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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B65G |
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管理番号 | 1258629 |
審判番号 | 不服2011-1536 |
総通号数 | 152 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-08-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-01-21 |
確定日 | 2012-06-13 |
事件の表示 | 特願2005-511400「ボールトランスファユニットおよびボールテーブル」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 1月13日国際公開、WO2005/003001〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本件出願は、2004年7月1日(優先権主張2003年7月1日、日本国)を国際出願日とする日本語でされた国際特許出願であって、2005年2月1日付けで特許協力条約第34条(2)(b)の規定に基づく補正がなされ、平成18年3月23日付けで国内書面が提出され、平成22年5月7日付けで拒絶の理由が通知され、同年8月11日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年9月16日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされ、これに対し、平成23年1月21日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年3月7日付けで審判請求書の請求の理由を補正する手続補正書(方式)が提出されたものである。 第2.本願発明 本件出願の請求項1ないし8に係る発明は、平成22年8月11日付けで補正された明細書及び特許請求の範囲、並びに、願書に最初に添付した図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載されたとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「【請求項1】 半導体ウェハおよびフラットパネルディスプレィ製造用基板ガラスを含む被搬送物をその搬送面に沿って任意の方向に変位可能に支持するためのボールトランスファユニットであって、 半球状に窪む座面を有し、PAI,PBI,PCTFE,PEEK,PEI,PI,PPS,メラミン樹脂,芳香族ポリアミド樹脂の何れかにて形成された本体と、 この本体の前記座面にそれぞれ転動自在に当接し、PAI,PBI,PCTFE,PEEK,PEI,PI,PPS,メラミン樹脂,芳香族ポリアミド樹脂,酸化アルミニウム,酸化ジルコニウム,窒化ケイ素,ステンレス鋼の何れかにて形成された複数の小ボールと、 これら複数の小ボールに転動自在に当接し、PAI,PBI,PCTFE,PEEK,PEI,PI,PPS,メラミン樹脂,芳香族ポリアミド樹脂の何れかにて形成された1個の大ボールと、 前記本体に取り付けられて前記大ボールを保持すると共にこの大ボールと前記本体の座面との間に前記小ボールを保持するカバーと を具えたことを特徴とするボールトランスファユニット。」 第3.引用文献に記載された発明 1.引用文献1に記載された発明 (1)引用文献1に記載された事項 本件出願の優先日前に頒布された刊行物であって原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-164078号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次のA.ないしD.の事項が図面とともに記載されている。 A.「【特許請求の範囲】 【請求項1】 板材加工機のテーブル上面に多数配設するフリーボールベアリングにおいて、フリーボールベアリングを構成するメインボール、小ボール、及び取付台を合成樹脂で形成したことを特徴とする板材加工機のフリーボールベアリング。」(【特許請求の範囲】) B.「【0001】 【産業上の利用分野】本発明はパンチプレス等の板材加工機におけるテーブル上に配設するフリーボールベアリングの構成に関する。 