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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07C
管理番号 1258504
審判番号 不服2009-19557  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-13 
確定日 2012-06-14 
事件の表示 特願2000-216559「新規なジフェノールおよびジフェノキノン」拒絶査定不服審判事件〔平成14年1月29日出願公開、特開2002-30014〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成12年7月17日の出願であって、
平成21年4月10日付けの拒絶理由通知に対し、平成21年6月17日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされ、
平成21年7月10日付けの拒絶査定に対し、平成21年10月13日に審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正書の提出がなされ、
平成23年8月11日付けの審尋に対し、平成23年10月24日付けで回答書の提出がなされ、
平成23年12月27日付けで審判合議体による拒絶の理由が通知されるとともに、同日付けの補正の却下の決定により平成21年10月13日付けの手続補正が却下され、
前記審判合議体による拒絶理由通知の指定期間内である平成24年3月12日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされたものである。

第2 本願発明
本願請求項1?2に記載された特許を受けようとする発明は、平成21年6月17日付け及び平成24年3月12日付けの手続補正により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?2に記載されたとおりのものであり、
その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものであり、
「一般式(I)で表わされるジフェノール化合物。
【化1】

(式中、R^(1)は、分岐数が1である炭素原子数10?18のアルキル基を示す。R^(2)は、水素原子を示す。)」
その請求項2に係る発明(以下、「本願発明2」という。)は、次のとおりのものである。
「一般式(II)で表わされるジフェノキノン化合物。
【化2】

(式中、R^(1)は、分岐数が1である炭素原子数10?18のアルキル基を示す。R^(2)は、水素原子を示す。)」

第3 審判合議体による拒絶の理由
平成23年12月27日付けの拒絶理由通知書(以下、「先の拒絶理由通知書」という。)に示した拒絶の理由は、
理由1として、『この出願の請求項1?2に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1?7に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。』という理由と、
理由2として、『この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1?2号の規定に適合するものではなく、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。』という理由からなるものである。

第4 当審の判断
1.理由1について
(1)引用刊行物及びその記載事項
ア.引用された刊行物1、3及び5?7
先の拒絶理由通知書の「理由1」において『その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1?7』として引用されたうちの刊行物1、3及び5?7の各々は次のとおりである。
刊行物1:特開昭63-215652号公報
刊行物3:米国特許第3562338号明細書
刊行物5:特開平5-271411号公報
刊行物6:特開平7-36067号公報
刊行物7:特開平5-17397号公報

イ.刊行物1の記載事項
上記刊行物1には、次の記載がある。
摘記1a:第1右下欄第2行?第2頁左下欄第7行
「アルキルフェノール類の酸化カップリング反応(下記(1)式)で得られる生成物は、出発物質であるアルキルフェノールのアルキル基が嵩高くなるとジフェノキノンの生成量が増加し、例えば、2,6-ジ-第三ブチルフェノールでは、ほぼ100%の選択率で3,3’,5,5’-テトラ-第三ブチル-4,4’-ジフェノキノンとなる。

従って、アルキルビフェノールを得る為にはジフェノキノンを更に還元する操作が必要となる…
本発明の方法に用いるアルキルフェノール類は、フェノール核の2,6-位がC_(1)?C_(12)の直鎖あるいは側鎖を有するアルキル基で、好ましくは、第二あるいは第三アルキル基で、置換された2,6-ジアルキルフェノールである。
具体的には、2,6-ジイソプロピルフェノール、2,6-ジ第三ブチルフェノール、2,6-ジ第二ブチルフェノール、2-メチル-6-第三ブチルフェノール、2-シクロヘキシル-6-ドデシルフェノールなどが例示される。」

ウ.刊行物3の記載事項
上記刊行物3には、和訳にして、次の記載がある。
摘記3a:第1欄第29?43行
「この発明はビスフェノールの調製のためのプロセスに関するものである。特にこの発明は4,4’-ビス(2,6-ジ-ヒドロカルビルフェノール)の調製のためのプロセスに関するものである。
ビスフェノールは、殺菌剤、化学中間体、共重合体、及び特に酸化防止剤として有用である。例えば、4,4’-ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)は有機物質の広範な範囲における優れた酸化防止剤である。当該ビスフェノールは、動物及び植物の脂肪又は油、ガソリン、潤滑剤、ポリエチレン及びポリプロピレンのようなポリオレフィン、並びに天然及び合成のゴムのような物質の安定化のために使用できる。当該ビスフェノールは少量を用いただけで有機物質の全体にわたって一様にその防護作用を発揮する。通常約0.1ないし1重量パーセントの濃度で適切な酸化防止の防護を与える。」

