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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16D
管理番号 1258599
審判番号 不服2011-5697  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-03-14 
確定日 2012-06-11 
事件の表示 特願2004-370016「トルク伝達装置及び、このトルク伝達装置を備えたドライブトレイン」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 7月 7日出願公開、特開2005-180702〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年12月21日(パリ条約による優先権主張2003年12月23日、ドイツ連邦共和国)の出願であって、平成22年11月4日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成23年3月14日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明は、平成19年11月30日付け及び平成22年6月10日付けの手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「クランクシャフト(4)を備えた内燃機関と、2つの摩擦クラッチ(10,11)を備えた少なくとも2つのトランスミッション入力軸(2,3)を有するツインクラッチトランスミッションとの間でトルクを伝達するための、自動車のドライブトレインにおけるトルク伝達装置(1,101,201,301,401,501,601)において、
・各1つのトランスミッション入力軸(2,3)が、摩擦クラッチ(10,11)によってクランクシャフト(4)に連結可能であって、
・各摩擦クラッチ(10,11)が、駆動側及び被駆動側の摩擦ユニット(10a,11a)を有していて、これらの摩擦ユニットが少なくとも1つのトランスミッション入力軸(2,3)の回転軸線(2a)に沿って軸方向で押圧することによって、摩擦係合を形成するために互いに負荷可能であり、
・前記摩擦ユニット(10a,11a)が、軸方向で駆動側及び被駆動側において交互に層を成す複数の摩擦パートナー(12a,12b,13a,13b)から形成されており、
・それぞれ1つの摩擦クラッチ(10,11)の摩擦ユニット(10a,11a)が、各摩擦ユニットに配属された操作部(14a,14b)のうちの1つによってストッパ(15a,15b)に向かって負荷されるようになっており、
・各摩擦クラッチ(10,11)の操作部(14a,14b)によって、操作ベアリング(16a,16b)を介在させて、定置のハウジング部(56)に相対回動不能に結合され、かつ各操作部(14a,14b)に軸方向に作用するそれぞれ1つの操作装置(50a,50b,150a)が配置されており、
・2つの摩擦クラッチ(10,11)が湿式運転形式で駆動されるようになっており、
・前記摩擦クラッチ(10,11)が同心的に、かつ半径方向で互いに内外に配置されており、
・外側の摩擦クラッチ(10)の入力部(10b)と、内側の摩擦クラッチ(11)の入力部(11b)とが、相対回動不能に、かつ軸方向で互いに結合されており、
・内側の摩擦クラッチ(11)の入力部(11b)が、もっぱら外側の摩擦クラッチ(10)の入力部(10b)においてセンタリングされており、
・内燃機関から外側の摩擦クラッチ(10)の入力部(10b)への力の流れ内で前方に接続された入力部(17)が、外側の摩擦クラッチ(10)の入力部(10b)と一体に構成されていて、トランスミッション側で軸受(20C)を介して回転可能に支承されている、
ことを特徴とする、トルク伝達装置(1,201,301,401,501,601)。」

3.引用例
(1)引用例1
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第03/102438号(以下、「引用例1」という。)には、「GANGSCHALTGETRIEBE FUR EIN KRAFTFAHRZEUG MIT HYDRAULISCH BETATIGBARER MEHRFACHKUPPLUNG(油圧により操作可能な多重クラッチを有する自動車のための段切替え変速機)」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。なお、ウムラウト及びエスツェットは表示できないので、ウムラウトは省略し、エスツェットはssと表記した。
ア.「Die Erfindung geht aus? des Oberbegriffs des Anspruchs 1.」(1ページ4行?5行、翻訳文(引用例1のパテントファミリーである特表2005-527758号公報の記載を援用する。以下同様。):「【0001】本発明は、請求項1の上位概念の特徴による多重クラッチを有する自動車のための段切替え変速機を前提とする。」)
