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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1258877
審判番号 不服2011-22355  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-10-17 
確定日 2012-06-21 
事件の表示 特願2005- 39670「遮光性兼酸素吸収性多層積層フィルムおよびそれを使用した積層体、包装用袋、包装製品」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 8月31日出願公開、特開2006-224405〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成17年2月16日の出願であって、その請求項1乃至9に係る発明は、平成22年8月26日付けで補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1乃至9に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1の記載は、以下のとおりである。
「少なくとも、基材フィルム、バリア性基材フィルム、および、少なくとも3層、4層または5層の共押出製膜化フィルムを順次に積層した積層体を、その共押出製膜化フィルムの面を対向させて重ね合わせ、更に、その外周周辺の端部をヒ-トシ-ルして製袋してなる包装用袋において、
上記の3層の共押出製膜化フィルムが、熱可塑性樹脂と遮光性着色剤とを含む樹脂組成物、酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物および熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物を使用し、これらの3種の樹脂組成物を共押出積層し、表面層を構成する第1層が、熱可塑性樹脂と遮光性着色剤とを含む樹脂組成物による遮光性着色樹脂層からなり、次に、中間層を構成する第2層が、酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物による酸素吸収性樹脂層からなり、更に、裏面層を構成する第3層が、熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物による透明ないし半透明の樹脂層からなる3種3層の共押出製膜化フィルムよりなるヒ-トシ-ル性能、遮光性能および酸素吸収性能を有する酸素吸収性多層積層フィルムからなり、
また、上記の4層の共押出製膜化フィルムが、熱可塑性樹脂と遮光性着色剤とを含む樹脂組成物、酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物、熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物および熱可塑性樹脂と白色系着色剤とを含む樹脂組成物を使用し、これらの4種の樹脂組成物を共押出積層し、表面層を構成する第1層が、熱可塑性樹脂と白色系着色剤とを含む樹脂組成物による白色樹脂層からなり、次に、第1の中間層を構成する第2層が、熱可塑性樹脂と遮光性着色剤とを含む樹脂組成物による遮光性着色樹脂層からなり、更に、第2の中間層を構成する第3層が、酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物による酸素吸収性樹脂層からなり、また、裏面層を構成する第4層が、熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物による透明ないし半透明の樹脂層からなる4種4層の共押出製膜化フィルムよりなるヒ-トシ-ル性能、遮光性能、美粧性能および酸素吸収性能を有する酸素吸収性多層積層フィルムからなり、
更に、上記の5層の共押出製膜化フィルムが、熱可塑性樹脂と遮光性着色剤とを含む樹脂組成物、酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物、熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物および熱可塑性樹脂と白色系着色剤とを含む樹脂組成物を使用し、これらの4種の樹脂組成物を共押出積層し、表面層を構成する第1層が、熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物による透明ないし半透明の樹脂層からなり、次に、第1の中間層を構成する第2層が、熱可塑性樹脂と白色系着色剤とを含む樹脂組成物による白色樹脂層からなり、更に、第2の中間層を構成する第3層が、熱可塑性樹脂と遮光性着色剤とを含む樹脂組成物による遮光性着色樹脂層からなり、また、第3の中間層を構成する第3層が、酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物による酸素吸収性樹脂層からなり、そして、裏面層を構成する第5層が、熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物による透明ないし半透明の樹脂層からなる4種5層の共押出製膜化フィルムよりなるヒ-トシ-ル性能、遮光性能、美粧性能および酸素吸収性能を有する酸素吸収性多層積層フィルムからなること
を特徴とする包装用袋。」
そして、上記の請求項1には、「少なくとも、基材フィルム、バリア性基材フィルム、および、少なくとも3層の共押出製膜化フィルムを順次に積層した積層体を、その共押出製膜化フィルムの面を対向させて重ね合わせ、更に、その外周周辺の端部をヒ-トシ-ルして製袋してなる包装用袋」、「少なくとも、基材フィルム、バリア性基材フィルム、および、少なくとも4層の共押出製膜化フィルムを順次に積層した積層体を、その共押出製膜化フィルムの面を対向させて重ね合わせ、更に、その外周周辺の端部をヒ-トシ-ルして製袋してなる包装用袋」及び「少なくとも、基材フィルム、バリア性基材フィルム、および、少なくとも5層の共押出製膜化フィルムを順次に積層した積層体を、その共押出製膜化フィルムの面を対向させて重ね合わせ、更に、その外周周辺の端部をヒ-トシ-ルして製袋してなる包装用袋」に係る事項が択一的に記載されているので、第1の共押出製膜化フィルムが3層である包装用袋、すなわち、
「少なくとも、基材フィルム、バリア性基材フィルム、および、少なくとも3層の共押出製膜化フィルムを順次に積層した積層体を、その共押出製膜化フィルムの面を対向させて重ね合わせ、更に、その外周周辺の端部をヒ-トシ-ルして製袋してなる包装用袋において、
上記の3層の共押出製膜化フィルムが、熱可塑性樹脂と遮光性着色剤とを含む樹脂組成物、酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物および熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物を使用し、これらの3種の樹脂組成物を共押出積層し、表面層を構成する第1層が、熱可塑性樹脂と遮光性着色剤とを含む樹脂組成物による遮光性着色樹脂層からなり、次に、中間層を構成する第2層が、酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物による酸素吸収性樹脂層からなり、更に、裏面層を構成する第3層が、熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物による透明ないし半透明の樹脂層からなる3種3層の共押出製膜化フィルムよりなるヒ-トシ-ル性能、遮光性能および酸素吸収性能を有する酸素吸収性多層積層フィルムからなることを特徴とする包装用袋。」を以下、「本願発明」として検討する。