摘記3b:第7欄第13?38行
「実施例1及び2に記載した上記工程は、出発物質となるフェノールの反応物質を変えるだけで広範な種類のビスフェノールを製造するのに用いることができる。例えば、次の表にフェノールの反応物質を、上記プロセスによって生じる対応するビスフェノールの生成物とともに列挙した。
フェノールの反応物質: ビスフェノールの生成物

6-sec-エイコシル-o-クレゾール -- 4,4'-ビス(2-メチル-6-
エイコシルフェノール)。」

摘記3c:第8欄第69行?第9欄第52行
「実施例9
反応混合物が15分間250℃に維持された以外は実施例8の工程が反復された。94%の収率が得られた。
シリアル番号553024として1966年5月26日に出願された本発明者の先願において、発明者は次の一般式を有するフェノールを反応させることからなる4,4’-ビス(2,6-ジヒドロカルビルフェノール)の製造のための2段階工程について記述した。

ここで、R_(11)は約3?20の炭素原子を含むα分岐アルキル残基、約8?20の炭素原子を含むα分岐アラルキル基、及び約6?20の炭素原子を含むシクロアルキル残基からなる群から選ばれるものであり、そして、R_(12)は1?20の炭素原子を含むアルキル残基、6?20の炭素原子を含むアリル残基、7?20の炭素原子を含むアラルキル残基、及び6?20のシクロアルキル残基からなる群から選ばれるものであり、アルキル金属水酸化触媒の存在下の酸素とともに、約30?300℃の温度で、フェノールの約50モル%までが、次の一般式のジフェノキノンに転換する。

ここで、R_(11)及びR_(12)は、上記と同様である。

上記一般式Vで表されるフェノールは立体障害フェノールである。これらは水酸基に対してオルト位の両方にアルキル基、アリル基、アラルキル基、又はシクロアルキル基を有する。いくつかの代表的なフェノールは、2-メチル-6-tert-ブチルフェノール、2-エチル-6-tert-オクチルフェノール、2-イソプロピル-6-tert-ブチルフェノール、2-メチル-6-sec-ブチルフェノール、2-tert-ブチル-6-(α-メチルベンゾイル)フェノール、2-フェニル-6-メチルフェノール、2-シクロヘキシル-6-メチルフェノール、2-sec-セチル-6-イソプロピルフェノール、及び同様なものである。」

エ.刊行物5の記載事項
上記刊行物5には、次の記載がある。
摘記5a:段落0008
「さらに芳香族環の水素原子をかさ高いアルキル基で置換することにより、さらに溶媒溶解性が高くなる。」

摘記5b:段落0017
「また、かさ高いアルキル基を構造上有しているため、有機溶媒との親和性が大きく、溶媒への溶解性が良好である。」

オ.刊行物6の記載事項
上記刊行物6には、次の記載がある。
摘記6a:段落0008
「かさ高いアルキル基などの置換基を導入した場合には、…これらの化合物は融点が低い…という課題があった。」

カ.刊行物7の記載事項
上記刊行物7には、次の記載がある。
摘記7a:段落0015
「ここで使用する”かさ高さ”とは、立体障害を発現しやすい置換基の大きさを表現するもので、例えば、アルキル基中の炭素数が多いか、あるいは同数であっても側鎖をもち、炭素鎖が枝分れを多く持つことを意味する言葉として使用する。」

(2)刊行物3に記載された発明
摘記3bの「実施例1及び2に記載した上記工程は、出発物質となるフェノールの反応物質を変えるだけで広範な種類のビスフェノールを製造するのに用いることができる。例えば、次の表にフェノールの反応物質を、上記プロセスによって生じる対応するビスフェノールの生成物とともに列挙した…6-sec-エイコシル-o-クレゾール…4,4’-ビス(2-メチル-6-エイコシルフェノール)。」との記載、及び
摘記3cの「実施例9…発明者は次の一般式を有するフェノールを反応させることからなる4,4’-ビス(2,6-ジヒドロカルビルフェノール)の製造のための2段階工程について記述した。