イ.「In einem Gehause, ?des Drehbauteils 40 angeordneten umlaufenden Nut eingesetzt ist.」(3ページ7行?4ページ18行、翻訳文:「【0013】以下ではケースベル1と呼ばれるケース内には、2つのクラッチユニット2及び4から成る二重クラッチ6が配設されている。その際、ケースベル1は、独立した部品として、内燃機関の駆動系統内でエンジンと変速機との間に配設するか、又はこれに対して選択的に、一体的に変速機ケースから形成することができる。二重クラッチ6内には、2つの変速機入力軸8及び10が収容されており、これらの変速機入力軸は、公知のやり方で、変速段の第1及び第2のグループを交互に切替えるための両方のクラッチユニット2及び4と協働する。二重クラッチ6は、オイルをシールするように、独立したケースカバー12によって閉鎖されており、このケースカバーは、ケースベル1にネジ留めされかつシールされている。このため、ケースカバー12は、その半径方向外側の端部にカラー16を備え、このカラー内に、シールリングを収容するための溝14が設けられている。ケースカバー12内には、中心の開口部18が設けられており、この開口部を、二重クラッチ6のクラッチドラム22の駆動ハブ20が貫通させられている。駆動ハブ20は、外歯24を備え、この外歯は、捩り振動ダンパ26の内歯に係合する。ダブルマスフライホイールに統合された捩り振動ダンパは、但し、この捩り振動ダンパの構造は公知であり、ここでは詳細には説明しないが、その1次側27でもって、詳細には図示されてないエンジンユニットのクランク軸端部28にネジ留めされている。
【0014】中心の開口部18は、ケースカバー12から形成され、かつ内側に整向された軸受フランジ30によって制限され、この軸受フランジの外側では、クラッチドラム22がエンジン側でラジアル軸受32を介して支持されており、その際、後者は、この実施例では、コロ軸受として形成されており、これに対して選択的に、滑り軸受構成も可能である。このため、クラッチドラム22は、軸受カラー34を備えているクラッチカバー36を備え、このクラッチカバーは、ネジ38を介してクラッチドラム22に固定されている。
【0015】クラッチドラム22は、変速機側で回転成分40によって延長されており、この回転成分は、外側の変速機入力軸を同軸に、かつこの変速機入力軸に対して回転運動可能に包囲する。回転成分40もしくはクラッチドラム22は、その変速機側の端部において、球軸受42を介してケースベル1内に支持されており、その際、球軸受42は、シリンダ形に形成されたケースベル1の頸部部分44内に収容され、かつ両方の軸方向に緊張もしくは固定されている。このため、球軸受42は、変速機に面した側では、頸部部分44の段付孔内に収容されており、他方の側では、スラストワッシャ46を介して軸方向に固定される。スラストワッシャ46は、更にまた、シリンダ形の頸部部分44の内溝内に配設されたスナップリング48によって固定される。同時に、回転成分40は、球軸受42に対して軸方向に摺動しないように固定されているが、このため、回転成分40には、球軸受42の左右に、左揃え及び右揃えのストッパ48及び50が設けられている。右揃えのストッパ50は、更にまた、スナップリングによって構成され、このスナップリングは、回転成分40の外周に配設された循環する溝内に組み込まれている。」)
ウ.「Die aussere Getriebeeingangswelle 10 ist ?mit der Hohlwelle 10 verbunden ist.」(5ページ4行?6ページ5行、翻訳文:「【0018】外側の変速機入力軸10は、クラッチドラム22の回転成分40に対して、針状コロ軸受74として形成されたラジアル軸受によって支持されている。中実軸として形成された内側の変速機入力軸8は、ラジアル軸受76を介して、中空軸として形成された外側の変速機入力軸10に対して支持されている。その際、ラジアル軸受76は、中実軸8内に形成された環状溝内に組み込まれており、これにより、中空軸10の端面の端部に配設された軸シールリング78は、その外周をより小さく寸法設定可能である。軸シールリング78は、中空軸10と中実軸8との間に案内された変速機オイルをシールするために使用され、この変速機オイルは、特にラジアル軸受76を潤滑するために必要である。ラジアル軸受74によってクラッチドラム22内に変速機入力軸8,10を支持することに対して選択的又は付加的に、中実軸8のピン状の端部80は、駆動ハブ20に対して、針状コロ軸受として形成されたラジアル軸受82によって支持することができる。ケースカバー12に対して駆動ハブ20をシールするために、軸受フランジ30の内面と駆動ハブ20の外面との間に、軸シールリング84が設けられている。
【0019】クラッチドラム22内に配設された両方のクラッチユニット2及び4の構造及び作用方法は、例えば特許文献1から公知であり、従って、以下では、必要な点にかぎってのみ、その構造を詳細に説明する。両方のクラッチユニット2及び4は、ディスクとして形成された複数のクラッチディスクを備え、これらのクラッチディスクは、相前後して交互に外歯の付けられた駆動側の摩擦ディスク86と内歯の付けられた被駆動側のディスク88として配設されている。以下ではアウタディスク86と呼ばれる、クラッチユニット2の外歯の付けられた摩擦ディスクは、クラッチドラム22の溝90に係合し、これと同様に、クラッチユニット4の外歯の付けられた摩擦ディスク86は、クラッチドラム22の回転成分40と一体的に結合されたアウタディスクキャリヤ94の溝92に係合する。以下ではインナディスク88と呼ばれる内歯の付けられた被駆動側のディスクは、それぞれ1つのインナディスクキャリヤ96もしくは98に付設されている。クラッチユニット2のインナディスクキャリヤ96は、歯部100を介して回転しないように中実軸8と結合されているのに対し、クラッチユニット4のインナディスクキャリヤ98は、歯部102を介して回転しないように中空軸10と結合されている。」)
