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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A21D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A21D
管理番号 1258609
審判番号 不服2009-7850  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-04-10 
確定日 2012-06-13 
事件の表示 平成11年特許願第353892号「シンバイオティック機能性食品」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 6月27日出願公開、特開2000-175615〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

この出願は,1999年12月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1998年12月15日,イタリア(IT))の出願であって,以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成18年11月 28日 手続補正書
平成20年 5月27日付け 拒絶理由通知書
平成20年12月 2日 意見書・手続補正書
平成21年 1月 6日付け 拒絶査定
平成21年 4月10日 審判請求書
平成21年 4月28日 手続補正書
平成21年 7月 1日 手続補正書(方式)
平成21年 8月 7日付け 前置報告書
平成23年 2月14日付け 審尋
平成23年 8月15日 回答書

第2 平成21年4月28日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成21年4月28日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1 本件補正

平成21年4月28日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,本件補正前の請求項1の

「脂質をベースとする焼成されない組成物と焼成部分からなる焼成製品であって,該脂質をベースとする組成物は本質的に水分を含まず且つ10^(9)?10^(12)CFU(コロニー形成単位)/gの濃度の凍結乾燥した乳酸菌生菌および10?40重量%の濃度の融点が30℃を越えるショートニングを含み,該焼成部分は1種以上の非消化性の繊維様物質を含むことを特徴とする焼成製品。」を,

「脂質をベースとする焼成されない組成物と焼成部分からなるクリームサンドイッチビスケット形態の焼成製品であって,該脂質をベースとする組成物は本質的に水分を含まず且つ10^(9)?10^(12)CFU(コロニー形成単位)/gの濃度の凍結乾燥した乳酸菌生菌および10?40重量%の濃度の融点が30℃を越えるショートニングを含み,該焼成部分は1種以上の非消化性の繊維様物質を含み,該乳酸菌がストレプトコッカス・サーモフィルスおよびラクトバチルス・アシドフィルスよりなる群から選択されることを特徴とする焼成製品。」

とする補正を含むものである。

2 本件補正の適否

(1)補正の目的の適否

本件補正は,請求項1に記載した発明を特定するために必要と認める事項である「焼成製品」を,補正前の明細書に記載されていた事項に基づき「クリームサンドイッチビスケット形態の焼成製品」(下線は合議体が付与。以下同様。)と限定すると共に,請求項1に記載した発明を特定するために必要と認める事項である「乳酸菌」を,補正前の明細書に記載されていた事項に基づき「該乳酸菌がストレプトコッカス・サーモフィルスおよびラクトバチルス・アシドフィルスよりなる群から選択される」と限定するものであり,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)独立特許要件について

そこで,本件補正後の前記請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下,「本願補正発明」という。なお,本件補正後の明細書を,以下,「本願補正明細書」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて,以下検討する。

(2-1)本願補正発明

本願補正発明は,以下のとおりである。

「脂質をベースとする焼成されない組成物と焼成部分からなるクリームサンドイッチビスケット形態の焼成製品であって,該脂質をベースとする組成物は本質的に水分を含まず且つ10^(9)?10^(12)CFU(コロニー形成単位)/gの濃度の凍結乾燥した乳酸菌生菌および10?40重量%の濃度の融点が30℃を越えるショートニングを含み,該焼成部分は1種以上の非消化性の繊維様物質を含み,該乳酸菌がストレプトコッカス・サーモフィルスおよびラクトバチルス・アシドフィルスよりなる群から選択されることを特徴とする焼成製品。」

(2-2)刊行物及びその記載事項

ア 刊行物

特開平10-191916号公報(原査定における引用文献1。以下,「刊行物1」という。)

イ 刊行物の記載事項

本願優先日前に頒布された刊行物である刊行物1には,以下の事項が記載されている。

1a「【請求項1】プロビオチック微生物を含有する被覆物またはフィリングを含む糊化澱粉マトリックスを含む,即席食用乾燥シリアル製品。」(特許請求の範囲)

