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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1258585 |
審判番号 | 不服2010-9640 |
総通号数 | 152 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-08-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-05-06 |
確定日 | 2012-06-12 |
事件の表示 | 特願2006-141684「高度に濃縮された、凍結乾燥された、および液体の、因子IX処方」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 9月28日出願公開、特開2006-257099〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、1997年1月9日(パリ条約による優先権主張1996年1月25日、米国)を国際出願日とする出願である特願平9-526917号の一部を、平成18年5月22日に新たな出願としたものであり、その請求項1?40に係る発明は、平成22年5月6日付け手続補正書の特許請求の範囲に記載された事項によって特定されるとおりのものであって、そのうち請求項22に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。 「【請求項22】 0.1ないし160mg/mlの因子IX、 66ないし90mMのアルギニン、 110ないし165mMのマンニトール 7.5ないし40mMのクエン酸塩 を含む組成物。」 2.原査定の拒絶理由 原査定の拒絶の理由の概要は、本願特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号(理由6)に規定する要件を満たしていないというものであって、その根拠として次のように指摘している。 「(ヘ)請求項27,32-34において、因子IXの濃度を、請求項7,25,29-35において、アルギニン濃度を、請求項11,23,30,33において、スクロース濃度を、請求項13において、クエン酸濃度を、請求項16,47において、ポリソルベート濃度を、請求項31,34において、マンニトール濃度を、請求項41において、グリシン濃度を、請求項43において、ヒスチジン濃度を特定範囲としているが、これらの濃度を上記請求項に記載される特定範囲とすることについて、発明の詳細な説明に記載されていない。」 なお、拒絶理由が通知された段階における特許請求の範囲、すなわち、出願当初の特許請求の範囲においては、請求項31に係る発明が、上記本願発明に対応するものである。 3.当審の判断 (1)検討の観点 特許法第36条第6項第1号においては、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」を規定しており、当該規定に関しては、「特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには、明細書の発明の詳細な説明に、当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならない」とされている(知財高判平17.11.11(平成17年(行ケ)10042)を参照。)。 以下、そのような観点に立って、本願発明について検討する。 (2)本願明細書の記載 本願明細書には、以下の事項が記載されている。 (ア)0001段落 「【0001】 一般的には、本発明は、因子IXを含有する新規処方に関し、該処方としては、高度に濃縮された、凍結乾燥された、および液体の、因子IX含有処方が挙げられ、それらは、例えば静脈、皮下および皮内のごとき経路を包含する種々の経路による投与に適する。」 (イ)0008?0011段落 「【0008】 伝統的には、因子IXのごとき大型の不安定な蛋白は、予防的にまたは出血に対応して静脈から投与される。静脈から投与されると、蛋白は血流中で直接利用可能である。不幸なことに、特に高齢者においては閉塞および/またはフィブリン形成をはじめとする繰り返し注射に関連する副作用が存在しうる。そのうえ、患者の静脈が特に細い場合、例えば小児においては必要な治療用量を達成することが困難でありうる。 【0009】 現在、キャリヤ蛋白不含で血漿由来である2種の市販の因子IX処方がある。アルファ・セラピューティク・コーポレイション(Alpha Therapeutic corporation)は凍結乾燥したAlphaNine(登録商標)SDを提供しており、ヘパリン、デキストロース、ポリソルベート80、およびトリ(n-ブチル)ホスフェートを含む。