エ.「An den beiden aussenverzahnten Endlamellen 86 ? gegen den Lamellentrager 94 gedruckt.」(6ページ7行?16行、翻訳文:「【0020】両方のクラッチユニット2及び4の外歯の付けられた両方のエンドディスク86には、操作ピストン104及び106が配設されており、これらの操作ピストンは、相応の圧力油の作用を介してアウタディスク86をインナディスク88に押し付ける。クラッチユニット2のための加圧作用のため、圧力チャンバ108が形成されており、この圧力チャンバは、相応のシール要素110及び112を介してシールされている。これに類似して、操作ピストン106のために、圧力チャンバ114が設けられており、この圧力チャンバは、同様にシール要素116及び118を介してシールされている。両方のクラッチユニット2及び4を作動させてない状態で、操作ピストン104及び106は、相応のダイヤフラムスプリング120,122を介してクラッチドラム22もしくはディスクキャリヤ94に押し付けられる。」)
オ.「Uber die Ringnut 58 und ?der Lamellen 86, 88 in den Kupplungsraum ubertreten.」(6ページ18行?7ページ3行、翻訳文:「【0021】環状溝58と、回転成分40内に設けられた軸方向孔124とを介して、圧力チャンバ108がオイルを供給されるのに対し、環状溝62及び軸方向孔126を介して、圧力チャンバ114はオイルを供給される。両方の圧力チャンバ108及び114に、それぞれ1つの圧力バランスチャンバ128及び130が向かい合って位置し、これらの圧力バランスチャンバは、環状溝60を介して、また回転成分40内に配設された第3の軸方向孔(図示されてない)を介して、オイルを供給される。回転数が高い場合、遠心力に条件付けられて両方の操作ピストン104及び106の作動運動は損なわれるが、圧力バランスチャンバ128及び130によって、ピストンに加えられる遠心力に条件付けられた圧力の相応の補償が得られる。圧力バランスチャンバ128,130は、更にまたシール要素112及び131によってシールされており、その際、シール要素112は、2つのシールリップ112a及び112bを備えるが、シールリップ112aが圧力チャンバ108をシールするのに対し、シールリップ112bは、圧力バランスチャンバ128をシールする。圧力バランスチャンバ130は、壁部部分132によって制限されており、この壁部部分内に、開口部134が配設されている。開口部134を介して、圧力バランスチャンバ130内に存在するディスク86,88を冷却するためのオイルは、クラッチ空間内にオーバーフローすることができる。」)
カ.操作ピストン104,106は、圧力チャンバ108,114に供給された圧力油の作用で軸方向に移動し、アウタディスク86をインナディスク88に押し付けてクラッチユニット2,4を係合させることからみて、引用例1に記載された段切替え変速機には、各クラッチユニット2,4の各操作ピストン104,106に軸方向に作用する油圧操作装置が設けられているといえる。
キ.上記ウの「クラッチユニット4の外歯の付けられた摩擦ディスク86は、クラッチドラム22の回転成分40と一体的に結合されたアウタディスクキャリヤ94の溝92に係合する。」(段落【0019】参照)との記載から明らかなように、外側のクラッチユニット2のクラッチドラム22の回転成分40と内側のクラッチユニット4のアウタディスクキャリヤ94とが一体的に結合されていることから、外側のクラッチユニット2のクラッチドラム22と、内側のクラッチユニット4のアウタディスクキャリヤ94とが、相対回動不能に、かつ軸方向で互いに結合されていると認められる。
ク.図1には、内側のクラッチユニット4のアウタディスクキャリヤ94の中心孔に、外側のクラッチユニット2のクラッチドラム22の回転成分40が嵌合して一体的に結合されている態様が図示されているので、内側のクラッチユニット4のアウタディスクキャリヤ94が、もっぱら外側のクラッチユニット2のクラッチドラム22の回転成分40においてセンタリングされているということができる。

これら記載事項及び図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに倣って整理すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「クランク軸を備えたエンジンと、2つのクラッチユニット2,4を備えた2つの変速機入力軸8,10を有する変速機との間でトルクを伝達するための、自動車のための段切替え変速機において、
・各1つの変速機入力軸8,10が、クラッチユニット2,4によってクランク軸に連結可能であって、
