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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A47D 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A47D |
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管理番号 | 1258904 |
審判番号 | 不服2011-13738 |
総通号数 | 152 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-08-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-06-28 |
確定日 | 2012-06-18 |
事件の表示 | 特願2008-191536号「抱っこ紐」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 2月12日出願公開、特開2010- 29236号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
I.手続の経緯 本願は、平成20年7月24日の出願であって、平成23年3月24日付けで拒絶査定がなされたところ、同査定を不服として、平成23年6月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同平成23年6月28日付けで明細書及び特許請求の範囲についての手続補正がなされたものである。 II.平成23年6月28日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成23年6月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1.補正後の本願発明 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。 「 互いに略直交するように結合した約10cm程度の一定幅の横幅を有する2個の環状ベルトを有し、 当該環状ベルトは、少なくとも2枚の織り布を重ね合わせて側縁部を縫合することによって形成するとともに縫合される各織り布の側縁部は折り返すことによって二重に形成されたものであって、 当該環状ベルトの結合部は前記2個の環状ベルトが交差した略正方形状の領域として形成されるとともに、当該交差した領域の最も外側の外周縁部の縫い合わせによって前記2個の環状ベルトを結合したものであり、 前記2個の環状ベルトの交差部を起点とする当該環状ベルトの各側縁によって形成される3角形状の開口領域には、略3角形状の布状体が取り付けられており、 前記2個の環状ベルトには、それぞれ当該環状ベルトの長さを調節するための調節具が設けられており、 前記略3角形状の布状体は、幼児の背中を支える背当て布となるものであって、環状ベルトの直線状の側縁と結合する2つの側縁は、結合する環状ベルト側に向かって突出するように湾曲するとともに、当該側縁の一方は、開閉可能なスライドファスナーを介して前記環状ベルトの直線状の側縁と結合するようになっていることを特徴とする抱っこ紐。」(下線部は、補正個所を示す。) 2.補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無 本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「環状ベルト」に、「約10cm程度の一定幅の横幅を有する」、及び、「当該環状ベルトは、少なくとも2枚の織り布を重ね合わせて側縁部を縫合することによって形成するとともに縫合される各織り布の側縁部は折り返すことによって二重に形成されたもの」との限定を付加するとともに、「当該正方形状の領域の外周縁部における縫い合わせによって前記2個の環状ベルトと結合した」との補正前の発明特定事項に限定を付加して、「2個の環状ベルトが交差した略正方形状の領域として形成されるとともに、当該交差した領域の最も外側の外周縁部の縫い合わせによって前記2個の環状ベルトを結合した」とするものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、新規事項を追加するものではない。 