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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04L
管理番号 1258514
審判番号 不服2010-27470  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-12-06 
確定日 2012-06-14 
事件の表示 特願2001-163594「誤り訂正レート可変システム」拒絶査定不服審判事件〔平成14年12月13日出願公開、特開2002-359609〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成13年5月31日の出願であって、平成22年9月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月6日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年12月6日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本願発明と補正後の発明
上記手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の平成22年8月2日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、
「デジタル通信送受信装置における誤り訂正レート可変システムであって、
前記装置相互間の通信を開放型システム間相互接続の基本参照モデルのデータリンク層レベルで監視する通信監視手段と、
前記通信監視手段での監視結果に応じて送信する実データの長さと誤り訂正用の冗長データの長さとを変更するデータ長変更手段とを含んで前記デジタル通信送受信装置が構成され、
マスタ側の前記デジタル通信送受信装置とスレーブ側の前記デジタル通信送受信装置間が通信衛星を介して無線接続され、マスタ側の前記デジタル通信送受信装置とユーザ端末間およびスレーブ側の前記デジタル通信送受信装置とユーザ端末間がそれぞれ有線接続あるいは無線接続されることを特徴とする誤り訂正ルート可変システム。」
という発明(以下、「本願発明」という。)を、

「デジタル通信送受信装置における誤り訂正レート可変システムであって、
前記装置相互間の通信を開放型システム間相互接続の基本参照モデルのデータリンク層レベルで監視する通信監視手段と、
前記通信監視手段での監視結果に応じて送信する実データの長さと誤り訂正用の冗長データの長さとを変更するデータ長変更手段とを含んで前記デジタル通信送受信装置が構成され、
マスタ側の前記デジタル通信送受信装置とスレーブ側の前記デジタル通信送受信装置間が通信衛星を介してヘッダ、フッタ、FCS(Frame Check Sequence)およびその他付帯情報を含む無線によるパケット通信が行われ、マスタ側の前記デジタル通信送受信装置とユーザ端末間およびスレーブ側の前記デジタル通信送受信装置とユーザ端末間がそれぞれレイヤ2レベル以上の規格による有線あるいは無線によるパケット通信が行われることを特徴とする誤り訂正レート可変システム。」
という発明(以下、「補正後の発明」という。)に補正することを含むものである。

2.補正の適否
(1)新規事項の有無、補正の目的要件について
上記本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、補正前の特許請求の範囲の請求項1「通信衛星を介して無線接続され」を「通信衛星を介してヘッダ、フッタ、FCS(Frame Check Sequence)およびその他付帯情報を含む無線によるパケット通信が行われ」と限定し、また、「有線接続あるいは無線接続される」を「レイヤ2レベル以上の規格による有線あるいは無線によるパケット通信が行われる」と限定して、特許請求の範囲を減縮するものであるから、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項(新規事項)及び平成18年法律第55号改正附則第3項第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号(補正の目的)の規定に適合している。

(2)独立特許要件について
上記本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、上記補正後の発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2-1) 補正後の発明
上記「1.本願発明と補正後の発明」の項で認定したとおりである。

(2-2) 引用発明
A.原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-355253号公報(以下「引用例1」という。)には、「ディジタル無線通信方法及びディジタル無線通信装置」として図面とともに以下の事項が記載されている。

(引用例1)
イ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ディジタル無線通信において実質的なデータ転送レートを向上させることができる無線通信方法、およびその無線通信方法を用いてパケット通信等のディジタル通信を行うディジタル無線通信装置に関する。」(2頁1欄)