・各クラッチユニット2,4が、駆動側及び被駆動側の摩擦ディスク86,88を有していて、これらの摩擦ディスク86,88が少なくとも1つの変速機入力軸8,10の回転軸線に沿って軸方向で押圧することによって、摩擦係合を形成するために互いに負荷可能であり、
・前記摩擦ディスク86,88が、軸方向で駆動側及び被駆動側において交互に層を成す複数のアウタディスク86及びインナディスク88から形成されており、
・それぞれ1つのクラッチユニット2,4の摩擦ディスク86,88が、各摩擦ディスク86,88に配属された操作ピストン104,106のうちの1つによってストッパに向かって負荷されるようになっており、
・各クラッチユニット2,4の各操作ピストン104,106に軸方向に作用する油圧操作装置が配置されており、
・2つのクラッチユニット2,4の摩擦ディスク86,88がオイルで冷却されており、
・前記クラッチユニット2,4が同心的に、かつ半径方向で互いに内外に配置されており、
・外側のクラッチユニット2のクラッチドラム22と、内側のクラッチユニット4のアウタディスクキャリヤ94とが、相対回動不能に、かつ軸方向で互いに結合されており、
・内側のクラッチユニット4のアウタディスクキャリヤ94が、もっぱら外側のクラッチユニット2のクラッチドラム22の回転成分40においてセンタリングされており、
・内燃機関から外側のクラッチユニット2のクラッチドラム22への力の流れ内で前方に接続されたクラッチカバー36が、外側のクラッチユニット2のクラッチドラム22とねじ38を介して固定されていて、変速機側で玉軸受42を介して回転可能に支承されている、
自動車のための段切替え変速機。」

(2)引用例2
同じく、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2002-174262号公報(以下、「引用例2」という。)には、「クラッチ装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
ケ.「【0020】
【発明の実施の形態】第1図では、内燃機関として構成された駆動モータ2と、クラッチ装置3と伝動装置4とを有するドライブトレインを備えた自動車1が概略的に図示されている。駆動軸5及びディファレンシャル6を介して自動車1のホイール7が駆動される。当然、単数又は複数の別の駆動される軸を有する自動車も可能である。」
コ.「【0029】第2図で図示のクラッチ装置103は、ダブルクラッチ150を備えたクラッチユニットを有していて、前記ダブルクラッチは、例えば特に内燃機関のクランク軸のような駆動軸を特に伝動装置入力軸152,153のような駆動可能な2本の軸に連結しかつ該軸から分離する。ダブルクラッチ150は、ねじり振動ダンパ154を介してモータに連結されている。これによって、クランク軸151からねじり振動ダンパに導入されるねじり振動は少なくともほぼ濾過され、これにより、ねじり振動は少なくとも完全にダブルクラッチ150もしくは伝動装置軸152,153には伝達されない。」
サ.「【0030】いわゆるダブルマスフライホイールの主要構成部材であるかもしくはダブルマスフライホイールを成すダンパの原則的な構造及び機能に関しては、ドイツ国特許出願公開第19728422号、第19522718号、第4122333号、第4117582号及び第4117579号明細書を参照されたい。ダンパ154は、半径方向内側の領域を介して(ねじ156により)クランク軸151に不動に結合されている入力部材155を有している。入力部材155は薄板成形部材によって形成されていて、該薄板成形部材は半径方向外側で、同様に薄板成形部材によって形成された別の構成部材157を支持している。両構成部材155,157は環状のチャンバ158を制限していて、該チャンバ内には、少なくとも1つのダンパの(コイルばね159の形状の)少なくとも1つのエネルギ貯蔵部材が受容されている。チャンバ158は、有利には少なくとも半径方向外側に向けてシールされていてかつ少なくとも少量の粘性の媒体、有利には潤滑剤によって形成された媒体を有している。クランク軸151からクラッチ装置103内に導入されるトルクは、入力部材155,157を介してエネルギ貯蔵部材159に伝達されかつエネルギ貯蔵部材から同様にエネルギ貯蔵部材に作用する出力部材160を介してダブルクラッチ150に継送される。この場合、出力部材160はフランジ状の構成部材によって形成されていて、該構成部材は、チャンバ158内に半径方向内側から係合しかつアーム161によってエネルギ貯蔵部材159の端部領域と協働する。フランジ状の構成部材160は、軸方向の差込結合部材163を介してリング状の対向プレッシャープレート162に結合されている。このために出力部材160は成形部164を有していて、該成形部は、対向プレッシャープレート162に設けられた歯列によって形成されている対向成形部165と係合する歯機構を有している。歯機構165は図示の実施例では、対向プレッシャープレート162の半径方向内側の縁部領域に成形されている。しかしながら、対向プレッシャープレートは、対応する対向成形部165を有する別個の構成部材に回動不能に結合できる。成形部164は、図示の実施例の場合にはリング状もしくはディスク状の構成部材166の半径方向外側の縁部領域に成形されていて、該構成部材は、出力部材160に回動不能に結合されている。このために図示の実施例ではリベット結合部材167が設けられていて、該リベット結合部材は、フランジ状の出力部材160の半径方向内側の領域を中間部材166に不動に結合する。しかしながら、成形部164は直接出力部材160に成形することによって形成できる。」