この調合物は2ないし8℃の温度に保存される。上記のごとく、ヘパリンは抗-凝血剤であるのでヘパリンが避けられ、トリ(n-ブチル)ホスフェートは粘膜を刺激するので、この処方は理想的とはいえない。アーマー・ファーマシューティカル・カンパニー(Armour Pharmaceutical Company)の凍結乾燥されたMononin(登録商標)はヒスチジン、塩化ナトリウムおよびマンニトールを含み、同様に2ないし8℃に保存される。包装に添付された説明書には該処方を室温で1カ月以上保存しないよう書かれている。液体の因子IX製品ならびに高度に濃縮された因子IX製品は現在市販されていない。SchwinnのPCT/EP90/02238には、因子IX、0.9Mサッカロース、0.5Mリジン、および0.003M塩化カルシウムが開示されているが、4?8℃においてわずか数週間しか安定でなく、それゆえ、市販のための製造には不適である。不幸なことに、この処方は高張であり、pHは快適な投与の範囲外であり、それゆえ、注射に不適である。 【0010】 皮下、筋肉内または皮内投与のごとき投与形態が患者にとり簡便である。因子IXの皮下投与は非特許文献10および特許文献2に記載されている。Berrettiniの文献においては免疫製品が用いられた。すなわち、ImmunineTM、因子IX、ヘパリン、クエン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、および118U/mgの濃度のアンチスロンビンIIIが用いられた。その製品は循環系中に輸送されにくく、輸送されてもゆっくりであると報告され、その著者は、皮下注射は血友病Bの患者の出血の治療または予防には信頼性がなく、より濃縮された形態でさえも臨床的効能に関して許容できないものであると結論した。Brownlee(上記文献)には、10?500U/mlの濃度のMononineTM因子IX処方が開示されている。低い循環レベルしか得られず、その9頁には、4時間後には因子IX注射部位の両側の皮膚に大きなクロットが形成され、重症の傷が生じたと記載されている。そのようなことは、不純な製品を用いた場合に観察される。 【0011】 血友病Bのイヌ(非特許文献11)および1人の血友病B患者(非特許文献12)において、血漿由来の因子IX(pFIX)が皮下投与された(イヌにおいては15?47U/kgの用量、患者においては30U/kgの用量)。これにより、イヌにおける血漿因子IXは用量依存的であり、0.8ないし7.6%の範囲であり、筋肉内投与が高レベルとなった。血友病患者においては、血漿因子IX活性は6時間以内に1%に達しただけであり、この活性レベルは36時間持続した。低濃度の血漿由来の因子IXは複数部位(10箇所)に大体積注射を必要とした。」 (ウ)0012、0013段落 「【発明が解決しようとする課題】 【0012】 適当な皮下投与処方を処方することに関連する1の大きな問題は、蛋白を凝集させることなく、そして処方中に不純物を濃縮することなく、十分高い蛋白濃度を達成することである。凝集物形成および不純物はともに免疫原性を増大させる。現在利用可能な製品を用いて適当用量の因子IXを皮下投与するには、複数注射部位の利用を必要とする。このことは、患者を大いに不愉快にし、患者にとり不便である。因子IXを皮下投与で実際に送達するには、因子IXを少なくとも1000U/mlまたはそれ以上にまで濃縮し、それを安定な非凝集剤形として提供することが必要である。かかる濃縮形態は現在利用できない。 【0013】 理想的には、処方は、1年以上の因子IXの安定性および広範な蛋白濃度(例えば、0.1mg/mlないし160mg/ml以上、すなわち、20Umlないし56000U/ml以上)における適合性を与えるべきである。このことにより投与方法に多様性が生じ、例えば高い蛋白濃度を必要としうる皮下、皮内、または筋肉内投与、あるいは低い蛋白濃度を用いることのある静脈内投与が可能となる。一般的には、より高濃度の形態は小体積投与を可能にし、患者の観点から非常に望ましい。投与および使用に関して、液体処方はと輸血乾燥処方と比べて多くの利点を有する。したがって、濃縮プロセスおよび凍結乾燥プロセスの間の因子IX蛋白の安定性を向上させ、活性レベルを維持する方法、ならびに2ないし8℃で1年以上の長期保存中において安定な処方を提供する方法に対する必要性が当該分野において存在する。」 (エ)0043?0050段落 「【実施例4】 【0043】 実施例4: 賦形剤相互作用 表7に示す因子IX処方のもう1つのセット(すべてがクエン酸塩を含有)を調製する。すべての処方は等張であり、濃度1ないし2mg/ml(平均208ないし481U/ml)の因子IXを含有し、10mMないし15mMのクエン酸ナトリウムをpH調節剤として使用し、pHを6.8に調節する。 【0044】 ……(略)…… 【0045】 試料を4℃で保存し、いくつかの時点でアッセイする。