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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01G
管理番号 1258817
審判番号 不服2009-21936  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-11-11 
確定日 2012-06-21 
事件の表示 特願2003-405353「電解コンデンサ用アルミニウム箔の製造方法。」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月30日出願公開、特開2005-174949〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成15年12月4日(優先日、平成15年11月18日)の出願であって、平成21年3月11日付けの拒絶理由通知に対して、同年5月14日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年8月4日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年11月11日に審判請求がされるとともに手続補正書が提出され、平成23年8月24日付けの当審よりの審尋に対して、同年10月31日に回答書が提出されたものである。
そして、平成24年1月11日付けの当審よりの拒絶理由通知に対して、同年3月19日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2.本願発明に対する判断
1.本願発明
本願の請求項1ないし請求項4に係る発明は、平成24年3月19日に提出された手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項4に記載されるとおりのものであって、そのうちの、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

【請求項1】
「立方体方位率93?99.8%及び耐力10?14.8N/mm^(2)のアルミニウム箔をエッチング処理する、電解コンデンサ中高圧陽極用アルミニウム箔の製造方法であって、前記エッチング処理前のアルミニウム箔の製造方法が、以下の工程1?4:
(1) アルミニウム溶湯から圧延箔を製造する工程1、
(2) 前記圧延箔をロール状にすることによりロール状アルミニウム箔を得る工程2、
(3) 前記ロール状アルミニウム箔を置台により担持する工程3、
(4) 前記ロール状アルミニウム箔を、真空又は不活性ガスの雰囲気下、450℃以上で焼鈍する工程4、
を順に含むことを特徴とする、電解コンデンサ中高圧陽極用アルミニウム箔の製造方法。」

2.当審の拒絶理由
平成24年1月11日付けで当審から通知した拒絶の理由の概要は、次のとおりである。

「2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



引 用 文 献 等 一 覧
1.特開平11-036053号公報
2.再公表特許第01/043150号
3.特開2003-119555号公報

・請求項 :1
・引用文献等:1?3
・備考
……(中略)……
エ.してみれば、引用発明になる「高圧用電解コンデンサの陽極用アルミニウム箔」を、「中圧用」の「電解コンデンサ」の「陽極用」としても用いることは、当業者が適宜なし得たものと認められる。」

3.引用例の表示
引用例1:特開平11-036053号公報
引用例2:再公表特許第01/043150号
引用例3:特開2003-119555号公報

4.引用例1の記載、引用発明、引用例2及び引用例3の記載
4-1.引用例1の記載
当審の拒絶理由通知で「文献1」として引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平11-036053号公報(以下「引用例1」という。)には、「電解コンデンサ用アルミニウム材の製造方法および電解コンデンサ用アルミニウム材」(発明の名称)に関して、次の記載がある(下線は、参考のため、当審において付した。以下、他の刊行物についても同様。)。

ア.特許請求の範囲
・「【請求項1】 純度99.9wt%以上のアルミニウム材を480?620℃の温度で焼鈍する焼鈍工程と、
前記焼鈍工程の後、前記アルミニウム材を100℃以下の温度に冷却する冷却工程と、
前記冷却工程の後、前記アルミニウム材を200?300℃の温度に加熱する熱処理工程とを具備することを特徴とする電解コンデンサ用アルミニウム材の製造方法。」

イ.産業上の利用分野
・「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、特に、高圧用電解コンデンサの陽極として好適な静電容量を持つアルミニウム箔並びにその製造方法に関する。」

ウ.発明が解決しようとする課題
・「【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかし、前者の技術は、エッチングピットの密度が増加するものの、エッチングピット以外の部分の表面溶解も激しく、電流がエッチングピットの成長に有効に使われなかったり、箔厚の減少によりピットの長さが不十分と言った問題が残されている。すなわち、表面積拡大が十分ではない。
【0006】又、後者の技術は、エッチング時における粗大孔の発生が防止され、均一なピットが形成されるものの、酸化皮膜の厚さを制御するのみでは、ピット数(密度)の増加には十分でなかった。すなわち、表面積拡大が十分ではない。従って、本発明が解決しようとする課題は、表面積の拡大が大きく、高い静電容量が得られる高圧用電解コンデンサの陽極用アルミニウム箔を提供することである。」

エ.課題を解決するための手段
・「【0009】すなわち、表面にピットの起点になり得る場所を高密度に分布させ、かつ、それ以外の表面の溶解を抑制する方法についての検討を鋭意押し進めて行った結果、480?620℃の焼鈍→100℃以下の冷却→200?300℃の加熱と言う工程を経ることによって、ピットの起点になる欠陥が高密度に導入され、しかもこの欠陥部以外の場所では比較的安定で、表面の溶解が抑えられた酸化皮膜が形成されることを見出すに至り、本発明が達成されたのである。
【0010】本発明において、純度99.9wt%以上のアルミニウムを用いたのは、純度が99.9wt%未満に低下し、不純物の量が増加すると、エッチングによる溶解性が高くなり、ピットの分布が不均一になるからである。従って、純度99.9wt%以上のアルミニウムを用いるのが大事である。好ましくは、99.98wt%以上である。
【0011】尚、強度保持、ピット増加、その他の目的で、例えばFe,Si,Cu,Pb,Na,Bi,in,Sn等の元素が加えられても良い。例えば、5?30ppmのFeが加えられても良い。又、5?30ppmのSiが加えられても良い。又、20?70ppmのCuが加えられても良い。又、0.1?5ppmのPbが加えられても良い。又、0.01?10ppmのNaが加えられても良い。但し、99.9wt%を下回らない範囲であることが必要である。
【0012】本発明において、焼鈍は、(100)面占有率の高い組織とし、エッチングによる表面積拡大効果を高める為に行われる。本発明において、アルミニウム材(箔)の焼鈍温度を480?620℃としたのは、480℃未満の低い温度では、(100)面占有率が十分ではなく、620℃を越えた高い温度では、巻回状態にあるアルミニウム材(箔)同士の焼付きが起き、又、それだけ大きなエネルギーが必要で、高コストなものになるからである。より好ましい焼鈍温度は520?580℃である。
【0013】焼鈍時間は、例えばコイルのように巻回された状態でなければ、短時間でも済む。例えば、1時間のような時間を掛ける必要はない。しかし、焼鈍は、通常、コイルのように巻回された状態で行われる。このような状態で行われた場合、短時間すぎると、内部の部分では十分な焼鈍が行われない事も有る。従って、コイルのように巻回された状態で焼鈍を行う場合には、焼鈍時間を1時間以上とするのが好ましい。焼鈍時間は長くても差し支えない。しかし、12時間を越えても、焼鈍による(100)面占有率向上度は大きく改善されるものではなく、コスト面の問題が起きる。従って、12時間以下とした。より好ましくは8時間以内である。
【0014】焼鈍は、通常、真空中または不活性ガス雰囲気中で行われる。そして、焼鈍に先立って、前処理として、1回以上の中間焼鈍が行われても良い。焼鈍されたアルミニウム材(箔)は冷却される。この冷却は100℃以下の温度に冷却されれば良い。100℃以下の温度であれば、室温(冬季の約5℃?夏季の30℃)より低い温度であっても良い。但し、室温より低い温度に冷却するには余分なエネルギーを必要とするから、コスト高なものになる。従って、冷却温度の下限は、通常は、室温である。
【0015】冷却工程は、これまでにあっても行われていた。しかし、次工程の200?300℃の温度に加熱する熱処理工程を考慮すると、本発明の冷却工程はなかったとも言える。すなわち、本発明の冷却工程と次の熱処理工程との共同作用により、ピットの起点になる欠陥が高密度で均一に導入され、しかもこの欠陥部以外の場所では比較的安定で、表面の溶解が抑えられた酸化皮膜が形成されるのである。
【0016】冷却温度が100℃を越えた高い温度の場合、すなわち100℃を越えた温度、例えば130℃で冷却を中止し、この後200℃以上の高い温度で熱処理を施しても、ピットの起点になる欠陥が高密度で均一に導入されない。従って、100℃以下に冷却することが大事である。より好ましい冷却温度の上限値は70℃である。すなわち、70℃以下に冷却するのが好ましい。
【0017】100℃(好ましくは70℃)以下に冷却保持する時間は、長くても良いが、長く保持する必要はない。すなわち、焼鈍されたアルミニウム材(箔)が100℃以下の温度に、一度、冷却されれば良いものであるから、その保持時間に絶対的な制約はない。但し、巻回されたアルミニウム材(箔)が100℃以下の温度に確実に冷却と言うことを考慮すると、冷却保持時間は1?24時間程度の時間が好ましい。
【0018】100℃(好ましくは70℃)以下に冷却する時の冷却速度は速くても良いが、通常、10?1×10^(6) ℃/時間程度である。例えば、アルミニウム材(箔)がコイルから巻き解かれた状態で冷却される場合の冷却速度は、1×10^(3) ?1×10^(6) ℃/時間と言ったように大きなものである。これに対して、アルミニウム材(箔)がコイルの巻回状態で冷却される場合の冷却速度は、10?50℃/時間と言ったように小さなものである。どちらの状態で冷却されても良いが、冷却効率の点からは、コイルから巻き解かれた状態(巻き解き状態)で冷却される方が好ましい。又、巻き解かれた状態(巻き解き状態)で冷却した場合、温度変化が急激になされることから、導入される欠陥が一層高密度になり、好ましい。
【0019】100℃(好ましくは70℃)以下に冷却された後、再度、加熱処理が行われる。この時の温度は200?300℃である。これは、200℃未満の温度では、本発明が目的とする効果が得られない。300℃を越えた高い温度でも、本発明が目的とする効果が得られない。より好ましい温度は220?280℃である。
【0020】熱処理は、アルミニウム材(箔)がコイルから巻き解かれた状態(巻き解き状態)にある場合には、短時間で済む。例えば、10秒と言った短時間でも十分な効果がある。これに対して、アルミニウム材(箔)がコイルの巻回状態で加熱処理される場合の時間は、1時間以上でなければ、全体の熱処理が行われ難い。しかし、12時間を越えての熱処理が行われても、本発明が目的とする効果の向上度は飽和状態のものになるから、コスト面を考慮すると12時間以内が好ましい。より好ましくは8時間以内である。
【0021】上記焼鈍は真空中または不活性ガス雰囲気中で行われることが好ましいのに対して、200?300℃の熱処理工程は、真空中または不活性ガス雰囲気中のみならず、大気中で行われても良い。冷却工程、加熱工程の効率を考慮するならば、大気中で行われるのが好ましい。尚、焼鈍に先立って、アルミニウム材(箔)を次亜塩素酸塩含有溶液、特に次亜塩素酸塩およびアルカリ含有溶液で処理(浸漬とかスプレーによって溶液をアルミニウム材(箔)に接触)しておくことが好ましい。このようにした場合、その後の脱水反応による酸化皮膜中に無数の微細な欠陥が形成されるようになる。そして、電解エッチングによってエッチングピットが均一に発生し、表面積が大幅に増加し、高い静電容量が得られるようになる。かつ、局部的に大きなエッチングピットが形成されることもないので、折り曲げ強度も高いものとなる。」

