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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J |
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管理番号 | 1258512 |
審判番号 | 不服2010-18369 |
総通号数 | 152 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-08-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-08-16 |
確定日 | 2012-06-14 |
事件の表示 | 特願2004-542778「並行インクジェット印刷装置とその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 4月22日国際公開、WO2004/033210、平成18年 1月19日国内公表、特表2006-502023〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は、2003年10月8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年10月10日、伊国)を国際出願日とする出願であって、平成17年5月26日付けで翻訳文が提出され、平成21年7月6日付け及び平成22年3月11日付けで手続補正がなされ、同年4月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月16日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。 その後、平成23年1月27日付けで、審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ、同年6月9日付けで回答書が提出された。 当審においてこれを審理した結果、同年6月24日付けで拒絶の理由を通知したところ、審判請求人は同年12月27日付けで意見書及び手続補正書を提出した。 2 本願発明 本願の請求項1ないし14に係る発明は、平成23年12月27日付け手続補正後の特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。 「並行式の単一のヘッド(21、73)又は複数のヘッド(21a、21b、21c)を備えたインクジェット印刷装置(20、54、61)であって、複数の噴射モジュール(22)を備え、前記噴射モジュールのそれぞれが、インクを入れるのに適したチャンバ(23)と、インクの噴射を指令するための付帯する関係加熱要素(24)とを有している装置において、 一方向(X軸)に沿って整列している噴射ノズル(32)と、前記モジュール(22)が共有する支持体と、前記モジュール(22)上を液密に閉鎖するように配置された少なくとも一つの薄層すなわちノズルプレート(28)を含む液密手段(28、42、63)と、を備えており、 前記支持体は、剛体材料のベースプレート(27、56、62)を備えており、前記ベースプレートの厚みを貫通して、使用時には前記噴射ノズルの整列している方向(X軸)に実質的に平行になり且つ前記噴射モジュールのエッジに隣接して配置されるインクの送給ダクト(33、58a、58b、58c)が形成されており、 前記噴射モジュール(22)は、前記ベースプレート(27、56、62)上に横並びに取り付けられ、前記チャンバ(23)は、前記ヘッドに沿って一定の間隔を有するように、前記噴射ノズルの整列している方向(X軸)に沿って、前記噴射モジュールのエッジに隣接して一列に配置され、かつ前記送給ダクト(33)と流体的に接続された状態に配置されており、 前記液密手段(28、42、63)は、前記モジュール(22)と前記送給ダクト(33)の間に液密接続を形成していることを特徴とする装置。」 