1b「【0002】【従来技術】プロビオチック微生物はその腸内微生物バランスを改良することにより宿主に有利に作用する微生物である(フラー,R,1989,ジャーナル オブ アプライド バクテリオロジー,66,365?378)。一般に,プロビオチック微生物はClostridium perfringensおよびHelicobacter pyloriのような病原性細菌の生育を阻害する乳酸および酢酸のような有機酸を産生する。従って,プロビオチック細菌は病原性細菌により生じる状態の治療および予防に有用であると信じられる。さらにプロビオチック微生物は腐敗菌の生育および活性,従って有毒アミン化合物の産生を阻害すると信じられる。プロビオチック細菌は病主の免疫機能を活性化することも信じられている。・・(中略)・・
【0006】【発明が解決しようとする課題】従って,プロビオチック微生物を含有し,非常に美味であり,貯蔵安定性のある即席食用シリアル製品に対する要求がある。
【0007】【課題を解決するための手段】従って,1特徴では,本発明はプロビオチック微生物を含有する被覆物またはフィリングを含む糊化澱粉マトリックスを含む即席食用乾燥シリアル製品を供する。・・(中略)・・
【0010】・・被覆はプロビオチック微生物をその中に保持するキャリア基質を含む。フィリングもプロビオチック微生物をその中に保持するキャリア基質を含むことができる。例えば,キャリア基質はタン白分解物,脂肪,乳固体,糖またはフレーバ付与剤顆粒でよい。・・(中略)・・
【0016】適当なプロビオチック微生物の例は・・Lactobacillus acidophilus,・・Pediococcus acidilactici,・・Streptococcus thermophilus・・。プロビオチック微生物は好ましくは粉末,乾燥形であり・・・さらに望む場合・・カプセル化して生存の確率をさらに増加できる。
【0017】即席食用乾燥シリアル製品は任意の適当な成分,例えば即席食用乾燥シリアル製品に通常使用されるものから製造できる。これらの成分のうちの1つは澱粉起源である。・・(中略)・・
【0019】シリアル製品は所望する多くの異る方法で製造できる。・・例えば,適当な1方法では,供給材料混合物がプレコンディショナーに供給する。供給材料混合物は主として澱粉起源および他の成分・・から形成される。望む場合,不溶性繊維起源,例えば小麦ふすま,米糠,ライ麦ふすまなどを含むこともできる。さらに,望む場合,可溶性繊維起源,例えばチコリ繊維,イヌリン,フラクトオリゴ糖,大豆オリゴ糖,燕麦ふすま濃縮物,グアガム,カロブビーンガム,キサンタンガムなどを含むことができる。好ましくは選択した可溶性繊維は選択した微生物に対する基質であり,または可溶性繊維と微生物が有利な効果を増進する共生関係を形成するようなものである。・・(中略)・・
【0026】次に断片は約10重量%以下の水分含量に乾燥する。これは通例のように熱風乾燥機で行なう。朝食シリアルの場合,約1?約3重量%の水分含量が好ましい。ペットフード用の断片は歯ごたえのある粒形でよい。断片は通例約0.5?約0.7の水分活性を有する。
【0027】ヒトの食品用の膨化片はパリパリした,快いテクスチャーおよび良好な官能性を有する・・膨化またはフレーク化片は通例約0.15?約0.3の水分活性を有する。
【0028】次にプロビオチック微生物は適当なキャリア基質中に混合する。キャリア基質は断片が動物用かヒト用かにより変化する。・・ヒトの食品の場合,適当なキャリア基質は脂肪および糖溶液のような液体,および顆粒フレーバ被覆のような顆粒被覆を含む。適当な脂肪は食用植物油および脂肪,例えば水素添加大豆脂肪である。・・(中略)・・
【0033】即席食用乾燥シリアル製品は有利には約10^(4)?約10^(10)プロビオチック微生物細胞/g乾燥シリアル製品・・を含有する。 ・・(中略)・・
【0035】水およびシリアル製品の成分を,例えばプレコンディショナーで一緒に混合して乾燥シリアル製品を製造することもできる。次に加湿混合物は所望形に,例えば成形ローラを使用して成形できる。成形混合物は次にオーブンで,例えば約220°?約280℃で約10分?約1時間焙焼できる。乾燥シリアル製品は焙焼ビスケットの外観を有する。」