オ.発明の実施の形態
・「【0023】
【発明の実施の形態】本発明になる電解コンデンサ用アルミニウム材(箔)の製造方法は、純度99.9wt%以上のアルミニウム材(箔)を480?620℃の温度で焼鈍する焼鈍工程と、前記焼鈍工程の後、前記アルミニウム材(箔)を100℃以下の温度に冷却する冷却工程と、前記冷却工程の後、前記アルミニウム材(箔)を200?300℃の温度に加熱する熱処理工程とを具備する。又、純度99.9wt%以上のアルミニウム材(箔)を巻回状態にて480?620℃の温度で焼鈍する焼鈍工程と、前記焼鈍工程の後、前記アルミニウム材(箔)を100℃以下の温度に冷却する冷却工程と、前記冷却工程の後、前記アルミニウム材(箔)を巻解き状態にて200?300℃の温度に加熱する熱処理工程とを具備する。
【0024】以下、更に詳しく説明する。アルミニウム材は、純度99.9wt%以上(特に、99.98wt%以上)のものである。純度99.9wt%以上(特に、99.98wt%以上)のものであれば、純アルミニウムでも、合金でも良い。すなわち、Fe,Si,Cu,Pb,Na,Bi,in,Sn等の元素を含有するものでも良い。例えば、5?30ppmのFeを含有していても良い。又、5?30ppmのSiを含有していても良い。又、20?70ppmのCuを含有していても良い。又、0.1?5ppmのPbを含有していても良い。又、0.01?10ppmのNaを含有していても良い。
【0025】この純度が99.9wt%以上のアルミニウム材に熱間圧延及び冷間圧延を施し、80?110μmの厚さのアルミニウム箔を得る。この後、圧延油を綺麗に除去する為、脱脂処理を行う。脱脂処理は公知の方法を用いることが出来る。例えば、アルカリ性浴を用いた脱脂処理、酸性浴を用いた脱脂処理、或いは有機溶剤を用いた脱脂処理を適宜採用できる。
【0026】脱脂処理後、水洗する。水洗後、必要に応じて、アルミニウム箔を次亜塩素酸ソーダ等の次亜塩素酸塩及び苛性ソーダ等のアルカリを含有する水溶液中に浸漬する。これらの含有量は、水溶液のpHが9?12、特に10?11、電気伝導率が1?10mS/cm、特に5?7mS/cmになるよう設定されたものである。具体的には、次亜塩素酸ソーダが1×10^(-3)?5×10^(-1)mol/l、苛性ソーダが5×10^(-4)?1×10^(-2)mol/lである。上記浸漬時の温度は、40?80℃、特に50?65℃であり、浸漬時間は15?600秒、特に30?180秒である。
【0027】所定時間経過後、アルミニウム箔を取り出し、480?620℃(特に、520?580℃)の温度で焼鈍する。焼鈍時間は、巻回された状態でなければ、短時間で済む。例えば、1時間以下でも良い。しかし、コイルのように巻回した状態で行う場合には、焼鈍時間は1時間以上を要する。但し、12時間以下(特に、8時間以下)である。焼鈍は、非酸化性雰囲気、例えば真空中または不活性ガス雰囲気中で行われる。
【0028】尚、焼鈍に先立って、前処理として、1回以上の中間焼鈍が行われても良い。焼鈍の後、アルミニウム箔を100℃以下(特に、70℃以下)の温度に冷却する。100℃以下(特に、70℃以下)に冷却保持する時間は、1?24時間程度である。冷却速度は10?1×10^(6) ℃/時間程度である。特に、アルミニウム箔がコイルから巻き解かれた状態(巻き解き状態)で冷却される場合の冷却速度は、1×10^(3) ?1×10^(6) ℃/時間であり、コイルの巻回状態で冷却される場合の冷却速度は、10?50℃/時間である。
【0029】100℃以下に冷却した後、アルミニウム箔は200?300℃(特に、220?280℃)の温度に加熱処理される。200?300℃(特に、220?280℃)の温度に加熱した時の保持時間は、アルミニウム箔がコイルから巻き解かれた状態(巻き解き状態)にある場合には、例えば10秒と言った短時間でも良い。これに対して、アルミニウム箔がコイルの巻回状態で加熱処理される場合の時間は、1時間以上である。しかし、12時間以下、特に8時間以下である。
【0030】上記200?300℃の熱処理は、真空中または不活性ガス雰囲気中と言った非酸化性雰囲気下で行うのみならず、大気中で行うことも出来る。そして、熱処理後、アルミニウム箔に公知の電解エッチング処理を施し、高圧用電解コンデンサの陽極用アルミニウム箔を得、高圧用電解コンデンサを得た。以下、具体的実施例を挙げて本発明を説明する。」