ここで、R_(11)は約3?20の炭素原子を含むα分岐アルキル残基…であり、そして、R_(12)は1?20の炭素原子を含むアルキル残基…であり、次の一般式のジフェノキノンに転換する。

…いくつかの代表的なフェノールは、…2-メチル-6-sec-ブチルフェノール、…2-sec-セチル-6-イソプロピルフェノール、及び同様なものである。」との記載からみて、刊行物3には、
『次の一般式を有するフェノールを反応させることからなる4,4’-ビス(2,6-ジヒドロカルビルフェノール)。

ここで、R_(11)は約3?20の炭素原子を含むα分岐アルキル残基であり、R_(12)は1?20の炭素原子を含むアルキル残基であり、代表的なフェノールは、2-メチル-6-sec-ブチルフェノール、2-sec-セチル-6-イソプロピルフェノール、及び6-sec-エイコシル-o-クレゾールである。』についての発明(以下、「引用発明1」という。)、
並びに、
『次の一般式のジフェノキノン。

ここで、R_(11)は約3?20の炭素原子を含むα分岐アルキル残基であり、R_(12)は1?20の炭素原子を含むアルキル残基である。』についての発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

(3)本願発明1について
ア.対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「次の一般式を有するフェノールを反応させることからなる4,4’-ビス(2,6-ジヒドロカルビルフェノール)。」の化学構造については、摘記1aの「

」という化学式(以下、「式1」という。)に照らして、
引用発明1のビスフェノールの2,6-位の「ヒドロカルビル基」に対応するR_(11)及びR_(12)の各々が、式1のR及びR’に対応し、
引用発明1のビスフェノールの3,5-位の非置換部位の水素原子は、本願発明1の「R^(2)は、水素原子」の場合に相当し、
引用発明1の「R_(11)は約3?20の炭素原子を含むα分岐アルキル残基」は、本願発明1の「R^(1)は、分岐数が1である炭素原子数10?18のアルキル基」と、炭素原子数が『10?18』の数値範囲において重複し、
引用発明1の「R_(12)は1?20の炭素原子を含むアルキル残基」は、本願発明1の一般式(I)の「CH_(3)」基と、炭素原子数が『1』の範囲において重複するものの、
引用発明1の「代表的なフェノール」が「2-メチル-6-sec-ブチルフェノール、2-sec-セチル-6-イソプロピルフェノール、及び6-sec-エイコシル-o-クレゾール」であることから、この「代表的なフェノール」との対比においては、上記「式1」を援用するに、
両者は、「次式で表わされるジフェノール化合物。

(式中、R’は、アルキル基を示す。Rは、分岐数が1であるアルキル基を示す。)」である点において一致し、
(α)引用発明1の「代表的なフェノール」が「2-sec-セチル-6-イソプロピルフェノール」である場合に、式1のRが、両者とも分岐数が1である炭素原子数16のアルキル基である点で更に一致するから、
式1のR’が、本願発明1においては「CH_(3)」基(炭素原子数1のアルキル基)であるのに対して、引用発明1においてはイソプロピル基(炭素原子数3のアルキル基)である点においてのみ両者は相違し、
(β)引用発明1の「代表的なフェノール」が「2-メチル-6-sec-ブチルフェノール」又は「6-sec-エイコシル-o-クレゾール」である場合に、式1のR’が、両者ともメチル基である点で更に一致するから、
式1のRが、本願発明1においては「分岐数が1である炭素原子数10?18のアルキル基」であるのに対して、引用発明1においてはsec-ブチル基(分岐数が1である炭素原子数4のアルキル基)又はsec-エイコシル基(分岐数が1である炭素原子数20のアルキル基)である点においてのみ相違する。

