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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
管理番号 1258594
審判番号 不服2010-26186  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-11-19 
確定日 2012-06-11 
事件の表示 特願2002-513698「トランジスタの動作領域に重なるグラウンドバスを有するインクジェットプリントヘッド」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 1月31日国際公開、WO02/07979、平成16年 2月12日国内公表、特表2004-504193〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2001年1月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2000年7月24日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成15年1月24日に翻訳文が提出され、平成21年9月25日に手続補正がなされ、平成22年8月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年11月19日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされ、当審において平成23年9月12日付けで拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年12月2日に手続補正がなされたものである。

2 本願発明
本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成23年12月2日付け手続補正によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明は、平成23年12月2日付け手続補正によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものと認める。

「基板を含み、かつ、ヒータ抵抗器が形成された薄膜下部構造と、この薄膜下部構造の上に配置され、かつ、インクチャンバおよびインクチャネルが形成されたインクバリア層と、
該インクバリア層の表面に薄膜状に取り付けられ、かつ、ノズルを有するノズル板を備えたプリントヘッド構造と、
該プリントヘッド構造内に画定されるインク滴発生器の列のアレイと、
前記プリントヘッド構造内に形成され、前記インク滴発生器にそれぞれ接続されており、それぞれ、ドレイン領域、ソース領域、およびゲートで構成された動作領域を含むFET回路の列のアレイと、
(a)薄膜下部構造の長手方向に間隔を置いて配置した外部と電気接続するためのボンディングパッドと(b)前記インク滴発生器および前記FET回路との間に電気接続されたグラウンドバスを含む電源トレースと、
を備え、
前記グラウンドバスは、前記FET回路の前記列のアレイの長手方向の長さに沿って略延び、前記グラウンドバスは、前記FET回路の動作領域と部分的に重なるとともに、前記グラウンドバスの幅を、前記プリントヘッド構造の最も近い端に近づくにつれて広くして前記グラウンドバスの抵抗を小さくし、
前記インク滴発生器のいくつかは発射遅延を補償するために列の中心線からわずかに外れていることを特徴とする
インクジェットプリントヘッド。」(以下「本願発明」という。)