ロ.「【0007】また、本発明によるディジタル無線通信装置は、受信データからビット誤り率を測定するビットエラーレート測定部と、ビットエラーレート測定部は測定したビット誤り率にもとづいてデータリンクレイヤフレーム最大長を決定し、決定したデータリンクレイヤフレーム最大長に応じてユーザデータをデータリンクレイヤフレームに分割するダイナミックフラグメンテーション処理部とを備えたものである。ここで、ダイナミックフラグメンテーション処理部は、ビット誤り率が上昇するとデータリンクレイヤフレーム最大長を短くする。
【0008】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は、本発明によるディジタル無線通信装置の一例であるディジタル携帯電話機の主要部を示すブロック図である。制御部1は、ユーザデータを所定長のデータリンクレイヤフレームに分割し、それぞれのフレームにヘッダを付加する。また、データリンクレイヤフレームは、誤り制御の単位であるユニットに分割される。CRC/FEC回路2は、各ユニットに誤り検出用のCRC符号および誤り訂正用のFEC符号を付加して送受信部(TRX)3に出力する。送受信部3は、アンテナ4を介して基地局にデータを送信する。また、基地局からのデータは、アンテナ4を介して送受信部3で受信され、CRC/FEC回路2で誤り訂正および誤り検出が行われた後、制御部1に入力される。なお、図1には、RSSI測定のために使用されるA-D変換器5も示されている。
【0009】図2は、制御部1の機能ブロックを示すブロック図である。図に示すように、データリンクレイヤ制御部12は、レイヤ1制御部11からのデータを受信データに組み立てる受信データ組立部121、レイヤ1制御部11からのデータにもとづいてビット誤り率を測定するビットエラーレート測定部(BER測定部)122、およびBER測定部122に測定結果にもとづいてユーザデータを可変長のユニットに分割してレイヤ1制御部11に引き渡すダイナミックフラグメンテーション処理部123を含む。
【0010】次に、動作について説明する。レイヤ1制御部11は、受信されたデータのビット誤り数を計数し、ビット誤り数をBER測定部122に通知する。BER測定部122は、ビット誤り数からビット誤り率を算出して、ビット誤り率をダイナミックフラグメンテーション処理部123に出力する。ダイナミックフラグメンテーション処理部123は、ビット誤り率に応じて動的にデータリンクレイヤフレーム最大長を変化させる。そして、ユーザデータを、フレーム最大長以下の長さの各データリンクレイヤフレームに分割してレイヤ1制御部11に出力する。レイヤ1制御部11およびCRC/FEC回路2は、データリンクレイヤフレームを所定長のユニットに分割するとともに、各ユニットに誤り検出用のCRC符号および誤り訂正用のFEC符号を付加してレイヤ1フレームを作成する。そして、レイヤ1フレームを送受信部3に出力する。」(2頁2欄?3頁3欄)

ハ.「【0013】そして、種々のビット誤り率に対するユーザデータ転送レートを求めた。ここで、ダイナミックフラグメンテーションの例として、以下の値を用いた。
ビット誤り率 データリンクレイヤフレーム最大長
10^(-7) 1019バイト(FECなし)
10^(-6) 1019バイト(FECなし)
10^(-5) 519バイト(FECなし)
10^(-4) 144バイト(FECなし)
10^(-3) 525バイト(FECあり)
10^(-2) 45バイト(FECあり)
【0014】ユーザデータ転送レートを求める際に、まず、(1)式または(2)式からデータリンクレイヤのフレーム誤り率(FER)を求める。
【0015】ここで、(1)式は誤り訂正符号なしの場合、(2)式は誤り訂正符号ありの場合であり、
BER : ビットエラーレート
n :第2ユニット以降のレイヤ1ユニット数
である。また、誤り訂正符号としてBCH(14、10)(第1ユニット)、BCH(12、8)(第2ユニット)を使用する場合を想定する。また、レイヤ1のフレーム長(CRCおよびFEC符号を含む)を280ビット、FECありのときの符号化されるビット数を第1ユニットについて182(14×13)ビット、第2ユニット以降について228(12×19)ビットとする。」(3頁3欄?4欄)

上記引用例1の記載及び関連する図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、
まず、引用例1の「ディジタル無線通信装置」は、上記引用例1のイ.、ロ.、図1及び図2にあるように、実質的なデータ転送レートを向上させるものであって、受信データからビット誤り率を測定し、該測定したビット誤り率に基づいてデータリンクレイヤーフレーム最大長を決定し、該データリンクレイヤーフレーム最大長に応じてユーザデータをデータリンクレイヤフレームに分割し、ビット誤り率が上昇するとデータリンクレイヤフレーム最大長を短くする構成(システム)を備えるから、引用例1には
『ディジタル無線通信装置における実質的なデータ転送レート可変システム』が記載されている。

また、引用例1の「ディジタル無線通信装置」は、上記イ.及び図1によれば、送信受信、すなわち、相互に通信を行うものであり、受信データからビット誤り率を測定、すなわち、通信を監視するから、『ディジタル無線通信装置相互間の通信を監視する』ものである。
そして、引用例1の前記「ディジタル無線通信装置」は、上記ロ.【0009】、ハ.【0014】及び図2にあるように、「データリンクレイヤ制御部12」は、ユーザデータ転送レートを求める際に、ビットエラーレートから、データリンクレイヤの(レベルで)フレーム誤り率(FER)を求めており、該データリンクレイヤが開放型システム間相互接続の基本モデルのデータリンク層であることは当業者に自明であるから、引用例1には、
『前記ディジタル無線通信装置相互間の通信を開放型システム間相互接続の基本参照モデルのデータリンク層のレベルで監視する』構成が記載されている。