3.独立特許要件 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)、について以下に検討する。 3-1.引用の刊行物の記載事項 3-1-1.実用新案登録第3128596号公報の記載 原査定の拒絶の理由に引用された、「実用新案登録第3128596号公報(以下、「引用例1」という。)」は、本願出願前に頒布された刊行物であり、図面と共に次の記載がなされている。 記載A. 「【請求項1】 乳幼児用の折畳み式抱っこ紐であって、 (A)装着者の腹側及び背中側に交差部が形成されるように、該腹側の交差部のみが縫製により固定された2本の環状帯体と、 (B)前記腹側の交差部の上方において前記環状帯体に縫製により固定された、乳幼児の背中を支える背当て部と、 (C)前記環状帯体又は前記背当て部に形成された折畳み形態保持用紐体と、を備えており、 前記各環状帯体はそれぞれ一本の帯体がねじれた状態で環状となっており、且つ本折畳み式抱っこ紐を折畳んだ際に、折畳まれた状態が前記折畳み形態保持用紐体により保持されることを特徴とする折畳み式抱っこ紐。 【請求項2】 前記環状帯体の幅が、50?250mmである請求項1に記載の折畳み式抱っこ紐。 【請求項3】 前記背当て部の上縁の長さが調節可能となっている請求項2に記載の折畳み式抱っこ紐。 【請求項4】 前記折畳み形態保持用紐体が前記背当て部に形成されており、該折畳み形態保持用紐体により該背当て部の上縁の長さを調節できる請求項2に記載の折畳み式抱っこ紐。 【請求項5】 前記折畳み形態保持用紐体が前記背当て部の上縁に形成された長尺状の紐通し穴に挿通されている請求項4に記載の折畳み式抱っこ紐。 【請求項6】 前記折畳み形態保持用紐体は、ストッパ部と該ストッパ部に一端が輪状となるように挿通されたゴム紐とからなり、該ゴム紐の他端は前記背当て部の上縁の紐通し穴に挿通され縫製により固定されており、該ストッパ部を移動させることにより前記背当て部の上縁の長さを調整することができ、且つ本折畳み式抱っこ紐を折畳んだ際に、折畳まれた本抱っこ紐を前記ゴム紐の輪状部分に挿通し、該輪状部分の張力により折畳まれた状態が保持される請求項5に記載の折畳み式抱っこ紐。 【請求項7】 前記環状帯体の幅が、70?200mmである請求項6に記載の折畳み式抱っこ紐。 【請求項8】 前記環状帯体の幅が、80?150mmである請求項6に記載の折畳み式抱っこ紐。 【請求項9】 前記環状帯体及び背当て部が、共にキルティング加工された布地からなる請求項6乃至8のいずれかに記載の折畳み式抱っこ紐。 【請求項10】 前記環状帯体及び前記背当て部の少なくとも一部に、ポケットが形成されている請求項6乃至9のいずれかに記載の折畳み式抱っこ紐。 【請求項11】 前記環状帯体及び前記背当て部の少なくとも一部に、輪状の引掛け部が形成されている請求項6乃至10のいずれかに記載の折畳み式抱っこ紐。」(【実用新案登録請求の範囲】) 記載B. 「 以下、本考案を、更に詳しく説明する。 本考案の折畳み式抱っこ紐(以下、単に「抱っこ紐」ともいう。)は、2本の環状帯体と、背当て部と、折畳み形態保持用紐体と、を備えている。 前記「2本の環状帯体」は、本抱っこ紐を装着した際に、装着者の腹側及び背中側に交差部(図1における「腹側交差部A」及び図2における「背中側交差部B」参照)が形成されるように配置され、且つ腹側の交差部のみで縫製により固定されている。尚、この腹側交差部において、乳幼児の臀部が支えられる(図10参照)。 また、前記環状帯体は、それぞれ一本の帯体がねじれた状態で環状となっており、このねじれた部分(以下、「ねじれ部」ともいう。)は、装着者の横腹に沿うように形成されており、装着者の横腹から乳幼児の股部付近にかけて配置されるように装着される(図1、図2、図10及び図11における「ねじれ部2A、2B」参照)。本考案の抱っこ紐においては、装着者の肩、背中及び横腹に対して環状帯体が幅広な部分のみで接することになり、環状帯体が肌に食い込んだりせず、装着者への負担が少ない。また、このねじれ部の存在により、抱っこされる乳幼児の太腿や股部に対しても環状帯体の幅広な部分が接することになるため、乳幼児への負担も少ない。」(【0007】段落) 記載C. 