【0002】 【従来の技術】従来、パンチプレスのテーブルは中央を固定して、左右のサイドテーブルを前後に移動可能として、該サイドテーブルの前端にクロススライドを配置して、該クロススライド上にワークホルダーを配置して、該ワークホルダーにてワークを把持するように構成している。そして、このワークホルダーに把持されたワークはテーブル上を搬送されて、所定の位置で停止して孔開け加工が行われるのであるが、ワークを搬送するときにワークの下面とテーブル上面との間では滑りながら配送されるので、傷付くおそれがあり、摩擦抵抗等も生じるために、テーブル上には多数のフリーボールベアリングが配設されて、ワークがテーブル上面を容易に搬送できるように構成していたのである。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】上記したテーブル上に配設されたフリーボールベアリングは、主に金属によって構成されており、鋼球よりなる転動体の上方一部を露出して回転自在に支持して、ワークをその上部で受けて前後左右動自在にできるようにしていたのであるが、フリーボールベアリングの構成物が金属で構成されているために、ワークをテーブル上に載置したときの音やテーブル上を移動させた時の音が大きく、その移動時に摩擦等により傷付くこともあったのである。また、転動体の回転抵抗を低減し、その状態が持続できるように含油フェルトを付設して潤滑するようにしていたので、定期的なメンテナンスが必要となり、テーブル上を摺動させた時に、転動体によって裏面に油の筋が付いたりしていたのである。」(段落【0001】ないし【0003】) C.「【0009】そして、前記センターテーブル2及びサイドテーブル3L・3R上面にはそれぞれ一定間隔をおいて本発明のフリーボールベアリング10・10・・・が多数の配設されており、ワークホルダー6・6に挟持したワークをテーブル上で傷付けずに容易に搬送できるようにしている。 【0010】前記フリーボールベアリング10の構成は図2に示すように、取付台13の両側または外周上部にフランジ部13aを設けて、下部取付台13の本体をテーブル上面に設けた取付部へ上から挿入して固定するようにしている。該取付台13の中央上には半球状の凹部13cが形成され、該凹部13c内に小ボール14・14・・・が凹部13c表面を略覆う程度に並べて内装して、該小ボール14・14・・・上に大径のメインボール15を載せて凹部13c内で回転自在に内装される。尚、該メインボール15が凹部13cより容易に出ないように取付台13上部に縁部13dが形成されている。 【0011】そして、このように構成したフリーボールベアリング10の取付台13、小ボール14、メインボール15はいずれも合成樹脂、例えば、ポリウレタンやポリアセタール(ジュラコン・商標名)等で構成さている。つまり、従来のようにいずれも金属製で構成されていると、ワーク移動時の騒音が大きくなっていたが、樹脂製とすることによって騒音を低下することができ、数デシベル低減することができる。また、フリーボールベアリングのメインボールが鋼球で、ワークの材質が軟鋼材やアルミ材や鏡面仕上したワークであって、このワークをテーブルに押し当てて移動させると、ワークの当接面において傷や凹みが生じていたが、本発明のオール樹脂製のフリーボールベアリング10を用いて同様にワークを移動させた場合であっても、傷付くことがないのである。また、金属製のフリーボールベアリングの場合一つが100?150gであったのが、合成樹脂とすることによって50g程度に軽量化することが可能となり、通常テーブル上には200個程使用するので、テーブルを軽量化することができ、サイドテーブル3L・3Rの移動が容易となって応答性も向上できる。」(段落【0009】ないし【0011】) D.「【0012】 【発明の効果】本発明は以上の如く構成したので、次のような効果を奏するのである。即ち、フリーボールベアリングを合成樹脂にて構成したことによって、従来に比べて騒音を大幅に低減でき、また、ワーク移動時にフリーボールベアリングによってワークが傷付けられることがなくなり、合成樹脂が有する自己潤滑によって、潤滑油を給油したり、含油フェルト等を設ける必要がなく、メンテナンスフリーとなる。更に、金属製から合成樹脂製とすることによって、重量を軽減でき、テーブルの重量も軽減して、テーブルの移動の応答性を向上することができたのである。」(段落【0012】) (2)引用文献1に記載された事項からわかること 上記(1)A.ないしD.に摘記した事項及び図面の記載から、引用文献1には次のE.ないしI.の事項が実質的に記載されていることがわかる。 E.上記(1)B.