シ.「【0035】クラッチユニットもしくはダブルクラッチは150は、実施例において振動ダンパを用いずに構成されているそれぞれ1つのクラッチディスク173,174を備えた2つの摩擦クラッチ171,172を有している。クラッチディスク173は内側の軸152に受容されかつクラッチディスク174は同軸的に延びる中空の外側の軸153に受容されている。半径方向外側でクラッチディスク173,174は、図示の実施例において環状の摩擦ライニング175,176によって形成されている摩擦領域を有している。摩擦クラッチ171用の対向プレッシャープレート162を成す環状の構成部材162は、摩擦クラッチ172用の対向プレッシャープレートを成す別の環状の構成部材177を支持している。対向プレッシャープレート162,177は半径方向外側の領域を介して、図示の実施例においてねじ178によって形成されている固定手段により不動に互いに結合されている。両摩擦クラッチ171,172は、軸方向にシフト可能で対向プレッシャープレート162,177に対して回動不能な圧着プレート179,180を有している。このために、圧着プレート179,180は板ばね部材181,182を介して直接的に又は間接的に回動不能に対向プレッシャープレート162,177に回動不能に結合されている。
【0036】クラッチディスク173と協働する圧着プレート179は、対向プレッシャープレート177の、少なくとも部分的に周方向に延びる軸方向の凹所183内にもしくは軸方向で狭められた領域内に受容されていて、これによりクラッチ装置103の軸方向でコンパクトな構造形式が保証される。第2図から明らかなように、圧着プレート179は軸方向で両対向プレッシャープレート162,177の間に受容される。
【0037】対向プレッシャープレート162,177は、薄板から成るクラッチケーシング184に不動に結合されている。クラッチケーシング184は同時に、両摩擦クラッチ171,172を選択的に操作する圧着機構185をセンタリングするために用いられる。圧着機構185のセンタリングのために、クラッチケーシング184は伝動装置側で環状の付加部186の形式の受容部を有していて、該付加部は、圧着機構185をクラッチ装置103に対してセンタリングもしくは支持する軸受け187を有している。」
ス.「【0038】摩擦クラッチ171の操作もしくは圧着プレート179の軸方向のシフトは、ダイヤフラム状もしくは皿ばね状のレバー部材188として構成されている操作手段188を介して行われる。レバー部材188は、半径方向外向きの舌片190が出発する環状の領域189を有していて、該舌片を介してレバー部材188は、クラッチケーシング184に軸方向で支持される環状の旋回支承体191に支持される。レバー部材188は、半径方向で更に内側に位置する領域によって、実施例においてコップ状に構成された中間構成部材192を負荷し、該中間構成部材192は、軸方向に延びるアーム193を有している。アーム193は、レバー部材188の旋回によって圧着プレート179を軸方向でシフトし、これにより摩擦クラッチ171が開閉されるように、圧着プレート179に作用結合されている。
【0039】摩擦クラッチ172は、図示の実施例において同様にレバー部材194によって形成されている操作部材194を介して操作可能である。レバー部材194は、構成及び機能に関しレバー部材188に比較可能である。レバー部材194は、半径方向外側で同様にリング状の旋回支承部195に支持されていてかつ半径方向で更に内側に位置する領域で圧力ディスク180を負荷しているので、圧力ディスク180はレバー部材194の旋回によって軸方向にシフト可能である。旋回支承部は、軸方向で第2のクラッチケーシング196に軸方向で支持されていて、該クラッチケーシングは、同様に薄板成形部材として構成されている。クラッチケーシング196は、対向プレッシャープレート177に不動に結合されていてかつクラッチケーシング184の内部に受容されている。
【0040】図示の実施例では両摩擦クラッチ171,172は、該摩擦クラッチが操作部材188,194を介して強制的に閉じられるように、構成されている。従って、摩擦クラッチ171,172を閉鎖するために必要な軸方向力は操作機構185を介してもたらされる。前記操作機構185は2つの操作ユニット197,198を有していて、該操作ユニットは、図示の実施例の場合には同軸的に配置されていてかつ少なくとも部分的に軸方向で互いに内外に係合できる。操作ユニット197,198は、軸方向にシフト可能なレリーズベアリング199,200を有している。レリーズベアリング199,200は、回動可能なリングを有していて、該リングは、伝達すべきトルクのために必要な圧着力を圧力ディスク179,180に導入するために、レバー部材188,194のそれぞれ対応配置された舌片先端に軸方向で作用する。」

これら記載事項及び図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに倣って整理すると、引用例2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「クランク軸151を備えた内燃機関と、2つの摩擦クラッチ171,172を備えた少なくとも2つの伝動装置入力軸152,153を有する伝動装置4との間でトルクを伝達するための、自動車のドライブトレインにおけるクラッチ装置において、