3 刊行物の記載事項
(1)当審拒絶理由で引用した「本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平10-181022号公報(以下「引用例1」という。)」には、図とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同じ。)。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、記録ヘッド用基体、該記録ヘッド用基体を備えた記録ヘッド及び該記録ヘッドを有する記録装置に関し、特に、インクジェット方式に従ってインクを吐出して記録媒体に記録を行う記録ヘッド用基体、該記録ヘッド用基体を備えた記録ヘッド及び該記録ヘッドを有する記録装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来のインクジェット方式に従う記録装置に搭載される記録ヘッドは、図6に示すような回路構成をしていた。このような記録ヘッドの電気熱変換素子(ヒータ)とその駆動回路は、例えば、特開平5-185594号公報に示されているように半導体プロセス技術を用いて同一基板上に形成されている。
【0003】図6において、1101は熱エネルギーを発生する為の電気熱変換素子(ヒータ)、1102はヒータ1101に所望の電流を供給する為のパワートランジスタ部、1104は各ヒータ1101に電流を供給し記録ヘッドのノズルからインクを吐出するか否かの画像データを一時的に格納するシフトレジスタ、1107はシフトレジスタ1104に設けられた転送クロック(CLK)入力端子、1106はヒータ1101をON/OFFさせる画像データ(DATE)をシリアルに入力する画像データ入力端子、1103は各ヒータに対する画像データを各ヒータごとに記録保持する為のラッチ回路、1108はラッチ回路1103にラッチのタイミング信号(LT)を入力するラッチ信号入力端子、1109はヒータ1101に電流を流すタイミングを決定するスイッチ、1105はヒータに所定の電圧を印加し電流を供給する為の電源ライン、1110はヒータ1101及びパワートランジスタ1102を流れた電流が流れ込むGNDラインである。また、シフトレジスタ1104に格納される画像データビット数とパワートランジスタ1102の数とヒータ1101の数とは同じである。
【0004】図7は、図6に示した記録ヘッドの駆動回路を駆動する為の各種信号のタイミングチャートである。これを用いて図6に示した記録ヘッドの駆動回路の動作について説明する。転送クロック入力端子1107にはシフトレジスタ1104に格納される画像データのビット数分の転送クロック(CLK)が入力される。シフトレジスタ1104へのデータ転送が転送クロック(CLK)の立ち上がりのタイミングに同期して行われるものとすると、各ヒータ1101をON/OFFさせるための画像データ(DATA)が画像データ入力端子1106から入力される。ここで、シフトレジスタ1104に格納される画像データのビット数とヒータ及び電流駆動用パワートランジスタの数と同じであるから、ヒータ1101の数の分だけ転送クロック(CLK)のパルスを入力して画像データ(DATA)をシフトレジスタ1104に転送した後、ラッチ信号入力端子1108にラッチ信号(LT)を与えて各ヒータに対応した画像データをラッチ回路1103に保持する。この後、スイッチ1109を適当な時間ONにすれば、スイッチ1109がON状態となっているその長さに応じてパワートランジスタ1102及びヒータ1101に電源ライン1105を通って電流がながれ、その電流は再びGNDライン1110ヘ流れ込む。この時ヒータ1101はインクを吐出するために必要な熱を発生し、画像データに見合ったインクが記録ヘッドのノズルから吐出される。
【0005】図4は、従来例のものにおける記録ヘッド用基体のレイアウトを示す図であり、図5は図4のa-a´線に添った断面図である。図4において、1101はヒータ、1102はパワートランジスタ、1103はシフトレジスタ、ラッチ回路、スイッチなどからなる駆動用ロジック回路群である。又、1105はヒータ1101に所定の電圧を印加するための電源ライン、1110はパワートランジスタ1102の電流が流れ込むGNDラインである。ここで、電源ライン1105は、第2層目のAl(アルミニウムあるいはアルミニウムを含む合金)配線によって形成され、パワートランジスタ1102の素子上に配置される。一方、パワートランジスタ1102に接続される信号線などは、第1層目のAl(アルミニウムあるいはアルミニウムを含む合金)配線により形成され、電源ライン1105とは電気的に絶縁されている。1106は電源ライン1105とヒータ1101とを結ぶ配線で第2層目のAl配線で直接接続される。また、1107はヒータ1101とパワートランジスタ1102とを結ぶ配線で第1層目のAl配線で形成される。
【0006】このようにすることにより、第2層目のAl配線である電源ライン1105の下側へ配線1107を通し、直接パワートランジスタ1102と接続できる。更にGNDライン1110は第2層目のAl配線で形成され、駆動用ロジック回路1103の素子の下方へ配置される。一方、駆動用ロジック回路1103内の信号線などは第1層目のAl配線により形成され、GNDライン1110とは電気的に絶縁される。また、1111は電源用ボンディングパッド、1112はGND用ボンディングパッドであり、ここに示されたものにおいては基板の左右両端に配置されるようなレイアウト構成となっている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来例で示す駆動回路基板上のレイアウトは、ヒータ1101に印加する電源ライン1105と、パワートランジスタ1102からの電流が流れ込むGNDライン1110を共通の第2層配線でレイアウトしているために、チップサイズに対して共通配線抵抗が大きく、電源電圧からの電圧降下が大きくなるため電力効率の低下を招いてしまうという欠点があった。さらに、このようなレイアウトでヒータの同時駆動数を増やし、瞬間的に3A以上の電流を流そうとすると、電流波形がリンギングし、スイッチングの誤動作、もしくはオーバーシュートによるトランジスタ耐圧以上の電圧が印加され破壊する可能性があった。
【0008】そこで、本発明は、上記従来例のものにおける課題を解決し、コンパクトな基板を用いて、誤動作なく、より多くの電流を流すことのできる記録ヘッド用基体、該記録ヘッド用基体を備えた記録ヘッド及び記録装置を提供することを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記課題を解決するため、複数の電気熱変換素子と、前記電気熱変換素子に外部電源を供給するための電源ラインと、前記複数の電気熱変換素子を駆動する駆動回路と、前記電気熱変換素子と前記駆動回路からの電流が流れ込むGNDラインと、画像信号入力端子から入力された画像信号を保持する保持回路とが、多層配線層を有する同一の基板上に設けられた記録ヘッド用基体が、前記電源ラインと前記GNDラインとが互いに異なる配線層で形成され、それらが少なくとも1/2以上平面的に重なるように配されていることを特徴としている。また、本発明の記録ヘッド用基体は、該記録ヘッド用基体における電気熱変換素子がインクを吐出して記録を行うための熱エネルギーを発生する電気熱変換素子であることを特徴としている。また、本発明の記録ヘッド用基体は、該記録ヘッド用基体における駆動回路が、パワートランジスタを用いて構成されていることを特徴としている。また、本発明の記録ヘッドは、上記した本発明の記録ヘッド用基体により構成したことを特徴としている。また、本発明の記録装置は、本発明の上記記録ヘッドを有していることを特徴としている。