2.引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された特開2003-246000号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「酸素吸収性多層フィルム及び包装容器」に関して以下の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】酸素透過性を有する熱可塑性樹脂からなるヒートシール層、熱可塑性樹脂に鉄系酸素吸収剤が分散した酸素吸収性樹脂組成物からなる酸素吸収層、耐衝撃性熱可塑性樹脂からなる耐衝撃性中間層、及び、アルミナ蒸着フィルムからなるガスバリア層の積層構成からなり、かつ前記アルミナ蒸着フィルムのアルミナ蒸着面が前記耐衝撃性中間層側に配されていることを特徴とする酸素吸収性多層フィルム。
…(中略)…
【請求項4】耐衝撃性中間層が、その全体に白色顔料が配合されていることにより遮光性を有することを特徴とする請求項1記載の酸素吸収性多層フィルム。
【請求項5】包装容器の一部又は全部が請求項1記載の酸素吸収性多層フィルムからなる酸素吸収性包装容器。」(【特許請求の範囲】)
(イ)「本発明の酸素吸収性多層フィルムを構成するヒートシール層には…(中略)…例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、メタロセン触媒によるポリエチレン等の各種ポリエチレン類、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、プロピレンホモポリマー、プロピレン-エチレンブロック共重合体、プロピレン-エチレンランダム共重合体、メタロセン触媒によるポリプロピレン等の各種ポリプロピレン類、ポリメチルペンテン、熱可塑性エラストマー等が挙げられ、これらを単独で、または組み合わせて使用することができる。」(段落番号【0011】の記載参照)
(ウ)「本発明において、ガスバリア層には、アルミナ蒸着フィルムが用いられる。…(中略)…本発明においては、アルミナ蒸着フィルムのアルミナ蒸着面を耐衝撃性中間層側に配し、ベースフィルムを多層フィルム外部表面側に配する。これにより、アルミナ蒸着面が外部衝撃から保護され、クラックが発生することが防止される。」(段落番号【0022】?【0023】の記載参照)
(エ)「本発明の酸素吸収性多層フィルムにおいては、酸素吸収層中の脱酸素剤を外部より隠蔽したり、遮光性を向上させて光による内容物の品質劣化を防ぐために、耐衝撃性中間層に遮光性を付与することが好ましい。遮光性の付与は、耐衝撃性に優れた熱可塑性樹脂に白色顔料の配合により着色したり、耐衝撃性中間層の全面に印刷を施すことによって可能である。酸素吸収性多層フィルムに遮光性を付与することにより、蛍光照射下における保存においても、光による品質劣化が防止される。耐衝撃性中間層に着色する場合には、顔料を耐衝撃性に優れた熱可塑性樹脂に配合することが好ましい。使用される顔料は、酸化チタン、クレー、マイカ、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウムに例示される白色顔料が好ましく、酸化チタンが特に好ましい。」(段落番号【0027】及び【0028】の記載参照)
(オ)「本発明の酸素吸収性多層フィルムは、押し出しラミネートや共押し出しラミネート、ドライラミネート等の従来公知の積層フィルムの製造方法を利用して製造される。」(段落番号【0029】の記載参照)
(カ)「本発明の酸素吸収性多層フィルムを容器の一部または全体に用いて酸素吸収性容器を作成することができる。例えば、本発明の酸素吸収性多層フィルムを2枚使用して、これをヒートシールすることにより、酸素吸収性袋が作成できる。」(段落番号【0030】の記載参照)
以上の記載から引用文献1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているということができる。
「熱可塑性樹脂からなるヒートシール層、熱可塑性樹脂に鉄系酸素吸収剤が分散した酸素吸収性樹脂組成物からなる酸素吸収層、熱可塑性樹脂に白色顔料を配合し遮光性を付与した耐衝撃性中間層、及び、アルミナ蒸着フィルムからなるガスバリア層からなる酸素吸収性多層フィルムをヒートシールすることにより作成した酸素吸収性袋。」

