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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1258606
審判番号 不服2008-25599  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-06 
確定日 2012-06-13 
事件の表示 特願2003-569169「ヘアケア用組成物におけるセラミド及び類似化合物の使用」拒絶査定不服審判事件〔平成15年8月28日国際公開、WO03/70209、平成17年8月18日国内公表、特表2005-524644〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年2月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 平成14年2月22日 英国(GB))を国際出願日とする出願であって、平成20年6月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年10月6日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成20年11月5日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成20年11月5日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年11月5日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】非酸化性の染毛剤組成物の染色作用を改善する方法であって、フィタントリオールの非存在下においてセラミド、グリコセラミド、擬似セラミド又はネオセラミドを毛髪に用いることを含む、方法。」(下線は、補正箇所を示す。)
と補正された。
上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「機能的に類似する関連物質」を、本願明細書段落【0022】の記載に基づき具体化して「グリコセラミド、擬似セラミド又はネオセラミド」と限定したものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先日前に頒布された、以下の刊行物1ないし5(原査定の引用文献1ないし5)には、以下の事項がそれぞれ記載されている。下線は当審で付加した。

(1)刊行物1:特開平8-53328号公報
(1a)「【請求項1】美容的に許容される媒質中に、少なくとも1種のセラミド及び/若しくはグリコセラミドと、少なくとも1種のカチオン性高分子を含有する組成物であって、前記カチオン性高分子は、第1アミン基、第2アミン基、若しくは第3アミン基若しくは第4アンモニウム基を主鎖中に含有するとともに、その1(wt%)水溶液の粘度が15mPa.s.未満であり、前記組成物はさらにアニオン性及び/若しくは双極イオン性界面活性剤を4(wt%)未満含有することを特徴とする頭髪の処理及び保護用組成物。
・・・
【請求項15】頭髪の染色剤としての請求項1から12のいずれかに記載の組成物の使用。」

(1b)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、頭髪の処理及び保護を目的とし、かつ美容的に許容される媒質中に少なくとも1種のセラミド及び/若しくはグリコセラミド、及び主鎖中に窒素原子を有する少なくとも1種のカチオン性高分子を有する組成物に関するものである。」

(1c)「【0068】かかる組成物は、またアルギン酸ナトリウム、アラビアゴム、 例えばメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、若しくはヒドロキシプロピルメチルセルロースといった、セルロース誘導体、グアーゴム、若しくはその誘導体、キサンテンゴム、スクレログルカン、架橋ポリアクリル酸、ポリウレタン若しくはマレイン酸若しくは、マレイン酸無水物を用いたコポリマーから選択される増粘剤、例えば、ナトロソルプラス(NATROSOL PLUS)の商品名で販売されている天然の脂肪族鎖を有する補助増粘剤、若しくは例えばペムレン(PEMTEN)の商品名で販売されている製品といった合成された増粘剤を含有することもできる。
【0069】前述の増粘剤は、またポリエチレングリコールとポリエチレングリコールのステアリン酸エステル、若しくはステアリン酸のジエステルを混合することによって、若しくは燐酸エステルとアミドを混合することによって得ることもできる。
【0070】美容的に許容される媒質としては水を含有するほか、単独若しくは混合物として使用される美容的に許容される溶媒であるモノアルコール、ポリアルコール、グリコールエーテル、若しくは脂肪酸エステル、を含有することが好ましい。
【0071】上述の低級アルコールのうち、より具体的には例えばエタノール、イソプロパノールといった低級アルコール、例えばエチレングリコール、及びジエチレングリコール、グリコールエーテル、グリコールアルキルエーテル、若しくはジエチレングリコールアルキルエーテルが好ましい。
【0072】組成物のpHとしては2から9具体的には3から8の範囲であることが好ましい。その調節は、美容的に許容される塩基化、若しくは酸性化剤を使用して調節できる。
【0073】本発明の組成物はまた、防腐剤、金属イオン封鎖剤、エモリエント(emollient)、フォーム改質剤、着色剤、粘度調節剤、真珠箔剤、水和剤、防ふけ剤、防脂剤、日焼け止め剤、タンパク質、ビタミン、α-オキシ酸、塩類、解毒剤、芳香剤、パーマのリデュース剤若しくはフィックス剤若しくはそれらの混合物を含有していてもよい。
【0074】カチオン性高分子のほかのコンディショニング剤も使用することができる。かかるものとしては、直鎖若しくは、分岐鎖の、(飽和若しくは不飽和の)環状若しくは脂肪族炭化水素、合成若しくは非合成の水素添加された若しくは脱水素された天然オイル、脂肪酸、溶解性若しくは非溶解性の揮発性若しくは非揮発性の有機的に改質されたシリコーン、フッ素化若しくはパーフロロ化されたオイル、ポリブテン及びポリイソブテン、液体状、ペースト状、若しくは固体の脂肪酸エステル、多価アルコール、グリセリド、天然、若しくは合成ワックス、シリコーンゴム及び樹脂、若しくは上述した種々の薬剤の混合物を挙げることができる。」