1c「【0040】【実施例】・・(中略)・・
例1 供給材料混合物はトウモロコシ,トウモロコシグルテン,チキン粉および魚粉,塩,ビタミンおよびミネラルから形成する。供給材料混合物はプレコンディショナーに送り,加湿する。次にプレコンディショナーを出る加湿供給材料はエクストルーダ-クッカーに送り,糊化させる。エクストルーダを出る糊化マトリックスはダイを通して押し出す。ダイヘッドを出る押出し物は犬に給飼するのに適当な断片に切断し,約110℃で約20分乾燥し,冷却してペレットを形成する。ペレットの水分活性は約0.6である。ペレットに3種の異る被覆混合物を噴霧する。各被覆はBacillus coagulansを含有するが,1つの被覆混合物は被覆基質として水素添加大豆脂肪を使用し,1つの被覆混合物は被覆基質として水を使用し,そして1つの被覆混合物は被覆基質としてタン白分解物を使用する。・・各被覆混合物に対し,ペレットは2群に分ける。1群は約25℃で貯蔵し,微生物の長期安定性を評価し,もう1つの群は約37℃で貯蔵する。試料は各群から1週,2週,3週および4週後に採取する。37℃で貯蔵した群の脂肪被覆試料は8週で採取する。細胞数を各試料に対し測定する。結果は図1に示す。すべての場合,細胞数は実質的に不変であり,すぐれた貯蔵安定性を示す。さらに,37℃で8週貯蔵の結果は微生物を通常條件で1年貯蔵後も安定らしいことを示す。 ・・(中略)・・
【0042】例3 3種の異る被覆混合物はBacillus coagulansの代りにPadiococcus(審決注:Pediococcusの誤記と認める。) acidilacticiをそれぞれ含有することを除いて例1を反復する。P.acidilacticiは乾燥粉末形であり,商品名バクトセルとしてラルマンドS/Aから入手できる。貯蔵結果は次の通りである。

【表1】(抜粋:水,分解物の欄は省略)
週 脂肪25℃ 脂肪37℃
0 19.6×10^(6) 19.6×10^(6)
1 13.6×10^(6) 13.6×10^(6)
2 12.9×10^(6) 12.9×10^(6)
3 9.73×10^(6) 6.69×10^(6)
4 12.9×10^(6) 4.6×10^(6)
8 6.8×10^(6) 1.5×10^(6)
水または脂肪を使用する被覆ペレットの場合,細胞数は約10^(7) cfu/gで実質的に不変であり,すぐれた貯蔵安定性を示す。」

(2-3)刊行物1に記載された発明

刊行物1は,「プロビオチック微生物を含有する被覆物またはフィリングを含む糊化澱粉マトリックスを含む,即席食用乾燥シリアル製品」に関し記載するものであって(摘示1a),該即席食用乾燥シリアル製品の実施例として,例3には,「3種の異る被覆混合物はBacillus coagulansの代りにPediococcus acidilacticiをそれぞれ含有することを除いて例1を反復する。P.acidilacticiは乾燥粉末形であり・・脂肪を使用する被覆ペレットの場合,細胞数は約10^(7)cfu/g・・であり」(摘示1c)と記載されている。
この「例1」に記載の「Bacillus coagulans」の代りに例3の「Pediococcus acidilactici」を適用すると,例3には「糊化(澱粉)マトリックス・・乾燥し・・ペレットを形成・・ペレットに・・被覆混合物を噴霧・・被覆はPediococcus acidilacticiを含有するが,1つの被覆混合物は被覆基質として水素添加大豆脂肪を使用し・・P.acidilacticiは乾燥粉末形であり・・ペレットは細胞数が約10^(7) cfu/g のP.acidilacticiを含有する」(摘示1c)が記載されているといえる。