「 前記環状帯体の幅は特に限定されず、装着者の体型に合わせて適宜調整することができる。具体的には、この幅は、例えば、50?250mm、特に70?200mm、更には80?150mmとすることができる。この幅が、50?250mmである場合には、帯体が肌に食い込んだりせず、装着者の肩等への負担をより少なくすることができる。尚、帯体の幅は、全て同じ長さであってもよいし、部分的に異なっていてもよい。」(【0008】段落) 記載D. 「 前記「背当て部」は、乳幼児の背中、更には首や頭を支える部分であり、本抱っこ紐における腹側の交差部の上方において、具体的には、本抱っこ紐を装着した際に2本の環状帯体とその交差部(腹側)とにより形成されるV字ゾーンにおいて、環状帯体に縫製により固定されている(図1における「背当て部3」を参照)。 前記背当て部の形状は特に限定されず、乳幼児の背中付近を支えることが可能であればよい。また、この背当て部においては、上縁の長さが調節可能となっていることが好ましい。この場合、乳幼児の体長に合わせて、乳幼児の首もとの開口具合を容易に調整することができる。 また、この上縁の長さを調節可能とする構成は特に限定されず、例えば、紐体やゴム紐等を用いた構成とすることができる。具体的には、上縁に形成された長尺状の紐通し穴にゴム紐を挿通し、ゴム紐の両端を縫製により固定して、その張力により開口具合を調整する構成等とすることができる。更には、後述の折畳み形態保持用紐体を用いた構成とすることができる。 また、前記背当て部は、(i)2本の環状帯体の両方に縫製により固定されていてもよいし、(ii)一方の環状帯体に縫製により固定されており、他方の環状帯体にファスナ等により取り外し可能に形成されていてもよい。一端側が取り外し可能となっている場合には、乳幼児を抱っこ紐に収納したり、抱っこ紐から外したりするのが容易となる。 前記環状帯体及び背当て部の材質は特に限定されないが、例えば、木綿、ナイロン、ポリエステル及びシルク等の布地、更にはそれらの布地にキルティング加工を施した布地等を挙げることができる。これらのなかでも、キルティング加工された布地が強度に優れ且つ軽量であるという観点から好ましい。尚、前記環状帯体及び背当て部の材質は同一であってもよいし、異なっていてもよいが、共にキルティング加工された布地からなることが好ましい。」(【0009】?【0012】段落) ここで、図面の記載を併せみつつ、これら記載事項について検討すると、記載A.には、「【請求項1】 乳幼児用の折畳み式抱っこ紐であって、 (A)装着者の腹側及び背中側に交差部が形成されるように、該腹側の交差部のみが縫製により固定された2本の環状帯体と、 ・・折畳み式抱っこ紐。 ・・ 【請求項8】 前記環状帯体の幅が、80?150mmである請求項6に記載の折畳み式抱っこ紐。」と、引用例1は、80?150mmの幅の2個の環状帯体からなる折畳み式抱っこ紐を記載しており、さらに、記載C.に、「・・具体的には、この幅は、例えば、50?250mm、特に70?200mm、更には80?150mmとすることができる。・・尚、帯体の幅は、全て同じ長さであってもよいし、部分的に異なっていてもよい。」と、引用例1は、幅が一定の環状帯体を記載している。 また、図面の記載を併せみると、2本の管状帯は、正確に直交するとは言い難いものの、直交に近い角度をなし配置されている。 したがって、引用例1には、 ・互いに略直交に近い角度で結合した80?150mmの一定幅の横幅を有する2個の環状帯体を有する折畳み式抱っこ紐 が記載されている。 また、引用例1は、記載A.に、「・・ 【請求項9】 前記環状帯体及び背当て部が、共にキルティング加工された布地からなる請求項6乃至8のいずれかに記載の折畳み式抱っこ紐。 ・・」と、記載D.に、「・・前記環状帯体及び背当て部の材質は特に限定されないが、例えば、木綿、ナイロン、ポリエステル及びシルク等の布地、更にはそれらの布地にキルティング加工を施した布地等を挙げることができる。これらのなかでも、キルティング加工された布地が強度に優れ且つ軽量であるという観点から好ましい。・・」と、記載しているので、引用例1には、 ・環状帯体が、キルティング加工された布地に例示される布地からなること が記載されている。 そして、環状帯体の交差部の形状について図面の記載をみると、環状帯体の交差部は正確に直交するとは言い難く、略正方形ではないものの、それに近い四角形に図示されて、記載A.