・各1つの伝動装置入力軸152,153が、摩擦クラッチ171,172によってクランク軸151に連結可能であって、
・各摩擦クラッチ171,172が、駆動側及び被駆動側の摩擦ユニットを有していて、これらの摩擦ユニットが少なくとも1つの伝動装置入力軸152,153の回転軸線に沿って軸方向で押圧することによって、摩擦係合を形成するために互いに負荷可能であり、
・それぞれ1つの摩擦クラッチ171,172の摩擦ユニットが、各摩擦ユニットに配属された操作部材188,194のうちの1つによってストッパに向かって負荷されるようになっており、
・各摩擦クラッチ171,172の操作部材188,194によって、レリーズベアリング199,200を介在させて、定置の伝動装置ケーシング206に相対回動不能に結合され、かつ各操作部材188,194に軸方向に作用するそれぞれ1つの操作機構185が配置されており、
・前記摩擦クラッチ171,172が同心的に、かつ径が大小異なるものが配置されており、
・外側の摩擦クラッチ171の入力部と、内側の摩擦クラッチ172の入力部とが、相対回動不能に、かつ軸方向で互いに結合されており、
・内側の摩擦クラッチ172の入力部が、もっぱら外側の摩擦クラッチ171の入力部においてセンタリングされており、
・内燃機関から外側の摩擦クラッチ171の入力部への力の流れ内で前方に接続された入力部が、外側の摩擦クラッチ171の入力部とねじ178によって結合されていて、伝動装置4側で軸受け187を介して回転可能に支承されている、
クラッチ装置。」

4.対比
そこで、本願発明と引用発明1とを対比すると、その意味、機能又は作用などからみて、後者の「クランク軸」は前者の「クランクシャフト(4)」に相当し、以下同様に、「エンジン」は「内燃機関」に、「クラッチユニット2,4」は「摩擦クラッチ(10,11)」に、「変速機入力軸8,10」は「トランスミッション入力軸(2,3)」に、「変速機」は「ツインクラッチトランスミッション」に、「自動車のための段切替え変速機」は「ドライブトレインにおけるトルク伝達装置(1,101,201,301,401,501,601)」に、「摩擦ディスク86,88」は「摩擦ユニット(10a,11a)」に、「アウタディスク86及びインナディスク88」は「摩擦パートナー(12a,12b,13a,13b)」に、「操作ピストン104,106」は「操作部(14a,14b)」に、「油圧操作装置」は「操作装置(50a,50b,150a)」に、「外側のクラッチユニット2」は「摩擦クラッチ(10)」に、「内側のクラッチユニット4」は「摩擦クラッチ(11)」に、「クラッチカバー36」は「入力部(17)」に、「玉軸受42」は「軸受(20C)」に、それぞれ相当する。
後者の「2つのクラッチユニット2,4の摩擦ディスク86,88がオイルで冷却されており」は、上記オの「開口部134を介して、圧力バランスチャンバ130内に存在するディスク86,88を冷却するためのオイルは、クラッチ空間内にオーバーフローすることができる。」との記載からみて、クラッチユニット2,4が「湿式運転形式で駆動される」ようになっているということができるから、前者の「2つの摩擦クラッチ(10,11)が湿式運転形式で駆動されるようになっており」に相当する。
してみると、両者は、本願発明の用語を用いて表現すると、次の点で一致する。
[一致点]
「クランクシャフトを備えた内燃機関と、2つの摩擦クラッチを備えた少なくとも2つのトランスミッション入力軸を有するツインクラッチトランスミッションとの間でトルクを伝達するための、自動車のドライブトレインにおけるトルク伝達装置において、
・各1つのトランスミッション入力軸が、摩擦クラッチによってクランクシャフトに連結可能であって、
・各摩擦クラッチが、駆動側及び被駆動側の摩擦ユニットを有していて、これらの摩擦ユニットが少なくとも1つのトランスミッション入力軸の回転軸線に沿って軸方向で押圧することによって、摩擦係合を形成するために互いに負荷可能であり、
・前記摩擦ユニットが、軸方向で駆動側及び被駆動側において交互に層を成す複数の摩擦パートナーから形成されており、
・それぞれ1つの摩擦クラッチの摩擦ユニットが、各摩擦ユニットに配属された操作部のうちの1つによってストッパに向かって負荷されるようになっており、
・各摩擦クラッチの各操作部に軸方向に作用する操作装置が配置されており、
・2つの摩擦クラッチが湿式運転形式で駆動されるようになっており、
・前記摩擦クラッチが同心的に、かつ半径方向で互いに内外に配置されており、
・外側の摩擦クラッチと、内側の摩擦クラッチとが、相対回動不能に、かつ軸方向で互いに結合されており、
・内燃機関から外側の摩擦クラッチの入力部への力の流れ内で前方に接続された入力部が、トランスミッション側で軸受を介して回転可能に支承されている、
トルク伝達装置。」

そして、両者は、次の点で相違する(かっこ内は、本願発明の対応する用語を示す。)。
[相違点1]
本願発明は、「各摩擦クラッチ(10,11)の操作部(14a,14b)によって、操作ベアリング(16a,16b)を介在させて、定置のハウジング部(56)に相対回動不能に結合され、かつ各操作部(14a,14b)に軸方向に作用するそれぞれ1つの操作装置(50a,50b,150a)が配置されて」いるのに対して、引用発明1は、各クラッチユニット2,4(摩擦クラッチ(10,11))の各操作ピストン104,106(操作部(14a,14b))に軸方向に作用する油圧操作装置が配置されている点。
