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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1258519
審判番号 不服2011-1893  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-01-26 
確定日 2012-06-14 
事件の表示 特願2006-510198「屈折率分布型光学素子の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月 1日国際公開、WO2005/080283〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2005年2月15日(優先権主張2004年2月20日)を出願日とする出願であって、平成22年8月6日付け(発送日同年同月11日)で拒絶理由が通知され、これに対し同年10月5日付け手続補正書により特許請求の範囲の補正がなされ、同年10月22日付け(発送日同年同月26日)で拒絶査定がなされ、これに対し平成23年1月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願発明は、平成22年10月5日付けの手続補正により補正された請求項に記載されたとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりのものである。

「 【請求項1】
アルカリ金属成分をガラス構成成分として含むガラス基材に、銅化合物、有機樹脂及び有機溶剤を含有するペーストを塗布し、ガラス基材の軟化温度より低い温度で熱処理することを特徴とするレンズ、レンズアレイ又は回折格子の製造方法。」

第3 引用刊行物の記載事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由(平成22年8月6日付け拒絶理由通知書参照。)において引用された引用文献1(国際公開第03/054597号)には次の事項が記載されている。なお、下線は当審が付与した(以下、この審決において同様。)。

ア.「即ち、本発明は、下記の光導波路の形成方法、及び該方法によって形成される光導波路に関する。
1. アルカリ金属をガラス構成成分として含むガラス基板に、銅化合物、有機樹脂及び有機溶剤を含有するペーストを全面又はパターン状に塗布し、ガラス基板の軟化温度より低い温度で熱処理することを特徴とする光導波路の形成方法。」(第3ページ第19行?第23行)

イ.「4. 上記項1?3のいずれかの方法で得られるスラブ型又はチャネル型光導波路。」(第4ページ第8行?第9行)

ウ.「ペーストとしては、銅化合物と有機樹脂を有機溶媒に分散させてペースト状としたものを用いる。」(第5ページ第14行?第15行)

エ.「該ペーストをガラス基板に塗布する方法については特に限定はなく、公知の塗布方法を適宜採用すれば良く、例えば、スピーンコート、スプレーコート、ディップコート等の方法を適用できる。」(第6ページ第20行?第22行)

オ.「ペーストを塗布した後、通常、熱処理に先立って塗膜を乾燥する。」(第6ページ第26行)

カ.「次いで、乾燥した塗膜を熱処理する。熱処理温度は、450?700℃程度、好ましくは500?600℃程度の温度範囲であって、ガラス基板の軟化点を下回る温度とすればよい。」(第7ページ第1行?第3行)

キ.「上記した方法によって熱処理を行うことによって、銅イオンがCu^(+)イオンとしてガラス基板に拡散する。拡散した銅イオンは処理条件によって異なるが、Cu^(+)イオン、Cu_(2)O、金属銅微粒子等として存在し、その部分については、ガラス基板部分とは、屈折率が異なるものとなって光導波路が形成される。」(第7ページ第8行?第11行)

ク.「 請 求 の 範 囲
1. アルカリ金属をガラス構成成分として含むガラス基板に、銅化合物、有機樹脂及び有機溶剤を含有するペーストを全面又はパターン状に塗布し、ガラス基板の軟化温度より低い温度で熱処理することを特徴とする光導波路の形成方法。」(第13ページ第1行?第4行)

ケ.「4. 請求項1?3のいずれかの方法で得られるスラブ型又はチャネル型光導波路。」(第13ページ第18行?第19行)

上記ア.?ケ.を含む全記載内容を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

「アルカリ金属をガラス構成成分として含むガラス基板に、銅化合物、有機樹脂及び有機溶剤を含有するペーストをパターン状に塗布し、ガラス基板の軟化温度より低い温度で熱処理する光導波路の形成方法。」

第4 対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、本願発明1の「レンズ、レンズアレイ又は回折格子」と引用発明の「光導波路」は共に光学素子の下位概念であるから、両者は、

「アルカリ金属成分をガラス構成成分として含むガラス基材に、銅化合物、有機樹脂及び有機溶剤を含有するペーストを塗布し、ガラス基材の軟化温度より低い温度で熱処理することを特徴とする光学素子の製造方法。」