の段落【0002】における「ワークを搬送するときにワークの下面とテーブル上面との間では滑りながら配送されるので、傷付くおそれがあり、摩擦抵抗等も生じるために、テーブル上には多数のフリーボールベアリングが配設されて、ワークがテーブル上面を容易に搬送できる」との記載、及び、段落【0003】における「転動体の上方一部を露出して回転自在に支持して、ワークをその上部で受けて前後左右動自在にできる」との記載から、引用文献1に記載された「フリーボールベアリング10」は、ワークをその下面に沿って前後左右動自在に支持するためのものであることがわかる。 F.上記(1)C.に摘記した事項及び図面の記載から、引用文献1に記載された「フリーボールベアリング10」の「取付台13」には、半球状の凹部13cが形成されていることがわかる。また、当該「取付台13」は、ポリアセタール等の合成樹脂にて形成されていることがわかる。 G.上記(1)C.に摘記した事項及び図面の記載から、引用文献1に記載された「フリーボールベアリング10」の「小ボール14・14・・・」は、凹部13cに複数個内装されていることがわかる。また、「小ボール14・14・・・」は、メインボール15と凹部13cとに回転自在に当接していることがわかる。さらに、「小ボール14・14・・・」は、ポリアセタール等の合成樹脂にて形成されていることがわかる。 H.上記(1)C.に摘記した事項及び図面の記載から、引用文献1に記載された「フリーボールベアリング10」の「メインボール15」は、凹部13cに1個内装されていることがわかる。また、「メインボール15」は、複数の小ボール14・14・・・に回転自在に当接していることがわかる。さらに、「メインボール15」は、ポリアセタール等の合成樹脂にて形成されていることがわかる。 I.上記(1)C.に摘記した事項及び図面の記載から、引用文献1に記載された「フリーボールベアリング10」の取付台13の上部には、メインボール15を保持すると共にこのメインボール15と取付台13の凹部13cとの間に小ボール14・14・・・を保持するための「縁部13d」が形成されていることがわかる。 (3)引用文献1に記載された発明 上記(1)及び(2)から、引用文献1には次の発明(以下、「引用文献1に記載された発明」という。)が記載されているといえる。 「ワークをその下面に沿って前後左右動自在に支持するためのフリーボールベアリング10であって、 半球状に形成された凹部13cを有し、ポリアセタール等の合成樹脂にて形成された取付台13と、 この取付台13の前記凹部13cにそれぞれ回転自在に当接し、ポリアセタール等の合成樹脂にて形成された複数の小ボール14・14・・・と、 これら小ボール14・14・・・に回転自在に当接し、ポリアセタール等の合成樹脂にて形成された1個のメインボール15と、 前記取付台13上部に形成されて前記メインボール15を保持すると共にこのメインボール15と前記取付台13の凹部13cとの間に前記小ボール14・14・・・を保持する縁部13dと を具えたフリーボールベアリング10。」 2.引用文献2に記載された発明 (1)引用文献2に記載された事項 本件出願の優先日前に頒布された刊行物であって原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-11620号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次のA.ないしF.の事項が図面とともに記載されている。 A.「【特許請求の範囲】 【請求項1】 同一径よりなる多数の合成樹脂製ボールを基板上に回転自在に配設し、被搬送物を隣り合う前記合成樹脂製ボールの周面頂部に沿ってボールの回転によって移送できるようにしたことを特徴とするボールローラー搬送システム。 【請求項2】 ・・・ (省略) ・・・ 【請求項3】 合成樹脂製ボールは、少なくとも周面部はポリイミドの合成樹脂で成形したことを特徴とする請求項1または2記載のボールローラー搬送システム。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項3】) B.「【0001】 【発明の属する技術分野】この発明は、合成樹脂や磁性金属で構成され、潤滑油などの使用を省略し、しかも能率性の高いボールローラー搬送システムに関する。 【0002】 【従来の技術】この種のボールローラー搬送システムは、専ら金属製であり、摩擦力を減少させて接触相手を傷つけないように、また錆を防止し、かつ摩耗粉(パーティクル)を発生しないようにグリスなどの潤滑油の塗布が不可欠であった。