に「【請求項1】・・ (A)装着者の腹側及び背中側に交差部が形成されるように、該腹側の交差部のみが縫製により固定された2本の環状帯体と、・・」と、記載B.に、「・・前記「2本の環状帯体」は、本抱っこ紐を装着した際に、装着者の腹側及び背中側に交差部(図1における「腹側交差部A」及び図2における「背中側交差部B」参照)が形成されるように配置され、且つ腹側の交差部のみで縫製により固定されている。尚、この腹側交差部において、乳幼児の臀部が支えられる(図10参照)。・・」と、2個の環状帯体の結合は、交差部のみが縫製により固定されることが記載されるので、引用例1には、 ・環状帯体の交差部は前記2個の環状帯体が交差した四角形の領域として形成されるとともに、交差部のみが縫製により2個の環状帯体を結合すること が記載されている。 さらに引用例1の記載について検討すると、記載A.に、「【請求項1】 乳幼児用の折畳み式抱っこ紐であって、 ・・ (B)前記腹側の交差部の上方において前記環状帯体に縫製により固定された、乳幼児の背中を支える背当て部と、 ・・ 【請求項9】 前記環状帯体及び背当て部が、共にキルティング加工された布地からなる請求項6乃至8のいずれかに記載の折畳み式抱っこ紐。 ・・」と、記載D.に、「前記「背当て部」は、乳幼児の背中、更には首や頭を支える部分であり、本抱っこ紐における腹側の交差部の上方において、具体的には、本抱っこ紐を装着した際に2本の環状帯体とその交差部(腹側)とにより形成されるV字ゾーンにおいて、環状帯体に縫製により固定されている(図1における「背当て部3」を参照)。 ・・また、この背当て部においては、上縁の長さが調節可能となっていることが好ましい。この場合、乳幼児の体長に合わせて、乳幼児の首もとの開口具合を容易に調整することができる。 ・・ また、前記背当て部は、(i)2本の環状帯体の両方に縫製により固定されていてもよいし、(ii)一方の環状帯体に縫製により固定されており、他方の環状帯体にファスナ等により取り外し可能に形成されていてもよい。一端側が取り外し可能となっている場合には、乳幼児を抱っこ紐に収納したり、抱っこ紐から外したりするのが容易となる。 前記環状帯体及び背当て部の材質は特に限定されないが、例えば、木綿、ナイロン、ポリエステル及びシルク等の布地、更にはそれらの布地にキルティング加工を施した布地等を挙げることができる。これらのなかでも、キルティング加工された布地が強度に優れ且つ軽量であるという観点から好ましい。・・」と、記載しており、2個の環状帯体の交差部を起点とする当該環状帯体の各側縁によって形成される3角形状のV字ゾーンに、キルティング加工された布地に例示される布地からなる背当て部が取り付けられることが記載され、図面の記載によれば、背当て部は、略3角形状と解される。 そして、背当て部と環状帯体との結合は、一方が縫合であり、他方がファスナ等により取り外し可能に形成されるものが記載され、さらに、背当て部は、乳幼児の背中を支えるものであり、上縁の長さが調節可能として、背当て部により形成される空間を乳幼児の体型に合致させることを、引用例1は記載している。 したがって、引用例1には、 ・2個の環状帯体の交差部を起点とする環状帯体の各側縁によって形成される3角形状のV字ゾーンには、キルティング加工された布地に例示される布地からなる略3角形状の背当て部が取り付けられており、 前記略3角形状の背当て部は、幼児の背中を支える背当て布となるものであって、管状帯体の直線状の側縁と結合する2つの側縁は、当該側縁の一方は、開閉可能なファスナーを介して前記環状帯体の直線状の側縁と結合すること が記載されている。 以上を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「互いに略直交に近い角度で結合した80?150mm一定幅の横幅を有する2個の環状帯体を有し、 当該環状帯体は、キルティング加工された布地に例示される布地からなり、 当該環状帯体の交差部は前記2個の環状帯体が交差した四角形の領域として形成されるとともに、交差部のみが縫製により固定された前記2個の環状帯体を結合したものであり、 前記2個の環状帯体の交差部を起点とする当該環状帯体の各側縁によって形成される3角形状のV字ゾーンには、キルティング加工された布地に例示される布地からなる略3角形状の背当て部が取り付けられており、 前記略3角形状の背当て部は、幼児の背中を支える背当て布となるものであって、環状帯体の直線状の側縁と結合する2つの側縁は、当該側縁の一方は、開閉可能なファスナーを介して前記環状帯体の直線状の側縁と結合するようになっている折畳み式抱っこ紐。」 