4℃で8カ月保存後、9種の試料は出発材料の?100%のクロッティング活性を維持している。これ9種の処方を表8に示す(すべては15mMのクエン酸ナトリウムを含有し、pH6.8、かつ等張である)。 【0046】 ……(略)…… 【0047】 類似の賦形剤を類似の割合で含有するいくつかの処方は、それにもかかわらず、驚くべきことに、ほとんど同様にクロッティング活性を維持しない。例えば、2.3%グリシンのみはわずか86%のクロッティング活性を示し、4%スクロース、2%アルギニン(ツイン含有および不含、ならびにEDTA含有および不含の両方)は87?89%のクロッティング活性を示した。」 (なお、0047段落第2文には「86%86%」との記載があるが、国際出願時の原文明細書には「86%」と記載されている。) (オ)0058、0059段落 「【実施例6】 【0058】 実施例6: 4℃での長期保存の影響 15mMクエン酸ナトリウム(0.38%)、0.16Mアルギニン(3.3%),pH6.8中に因子IXを2mg/ml(500U/ml)として処方し、4℃で1年間保存する。活性の回収率は95%であり、%HMWは0.32%である。15mMクエン酸ナトリウム、3%マンニトール、1.5%アルギニン,pH6.8中に因子IXを2mg/mlとして処方し、4℃で1年間保存する。活性の回収率は76%であり、%HMWは0.36%である。活性の損失は脱アミド化によるものである。 【0059】 15mMクエン酸ナトリウム、1%=29mMスクロース、3%=0.14MアルギニンHCl中に因子IXを2mg/mlとして処方し、4℃で1年間保存する。活性の回収率は86%であり、%HMWは0.27である。」 (3)検討・判断 これらの本願明細書の記載によれば、本願の発明の詳細な説明には、従来の因子IX処方は、不適な成分を含むものであるか、長期の保存に対して安定性がないものであるか、不純な製品によりクロット(審決注:血塊、血餅(clot)のこと)を形成するものであるか、浸透圧又はpHが注射に不適なものであるか、又は、因子IXが低濃度のものであるといった課題を有していたこと(摘記(ア)、(イ))、また、皮下投与等のような小体積投与を可能とするためには、蛋白を凝集させることなく、そして処方中に不純物を濃縮することなく、十分高い蛋白濃度を達成することが大きな課題であり、したがって、濃縮プロセスおよび凍結乾燥プロセスの間の因子IX蛋白の安定性を向上させ、活性レベルを維持し、2ないし8℃で1年以上の長期保存中において安定な処方を提供する必要性があること(摘記(ウ))が記載されている。 そうしてみると、本願発明の主たる課題は、少なくとも、因子IXの活性が長期保存に対しても安定なものとすること、すなわち、保存安定性を有することであるということができる。 ところが、本願発明の発明特定事項を全て満足する具体的な組成物に注目して、発明の詳細な説明における記載をみると、摘記(オ)に記載される複数の組成物のうち、その2番目には「15mMクエン酸ナトリウム、3%マンニトール、1.5%アルギニン,pH6.8中に因子IXを2mg/mlとして処方し」との記載があり(以下、当該処方を指して「実施例処方」という)、その安定性については、「4℃で1年間保存する。活性の回収率は76%であり、%HMWは0.36%である。活性の損失は脱アミド化によるものである。」と記載されている。 ここで、上記実施例処方は、因子IX及びクエン酸塩の濃度について、本願発明の所定の範囲を満足することが明らかであり、また、アルギニン(分子量:174.204)及びマンニトール(分子量:182.172)の濃度についても、[%]単位を[mM]単位に換算すると、それぞれ、約86mM及び約160mMであるから、本願発明の所定の範囲を満足することが明らかである。 (なお、[%]単位(すなわち[重量%]単位)の濃度を[mM]単位(すなわち[mmol/l]単位)の濃度に正確に換算するには、本来溶液の比重が判明していなくてはならないが、濃度の絶対的な小ささからみて、比重を1[g/l]として換算しても、例えば1割を超えるような大きな誤差は生じないことが明らかであるから、上述の換算結果はそのような前提をおいて有効桁数を2桁として計算したものである。その結果は、請求人が、審判請求書の補正書や回答書において使用する数値(摘記(オ)の処方のアルギニン濃度で80mM)と概ね同程度である。) しかしながら、因子IXの保存安定性の評価するものである4℃で1年間保存後の活性回収率については、摘記(オ)に記載される1番目の組成物が95%と、概ね活性を失わずに安定であったのに対して、上記実施例処方については、「活性の回収率は76%であり、……。活性の損失は脱アミド化によるものである。」と記載され、長期保存後により因子IXの活性に損失があったことを記している。 