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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A45D
管理番号 1258635
審判番号 不服2011-27028  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-12-14 
確定日 2012-06-13 
事件の表示 特願2008-519039号「ヘアスタイリング器具」拒絶査定不服審判事件〔平成19年1月4日国際公開、WO2007/000700、平成21年1月22日国内公表、特表2009-501558号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、2006年6月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年6月29日、欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、その請求項1に係る発明は、平成23年8月25に手続補正された、特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。(以下「本願発明」という。)
「スタイルを整えられるべき髪をクランプするためのクランプ部材であって、前記クランプ部材のうちの少なくとも1つが加熱部材を有するクランプ部材を備えるヘアスタイリング器具であって、前記クランプ部材のうちの少なくとも1つが冷却部材を有し、前記冷却部材が、動作方向から見て、前記加熱部材の後に設けられ、前記冷却部材の冷却速度が、制御可能であることを特徴とするヘアスタイリング器具。」

2.引用刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された特表2001-521770号公報(以下「引用刊行物」という。)には、図1?12とともに以下の事項が記載されている。
(1)「【請求項1】 ハンドル部(6,31,53)と、特に髪のカール又はウエーブの加熱およびスタイリング用の好ましくはドーム形状の加熱ゾーン(21)を備える加熱部(8,55)と、スタイリングを施した髪の冷却用の冷却ゾーン(24)を備える冷却部(10,42,56)とを有するヘアスタイリング器具(1,30)であって、
前記加熱ゾーン(21)と前記冷却ゾーン(24)の表面温度間の温度差が、少なくとも80ケルビン、より詳細には100ケルビンとなることを特徴とする、ヘアスタイリング器具。
・・・(中略)・・・
【請求項5】 スタイリングされる髪への押力を生成するプレス手段、例えば髪保持クリップ(9,33,39,57)が設けられるとともに、髪が、前記加熱部(8,55)と前記プレス手段(9,33,39,57)との間へ入れられるように適合されることを特徴とする、
前記請求項の何れか一項に記載のヘアスタイリング器具。
・・・(中略)・・・
【請求項29】 前記髪(64)が、特に髪の根元近くまで、前記加熱部(8)と前記髪保持クリップ(9)との間の前記クランプ域へ入れられ、前記ヘアスタイリング器具をその主軸(18)の周りでおよそ120°から180°回すことにより、前記髪が、前記加熱ゾーン(21)と、前記冷却部(10)の冷却ゾーン(24)の少なくともいくらかの領域に支えられ、続いて、ヘアスタイリング器具(1)が、ユーザーの頭から離れて動かされることにより、前記加熱されてスタイリングされた髪(64)が冷却部(10)の冷却ゾーン(24)で冷却され、これに伴う前記加熱ゾーン(21)と前記冷却ゾーン(24)の表面温度の温度差が、少なくとも80ケルビン,より詳細には100ケルビンとなることを特徴とする、
請求項21から28のいずれか一項に記載の方法。」(特許請求の範囲)
(2)「加熱ゾーンの表面温度と冷却ゾーンの表面温度との温度差は、最低80ケルビン、より詳細には100ケルビンまたはそれ以上である。・・・(中略)・・・本発明の目的は、スタイリングされた、つまりカールさせた髪あるいはストレートにした髪の持続性の改善を達成する。スタイリングを施した髪、特には髪束のカールもしくはウエーブの「フリージング」は、加熱ゾーンと冷却ゾーンの温度差が最低80ケルビンで生ずるので、髪束のカールのかかり具合や、カール、ウエーブの持続性の改善が達成される。この温度差はこの発明の本質部分であり、結果としてカールの持続性改善をもたらす。このように、本発明の目的は、ストレートヘア、カールヘア、ウエーブヘアの処理に有利で好適なヘアスタイリング器具を開示する。」(段落【0006】)
(3)「プレス手段、例えばスタイリングされている髪に押力を働かせるための髪保持クリップが設けられる。髪束を加熱部とプレス手段の間に入れることができる。そうすることにより、髪とこの加熱部の良好な熱接触が得られる一方、他方では髪に作用する張力が生成されるが、これは、ヘアスタイリング器具を、髪の根元から始めて髪束の上まで引き上げる際に、ユーザーが行わなければならないことである。