したがって,刊行物1には,

「プロビオチック微生物を含有する被覆物を含む糊化澱粉マトリックスを含む,即席食用乾燥シリアル製品であって,糊化澱粉マトリックスを乾燥しペレットを形成させ,該ペレットに被覆混合物を噴霧し,被覆はPediococcus acidilacticiを含有し,被覆混合物は被覆基質として水素添加大豆脂肪を使用し,P.acidilacticiは乾燥粉末形であり,被覆ペレットは約10^(7) cfu/g P.acidilacticiを含有する,即席食用乾燥シリアル製品。」

の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(2-4)本願補正発明と引用発明との対比

ア 引用発明の「被覆混合物」は,「P.acidilacticiを含有し」,「P.acidilacticiは乾燥粉末形であり」,被覆ペレットは「約10^(7) cfu/g P.acidilacticiを含有する」ものである。

ここで,引用発明の「Pediococcus acidilactici」は,刊行物1の「適当なプロビオチック微生物の例は・・Lactobacillus acidophilus,・・Pediococcus acidilactici,・・Streptococcus thermophilus」(摘示1b【0016】)及び「プロビオチック微生物はその腸内微生物バランスを改良することにより宿主に有利に作用する微生物である」(摘示1b【0002】)という記載より,「プロビオチック微生物」であり,一方,本願補正発明の「ストレプトコッカス・サーモフィルス」(Streptococcus thermophilus)や「ラクトバチルス・アシドフィルス」(Lactobacillus acidophilus)は,本願補正明細書の「【0002】プロバイオティクスは宿主の腸内菌叢バランスを改善することにより宿主に有効に作用する,微生物生菌からなる・・」及び「【0003】プロバイオティクス細菌」という記載より,「プロバイオティクス細菌」つまり「プロビオチック微生物」である。
そうすると,引用発明の「Pediococcus acidilactici」と,本願補正発明の「ストレプトコッカス・サーモフィルスおよびラクトバチルス・アシドフィルスよりなる群から選択される」「乳酸菌」とは,「プロビオチック微生物」である点で共通する。

さらに,引用発明の「P.acidilactici」は「乾燥粉末形」であり,且つ,「プロビオチック微生物は・・生存の確率をさらに増加できる」(摘示1b【0016】)との記載より生菌であるといえ,他方,本願補正発明の「ストレプトコッカス・サーモフィルスおよびラクトバチルス・アシドフィルスよりなる群から選択される」「乳酸菌」は,「凍結乾燥した」「生菌」であることから,両者は,乾燥した生菌である点でも共通する。

イ 引用発明の「被覆混合物」に含まれている「被覆基質として水素添加大豆脂肪」について,「基質」として「水素添加大豆脂肪」を用いているもので,この「基質」は,刊行物1の記載「プロビオチック微生物は適当なキャリア基質中に混合する・・ヒトの食品の場合,適当なキャリア基質は・・適当な脂肪・・例えば水素添加大豆脂肪」(摘示1b【0028】)より,プロビオチック微生物のキャリア基質であり,キャリア基質は「ベース」といえるものであることから,「水素添加大豆脂肪」という脂質をベースとするものといえる。

そして,引用発明の「水素添加大豆脂肪」に関し,本願補正発明の「融点が30℃を超えるショートニング」の説明として本願補正明細書の記載を検討すると,「【0007】・・融点が30℃を超えるショートニングが乳酸菌の至適な担体・・そのようなショートニングの例としては・・水素添加・・された植物油」との記載がなされている。
そうすると,引用発明の「水素添加大豆脂肪」は,水素添加された植物油であることから,引用発明の「水素添加大豆脂肪」と本願補正発明の「融点が30℃を超えるショートニング」とは,ショートニングである点で共通する。

引用発明の「被覆混合物」について,引用発明の実施例で「被覆混合物」の製造工程が記載されている刊行物1の例1及び例3の記載(摘示1c)には,この「被覆混合物」は焼成される工程がないこと,及び,上記アより,この「被覆混合物」は生菌である「P.acidilacticiを含有する」ものであり,焼成されると生菌として存在できないことから,この「被覆混合物」は焼成されていないものであるといえる。