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】ところで、このような従来の金属製ボールを用いる上で必要不可欠なグリスなどの潤滑油の塗布には、(1)均一で最小限のグリス塗布に、非常に時間が掛かるという不都合があり、さらに(2)グリスそのものが経年変化でパーティクルとなって、製品に不具合を発生させてしまうという問題があったし、なお、さらに、従来の金属系の摩耗粉(パーティクル)は、I.C製造等の場合、電気的な導電体であるために重大な不具合を与えるという問題や特に真空クリーン状態での金属蒸着装置でも多くの問題があった。 【0004】この発明は、叙上の点に着目して成されたもので、ボールを合成樹脂、特にポリイミド系合成樹脂を用い、また、磁性金属を用いてグリスなどの潤滑油の使用を省きパーティクルなどの発生に基づく使用上の不都合を改善して能率的、効率的な物品等の移送を図れるようにしたボールローラー搬送システムを提供することを目的とする。」(段落【0001】ないし【0004】) C.「【0005】 【課題を解決するための手段】この発明は、上記問題点を下記の構成とすることにより解決したものである。 【0006】(1)同一径よりなる多数の合成樹脂製ボールを基板上に回転自在に配設し、被搬送物を隣り合う前記合成樹脂製ボールの周面頂部に沿ってボールの回転によって移送できるようにしたことを特徴とするボールローラー搬送システム。 【0007】(2)前記(1)記載の合成樹脂製ボールの下部を基板下面より突出させ、このボールの周面下部をベルト、円板など好みの駆動手段と当接連結させて合成樹脂製ボールに回転、駆動力を与えることができるようにしたボールローラー搬送システム。 【0008】(3)合成樹脂製ボールは、少なくとも周面部はポリイミドの合成樹脂で成形したことを特徴とする前記(1)または(2)記載のボールローラー搬送システム。」(段落【0005】ないし【0008】) D.「【0013】 【発明の実施の形態】以下に、この発明の実施の形態について説明する。 【0014】図1(a),(b)はこの発明に係るボールローラー搬送システムの基本構成を示す平面図と側断面図である。 【0015】図において、1は平坦なそして長手方向Lに沿って延びる基板2上に埋設される多数の同径Rの合成樹脂製ボールを示し、各種好みの硬質合成樹脂で成形できるが好ましくは外周部分をポリイミド合成樹脂で成形するのが好ましい。 【0016】そして、基板2の下部を構成する下板2aの上には半球凹状に穿った多数の凹処3に回転自在に合成樹脂製ボール1を整然と長手方向に沿って多数列配設すると共に上板2bによって各ボール1の上部を、それぞれのボール1が同一の突出高さhを保持するように、多数の孔4を穿って被覆してボール1を回転自在に支持させるものである。 【0017】したがって、この所望の被搬送物M、例えばI.C部品その他好みの製品,部品を合成樹脂製ボール1上に載置させれば被搬送物Mの下面は、複数の合成樹脂ボール1の周面頂部Tで点的に接触して支持される。 【0018】この基板2が下向きに傾斜させてあれば、被搬送物Mの重力により下向きの力が働くので合成樹脂製ボール1を自転させて前方に移送できるし、また基板2を密閉された筒状体(図示せず)内に収納し、基板2の長手方向Lに向う吸収またはブローを与えることにより、被搬送物Mは吸引または風力で押されて前記したと同様に合成樹脂製ボール1を自転させて移送される。」(段落【0013】ないし【0018】) E.「【0029】なお、合成樹脂製ボール1は、同一素材による合成樹脂組成物で成形することは勿論のこと、これに代えて中心部分は硬い材料(金属も含む)を用い、外周のみを比較的柔らかい合成樹脂材料を用いた二層ないし多層構造体としても実施できる。」(段落【0029】) F.「【0045】 【発明の効果】この発明によれば、搬送用のボールが、被搬送物との接触部分はボール表面の頂部と点的接触によってフラットに支持できるので、搬送が効率良く行われ、被搬送物を傷つけるという虞れを回避できるという効果がある。」(段落【0045】) (2)引用文献2に記載された事項からわかること 上記(1)A.ないしF.に摘記した事項及び図面の記載から、引用文献2には次のG.ないしJ.の事項が実質的に記載されていることがわかる。 G.上記(1)B.及びD.に摘記した事項及び図面の記載から、引用文献2に記載された「ボールローラー搬送システム」は、I.C部品等の被搬送物Mをその下面に沿って支持するものであることがわかる。また、図1に記載された構造からみて、被搬送物Mを、被搬送物Mの下面を搬送面として、任意の方向に変位可能に支持するものであることがわかる。 H.上記(1)D.