平成23年6月24日付けの当審の拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)において、「並行(式)」或いは「逐次-並行式」という記載で、ヘッドの構成がどのように限定されるのか不明である旨指摘したが、平成23年12月27日付け手続補正後の請求項1の記載は上記のとおりであり、同日付け意見書の「2.理由Aについて」「1)1の点について」の項において「『逐次-並行式のヘッド』は、本願明細書に開示された特徴に向けられており、発明者により『逐次-並行式モード』と命名されました。一般に印刷装置は並行式の印刷装置として作動されます。本願明細書[0057]-[0069]および図11-12cに記載されたような、印刷ヘッドを支持するプレートがペーパーに対して横断方向に往復動する場合、これを『逐次-並行式印刷モード』とよんでおります。」と記載されている。 前記意見書から「逐次-並行式のヘッド」は、印刷ヘッドを支持するプレートがペーパーに対して横断方向に往復動するものであることは一応理解できるものの、請求項1の記載は「逐次-並行式」ではなく「並行式」である。 前記意見書の記載をみても、補正後の請求項1の記載の「並行式」が「逐次-並行式」と同じものを意味しているのか異なるものを意味しているのかさえ不明確であるが、本願明細書の段落【0005】には以下の記載がある。 「インクジェット技術は、一度に、即ち印刷している表面上をヘッドが何ら走査運動することなく、或いは行の一部分に限定された運動で、1つのページの1行全部を印刷する並行又は逐次?並行式ヘッドを有する印刷装置の製造にも適している。」 上記記載から、補正後の請求項1記載の「並行式」は、「印刷している表面上をヘッドが何ら走査運動することなく印刷する方式」或いは「行の一部分に限定された運動で、1つのページの1行全部を印刷する方式」(印刷ヘッドを支持するプレートがペーパーに対して横断方向に往復動する方式)のいずれかであると解釈する。 また、当審拒絶理由において、「液密手段(28、42、63)は、前記モジュール(22)と前記送給ダクト(33)の間に液密接続を形成している」とあるが、意味不明である旨指摘したところ、前記意見書の「2.理由Aについて」「5)5の点について」の項において「上記したように、液密手段がモジュール(22)上を液密に閉鎖するように配置されたノズルプレート(28)を含んでおり、これによりモジュール(22)と送給ダクト(33)が液密に接続されている状態を表しております。なお、「ダクト」は,空間としてではなく、流体を通す管、すなわち、構造物として使用しております。」と記載されている。 上記記載から、請求項1記載の「前記液密手段(28、42、63)は、前記モジュール(22)と前記送給ダクト(33)の間に液密接続を形成している」は、「前記液密手段(28、42、63)は、前記モジュール(22)と前記送給ダクト(33)の間を液密に接続している」と解釈する。 更に、補正後の請求項1の記載は「並行式の単一のヘッド(21、73)又は複数のヘッド(21a、21b、21c)を備えた」と選択的記載があるので、前記選択的記載の内、片方を選択し「並行式の単一のヘッド(21、73)を備えた」(なお、下線は審決において付した。以下同じ。)ものと解釈して、以下検討する。 3 引用刊行物 (1)当審拒絶理由に引用され、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開2002-86737号公報(以下「刊行物1」という。)には、以下の記載が図とともにある。 ア 【0020】 【発明の実施の形態】以下に、本発明プリントヘッドの実施の形態について添付図面を参照して説明する。なお、本明細書において説明するプリントヘッド1は、バブルインクジェット型のプリントヘッドである。 【0021】プリントヘッド1はノズル形成部材2を有する。ノズル形成部材2には多数のインク吐出ノズル3、3、・・・が形成されている。インク吐出ノズル3、3、・・・は後述する基板部材1個当たり数百個が整列された状態で形成されている。このようなノズル形成部材2は、例えば、インバー合金によって厚さ15μm?20μmのシート状に形成され、そこに直径約20μmのインク吐出ノズル3、3、・・・が塩化第2鉄の水溶液を用いたスプレーエッチングによって形成される(図2、図3参照)。 