プレス手段、より詳細にはクリップは、器具のハンドル部または加熱部へ可動に取付けられる。特にクリップの一端は、ピボットによりハンドル部または加熱部へ連結され、スプリングエレメントによって加熱部へ付勢される。また、クリップは、その無負荷不作動位置にあるとき、すなわちクリップと加熱部との間に髪が入っていないとき、クリップと加熱部との間に均一な間隙ができるように、クリップが固定されてもよい。張力は、スプリングエレメントと空隙の大きさを適切に選定して、有利に、所望の大きさに設定可能である。髪束からヘアスタイリング器具を引っ張るのに必要な張力の範囲は、1ニュートンと2ニュートンの間であることが好ましい。」(段落【0010】及び【0011】)
(4)「別の好ましい態様において、冷却部は、アルミニウムのような金属、またはプラスチックでできた部材を備えるか、或いは熱伝導性コーティングおよび/または冷却リブを有する。これによって、先ず加熱されてから冷却部全体を通される髪が最大可能な熱放散を提供することになり、カールを首尾よくスタイリングするのに必要な温度差が調整可能になる。
特に有利な点は冷却部であり、冷却部は、有効に冷却可能な冷却部材、例えば、冷却空気、ペルチェ素子、または類似素子で冷却可能な部材を備える。この種の編成は、特に優れたスタイリング結果とカールの高度な持続性とが、有効に冷却された冷却部材により達成され得るように、特に有利な方法で本発明に従って温度差の調整を可能にする。」(段落【0015】及び【0016】)
(5)「スタイリングされる髪束、特には乾いた髪が先ず加熱部の加熱ゾーンで加熱され、加熱ゾーンの好ましくはド-ム形の表面を使ってスタイリングされ、続いて、加熱およびスタイリングされた髪束が冷却ゾーンで冷却される。本発明によると、加熱ゾーンと冷却ゾーンの表面温度は、両ゾーンの温度差が少なくとも80ケルビン、特には100ケルビンまたはそれ以上となるように設定される。加熱された髪束の十分な冷却、そして既にスタイリングされた髪束、特にはカールした髪束の「フリージング」を可能な限り得ることにより持続性のあるカールを有利に作り出せるようにすべく、本発明の温度差が達成されるかそれを超えさせることが必要となる。」(段落【0026】)
(6)「加熱ゾーン背後(つまり髪がクランプ域を離れた後を意味する)での髪の動きの方向は、加熱ゾーン内での髪の動きの方向と同じである。このことは、均一で、有利に低い張力を髪に加えることを可能にする。このようにして、髪の動く方向の変化は有利に避けられる。カールの形と持続的なセットは、ヘアスタイリング器具、特にはスタイリング部材と髪との相対速度の影響を受ける。したがって、スタイリング部材と髪のゆっくりした動きにより小さいサイズのスタイリングカールが有利に得られ、他方、早く動かして通すと、大まかにスタイリングされたカールまたはウエーブが得られる。
・・・(中略)・・・
代替として、本発明の方法は、例えば、加熱ゾーンと冷却ゾーンを前後して配置した平面域として構成することにより、カールした髪またはウエーブした髪をストレートにすることができる。」(段落【0030】?【0032】)
(7)「本発明のヘアスタイリング器具1(図1)は一般的に、ハンドル部6とスタイリング部材7を含み、スタイリング部材7は、加熱部8、冷却部10、およびクリップ9を含む。・・・(中略)・・・その後端で、クリップ9は、スプリングエレメント12によってハンドル部6内に支持される押ボタン11を有する。
・・・(中略)・・・
スタイリング部材7(図2)の断面は実質的に楕円であり、本質的に同サイズに2個の半割で形成される。・・・(中略)・・・一方の半割(下側のもの)は冷却部10であり、上側半割は加熱部8である。加熱部8の上面にアーチ形クリップ9が設けられる。
PTC素子20は加熱部8の内部に配置される。加熱部8のドーム形外面は加熱ゾーン21を形成し、・・・(中略)・・・加熱ゾーン21に対して間隙22が取れるようにクリップ9を取付けることが可能である。加熱部8とクリップ9は、互いに対向して形状が実質的に合同の表面を有する。・・・(中略)・・・
冷却部10の内側には、冷却部の長さにわたって貫通する冷却チャネル23がある。冷却部10のドーム形外面は冷却ゾーン24を形成する。・・・(中略)・・・加熱部8の表面温度は約120℃から145℃が有利である。図1に示すように、冷却チャネル23を通って流れ、ファンホイール16により生成される冷却空気は、本発明による、加熱ゾーン21と冷却ゾーン24との二つの表面温度間の温度差が最低80ケルビンになるように冷却部10を原則的に室温まで冷却する。」(段落【0035】?【0040】)
(8)「スタイリングしようとしている髪束64を髪の根元63近傍まで、間隙22に入れて、加熱部8とクリップ9との間でクランプする。・・・(中略)・・・続いてユーザーは、ハンドル部6を回転方向65へ約180°回して、押ボタン11(図12)が器具の下側になるようにする。この編成において、スタイリングされる髪束64は、クリップ9により加熱部8の加熱ゾーン21に押しつけられる一方、他方では、髪束64が、冷却部10の冷却ゾーンのところに入れられる。カールを作るために、ヘアスタイリング器具を髪の根元63から移動方向66へ引っ張る。そうする中で、スタイリングされる髪束64は,まず加熱ゾーン21で加熱され、スタイリングされ、次に冷却部10の冷却ゾーン24の上を滑るとともに、加熱部とクリップ間で作られたカールは、加熱部8と冷却部10との間の、本発明による温度差によって「フローズン」される。」(段落【0051】)