そして、「76%」という活性回収率のレベルに関して、本願明細書の他の記載も参照すれば、例えば、実施例4(摘記(エ))の項目中に、「類似の賦形剤を類似の割合で含有するいくつかの処方は、それにもかかわらず、驚くべきことに、ほとんど同様にクロッティング活性を維持しない」として、明らかに保存安定性がなかったものとして扱われている処方についても記載されており、当該処方については、「クロッティング活性」、すなわち、因子IXの活性回収率が、「86%」又は「87?89%」であったことが記載されている。このように「86%」や「87?89%」というレベルですら、保存安定性がなかったとものとして扱われているのであるから、それらのレベルよりも低い「76%」という活性回収率については、当業者であれば、本願明細書では、保存安定性がないものとして記載されていると理解すると考えるのが自然である。 そうしてみると、摘記(オ)の記載をみた当業者は、本願発明の組成物といえども、その中には活性回収率が76%程度にとどまるような保存安定性に欠けるものが含まれており、本願発明は、必ずしも本願発明の課題を解決できるものではないものとして理解せざるを得ない。 なお、上記実施例処方に関しては、請求人自身も、審判請求書に対する手続補正書において、以下のように主張していることと整合するものである。 「処方中の因子IXの安定化効果は、アルギニン濃度が高いほど高くなる。このことは、本願実施例6に詳述されている。1.5%(約80mM)のアルギニンを用いた処方(当審注:摘記(オ)の実施例処方のこと)と比較して、3%(約160mM)のアルギニンを用いた処方では、4℃で1年間保存した後の因子IXの回収率が飛躍的に向上していた。しかも、実施例6で低濃度アルギニンの比較例として引き合いに出された約80mMのアルギニンでさえ、参考文献Aで用いられているアルギニン濃度(約6mM?29mM)を遙かに上回るものである。」(下線は当審が付与。) この記載からは、請求人自身も上記実施例処方を「低濃度アルギニンの比較例」としていることは明らかである。 以上、要するに、所定の成分を所定の濃度範囲で含むことによって本願発明の全ての発明特定事項を満足する組成物であっても、発明の詳細な説明をみれば、少なくとも上記実施例処方については、保存安定性に関する課題を 解決できることを当業者は認識できないというべきである。そして、このことは、すなわち、本願発明の発明特定事項を全て満足する組成物であっても、その中には、本願発明の課題を解決することができないものが含まれていることに他ならないから、本願発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものということはできない。 よって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとすることができない。 また、上記実施例処方は、本願請求項30?32及び35に係る発明の発明特定事項も全て満足するものであるから、これらの請求項に係る発明についても、本願発明と同様な理由により、発明の詳細な説明に記載したものであるとすることができない。(特に、本願発明ではアルギニン濃度の下限値は66mMであるのに対し、請求項30?32に係る発明ではそれよりも低濃度である47mMが下限値とされていることについては、上述の「処方中の因子IXの安定化効果は、アルギニン濃度が高いほど高くなる」という請求人の主張に鑑みれば、なおさら因子IXの保存安定性に欠けるであろう範囲が含まれているという意味においても、特許法第36条第6項第1号の要件を満足するものではない。) 4.むすび 以上のとおりであるから、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているものとすることができない。 したがって、本願は、その余の点について論及するまでもなく拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 以上 |
審理終結日 | 2012-01-13 |
結審通知日 | 2012-01-16 |
審決日 | 2012-01-27 |
出願番号 | 特願2006-141684(P2006-141684) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
Z
(A61K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 上條 のぶよ、福井 悟、天野 貴子 |
特許庁審判長 |
星野 紹英 |
特許庁審判官 |
中村 浩 渕野 留香 |
発明の名称 | 高度に濃縮された、凍結乾燥された、および液体の、因子IX処方 |
代理人 | 四本 能尚 |
代理人 | 宮澤 純子 |
代理人 | 佐藤 眞紀 |
代理人 | ▲高▼橋 宏次 |
代理人 | 龍田 美幸 |
代理人 | 室伏 良信 |