(1d)「【0075】本発明の組成物は、シャンプーの前後、パーマ工程の前後、若しくは、リデュース、(reduce)及びフィックス(fixing)工程、脱色若しくは染色若しくはストレイトニング(straightning)の前後で使用できる。また上記の物は頭髪のケラチン繊維を染色することもでき、その場合には、当業界で周知のオキシデーション(oxidation)染料、酸性染料、及び/若しくは直接染料を使用することができる。」

(2)刊行物2:特開平10-291919号公報
(2a)「【0006】例えば、酸化型染毛剤では、一般に酸化染料の均一な浸透を助長するためにアルカリ剤を含有させているので、pHが10以上と高く、そのため、刺激性があり、毛髪が損傷しやすく、毛髪中のタンパク(蛋白)成分が流出しやすいという問題があった。
【0007】そのため、アルカリ剤を含まない酸性染毛料を使用することも行われているが、この酸性染毛料も、染毛時に毛髪中のメラニンを破壊してブリーチ(漂白)するための酸化を行うと、上記酸化型染毛剤ほどではないにしても、毛髪が損傷しやすく、毛髪の光沢が失われ、櫛通り性が悪くなるという問題があり、また、一時染毛剤の多くは、染料を毛小皮に吸着させて染色するので、染色効果を上げる必要から、染料濃度を高くしたり、展着剤や高分子樹脂などを多量に添加しているため、染毛後の毛髪が硬くなり、櫛通り性が悪くなって、毛髪が損傷を受けやすいという問題があった。」

(2b)「【0011】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、ケラチン加水分解物またはその誘導体の1種以上を1?40重量%含有する染毛用前処理剤で毛髪を前処理した後、染毛処理を行うと、酸化型染毛剤においては、染色の立ち上がりが速く、かつ均一に染色でき、染色毛髪の耐シャンプー性が向上し、さらに、染毛時の毛髪の損傷が少なくなり、染毛後の毛髪に艶や潤いを付与することができ、また、酸性染毛料においては、少量の染料でも均一に染色でき、染毛時の毛髪の損傷が少なく、染毛後の毛髪にゴワツキ感がなく、染毛後の毛髪に艶や潤いを付与することができることを見出し、本発明を完成するにいたった。」

(3)刊行物3:特開平11-139940号公報
(3a)「【0006】たとえば、酸化型染毛剤では、一般に酸化染料の均一な浸透を助長するためにアルカリ剤を含有させているので、pHが10以上と高く、そのため、刺激性があり、毛髪が損傷しやすく、毛髪中のタンパク(蛋白)成分が流出しやすいという問題があった。
【0007】そのため、アルカリ剤を含まない酸性染毛料を使用することも行われているが、この酸性染毛料も、染毛時に毛髪中のメラニンを破壊してブリーチ(漂白)するための酸化を行うと、上記酸化型染毛剤ほどではないにしても、毛髪が損傷しやすく、毛髪の光沢が失われ、櫛通り性が悪くなるという問題があり、また、一時染毛剤の多くは、染料を毛小皮に吸着させて染色するので、染色効果を上げる必要から、染料濃度を高くしたり、展着剤や高分子樹脂などを多量に添加しているため、染毛後の毛髪が硬くなり、櫛通り性が悪くなって、毛髪が損傷を受けやすいという問題があった。」