【0010】
【発明の実施の形態】本発明の記録ヘッド用基板は、上記したとおり電源ラインと前記GNDラインとが互いに異なる配線層で形成され、それらが少なくとも1/2以上平面的に重なるように構成されているため、共通配線の面積を広くとって配線抵抗を小さくすることができると共に、ヒータ駆動時の電流波形のリンギングを抑制して誤動作を防ぐことができ、記録ヘッドの小型化と電力損失の低減を図ることが可能となる。
【0011】図8は、本発明の記録ヘッド用基板を備えた記録ヘッドを搭載してなる代表的な実施形態の一例であるインクジェットプリンタIJRAの構成の概要を示す外観斜視図である。図8において、駆動モータ5013の正逆回転に連動して、駆動力伝達ギア5009?5011を介して回転するリードスクリュー5005の螺旋溝5004に対して係合するキャリッジHCはピン(不図示)を有し、ガイドレール5003に支持されて矢印a,b方向を往復移動する。キャリッジHCには、記録ヘッドIJHとインクタンクITとを内蔵した一体型インクジェットカートリッジIJCが搭載されている。5002は紙押え板であり、キャリッジHCの移動方向に亙って記録用紙Pをプラテン5000に対して押圧する。5007,5008はフォトカプラで、キャリッジのレバー5006のこの域での存在を確認して、モータ5013の回転方向切り換え等を行うためのホームポジション検知器である。
【0012】5016は記録ヘッドIJHの前面をキャップするキャップ部材5022を支持する部材で、5015はこのキャップ内を吸引する吸引器で、キャップ内開口5023を介して記録ヘッドの吸引回復を行う。5017はクリーニングブレードで、5019はこのブレードを前後方向に移動可能にする部材であり、本体支持板5018にこれらが支持されている。ブレードは、この形態でなく周知のクリーニングブレードが本例に適用できることは言うまでもない。また、5021は、吸引回復の吸引を開始するためのレバーで、キャリッジと係合するカム5020の移動に伴って移動し、駆動モータからの駆動力がクラッチ切り換え等の公知の伝達機構で移動制御される。これらのキャッピング、クリーニング、吸引回復は、キャリッジがホームポジション側の領域に来た時にリードスクリュー5005の作用によってそれらの対応位置で所望の処理が行えるように構成されているが、周知のタイミングで所望の動作を行うようにすれば、本例にはいずれも適用できる。
【0013】
【実施例】以下、図1?図3に基づいて本発明の実施例を説明する。
[実施例1]図1は、本発明の実施例1における記録ヘッド用基体のレイアウトを示す図である。この基板には多層配線技術が用いられ、各構成要素を接続するAl(アルミニウムあるいは、アルミニウムを含む合金)配線は、基板上において多層構造をしている。そして、それぞれの配線層は基板上の必要な箇所でスルーホールによって接続される。また、図2は図1に示すa-a′線に添った回路基板の断面である。なお、図1?図2に示してはいないが、本実施例の記録ヘッド用基板は従来例図6で示したようにヒータ1101の数に対応するビット数の画像信号を入力して、一時的に格納するシフトレジスタ、及びそのシフトレジスタに格納された画像信号をラッチするラッチ回路を有している。さらに、その画像信号を入力する入力端子、その画像信号を転送するための転送クロック入力端子、ラッチ信号を入力する入力端子を備えている。
【0014】図1?図2において、101はヒータ、102はパワートランジスタ、103はシフトレジスタ、ラッチ回路、スイッチなどからなる駆動用ロジック回路群である。又、105はヒータ101に所定の電圧を印加するための電源ライン、110はパワートランジスタ102の電流が流れ込むGNDラインである。ここで電源ライン105は、第2層目のAl(アルミニウムあるいはアルミニウムを含む合金)配線によって形成され、パワートランジスタ102と駆動用ロジック回路103の素子上に配置される。
【0015】一方パワートランジスタ102や駆動用ロジック回路103に接続される信号線などは、第1層目のAl配線により形成され、電源ライン105とは電気的に絶縁されている。107(審決注:「106」は「107」の明らかな誤記なので訂正して摘記した。)は、電源ライン105とヒータ101とを結ぶ配線で、第2層のAl配線で直接接続されている。また、106(審決注:「107」は「106」の明らかな誤記なので訂正して摘記した。)はヒータ101とパワートランジスタ102を結ぶ配線で第3層目のAl配線で形成される。更にGNDライン110も、第3層目のAl配線で形成され、平面的には電源ライン105と重なるように配置され、電源ライン105とは、電気的に絶縁される。また、111は電源用ボンディングパッド、112はGND用ボンディングパッドである。
【0016】このように、電源ライン105とGNDライン110は、絶縁膜を介して向かい合わせで配置され、電源ライン105と、GNDライン110間に適当なキャパシタンスが構成される。これにより、ヒータ101の駆動時の電流波形のリンギングは吸収され、ヒータ101の同時ON数を増やすことができる。さらに従来の基板で第2層目のAl配線で形成していた電源ライン105と、GNDライン110を第2層目と第3層目に分けることで、チップサイズに対して共通配線を広くすることができ、その分抵抗成分を減少させ、電源電圧からの電圧降下をより少なくし、電力効率の向上に、寄与することができる。
【0017】[実施例2]図3は、本発明の実施例2における記録ヘッド用基体の断面を示す図である。前述の実施例で説明した記録ヘッド用基体のレイアウト構成では、第2層目を電源ライン105、第3層目をGNDライン110として説明したが、本発明はこれによって限定されるものではなく、例えば図3のように、第2層目をGNDライン110、第3層目を電源ライン105とするようにレイアウト構成をとることができる。
【0018】
【発明の効果】本発明は、以上のように記録ヘッド用基体における多層配線層を有する同一の基板上に設けられた電源ラインとGNDラインとを、互いに異なる配線層で形成し、それらが少なくとも1/2以上平面的に重なるように構成されているため、共通配線の面積を広くとって配線抵抗を小さくすることが可能となり、また、ヒータ駆動時の電流波形のリンギングを抑制して誤動作を防ぐことが可能となって、これらにより記録ヘッドの小型化と電力損失の低減を図ることができる。」

