていないイ号物件(包埋皿30号)は、『本件特許発明1の技術的範囲に属する。』とはできない。」(答弁書7頁8?10行)
(2)「しかしながら、上記したように本件特許発明5のg.からk.の構成を備えていない以上当然に『包埋システム』は、本件特許5の技術的範囲に属しない。」(答弁書10頁17?18行)

第5 当審の判断
1 本件発明の技術的意義について
本件発明の技術的意義を把握するために,本件特許明細書(甲第1号証)を参照すると,次のような「課題」,「目的」,「解決手段」及び「効果」が記載されている。

(1)「【0002】
また本発明者の先願に係る特願2001-105009のバリの発生しない病理組織試料用カセット以外の従来のカセットを用いても前記病理組織試料を薄切りする前の状態の病理組織試料の包埋ブロックを形成する際、該包埋ブロックにバリが発生しないようにして、前記薄切り時の切片の厚さを均一にして、病理検査の精度を高めようとするものであると共に、従来の包埋作業工程では包埋皿の構造上従来のカセット周囲にバリが発生して、ナイフや熱にて該バリを排除している。そのバリ取り作業を無くし合理化することと、この従来の包埋皿の包埋法による従来のカセットのバリ取り作業の際に生じる、カセット周囲に記載印字された試料データ面が損傷して包埋ブロック作製後に試料データの読み取りを困難にすることを防止するものである。」

(2)「【0008】
【発明が解決しようとする課題】
この発明の目的は、臨床医の各患者からの採取した生検試料を含む病理組織検体試料の採取時から病理診断報告完了時迄の間の作業において、それらの各患者の検体試料データ(採取試料と依頼書データと既往歴データ)の紛失や混入及び、入れ替わりの人為的なミスによる危険性を無くし、またそのような間違いが生じた場合はその事後でも、何処でトラブルが発生したかを明確にして、その責任の所在を明らかにすることである。」

(3)「【0011】
その為には、前記カセット内の試料のマクロ画像の観察確認の他に各患者データを確実にカセット試料と連結関連づける試料データ番号やバーコードや二次元データコード等の手段が必要であったが、従来の包埋ブロック作製法ではカセット基体のバリ取り作業中にデータ記載面を傷付け機械的な自動読み取りができなかったので、臨床側からの患者データを病理標本作製行程側にそのまま導入できずにいた。この患者試料データでもあるブロック試料データの記載面を確実に守ることである。」

(4)「【0039】
【発明の効果】
この発明は上述のとおり、カセット枠状基体の外周面と底部の交わる凸状2角面或いは1面とバリ無し包埋皿の水密枠と包埋皿上端面の交わる凹状2角面或いは1面とで包埋皿収容底部上の包埋剤がカセット枠状基体の外周面に溢れ出ない様に水密にカセット枠状基体が包埋皿上端面上の水密枠に嵌合することを特徴としていて、その発展形であるバリ無し包埋枠の場合は全周囲の水密枠の高さがカセット枠状基体の外周面の高さ即ち枠状基体の厚さと同じであっても包埋作業の完成した包埋ブロックカセットは枠状基体の包埋枠開放底部を上に押し出すことで簡単に取り出せるのでバリ無し包埋皿の様なカセット取り出し部は必要ない。
そこで、カセット枠状基体の多孔底面とバリ無し包埋枠の開放底部側の蓋との間、またカセット多孔底面に窓口を成形した場合には包埋皿カセットの蓋とバリ無し包埋枠開放底部側蓋との間に多孔面で完全に囲まれた空間ができ、ここを試料の収納部として使用すると、包埋皿カセットとして包埋機能が繰り込まれたカセットが出来上がる。」

上記本件特許明細書の記載から明確に把握できるとおり,「カセットの凸状2角面と包埋皿の凹状2角面とを嵌合させることで,水密構造を形成し,従来のようなバリが発生しない包埋ブロックを形成することができる。その結果,従来のようなバリ取り作業を必要としないため,試料データ面を損傷することがない」ことが,本件発明1の技術意義であると認められる。