さらに,引用発明の「被覆混合物」について,刊行物1の記載「ペレットに3種の異る被覆混合物を噴霧する。各被覆はBacillus coagulansを含有するが,1つの被覆混合物は被覆基質として水素添加大豆脂肪を使用し,1つの被覆混合物は被覆基質として水を使用し・・」(摘示1c【0040】)より,被覆基質として水素添加大豆脂肪を使用している被覆混合物は,被覆基質として水を使用しているものと区別していることから,実質的に水を含まないものであるといえる。

引用発明の「被覆混合物」は,基質として水素添加大豆脂肪や,プロビオチック微生物としてPediococcus acidilacticiといった複数の物質を含むものであるから,組成物といえる。
そうすると,引用発明の「プロビオチック微生物を含有する被覆物」は本願補正発明の「脂質をベースとする焼成されない組成物」に相当するものである。

ウ 引用発明の「糊化澱粉マトリックスを乾燥し」た「ペレット」について,本願補正発明の「焼成部分」は,「クリームサンドイッチビスケット」の「ビスケット」の部分であり,焼成により少なくとも乾燥されているといえるから,引用発明の「糊化澱粉マトリックスを乾燥し」た「ペレット」とは,「乾燥部分」である点で共通する。

エ 引用発明の「糊化澱粉マトリックスを含む,即席食用乾燥シリアル製品」は,引用発明の「糊化澱粉マトリックスを乾燥しペレットを形成させ」た部分すなわち乾燥部分を含み,最終製品として「即席食用乾燥シリアル製品」という乾燥製品としたものである。
そして,引用発明の「プロビオチック微生物を含有する被覆物を含む糊化澱粉マトリックスを含む,即席食用乾燥シリアル製品」であって「被覆物混合物を噴霧し」たものと,本願補正発明の「脂質をベースとする焼成されない組成物と焼成部分からなるクリームサンドイッチビスケット形態の焼成製品」とは,「乾燥製品」である点で共通する。

そうすると,両者は,

「脂質をベースとする焼成されない組成物と乾燥部分からなる乾燥製品であって,該脂質をベースとする組成物は本質的に水分を含まず且つ乾燥したプロビオチック微生物生菌およびショートニングを含む乾燥製品。」

である点で一致し,以下の点で相違するといえる。

(ア)乾燥した生菌の「プロビオチック微生物」について,
本願補正発明は,種類がストレプトコッカス・サーモフィルスおよびラクトバチルス・アシドフィルスよりなる群から選択されるもので,濃度が10^(9)?10^(12)CFU/gで,乾燥が凍結乾燥したもの,であるのに対し,
引用発明は,種類がPediococcus acidilacticiで,濃度が約10^(7) cfu/gで,乾燥が凍結乾燥かは明らかでない点。(以下,「相違点(ア)」という。)

(イ)ショートニングの,融点が30℃を越えるその濃度が,
本願補正発明は,10?40重量%であるのに対し,
引用発明は,水素添加大豆脂肪の融点が不明であり,その濃度が10?40重量%であるか明らかではない点。(以下,「相違点(イ)」という。)

(ウ)乾燥部分及び乾燥製品が,
本願補正発明は,ビスケット状の,1種以上の非消化性の繊維様物質を含む「焼成部分」及び「クリームサンドイッチビスケット形態の焼成製品」であるのに対し,
引用発明は,糊化澱粉マトリックスを乾燥したペレット及び「被覆混合物を噴霧し」た乾燥シリアル製品で,該ペレットは,1種以上の非消化性の繊維様物質を含むかは明らかでない点。(以下,「相違点(ウ)」という。)

(2-5)相違点についての判断

ア 相違点について

(ア)相違点(ア)について

i 「プロビオチック微生物」の種類について
刊行物1には「【0016】適当なプロビオチック微生物の例は・・Lactobacillus acidophilus,・・Pediococcus acidilactici,・・Streptococcus thermophilus・・」(摘示1b)と記載され,プロビオチック微生物の適切な例として,引用発明で用いているPediococcus acidilacticiと並列して,Lactobacillus acidophilusやStreptococcus thermophilusが例示されており,いずれも適切なプロビオチック微生物として用いることができると理解できる。
そうすると,引用発明のプロビオチック微生物の種類として,Pediococcus acidilacticiに代えて,刊行物1にPediococcus acidilacticiと同じくプロビチック微生物として用いることができることが記載されている,Lactobacillus acidophilusやStreptococcus thermophilusを適用することは,当業者が容易になし得ることである。

