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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1259036
審判番号 不服2010-12734  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-06-11 
確定日 2012-06-20 
事件の表示 特願2008-174720「ライト同期化に対するリトライおよびリリード」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 1月22日出願公開、特開2009- 16031〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成20年7月3日(パリ条約による優先権主張 2007年7月3日 米国)に出願したものであって、平成21年5月13日付け拒絶理由通知に対して同年10月14日付けで手続補正がなされたが、平成22年2月25日付けで拒絶査定がされた。これに対し、同年6月11日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がなされた。
その後、平成23年5月11日付けで前置報告書を利用した審尋がなされ、同年11月14日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成22年6月11日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成22年6月11日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正

平成22年6月11日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするもので、本件補正前に、
「 【請求項1】
ビットパターン化された媒体から読み出されたデータストリング内のサイクルスリップを検出するステップと、
データストリングを調節してサイクルスリップを補償するステップと、
を含む方法であって、
前記データストリングを調節するステップは、
データストリングの第1のコピーを作り出すステップと、
第1のコピー内のサイクルスリップの近似場所を決定するステップと、
サイクルスリップの近似場所において第1のコピーにデータビットを挿入するステップと、
データストリングの第2のコピーを作り出して第2のコピーからデータビットを削除するステップと、
第1のコピーと第2のコピーを比較してどちらがより良くサイクルスリップを補償するかを決定するステップと、
データストリングを第1のコピーと第2のコピーの一方で置き換えるステップと、を含む方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法であって、
前記置き換えられたデータストリングに含まれるエラーは、エラー訂正コーディングのプロセスによって、訂正される方法。
【請求項3】
請求項1の記載の方法であって、
前記第1のコピーと前記第2のコピーを比較するステップは、前記第1のコピーのエラーレートと前記第2のコピーのエラーレートとを比較するステップを含む方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、さらに、
データストリング内の第2のサイクルスリップを検出するステップと、
データストリングを調節して第2のサイクルスリップを補償するステップと、
を含む方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、データストリング内のサイクルスリップを検出するステップは、
サイクルスリップを示すデータストリング内のシグニチャを検出するステップを含む方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、シグニチャを検出するステップはデータストリングのおよそ50%の部分内でエラーレートを検出するステップを含む方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、所望のライトサイクルよりも短いライトサイクルから生じるサイクルスリップを補償する方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であって、所望のライトサイクルよりも長いライトサイクルから生じるサイクルスリップを補償する方法。
【請求項9】
データ記憶媒体から読み出されたデータストリングを調べてデータ記憶媒体上へのデータストリングの書込み中にサイクルスリップが生じたかどうかを検出するステップと、
データストリングを修正して検出されたサイクルスリップを補償するステップと、
データストリング内のシグニチャ・パターンを識別してサイクルスリップの近似場所を決定するステップと、
近似場所においてデータビットが挿入されたデータストリングの第1のコピーを近似場所においてデータビットが削除されたデータストリングの第2のコピーと比較して、近似場所においてデータストリングにデータビットを加えるか削除するかを決定するステップを含む方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、データストリングを修正するステップはサイクルスリップの近似場所においてデータストリングにデータビットを加えるステップを含む方法。
【請求項11】
請求項9に記載の方法であって、データストリングを修正するステップはサイクルスリップの近似場所においてデータストリングからデータビットを削除するステップを含む方法。
【請求項12】
請求項9に記載の方法であって、さらに、
修正されたデータストリングを調べてデータ記憶媒体上へのデータストリングの書込み中に第2のサイクルスリップが生じたかどうかを決定するステップを含む方法。
【請求項13】
ライタブルデータ記憶媒体と、
データ記憶媒体から読み出されたデータを調節して記憶媒体上へのデータの書込み中にサイクルスリップを補償する補償手段と、
を含むシステムであって、
前記補償手段はサイクルスリップを検出して、検出されたサイクルスリップが、消失したデータビットの結果であるか余分なデータビットの結果であるかを決定することができるシステム。
【請求項14】
請求項13に記載のシステムであって、補償手段はデータ記憶媒体から読み出されたデータストリングにデータビットを加えるシステム。
【請求項15】
請求項13に記載のシステムであって、補償手段はデータ記憶媒体から読み出されたデータストリングへのデータビットを削除するシステム。」
とあったところを、