(3b)「【0011】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、ケラチン加水分解物またはその誘導体を0.1重量%以上と、ケラチン以外の動植物由来または微生物由来の蛋白質加水分解物またはその誘導体の1種以上を、ケラチン加水分解物またはその誘導体との合計量で0.2?40重量%含有する染毛用前処理剤で毛髪を前処理した後、染毛処理を行うと、酸化型染毛剤においては、染色の立ち上がりが速く、かつ均一に染色でき、染色毛髪の耐シャンプー性が向上し、さらに、染毛時の毛髪の損傷が少なくなり、染毛後の毛髪に艶や潤いを付与することができ、また、酸性染毛料においては、少量の染料でも均一に染色でき、染毛時の毛髪の損傷が少なく、染毛後の毛髪にゴワツキ感がなく、染毛後の毛髪に艶や潤いを付与することができることを見出し、本発明を完成するにいたった。」

(4)刊行物4:特開平8-245337号公報
(4a)「【0002】
【従来の技術】敏感な髪、すなわち、大気中の成分、または種々の化学的または機械的な処理、例えば、染色、脱色および/またはパーマネントウェーブをかけることにより種々の程度に脆化した、および/または損傷を受けた髪は、しばしば、もつれをほどいたり、スタイルを整えたりすることが困難で、柔軟性が欠乏していた。
【0003】実際、これらの攻撃的要因(大気中の成分、機械的または化学的な処理)の作用下にあっては、ある種の髪の成分、特に、セラミド類およびタンパク質が失われる。
【0004】セラミド類またはそれらの類似物は、種々の成分および上述したような処理による傷みから、または傷んだ後に、皮膚および/または髪の繊維を、保護および/または修復することが知られている。特に、それらは、タンパク質類の減失を制限する防壁効果を有し、また、クチクラの密着性を補強する。」

(4b)「【0028】髪用としては、特に、シャンプー類、洗髪、染色、脱色、パーマネントウエーブ処理または髪のストレート化の前または後に適用されて、すすがれるまたは放置される組成物類を挙げることができる。」

(5)刊行物5:特表平10-512292号公報
(5a)「本発明は、少なくとも一の酸化染料を含有する染料組成物及び少なくとも一の酸化剤を含有する酸化組成物を使用し、前記染料組成物及び/または前記酸化組成物が少なくとも一のセラミドタイプ化合物を含む、ケラチン繊維、特に髪などのヒトのケラチン繊維の染色方法に関する。」(第12頁3?6行)

(5b)「ケラチン繊維の着色には主要なタイプが二つあり、数回の洗浄の後に色褪せる一時的な着色を繊維に与える有色分子である直接染料及び/または顔料を使用する直接着色、および、酸化染料前駆体と、繊維に褪せない着色を与える酸化剤とを使用するいわゆる“酸化染色”着色である。」(第12頁9?12行)

(5c)「上記のように、酸化染色によれば、長時間持続する髪の染色が可能であるが、通常はケラチン繊維の明らかな変質を生じるような条件下で行われる。これは、酸化剤及び一般的に非常にアルカリ性である媒体の存在によって、ケラチン繊維の変質を生じ、しばしばこれらが荒れてもろくなるという理由による。」(第12頁24?27行)

(5d)「出願人は、ここに、全く驚くべきかつ予期せぬことに、ケラチン繊維の酸化染色のための組成物中でのセラミドタイプ化合物の使用により、これらの繊維に、そのさらされる様々な外的攻撃要因に対して経時的により優れた耐性を与えることが可能であることを見いだした。」(第13頁4?7行)

(5e)「本発明による染色方法により得られる着色は、光及び悪天候等の環境要因、及び発汗及び髪がさらされる様々な処理(洗浄、パーマネント・ウェーブ)のいずれに対しても優れた耐性特性を有する。さらにまた、こうして染色された繊維は、セラミドタイプ化合物を使用していない染色方法を使用した場合よりも、酸化染色方法によってもそれほど損なわれず、より柔らかさを保ち、荒くなることが少ない。」(第14頁5?10行)

(5f)「本発明の染色方法に使用される染料組成物はまた、上述の染料に加えて、特に色合いを修正するためもしくは輝きを添えて色合いを豊かにするために直接染料を含有可能である。」(第23頁1?3行)