カ.実施例
・「【0031】
【実施例】半連続鋳造法により下記の表-1に示す純度のスラブを作製し、そして通常の条件で均質化処理、面削、熱間圧延を行った後、適宜中間焼鈍を加えながら、冷間圧延を行って厚さ0.1mmのアルミニウム箔を得た。この後、脱脂、水洗などを経た後、表-1に示す条件で焼鈍、冷却、加熱処理を行った。
【0032】そして、75℃の電解エッチング液(HCl;1mol/l,AlCl_(3);0.2mol/l)中で電流密度0.1A/cm^(2)、時間60秒の条件下で第1段直流電解エッチングを行い、次いで75℃の電解エッチング液(HCl;1mol/l,AlCl_(3);0.2mol/l)中で電流密度0.1A/cm^(2)、時間600秒の条件下で第2段直流電解エッチングを行った。」

・段落【0033】の表-1には、「熱処理」を、「No9」の実施例は277℃、5時間、雰囲気Ar、巻解き無しの条件下で、「No11」の実施例は296℃、5時間、雰囲気Ar、巻解き無しの条件下で、それぞれ行うことが記載されている。

・「【0038】これに対して、480?620℃の温度で焼鈍した後、100℃以下の温度に冷却し、そして200?300℃の温度に加熱する熱処理工程を経て作製されたアルミニウム箔が用いられても、純度99.9wt%未満のアルミニウム箔である場合、比較例1が示す通り、静電容量が小さい。又、純度99.9wt%以上のアルミニウム箔を焼鈍した後、100℃以下の温度に冷却し、そして200?300℃の温度に加熱する熱処理工程を経て作製されたアルミニウム箔が用いられても、焼鈍温度が480℃未満の温度である場合には、比較例2が示す通り、静電容量が小さい。焼鈍温度が620℃を越えた高い温度である場合には、場合によっては静電容量が高い電解コンデンサを得ることが出来たものの、コイル(巻回)状態で焼鈍した為、アルミニウム箔同士に焼き付きが起こり、静電容量が高い電解コンデンサを生産性良く得ることが出来なかった。すなわち、焼き付きが起きた部分のアルミニウム箔を用いて作製した電解コンデンサは、静電容量が小さいものであった。」

4-2.引用発明
ア?カから、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「Feを5?30ppm、Siを5?30ppm、Cuを20?70ppm、Pbを0.1?5ppm、Naを0.01?10ppm、それぞれ、含有していても良い、純度99.9wt%以上のアルミニウム材のスラブを作製する工程と、
前記アルミニウム材のスラブを通常の条件で均質化処理する工程と、
前記均質化処理したアルミニウム材のスラブに熱間圧延を行った後、適宜中間焼鈍を加えながら、冷間圧延を行って、80?110μmの厚さのアルミニウム箔を得る工程と、
この後、脱脂処理を行った後、水洗する工程と、
前記水洗の後、前記アルミニウム箔を、コイルのように巻回した状態で、真空中または不活性ガス雰囲気中において、(100)面占有率が十分であるように480℃以上の温度で、前記巻回状態にある前記アルミニウム箔同士の焼付きが起きないように620℃以下の温度で、1時間以上12時間以下、焼鈍する工程と、
前記焼鈍の後、前記アルミニウム箔を、好ましくはコイルから巻き解かれた状態で、100℃以下の温度に冷却する工程と、
前記冷却の後、前記アルミニウム箔を、巻回状態で、不活性ガス雰囲気中において、277?296℃の温度で、5?7時間、熱処理を行う工程と、
前記熱処理の後、前記アルミニウム箔に電解エッチング処理を施して、高圧用電解コンデンサの陽極用アルミニウム箔を得る工程と、
からなることを特徴とする高圧用電解コンデンサの陽極用アルミニウム箔の製造方法。」

4-3.引用例2の記載
当審の拒絶理由通知で「文献2」として引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である再公表特許第01/043150号(以下「引用例2」という。)には、「電解コンデンサ中高圧陽極用アルミニウム合金クラッド箔」(発明の名称)に関して、次の記載がある。

ア.「本発明の電解コンデンサ中高圧陽極用アルミニウム合金クラッド箔は、アルミニウム外層-アルミニウム芯層-アルミニウム外層の3層からなる電解コンデンサ中高圧陽極用アルミニウム合金クラッド箔であって、
(1)当該芯層の厚さがクラッド箔厚さの2?30%であり、
(2)クラッド箔の引張強度が28N/mm^(2)以上であり、
(3)当該外層の立方体方位占有率が80%以上であり、
(4)直流電解エッチング後において当該芯層を貫通するトンネルピットが存在しない、
ことを特徴とする。」(第8頁第7?15行)

イ.「表4にクラッド箔の作製条件、クラッド箔の芯材比率、引張強度、立方体方位占有率、エッチング時の溶解減量、エッチド箔の折曲強度及び化成後の静電容量をそれぞれ示す。なお、表4中、溶解減量及び静電容量は、クラッドしていない厚さ110μmの比較箔の結果を100とした場合の相対値で示す。」(第13頁第22?25行)

ウ.表4には、実施例である、試料No.が2、3、7、13?17及び19の試料は、立方体方位占有率が93?97%の範囲内にあることが記載されている。

4-4.引用例3の記載
当審の拒絶理由通知で「文献3」として引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開2003-119555号(以下「引用例3」という。)には、「電解コンデンサ電極用アルミニウム箔及びその製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。

ア.「【発明の属する技術分野】本発明は、粗面化処理に供する電解コンデンサ電極用アルミニウム箔およびその製造方法に関するものであり、特に中高圧用電解コンデンサに関する。」

イ.「【0022】アルミニウム箔表面内層部転位組織(亜粒界または転位セル)サイズ
・円相当径0.3μm未満:10%以下(面積率)
・円相当径8μm超 :10%以下(面積率)
アルミニウム箔の表面内層部の転位組織サイズのバラツキを小さくして大きさをできるだけ揃えることでピット発生点の均一、分散化がなされ、静電容量が大幅に向上する。ここで、円相当径で0.3μm未満の転位組織が面積率で10%を超えて存在していると、ピットの合体が生じやすく、充分な静電容量が得られなくなるため、該サイズの転位組織は面積率で10%以下であることが必要である。また、円相当径で8μm超の転位組織が面積率で10%を超えて存在していると、ピットの不均一性が際だち、中高電圧用コンデンサの充分な静電容量が得られなくなるため、該サイズの転位組織も面積率で10%以下であることが必要である。但し、中圧用(250V?400V化成)として用いる場合、5μm超の転位組織が面積率で10%を越えて存在すると、ピット間隔の大きな場所がそれだけ多く発生してしまうということ、すなわち未エッチング領域が増えることになり静電容量には好ましくない。中圧用では、円相当径5μm超の転位組織が面積率でさらに10%以下であるのが望ましい。」

ウ.「【0036】上記回復熱処理後、各供試材の組織について、上記と同様の方法により立方体方位率を算出した。さらに、透過型電子顕微鏡を用いて、表面から1μm?3μmの深さ範囲で観察し、転位組織(亜粒界、転位セル)を写真に撮影した。なお、上記深さ範囲では、亜粒界、転位セルは深さ方向に伸張しており、横断面の観察結果に基づき、所定サイズの亜粒界、転位セルについて面積率を算出した。これらの結果は表3、4に示した。なお、亜粒界、転位セルの両方が存在するものでは、それらを合算して面積率を求めた。表3、4から明らかなように、従来材および本発明材以外では、大きさがばらついた転位組織が見られたが、本発明材では大きさが揃った転位組織が形成されていた。」

エ.表4には、本発明品である、No.が6?9、11?14、16?19、21?26、28?30及び38?40の試料は、立方体方位率が95?98%の範囲内にあることが記載されている。

5.対比
5-1.対比
ア.引用発明の「アルミニウム材のスラブ」は、技術常識からみて、鋳造された「アルミニウム材」の鋳塊のことを言う。
したがって、引用発明の「アルミニウム材のスラブを作製」し「前記アルミニウム材のスラブを通常の条件で均質化処理」して「前記均質化処理したアルミニウム材に熱間圧延を行った後、適宜中間焼鈍を加えながら、冷間圧延を行って、80?110μmの厚さのアルミニウム箔を得る工程」は、本願発明の「アルミニウム溶湯から圧延箔を製造する工程1」に相当する。