2 イ号物件について
(1)構成aが構成要件Aを充足するか否か
まず,本件特許明細書には,「水密に嵌合」に関して,その段落【0026】には「・・・・・水密に嵌合することによってブロック試料のカセット周囲にバリ57は発生しない。」と記載され,その段落【0027】には「しかし、その水密面はカセット側の凸状2角面とバリ無し包埋皿の凹状2角面で水密に嵌合しても同じ効果が有ることは自明なことである。そこで、図5?図9に示す如くの形状の包埋皿59にすると発明者によって既に出願されている図2?図4の前記カセット枠状基体11の多孔底面外側10bより狭い面積で下向きに突設された多孔支持底板13がなくとも従来のカセットの形状でもバリ無し包埋皿の水密嵌合部の形状は凹凸が逆にはなるが同じ効果を得ることができる。この該カセット枠状基体11の形状は種々に作製でき、図3?図10の如くに従来の台形や箱形だけではなく倒立台形(図3右)の形状でもバリ無し包埋できる。しかし、この包埋皿の場合は、包埋ブロックを該バリ無し包埋皿から簡単に取り出す為にはカセットの枠状基体11の取り出し部16乃至16aが必要になる。」と記載され,その段落【0034】には「さらにまた、この発明は全形状のカセット枠状基体の凸状2角面とバリ無し包埋皿の凹状2角面で水密に嵌合してバリの発生付着を防止しており、カセット枠状基体に2角面が在ればどの位置にでもバリ無し包埋をすることができる。・・・・・」と記載されている。また,「同じテーパー」については,その段落【0034】には「・・・・・この時、図12に示す如くにミクロトーム用アダプターの嵌合時に邪魔にならない程度に該カセット枠状基体11外側面に該バリ無し包埋枠19のバリ無し包埋皿水密枠内周面14aと同じテーパー14cを付けると完成したバリ無し包埋ブロックカセットを外し取り出し安い・・・・・」と記載されている。

一方,用語「水密」は,広辞苑第六版によれば,一般的に「機械・装置などで、隙間などから水が漏れないようになっている状態。」を意味し,同様に,用語「嵌合」は,「〔機〕軸が穴にかたくはまり合ったり、滑り動くようにゆるくはまり合ったりする関係をいう語。」を意味し,用語「バリ」(ばり)は,「金属やプラスチックを加工する際、その縁へりなどにはみ出た余分な部分。」を意味する。
そうすると,上記の本件特許明細書の記載および技術常識を考慮すると,構成要件Aにおいては,「水密」を実現する専用の構造を備えていないことからみて,厳密な「水密」を実現しておらず,構成要件Aの「水密に嵌合」とは,「互いに密着あるいは接触しており,隙間がない」状態であると解するのが相当である。

これに対し,イ号物件において,その「枠」は,「カセット枠状基体の外側面と同じテーパーが付けられた内周面を有する」ものの,該「内周面」と「カセット枠状基体の外側面」との間には,0.3mm程度の隙間,すなわち「遊び」が存在している。
そして,本件特許公報に掲載されている参考文献であり,乙第5号証である特開2001-116669号公報段落【0020】の「次に、図1及び図2に示すように、検体処理用容器の容器本体40を、包埋皿本体10の第1の凹部12内にはめ込む。・・・・・」との記載,あるいは,同特開2003-106963号公報段落【0023】の「載置壁2の周縁の輪郭は、そこに載置される検体処理用のカセットの周縁の輪郭とぴったりと一致するようになっており、更に、載置壁2と縁壁3とを繋ぐコーナーR部4の半径も極力小さく(具体的には0.5mm程度)に設定されている。従って、先に従来技術の項で説明したようなカセットの周囲に付着する不要パラフィンP2を最小限にすることができる。」との記載からみて,「はめ込む」あるいは「ぴったりと一致する」ことが技術的に可能であることを考慮すると,この隙間は,製造誤差等により生じたものではなく,積極的に設けたものであるとするのが相当である。
そうすると,該「内周面」と該「外側面」とは,「互いに密着あるいは接触しており,隙間がない」状態であるとはいえず,イ号物件においては,その「カセット枠状基体」は,「包埋皿」の「枠」内に載置されているといえるものの,「水密に嵌合」しているとは到底いえない。

してみると,構成aは,構成要件Aを充足しないというべきである。

(2)構成bが構成要件Bを充足するか否か
構成要件B「該包埋皿の開口部の周縁に、前記カセット枠状基体(11)の外側面の多孔底面外側(10b)を水密に覆い塞ぐ形状に嵌合する上端面(4)を形成し」の規定では,「多孔底面外側(10b)」が「上端面(4)」と水密に嵌合する,と解釈できるが,その技術的意味は,上記「(1)構成要件Aについて」にて述べた同様に,「多孔底面外側(10b)」と「上端面(4)」とが「互いに密着あるいは接触しており,隙間がない」状態であると解せられる。
そこで,構成bと構成要件Bと対比すると,構成bでは「該包埋皿の開口部の周縁」の「上端面」を覆うように「カセット枠状基体の多孔底面外側」が載置されるのであるから,該「上端面」と該「多孔底面外側」とが「互いに密着あるいは接触しており,隙間がない」状態であるといえる。
してみると,構成bは構成要件Bを充足する。

(3)構成cが構成要件Cを充足するか否か
前述したように,イ号物件の「水密に嵌合」は,「互いに密着あるいは接触しており,隙間がない」状態であると解せられる。
一方,構成cでは,「凸状2角面」と「凹状2角面」とは,隙間を有して対向しているのであるから,この点において,該「凸状2角面」と該「凹状2角面」とは,「水密に嵌合」しているとは,到底いえない。
したがって,構成cは,構成要件Cを充足しないというべきである。