で一致し、そして、両者は次の点で相違する。

[相違点]
本願発明1においては、光学素子が「レンズ、レンズアレイ又は回折格子」であるのに対し、引用発明においては、光学素子が「光導波路」である点。

第5 判断
そこで、上記相違点について検討する。

光導波路とは、光路となるコアと、コアを取り囲むクラッドからなる構造をもち、コアとクラッドは屈折率が異なるため、その境界面で光が全反射して進行するものであることは本願優先日時点における技術常識である。
該技術常識を持って、特に上記第3 キ.に摘示した記載内容を含む引用文献1の全記載内容を参照すると、同文献からは、ガラス基板に、銅化合物、有機樹脂及び有機溶剤を含有するペーストをパターン状に塗布し、ガラス基板の軟化温度より低い温度で熱処理することにより、ペーストを塗布した部分の屈折率が異なるものとなり、これにより該部分をコアとする光導波路を形成することができたことが読み取れる。そして、ペーストを塗布した部分の屈折率が異なるものとなったということは、屈折率の分布を持つ光学素子が形成されたことを意味しているということができる。

ところが、ガラス等からなる基板の一部の屈折率を部分的に異ならしめた屈折率の分布を持つ光学素子として、光導波路と同様に、レンズやレンズアレイや回折格子も形成可能であることは、本願優先日の時点で当業者に広く知られた事項(以下、「周知技術」という。)である。
その証拠として、原査定の拒絶の理由(平成22年8月6日付け拒絶理由通知書参照。)において引用文献3として引用された、特開2000-47046号公報の【0001】には、「・・・異なる屈折率領域から構成される屈折率分布型光学成形体、例えば、・・・光導波路等の各種光伝送、光結合、光変調素子、もしくは・・・光集束、光発散型レンズ、さらに周期的な屈折率変化を有する光回折格子、・・・マイクロレンズアレイ・・・」との記載があり、また、同じく引用文献4として引用された特開2002-98801号公報の【0005】には、「・・・2次元または3次元の任意のパターンで屈折率が制御されて、回折格子、光導波路、マイクロレンズアレイ・・・等の光学素子として有用な複合体膜と、その製造方法を提供する・・・」との記載があり、さらに、同じく引用文献5として引用された特開2002-228865号公報の【0015】には、「本発明は、光導波路形成以外にも利用できることはいうまでもない。例えば、平板型のマイクロレンズアレイのように屈折率の異なる領域を規則的に多数配列形成する構造・・・」との記載がある。
また、この他にも、例えば、特開昭61-256946号公報(以下、「引用文献6」という。)の第2ページ左上欄第2行?第4行には「・・・屈折率への寄与の大きいイオンを基板中に拡散させた屈折率分布型レンズ等が知られている。」との記載がある等、多数の証拠を挙げることができる。

引用発明1に接した当業者が、引用発明1の光導波路の形成パターンを、上記周知技術に基づき、光導波路と同様に屈折率の分布を持つ光学素子として形成可能なレンズ、レンズアレイ又は回折格子の形成パターンに置き換えることにより、引用発明1の方法をレンズ、レンズアレイ又は回折格子の形成方法に転用することは、特に発明力を必要とするようなことであるとは考えられない。
そして、上記のように引用発明1の光導波路をレンズ、レンズアレイ又は回折格子に置き換えれば本願発明1となることは明らかであるところ、それにより予測の範囲を超えるような効果が奏されると認めるべき根拠もないから、上記置き換えは当業者が容易になし得たことであるといわざるを得ない。

よって、本願発明1は当業者が引用発明1及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

第6 請求人の主張
請求人は、平成23年1月26日付け審判請求書(同年3月10日付け手続補正(方式)によって補正)において、引用文献2乃至5について、それぞれの文献に記載された発明(以下「各副引用発明」という。)を独自に認定し、引用文献1に記載された発明(上記引用発明1と同じ。)と各副引用発明を個別に組み合わせることがそれぞれ困難である理由を列挙することによって、拒絶査定の理由への反論を試みている。

しかし、審査官は、引用発明1と、引用文献2乃至5のうちのいずれか一の文献に記載された発明とを個別に組み合わせることによって本願発明を容易になしえるという拒絶理由を通知したのではなく、引用文献2乃至5は、屈折率の分布を持つ光学素子としてのレンズやレンズアレイや回折格子が本願優先日の時点において当業者に周知であったことを示す証拠としてこれらの文献のごく一部分を摘示するために挙げたにもの過ぎない。このことは、平成22年8月6日付け拒絶理由通知書の「備考」の「請求項2,6について」の記載内容から明らかである。

したがって、審判請求書において請求人が展開する、引用発明1と各副引用発明を個別に組み合わせることがそれぞれ困難であるという主張は、原審の拒絶査定の理由に対して当を得ない反論であるといわざるを得ず、これを採用することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。それゆえ、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-04-11 
結審通知日 2012-04-17 
審決日 2012-05-01 
出願番号 特願2006-510198(P2006-510198)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 理弘  
特許庁審判長 西村 仁志
特許庁審判官 金高 敏康
住田 秀弘
発明の名称 屈折率分布型光学素子の製造方法  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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