【0022】上記インバー合金は鉄(Fe)64%、ニッケル(Ni)36%の組成を有する合金であり、その線膨張係数は1.2×10^(-6)である。そのため、後述する基板部材のベースとなるシリコン基板の線膨張係数(2.6×10^(-6))に近く、温度変化にによるノズル間間隔とヒータ間間隔とのズレを少なくすることができる。最も、ノズル形成部材を従来のニッケル(Ni)の電鋳による薄膜によって形成してもかまわない。 【0023】上記ノズル形成部材2に多数の基板部材4、4、・・・が貼り合わせられる(図2参照)。該基板部材4はシリコン等から成る半導体基板5の一方の面に発熱抵抗体6、6、・・・が析出形成され、半導体基板5の発熱抵抗体6、6、・・・が形成された面にインク加圧室7、7、・・・の側面を限定する、すなわち、側壁部となるバリア層8が積層されて成る(図3、図4参照)。バリア層8は、例えば、露光硬化型のドライフィルムレジストから成り、上記半導体基板5の発熱抵抗体6、6、・・・が形成された面の全体に積層された後、フォトリソプロセスによって不要な部分が取り除かれて、基板部材6が形成される。 【0024】上記基板部材4において、バリア層8の厚みはほぼ12μm、発熱抵抗体6は一辺がほぼ18μmの正方形を為している。また、インク加圧室7の幅はほぼ25μmとされている。 【0025】基板部材4、4、・・・をノズル形成部材2に貼り合わせるのに約150℃で15分間の加熱工程を用いた。この貼合は、バリア層8を熱硬化させることで為されるので、貼合温度はバリア層8の性状によるところが大であり、150℃に限定されるものではない基板部材4、4、・・・をノズル形成部材2に貼り合わせる際、両者を基板部材4、4、・・・の中央で位置合わせする。その詳細を図9乃至図11に示す。1個の基板部材4に仮に301個の発熱抵抗体6、6、・・・及びインク加圧室7、7、・・・が形成されているものとする。ノズル形成部材2の基板部材4を1個貼り合わせる部分には基板部材4に形成された発熱抵抗体6、6、・・・及びインク加圧室7、7、・・・の数と同じ数、すなわち、301個ののインク吐出ノズル3、3、・・・が形成されている。そこで、図5及び図6において、中央に位置するインク吐出ノズル、発熱抵抗体及びインク加圧室を、それぞれ、3(0)、6(0)、7(0)と表示し、左端に位置するインク吐出ノズル、発熱抵抗体及びインク加圧室を、それぞれ、3(L150)、6(L150)、7(L150)と表示し、右端に位置するインク吐出ノズル、発熱抵抗体及びインク加圧室を、それぞれ、3(R150)、6(R150)、7(R150)と表示する。 イ 【0032】上記したプリントヘッド1に流路板11が結合されることによって該流路板11を介して図示しないインクタンクとプリントヘッド1とが連結され、インク加圧室7、7、・・・にインクが供給されることになる。 【0033】流路板11は容易には変形しない剛性と耐インク性を備えた材料で形成される。流路板11は、一方の端面に開口した空間12を有しており、該空間12の両側を限定している壁部には基板部材4、4、・・・を位置させるための切欠凹部13、13、・・・が上記空間12と連通した状態で形成されている(図3、図4参照)。また、空間12が開口した面と反対側の面からはインク供給管14が突設されており、該インク供給管14は上記空間12と連通している(図1、図2、図4参照)。 【0034】そして、流路板11は空間12内に基板部材4、4、・・・を囲い込むようにしてノズル形成部材3に接着される。なお、縦置きされたA4サイズの用紙に印刷するラインヘッドの場合、例えば、A4サイズの横幅約21cmの範囲に16個の基板部材4、4、・・・が1枚のノズル形成部材3に貼り合わされることになり、全体で約5,000個のインク吐出ノズル3、3、・・・、発熱抵抗体6、6、・・・及びインク加圧室7、7、・・・を有するものとすると、1個の基板部材4あたりのインク吐出ノズル3、3、・・・、発熱抵抗体6、6、・・・及びインク加圧室7、7、・・・の数は300個強になる。