上記(1)?(8)の記載事項及び図1?11の図示内容を総合すると、引用刊行物には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「カール又はウエーブの加熱およびスタイリング用のド-ム形又は髪をストレートにする平面域として構成される加熱部8及びペルチェ素子や冷却空気等を備える冷却部10を有し、
髪が入っていないとき加熱部8との間に均一な間隙22ができ、スプリングエレメントによって加熱部8へ付勢され、髪束からヘアスタイリング器具を引っ張るのに必要な張力の範囲が1ニュートンと2ニュートンの間であるようにスプリングエレメントと空隙22の大きさを適切に選定されている、スタイリングされている髪に押力を働かせるための髪保持クリップ9を備える、ヘアスタイリング器具であって、
髪束64を間隙22に入れて、加熱部8とクリップ9との間でクランプし、クリップ9により加熱部8の加熱ゾーン21に押しつけられる、とともに冷却部10の冷却ゾーンのところに入れられ、ヘアスタイリング器具を引っ張って、加熱ゾーン21で加熱され、スタイリングされ、次に冷却部10の冷却ゾーン24の上を滑って、加熱部とクリップ間で作られたカールやスタイリングが、加熱部8と冷却部10との間の温度差によってフローズンされるもので、
加熱部8と冷却部10の表面温度は、温度差が少なくとも80ケルビン、特には100ケルビンまたはそれ以上となるように設定され、温度差が調整可能である、ヘアスタイリング器具。」

3.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、後者の「加熱部8」は、その機能・構成からみて、前者の「加熱部材」に相当し、後者の「ペルチェ素子や冷却空気等を備える冷却部10」は前者の「冷却部材」に相当する。
また、後者の「髪保持クリップ9」は「髪が入っていないとき加熱部8との間に均一な間隙22ができ、スプリングエレメントによって加熱部8へ付勢され、髪束からヘアスタイリング器具を引っ張るのに必要な張力の範囲が1ニュートンと2ニュートンの間であるようにスプリングエレメントと空隙22の大きさを適切に選定されている、スタイリングされている髪に押力を働かせるための」ものであるから、「加熱部8及びペルチェ素子や冷却空気等を備える冷却部10」と合わせて、前者の「スタイルを整えられるべき髪をクランプするためのクランプ部材」に対応し、かつ後者の「加熱部8及びペルチェ素子や冷却空気等を備える冷却部10」は、前者の「クランプ部材のうちの」「1つが加熱部材を有する」とともに「クランプ部材のうちの」「1つが冷却部材を有」する「クランプ部材」にも相当する。
後者の「髪束64を間隙22に入れて、加熱部8とクリップ9との間でクランプし、クリップ9により加熱部8の加熱ゾーン21に押しつけられる、とともに冷却部10の冷却ゾーンのところに入れられ、ヘアスタイリング器具を引っ張って、加熱ゾーン21で加熱され、スタイリングされ、次に冷却部10の冷却ゾーン24の上を滑って、加熱部とクリップ間で作られたカールやスタイリングが、加熱部8と冷却部10との間の温度差によってフローズンされる」との作用及び使用方法は、髪束64の動きに於ける加熱部8と冷却部10の配置に関して、前者の「冷却部材が、動作方向から見て、加熱部材の後に設けられ」ることに対応する。