イ.判断
上記(α)及び(β)の相違点について検討する。
上記(α)の相違点に関して、刊行物3に記載された発明は、R_(12)がイソプロピル基のみならず、メチル基(炭素原子数1のアルキル基)である場合をも包含するものであるから、その「3」という炭素原子数を「1」に設計変更することは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲内であり、
上記(β)の相違点に関して、刊行物3に記載された発明は、R_(11)がsec-ブチル基(分岐数が1である炭素原子数4のアルキル基)又はsec-エイコシル基(分岐数が1である炭素原子数20のアルキル基)のみならず、sec-セチル基(分岐数が1である炭素原子数16のアルキル基)等である場合をも包含するものであるから、その「4」又は「20」という炭素原子数を「10?18」に設計変更することは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲内であり、
上記「R」又は「R^(1)」のアルキル基の炭素原子数を「3」又は「10?18」の範囲内に設計変更することによって、当業者にとって格別予想外の顕著な効果が奏し得るか否かについて検討するに、
摘記5aの「芳香族環の水素原子をかさ高いアルキル基で置換することにより、さらに溶媒溶解性が高くなる。」との記載、摘記5bの「かさ高いアルキル基を構造上有しているため、有機溶媒との親和性が大きく、溶媒への溶解性が良好である。」との記載、摘記6aの「かさ高いアルキル基などの置換基を導入した場合には、…これらの化合物は融点が低い」との記載、及び摘記7aの「”かさ高さ”とは、立体障害を発現しやすい置換基の大きさを表現するもので、例えば、アルキル基中の炭素数が多いか、あるいは同数であっても側鎖をもち、炭素鎖が枝分れを多く持つことを意味する」との記載からみて、
一般的に、芳香族環のアルキル基として、炭素数が多く、側鎖をもった、嵩高いアルキル基を選択した場合には、有機溶媒との親和性が大きく、溶媒への溶解性が良好で、融点が低いという特性が得られることは、当業者にとって「通常の知識」の範囲内の技術常識であると認められるから、
アルキル基の炭素数の最適化に伴う作用効果は、当業者にとって容易に予測可能な程度のことでしかなく、
補正後の本願明細書の段落0030に記載された「炭素原子数10?18の分岐状のアルキル基をもつものであり、結晶融点が低く、溶解性に優れる特徴をもつ。」という効果が、当業者にとって格別予想外の顕著な効果であるとは認められない。
また、本願明細書の発明の詳細な説明には、R^(1)が「分岐数1である炭素原子数10?17のアルキル基」である場合の実施例についての記載がないから、本願発明1のうちの実施例レベルでのサポートがなされていない範囲のものについてまで、格別予想外の顕著な効果があるとは認められない。
したがって、本願発明1は、刊行物3に記載された発明(並びに刊行物1及び5?7に記載された技術常識)に基づいて、当業者(その発明が属する技術の分野における「通常の知識」を有する者)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(4)本願発明2について
ア.対比
本願発明2と引用発明2とを対比すると、
引用発明2の「R_(11)は約3?20の炭素原子を含むα分岐アルキル残基」は、本願発明2の「R^(1)は、分岐数が1である炭素原子数10?18のアルキル基」に相当し、
引用発明2の「R_(12)は1?20の炭素原子を含むアルキル残基」は、本願発明2の一般式(II)の「CH_(3)」基に相当し、
引用発明2の一般式(VI)の芳香族環の非置換部分は、本願発明2の「R^(2)は、水素原子」に相当するから、
両者は、「一般式(II)で表わされるジフェノキノン化合物。
【化2】

(式中、R^(1)は、分岐数が1である炭素原子数10?18のアルキル基を示す。R^(2)は、水素原子を示す。)」である点において一致し、
実施例レベルでみると、本願発明2は、本願明細書の段落0027の「実施例1」の「2,2’-ジ(2-オクタデシル)-6,6’-ジメチル-4,4’-ジフェノキノン」というR^(1)が「分岐数1である炭素原子数18のアルキル基」である場合のcis体のジフェノキノン化合物の具体例を伴うのに対して、引用発明2は、本願発明2の発明特定事項を満たす「ジフェノキノン化合物」の具体例を伴うものではない点においてのみ相違する。