イ 段落【0004】の「スイッチ1109を適当な時間ONにすれば、スイッチ1109がON状態となっているその長さに応じてパワートランジスタ1102及びヒータ1101に電源ライン1105を通って電流がながれ、その電流は再びGNDライン1110ヘ流れ込む。この時ヒータ1101はインクを吐出するために必要な熱を発生し、画像データに見合ったインクが記録ヘッドのノズルから吐出される」との記載を参酌すると、図1及び図6の記載から、複数のパワートランジスタ102と、インクを吐出するために必要な熱を発生する複数のヒータ101と、該ヒータ101を有する複数のノズルとが、記録ヘッドの一辺に平行に配列されていることを把握することができる。

ウ 図1ないし図3の記載から、GNDライン110は、基板の左右両端に配置されたGND用ボンディングパッド112に接続しており、その一方から出て、途中で上記イのパワートランジスタ102の配列方向に沿って延び、該パワートランジスタ102と部分的に重なって、最後に他方のGND用ボンディングパッド112に接続していることが見て取れる。

エ 上記アないしウの記載からみて、引用例1には、
「熱エネルギーを発生する為の電気熱変換素子であるヒータ101と、
前記ヒータに所望の電流を供給する為のパワートランジスタ102と、
各ヒータに電流を供給し記録ヘッドのノズルからインクを吐出するか否かの画像データを一時的に格納するシフトレジスタ、該シフトレジスタに設けられた転送クロック(CLK)入力端子、前記ヒータをON/OFFさせる画像データ(DATE)をシリアルに入力する画像データ入力端子、各ヒータに対する画像データを各ヒータごとに記録保持する為のラッチ回路、該ラッチ回路にラッチのタイミング信号(LT)を入力するラッチ信号入力端子、前記ヒータに電流を流すタイミングを決定するスイッチなどからなる駆動用ロジック回路群103と、
前記ヒータに所定の電圧を印加し電流を供給する為の電源ライン105と、
前記ヒータ及び前記パワートランジスタを流れた電流が流れ込むGNDライン110と、
基板の左右両端に配置された電源用ボンディングパッド111及びGND用ボンディングパッド112とを、半導体プロセス技術を用いて同一基板上に形成した記録ヘッド用基体を備え、
複数の前記パワートランジスタ102と、インクを吐出するために必要な熱を発生する複数の前記ヒータ101と、該ヒータ101を有する複数のノズルとは、記録ヘッドの一辺に平行に配列され、
前記パワートランジスタ102及び前記ヒータ101に前記電源ライン105を通って電流をながすと、その電流が再び前記GNDライン110ヘ流れ込み、この時前記ヒータ101がインクを吐出するために必要な熱を発生し、画像データに見合ったインクが前記ノズルから吐出されるようになっている、
インクジェット方式に従ってインクを吐出して記録媒体に記録を行う記録ヘッドにおいて、
ヒータに印加する電源ラインと、パワートランジスタからの電流が流れ込むGNDラインを共通の第2層配線でレイアウトするとチップサイズに対して共通配線抵抗が大きく電源電圧からの電圧降下が大きくなるため電力効率の低下を招いてしまうという欠点、電流波形がリンギングするという欠点、スイッチングの誤動作という欠点、及び、オーバーシュートによるトランジスタ耐圧以上の電圧が印加され破壊する可能性があるという欠点をなくすという課題を解決するため、複数の電気熱変換素子と、前記電気熱変換素子に外部電源を供給するための電源ラインと、前記複数の電気熱変換素子を駆動するパワートランジスタを用いて構成されている駆動回路と、前記電気熱変換素子と前記駆動回路からの電流が流れ込むGNDラインと、画像信号入力端子から入力された画像信号を保持する保持回路とが、多層配線層を有する同一の基板上に設けられた記録ヘッド用基体が、前記電源ラインと前記GNDラインとが互いに異なる配線層で形成され、それらが少なくとも1/2以上平面的に重なるように配することにより、共通配線の面積を広くとって配線抵抗を小さくすることを可能となし、ヒータ駆動時の電流波形のリンギングを抑制して誤動作を防ぐことを可能となして、これらにより記録ヘッドの小型化と電力損失の低減を図った記録ヘッドであって、
前記記録ヘッド用基体には多層配線技術が用いられ、各構成要素を接続するAl配線は、基板上において多層構造をし、それぞれの配線層は基板上の必要な箇所でスルーホールによって接続されており、
前記電源ライン105は、第2層目のAl配線によって形成され、前記パワートランジスタ102と前記駆動用ロジック回路103の素子上に配置されており、
前記パワートランジスタ102や前記駆動用ロジック回路103に接続される信号線などは、前記電源ライン105とは電気的に絶縁されている第1層目のAl配線により形成され、
前記電源ライン105と前記ヒータ101とを結ぶ配線107は第2層のAl配線で直接接続され、
前記ヒータ101と前記パワートランジスタ102を結ぶ配線106は第3層目のAl配線で形成され、
前記GNDライン110は第3層目のAl配線で形成され、平面的には前記電源ライン105と重なるように配置され、かつ、電源ライン105とは電気的に絶縁されており、
前記GNDライン110は、前記GND用ボンディングパッド112に接続しており、一方のGND用ボンディングパッド112から出て、途中で前記パワートランジスタ102の配列方向に沿って延び、該パワートランジスタ102と部分的に重なって、最後に他方のGND用ボンディングパッド112に接続しており、
電源ライン105とGNDライン110が絶縁膜を介して向かい合わせで配置されることにより電源ライン105とGNDライン110間に適当なキャパシタンスが構成されるようになされ、これによりヒータ101の駆動時の電流波形のリンギングが吸収されてヒータ101の同時ON数を増やすことができ、電源ライン105と、GNDライン110を第2層目と第3層目に分けることで、チップサイズに対して共通配線を広くすることができ、その分抵抗成分を減少させ、電源電圧からの電圧降下をより少なくし、電力効率の向上に、寄与することができ、
また、第2層目をGNDライン110、第3層目を電源ライン105とするようにレイアウト構成をとることができる記録ヘッド。」の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