従って、大きさ等に制約のある図面にこれらの数や大きさを精確に表現することは不能であるので、各図面では、理解しやすいように、誇張したり或いは省略して表現してある。 【0035】上記したように、ノズル形成部材3に流路板11が接着されると、ノズル形成部材2に貼り合わせられている基板部材4、4、・・・は流路板11に形成された切欠凹部13、13、・・・内に位置されると共に流路板に接着される(図3、図4参照)。 【0036】上記したように、流路板11がプリントヘッド1に結合されることによって、流路板11の空間12とノズル形成部材2とによって囲まれた閉空間が形成され、該閉空間はインク供給管14、14、・・・のみを通して外部と連通されることになる。そして、基板部材4、4、・・・は上記閉空間内に位置し、一部がオーバーラップしながら互い違いに(いわゆる千鳥状に)配列された基板部材4、4、・・・の列と列との間にインク流路15が形成され、インク加圧室7、7、・・・が上記インク流路15と連通された状態となる(図3参照)。 【0037】基板部材4、4、・・・に形成された発熱抵抗体6、6、・・・を外部の制御部と電気的に接続するためのフレキシブル基板16が設けられ、該フレキシブル基板16の接続片16a、16a、・・・が基板部材4、4、・・・に形成され発熱抵抗体6、6、・・・に各別に電気的に接続された図示しない接点と接続される。 【0038】上記流路板11に設けられたインク供給管14はインクを収納している図示しないインクタンクと接続され、これによって、プリントヘッド1のインク流路15及びインク加圧室7、7、・・・にインクが満たされる。 【0039】そして、プリンタの制御部からの指令によって一意に選択された発熱抵抗体6、6、・・・に短時間、例えば、1?3マイクロ秒の間電流パルスを通すことにより、当該発熱抵抗体6、6、・・・が急速に加熱され、その結果、該発熱抵抗体6、6、・・・と接する部分に気相のインク気泡が発生し、該インク気泡の膨張によってある体積のインクが押しのけられ、それによって、インク吐出ノズル3、3、・・・に接する部分の上記押しのけられたインクと同等の体積のインクがインク滴としてインク吐出ノズル3、3、・・・から噴出され、紙等の印刷媒体上に付着(着弾)せしめられる。そして、インクが吐出されたインク加圧室7、7、・・・にはインク流路15を通じて吐出された量と同量のインクが直ちに補充される。 【0040】なお、上記した実施の形態においては、本発明をA4サイズの縦置きされた用紙に印刷するラインヘッドに適用したものを示したが、本発明はラインヘッド以外のヘッド、例えば、シリアルヘッドにも適用することが可能である。 ウ 【図3】及び【図4】から、流路板11の空間12を限定している壁部は、流路板11の厚みを貫通し、インク吐出ノズル3が整列している方向に長く形成されていること、前記壁部の壁面と基板部材4のインク流入側の端面が近くに配置されていることが看取できる。 上記記載及び図面を含む刊行物1全体の記載から、刊行物1には、以下の発明が記載されていると認められる。 「バブルインクジェット型のプリントヘッドであるプリントヘッド1は、多数のインク吐出ノズル3、3、・・・が形成されているノズル形成部材2を有し、 ノズル形成部材2に多数の基板部材4、4、・・・が貼り合わせられ、 該基板部材4は、半導体基板5の一方の面に発熱抵抗体6、6、・・・が析出形成され、半導体基板5の発熱抵抗体6、6、・・・が形成された面にインク加圧室7、7、・・・の側面を限定する、すなわち、側壁部となるバリア層8が積層されて成り、 上記したプリントヘッド1に流路板11が結合されることによって該流路板11を介してインクタンクとプリントヘッド1とが連結され、インク加圧室7、7、・・・にインクが供給されることになり、 流路板11は容易には変形しない剛性を備えた材料で形成され、一方の端面に開口した空間12を有しており、基板部材4、4、・・・を位置させるための切欠凹部13、13、・・・が上記空間12と連通した状態で形成され、流路板11の空間12を限定している壁部は、流路板11の厚みを貫通し、インク吐出ノズル3が整列している方向に長く形成され、該壁部の壁面と基板部材4のインク流入側の端面が近くに配置されていて、 