に摘記した事項及び図面の記載から、引用文献2に記載された「ボールローラー搬送システム」の「下板2a」は、半球凹状に穿った凹処3を有していることがわかる。 I.上記(1)A.ないしE.に摘記した事項及び図面の記載から、引用文献2に記載された「ボールローラー搬送システム」には、ポリイミド合成樹脂で形成された「合成樹脂製ボール1」が下板2aの凹処3に1つずつ回転自在に当接して具えられていることがわかる。 J.上記(1)D.に摘記した事項及び図面の記載から、引用文献2に記載された「上板2b」は、下板2aに取り付けられて合成樹脂製ボール1を保持するものであることがわかる。 (3)引用文献2に記載された発明 上記(1)及び(2)から、引用文献2には次の発明(以下、「引用文献2に記載された発明」という。)が記載されているといえる。 「I.C部品等の被搬送物Mをその下面に沿って任意の方向に変位可能に支持するためのボールローラー搬送システムであって、 半球凹状に穿った凹処3を有する下板2aと、 この下板2aの前記凹処3に回転自在に当接し、ポリイミド合成樹脂にて形成された合成樹脂製ボール1と、 前記下板2aに取り付けられて前記合成樹脂製ボール1を保持する上板2bと を具えたボールローラー搬送システム。」 第4.対比 本願発明と引用文献1に記載された発明を対比すると、引用文献1に記載された発明における「(ワークの)下面」は、その機能、構造及び技術的意義からみて、本願発明における「(被搬送物の)搬送面」に相当し、以下同様に、「前後左右動自在に支持」は「任意の方向に変位可能に支持」に、「フリーボールベアリング10」は「ボールトランスファユニット」に、「半球状に形成された凹部13c」は「半球状に窪む座面」に、「回転自在に当接」は「転動自在に当接」に、それぞれ相当する。 また、引用文献1に記載された発明における「ワーク」は、「被搬送物」という限りにおいて、本願発明における「半導体ウェハおよびフラットパネルディスプレィ製造用基板ガラスを含む被搬送物」に相当する。 引用文献1に記載された発明における「ポリアセタール等の合成樹脂にて形成された取付台13」は、「合成樹脂にて形成された本体」という限りにおいて、本願発明における「PAI,PBI,PCTFE,PEEK,PEI,PI,PPS,メラミン樹脂,芳香族ポリアミド樹脂の何れかにて形成された本体」に相当し、以下同様に、「ポリアセタール等の合成樹脂にて形成された小ボール14・14・・・」は、「合成樹脂にて形成された小ボール」という限りにおいて、「PAI,PBI,PCTFE,PEEK,PEI,PI,PPS,メラミン樹脂,芳香族ポリアミド樹脂,酸化アルミニウム,酸化ジルコニウム,窒化ケイ素,ステンレス鋼の何れかにて形成された小ボール」に相当し、「ポリアセタール等の合成樹脂にて形成されたメインボール15」は、「合成樹脂にて形成された大ボール」という限りにおいて、「PAI,PBI,PCTFE,PEEK,PEI,PI,PPS,メラミン樹脂,芳香族ポリアミド樹脂の何れかにて形成された大ボール」に相当する。 さらに、引用文献1に記載された発明における「(取付台13上部に形成された)縁部13d」は、「本体に備えられて大ボールを保持すると共にこの大ボールと本体の座面との間に小ボールを保持する部分」という限りにおいて、「(本体に取り付けられる)カバー」に相当する。 してみると、本願発明と引用文献1に記載された発明とは、次の<一致点>で一致し、次の<相違点>で相違する。 <一致点> 「被搬送物をその搬送面に沿って任意の方向に変位可能に支持するためのボールトランスファユニットであって、 半球状に窪む座面を有し、合成樹脂にて形成された本体と、 この本体の前記座面にそれぞれ転動自在に当接し、合成樹脂にて形成された複数の小ボールと、 これら複数の小ボールに転動自在に当接し、合成樹脂にて形成された1個の大ボールと、 前記本体に備えられ前記大ボールを保持すると共にこの大ボールと前記本体の座面との間に前記小ボールを保持する部分と を具えたボールトランスファユニット。」 <相違点> 1.「ボールトランスファユニット」で任意の方向に変位可能に支持する「被搬送物」が、本願発明においては、「半導体ウェハおよびフラットパネルディスプレィ製造用基板ガラスを含む被搬送物」であるのに対し、引用文献1に記載された発明においては、パンチプレス等の板材加工機における「ワーク」である点(以下、「相違点1」という。)。 2.