(2)当審拒絶理由で引用した「本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平8-329866号公報(以下「引用例2」という。)」には、図とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところで、表面伝導型電子放出素子を画像形成装置に応用した場合、一般には、基板上に多数の表面伝導型電子放出素子を配列し、各素子間を薄膜もしくは厚膜の電極で電気的に配線し、マルチ電子線源として用いていたが、配線抵抗で生じる電圧降下のために各素子ごとに印加される電圧がばらついてしまうという現象が起きている。その結果、各表面伝導型電子放出素子から放出される電子線の電流量にばらつきが生じ、形成される画像に濃度むらが起きるという問題が発生していた。
【0007】図14及び図15はこの問題をより詳しく説明するための図で両図とも(a)は表面伝導型電子放出素子と配線抵抗及び電源を含む等価回路図であり、(b)は各表面伝導型電子放出素子の正極と負極の電位を示す図、(c)は各表面伝導型電子放出素子の正負極間に印加される電圧を示す図である。
【0008】図14(a)は、並列接続されたN個の表面伝導型電子放出素子D_(1)?D_(N)と電源V_(E)とを接続した回路を示すもので、電源の正極と表面伝導型電子放出素子D_(1)の正極を、また電源の負極と表面伝導型電子放出素子D_(N)の負極を接続したものである。また、各表面伝導型電子放出素子を並列に結ぶ共通配線は、図に示すように隣接する表面伝導型電子放出素子間でrの抵抗成分を有するものとする(画像形成装置では、電子線のターゲットとなる画素は、通常等ピッチで配列されている。従って、表面伝導型電子放出素子間も空間的に等間隔をもって配列されており、これらを結ぶ配線は幅や膜厚が製造上ばらつかない限り、表面伝導型電子放出素子間で等しい抵抗を持つ。)。
【0009】また、表面伝導型電子放出素子D_(1)?D_(N)は、ほぼ等しい抵抗値Rdを各々有するものとする。
【0010】図14(a)の回路において、各表面伝導型電子放出素子の正極及び負極の電位を示したのが図14(b)である。図の横軸はD_(1)?D_(N)の素子番号を示し、縦軸は電位を示す。●印は各表面伝導型電子放出素子の正極電位を、■印は負極電位を表しており、電位分布の傾向を見易くするため、便宜的に●印(■印)を実線で結んでいる。
【0011】本図から明らかなように、配線抵抗rによる電圧降下は、一様に起こるわけではなく、正極側の場合は表面伝導型電子放出素子D_(1)に近い程急峻であり、逆に負極側では、D_(1)に近い程配線抵抗rを流れる電流が大きく、また負極側では、逆にD_(N)に近い程大きな電流が流れるためである。
【0012】これから各表面伝導型電子放出素子の負極間に印加される電圧を示したのが、図14(c)である。縦軸は印加電圧を各々示し、図14(b)と同様傾向を見易くするために、便宜的に○を実線で結んでいる。
【0013】本図から明らかなように、図14(a)のような回路の場合には、両端の表面伝導型電子放出素子(D_(1)及びD_(N))に近い程大きな電圧が印加され、中央部付近の表面伝導型電子放出素子では印加電圧が小さくなる。従って、各表面伝導型電子放出素子から放出される電子線は、両端の表面伝導型電子放出素子程放出電流が大きくなり、画像形成装置に応用した場合、極めて不都合であった(例えば、両端に近い部分の画像は濃度が濃く、中央付近の濃度は淡くなってしまう。)。」

イ 「【0022】
【課題を解決するための手段及び作用】本発明の画像形成装置は、基板上の素子電極間に導電性薄膜を形成した表面伝導型電子放出素子が複数電気的に接続された電子源を用いた画像形成装置において、表面伝導型電子放出素子間の配線抵抗値を少なくとも2種以上の異なる値にする点に特徴を有し、配線抵抗値を異なる値にするための手段が、配線幅、配線厚さ又は配線組成を変えることにより成されるものである。
【0023】更に詳しくは、並列接続された複数の表面伝導型電子放出素子の正極側取り出し電極が素子列の正極側電極の一端に配置され、負極側取り出し電極が素子列の負極側電極の他端に配置されており、表面伝導型電子放出素子素子間の配線抵抗値が取り出し電極から遠くなるにしたがって大きくなる点に特徴を有するものである。」

ウ 「【0095】実施例1
図10は、実施例1の画像形成装置に用いられる並列接続された表面伝導型電子放出素子の平面図である。図10において、1は基板、3は導電性薄膜、11は正極側電極、12は負極側電極である。
【0096】表面伝導型電子放出素子はD_(1)?D_(1000)まで1000個形成されており、図10(a)では中央部を省略している。また、図10(b)は素子部を拡大した図であって、aは素子電極間距離を、bは導電性薄膜3の幅を表している。
【0097】まず、清浄化した基板1に、通常のフォトリソグラフィー技術を用いて電極11,12を形成する。配線部の幅は、正極側ではD_(1)側からD_(1000)側へいくにしたがって次第に細くなっており、一方、負極側ではD_(1000)側からD_(1)側へいくにしたがって次第に細くなっている。その値は、D_(1)-D_(2)間の正極側配線幅W_(1)が1ミリメートル、負極側配線幅W’_(1)が1マイクロメートルで、D_(999)-D_(1000)間の正極側配線幅W_(999)が1マイクロメートル、負極側配線幅W’_(999)が1ミリメートルである。また、素子部の素子電極間距離aは2マイクロメートルとした。
【0098】次に、電極11,12を形成した基板1上に有機Pd(ccp4230奥野製薬(株)社製)をスピンナーにより回転塗布し、250℃で10分間の加熱焼成処理をした。尚、ここで述べる微粒子膜とは、前述したように、複数の微粒子が集合した膜であり、その微細構造として、微粒子が個々に分散配置した状態のみならず、微粒子が互いに隣接、あるいは、重なり合った状態(島状も含む)の膜をさし、その粒径とは、この状態で粒子形状が認識可能な微粒子ついての径をいう。
【0099】そして、焼成後の薄膜3を通常のフォトリソグラフィー技術を用いて、図10(b)に示すように、導電性薄膜3の幅bが300マイクロメートルになるようにパターンニングを行い、電子放出部を形成した。
【0100】次に、基板1上に5ミリメートル厚のガラススペーサを設け、スペーサ上に一様に蛍光体を塗布した蛍光体基板を設けた後、全体を図の測定評価系内に収容して1×10の-6乗torr程度の真空度に保持し、加速電圧1kVで電子放出特性を確認した。尚、電源の接続方法は、電極11,12のD_(1)側を正極、D_(1000)側をアースとした。
【0101】その結果、各放出部に対応した輝点が観察され、各輝点の輝度は目視でほぼ均一であった。また、各輝度のばらつきをスポット輝度計を用いて測定したところ、ばらつきは5%以内であった。」

エ 上記アでは「配線抵抗rによる電圧降下は、一様に起こるわけではなく、正極側の場合は表面伝導型電子放出素子D_(1)に近い程急峻であり、逆に負極側では、D_(1)に近い程配線抵抗rを流れる電流が大きく、また負極側では、逆にD_(N)に近い程大きな電流が流れるためである。」(【0011】)と記載されているが、「負極側では、D_(1)に近い程配線抵抗rを流れる電流が大き」いことになっていないことが図14(b)の記載から明らかである。この図14(b)の記載からみて、上記アの【0011】の上記記載は、「配線抵抗rによる電圧降下は、一様に起こるわけではなく、正極側の場合は表面伝導型電子放出素子D_(1)に近い程配線抵抗rを流れる電流が大きいため急峻であり、逆に負極側では、表面伝導型電子放出素子D_(N)に近い程配線抵抗rに大きな電流が流れるため急峻である。」といった事項を誤記したものと解される。