3 対比・判断
刊行物1の記載事項(特に、上記(1a)(1b)(1d))から、刊行物1には、
「美容的に許容される媒質中に、少なくとも1種のセラミド及び/若しくはグリコセラミドと、少なくとも1種のカチオン性高分子、さらにアニオン性及び/若しくは双極イオン性界面活性剤を4(wt%)未満含有する頭髪の処理及び保護用組成物に、オキシデーション(oxidation)染料、酸性染料、及び/若しくは直接染料を含有し、頭髪の染色剤として使用する方法」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

そこで本願補正発明と刊行物1発明とを比較する。
(ア)刊行物1発明の「美容的に許容される媒質中に、少なくとも1種のセラミド及び/若しくはグリコセラミドと、少なくとも1種のカチオン性高分子、さらにアニオン性及び/若しくは双極イオン性界面活性剤をを4(wt%)未満含有する頭髪の処理及び保護用組成物」と、本願補正発明の「セラミド、グリコセラミド、擬似セラミド又はネオセラミド」とは、いずれもセラミド又はグリコセラミドを含有するものであり、セラミド又はグリコセラミドは毛髪に用いるものである点で共通する。
(イ)刊行物1発明の「頭髪の処理及び保護用組成物に、オキシデーション(oxidation)染料、酸性染料、及び/若しくは直接染料を含有させ、頭髪の染色剤として使用する方法」について、「頭髪の処理及び保護用組成物に、オキシデーション(oxidation)染料、酸性染料、及び/若しくは直接染料を使用」することにより、頭髪の処理及び保護用組成物は、染色剤、つまり染毛剤組成物になるといえる。一方、本願補正発明の「非酸化性の染毛剤組成物の染色作用を改善する方法」は、染色作用を改善するためには、まず染毛剤組成物を使用する必要があることから、両者は、染毛剤組成物の使用方法である点で共通する。
(ウ)本願補正発明は、染毛剤組成物中に、カチオン性高分子やアニオン性及び/若しくは双極イオン性界面活性剤を含有することを排除するものではない。

そうすると、両者の間には、以下のような一致点及び相違点がある。
(一致点)
セラミド又はグリコセラミドを毛髪に用いることを含む、染毛剤組成物の使用方法である点。

(相違点1)
染毛剤組成物が、本願補正発明では、非酸化性の染毛剤組成物であるのに対して、刊行物1発明は、オキシデーション(oxidation)染料、酸性染料、及び/若しくは直接染料を使用したものである点。

(相違点2)
染毛剤組成物の使用方法が、本願補正発明では、非酸化性の染毛剤組成物の染色作用を改善する方法であるのに対して、刊行物1発明では、頭髪の処理及び保護用組成物にオキシデーション(oxidation)染料、酸性染料、及び/若しくは直接染料を使用し、頭髪の染色剤として使用する方法であり、頭髪を保護するものであるが、染色作用を改善するかは明らかでない点。

(相違点3)
本願補正発明は、フィタントリオールの非存在下における方法であるのに対して、刊行物1発明は、フィタントリオールの存否が明らかでない点。

そこで、上記相違点について検討する。
(相違点1について)
本願補正発明の「非酸化性の染毛剤」について、本願明細書段落【0031】に、実施例で用いるものとして、「染料ブレンドは以下を含有する:CI56059のBasic Blue99 CI12245のBasic Red76」と記載されている。
一方、刊行物1発明は染料として「オキシデーション(oxidation)染料、酸性染料、及び/若しくは直接染料」を用いることができるものであるが、ここで、「オキシデーション(oxidation)染料」は、「オキシデーション(oxidation)」が酸化を意味することから、酸化型染毛剤であることは明らかであり、「酸性染料」や「直接染料」が、非酸化性の染毛剤であることは、以下の文献に記載されるとおり本願優先日前の技術常識である。
・特開2001-122744号公報(【0014】?【0016】、【0028】)に、直接染料には、酸性染料と塩基性染料が含まれ、塩基性染料として、CI56059のBasic Blue99、CI12245のBasic Red76があり、このような直接染料を含有する染毛剤組成物が非酸化型のものであることが記載されている。
・特開2001-294519号公報(【0008】?【0010】)にも、同様のことが記載される。
そして、刊行物1発明の染料の3つの選択肢の中から、「酸性染料」や「直接染料」といった、「非酸化性の染毛剤」を用いることに格別の困難性があるとはいえない。