そうすると、両者は、
「スタイルを整えられるべき髪をクランプするためのクランプ部材であって、前記クランプ部材のうちの1つが加熱部材を有するクランプ部材を備えるヘアスタイリング器具であって、前記クランプ部材のうちの1つが冷却部材を有し、前記冷却部材が、動作方向から見て、前記加熱部材の後に設けられるヘアスタイリング器具。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点:本願発明は「冷却部材の冷却速度が、制御可能である」のに対して引用発明は「加熱部8と冷却部10の表面温度は、温度差が少なくとも80ケルビン、特には100ケルビンまたはそれ以上となるように設定され、温度差が調整可能である」ものの、上記のようなものかどうか不明である点。

そこで、上記相違点について検討する。
髪をクランプし加熱することで、カールやストレートにするヘアーアイロンにおいて、髪の質や作業速度、求める癖、整髪剤や行う作業の種類等に応じて、加熱温度・加熱量等を制御することは、例えば、特開2005-87258号公報、特開2005-87629号公報、国際公開第2005/011434号(特許第4412283号公報参照)や米国特許第4,841,127号明細書等に示されるように、従来周知である。
そして引用発明においてもその加熱を制御しようとすることは、当業者が通常考慮することといえる。
一方、引用発明は「加熱部8と冷却部10との間の温度差によってフローズンされる」ものであって、「加熱ゾーンと冷却ゾーンの表面温度は、両ゾーンの温度差が少なくとも80ケルビン、特には100ケルビンまたはそれ以上となるように設定され、温度差が調整可能」とするものであるから、加熱部8の加熱状況を変化させても、上記温度差となるように、冷却部10での温度を調整すべく、冷却速度を制御可能とすることも当業者が容易に想到できたことといえる。
さらにいうと、より多くの髪を、より速く動かし、その作業速度を上げたり、カールの大きさを大きくする(引用刊行物の記載事項(6)参照。)とき、その負荷が大きいものであるから、その温度及び温度差を維持すべく、加熱部8の加熱速度とともに冷却部10での冷却速度を大きくすることも、当業者が容易になし得たことである。
そもそも、引用発明は、加熱部8と冷却部10との間の「温度差が調整可能である」とするものであるから、調整するために、冷却部10の冷却能力を変化させるように冷却速度を制御可能とすることは、当業者にとって容易である。
なお、引用刊行物の記載事項(6)における「スタイリング部材と髪のゆっくりした動きにより小さいサイズのスタイリングカールが有利に得られ」るとは、「加熱ゾーン背後での髪の動きの方向は、加熱ゾーン内での髪の動きの方向と同じである。このことは、均一で、有利に低い張力を髪に加えることを可能にする。このようにして、髪の動く方向の変化は有利に避けられる。カールの形と持続的なセットは、ヘアスタイリング器具、特にはスタイリング部材と髪との相対速度の影響を受ける。」との記載に続くものであり、「加熱部8の表面温度は約120℃から145℃」(引用刊行物の記載事項(7)参照)であり、「温度差が少なくとも80ケルビン、特には100ケルビンまたはそれ以上となるように設定」されるものであることから、ヘアスタイリング器具のスタイリング部材の加熱部8や冷却部10の形状とこれらを通過する髪束64の通過速度との関係でより小さいサイズのスタイリングカールが得られるというにすぎず、引用刊行物の記載事項(6)が、上記のように判断することを阻害するものではない。かえって速度の異ならせる使用法であって、負荷が変わることを示唆するともいえる。
以上のようであるから、本願発明は、上記周知の事項を参酌すると、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。そして、本願発明の効果が格別であるとはいえない。

4.むすび
以上のように、本願発明は、上記周知の事項を参酌すると、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。そうすると、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-01-18 
結審通知日 2012-01-19 
審決日 2012-01-31 
出願番号 特願2008-519039(P2008-519039)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A45D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 莊司 英史  
特許庁審判長 平上 悦司
特許庁審判官 佐野 遵
青木 良憲
発明の名称 ヘアスタイリング器具  
代理人 笛田 秀仙  
代理人 津軽 進  

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