オ 上記アないしエからみて、引用例2には、
「表面伝導型電子放出素子を応用した画像形成装置において、
基板上に多数の前記素子を配列し、各素子間を薄膜もしくは厚膜の電極で電気的に配線して用いていたので、配線抵抗で生じる電圧降下のために各素子ごとに印加される電圧がばらついてしまうという現象が起き、その結果、各素子から放出される電子線の電流量にばらつきが生じ、形成される画像に濃度むらが起きるという問題、
具体的には、画像形成装置の画素が等ピッチで配列されているので、前記素子も空間的に等間隔をもって配列されており、これらを素子D_(1)?D_(N)とすると、該素子D_(1)?D_(N)は、各々ほぼ等しい抵抗値Rdを有し、並列接続され、電源の正極と素子D_(1)の正極を接続し、電源の負極と素子D_(N)の負極を接続し、これらの接続配線は幅や膜厚が製造上ばらつかない限り、並列接続した素子D_(1)?D_(N)の各素子間で等しい配線抵抗rを持っており、ここで、配線抵抗rによる電圧降下は一様に起こるわけではなく、正極側の場合は素子D_(1)に近い程配線抵抗rを流れる電流が大きいため急峻であり、逆に負極側では素子D_(N)に近い程配線抵抗rに大きな電流が流れるため急峻であり、各素子に印加される電圧は、両端の素子D_(1)及び素子D_(N)に近い程大きな電圧が印加され、中央部付近の素子では印加電圧が小さくなって、各素子から放出される電子線は、両端の素子程放出電流が大きくなり、両端に近い部分の画像は濃度が濃く、中央付近の濃度は淡くなってしまい、極めて不都合であるという問題が発生していたので、
配線幅を変えることにより前記素子間の配線抵抗値を少なくとも2種以上の異なる値にして、正極側取り出し電極が素子列の正極側電極の一端に配置され、負極側取り出し電極が素子列の負極側電極の他端に配置されているものにおいては、各素子間の配線抵抗値が取り出し電極から遠くなるにしたがって大きくなるようにした画像形成装置であって、
例えば、基板1上に、正極側電極11を含む正極側配線と、負極側電極12を含む負極側配線と、D_(1)?D_(1000)の1000個の前記素子とを形成し、正極側配線部の幅はD_(1)側からD_(1000)側へいくにしたがって次第に細くなし、負極側配線部の幅はD_(1000)側からD_(1)側へいくにしたがって次第に細くなし、電源の正極に電極11のD_(1)側を接続し、電源のアースに電極12のD_(1000)側を接続して、各輝度のばらつきを5%以内にして目視での輝度をほぼ均一にした、画像形成装置。」の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

4 対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
(1)引用発明1の「『ヒータ101』と、『パワートランジスタ102』と、『駆動用ロジック回路群103』と、『電源ライン105』と、『GNDライン110』と、『ボンディングパッド111、112』とを、『半導体プロセス技術を用いて』その上に形成した『基板』である『記録ヘッド用基体』」、「熱エネルギーを発生する為の電気熱変換素子であるヒータ101」、「インクジェット方式に従ってインクを吐出して記録媒体に記録を行う記録ヘッド」、「『インクを吐出するために必要な熱』を発生する『ヒータ101』を有する『ノズル』」、「『記録ヘッドの一辺に平行に配列され』た『ヒータ101を有する複数のノズル』」、「『記録ヘッドの一辺に平行に配列され』た『複数』の『パワートランジスタ102』」と、「基板の左右両端に配置された電源用ボンディングパッド111及びGND用ボンディングパッド112」、「GND用ボンディングパッド112に接続しており、ヒータ及びパワートランジスタを流れた電流が流れ込むGNDライン110」、「『GNDライン110』を含む『Al配線』」、「『GNDライン110』は、『パワートランジスタ102』の配列方向に沿って延び」及び「『GNDライン110』は、『パワートランジスタ102』と部分的に重なって」は、それぞれ、本願発明の「『基板』、『薄膜下部構造』」、「ヒータ抵抗器」、「『プリントヘッド構造』、『インクジェットプリントヘッド』」、「インク滴発生器」、「インク滴発生器の列のアレイ」、「回路の列のアレイ」と、「薄膜下部構造の長手方向に間隔を置いて配置した外部と電気接続するためのボンディングパッド」、「(a)『ボンディングパッド』と(b)『インク滴発生器』および『回路』との間に電気接続されたグラウンドバス」、「グラウンドバスを含む電源トレース」、「『グラウンドバス』は、『回路の列のアレイ』の長手方向の長さに沿って略延び」及び「『グラウンドバス』は、『回路の動作領域』と部分的に重なる」に相当する。

(2)引用発明1の「熱エネルギーを発生する為の電気熱変換素子であるヒータ101に所望の電流を供給する為のパワートランジスタ102であって、記録ヘッドの一辺に平行に配列された複数の前記パワートランジスタ102」と本願発明の「前記プリントヘッド構造内に形成され、前記インク滴発生器にそれぞれ接続されており、それぞれ、ドレイン領域、ソース領域、およびゲートで構成された動作領域を含むFET回路の列のアレイ」とは「前記プリントヘッド構造内に形成され、前記インク滴発生器にそれぞれ接続されている駆動回路の列のアレイ」である点で一致し、引用発明1の「パワートランジスタ102」と本願発明の「ドレイン領域、ソース領域、およびゲートで構成された動作領域を含むFET回路」とは「駆動回路」である点で一致する。