(相違点2について)
刊行物2及び3は、毛髪をケラチン加水分解物を含有する染毛用前処理剤で処理するという技術について記載した文献であるが、永久染毛剤である酸化型染毛剤では、毛髪が損傷しやすく、毛髪中のタンパク成分が流出しやすいという問題があること、一時染毛剤である酸性染毛料も、酸化型染毛剤ほどではないが、毛髪が損傷しやすい問題があることが記載され、一時染毛剤の多くは、染料を毛小皮(いわゆるキューティクル)に吸着させて染色すること(上記(2a)(3a))が記載されている。ここで、毛髪のタンパク質が主としてケラチンであることは本願優先日前の技術常識であり、酸性染毛料は非酸化性の染毛料であることは、上記(相違点1について)で記載したとおりである。
そして、刊行物2及び3には、酸化型染毛剤及び酸性染毛料のこれら問題を解決するために、ケラチン加水分解物を含有する染毛用前処理剤で毛髪を前処理すると、酸化型染毛剤では、均一に染色でき、染色毛髪の耐シャンプー性が向上し、染毛時の毛髪の損傷が少なくなり、染毛後の毛髪に艶や潤いを付与することができ、酸性染毛料では、少量の染料でも均一に染色でき、染毛時の毛髪の損傷が少なく、染毛後の毛髪にゴワツキ感がなく、染毛後の毛髪に艶や潤いを付与すること(上記(2b)(3b))が記載されいる。
刊行物2及び3のこれらの記載事項から、ケラチン加水分解物処理を行うことで、酸化染毛剤及び酸性染毛料いずれも、染毛時の毛髪の損傷が少ないという毛髪保護作用、及び均一に染色ができるといった染色作用の改善を得ることが把握できる。
一方、セラミド類について、刊行物4(上記(4a))に、大気中の成分、または種々の化学的または機械的な処理、例えば、染色、脱色および/またはパーマネントウェーブをかけることといった、攻撃的要因の作用下では、髪の成分であるセラミド類およびタンパク質(つまりケラチン)が失われること、セラミド類は、タンパク質の減失の防壁効果を有し、毛髪の傷みから毛髪を保護し、傷んだ毛髪を修復するものであることが記載されている。
刊行物2及び3と刊行物4の記載事項から、ケラチン分解物とセラミド類は、いずれも、ケラチン減失にともなう傷みから毛髪を保護し修復する作用を有する点で共通するものといえる。
そうすると、酸化型染毛剤及び酸性染毛料において、セラミド類を使用することで、刊行物2及び3に記載されるケラチン加水分解物で処理した場合と同様に、ケラチンの減失を防ぐことができ、染毛時の毛髪の損傷が少ないという毛髪保護作用及び均一に染色ができるといった染色作用の改善が期待できるといえる。
さらに、刊行物5には、酸化型染毛剤について(上記(5a)(5b))、ケラチン繊維の変質、荒れてもろくなるという問題点があり(上記(5c))、酸化染色のための組成物中に、セラミド等のセラミドタイプ化合物を使用することにより、ケラチン繊維に対する外的攻撃要因に対して経時的に優れた耐性を与えること(上記(5d))、染色された繊維はセラミドタイプ化合物を使用していない染色方法を使用した場合よりも、光に対し耐性で着色の変化が少なく、柔らかさを保ち、荒くなることが少ないこと(上記(5e))が記載されている。これらの記載から、ケラチン繊維が変質したり荒れてもろくなることを防止することができるセラミド類の毛髪保護作用により、酸化型染毛剤による着色の耐性が得られることが把握できる。そして、刊行物5には、酸化型染毛剤に加えて、直接染料を含有可能であることも記載されている(上記(5g))。
そうすると、上記のとおり、刊行物2及び3と刊行物4の記載事項から、酸化型染毛剤及び酸性染毛料において、セラミド類を使用してケラチンの減失を防ぐことにより、染毛時の毛髪の損傷が少ないという毛髪保護作用、及び均一に染色ができるといった染色作用の改善が期待でき、さらに、刊行物5に、酸化型染毛剤について、セラミドが着色耐性及び毛髪保護作用を有することを実際に確認したことが記載されていることも考慮すれば、刊行物1発明の頭髪の処理及び保護用組成物を、毛髪の保護だけでなく、染色作用を改善することを期待して、非酸化性の染毛剤として用いて毛髪の染色を行い、染色作用の改善を確認し、非酸化性の染毛剤組成物の染色作用を改善する方法とすることは、当業者が容易になし得たものといえる。