また、引用例1の「ダイナミックフラグメンテーション処理部123」は、上記ロ.【0010】、ハ.【0015】にあるように、ビット誤り率、すなわち、上記データリンク層のレベルの監視した結果(監視結果)に応じて動的にデータリンクレイヤフレーム最大長を変化させ、ユーザデータを前記データリンクレイヤフレーム最大長以下の長さの各データリンクレイヤフレームに分割して、レイヤ1制御部11に出力しており、該レイヤ1制御部11およびCRC/FEC回路2は、前記データリンクレイヤフレームを各ユニットに分割し、異なる長さの誤り検出符号(BCH(14、10)、BCH(12、8)を使用)を該ユニット毎に付加することが記載されているから、引用例1のディジタル無線通信装置は、
『監視結果に応じてデータリンクレイヤフレーム最大長を変化させ、ユーザデータを前記データリンクレイヤフレーム最大長以下のユニットに分割し、異なる長さの誤り検出符号を該ユニット毎に付加する』構成を含むことが記載されている。

また、引用例1のディジタル無線通信装置は、上記イ.により、無線によるパケット通信を行うものである。

したがって、上記引用例1の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記引用例1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

(引用発明1)
「ディジタル無線通信装置における実質的なデータ転送レート可変システムであって、
前記ディジタル無線通信装置相互間の通信を開放型システム間相互接続の基本参照モデルのデータリンク層のレベルで監視する構成と、
前記監視する構成での監視結果に応じてデータリンクレイヤフレーム最大長を変化させ、ユーザデータを前記最大長以下のユニットに分割し、異なる長さの誤り検出符号を該ユニット毎に付加する構成とを含むディジタル無線通信装置が構成され、
ディジタル無線通信装置間で無線によるパケット通信が行われるデータ転送レート可変システム。」

B.同じく原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-131358号公報(以下「引用例2」という。)には、「データ通信装置」の発明に関し、図面とともに以下の事項(ニ?ヘ)が記載されている。

(引用例2)
ニ.「【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、従来のデータ通信装置でのエラー訂正には、次のような欠点があった。すなわち、データ通信装置によって決められた1つの特定のエラー訂正方式だけでエラー訂正が行われるため、伝送路の環境によっては伝送品質が良好で、小さな冗長度によるエラー訂正で済む場合でも、その特定のエラー訂正方式で訂正が行われて必要以上の冗長ビットが付加され、スループット(伝送効率)が低下していた。逆に、伝送品質が悪く、大きな冗長度によるエラー訂正が必要な場合でも、その特定のエラー訂正方式により付加された冗長ビットでは冗長ビット数が不足して訂正しきれず、再送信が多発するため、やはりスループットが低下していた。
(中略)
【0006】本発明は、このような背景の下になされたもので、その目的は、伝送効率を向上した形でエラー訂正を行い得るデータ通信装置を提供することにある。」(2頁2欄)

ホ.「【0021】訂正方式としては、4つの方式を選択可能となっている。1つ目の方式は、全く訂正を行わず、生データのままとする方式であり、伝送品質が非常に良好な場合に用いる。この方式は、図1の第1?第3訂正符号化部5、6、7、第1?第3エラー訂正部11、12、13を使用しない場合に相当する。
【0022】2つ目の方式は、符号長127、情報点数106のBCH(Bose Chaudhuri Hocquenghem)符号(以下、BCH符号(127、106)のように示す)を用いてエラー訂正を行う方式であり、このBCH符号(127、106)は、3ビットまで訂正可能な訂正符号であり、これを用いて訂正符号化すると、図2(a)のようになる。図1の第1訂正符号化部5、第1エラー訂正部11が、このBCH符号(127、106)により符号化、エラー訂正を行う。
【0023】3つ目の方式は、符号長127、情報点数64のBCH符号(以下、BCH符号(127、64)のように示す)を用いてエラー訂正を行う方式であり、このBCH符号(127、64)は、10ビットまで訂正可能な訂正符号であり、これを用いて訂正符号化すると、図2(b)のようになる。図1の第2訂正符号化部6、第2エラー訂正部12が、このBCH符号(127、64)により符号化、エラー訂正を行う。
【0024】4つ目の方式は、符号長127、情報点数29のBCH符号(以下、BCH符号(127、29)のように示す)を用いてエラー訂正を行う方式であり、このBCH符号(127、29)は、21ビットまで訂正可能な訂正符号であり、これを用いて訂正符号化すると、図2(c)のようになる。図1の第3訂正符号化部7、第3エラー訂正部13が、このBCH符号(127、29)により符号化、エラー訂正を行う。
【0025】1つ目の方式から4つ目の方式に行くに従って訂正能力が高くなっていくが、情報点数は逆に少なくなり、スループットは低下していく。従って、伝送品質が非常に良好であり全く問題がなければ1つ目の方式を選択し、伝送品質が悪くなるに従って2つ目、3つ目、4つ目の方式を選択するようにする。」(4頁5欄)