(3)上記(1)及び(2)からみて、本願発明と引用発明1とは、
「基板を含み、かつ、ヒータ抵抗器が形成された薄膜下部構造を備えたプリントヘッド構造と、
該プリントヘッド構造内に画定されるインク滴発生器の列のアレイと、
前記プリントヘッド構造内に形成され、前記インク滴発生器にそれぞれ接続されている駆動回路の列のアレイと、
(a)薄膜下部構造の長手方向に間隔を置いて配置した外部と電気接続するためのボンディングパッドと(b)前記インク滴発生器および前記駆動回路との間に電気接続されたグラウンドバスを含む電源トレースと、
を備え、
前記グラウンドバスは、前記駆動回路の前記列のアレイの長手方向の長さに沿って略延び、前記グラウンドバスは、前記駆動回路の動作領域と部分的に重なる
インクジェットプリントヘッド。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
本願発明では、前記「インクジェットプリントヘッド」が「薄膜下部構造の上に配置され、かつ、インクチャンバおよびインクチャネルが形成されたインクバリア層」を備え、前記「プリントヘッド構造」が「該インクバリア層の表面に薄膜状に取り付けられ、かつ、ノズルを有するノズル板」を備え、前記「駆動回路」が「ドレイン領域、ソース領域、およびゲートで構成された動作領域を含むFET回路」であるのに対して、
引用発明1では、前記「インクジェットプリントヘッド」、前記「プリントヘッド構造」及び前記「駆動回路」が、そのようなものかどうか不明である点。

相違点2:
本願発明では、「前記インク滴発生器のいくつかは発射遅延を補償するために列の中心線からわずかに外れている」のに対して、
引用発明1では、そのようになされていない点。

相違点3:
前記「グラウンドバス」の幅を、本願発明では「前記プリントヘッド構造の最も近い端に近づくにつれて広くして前記グラウンドバスの抵抗を小さくし」ているのに対して、引用発明1ではそのようにしていない点。

5 判断
上記相違点1ないし3について検討する。
(1)相違点1について
ア 「基板を含み、かつ、ヒータ抵抗器が形成された薄膜下部構造と、この薄膜下部構造の上に配置され、かつ、インクチャンバおよびインクチャネルが形成されたインクバリア層と、該インクバリア層の表面に薄膜状に取り付けられ、かつ、ノズルを有するノズル板を備えたプリントヘッド構造を備えたインクジェットプリントヘッド」は本願の優先日前に周知である(以下「周知技術1」という。例.特開平7-164632号公報(【0048】?【0049】、図12参照。)、特開平7-68759号公報(【0026】参照。明記されていないが、インクチャンバおよびインクチャネルが形成されたインクバリア層を形成することは明らかである。)、特開平4-296565号公報(【0025】、【0026】、図9、図10参照。))。
イ 上記アからして、引用発明1において、前記「インクジェットプリントヘッド」の「プリントヘッド構造」を、前記「薄膜下部構造」の上に「インクチャンバおよびインクチャネルが形成されたインクバリア層」を配置し、かつ、該「インクバリア層」の表面に「ノズルを有するノズル板」を薄膜状に取り付けた構造のものにすることは、当業者が周知技術1に基づいて適宜なし得た程度のことである。
ウ サーマルインクジェットヘッドの電気熱変換素子(ヒータ)を駆動するスイッチをFETで構成することは本願の優先日前に周知である(以下「周知技術2」という。例.特開平11-138775号公報(【0005】、【0006】、図9参照。)、特開2000-198198号公報(【0017】、図1参照。)、当審拒絶理由で引用した特開平11-192704号公報)。また、FET回路の動作領域は、通常、ドレイン領域、ソース領域及びゲートで構成されるものである。
エ 上記ウからして、引用発明1において、半導体プロセス技術を用いて基板の上に形成した前記「駆動回路」を周知の「FET回路」で構成し、その「動作領域」を「ドレイン領域、ソース領域、およびゲート」で構成することは、当業者が周知技術2に基づいて適宜なし得た程度の設計上の事項である。
オ 上記アないしエからみて、引用発明1において、上記相違点1に係る本願発明の構成となすことは、当業者が周知技術1及び2に基づいて適宜なし得た程度の設計上の事項である。

(2)相違点2について
ア プリントヘッドと用紙とを相対移動させながら複数のノズル列からインク滴を吐出して記録するインクジェット記録において、複数のノズル列が前記相対移動方向にずれているズレ量と、各ノズル列のノズルを駆動するタイミングのズレ量(遅れ時間)とを整合させるようにしているインクジェット記録装置は、本願の優先日前に周知である(以下「周知技術3」という。例.特開平9-300662号公報(【0028】、【0029】、図3参照。)、特開平9-309201号公報(【0004】、図7など参照。)、当審拒絶理由で引用した特開平9-150508号公報(【0020】、図2など参照。))。そして、周知技術3によれば、多数のノズルを同時駆動することにより大電流が流れることを同時に駆動するノズル数を減らすことにより抑制できることや多数のノズルをその配列方向に関してより高密度に配置できることが当業者に自明である。
イ 上記アからして、多数の「インク滴発生器」を同時駆動することによる大電流を抑制することや配列方向に関して「インク滴発生器」を高密度に配置することなどを目的として、引用発明1の「インクジェットプリントヘッド」において、前記「インク滴発生器の列」を記録媒体との相対移動方向に所定量ずれている複数列となすと同時に各「インク滴発生器の列」の「インク滴発生器」を駆動するタイミングも前記所定量のずれのズレ量と整合する遅れ時間をもつものとなすことは、当業者が周知技術3に基づいて適宜なし得た程度の設計上の事項である。
ウ 引用発明1において上記イのように「インク滴発生器の列を記録媒体との相対移動方向に所定量ずれている複数列となすと同時に各インク滴発生器の列のインク滴発生器を駆動するタイミングも前記所定量のずれのズレ量と整合する遅れ時間をもつもの」となしたものは、本願発明の「前記インク滴発生器のいくつかは発射遅延を補償するために列の中心線からわずかに外れている」との事項を備えることになる。
したがって、引用発明1において、上記相違点2に係る本願発明の構成となすことは、上記イからみて、当業者が周知技術3に基づいて適宜なし得た程度の設計上の事項である。