イ.判断
上記相違点について検討するに、引用発明2の「アルキル基」の炭素原子数を、当該「引用発明2」に規定される「約3?20」という範囲内において、本願発明2の「10?18」という範囲に変更してみることは、当業者にとって容易に想到し得ることである。
そして、一般的に、芳香族環のアルキル基として、炭素数が多く、側鎖をもった、嵩高いアルキル基を選択した場合には、有機溶媒との親和性が大きく、溶媒への溶解性が良好で、融点が低いという特性が得られることは、当業者にとって「通常の知識」の範囲内の技術常識にすぎないから、本願発明2に、当業者にとって格別予想外の選択的効果があるとは認められない。
また、本願明細書の発明の詳細な説明には、R^(1)が「分岐数1である炭素原子数10?17のアルキル基」である場合の実施例についての記載がないから、本願発明2のうちの実施例レベルでのサポートがなされていない範囲のものについてまで、格別予想外の顕著な効果があるとは認められない。
したがって、本願発明2は、刊行物3に記載された発明及び本願出願前の技術水準における技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(5)請求人の主張について
平成24年3月12日付けの意見書の『しかしこの立体障害の結果、これが具体的に有機溶媒との親和性が大きく、溶媒への溶解性が室温で良好で、結晶融点が低いという特性を引き起こすか否かは実験してみなければ不明です。さらに化合物が異なれば立体障害の発現も異なってくるものであろうことは明らかです。すなわち、前記の摘記5a?摘記7aの引用文献5?7は、化合物が異なります。「ジフェノール化合物」の特性に関する記載ではありません。摘記5a?摘記7aの言及する化合物はそれぞれジフェノール化合物とは全く異なる化合物または組成物に関する知見であります。』との主張に関して、
例えば、特開平8-259485号公報の段落0004の「フェノール核にアルキル基を置換基としてもつビスフェノール化合物は、アルキル基が親油性であって、種々の有機溶剤に溶解しやすくなる」との記載にもあるように、本願発明1のような「ジフェノール化合物」に限ってみても、アルキル基の親油性を利用して有機溶剤への溶解性を高めることは、当業者にとって周知慣用の常套手段にすぎないものと認められるところ、
刊行物5?7に記載された化合物は、何れも本願発明1の「ジフェノール化合物」や本願発明2の「ジフェノキノン化合物」と同様に、芳香族系の化合物に属するものであって、このような芳香族系の化合物が概して嵩高いアルキル基を導入した場合に『有機溶媒との親和性が大きく、溶媒への溶解性が室温で良好で、結晶融点が低いという特性』を示すことは、そもそも刊行物5?7の記載を参酌するまでもなく、当業者にとって「通常の知識」の範囲内の技術常識にすぎないものと解されるから、上記「実験してみなければ不明です。」との主張は採用できない。

2.理由2について
先の拒絶理由通知書においては、その「2.(3)」の不備として、『本願明細書の発明の詳細な説明には、R^(1)が「メチル基」又は「炭素原子数18の(α位での)分岐状アルキル基」である場合の具体例しかないので、それ以外の選択肢については、本願出願時の技術常識に照らし、本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められない。したがって、本願請求項1及び2の記載は、本願明細書の発明の詳細な説明に発明として実質的に記載していない範囲についてまで特許を請求しようとするものであるから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。』という点を指摘した。
これに対して、平成24年3月12日付けの意見書は、『また2,2’位のR^(1)については、上記の「補正の根拠の明示」の項で述べたように、発明の詳細な説明の一般的な記載、及び実施例の記載に照らし、「分岐数が1である炭素原子数10?18のアルキル基」に限定しました。したがって、請求項1及び2の記載は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであります。』との主張をするにとどまり、R^(1)の炭素原子数が「10?17」である場合においても、本願所定の課題を解決し得ることの科学的な説明ないし立証は、特段なされていない。
そして、同意見書においては、『化合物が異なれば、それぞれ化合物毎に結合した「置換基」の導入位置や個数などにより、化合物中で他の部分の構造と有機一体的に作用し、電子の相互作用の相違などもあり、各化合物の「特性」が互いに異なってくることはむしろ化学の常識であります。』との主張がなされているところ、してみると、R^(1)のアルキル基に関して、その分岐鎖の置換位置が「α位」以外の場合や、その炭素原子数が「18」以外の場合にまで、その発明を一般化ないし拡張できないこととなる。
したがって、本願請求項1及び2の記載は、当該請求項に係る発明が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではなく、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもないから、明細書のサポート要件の存在が証明されたものではなく、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。

3.むすび
以上総括するに、本願発明1及び2は、刊行物3に記載された発明及び本願出願前の技術水準における技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
また、本願請求項1及び2の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-04-09 
結審通知日 2012-04-17 
審決日 2012-05-01 
出願番号 特願2000-216559(P2000-216559)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C07C)
P 1 8・ 537- WZ (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増永 淳司服部 智  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 小石 真弓
木村 敏康
発明の名称 新規なジフェノールおよびジフェノキノン  
代理人 宮前 尚祐  
代理人 飯田 敏三  
代理人 飯田 敏三  
代理人 宮前 尚祐  

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