ラインヘッドの場合、16個の基板部材4、4、・・・が1枚のノズル形成部材3に貼り合わされることになり、 ノズル形成部材3に流路板11が接着されると、ノズル形成部材2に貼り合わせられている基板部材4、4、・・・は流路板11に形成された切欠凹部13、13、・・・内に位置されると共に流路板に接着され、流路板11がプリントヘッド1に結合されることによって、流路板11の空間12とノズル形成部材2とによって囲まれた閉空間が形成され、基板部材4、4、・・・は上記閉空間内に位置し、一部がオーバーラップしながら互い違いに(いわゆる千鳥状に)配列された基板部材4、4、・・・の列と列との間にインク流路15が形成され、インク加圧室7、7、・・・が上記インク流路15と連通された状態となり、 プリンタの制御部からの指令によって一意に選択された発熱抵抗体6、6、・・・に電流パルスを通すことにより、インクがインク滴としてインク吐出ノズル3、3、・・・から噴出される 流路板11が結合されたバブルインクジェット型のプリントヘッドであるプリントヘッド1。」(以下「引用発明」という。) 4 対比 ア 本願発明と引用発明とを比較すると、引用発明の「プリントヘッド1」、「『流路板11が結合された』『バブルインクジェット型のプリントヘッドであるプリントヘッド1』」、「基板部材4」、「インク加圧室7」、「『プリンタの制御部からの指令によって』『インク』を『インク滴としてインク吐出ノズル3、3、・・・から噴出』する『析出形成され』た『発熱抵抗体6』」、「インク吐出ノズル3」、「流路板11」、「ノズル形成部材2」、「剛性を備えた材料」及び「『流路板11の空間12を限定し』『流路板11の厚みを貫通』する『壁部』」は、それぞれ本願発明の「単一のヘッド」、「インクジェット印刷装置」、「噴射モジュール」、「インクを入れるのに適したチャンバ」、「インクの噴射を指令するための付帯する関係加熱要素」、「噴射ノズル」、「『支持体』或いは『ベースプレート』」、「ノズルプレート」、「剛体材料」及び「『ベースプレートの厚みを貫通』する『インクの送給ダクト』」に相当する。 イ 引用発明は「ラインヘッドの場合、16個の基板部材4、4、・・・が1枚のノズル形成部材3に貼り合わされ」、「基板部材4は、半導体基板5の一方の面に発熱抵抗体6、6、・・・が析出形成され、半導体基板5の発熱抵抗体6、6、・・・が形成された面にインク加圧室7、7、・・・の側面を限定する、すなわち、側壁部となるバリア層8が積層されて」いるから、本願発明の「並行式の単一のヘッド(21、73)を備えたインクジェット印刷装置(20、54、61)であって、複数の噴射モジュール(22)を備え、前記噴射モジュールのそれぞれが、インクを入れるのに適したチャンバ(23)と、インクの噴射を指令するための付帯する関係加熱要素(24)とを有している装置」とは「単一のヘッドを備えたインクジェット印刷装置であって、複数の噴射モジュールを備え、前記噴射モジュールのそれぞれが、インクを入れるのに適したチャンバと、インクの噴射を指令するための付帯する関係加熱要素とを有している装置」の点で一致する。 ウ 引用発明は「プリントヘッド1は、多数のインク吐出ノズル3、3、・・・が形成されているノズル形成部材2を有し」、「ノズル形成部材2に多数の基板部材4、4、・・・が貼り合わせられ」、「該基板部材4は、半導体基板5の一方の面に発熱抵抗体6、6、・・・が析出形成され、半導体基板5の発熱抵抗体6、6、・・・が形成された面にインク加圧室7、7、・・・の側面を限定する、すなわち、側壁部となるバリア層8が積層されて成り」、「上記したプリントヘッド1に流路板11が結合されることによって該流路板11を介してインクタンクとプリントヘッド1とが連結され、インク加圧室7、7、・・・にインクが供給される」ものであり、「ノズル形成部材2」(ノズルプレート)が薄層であること、「ノズル形成部材2」がノズル形成部材2以外のもの(例えば、接着手段や流路板11の一部)とともに基板部材4(噴射モジュール)からインクが不用意に漏れないように液密に閉鎖していることは明らかであるから、本願発明の「一方向(X軸)に沿って整列している噴射ノズル(32)と、前記モジュール(22)が共有する支持体と、前記モジュール(22)上を液密に閉鎖するように配置された少なくとも一つの薄層すなわちノズルプレート(28)を含む液密手段(28、42、63)と、を備え」とは、「噴射ノズルと、モジュールが共有する支持体と、前記モジュール上を液密に閉鎖するように配置された少なくとも一つの薄層すなわちノズルプレートを含む液密手段と、を備え」の点で一致する。 