ii 「プロビオチック微生物」の濃度について
刊行物1には,プロビオチック微生物の濃度として「【0033】即席食用乾燥シリアル製品は有利には約10^(4)?約10^(10)プロビオチック微生物細胞/g乾燥シリアル製品・・を含有する」(摘示1b)と記載され,プロビオチック微生物の有利な濃度として「約10^(10)プロビオチック微生物細胞/g」までを適用できることが分かる。
ここで,「微生物細胞/g」について,本願補正発明の「CFU(コロニー形成単位)/g」との関係を検討すると,「CFU(コロニー形成単位)」とはColony Forming Unitの略でコロニーを形成できる微生物数のことで微生物量の単位であり,「CFU(コロニー形成単位)/g」とは1g中に存在する微生物数を表すものである。そうすると,刊行物1の「微生物細胞/g」と本願補正発明の「CFU(コロニー形成単位)/g」とは,同じ単位である。
そうすると,引用発明のプロビオチック微生物の濃度として,約10^(7) cfu/gに代えて,刊行物1に有利な濃度として記載されている,約10^(10) cfu/g程度までを適用することは,当業者が容易になし得ることである。

iii 「プロビオチック微生物」の乾燥方法について
一般に,微生物の生菌乾燥方法として凍結乾燥を行うことは,本願優先日当時,周知技術であった(例えば,特開平9-289890号公報「【0006】よく用いられる乳酸菌の乾燥方法としては,凍結乾燥・・がある。例えば,凍結乾燥は現在市販の粉末スターターの製造に用いられている方法であり,生菌数の高い粉末が得られる」参照。)。
そうすると,引用発明の「プロビオチック微生物」の生菌乾燥方法として,本願優先日当時周知技術であった凍結乾燥方法を適用することは,当業者が容易になし得たことである。

(イ)相違点(イ)について

上記(2-4)イより,引用発明の「水素添加大豆脂肪」は本願補正発明の「ショートニング」に相当するものである。ここで,サンド用で用いるショートニングの融点は,通常30℃前後である(例えば,特開平9-187222号公報の記載「【0028】・・耐熱性クリームは・・サンド用・・」,「【0031】・・このショートニングの融点は33℃・・」,「【0032】・・このショートニングの融点は27℃・・」参照。)。
そして,引用発明の「水素添加大豆脂肪」は,刊行物1の記載「【0028】プロビオチック微生物は適当なキャリア基質中に混合する・・ヒトの食品の場合,適当なキャリア基質は・・適当な脂肪・・例えば水素添加大豆脂肪」(摘示1b)より,プロビオチック微生物のキャリア基質である。
そうすると,そのプロビオチック微生物のキャリア基質である「水素添加大豆脂肪」の融点及び濃度をどの程度にするかは,プロビオチック微生物の量や最終製品として望む保存性や嗜好等を勘案しながら,当業者が適宜決定することと認める。その結果として,「水素添加大豆脂肪」の融点を30℃以上とし,濃度を10?40重量%と決定することに,格別の困難性は認められない。

(ウ)相違点(ウ)について

i 乾燥部分及びそれを含む乾燥製品の形態について
引用発明の乾燥製品である「乾燥シリアル製品」の実施の態様として,刊行物1には「【0035】水およびシリアル製品の成分を・・一緒に混合して乾燥シリアル製品を製造することもできる。次に加湿混合物は所望形に・・成形できる。成形混合物は次にオーブンで,例えば約220°?約280℃で約10分?約1時間焙焼できる。乾燥シリアル製品は焙焼ビスケットの外観を有する」(摘示1b)と記載されている。