(4)構成dが構成要件Dを充足するか否か
「バリ無し」について,請求人は「従来のようなバリ取り作業が必要なバリ57の発生が無い」ことを意味すると主張している(判定請求書6頁15?16行)。すなわち,本件発明1においては,バリの付着の程度が従来より極めて少ないことを「バリ無し」と表現しているといえる。
そこで,例えば,従来のものの1つといえる前述の特開2001-116669号公報第1図に記載されたものと比較すると,バリの付着の程度は,イ号物件の方が小さいとは到底いえず,イ号物件は「バリ無し包埋皿」であるとはいえない。
してみると,構成dは,構成要件Dを充足しないというべきである。

(5)まとめ
そうすると,イ号物件は,構成要件Bを充足するものの,本件発明1の構成要件A,CおよびDを充足しないものである。

3 ロ号物件について
本件発明5は,本件発明1の「包埋皿」を一部構成として有しており,また,ロ号物件は,イ号物件の構成を全部有している。そして,構成要件AおよびCは,それぞれ,構成要件FおよびHと実質的に同一であり,構成要件aおよびcは,構成要件fおよびhと同一である。
そうすると,前述のとおり,イ号物件は,本件発明1の構成要件AおよびCを充足しないのであるから,同様の理由により,ロ号物件も,本件発明5の構成要件FおよびHを充足しないものである。

第6 請求人の主張について
(1)請求人は,判定請求書7頁38行?8頁2行において「以上のことから、本件特許発明の『水密嵌合』とは、(1)カセットの凸状2角と包埋皿の凹状2角面とが嵌合すること、(2)大方の包埋剤をカセット内に溜めるような嵌合部の隙間、密着度を備えること、(3)嵌合部で包埋剤が固化し、また嵌合部から溢れた包埋剤がカセット側面に固化して付着物となっても、後に従来のバリ取り作業がいらない付着物であること、このような構成、作用があるものを本件特許発明では『水密嵌合』という。全く、包埋剤を通過させない嵌合構造のものいうものでない。」と主張している。
しかしならが,そもそも,本件特許明細書には「水密嵌合」の程度を具体的に定義されておらず,その結果として,単に「バリ無し」と記載されているのみである。そして,技術常識を参酌して,完全な「バリ無し」ではないにしても,前述した本件特許明細書の記載からみると,本件発明1および5においては,可能なかぎり「バリ」を少なくするように,「凸状2角面」と「凹状2角面」とを密着するようにするものであると解するのが相当であり,積極的に0.3mm程度の「隙間」を設けたものを含むとは到底いえない。
したがって,請求人の上記主張は,本件特許明細書に基づかないものであり,採用出来ない。

(2)請求人は,弁駁書2頁15?21行において「本件特許発明1、5に係る特許製品のような、金型を用いた金属成形品、プラスチック成形品製造技術分野において、真に平坦な面、異なる部材面が完全同一(同じテーパー)になることなどあり得ない。そのことは、説明するまでもなく、当業者とって技術常識である。同じ金型を用いた成形品ですら製品間に誤差が生じる。」と主張している。
しかしながら,イ号物件の全体の大きさ(数十mm)を考慮すれば,0.3mm程度の「隙間」が製造誤差であると考えるのは不自然であり,むしろ,積極的に設けた「隙間」であると考えるのが技術常識であり,この様な製造誤差が存在するという証拠も提出されていない。
そして,この様な製造誤差を有するものも本件発明が含むとすれば,前述した本件特許公報に掲載されている参考文献である特開2001-116669号公報あるいは特開2003-106963号公報に記載されたものをも含む恐れがある。

(3)請求人は,弁駁書において,具体的な主張・立証をせずに,均等の判断を求めている。
そこで,判断するに,本件特許明細書の記載からみて,本件発明1,5とイ,ロ号物件との相違点である「水密に嵌合する」が,本件発明1,5の顕著な効果である「バリ無し」を生じさせるのでのであるから,該「水密に嵌合する」が本件発明1,5の本質的部分であることは,明らかである。 してみると,要件1を満たさないから,他の要件を検討するまでもなく,本件判定において均等論は成立しないというべきである。

(4)請求人は,甲第10?18号証を提出して被請求人の本件特許に対する過去の認識を考慮することを求めている。
しかしながら,判定は,本件特許明細書の記載(技術常識を含む)および特許請求の範囲の特定事項から判断するものであって,被請求人の過去における認識を考慮すべきものではないことは,明らかである。
したがって,上記請求人の主張は,採用出来ない。

第7 むすび
以上のとおりであるから,イ号物件およびロ号物件は,本件発明の技術的範囲に属しない。
よって,結論のとおり,判定する。
 
別掲
 
判定日 2012-05-11 
出願番号 特願2002-290534(P2002-290534)
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小原 博生山田 昭次  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 横井 亜矢子
信田 昌男
登録日 2007-09-21 
登録番号 特許第4013192号(P4013192)
発明の名称 病理試料用バリ無し包埋皿及びカセット  
代理人 折居 章  
代理人 中川 邦雄  
代理人 大森 純一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