エ 本願発明の「噴射モジュールのエッジに隣接して配置されるインクの送給ダクト」という記載では、噴射モジュールのエッジと送給ダクトの位置関係が必ずしも明らかではないが、本願明細書の段落【0041】には「装置20の組み立ては、ヘッド21に関し、モジュール22がベースプレート27に取り付けられる工程を含んでいる。具体的には、モジュールは、図4及び図5に示すようにエッジ36がスロット形の開口33に相対する整列状態を守りながら配置され、重合可能な接着剤によって液密状態に重ねられる。」と記載されており、特に【図5】から、開口33を規定しているベースプレート27の壁部の壁面とエッジ36とが近くに位置していることが看取できるから、本願発明の「噴射モジュールのエッジに隣接して配置されるインクの送給ダクト」とは、噴射モジュールのエッジとインクの送給ダクトの壁面とが近く配置されていることを含んでいるものと認められる。 引用発明は「プリントヘッド1に流路板11が結合され」、「流路板11は容易には変形しない剛性を備えた材料で形成され、一方の端面に開口した空間12を有しており、基板部材4、4、・・・を位置させるための切欠凹部13、13、・・・が上記空間12と連通した状態で形成され、流路板11の空間12を限定している壁部は、流路板11の厚みを貫通し、インク吐出ノズル3が整列している方向に長く形成され、該壁部の壁面と基板部材4のインク流入側の端面が近くに配置され」、「ノズル形成部材3に流路板11が接着されると、ノズル形成部材2に貼り合わせられている基板部材4、4、・・・は流路板11に形成された切欠凹部13、13、・・・内に位置されると共に流路板に接着され、流路板11がプリントヘッド1に結合されることによって、流路板11の空間12とノズル形成部材2とによって囲まれた閉空間が形成され、基板部材4、4、・・・は上記閉空間内に位置し、一部がオーバーラップしながら互い違いに(いわゆる千鳥状に)配列された基板部材4、4、・・・の列と列との間にインク流路15が形成され、インク加圧室7、7、・・・が上記インク流路15と連通された状態とな」るから、本願発明の「前記支持体は、剛体材料のベースプレート(27、56、62)を備えており、前記ベースプレートの厚みを貫通して、使用時には前記噴射ノズルの整列している方向(X軸)に実質的に平行になり且つ前記噴射モジュールのエッジに隣接して配置されるインクの送給ダクト(33、58a、58b、58c)が形成され」ている点とは、「支持体は、剛体材料のベースプレートを備えており、前記ベースプレートの厚みを貫通して、噴射モジュールのエッジに隣接して配置されるインクの送給ダクトが形成され」ている点で一致する。 オ 引用発明は「ノズル形成部材3に流路板11が接着されると、ノズル形成部材2に貼り合わせられている基板部材4、4、・・・は流路板11に形成された切欠凹部13、13、・・・内に位置されると共に流路板に接着され、流路板11がプリントヘッド1に結合されることによって、流路板11の空間12とノズル形成部材2とによって囲まれた閉空間が形成され、基板部材4、4、・・・は上記閉空間内に位置し、一部がオーバーラップしながら互い違いに(いわゆる千鳥状に)配列された基板部材4、4、・・・の列と列との間にインク流路15が形成され、インク加圧室7、7、・・・が上記インク流路15と連通された状態とな」るから、本願発明の「前記噴射モジュール(22)は、前記ベースプレート(27、56、62)上に横並びに取り付けられ、前記チャンバ(23)は、前記ヘッドに沿って一定の間隔を有するように、前記噴射ノズルの整列している方向(X軸)に沿って、前記噴射モジュールのエッジに隣接して一列に配置され、かつ前記送給ダクト(33)と流体的に接続された状態に配置されており」とは、「噴射モジュールは、ベースプレート上に取り付けられ、チャンバは、前記噴射モジュールのエッジに隣接して配置され、かつ前記送給ダクトと流体的に接続された状態に配置されており」で一致する。 