「合成樹脂」にて形成された「本体」、「小ボール」及び「大ボール」がそれぞれ、本願発明においては、「PAI,PBI,PCTFE,PEEK,PEI,PI,PPS,メラミン樹脂,芳香族ポリアミド樹脂の何れかにて形成された本体」、「PAI,PBI,PCTFE,PEEK,PEI,PI,PPS,メラミン樹脂,芳香族ポリアミド樹脂,酸化アルミニウム,酸化ジルコニウム,窒化ケイ素,ステンレス鋼の何れかにて形成された小ボール」及び「PAI,PBI,PCTFE,PEEK,PEI,PI,PPS,メラミン樹脂,芳香族ポリアミド樹脂の何れかにて形成された大ボール」であるのに対し、引用文献1に記載された発明においては、「ポリアセタール等の合成樹脂にて形成された取付台13」、「ポリアセタール等の合成樹脂にて形成された小ボール14・14・・・」及び「ポリアセタール等の合成樹脂にて形成されたメインボール15」である点(以下、「相違点2」という。)。 3.「大ボールを保持すると共にこの大ボールと本体の座面との間に小ボールを保持する部分」に関し、本願発明においては、「カバー」が本体に取り付けられるのに対し、引用文献1に記載された発明においては、「縁部13d」が取付台13上部に形成されている点(以下、「相違点3」という。)。 第5.判断 1.相違点1について 搬送面に沿って任意の方向に変位可能に支持するボールトランスファユニットを、「半導体ウェハ」や「フラットパネルディスプレィ製造用基板ガラス」を含む「被搬送物」に適用することは、例えば、引用文献2(例えば、上記第3.2.(1)B.及びD.を参照。)、及び、本件出願の優先日前に頒布された刊行物であって原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-211717号公報(半導体製造装置の搬送系の例、段落【0020】を参照、以下、「引用文献3」という。)に記載されているように、本件出願の優先日前において周知・慣用の技術(以下、「周知慣用技術1」という。)である。 引用文献1に記載された発明における「フリーボールベアリング10」と、当該周知慣用技術1とは、いずれも「搬送面に沿って任意の方向に変位可能に支持するボールトランスファユニット」である点で同一の技術分野に属するものであることから、引用文献1に記載された発明における「フリーボールベアリング10」の機構にて、パンチプレス等の板材加工機におけるワークのほか、周知慣用技術1である半導体ウェハおよびフラットパネルディスプレィ製造用基板ガラスを含む被搬送物を搬送することで、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは、当業者であれば適宜なし得たことである。 なお、本願発明は、「被搬送物」に関し、「半導体ウェハおよびフラットパネルディスプレィ製造用基板ガラスを含む被搬送物」と特定していることから、「半導体ウェハおよびフラットパネルディスプレィ製造用基板ガラス」に限定されず、引用文献1に記載された発明のようなパンチプレス等の板材加工機におけるワークをも含む、任意の「被搬送物」であるとも認められるため、上記相違点1は相違点ではない、ともいえる。 2.相違点2について 本願発明と引用文献2に記載された発明を対比すると、引用文献2に記載された発明における「I.C部品等の被搬送物M」は、その機能、構造及び技術的意義からみて、本願発明における「半導体ウェハを含む被搬送物」に相当し、以下同様に、「(被搬送物Mの)下面」は「(搬送物の)搬送面」に、「ボールローラー搬送システム」は「ボールトランスファユニット」に、「半球凹状に穿った凹処3」は「半球状に窪む座面」に、それぞれ相当する。 また、引用文献2に記載された発明における「下板2a」は、「半球状に窪む座面を有する」という限りにおいて、本願発明における「本体」に相当する。引用文献2に記載された発明における「合成樹脂製ボール1」の材質である「ポリイミド合成樹脂」は、本願発明における「PI」(例えば、本件出願の明細書の段落【0031】を参照。)であることから、引用文献2に記載された発明における「合成樹脂ボール1」は、「PAI,PBI,PCTFE,PEEK,PEI,PI,PPS,メラミン樹脂,芳香族ポリアミド樹脂の何れかにて形成された」という限りにおいて、「大ボール」に相当する。引用文献2に記載された発明における「上板2b」は、「本体に取り付けられて大ボールを保持する」という限りにおいて、本願発明における「カバー」に相当する。 してみれば、引用文献2に記載された発明は、本願発明の発明特定事項を用いて、次のように表現することができる。 「半導体ウェハを含む被搬送物をその搬送面に沿って任意の方向に変位可能に支持するためのボールトランスファユニットであって、 半球状に窪む座面を有する本体と、 この本体の前記座面に転動自在に当接し、PAI,PBI,PCTFE,PEEK,PEI,PI,PPS,メラミン樹脂,芳香族ポリアミド樹脂の何れかにて形成された大ボールと、 前記本体に取り付けられて前記大ボールを保持するカバーと を具えたボールトランスファユニット。」 