(3)相違点3について
ア 引用例2には、上記3(2)に記載したとおり、引用発明2(上記3(2)オ参照。)が記載されている。
引用発明2の「表面伝導型電子放出素子を応用した画像形成装置」は、「基板上に多数の前記素子を配列し、各素子間を薄膜もしくは厚膜の電極で電気的に配線して用いていたので、配線抵抗で生じる電圧降下のために各素子ごとに印加される電圧がばらついてしまうという現象が起き、その結果、各素子から放出される電子線の電流量にばらつきが生じ、形成される画像に濃度むらが起きるという問題が発生していたので、配線幅を変えることにより前記素子間の配線抵抗値を少なくとも2種以上の異なる値にして、正極側取り出し電極が素子列の正極側電極の一端に配置され、負極側取り出し電極が素子列の負極側電極の他端に配置されているものにおいては、各素子間の配線抵抗値が取り出し電極から遠くなるにしたがって大きくなるようにした」ものである。
イ 引用発明1の「インクジェット方式に従ってインクを吐出して記録媒体に記録を行う記録ヘッド」は、「電気熱変換素子であるヒータに印加する電源ラインと、電流が流れ込むGNDラインを共通の第2層配線でレイアウトすると共通配線抵抗が大きく電源電圧からの電圧降下が大きくなるため電力効率の低下を招いてしまうという欠点をなくすという課題を解決するため、複数の電気熱変換素子と、前記電気熱変換素子に外部電源を供給するための電源ラインと、前記電気熱変換素子と前記駆動回路からの電流が流れ込むGNDラインとが、多層配線層を有する同一の基板上に設けられた記録ヘッド用基体が、前記電源ラインと前記GNDラインとが互いに異なる配線層で形成され、それらが少なくとも1/2以上平面的に重なるように配することにより、共通配線の面積を広くとって配線抵抗を小さくすることを可能となして電力損失の低減を図った」ものであるところ、引用発明1の「記録ヘッド」も、引用発明2の「画像形成装置」と同様に、基板上に多数の抵抗性素子を配列し、各素子間を電源ライン及びGNDラインで電気的に配線した」ものであるから、引用発明2と同様の「配線抵抗で生じる電圧降下のために各素子ごとに印加される電圧がばらついてしまうという現象が起き、その結果、各素子から放出されるエネルギー量にばらつきが生じ、インクジェット方式に従ってインクを吐出して記録媒体に記録する画像に濃度むらが起きる」という問題が発生し得るものであることが当業者に自明である。
ウ したがって、引用発明1において、上記イの「記録媒体に記録する画像に濃度むらが起きる」という問題を、引用発明2と同様にして前記電源ライン及び前記GNDラインの配線幅を変えることにより前記電気熱変換素子間の配線抵抗値を少なくとも2種以上の異なる値にすることにより解決するために、引用発明1において、前記電源ラインの配線幅を、基板の左右両端に配置された電源用ボンディングパッド111から遠くなるにしたがって次第に細くし各電気熱変換素子間の配線抵抗値を次第に大きくなし、前記GNDラインの配線幅を、基板の左右両端に配置されたGND用ボンディングパッド112から遠くなるにしたがって次第に細くし各電気熱変換素子間の配線抵抗値を次第に大きくなすことにより、記録媒体に記録する画像の濃度むらを抑制し目視でほぼ均一になるようにすることは、当業者が引用発明2に基づいて容易に想到することができた程度のことである。
エ 引用発明1において上記ウのように「前記GNDラインの配線幅を、基板の左右両端に配置されたGND用ボンディングパッド112から遠くなるにしたがって次第に細くした」ものは、本願発明の「前記グラウンドバスの幅を、前記プリントヘッド構造の最も近い端に近づくにつれて広くして前記グラウンドバスの抵抗を小さくし」との構成を備えることになるから、引用発明1において、上記相違点3に係る本願発明の構成となすことは、上記ウからみて、当業者が引用発明2に基づいて容易になし得た程度のことである。

(4)本願発明の奏する効果は、引用発明1の奏する効果、引用発明2の奏する効果、周知技術1の奏する効果、周知技術2の奏する効果、周知技術3の奏する効果及び当業者に自明な事項から当業者が予測することができた程度のものである。

(5)したがって、本願発明は、当業者が引用例1に記載された発明、引用例2に記載された発明、周知技術1ないし3及び当業者に自明な事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
本願発明は、以上のとおり、当業者が引用例1に記載された発明、引用例2に記載された発明、周知技術1ないし3及び当業者に自明な事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-01-18 
結審通知日 2012-01-20 
審決日 2012-01-31 
出願番号 特願2002-513698(P2002-513698)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 島▲崎▼ 純一  
特許庁審判長 小牧 修
特許庁審判官 鈴木 秀幹
菅野 芳男
発明の名称 トランジスタの動作領域に重なるグラウンドバスを有するインクジェットプリントヘッド  
代理人 河村 英文  
代理人 森本 聡二  
代理人 吉田 尚美  
代理人 中村 綾子  
代理人 松島 鉄男  
代理人 有原 幸一  
代理人 奥山 尚一  
代理人 深川 英里  

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