[相違点2]
本願発明は、「外側の摩擦クラッチ(10)の入力部(10b)と、内側の摩擦クラッチ(11)の入力部(11b)とが、相対回動不能に、かつ軸方向で互いに結合されており、内側の摩擦クラッチ(11)の入力部(11b)が、もっぱら外側の摩擦クラッチ(10)の入力部(10b)においてセンタリングされて」いるのに対して、引用発明1は、外側のクラッチユニット2(摩擦クラッチ(10))のクラッチドラム22と、内側のクラッチユニット4(摩擦クラッチ(11))のアウタディスクキャリヤ94とが、相対回動不能に、かつ軸方向で互いに結合されており、内側のクラッチユニット4(摩擦クラッチ(11))のアウタディスクキャリヤ94が、もっぱら外側のクラッチユニット2(摩擦クラッチ(10))のクラッチドラム22の回転成分40においてセンタリングされている点。
[相違点3]
本願発明は、内燃機関から外側の摩擦クラッチ(10)の入力部(10b)への力の流れ内で前方に接続された「入力部(17)が、外側の摩擦クラッチ(10)の入力部(10b)と一体に構成されて」いるのに対して、引用発明1は、クラッチカバー36(入力部(17))が、外側のクラッチユニット2(摩擦クラッチ(10))のクラッチドラム22とねじ38を介して固定されている点。

5.判断
上記各相違点について検討する。
(1)相違点1について
引用発明2の「クランク軸151」は本願発明の「クランクシャフト(4)」に相当し、以下同様に、「摩擦クラッチ171,172」は「摩擦クラッチ(10,11)」に、「伝動装置入力軸152,153」は「トランスミッション入力軸(2,3)」に、「伝動装置4」は「ツインクラッチトランスミッション」に、「クラッチ装置」は「トルク伝達装置(1,101,201,301,401,501,601)」に、「操作部材188,194」は「操作部(14a,14b」に、「レリーズベアリング199,200」は「操作ベアリング(16a,16b)」に、「伝動装置ケーシング206」は「ハウジング部(56)」に、「操作機構185」は「操作装置(50a,50b,150a)」に、「外側の摩擦クラッチ171」は「摩擦クラッチ(10)」に、「内側の摩擦クラッチ172」は「摩擦クラッチ(11)」に、「伝動装置4」は「トランスミッション」に、「軸受け187」は「軸受(20C)」に、それぞれ相当するから、引用発明2は、本願発明の用語を用いて表現すると、
「クランクシャフトを備えた内燃機関と、2つの摩擦クラッチを備えた少なくとも2つのトランスミッション入力軸を有するツインクラッチトランスミッションとの間でトルクを伝達するための、自動車のドライブトレインにおけるトルク伝達装置において、
・各1つのトランスミッション入力軸が、摩擦クラッチによってクランクシャフトに連結可能であって、
・各摩擦クラッチが、駆動側及び被駆動側の摩擦ユニットを有していて、これらの摩擦ユニットが少なくとも1つのトランスミッション入力軸の回転軸線に沿って軸方向で押圧することによって、摩擦係合を形成するために互いに負荷可能であり、
・それぞれ1つの摩擦クラッチの摩擦ユニットが、各摩擦ユニットに配属された操作部のうちの1つによってストッパに向かって負荷されるようになっており、
・各摩擦クラッチの操作部によって、操作ベアリングを介在させて、定置のハウジング部に相対回動不能に結合され、かつ各操作部に軸方向に作用するそれぞれ1つの操作装置が配置されており、
・前記摩擦クラッチが同心的に配置されており、
・外側の摩擦クラッチの入力部と、内側の摩擦クラッチの入力部とが、相対回動不能に、かつ軸方向で互いに結合されており、
・内側の摩擦クラッチの入力部が、もっぱら外側の摩擦クラッチの入力部においてセンタリングされており、
・内燃機関から外側の摩擦クラッチの入力部への力の流れ内で前方に接続された入力部が、トランスミッション側で軸受を介して回転可能に支承されている、
トルク伝達装置。」であるといえる。
つまり、操作装置についてみると、引用発明2の操作装置は、「各摩擦クラッチの操作部によって、操作ベアリングを介在させて、定置のハウジング部に相対回動不能に結合され、かつ各操作部に軸方向に作用するそれぞれ1つの操作装置が配置されて」いるものであり、相違点1に係る本願発明の操作装置に相当する構成を備えたものである。
そして、引用発明1と引用発明2は、どちらも「クランクシャフトを備えた内燃機関と、2つの摩擦クラッチを備えた少なくとも2つのトランスミッション入力軸を有するツインクラッチトランスミッションとの間でトルクを伝達するための、自動車のドライブトレインにおけるトルク伝達装置において、
・各1つのトランスミッション入力軸が、摩擦クラッチによってクランクシャフトに連結可能であって、
・各摩擦クラッチが、駆動側及び被駆動側の摩擦ユニットを有していて、これらの摩擦ユニットが少なくとも1つのトランスミッション入力軸の回転軸線に沿って軸方向で押圧することによって、摩擦係合を形成するために互いに負荷可能であり、
・それぞれ1つの摩擦クラッチの摩擦ユニットが、各摩擦ユニットに配属された操作部のうちの1つによってストッパに向かって負荷されるようになっており、
・各摩擦クラッチの各操作部に軸方向に作用する操作装置が配置されており、