また、同じく引用された特開2001-47561号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「酸素捕捉機能樹脂層を含むラミネートフィルム及びそれを使用したフレキシブルパッケージ」に関して以下の事項が記載されている。
(キ)「パッケージ内側から少なくとも、ヒートシール性樹脂層/酸素捕捉性樹脂を含む樹脂層/ガスバリア層/耐熱性樹脂層の順に積層したラミネートフィルムの2枚を、ヒートシール性樹脂層面を合わせて周辺をシールしたフレキシブルパッケージ。」(【特許請求の範囲】 【請求項13】)
(ク)「本発明に使用する酸素捕捉性樹脂としては、分子中に炭素-炭素不飽和結合を有するポリオレフィンオリゴマーセグメントを結合したポリエステル系、ポリアミド系などの重縮合系樹脂、ポリオレフィン系またはビニル系などの付加重合体を挙げることができる。」(段落番号【0017】の記載参照)
(ケ)「このような酸素捕捉性樹脂は、そのままでは酸素との反応性が低いため、酸素との反応性を高めるためには該樹脂中に遷移金属化合物を触媒量添加する必要がある。」(段落番号【0029】の記載参照)
(コ)「酸素捕捉性樹脂層に共重合体該遷移金属化合物に加え、光酸化促進剤(増感剤)を添加することが好ましい。…(中略)…この光酸化促進剤は、光への暴露により酸素捕捉性樹脂の酸素捕捉速度を促進するものであるが、酸素捕捉性樹脂の種類、光の波長及び強度などにより変化する。樹脂の透明性が低ければ光酸化促進剤の使用量は増加する必要がある。…(中略)…上記遷移金属化合物及び光酸化促進剤については特開平5-194949において詳細に説明されている。」(段落番号【0031】?【0032】)
(サ)「上記のヒートシール性樹脂、酸素捕捉性樹脂、耐熱性樹脂、場合によってはガスバリア性樹脂は、積層する際にできれば相互に接着ができるように樹脂同士が相互に相溶性のある組み合わせをとることが好ましい。かかる場合においては多層同時押出によるラミネートフィルムを成形することも可能であるが、組み合わせによっては相互に接着性が乏しく、同時押出によるラミネートフィルムの成形が困難な場合も考えられる。」(段落番号【0039】の記載参照)
以上の記載から、引用文献2には、酸素捕捉性樹脂(酸化性樹脂)に遷移金属触媒を含有する樹脂層、ヒートシール性樹脂層、及びガスバリア性樹脂層等からなるラミネートフィルム、すなわち多層積層フィルムを重ね合わせ周辺をヒートシールしてフレキシブルパッケージを形成することが記載され、さらに上記ラミネートフィルムが多層同時押出によって形成されること、及び酸素捕捉樹脂層に光酸化促進剤を添加し、光への暴露によって酸素捕捉速度を促進することが従来から行われており、その際、樹脂の透明性が低いときには光酸化促進剤の使用量が増加することなどが示されている。