ヘ.「【0041】[第5実施例]第1?第4実施例は、ユーザがキー入力により訂正方式を選択していたが、第5実施例では、エラー発生状況に応じて自動的に最適な訂正方式を選択するようにしている。」(5頁8欄)

上記引用例2の記載及び関連する図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、
まず、引用例2の「データ通信装置」は、上記ニ.、へ.及び図1にあるように、伝送効率を向上した形でエラー訂正を行うデータ通信装置であって、エラーの発生状況に応じて自動的に最適な訂正方式を選択する構成、すなわち、最適な訂正レートに変更可能な構成(システム)を備えるものであるから、引用例2には、
「データ通信装置における誤り訂正レート可変システム」が記載されている。

また、引用例2の「訂正方式」は、上記ホ.、ヘ.及び図2によれば、エラーの発生状況、すなわち、データ通信装置間の通信のエラーの発生状況を監視し、その結果に応じて、「訂正を行わない」、「BCH(127、106)」、「BCH(127、64)」及び「BCH(127、29)」という4つから選択するものであり、訂正方式の選択に伴って、実データの長さと誤り訂正用の冗長データの長さとを変更するから、引用例2には、
『データ通信装置間の通信を監視する構成と、該監視結果に応じて、実データの長さと誤り訂正用の冗長データの長さとを変更する構成』が記載されている。
したがって、上記引用例2には、以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

(引用発明2)
「データ通信装置における誤り訂正レート可変システムであって、
データ通信装置間の通信を監視する構成と、
該監視結果に応じて、実データの長さと誤り訂正用の冗長データの長さとを変更する構成と
を備えるデータ通信装置における誤り訂正レート可変システム。」

(2-3) 対比・判断
[対比]
補正後の発明と引用発明1を対比する。

まず、引用発明1の「ディジタル無線通信装置」は、送受信するものであるから補正後の発明の「デジタル通信送受信装置」に相当する。
また、引用発明1の「実質的なデータ転送レート可変システム」は、通信の監視結果に応じてユーザーデータ(実データ)の長さを変更するものであり、補正後の発明は通信の監視結果に応じて実データの長さと誤り訂正用の冗長データの長さを変更するものだから、両者は『実データレート可変システム』として共通する。

また、引用発明1の「前記ディジタル無線通信装置相互間の通信を開放型システム間相互接続の基本参照モデルのデータリンク層のレベルで監視する構成」は、補正後の発明の「前記装置相互間の通信を開放型システム間相互接続の基本参照モデルのデータリンク層レベルで監視する通信監視手段」に一致し、引用発明1の当該構成を「通信監視手段」と呼ぶことは任意である。

また、引用発明1の「前記監視する構成での監視結果に応じてデータリンクレイヤフレーム最大長を変化させ、ユーザデータを前記データリンクレイヤフレーム最大長以下のユニットに分割」することは、送信するユーザデータ(実データ)の長さを変更することを含むものであり、さらに、引用発明1の「異なる長さの誤り検出符号を該ユニット毎に付加する」ことは、誤り訂正用の冗長データを前記ユーザデータ(実データ)に付加するから、
引用発明1と補正後の発明とは、「前記監視手段での監視結果に応じて送信する実データの長さを変更し、該実データに誤り訂正用の冗長データを付加する手段」として共通する。

また、引用発明1は、ディジタル無線通信装置間が無線によるパケット通信を行うから、補正後の発明と、「デジタル通信送受信装置間が無線によるパケット通信を行う」点で共通する。

したがって、両者は以下の点で一致し、また相違している。

(一致点)
「デジタル通信送受信装置における実データレート可変システムであって、
前記装置相互間の通信を開放型システム間相互接続の基本参照モデルのデータリンク層レベルで監視する通信監視手段と、
前記監視手段での監視結果に応じて送信する実データの長さを変更し、該実データに誤り訂正用の冗長データを付加する手段とを含んで前記デジタル通信送受信装置が構成され、
前記デジタル通信送受信装置間が無線によるパケット通信を行う実データレート可変システム。」