イ.引用発明の「焼鈍する工程」は「水洗したアルミニウム箔を、コイルのように巻回した状態で」行われるから、引用発明において、「アルミニウム箔」は「水洗した」あとで「巻回」されることは明らかである。
そして、引用発明の、この「アルミニウム箔」を「巻回」する工程は、本願発明の「前記圧延箔をロール状にすることによりロール状アルミニウム箔を得る工程2」に相当する。

ウ.引用発明の「前記水洗の後、前記アルミニウム箔を、コイルのように巻回した状態で、真空中または不活性ガス雰囲気中において、(100)面占有率が十分であるように480℃以上の温度で、前記巻回状態にある前記アルミニウム箔同士の焼付きが起きないように620℃以下の温度で、1時間以上12時間以下、焼鈍する工程」は、本願発明の「前記ロール状アルミニウム箔を、真空又は不活性ガスの雰囲気下、450℃以上で焼鈍する工程4」に相当する。

エ.さて、本願明細書には、「エッチング処理前」の前記「アルミニウム箔の製造方法」を説明して、以下のとおりに記載されている。(下線は、参考のため、当審において付したもの。)

エ-1.前記「アルミニウム箔」の組成に関しては、以下の記載がある。
・「【0018】
本発明Al箔の組成は限定的ではないが、特にアルミニウム純度が「JIS H 2111」に記載された方法に準じて測定された値で99.9%以上のものが好ましい。このようなアルミニウム箔としては、Pb、Si、Fe、Cu、Mn、Mg、Cr、Zn、Ti、V、Ga、Ni及びBの少なくとも1種の有意又は不可避の不純物元素を必要範囲内において配合又は規制したアルミニウム箔も包含される。
【0019】
これらの中でも、特に少なくともPbが含有されていることが好ましい。Pbの存在により、エッチング処理に使用する電解液と箔との反応を促進し、初期のエッチングピット数を増加させる働きがあるので、いっそう高い静電容量を達成することが可能となる。」
・「【0022】
具体的な本発明Al箔の組成としては、例えばPb:0.01?0.1ppm、Si:5?150ppm、Fe:5?150ppm及びCu:20?200ppm含有するアルミニウム箔を好適に用いることができる。」

エ-2.前記「工程1」に関しては、以下の記載がある。
・「【0023】
まず、アルミニウム溶湯から圧延箔を製造する段階では、所定の組成を有するアルミニウム溶湯を調製し、これを鋳造して得られた鋳塊を450?660℃で均質化処理した後、熱間圧延及び冷間圧延を施すことにより圧延箔を得ることができる。また、冷間圧延の途中で、150?400℃で中間焼鈍をしても良い。この場合の圧延箔の厚みは限定的ではないが、一般的に50?200μmとすることが好ましい。」

エ-3.前記「工程2」に関しては、以下の記載がある。
・「【0024】
上記圧延箔を焼鈍する。この場合、焼鈍に先立ち、有機溶剤系洗浄剤、水系洗浄剤等を用いて圧延箔を洗浄し、圧延箔上に付着している圧延油を除去しても良い。圧延油が過大に圧延箔上に付着していると、焼鈍後のロール状アルミニウム箔の両端部がシミ状に黄変し、エッチング処理を行っても所望の形状のエッチングピットが得られなくなる結果、静電容量が低下するおそれがある。」
・「【0027】
……(中略)……一般的には、焼鈍工程は、圧延箔をロール状にした状態で行われる……(以下、省略)」
ここで、前記洗浄は、圧延箔をロール状にする前に行われることは明らかである。

エ-4.前記「工程3」に関しては、以下の記載がある。
・「【0029】
この場合において、立方体方位率が90%以上、耐力が18N/mm^(2)以下のエッチング用アルミニウム箔をロール状で得るためには、極軟質への焼鈍工程で部分的な密着が防止できることが好ましい。例えば、焼鈍工程前にアルミニウム箔をロール状に巻き取る際の巻き取り張力を下げてロール密度を減少させる方法、焼鈍工程前のアルミニウム箔の洗浄度を下げてアルミニウム箔表面に圧延油を多く残す方法、ロール状アルミニウム箔の自重が一個所に偏重しないように焼鈍時のロール状アルミニウム箔の担持状態を制御する方法等が挙げられる。」
・「【0035】
……(中略)……
(実施例6)
従来例1で用いた厚さ6mmの熱間圧延板を冷間圧延して106μmの箔とし、水系洗浄液で箔表面を洗浄して硬質箔を得た。洗浄後の硬質箔の油付着量を燃焼法で測定したところ4mg/m^(2)であった。この硬質箔を幅500mm・重量500kgのロール状として、図1に示すようなロール外周曲率に合わせた置台により担持し、アルゴンガス雰囲気中540℃で6時間焼鈍した。焼鈍後に密着は発生しなかった。……(以下、省略)」

エ-5.前記「工程4」に関しては、以下の記載がある。
・「【0025】
焼鈍工程における焼鈍温度は450℃以上とすることが好ましい。特に450℃以上660℃未満、さらには530?620℃)に設定することが望ましい。焼鈍温度が450℃未満になると立方体方位率が低下し、エッチング処理を行っても所望の形状のエッチングピットが得られなくなり、静電容量が低下するおそれがある。焼鈍時間は、焼鈍温度等にもよるが、一般的には1?100時間程度とすれば良い。
【0026】
焼鈍雰囲気は、真空又は不活性ガスとすることが望ましい。ただし、昇温及び降温の工程も含め350℃を超える場合には、焼鈍雰囲気中の酸素濃度を1.0体積%以下とすることが望ましい。焼鈍雰囲気中の酸素濃度が1.0体積%を越えると、焼鈍後のロール状アルミニウム箔の両端部がシミ状に黄変し、エッチング処理を行っても所望の形状のエッチングピットが得られなくなる結果、静電容量が低下するおそれがある。焼鈍雰囲気中の酸素濃度を1.0体積%以下に設定することによって、均一で適当な厚さの熱酸化皮膜が得られ、静電容量の増大に寄与することができる。」

エ-6.さらに、前記「焼鈍工程」後であって前記「エッチング処理前」の工程に関しては、以下の記載がある。
・「【0027】
焼鈍工程を経たアルミニウム箔は、上記の立方体方位率及び耐力を有し、さらに部分的密着がなければ、本発明Al箔としてそのままエッチング処理に用いることができる。一般的には、焼鈍工程は、圧延箔をロール状にした状態で行われるが、このような場合でも部分的密着がなくロール状アルミニウム箔の繰り出し性及び平滑性が良好である場合には、そのままエッチング工程に供することができる。一方、ロール状アルミニウム箔に部分的密着があり、繰り出し性及び平滑性を改善する必要がある場合には、焼鈍されたアルミニウム箔に1%以上の伸びを負荷することが望ましい。負荷する伸びの上限はアルミニウム箔の組成等にもよるが、一般的には5%程度とすれば良い。
【0028】
伸びを負荷する手段は限定的ではないが、例えばアルミニウム箔をロール状に巻き取ることによって好適に実施することができる。巻き取り工程自体は、公知の方法に従って行えば良く、例えばアルミニウム箔をロール状に巻き取ることによって所定の伸びを負荷することができる。アルミニウム箔がロール状で前記焼鈍工程を行う場合には、そのロール状のアルミニウム箔をいったん巻き出し(繰り出し)、再び巻き取るという巻き直し工程によって実施できる。巻き直し工程によって、エッチング工程でアルミニウム箔を繰り出す際の部分的密着の問題を解消することができる。また、巻き直しの繰り出し側と巻き取り側にはそれぞれ引張応力が負荷されるため、アルミニウム箔に伸びが生じる。アルミニウム箔の伸びが特に1.0%以上であるとアルミニウム箔の平滑性をより効果的に改善できる。
【0029】
この場合において、立方体方位率が90%以上、耐力が18N/mm^(2)以下のエッチング用アルミニウム箔をロール状で得るためには、極軟質への焼鈍工程で部分的な密着が防止できることが好ましい。例えば、焼鈍工程前にアルミニウム箔をロール状に巻き取る際の巻き取り張力を下げてロール密度を減少させる方法、焼鈍工程前のアルミニウム箔の洗浄度を下げてアルミニウム箔表面に圧延油を多く残す方法、ロール状アルミニウム箔の自重が一個所に偏重しないように焼鈍時のロール状アルミニウム箔の担持状態を制御する方法等が挙げられる。
【0030】
他方、負荷を与える工程を実施した後において、アルミニウム箔内部に転位が生じる結果、上記の耐力を上回っている場合には、上記工程により得られたアルミニウム箔に再び焼鈍(以下「再焼鈍」という。)を行うことが望ましい。再焼鈍によって、転位が取り除かれる結果、より確実に上記の耐力を有する本発明Al箔を得ることができる。
【0031】
再焼鈍では、通常はアルミニウム箔を350℃以下で焼鈍すれば良い。好ましくは150?350℃、より好ましくは150?300℃で再焼鈍を行う。再焼鈍温度が350℃を超える場合にはロール状アルミニウム箔の両端部がシミ状に黄変し、エッチング処理を行っても所望の形状のエッチングピットが得られなくなる結果、静電容量が低下するおそれがある。また、ロール状アルミニウム箔の部位により不均一な厚さの熱酸化皮膜が得られ、静電容量のばらつきをもたらすおそれがある。再焼鈍時間は、再焼鈍温度等にもよるが、一般的には1?100時間程度とすれば良い。再焼鈍の雰囲気は特に制限されないが、通常は大気中で行えば良い。
(3)本発明のエッチング用アルミニウム箔
本発明のエッチング用アルミニウム箔は、立方体方位率90%以上及び耐力18N/mm^(2)以下の状態にあるアルミニウム箔をエッチング処理するために用いられるアルミニウム箔であって、立方体方位率90%以上及び耐力18N/mm^(2)以下であるエッチング用アルミニウム箔である。このようなアルミニウム箔としては、本発明Al箔を好適に用いることができる。特に、ロール状に巻かれている本発明Al箔は、エッチング時等においてロール状から繰り出した際にも立方体方位率90%以上及び耐力18N/mm^(2)以下を確実に維持することができる。……(以下、省略)」