さらに、同じく引用された特開2000-344958号公報(以下、「引用文献3」という)には、「酸素吸収剤、それを用いた包装材及び包装容器」に関して以下の事項が図面とともに記載されている。
(シ)「【請求項1】 少なくとも光触媒と有機物とを含有する組成物から成り、紫外線を照射することにより活性化されることを特徴とする酸素吸収剤。
…(中略)…
【請求項6】 有機物がラジカル分解型オレフィン系樹脂であることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の酸素吸収剤。
…(中略)…
【請求項8】 請求項1乃至6の何れかに記載の酸素吸収剤の層を備えていることを特徴とする包装容器。」(【特許請求の範囲】)
(ス)「特開平5-194949号公報には、酸化可能な有機化合物、遷移金属触媒を含有する樹脂組成物を放射線に暴露することにより、酸素の捕捉を開始させることが記載されている。」(段落番号【0008】の記載参照)
(セ)「本発明の酸素吸収剤の内、有機高分子に光触媒を分散させたものは、単層で、或いはその他の包装用素材と組み合わせた多層の形で、包装用フィルム、三方或いは四方シールの通常のパウチ類、ガセット付パウチ類、スタンディングパウチ類、ピロー包装袋、チューブ容器、カップ、ボトル、トレイ、各種缶、容器蓋などの用途に用いることができる。」(段落番号【0037】の記載参照)
(ソ)「図1の(D)は、包装材1が4層構成の例であり、酸素吸収剤層11が内層として、延伸プラスチックフィルム12が外層として、酸素遮断性層14が中間層として、それぞれ設けられている点では、図1の(C)と同様であるが、酸素吸収剤層11の内側に更に、酸素透過性樹脂層15が設けられている。酸素透過性樹脂層としては、前に例示したオレフィン系樹脂からなる内面材が適しており、これらのオレフィン系樹脂からなる内面材は、容器内の酸素を酸素吸収剤層に透過すると共に、包装材にヒートシール性をも付与する。」(段落番号【0042】の記載参照)
(タ)「本発明の酸素吸収剤を充填した包装材、或い酸素吸収剤層を備えた包装材に対する紫外線照射は、内容物充填に先立って行うこともできるし、内容物充填及び後に行うこともできる。酸素吸収剤層と包装材外面との間に金属等の不透明な材料が介在する場合には、内容物の充填に先立って、酸素吸収剤層への紫外線照射を行うことになる。一方、酸素吸収剤層と包装材外面との間に金属等の不透明な材料が介在せず、透明である場合には、内容物の充填に先立って、酸素吸収剤層への紫外線照射を行っても、内容物を充填し、密封した後紫外線照射を行ってもよい。」(段落番号【0054】の記載参照)
以上の記載から、引用文献3には、外層と中間層である酸素遮断層(バリア層)と光触媒を含有したラジカル分解型オレフィン系樹脂(酸化樹脂)からなる酸素吸収剤層とオレフィン樹脂からなる内面材を有する積層材で包装袋等を形成すること及び、上記酸素吸収剤層に紫外線を照射することが記載されており、紫外線照射は不透明な材料が介在しない面から行うことが示されている。

さらに、同じく引用された特開2004-195759号公報(以下、「引用文献4」という。)には、遮光性に優れた共押出多層積層樹脂フィルムを使用して、他の基材フィルム等と任意に積層して包装用の積層材を製造し得ること、そのようにして製造された積層材を製袋して包装用袋を製造することなどが記載されている。(段落番号【0009】【0012】【0016】【0017】等の記載参照)