カ 上記ウから、引用発明が「液密手段は、モジュールと送給ダクトの間に液密接続を形成している」ことは、明らかである。 キ 上記アないしカより、本願発明と引用発明は、 「単一のヘッドを備えたインクジェット印刷装置であって、複数の噴射モジュールを備え、前記噴射モジュールのそれぞれが、インクを入れるのに適したチャンバと、インクの噴射を指令するための付帯する関係加熱要素とを有している装置において、 噴射ノズルと、前記モジュールが共有する支持体と、前記モジュール上を液密に閉鎖するように配置された少なくとも一つの薄層すなわちノズルプレートを含む液密手段と、を備えており、 前記支持体は、剛体材料のベースプレートを備えており、前記ベースプレートの厚みを貫通して、前記噴射モジュールのエッジに隣接して配置されるインクの送給ダクトが形成されており、 前記噴射モジュールは、前記ベースプレート上に取り付けられ、前記チャンバは、前記噴射モジュールのエッジに隣接して配置され、かつ前記送給ダクトと流体的に接続された状態に配置されており、 前記液密手段は、前記モジュールと前記送給ダクトの間に液密接続を形成している装置。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 [相違点1]単一のヘッドに関し、本願発明は「並行式の」と特定されているのに対し、引用発明は「ラインヘッドの場合、16個の基板部材4、4、・・・が1枚のノズル形成部材3に貼り合わされる」るものの、「並行式」といえるか否か明らかでない点。 [相違点2]本願発明は、「一方向(X軸)に沿って整列している」噴射ノズル、「使用時には前記噴射ノズルの整列している方向(X軸)に実質的に平行にな」るインクの送給ダクト、噴射モジュールは、ベースプレート上に「横並びに」取り付けられ、チャンバは、「前記ヘッドに沿って一定の間隔を有するように、前記噴射ノズルの整列している方向(X軸)に沿って」「一列に」配置されると特定されているのに対し、引用発明は、基板部材(噴射モジュール)の一部がオーバーラップしながら互い違いに(いわゆる千鳥状に)配列されており、本願発明のような配置がなされていない点。 5 判断 (1)相違点1についての検討 引用発明は、「ラインヘッドの場合、16個の基板部材4、4、・・・が1枚のノズル形成部材3に貼り合わされる」ものである。ラインヘッドの場合、ラインヘッドは印刷媒体の表面上を走査しないで印刷することが通常であるから、引用発明の「プリントヘッド1」(単一のヘッド)を印刷している表面上をヘッドが何ら走査運動することなく印刷する方式とすることは、当業者が容易になし得る程度のことである。 また、刊行物1の段落【0040】には「なお、上記した実施の形態においては、本発明をA4サイズの縦置きされた用紙に印刷するラインヘッドに適用したものを示したが、本発明はラインヘッド以外のヘッド、例えば、シリアルヘッドにも適用することが可能である。」と記載されている。ラインヘッドの場合、行の一部分に限定された運動で、1つのページの1行全部を印刷する(印刷ヘッドを支持するプレートがペーパーに対して横断方向に往復動する)ことが通常であるから、引用発明の「プリントヘッド1」(単一のヘッド)をシリアルヘッドとし、行の一部分に限定された運動で、1つのページの1行全部を印刷する方式(印刷ヘッドを支持するプレートがペーパーに対して横断方向に往復動する方式)とすることは、当業者が容易になし得る程度のことである。 よって、引用発明において、本願発明の上記相違点1のような構成とすることは当業者が容易になし得る程度のことである。 (2)相違点2についての検討 ア プリンタのヘッドにおいて、加熱要素を有するモジュールを横並びとすることは本願優先日前に周知技術(特開2001-30476号公報、段落【0053】、【図5】(a)参照。