3-1-2.実用新案登録第3115985号公報の記載 原査定の拒絶の理由に引用された、「実用新案登録第3115985号公報(以下、「引用例2」という。)」は、本願出願前に頒布された刊行物であり、図面と共に次の記載がなされている。 記載E. 「この考案に基づいた対面抱き専用子守帯においては、一定幅形状の左肩帯部材と右肩帯部材および略直角二等辺を有した背当て部材からなる乳幼児と対面して抱くための子守帯であって、前記左肩帯部材と前記右肩帯部材を略直角に交差させ固定した乳幼児の座面を形成する連結交差部を有し、前記左肩帯部材と前記右肩帯部材はそれぞれ輪形状に固定されており、前記背当て部材は前記左肩帯部材と前記右肩帯部材および前記連結交差部に固定され、前記左肩帯部材は装着者の左肩に、前記右肩帯部材は装着者の右肩に、前記連結交差部及び前記背当て部材は装着者の前腹部に位置し、装着者の背面部には前記左肩帯部材と前記右肩帯部材が交差することを特徴とする。」(【0008】段落) 記載F. 「図2は平面図である。<3>は正面図、<4>は背面図である。左肩帯部材aと右肩帯部材bは直角に交差しており、その交差部分を固定(縫製固定部分点線d1)した連結交差部dは乳幼児の股を通して受ける座面を形成する。左肩帯部材aと右肩帯部材bおよび連結交差部dに接して、乳幼児の脇から下を保持するための背当て部材cが設けられている。この構成により、乳幼児の上半身が安定する。」(【0015】段落) 図面の記載を併せみつつ、これら記載事項について検討すると、記載E.F.に、左肩帯部材と右肩帯部材とが直角に交差することが記載され、【図2】には、点線で示される縫合線d1が、左肩帯部材aと右肩帯部材bとで形成される略正方形の連結交差部dの外周付近に図示されている。 したがって、引用例2には、以下の技術が記載されている。 「左肩帯部材と右肩帯部材が互いに略直交し、その連結交差部dは、左肩帯部材と右肩帯部材が交差した略正方形状の領域として形成されるとともに、当該連結交差部dの外周縁部を縫合して、左肩帯部材と右肩帯部材が結合すること。」 3-1-3.実用新案登録第3083231号公報の記載 原査定の拒絶の理由に引用された、「実用新案登録第3083231号公報(以下、「引用例3」という。)」は、本願出願前に頒布された刊行物であり、図面と共に次の記載がなされている。 記載G. 「幼児の後ろ側に当たる部分は人体に合っカーブをしており、さらに上部の端8にゴムを入れる事で幼児の臀部をすっぽり包み込むように支えている。 ショルダー部は、やはり人体の突起に合わせたカーブをしており、たっぷりした巾を持たせる事で重さを分散させ、保護者の負担を軽減している。 さらに、肩の外側に当たる部分9‘にゴムを入れ丸みを出す事により肩の先に無理無く収まり(図5)、幼児の重さや動きによるズレを防止し、密着度が増し、安全に使用する事が出来る。 [考案の効果]本考案は従来の物とは全く違った発想から出来ており、全てがカーブを描くパーツで構成されているため、人体へのフィット感が高く、幼児、保護者共に快適であり、幼児の動きや保護者の動作によるズレが非常に少なく安全性が極めて高い。また、幼児の両足を交差した部分に通す事によりズレ落ちの危険が無い。」(【0008】?【0010】段落) 図面の記載を併せみつつ、上記記載について検討すると、記載G.には、人体の突起に合わせた空間を形成するために、カーブを描くパーツで構成することが記載され、図面には、円内に5及び1が記載された符号で示されるショルダー部が曲線で構成されるとともに、円内に3が記載された符号で示されるパーツのB2,C2で示される部分も外側に凸のカーブを描いている。 したがって、引用例3には、以下の事項が記載されている。 「だっこ紐において、人体の突起に合わせた空間を形成するために、パーツの形状を外側に突出するカーブを含め、適宜、カーブを描くパーツで構成すること。」 3-2.