3.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「酸素吸収性袋」は、本願発明の「包装用袋」であることは明らかであり、
引用発明の「アルミナ蒸着フィルムからなるガスバリア層」は、本願発明の「バリア性基材フィルム」に相当し、
引用発明の「ヒートシール層」、「酸素吸収層」及び「耐衝撃性中間層」は、その配置からそれぞれ本願発明の「裏面層を構成する第3層」、「中間層を構成する第2層」及び「表面層を構成する第1層」に対応し、
引用発明の「ヒートシール層」は、熱可塑性樹脂からなるので本願発明でいう「熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物による層」である点で、引用発明の「酸素吸収層」は、樹脂組成物からなる点で、それぞれ本願発明の第3層及び第2層と共通しており、
また、本願発明の「遮光性着色剤」に関して、本願明細書の段落番号【0029】には「本発明に係る遮光性兼酸素吸収性多層積層フィルムを構成する遮光性着色樹脂層を形成する遮光性着色剤としては、黒色系着色剤、黒色系着色剤と白色系着色剤との混合着色剤、あるいは、白色系着色剤等の無彩色の着色剤、更には、赤、橙、黄、緑、青、紫、その他等の有彩色の着色剤、その他等を使用することがてきる。」と記載され、また段落番号【0030】の「本発明において、上記の白色系着色剤としては、…(中略)…例えば、白色系の各種の無機系ないし有機系の染料、顔料等の着色剤の1種ないし2種以上の混合物を使用することが望ましいものである。」と記載されているように、本願発明が遮光性着色剤として白色系の顔料を除外していないことから、引用発明の「耐衝撃性中間層」は、本願発明の第1層に相当するものということができる。
そして、引用発明においても、上記「ヒートシール層」、「酸素吸収層」及び「耐衝撃性中間層」は、上記「アルミナ蒸着フィルムからなるガスバリア層」に積層される「3種3層」のフィルムを構成し、ヒ-トシ-ル性能、遮光性能および酸素吸収性能を有する酸素吸収性多層積層フィルムであるということができる。
また、引用発明の酸素吸収性多層フィルムをヒートシールすることにより酸素吸収性袋を作成する際は、ヒートシール層の面を対向させ、その外周辺端部をヒートシールすることは、技術常識に照らして当然のことである。

してみれば、本願発明と引用発明との一致点は、以下のとおりとなる。
「少なくとも、バリア性基材フィルム、および、少なくとも3層のフィルムを順次に積層した積層体を、その3層の積層体の面を対向させて重ね合わせ、更に、その外周周辺の端部をヒ-トシ-ルして製袋してなる包装用袋において、上記の3層のフィルムが、熱可塑性樹脂と遮光性着色剤とを含む樹脂組成物、樹脂組成物および熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物を使用し、これらの3種の樹脂組成物を積層し、表面層を構成する第1層が、熱可塑性樹脂と遮光性着色剤とを含む樹脂組成物による遮光性着色樹脂層からなり、次に、中間層を構成する第2層が、酸素吸収性樹脂層からなり、更に、裏面層を構成する第3層が、熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物による樹脂層からなる3種3層のフィルムよりなるヒ-トシ-ル性能、遮光性能および酸素吸収性能を有する酸素吸収性多層積層フィルムからなることを特徴とする包装用袋。」

そして、本願発明と引用発明との相違点は、以下のとおりである。
[相違点1]本願発明の包装用袋が、バリア性基材フィルム、および、少なくとも3層のフィルムにさらに「基材フィルム」を積層した積層体から形成されるのに対し、引用発明では、該「基材フィルム」に相当するフィルムをさらに積層するとは規定していない点。
[相違点2]本願発明の3種3層のフィルムが、「共押出製膜化フィルム」とされているのに対し、引用発明は、「ヒートシール層」、「酸素吸収層」及び「耐衝撃性中間層」が共押し出しにより製膜されるとは規定していない点。
[相違点3]本願発明の酸素吸収性樹脂層が、「酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物による」とされているのに対し、引用発明の酸素吸収層は、「熱可塑性樹脂に鉄系酸素吸収剤が分散した酸素吸収性樹脂組成物からなる」点。
[相違点4]本願発明の裏面層を構成する樹脂層が、「透明ないし半透明」とされるのに対し、引用発明では、ヒートシール層の透明性について規定していない点。