エ-7.そして、実施例として、以下の記載がある。
・「【0035】
……(中略)……
(参考例1及び実施例2?3)
従来例1で得られた巻き直し後のロール状アルミニウム箔を表1に示す条件で再焼鈍し、得られたアルミニウム箔の立方体方位率、耐力及び静電容量を測定した。結果を表1に示す。
……(中略)……
(実施例6)
従来例1で用いた厚さ6mmの熱間圧延板を冷間圧延して106μmの箔とし、水系洗浄液で箔表面を洗浄して硬質箔を得た。洗浄後の硬質箔の油付着量を燃焼法で測定したところ4mg/m^(2)であった。この硬質箔を幅500mm・重量500kgのロール状として、図1に示すようなロール外周曲率に合わせた置台により担持し、アルゴンガス雰囲気中540℃で6時間焼鈍した。焼鈍後に密着は発生しなかった。得られたアルミニウム箔の立方体方位率、耐力及び静電容量を測定した。結果を表1に示す。
……(以下、省略)」
・表1によれば、
再焼鈍を250℃、10時間行った実施例2においては、立方体方位率が95%で、耐力が14.8N/mm^(2)であり、
再焼鈍を320℃、5時間行った実施例3においては、立方体方位率が95%で、耐力が13.4N/mm^(2)であり、
再焼鈍を行う必要がなかった実施例6においては、立方体方位率が94%で、耐力が12.9N/mm^(2)であった。

エ-8.エ-1?7から、本願明細書に記載された、「エッチング処理前」の「アルミニウム箔の製造方法」は、
「アルミニウム溶湯から圧延箔を製造する工程1」として、組成は限定的ではないが特に少なくともPbが含有が含有されていることが好ましい、純度が99.9%以上のアルミニウム溶湯から鋳塊を得て、450?660℃で均質化処理した後、熱間圧延及び冷間圧延を施すとともに、冷間圧延の途中で150?400℃で中間焼鈍をしても良く、厚みが50?200μmの圧延箔を製造し、
「前記圧延箔をロール状にすることによりロール状アルミニウム箔を得る工程2」として、有機溶剤系洗浄剤、水系洗浄剤等を用いて洗浄した圧延箔をロール状にし、
「前記ロール状アルミニウム箔を置台により担持する工程3」として、次に行われる「焼鈍する工程」を経た圧延箔に部分的密着がなければ、そのまま本発明Al箔としてエッチング処理に用いることができるため、好ましくは、前記部分的密着を防止するため、ロール状アルミニウム箔の自重が一個所に偏重しないように焼鈍時のロール状アルミニウム箔を担持し、
「前記ロール状アルミニウム箔を、真空又は不活性ガスの雰囲気下、450℃以上で焼鈍する工程4」として、ロール状アルミニウム箔を、真空又は不活性ガスの雰囲気下、立方体方位率を低下させないために好ましくは450℃以上の温度で、1?100時間程度、焼鈍し、
さらに、その後、焼鈍後時のロール状アルミニウム箔を該ロール状アルミニウム箔の自重が一個所に偏重しないように担持しなかった場合は、繰り出し性及び平滑性を改善するためにロール状のアルミニウム箔の巻き直し工程を実施した後に、耐力18N/mm^(2)以下であることを確実にするために、ロール状アルミニウム箔を、特に制限されない雰囲気で、250?320℃で、5?10時間、再焼鈍を行うことで、
「立方体方位率93?99.8%及び耐力10?14.8N/mm^(2)」である「エッチング処理」用の「アルミニウム箔」を製造する、
というものである。

オ.さて、前記ア?ウで指摘したとおり、「エッチング処理前」の「アルミニウム箔の製造方法」について、本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明が「前記ロール状アルミニウム箔を置台により担持する工程3」を有しているかどうか不明である点を除き、両者は一致している。

そして、この「エッチング処理前」の「アルミニウム箔の製造方法」に関し、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された方法と引用発明とを比較しても、両者は、以下のとおりに、引用発明が焼鈍時のロール状アルミニウム箔を担持する工程を有しているかどうか不明である点を除き、一致している。

すなわち、引用発明における前記「アルミニウム箔の製造方法」の出発材料である「Feを5?30ppm、Siを5?30ppm、Cuを20?70ppm、Pbを0.1?5ppm、Naを0.01?10ppm、それぞれ、含有していても良い、純度99.9wt%以上のアルミニウム材」は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された、組成は限定的ではないが特に少なくともPbが含有が含有されていることが好ましい、純度が99.9%以上のアルミニウムに相当する。

引用発明の前記「アルミニウム材」の「スラブを作製」して当該「スラブを通常の条件で均質化処理」した「アルミニウム材のスラブに熱間圧延を行った後、適宜中間焼鈍を加えながら、冷間圧延を行って、80?110μmの厚さのアルミニウム箔を得る工程」は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された、前記アルミニウムの溶湯から鋳塊を得て、450?660℃で均質化処理した後、熱間圧延及び冷間圧延を施すとともに、冷間圧延の途中で150?400℃で中間焼鈍をしても良く、厚みが50?200μmの圧延箔を製造する工程に相当する。

引用発明の前記「アルミニウム箔を得る工程」の「後」に「脱脂処理を行った後、水洗する工程」の「後、前記アルミニウム箔を、コイルのように巻回」する工程は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された、有機溶剤系洗浄剤、水系洗浄剤等を用いて洗浄した圧延箔をロール状にする工程に相当する。

そして、引用発明の「前記アルミニウム箔を、コイルのように巻回した状態で、真空中または不活性ガス雰囲気中において、(100)面占有率が十分であるように480℃以上の温度で、前記巻回状態にある前記アルミニウム箔同士の焼付きが起きないように620℃以下の温度で、1時間以上12時間以下、焼鈍する工程」は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された、ロール状アルミニウム箔を、真空又は不活性ガスの雰囲気下、好ましくは立方体方位率を低下させないために450℃以上の温度で、1?100時間程度、焼鈍する工程に相当する。