また,刊行物1は,そもそも「プロビオチック微生物を含有する被覆物またはフィリングを含む糊化澱粉マトリックスを含む,即席食用乾燥シリアル製品」(摘示1a)に関し記載するものであり,糊化澱粉マトリックスにプロビオチック微生物を含有させる形式として,被覆物とするのみならずフィリングとすることも意図されており,適用できるものである。そして,刊行物1には,フィリングはシリアルの中心孔に充填する態様(【0032】)が記載されているが,「フィリング」には,詰め物だけでなく,サンドイッチにはさむものという意味でも一般的に使われている(例えば,河野友美編「料理用語 新・食品辞典13」(1994年)株式会社真珠書院発行 256頁「フィリング(filling) 詰め物とか中身という意味。・・サンドイッチフィリングとはサンドイッチにはさむもののこと」参照。)。
そして,一般に,ビスケットにフィリングを用いる場合,フィリングをビスケット間にサンドイッチすることは通常行うことであり,本願優先日当時慣用手段であったといえる。

そうすると,糊化マトリックスを乾燥しペレット及びこれを含む乾燥シリアル製品の形態として,該乾燥ペレットを焙焼ビスケットの外観を有する形態とし,被覆物混合物で被覆することに代え,被覆混合物に相当するものをフィリングとしてはさみ,クリームサンドイッチビスケットとすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

ii 乾燥部分が1種以上の非消化性の繊維様物質を含むことについて
刊行物1には「【0019】シリアル製品は・・供給材料混合物は主として澱粉起源および他の成分・・から形成される。・・望む場合,可溶性繊維起源,例えば・・フラクトオリゴ糖・・などを含むことができる」(摘示1b)と記載されている。ここで,「可溶性繊維起源,例えば・・フラクトオリゴ糖」は,非消化性の繊維様物質に他ならない。
そして,この「可溶性繊維起源」は,シリアル製品の澱粉起源等の供給材料混合物に更に含むことができる成分であり,澱粉起源等の供給材料混合物が存在する部分は,引用発明の「糊化澱粉マトリックスを乾燥しペレットを形成させ」た乾燥部分である。
そうすると,引用発明の「糊化澱粉マトリックスを乾燥しペレットを形成させ」た乾燥部分に,上記刊行物1の記載に基づき,非消化性の繊維様物質を含ませることは,当業者が容易になし得たことである。

イ 本願補正発明の効果について

本願補正発明の効果は,本願補正明細書の【0004】に端的に記載されるように,「本発明はプロバイオティクスとプレバイオティクスの両方を含み(ここでは“シンバイオティック”とも称する),非冷蔵温度で長期の有効期限を有する機能性食品/健康食品を予見するもの」というものである。
本願補正発明の上記効果は,プロバイオティクスすなわち「宿主の腸内菌叢バランスを改善することにより宿主に有効に作用する,微生物生菌」(本願補正明細書【0002】)により奏される効果,及び,プレバイオティクスすなわち「結腸中のプロバイオティクス細菌など宿主の健康改善作用を有する1種類あるいは限定された種類の細菌の増殖および/または活性を選択的に刺激することにより,宿主に有効に作用する非生体で非消化性の食品成分」(本願補正明細書【0003】)により奏される効果を含むものに加え,非冷蔵温度で長期の有効期限を有するという効果を有するものである。