4.判断
そこで、上記各相違点について検討する。
[相違点1]について
積層によって所望の機能を具備するようにした積層フィルムを用いて包装袋のような製品を形成する際に、目的とする製品に求められる強度や意匠性などの一般的機能を考慮してさらに他の基材フィルムを積層することは普通に行われており、また、引用文献4には、包装用袋を製造するための共押出多層積層樹脂フィルムを他の基材フィルムと任意に積層することが記載されていることから見ても、引用発明の酸素吸収性袋のガスバリア層を構成するアルミナ蒸着フィルム上にさらに基材フィルムを積層することは、当業者が適宜なし得る設計的事項である。

[相違点2]について
樹脂組成物からなる層を積層して多層フィルムを形成する手段として、共押出製膜化は、本願出願前周知慣用の手段であることは、引用文献2及び4にも示されるとおりであり、引用発明に係る引用文献1にも「本発明の酸素吸収性多層フィルムは、押し出しラミネートや共押し出しラミネート、ドライラミネート等の従来公知の積層フィルムの製造方法を利用して製造される。」(上記摘示記載(オ))と記載されていること、引用発明の「ヒートシール層」、「酸素吸収層」及び「耐衝撃性中間層」の樹脂は、いずれも熱可塑性樹脂を含んでいるので、多層同時押し出しによるラミネートフィルムの形成が可能であること(引用文献2の上記摘示記載(サ)参照)も明らかなことから、
引用発明において、「ヒートシール層」、「酸素吸収層」及び「耐衝撃性中間層」の3層のフィルムを共押出製膜化することは、当業者が適宜なし得る設計的事項である。

[相違点3]及び[相違点4]について
包装材として使用される多層積層フィルムの酸素吸収性樹脂層として、酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物によるものを用いることは、引用文献2及び3に記載されるように本願出願前周知の技術的事項であり、引用発明における熱可塑性樹脂に鉄系酸素吸収剤が分散した酸素吸収性樹脂組成物に代えて、該本願出願前周知の樹脂組成物を採用することは、当業者が容易になしうる事項である。
そして、本願発明が、裏面層を構成する樹脂層を「透明ないし半透明」としたことの技術的意義について、本願明細書には明確に記載されていないが、本願発明に係る包装用袋の使用の態様において、袋の内面から紫外線を照射することが記載されていることから、上記遷移金属触媒を含む酸素吸収性樹脂層に紫外線等を照射するために、積層体の照射面を構成する樹脂を「透明ないし半透明」とするというのであれば、引用文献3にも、紫外線等の照射は不透明な層を介在しない面から行うとされているように、裏面層を不透明でない、すなわち「透明ないし半透明」とすることは格別のことではなく、引用発明において、酸素吸収性樹脂層を酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物からなるものとする際に、遷移金属触媒に対する光の作用を考慮して、酸素吸収性樹脂層との間に白色顔料を配合して遮光性を付与した中間層、すなわち不透明層が介在しない面に配置されるヒートシール層を「透明ないし半透明」とすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項である。
また、引用文献1においてヒートシール層に使用する樹脂として例示された樹脂(上記摘示記載(イ)参照)は、本願発明の「透明ないし半透明」の樹脂として明細書段落番号【0022】に示されたものと共通している。
なお、酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物に対する「光」の作用については、引用文献2及び3が先行技術文献として共通して引用している特開平5-194949号公報の記載も参照されたい。

以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであることから、本願発明を択一的に含む本願請求項1に係る発明についても同様に、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
上記のように、本願請求項1に係る発明は、引用発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、他の請求項について検討するまでもなく本願は拒絶すべきものである。
よって、原査定は妥当であり、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-04-17 
結審通知日 2012-04-24 
審決日 2012-05-08 
出願番号 特願2005-39670(P2005-39670)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 昌広  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 ▲高▼辻 将人
紀本 孝
発明の名称 遮光性兼酸素吸収性多層積層フィルムおよびそれを使用した積層体、包装用袋、包装製品  
代理人 金山 聡  

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