カ.ところで、本願明細書の段落【0027】には「焼鈍工程を経たアルミニウム箔は、上記の立方体方位率及び耐力を有し、さらに部分的密着がなければ、本発明Al箔としてそのままエッチング処理に用いることができる。」と記載され、同段落【0029】には「立方体方位率が90%以上、耐力が18N/mm^(2)以下のエッチング用アルミニウム箔をロール状で得るためには、極軟質への焼鈍工程で部分的な密着が防止できることが好ましい。例えば……ロール状アルミニウム箔の自重が一個所に偏重しないように焼鈍時のロール状アルミニウム箔の担持状態を制御する方法等が挙げられる。」と記載されている。
すなわち、本願発明の「焼鈍する工程4」を経たアルミニウム箔は、立方体方位率90%以上、耐力18N/mm^(2)以下という特性を有していること、該アルミニウム箔に「部分的密着がなければ」そのまま本願発明の「エッチング処理」に用いることができること、本願発明の「前記ロール状アルミニウム箔を置台により担持する工程3」は前記「部分的密着」を防止するための工程であること、が本願明細書には記載されている。

キ.これに対し、引用発明は、カで指摘したように、本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたものと同じ出発材料を用い、本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたと同じ、前記「アルミニウム箔を得る工程」、前記「コイルのように巻回」する工程、及び、前記「焼鈍する工程」を有するものである。これに加えて、引用発明は、前記「焼鈍する工程」を「前記巻回状態にある前記アルミニウム箔同士の焼付きが起きないように620℃以下の温度」で行うものである。
したがって、引用発明の「焼鈍する工程」後の「アルミニウム箔」は、本願発明のように「前記ロール状アルミニウム箔を置台により担持する工程3」を経るまでもなく、「前記巻回状態にある前記アルミニウム箔」に部分的密着はないことは明らかである。
以上から、引用発明において、「焼鈍する工程」を行った時点での「アルミニウム箔」は、立方体方位率90%以上、耐力18N/mm^(2)以下という特性を有していると認められる。

ク.引用発明において、前記「焼鈍する工程」を行った後に、「アルミニウム箔」に対して「冷却する工程」と「熱処理を行う工程」とを施すから、「電解エッチング処理を施」す時点の「アルミニウム箔」の立方体方位率及び耐力の値は不明である。
しかしながら、引用発明の「アルミニウム箔を、巻回状態で、不活性ガス雰囲気中において、277?296℃の温度で、5?7時間、熱処理を行う工程」は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された、前記エ-8の、ロール状アルミニウム箔を、特に制限されない雰囲気で、250?320℃で、5?10時間、再焼鈍を行う工程に相当するものである。そして、本願明細書の発明の詳細な説明において、前記再焼鈍を行う工程は、耐力18N/mm^(2)以下であることを確実にするための工程である。
そして、引用発明においては、上述のとおり、「焼鈍する工程」を行った時点での「アルミニウム箔」は、立方体方位率90%以上、耐力18N/mm^(2)以下という特性を有しているのであるから、前記再焼鈍を行う工程と同じ前記「熱処理を行う工程」を施した「後」の、「電解エッチング処理を施」す時点の引用発明の「アルミニウム箔」は、少なくとも耐力については、当然に、18N/mm^(2)以下の値を有すると認められる。

ケ.ここで、引用発明の「電解エッチング処理」は、本願発明の「エッチング処理」に相当する。

コ.以上のとおりであるから、引用発明において、少なくとも耐力の値は18N/mm^(2)以下である「アルミニウム箔」に「電解エッチング処理を施」すことと、本願発明の「立方体方位率93?99.8%及び耐力10?14.8N/mm^(2)のアルミニウム箔をエッチング処理する」こととは、耐力18N/mm^(2)以下のアルミニウム箔をエッチング処理する点で共通する。

サ.そして、引用発明の「高圧用電解コンデンサの陽極用アルミニウム箔の製造方法」と、本願発明の「電解コンデンサ中高圧陽極用アルミニウム箔の製造方法」とは、電解コンデンサ陽極用アルミニウム箔の製造方法である点で共通する。

5-2.一致点及び相違点
そうすると、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりとなる。

《一致点》
「耐力18N/mm^(2)以下のアルミニウム箔をエッチング処理する、電解コンデンサ陽極用アルミニウム箔の製造方法であって、前記エッチング処理前のアルミニウム箔の製造方法が、以下の工程1?4:
(1) アルミニウム溶湯から圧延箔を製造する工程1、
(2) 前記圧延箔をロール状にすることによりロール状アルミニウム箔を得る工程2、
(4) 前記ロール状アルミニウム箔を、真空又は不活性ガスの雰囲気下、450℃以上で焼鈍する工程4、
を順に含むことを特徴とする、電解コンデンサ陽極用アルミニウム箔の製造方法。」

《相違点》
《相違点1》
本願発明は「電解コンデンサ中高圧陽極用アルミニウム箔の製造方法」であるのに対して、引用発明は「高圧用電解コンデンサの陽極用アルミニウム箔の製造方法」である点。

《相違点2》
本願発明は「立方体方位率93?99.8%及び耐力10?14.8N/mm^(2)のアルミニウム箔」をエッチング処理するのに対して、引用発明は、耐力が18N/mm^(2)以下である「アルミニウム箔」に電解エッチング処理を施す点。

《相違点3》
本願発明は「(3) 前記ロール状アルミニウム箔を置台により担持する工程3」を有しているのに対して、引用発明は、そのような工程を有しているかどうかは不明である点。

6.当審の判断
6-1.相違点1について
ア.「4-3.引用例2の記載」及び「4-4.引用例3の記載」の項で摘記したように、立方体方位率が93?98%の範囲内にあるアルミニウム箔を、電解コンデンサ中高圧陽極用に用いることは、周知技術である。

イ.してみれば、引用発明の「高圧用電解コンデンサの陽極用アルミニウム箔」を、「中圧用」の「電解コンデンサ」の「陽極用」としても用いること、すなわち、中高圧用として用いることは、当業者が適宜なし得たものと認められる。

6-2.相違点2について
ア.本願明細書の発明の詳細な説明には、「5-1.対比」の項のエ-8で述べたように、
「前記ロール状アルミニウム箔を、真空又は不活性ガスの雰囲気下、450℃以上で焼鈍する工程4」の後、焼鈍後時のロール状アルミニウム箔を該ロール状アルミニウム箔の自重が一個所に偏重しないように担持しなかった場合は、繰り出し性及び平滑性を改善するためにロール状のアルミニウム箔の巻き直し工程を実施した後に、耐力18N/mm^(2)以下であることを確実にするために、ロール状アルミニウム箔を、特に制限されない雰囲気で、250?320℃で、5?10時間、再焼鈍を行うこと、
これにより、「立方体方位率93?99.8%及び耐力10?14.8N/mm^(2)」である「エッチング処理」用の「アルミニウム箔」が得られること、
が記載されている。

イ.これに対し、引用例1には、「No1」?「No12」の各実施例の製造条件をまとめた表-1に、「熱処理」を、「巻解き」状態で行うことを示す「有り」、巻回状態で行うことを示す「無し」の情報が記載されている。
引用発明は「熱処理」を「巻き解き状態もしくは巻回状態」で「行う」ものであるが、前記表-1を含め引用例1には、前記「No1」?「No12」の各実施例の「冷却」処理を、巻回状態で行うのか巻き解き状態で行うのかは、記載されていない。
しかし、引用例1の段落【0018】には「どちらの状態で冷却されても良いが、冷却効率の点からは、コイルから巻き解かれた状態(巻き解き状態)で冷却される方が好ましい。又、巻き解かれた状態(巻き解き状態)で冷却した場合、温度変化が急激になされることから、導入される欠陥が一層高密度になり、好ましい。」と記載されているとおり、引用発明は「100℃以下の温度に冷却する工程」を「前記アルミニウム箔を、好ましくはコイルから巻き解かれた状態」で行うものであるから、前記「No1」?「No12」の各実施例における「冷却」処理を巻き解き状態で行おうと想起することは、当然である。
そして、「No9」の実施例は、「熱処理」を、277℃、5時間、雰囲気Ar、巻解き「無し」の条件下で行うものであり、「No11」の実施例は、「熱処理」を、296℃、5時間、雰囲気Ar、巻解き「無し」の条件下で行うものである。