(相違点3について)
刊行物1(上記(1c))には、任意成分として、増粘剤、各種添加剤、コンディショニング剤等を含み得ることが記載されているが、フィタントリオールを含むことは記載されていない。
そして、本願明細書には、「フィタントリオール」について、段落【0017】に技術背景のひとつとして、「Helene Curtisの米国特許第6110450号は、少なくとも1のセラミド及び/又はグリコセラミド及びフィタントリオールを含むヘアケア用組成物(特に、シャンプー及びコンディショナー)に関するものであり、これは、ヘアコンディショニングにおける有益であると記載されている。コンディショニングにおける利点のために、当該化合物を染毛剤(酸化染毛剤及び/又は直接染毛剤)と共に用いることの可能性については、偶然にもほんのわずかな言及しかない。」と記載されるだけであり、「フィタントリオールの非存在下」とすることについての技術的意義は記載も示唆もされておらず、上記米国特許との差異をつけるための限定事項であること以上の意味を、本願明細書の記載から見出すことはできない。
そうすると、刊行物1発明をフィタントリオールの非存在下におけるものとすることに格別の困難性があるとはいえない。

(発明の効果について)
本願明細書段落【0026】等に記載された本願補正発明効果について検討する。
毛髪上への染料の付着を改善するという効果については、刊行物2及び3に、ケラチン分解物処理により、酸性染毛剤により毛髪が均一に染色されること(上記(2b)(3b))、酸性染毛剤は、染料を毛小皮(いわゆるキューティクル)に吸着させて染色すること(上記(2a)(3a))が記載されていることから、染料は均一に吸着するといえ、そして、刊行物4の記載事項から、上記のとおりセラミドもケラチン分解物と同様の作用が期待できるといえることから予測されるものであり、格別顕著なものとはいえない。
また、色彩堅牢性が改善するという効果については、刊行物1に、セラミド類が、酸化型染毛剤及び酸性染毛料から毛髪を保護すること(上記(1b)(1d))が記載され、刊行物4にセラミドが毛髪のケラチンの減失を防止すること(上記(4a))が記載されていること、及び刊行物5に、セラミドにより、毛髪が柔らかさを保ち荒くならないという保護効果、及び酸化型染毛剤の着色耐性が得られること(上記(5e))が記載されていることから、非酸化性の染毛料においても、セラミドの保護効果により、着色耐性つまり色彩堅牢性が得られることは予測されるものといえ、格別顕著なものとはいえない。

(まとめ)
したがって、本願補正発明は、刊行物1ないし5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成20年11月5日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので、本願請求項1ないし8に係る発明は、平成20年3月24日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明は以下のとおりのものである。

「【請求項1】非酸化性の染毛剤組成物の染色作用を改善する方法であって、フィタントリオールの非存在下においてセラミド又は機能的に類似する関連物質を毛髪に用いることを含む、方法。」(以下、「本願発明」という)

2 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載事項は、前記第2 2に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記「第2」で検討した本願補正発明の限定事項である「グリコセラミド、擬似セラミド又はネオセラミド」をその上位概念である「機能的に類似する関連物質」とするものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、構成要件の一部を上位概念化したものに相当する本願補正発明が、前記「第2 3」に記載したとおり、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1ないし5に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-01-11 
結審通知日 2012-01-17 
審決日 2012-02-01 
出願番号 特願2003-569169(P2003-569169)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61K)
P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 磯部 洋一郎天野 貴子植原 克典  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 ▲高▼岡 裕美
関 美祝
発明の名称 ヘアケア用組成物におけるセラミド及び類似化合物の使用  
代理人 山崎 行造  
代理人 武山 美子  

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