対比 本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「環状帯体」は布からなり、2本が交差して結合しており、交差する角度については、さらに検討を加えるとしても、機能、作用、形状等からみて、本願補正発明の互いに結合した2個の「環状ベルト」に相当し、その交差する部分である引用発明の「交差部」は、本願補正発明の「結合部」に、引用発明の「V字ゾーン」は、その配置関係からみて、本願補正発明の「開口領域」に、それぞれ相当するとともに、引用発明の「背当て部」は、その機能、配置関係、作用、形状等からみて、本願補正発明の「布状体」に相当し、その全体である引用発明の「折畳み式抱っこ紐」は、上記相当範囲において、本願補正発明の「抱っこ紐」に相当する。 また、引用発明の「ファスナー」と、本願発明の「スライドファスナー」とは、ともに「ファスナー」である点では共通している。 そこで、本願補正発明の用語を用いて表現すると、両発明は、次の点で一致する。 (一致点) 「 互いに交差するように結合した一定幅の横幅を有する2個の環状ベルトを有し、 当該環状ベルトは、布地からなり、 当該環状ベルトの結合部は前記2個の環状ベルトが交差した領域として形成されるとともに、交差部のみが縫製により固定された前記2個の環状ベルトを結合したものであり、 前記2個の環状ベルトの交差部を起点とする当該環状ベルトの各側縁によって形成される3角形状の開口領域には、略3角形状の布状体が取り付けられており、 前記略3角形状の布状体は、幼児の背中を支える背当て布となるものであって、環状ベルトの直線状の側縁と結合する2つの側縁は、当該側縁の一方は、開閉可能なファスナーを介して前記環状ベルトの直線状の側縁と結合するようになっている抱っこ紐。」 そして、両発明は、次の点で相違する(対応する引用例記載の用語を( )内に示す)。 (相違点1) 本願補正発明の環状ベルトは、横幅が約10cm程度であるのに対して、引用発明の環状ベルト(環状帯体)は、横幅が80?150mmである点。 (相違点2) 本願補正発明の環状ベルトは、少なくとも2枚の織り布を重ね合わせて側縁部を縫合することによって形成するとともに縫合される各織り布の側縁部は折り返すことによって二重に形成されたものであるのに対し、引用発明の環状ベルト(環状帯体)は、キルティング加工された布地に例示される布地からなるものである点。 (相違点3) 本願補正発明は、2個の環状ベルトが互いに略直交し、その結合部は、環状ベルトが交差した略正方形状の領域として形成されるとともに、当該交差した領域の最も外側の外周縁部の縫い合わせによって前記2個の環状ベルトを結合したものであるのに対して、引用発明の環状ベルト(環状帯体)は、互いに略直交に近い角度で交差するものの、略直交との特定はなく、結合部(交差部)は、四角形であるものの、略正方形状の領域とまでは特定されず、縫製により固定されるものの、その縫い合わせる位置を外周縁部とすることの特定もない点。 (相違点4) 本願補正発明の環状ベルトには、それぞれ環状ベルトの長さを調節するための調節具が設けられているのに対し、引用発明の環状ベルト(環状帯体)には、そのような特定がない点。 (相違点5) 本願補正発明の布状体は、結合する環状ベルト側に向かって突出するように湾曲するのに対し、引用発明の布状体(背当て部)には、そのような形状の特定はない点 (相違点6) 本願補正発明のファスナは、スライドファスナであるのに対し、引用発明のファスナ(ファスナ)には、スライドファスナとの特定がない点。 3-3.相違点の判断 上記相違点について検討する。 (相違点1について) 請求人は、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項である「約10cm程度」は、引用発明の「80?150mm」の両端側の80mm付近、及び150mm付近を排除するものである旨主張し、さらに、引用例1には、「80?150mm」を好ましいとする他に、「250mm」という請求人が好ましくないと認識する幅も記載されており、記載がいい加減であって、相違点1に係る「約10cm程度」は、引用例1に記載されていない旨主張している。 まず、「250mm」という広い幅の記載があることは、請求人が主張するとおりであるが、引用例1は、「50?250mm」との範囲を示し、同範囲より好ましい範囲として「80?150mm」を記載するのであるから、「50?250mm」との範囲の記載が如何様に評価されようとも、「80?150mm」との範囲が記載されることは、何等否定されるべきものではない。 