ウ.したがって、「冷却」処理を巻き解き状態で行った「アルミニウム箔」に「熱処理」を施すに際して、「No9」及び「No11」の実施例は、巻解き「無し」の条件下で行うのであるから、前記「No9」及び「No11」の実施例の「熱処理」を実行するに際して、「冷却」処理において巻き解かれた「アルミニウム箔」を再び巻き取って「熱処理」に供することは、当然に想起し得たものと認められる。
すなわち、引用発明において、「前記焼鈍の後」、「コイルのように巻回した状態」の「アルミニウム箔」を巻き解いて、「前記アルミニウム箔」を「コイルから巻き解かれた状態で、100℃以下の温度に冷却する工程」を行い、その後、前記「アルミニウム箔」を再び巻き取り、そして、「前記アルミニウム箔」を「巻回状態で、真空中または不活性ガス雰囲気中、あるいは、大気中において、200?300℃の温度で熱処理を行う工程」を行うことは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。

エ.そして、前記の「前記焼鈍の後」、「コイルのように巻回した状態」の「アルミニウム箔」を巻き解いて、「前記アルミニウム箔」を「コイルから巻き解かれた状態で、100℃以下の温度に冷却」し、その後、前記「アルミニウム箔」を再び巻き取ることは、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された、「焼鈍する工程4」の後に行うアルミニウム箔の巻き直し工程に相当する。
また、前記の「前記アルミニウム箔」を「巻回状態で、真空中または不活性ガス雰囲気中、あるいは、大気中において、200?300℃の温度で熱処理を行う工程」は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された、ロール状アルミニウム箔を、特に制限されない雰囲気で、250?320℃で、5?10時間、再焼鈍を行う工程に相当する。

オ.してみれば、引用発明は、「5-1.対比」のキで指摘したように、本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたものと同じ出発材料を用い、本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたと同じ、前記「アルミニウム箔を得る工程」、前記「コイルのように巻回」する工程、及び、前記「焼鈍する工程」を経て、前記「焼鈍する工程」を「前記巻回状態にある前記アルミニウム箔同士の焼付きが起きないように620℃以下の温度」で行った「アルミニウム箔」に対して、さらに、前記エで指摘したように、本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたと同じ、「前記焼鈍の後」、「コイルのように巻回した状態」の「アルミニウム箔」を巻き解いて「冷却」した後「アルミニウム箔」を再び巻き取り、本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたと同じ、「前記アルミニウム箔」を「巻回状態で、真空中または不活性ガス雰囲気中、あるいは、大気中において、200?300℃の温度で熱処理を行う」ものであるから、「電解エッチング処理を施」される「アルミニウム箔」は、当然に、「立方体方位率93?99.8%及び耐力10?14.8N/mm^(2)」であるという特性を有するものと認められる。

カ.以上のとおりであるから、引用発明において、「前記焼鈍の後」、「コイルのように巻回した状態」の「アルミニウム箔」を巻き解いて、「前記アルミニウム箔」を「コイルから巻き解かれた状態で、100℃以下の温度に冷却する工程」を行い、その後、前記「アルミニウム箔」を再び巻き取り、そして、「前記アルミニウム箔」を「巻回状態で、真空中または不活性ガス雰囲気中、あるいは、大気中において、200?300℃の温度で熱処理を行う工程」を行うことにより、「立方体方位率93?99.8%及び耐力10?14.8N/mm^(2)」であるという特性を有する「電解エッチング処理を施」される「アルミニウム箔」を得ることは当業者が容易に想到し得たものと認められる。

6-3.相違点3について
ア.本願発明は「ロール状アルミニウム箔を置台により担持する」が、ここで、「担持する」とは、一般には、ある部材を担体に支持させること、ある部材を付着した状態で持っていること、を意味すると認められる。

イ.引用発明において、「コイルのように巻回した状態」にある「前記アルミニウム箔」を「焼鈍する」ためには、当然に前記「コイルのように巻回した状態」にある「前記アルミニウム箔」を何らかの形で支持しなければならないから、「焼鈍する工程」に先立って、前記「コイルのように巻回した状態」にある「前記アルミニウム箔」を、何らかの置台で支持するか、本願明細書の段落【0004】に「背景技術」として記載されるように「架台」に「宙吊り状態」で吊るすことで支持する等の形態が採られることは、自明である。

ウ.さらに、引用発明は、「前記アルミニウム箔」に対して、「脱脂処理を行った後、水洗する工程」を施した後に前記「焼鈍する工程」を施すものである。ここで、「前記アルミニウム箔」は「脱脂処理を行った後、水洗する工程」を施した後に前記「焼鈍する工程」を施す位置にまで移送する必要があることは、技術常識を参酌すれば自明である。
そして、前記移送を、機械的に安定に支持した状態で行おうとすることは、当業者であれば当然に想起すると認められる。

エ.ここで、「コイルのように巻回した状態」にある薄板状の「アルミニウム」を置台に載置して前記「コイルのように巻回した状態」にある薄板状の「アルミニウム」を焼鈍するに際して、前記置台を前記薄板状の「アルミニウム」の「コイル」の外周面に合わせた形状にするとともに、前記「コイルのように巻回した状態」にある薄板状の「アルミニウム」を前記置台の複数箇所により支持させること、すなわち、「担持」させることは、以下のオ?カに記載されるように周知技術である。
したがって、引用発明の「コイルのように巻回した状態」にある「アルミニウム箔」を、「焼鈍する工程」に際して、置台に担持させることは、当業者が適宜なし得たものと認められる。

オ.周知例1:特開平01-142030号公報
・「この発明はアルミコイル等の金属コイルを焼鈍する装置に関するものである。」(第1頁下左欄第20行?同頁下右欄第1行)
・「前記外側流路3の左右両側の上部に風量調節用ダンパ30が設けられると共に、内側流路4の上部の左右両側に風量調節用ダンパ31が設けられ、かつスプール32に巻かれたアルミコイル等の金属コイル6は、コイル軸(コイル中心線)が左右方向に延長するようにしてトレー18に載置され、さらにそのトレー18はコイル収容室2内の下部の左右両側に設けられたトレー受台33に載置されている。」(第3頁上左欄第9?17行)
・「前記実施例の金属コイル焼鈍装置を使用してアルミコイル等の金属コイルを焼鈍処理する場合は、予め液圧シリンダ28を短縮して可動供給筒22を後退させると共に、昇降扉19を上昇して炉本体1の前部の出入口を開放し、かつ装入台車用レール41を炉内レール36に直列に並ぶように配置し、次いで装入台車42をコイル収容室2内に走行させたのち、昇降支持台43を下降して金属コイル6を載置しているトレー18をトレー受台33に降ろし、金属コイル6を左右の熱風供給筒7の間にほぼ同心的に配置し、かつ装入台車42を装入台車用レール41上に走行させる。」(第3頁下左欄第3?14行)
・第2図及び第4図からは、金属コイル6は、薄板をスプール32に巻回した状態にあること、が見て取れる。
・第3図及び第6図からは、トレー18上には、金属コイル6の外周面に合わせて傾斜する斜面を有する2つの受け台が設けられていること、が見て取れる。