本願補正発明の「プロバイオティクス」は,刊行物1に記載の「【0002】プロビオチック微生物は腸内微生物バランスを改良することにより宿主に作用する微生物」(摘示1b)より,刊行物1記載の「プロビオチック微生物」と同じものであり,それにより奏される効果は,刊行物1に「【0002】・・一般に,プロビオチック微生物は・・病原性細菌の生育を阻害する乳酸及び酢酸のような有機酸を産生する。従って,プロビオチック細菌は病原性細菌により生じる状態の治療および予防に有効であると信じられる。さらにプロビオチック微生物は腐敗菌の生育および活性,従って有毒アミン化合物の産生を阻害すると信じられる。プロビオチック細菌は病主の免疫機構を活性化することも信じられている」(摘示1b)と記載されている。
また,本願補正発明の「プレバイオティクス」は,上記定義及び本願補正明細書の記載「【0005】・・本願発明による焼成製品の利点の1つは,非消化性の繊維様物質が焼成部分に添加されること」からすると,非消化性の繊維様物質のことであり,それにより奏される効果は,整腸作用(腸内細菌叢の改善,腸の蠕動運動の促進,腸管内圧の正常化,便量増加,有害物の希釈,有害物の抑制などによる各種腸疾患からリスクの回避)であることは,本願優先日前,周知事項である(例えば,特開平3-244365号公報「食物繊維の中には水溶性食物繊維と不溶性食物繊維があり,その代表的生理機能として次の様な事が報告されている。(1)血清および肝臓のコレステロールの低下作用(2)血糖上昇抑制作用(3)整腸作用 その中で整腸作用に関しては腸内細菌叢の改善,あるいは水分吸着とかさ効果等による腸の蠕動運動の促進,腸管内圧の正常化,便量増加,有害物の希釈,有害物の抑制などにより各種腸疾患からリスクの回避が行われる・・」(1頁右下欄13行?2頁左上欄3行)参照。)
さらに,刊行物1の例3(特に【表1】)には,引用発明の乾燥シリアル製品の25℃8週貯蔵の結果は,「細胞数は約10^(7) cfu/gで実質的に不変」(摘示1c)であり,非冷蔵温度で長期の有効期限を有することが明記されている。

そうすると,本願補正発明の上記効果は,刊行物1の記載事項及び上記周知事項から,当業者が予測し得る効果であり,格別顕著な効果であるということはできない。

(2-6)独立特許要件のまとめ

したがって,本願補正発明は,その優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明及び本願優先日前の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって,本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから,請求項1についての補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。

3 補正の却下の決定のむすび

以上のとおり,請求項1についての補正は,平成18年改正前特許法第126条第5項の規定に適合しないから,本件補正は,その余の点を検討するまでもなく,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1 本願発明

平成21年4月28日付けの手続補正は,上記のとおり却下されることとなったので,この出願の請求項1ないし11に係る発明は,平成20年12月2日付けの手続補正により補正された明細書の記載からみて,特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「脂質をベースとする焼成されない組成物と焼成部分からなる焼成製品であって,該脂質をベースとする組成物は本質的に水分を含まず且つ10^(9)?10^(12)CFU(コロニー形成単位)/gの濃度の凍結乾燥した乳酸菌生菌および10?40重量%の濃度の融点が30℃を越えるショートニングを含み,該焼成部分は1種以上の非消化性の繊維様物質を含むことを特徴とする焼成製品。」

2 原査定の拒絶の理由の概要

本願発明についての原査定の拒絶の理由の概要は,本願発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

特開平10-191916号公報(「第2 2(2)(2-2)ア」に示した刊行物1と同じ)
以下,この刊行物を,「刊行物1」と続けて用いて述べる。

3 刊行物の記載事項

前記「第2 2(2)(2-2)イ」に記載したとおりである。

4 刊行物1に記載された発明

前記「第2 2(2)(2-3)」に記載したとおりである。

5 対比・判断

本願発明は,上記「第2 2(2)(2-4),(2-5)」で検討した本願補正発明から,「焼成製品」の限定事項である「クリームサンドイッチビスケット形態の」との発明特定事項を省き,本願補正発明の「乳酸菌」の限定事項である「該乳酸菌がストレプトコッカス・サーモフィルスおよびラクトバチルス・アシドフィルスよりなる群から選択される」との発明特定事項も省くものである。

そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の発明特定事項を減縮したものに相当する本願補正発明が,前記「第2 2(2)(2-4),(2-5)」に記載したとおり,この優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,この優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび

以上のとおり,本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その余について言及するまでもなく,この出願は,拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-27 
結審通知日 2012-01-10 
審決日 2012-02-01 
出願番号 特願平11-353892
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A21D)
P 1 8・ 575- Z (A21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村上 騎見高冨士 良宏  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 齊藤 真由美
関 美祝
発明の名称 シンバイオティック機能性食品  
代理人 大崎 勝真  
代理人 大崎 勝真  
代理人 小野 誠  
代理人 川口 義雄  
代理人 小野 誠  
代理人 川口 義雄  

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