・前記摩擦クラッチが同心的に配置されている、
トルク伝達装置。」に関するものであるから、属する技術分野及び構成が共通するものである。
そうすると、引用発明1及び引用発明2に接した当業者であれば、引用発明1において、油圧操作装置に代えて引用発明2の操作装置を採用し、相違点1に係る本願発明のように構成することは、格別の創意を要することなく容易に想到できたことである。

(2)相違点2について
引用発明2は、「外側の摩擦クラッチ171の入力部と、内側の摩擦クラッチ172の入力部とが、相対回動不能に、かつ軸方向で互いに結合されており、内側の摩擦クラッチ172の入力部が、もっぱら外側の摩擦クラッチ171の入力部においてセンタリングされて」いるものである。即ち、引用発明2は、本願発明の「外側の摩擦クラッチの入力部と、内側の摩擦クラッチの入力部とが、相対回動不能に、かつ軸方向で互いに結合されており、内側の摩擦クラッチの入力部が、もっぱら外側の摩擦クラッチの入力部においてセンタリングされて」いるとの構成に相当する構成を備えているものである。また、そのような構成は、例えば、特開昭52-122751号公報(第2図におけるクラッチドラム21とクラッチハブ32の関係を参照)などにも示されるように、従来周知の構成にすぎない。
そうすると、上記「(1)相違点1について」で述べた引用発明1と引用発明2との共通性を考慮すると、引用発明1において、内側のクラッチユニット4のアウタディスクキャリヤ94と外側のクラッチユニット2のクラッチドラム22とのセンタリングに関して引用発明2ないし上記周知の構成を適用し、相違点2に係る本願発明のように構成することは、当業者であれば容易に想到できたことである。

(3)相違点3について
引用発明1は、クラッチカバー36が、外側のクラッチユニット2のクラッチドラム22とねじ38を介して固定されて一体化されているので、引用発明1のクラッチカバー36は、外側のクラッチユニット2のクラッチドラム22の入力部と一体に構成されているということができる。
してみると、相違点3は実質的に相違点とはいえない。
ところで、本願発明の「入力部(17)が、外側の摩擦クラッチ(10)の入力部(10b)と一体に構成されて」との発明特定事項について、本願明細書における発明の詳細な説明の記載を見ても、「一体に構成され」の意味がどこにも記載されておらず、上記発明特定事項の意味する具体的構造が不明である。審判請求書において、審判請求人が「2つのクラッチにおける共通の入力部(17)が、外側の摩擦クラッチ(10)の入力部(10b)と一体構成されているので、例えば深絞り加工などの非切削加工が可能になり製造コストを低減することができます。また、このような一体構成により、実際の組立完成品における積み上げ寸法誤差を少なくすることができます。」(「3.本願発明が特許されるべき理由」の(1)参照)と主張しているところからみると、本願発明における「一体に構成され」とは、入力部(17)と外側の摩擦クラッチ(10)の入力部(10b)とが「一体成形され」ているという意味であると推察される。
しかしながら、入力部と外側の摩擦クラッチの入力部とを一体成形することは、クラッチ分野においては従来周知の技術にすぎない(例えば、特開昭52-122751号公報の第2図及び2ページ右下欄4行?10行にプレス成型によって形成したクラッチドラム21が記載されている。)。
したがって、本願発明の「一体に構成され」との発明特定事項が「一体成形され」た構造を意味するとしても、相違点3に係る本願発明の構成は、引用発明1に上記周知技術を適用して当業者が容易に想到できたものである。

そして、本願発明の効果は、引用例1及び2に記載された発明並びに上記周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものであって格別なものとはいえない。

したがって、本願発明は、引用例1及び2に記載された発明並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用例1及び2に記載された発明並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
そうすると、本願発明が特許を受けることができないものである以上、請求項2に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-01-10 
結審通知日 2012-01-13 
審決日 2012-01-26 
出願番号 特願2004-370016(P2004-370016)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増岡 亘  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 冨岡 和人
倉田 和博
発明の名称 トルク伝達装置及び、このトルク伝達装置を備えたドライブトレイン  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 星 公弘  
代理人 二宮 浩康  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 久野 琢也  

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