カ.周知例2:特開平11-229100号公報
・「【0015】
【発明の実施の態様】アルミニウム又はアルミニウム合金の冷間圧延は、圧延ロールがアルミニウム又はアルミニウム合金材を圧延ロール間でかみ込んで圧延できるように冷間圧延用の圧延油を使用して両者間の摩擦力を適切な値としている。この冷間圧延油は沸点が200?300℃程度の油が主体で、その他油膜強度を保持するために高級アルコール、脂肪酸、脂肪酸エステル等の添加剤が合計で10数%含有されている。また、アルミニウム又はアルミニウム合金は、冷間圧延によって用途に応じて種々の厚さの板条とされる。例えば、鍋、釜等の器物用には0.3?3mm程度の厚さとされ、建築用内装、外装パネル等には0.5?5mm程度の厚さとされている。冷間圧延された板条はそのまま巻き取って、焼鈍炉の大きさ或いは需要量によって異なるが、通常5乃至15t程度の板条コイルとし、或いは巻き取った板条コイルを所定の長さに切断、もしくは所定直径の円盤状に打ち抜いて板材として積み重ねて積層体としている。
【0016】これらの板条コイルはコイルの形態で、板は積み重ねた積層体の形態で焼鈍処理されて器物もしくはパネル等の成形加工に適した性質が付与される。この際、板条コイルもしくは板の積層体は、冷間圧延油が付着したままで焼鈍処理される。この焼鈍処理は用途によって異なるが、例えば200℃以上の温度で種々の時間に保持して処理される。」
・「【0026】
【実施例1】本発明例として表1に示す組成の厚さ1mmの冷間圧延板条(表面付着圧延油量3g/m^(2) )を温度50℃の珪酸ソーダ及び燐酸ソーダの1%アルカリ水溶液もしくは温度50℃の硫酸水溶液で処理して付着圧延油を除去し、板条コイル(幅1.3m、重さ5t、表記載にはコイルと略記する。)のまま、もしくは冷間圧延後板条コイルを切断して積み重ねた板の積層体(長さ3m、高さ70cm、表記載には板と略記する。)として、不活性ガス(水分露点10℃)の雰囲気中で、図1もしくは図2に示す位置8で測定して昇温速度40℃/時間で加熱し、所定温度にて保持1時間の焼鈍処理を施した。このようにして処理された板条もしくは板に対して、温度50℃の苛性ソーダでアルカリ処理を施した。アルカリ処理後、エッチング斑を目視観察し、強くアルカリ処理を施しても確認できないものを◎、通常のアルカリ処理で確認できないものを○、確認されたものを×とした。結果を同表2に示す。また擦り傷を目視観察し、確認できないものを○、確認されたものを×とした。結果を同じく表2に示す。また、比較例として、付着圧延油を除去しないままの上記寸法の板条コイル及び板の積層体を同条件にて焼鈍処理し、上記の苛性ソーダでアルカリ処理した。エッチング斑及び擦り傷を目視観察し、上記の基準で判断した。結果を同じく表2に示す。」
・「【符号の説明】
1:エッチング斑(乳白色部) 2:板条コイル 3:板の積層体 4:板条コイルもしくは板の端辺部側 5:板条コイルもしくは板の積層体の内部側 6:板条コイルの巻芯 7:板条 8:温度測定点 9:板 10:板条コイルもしくは板の基台 11:金属光沢部 12:バンド R:圧延方向」
・「板条コイル外観を示す概略図」である図1から、基台10は、板状コイルの外周面に合わせて傾斜した斜面をそれぞれ有する2つの傾斜部と、前記2つの傾斜部が載置された平板部とを有すること、前記板状コイルは、前記2つの傾斜部と前記平板部とにより、その外周面で当接・支持されていること、が見て取れる。

6-4.審判請求人の主張
審判請求人は、請求の理由として、
ア.「引用文献1には、ロール状アルミニウム箔を置台により担持する本願発明の工程3に対応する工程について、何ら記載されていません。」
イ.「引用文献1には、焼鈍工程後について、コイルのように巻回されたアルミニウム箔を巻き解くことが好ましい旨記載されているといえます。当業者がかかる記載のある引用文献1を見た場合、高圧用電解コンデンサの陽極として好適な静電容量を持つアルミニウム箔を得るために、巻回されたアルミニウム箔を巻き解くことを想到する筈です。
よって、当業者といえども引用文献1からは、焼鈍後にアルミニウム箔を巻き解くことなく、部分的密着が無く、且つ耐力及びエッチング後の静電容量の低下が防止されたアルミニウム箔を得るために、焼鈍する工程の前にロール状アルミニウム箔を置台により担持することを想到する筈がありません。」
ウ.引用文献1にも「引用文献2及び3には、圧延箔をロール状にすること及び焼鈍する工程の前にロール状アルミニウム箔を置台により担持することについて、いずれも何ら記載も示唆もされておらず、当該工程によって得られる顕著な効果について示唆するところは一切ありません。」
と主張している。

しかしながら、
エ.前記アの主張については、前記「6-2.相違点2について」で述べたとおりである。

オ.前記イの主張について、引用例1には、段落【0013】に「しかし、焼鈍は、通常、コイルのように巻回された状態で行われる。」と記載されている。
したがって、前記「6-2.相違点2について」で述べたとおり、引用発明の「コイルのように巻回した状態」にある「アルミニウム箔」を、「焼鈍する工程」に際して置台に担持させることは、当業者が適宜なし得たものと認められるところ、前記置台への担持は、「焼鈍する工程」の前に行われることは、明らかである。

カ.前記ウの主張について、本願明細書には、段落【0027】に「ロール状アルミニウム箔に部分的密着があり、繰り出し性及び平滑性を改善する必要がある場合には、焼鈍されたアルミニウム箔に1%以上の伸びを負荷することが望ましい。」、段落【0029】に「立方体方位率が90%以上、耐力が18N/mm2以下のエッチング用アルミニウム箔をロール状で得るためには、極軟質への焼鈍工程で部分的な密着が防止できることが好ましい。例えば、焼鈍工程前にアルミニウム箔をロール状に巻き取る際の巻き取り張力を下げてロール密度を減少させる方法、焼鈍工程前のアルミニウム箔の洗浄度を下げてアルミニウム箔表面に圧延油を多く残す方法、ロール状アルミニウム箔の自重が一個所に偏重しないように焼鈍時のロール状アルミニウム箔の担持状態を制御する方法等が挙げられる。」と、段落【0035】に「実施例6」として「従来例1で用いた厚さ6mmの熱間圧延板を冷間圧延して106μmの箔とし、水系洗浄液で箔表面を洗浄して硬質箔を得た。洗浄後の硬質箔の油付着量を燃焼法で測定したところ4mg/m^(2)であった。この硬質箔を幅500mm・重量500kgのロール状として、図1に示すようなロール外周曲率に合わせた置台により担持し、アルゴンガス雰囲気中540℃で6時間焼鈍した。焼鈍後に密着は発生しなかった。」と、記載されている。
したがって、「焼鈍工程」での「部分的な密着が防止」され、「繰り出し性及び平滑性を改善する」ための処理を不要にするためには、「焼鈍工程」前に、「ロール状アルミニウム箔の自重が一個所に偏重しないように焼鈍時のロール状アルミニウム箔」を「担持」すること、実施例では「ロール状とし」た「硬質箔」を「ロール外周曲率に合わせた置台」により「担持」すること、が必要であることが、本願明細書には記載されている。
しかしながら、本願の特許請求の範囲の請求項1には、単に「ロール状アルミニウム箔を置台により担持する」と記載されているだけである。
そして、前記「6-2.相違点2について」のイで述べたとおり、「担持する」とは、一般には、ある部材を担体に支持させること、ある部材を付着した状態で持っていること、を意味すると認められる。
よって、引用文献1にも「引用文献2及び3」にも、「焼鈍する工程の前にロール状アルミニウム箔を置台により担持する」という「工程によって得られる顕著な効果について示唆するところは一切ありません。」という主張は、特許請求の範囲の記載に基づくものとは認められない。

なお、前記「6-2.相違点2について」のエ、オで例示した周知例は、いずれも、「コイルのように巻回した状態」にある薄板状の「アルミニウム」を焼鈍するに際して、前記「巻回した状態」にある「アルミニウム」を載置する置台を、前記「アルミニウム」の「コイル」の外周面に合わせた形状にするとともに、前記「巻回した状態」にある「アルミニウム」を前記置台の複数箇所により支持させるものである。したがって、前記周知例においては、当然に、前記「巻回した状態」にある「アルミニウム」の自重は、前記複数箇所に分散すると認められる。

6-5.小括
したがって、上記相違点1?3に係る構成とすることは、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得るものである。そして、本願発明の効果も、引用発明及び周知技術から、当業者が予期し得たものである。


第3.結言
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-04-10 
結審通知日 2012-04-17 
審決日 2012-05-08 
出願番号 特願2003-405353(P2003-405353)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 晃洋  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 酒井 英夫
近藤 幸浩
発明の名称 電解コンデンサ用アルミニウム箔の製造方法。  
代理人 菱田 高弘  
代理人 林 雅仁  
代理人 中野 睦子  
代理人 三枝 英二  

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