そして、設計者が具体的設計を行うに当たり、数値範囲内から特定の数値を決定することが必須であり、通常その選択は、特段の事情がないかぎり、好ましいとされる数値範囲の中央付近を敢えてさけて、両端部の値を用いるとは考え難いこと、引用例1の「80?150mm」との記載は、「50?250mm」に始まり、「70?200mm」なる範囲を経て、「80?150mm」を特に好ましい範囲と開示(記載C.A.参照)しており、一端を固定して範囲を狭めるものではなく、両端を狭めながらより好ましい範囲を開示することから、その中央付近を好ましい値と考えることが引用例1の自然な解釈であることからみて、設計に当たり採用される値として、「80?150mm」の中央部付近である「約10cm程度」の値を採用することに格別の困難性はなく、当業者が容易に選定し得た設計上の事項に属するものと認める。 したがって、相違点1は、引用発明に基づいて、当業者が容易になし得た事項である。 (相違点2について) 引用発明の環状帯体は、織布を含む布地からなるものであり、キルティング加工された布地が例示されるように複数枚の布地からなるものが排除されるものではない。 さらに、一般に帯状体を布を重ね合わせて側縁部を縫合することによって形成することは、特段の例示を待つまでもなく周知であり、しかも、布を重ね合わせて縫合するに当たり、縫合部位として側縁部を縫合することも、周知の技術(参考例、実願昭61-97492号(実開昭63-3265号)のマイクロフィルムの各図面、実願平1-112100号(実開平3-51049号)のマイクロフィルムの各図面、実願昭61-91247号(実開昭62-203654号)のマイクロフィルムの各図面)である。そして、一般に複数枚の布地を重ね合わせて縫合するに当たり、各布地の切断端部のほつれに配慮して、切断端部を折り返して重ね合わせることは通常の手法であることを考慮すると、各織り布の側縁部は折り返すことは、格別の事項とは認められない。 したがって、引用発明に、周知の技術を採用して、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項のようにすることは当業者が容易に想到し得たことである。 (相違点3について) 引用例2に記載される、「連結交差部d」は、相違点3に係る本願補正発明の特定事項である「交差した領域」に相当し、左肩帯部材と右肩帯部を直交させて、連結交差部dを略正方形状の領域として形成することを記載しており、さらに、縫合する位置として、正方形の領域の外周縁部を縫合することを記載している。 そして、引用発明の環状帯体には、互いに略直交に近い角度で交差し、その交差部は四角形であり、交差部は縫合される部位であることから、引用例2に記載される技術を採用することに格別の困難性は認められず、相違点3は、引用発明に引用例2に記載される技術を適用して、当業者が容易になし得たものと認める。 (相違点4について) だっこ紐等において、体型等に応じてベルトの長さを調整できるように、調節具を設けることは、原査定が特開2007-111092号公報、及び、特開2005-120552号公報を例示して指摘するように周知の技術であるので、相違点4は、引用発明に周知の技術を適用して、当業者が容易になし得たものと認める。 (相違点5について) 引用発明の背当て部は、記載D.に,「・・上縁の長さが調節可能となっていることが好ましい。この場合、乳幼児の体長に合わせて、乳幼児の首もとの開口具合を容易に調整することができる。・・」とされるように、乳幼児の体型に合わせて空間を形成する布であり、一般に、洋服において、人間の体型に対応するように布地を曲線で裁断し立体で縫製することは、周知の技術であるところ、だっこ紐においても、適宜の曲線を採用することが引用例3に記載されている。 そこで、引用発明に、引用例3の曲線を描く技術を適用して、相違点5に係る本願補正発明の発明特定事項のようにすることは当業者が容易に想到し得たことである。 (相違点6) 引用発明もファスナを用いるものであり、ファスナの具体的設計に当たり、特段の例示を待つまでもなく周知のスライドファスナを採用することは、単なる設計上の事項にすぎない。 したがって、相違点6は、引用発明に基づいて、当業者が適宜なし得たものと認める。 