「ノズルユニット」(加熱要素を有するモジュール)が縦列に配置されている。特開2001-71495号公報、段落【0018】、【図5】(c)参照。「ヘッドチップ」(加熱要素を有するモジュール)が一直線に並設されている。特開平5-229124号公報、段落【0004】参照。「サブユニット」(加熱要素を有するモジュール)を直線アレイとしている。特開2000-255064号公報、【図1】【図2】【図4】【図5】参照。「ヒータボード」(加熱要素を有するモジュール)がベースプレート上に複数並べられている。)である。 イ 上記特開2001-71495号公報の段落【0017】に「このように実装基板20′にヘッドチップ1(1-1、1-2、・・・)を千鳥配列して構成したライン式プリンタヘッド22は、副走査方向の上下幅が大きくなって、プリンタヘッド部分が大型化するという問題を有していることに加えて、インク供給経路が複雑化し、これに伴うコストアップと信頼性の低下の問題を有している。更に、印字開始前や印字中にノズル4を清掃し、非使用時には各プリンタヘッド1に乾燥防止の蓋をする際に、複雑な機構や動作を必要とするため、装置全体が大型化するという問題も有している。」と記載されているように、千鳥配置は問題点があることも、本願優先日前に知られている。 ウ 引用発明は、「基板部材4」(噴射モジュール)を千鳥状に配置しているため、上記イと同様の問題点があるから、上記問題点を解消すべく、上記アの周知技術を採用し、加熱要素を有するモジュールである引用発明の「基板部材4」(噴射モジュール)を横並びとすることは当業者が容易になし得る程度のことである。 エ プリンタのヘッドにおいて、噴射ノズル間隔を一定にかつ噴射ノズルを一列に配置することもごく一般的に行われる事項(特開2001-30476号公報、段落【0053】、【図5】(a)参照。特開2000-255064号公報、【図1】【図2】【図4】【図5】参照。)であるから、上記ウのように、周知技術を採用した引用発明において、「インク吐出ノズル3」(噴射ノズル)間隔を一定にかつ一列に配置し、その「インク吐出ノズル3」(噴射ノズル)の配置に合わせ、ヘッドに沿って一定の間隔を有するように「インク吐出ノズル3」(噴射ノズル)の整列している方向に沿って一列に「インク加圧室7」(チャンバ)を配置することは、設計事項にすぎない。 オ 引用発明は、「流路板11の空間12を限定している壁部は、流路板11の厚みを貫通し、インク吐出ノズル3が整列している方向に長く形成され」ているから、上記ウのように周知技術を採用した引用発明の「流路板11の空間12を限定している壁部」(インクの送給ダクト)は、使用時には「インク吐出ノズル3」(噴射ノズル)の整列している方向に実質的に平行になる。 カ 上記アないしオから、引用発明において、本願発明の上記相違点2のような構成とすることは当業者が容易になし得る程度のことである。 (3)以上のように、本願発明の相違点1及び2に係る構成は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到することができたものであり、それにより得られる効果も当業者が予測できる範囲のものである。 6 むすび 以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-01-20 |
結審通知日 | 2012-01-23 |
審決日 | 2012-02-03 |
出願番号 | 特願2004-542778(P2004-542778) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(B41J)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 牧 隆志、牧島 元、尾崎 俊彦、藏田 敦之 |
特許庁審判長 |
長島 和子 |
特許庁審判官 |
東 治企 鈴木 秀幹 |
発明の名称 | 並行インクジェット印刷装置とその製造方法 |
代理人 | 小野 新次郎 |
代理人 | 戸塚 清貴 |
代理人 | 富田 博行 |
代理人 | 小林 泰 |
代理人 | 千葉 昭男 |