(相違点)
(1)『実データレート可変システム』に関し、
補正後の発明では、「誤り訂正レート可変システム」であるのに対し、
引用発明1では、「実質的なデータ転送レート可変システム」である点。
(2)『前記監視手段での監視結果に応じて送信する実データの長さを変更し、該実データに誤り訂正用の冗長データを付加する手段』に関し、
補正後の発明では、監視結果に応じて誤り訂正用の冗長データの長さをも変更しているのに対し、
引用発明1では、異なる長さの誤り検出符号を付加するものの、監視結果に応じて誤り訂正用の冗長データの長さを変更するか不明である点。
(3)『デジタル通信送受信装置間が無線によるパケット通信を行う』点に関し、
補正後の発明では、「マスタ側の前記デジタル通信送受信装置とスレーブ側の前記デジタル通信送受信装置間が衛星を介して」いるのに対し、
引用発明1では、衛星を介するか不明である点。
(4)また、『デジタル通信送受信装置間が無線によるパケット通信を行う』点に関し、
補正後の発明では、衛星通信を介し「ヘッダ、フッタ、FCS(Frame Check Sequence)およびその他付帯情報を含む」のに対し、
引用発明1では、当該情報を含むか不明である点。
(5)さらに、『デジタル通信送受信装置間が無線によるパケット通信を行う』点に関し、
補正後の発明では、「マスタ側の前記デジタル通信送受信装置とユーザ端末間およびスレーブ側の前記デジタル通信送受信装置とユーザ端末間がそれぞれレイヤ2レベル以上の規格による有線あるいは無線によるパケット通信」が行われるのに対し、
引用発明1では、当該構成を備えるか不明である点。


[判断]
上記相違点(1)、(2)について検討する。

引用発明1の「実質的なデータ転送レート可変システム」は、ビット誤り率が上昇する、すなわち、通信品質が悪化するとデータリンクレイヤフレーム最大長、すなわち、実データの長さを短くすることにより、ユーザデータのデータ転送レートの改善を図るものである。
一方、引用発明2の「誤り訂正レート可変システム」は、通信品質に応じて伝送効率を改善するために、実データの長さに加え、冗長データの長さをも変更するものである。
引用発明1の「実質的なデータ転送レート可変システム」に代えて、引用発明2の「誤り訂正レート可変システム」を採用して、相違点(1)、(2)に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

次に、上記相違点(3)、(4)、(5)について検討する。
デジタル通信装置間を衛星を介して接続し、該デジタル通信装置とユーザ端末間でレイヤ2以上の有線あるいは無線によるパケット通信を行うことは、例えば、特開平5-252165号公報(【0007】、【0011】)、国際公開第99/20016号(要約、第5頁、第14-19行、第9頁第6行-第11頁第18行)、特開平9-181772号公報(【0016】-【0021】)、特開平10-51499号公報(【0009】、【0010】)にみられるように、当業者に周知の構成であり、
また、衛星を介してヘッダ、フッタ、FCSおよびその他情報を含むパケット通信を行うことも前記特開平5-252165号公報(【0025】、図3(b))にあるように当業者に周知のものである。
また、衛星を介して接続されるデジタル通信装置の一方にサーバ装置を備え、デジタル通信装置の他方に端末装置を備える構成は、上記特開平10-51499号公報(【0010】-【0013】)にあるように当業者に周知のものであり、デジタル通信装置の一方のマスタ、他方をスレーブと呼ぶことに格別困難性は認められない。
したがって、引用発明1に上記周知技術を適用することにより、相違点(3)、(4)、(5)に係る構成とすることは当業者が容易になし得たものである。

そして、補正後の発明の作用効果も、引用発明1、2及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、補正後の発明は、引用発明1、2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3. むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項の規定で準用する同法第126条第5項〔独立特許要件〕の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項〔補正却下〕の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、上記「第2.補正却下の決定」の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。

2.引用発明
引用発明は、上記「第2 補正却下の決定」の「(2-2) 引用発明」の項で認定したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記補正後の発明から当該補正に係る構成を省いたものである。

そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加又は限定した補正後の発明が、上記「第2 補正却下の決定」の「(2-3)対比・判断」の項に記載したとおり、引用発明1、2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1、2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-04-13 
結審通知日 2012-04-17 
審決日 2012-05-01 
出願番号 特願2001-163594(P2001-163594)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H04L)
P 1 8・ 121- Z (H04L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谷岡 佳彦  
特許庁審判長 竹井 文雄
特許庁審判官 萩原 義則
遠山 敬彦
発明の名称 誤り訂正レート可変システム  
代理人 ▲柳▼川 信  

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