そして、本願補正発明による効果も、引用発明ないし引用例2,3に記載されたもの及び周知技術から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。 したがって、本願補正発明は、引用発明及び引用例2,3に記載されたもの並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 3-4.むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 III.本願発明 本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を、「本願発明」という。)は、平成23年1月31日付けの手続補正書により補正された拒絶査定時の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「互いに略直交するように結合した一定幅の2個の環状ベルトを有し、 前記環状ベルトの結合部は略正方形状の領域として形成されるとともに、当該正方形状の領域の外周縁部における縫い合わせによって前記2個の環状ベルトと結合したものであり、 前記2個の環状ベルトの交差部を起点とする当該環状ベルトの各側縁によって形成される3角形状の開口領域には、略3角形状の布状体が取り付けられており、 前記2個の環状ベルトには、それぞれ当該環状ベルトの長さを調節するための調節具が設けられており、 前記略3角形状の布状体は、幼児の背中を支える背当て布となるものであって、環状ベルトの直線状の側縁と結合する2つの側縁は、結合する環状ベルト側に向かって突出するように湾曲するとともに、当該側縁の一方は、開閉可能なスライドファスナーを介して前記環状ベルトの直線状の側縁と結合するようになっていることを特徴とする抱っこ紐。」 IV.引用例の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及び、その記載事項は、前記II.3-1-1?3.に記載したとおりである。 V.対比・判断 本願発明は、前記II.1の本願補正発明から、「環状ベルト」の限定事項である「約10cm程度の一定幅の横幅を有する」、及び、「当該環状ベルトは、少なくとも2枚の織り布を重ね合わせて側縁部を縫合することによって形成するとともに縫合される各織り布の側縁部は折り返すことによって二重に形成されたもの」との特定を省き、本願補正発明の「2個の環状ベルトが交差した略正方形状の領域として形成されるとともに、当該交差した領域の最も外側の外周縁部の縫い合わせによって前記2個の環状ベルトを結合した」との発明特定事項から、一部特定を省いて、「当該正方形状の領域の外周縁部における縫い合わせによって前記2個の環状ベルトと結合した」とするものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を実質的に全て含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記II.3-2,3に記載したとおり、引用発明及び引用例2,3に記載されたもの並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用発明及び引用例2,3に記載されたもの並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるである。 VI.むすび 以上説示のとおり、本願発明は、引用発明及び引用例2,3に記載されたもの並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-04-16 |
結審通知日 | 2012-04-20 |
審決日 | 2012-05-02 |
出願番号 | 特願2008-191536(P2008-191536) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A47D)
P 1 8・ 575- Z (A47D) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 柳本 陽征 |
特許庁審判長 |
亀丸 広司 |
特許庁審判官 |
蓮井 雅之 田合 弘幸 |
発明の名称 | 抱っこ紐 |
代理人 | 富樫 竜一 |