引用文献1に記載された発明と引用文献2に記載された発明とは、いずれも「被搬送物をその搬送面に沿って任意の方向に変位可能に支持するためのボールトランスファユニット」であって、従来金属にて形成された大ボールを合成樹脂にて形成することで被搬送物を傷つけないようにしたという点で軌を一にしている。また、引用文献1に記載された発明における「メインボール15」の材質である「ポリアセタール」と、引用文献2に記載された発明における「合成樹脂製ボール1」の材質である「ポリイミド合成樹脂」は、何れもエンジニアリングプラスチックの範ちゅうに属することは、例示するまでもなく、当業者にとって周知の技術的事項である(「ポリアセタール」についても「かたくて丈夫なプラスチックで、金属の代替に用いられる」ことが、「マグローヒル科学技術用語大辞典」(改訂第3版2刷、2001年5月発行、日刊工業新聞社、「アセタール樹脂」の項目参照。)に記載されている。)。してみれば、引用文献1に記載された発明において、被搬送物を搬送するための性能を重視し、「メインボール15」の材質として、機械的強度、耐熱性等の面から高機能を有することがよく知られた、引用文献2に記載された発明における「ポリイミド合成樹脂」を採用するとともに、引用文献1に記載された発明における他の合成樹脂製部材である「取付台13」や「小ボール14・14・・・」についても機械的強度、耐熱性等の観点から「ポリイミド合成樹脂」を採用することで、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。 3.相違点3について ボールトランスファユニットにおいて、大ボールを保持すると共にこの大ボールと本体の座面との間に小ボールを保持するための機構として、本体に取り付けられるカバーを用いることは、例えば引用文献3(例えば、段落【0012】ないし【0019】、図2に記載された、台座5に結合される「蓋6」を参照のこと。)に記載されているように、本件出願の優先日前において、周知・慣用の技術(以下、「周知慣用技術2」という。)である。 引用文献1に記載された発明における「フリーボールベアリング10」と、周知慣用技術2とは、ともに大ボールと小ボールとを有するボールトランスファユニットであり、また、例えば引用文献3の段落【0023】に「ベース1を台座5と蓋6の2つの部品で構成した例を挙げているが、単一部品によって形成することができる。」と記載されるように、ボールトランスファユニットにおいて本体とカバーとを一体で形成するか、別体で形成するかは、当業者が適宜選択可能な事項であるといえることから、引用文献1に記載された発明における取付台13上部に形成された縁部13dに代えて、周知慣用技術2であるカバーを本体に取り付ける技術を採用することで、上記相違点3に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは、当業者であれば適宜なし得たことである。 4.本願発明が奏する作用及び効果 また、本願発明を全体としてみても、その作用効果は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された発明、並びに、周知慣用技術1及び2から当業者が予測できる範囲のものである。 第6.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された発明、並びに、周知慣用技術1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-01-16 |
結審通知日 | 2012-01-17 |
審決日 | 2012-01-30 |
出願番号 | 特願2005-511400(P2005-511400) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B65G)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 嶋田 研司 |
特許庁審判長 |
伊藤 元人 |
特許庁審判官 |
鈴木 貴雄 中川 隆司 |
発明の名称 | ボールトランスファユニットおよびボールテーブル |
復代理人 | 伊藤 勝久 |
復代理人 | 小林 武彦 |
復代理人 | 小林 武彦 |
代理人 | 特許業務法人 谷・阿部特許事務所 |
復代理人 | 伊藤 勝久 |
代理人 | 特許業務法人 谷・阿部特許事務所 |