本件補正後、
「 【請求項1】
ビットパターン化された媒体から読み出されたデータストリング内のサイクルスリップを検出するステップと、
データストリングを調節してサイクルスリップを補償するステップと、
を含む方法であって、
データストリングを調節するステップは、
データストリングの第1のコピーを作り出すステップと、
第1のコピー内のサイクルスリップの近似場所を決定するステップと、
サイクルスリップの近似場所において第1のコピーにデータビットを挿入するステップと、
データストリングの第2のコピーを作り出して第2のコピーからデータビットを削除するステップと、
第1のコピーと第2のコピーを比較してどちらがより良くサイクルスリップを補償するかを決定するステップと、
データストリングを第1のコピーと第2のコピーの一方で置き換えるステップとを含み、
前記第1のコピーと第2のコピーを比較するステップは、前記第1のコピーのエラーレートと前記第2のコピーのエラーレートとを比較するステップを含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記置き換えられたデータストリングに含まれるエラーは、エラー訂正コーディングのプロセスによって、訂正される方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、さらに、
データストリング内の第2のサイクルスリップを検出するステップと、
データストリングを調節して第2のサイクルスリップを補償するステップと、
を含む方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、データストリング内のサイクルスリップを検出するステップは、
サイクルスリップを示すデータストリング内のシグニチャを検出するステップを含む方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、シグニチャを検出するステップはデータストリングのおよそ50%の部分内でエラーレートを検出するステップを含む方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、所望のライトサイクルよりも短いライトサイクルから生じるサイクルスリップを補償する方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、所望のライトサイクルよりも長いライトサイクルから生じるサイクルスリップを補償する方法。
【請求項8】
データ記憶媒体から読み出されたデータストリングを調べてデータ記憶媒体上へのデータストリングの書込み中にサイクルスリップが生じたかどうかを検出するステップと、
データストリングを修正して検出されたサイクルスリップを補償するステップとを含み、
前記検出されたサイクルスリップを補償するステップは、
データストリング内のシグニチャ・パターンを識別してサイクルスリップの近似場所を決定するステップと、
近似場所においてデータビットが挿入されたデータストリングの第1のコピーのエラーレートを近似場所においてデータビットが削除されたデータストリングの第2のコピーのエラーレートと比較して、近似場所においてデータストリングにデータビットを加えるか削除するかを決定するステップとによって検出されたサイクルスリップを補償する、方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、データストリングを修正するステップはサイクルスリップの近似場所においてデータストリングにデータビットを加えるステップを含む方法。
【請求項10】
請求項8に記載の方法であって、データストリングを修正するステップはサイクルスリップの近似場所においてデータストリングからデータビットを削除するステップを含む方法。
【請求項11】
請求項8に記載の方法であって、さらに、
修正されたデータストリングを調べてデータ記憶媒体上へのデータストリングの書込み中に第2のサイクルスリップが生じたかどうかを決定するステップを含む方法。
【請求項12】
ライタブルデータ記憶媒体と、
データ記憶媒体から読み出されたデータを調節して記憶媒体上へのデータの書込み中にサイクルスリップを補償する補償手段と、
を含むシステムであって、
前記補償手段はサイクルスリップを検出して、前記データの第1および第2のコピーを作り出し、サイクルスリップの近似場所において前記第1のコピーにデータビットを挿入し、前記第2のコピーのサイクルスリップの近似場所においてデータビットを削除し、そして前記第1のコピーのエラーレートを前記第2のコピーのエラーレートと比較することによって、検出されたサイクルスリップが、消失したデータビットの結果であるか余分な
データビットの結果であるかを決定することができるシステム。
【請求項13】
請求項12に記載のシステムであって、補償手段はデータ記憶媒体から読み出されたデータストリングにデータビットを加えるシステム。
【請求項14】
請求項12に記載のシステムであって、補償手段はデータ記憶媒体から読み出されたデータストリングへのデータビットを削除するシステム。」
とするものである。

上記本件補正の内容は、請求項1については、発明特定事項である「第1のコピーと第2のコピーを比較してどちらがより良くサイクルスリップを補償するかを決定するステップ」について「前記第1のコピーのエラーレートと前記第2のコピーのエラーレートとを比較するステップを含む」と限定したものである。
請求項1についての補正は、発明特定事項を限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか)否かについて、以下検討する。

2.先願明細書等

原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先権主張の日前の出願であって、前記優先権主張の日後に出願公開された特願2007-145911号(特開2008-299975号公報参照)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面(、以下「先願明細書等」という。)には、以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。)

(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、ディスク媒体上のデータ記録領域に記録されたデータの総ビット数が変化するデータ誤りを訂正する機能を備えたディスク記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスクドライブを代表とするディスク記憶装置(以下、ディスクドライブと表記する場合がある)の分野では、ディスクリート・トラック・メディア(discrete track media : DTM)、パターンドメディア、ビットパターンメディア(Bit Patterned Media:BPM)と呼ばれるディスク媒体が注目されている(例えば、特許文献1を参照)。特に、ビットパターンメディアと呼ばれるディスク媒体(以下、BPM構造のディスク媒体と表記する場合がある)は、トラック内の各ビット間が物理的に分断加工されている磁気記録媒体である。」

(2)「【0031】
このような要因により、同期領域24から再生した同期信号の周期と、データ記録領域25の磁気ドットの周期との間にずれが生じた場合、図6及び図7に示すようなエラーが発生する。ここでは、便宜的に10個の磁気ドットに対して、10ビット数のデータを割り当てた場合を想定する。
【0032】
まず、図6(B)に示すエラー状態50は、同期信号の周期と磁気ドットの周期との間に生じたずれにより、本来は記録すべき1ビットのデータドット(51)に対して、2ビットの連続したデータドット(51,52)に増加し、以降のビット位置が1ビットずつ、後ろにずれた状態である。
【0033】
即ち、データ記録周期と、データ記録領域25のドット周期との間にずれが発生すると、記録磁界の反転位置とドット位置との相対関係が連続的に変化する。但し、BPM構造のディスク媒体2の特徴としては、各ドットの磁化は、記録磁界の強度に応じて、必ず上向きまたは下向きの磁化のいずれかの2状態になる。このため、磁気ドットに記録すべき磁化方向と実際に記録された磁化方向は、記録磁界の反転位置とドットの相対位置が、あるスレッシュホールド位置を超えるまでは常に一致する。
【0034】
しかしながら、相対位置のずれが大きくなり、あるスレッシュホールド位置を超えると、当該位置のドットは記録磁界に応じた磁化反転ができず、その次のドットに記録される。このため、以降のデータビット列では、記録したいデータビットが1ビットずつ隣のドットにずれて記録されることになる。これにより10個のデータの記録が終了した時点では、記録タイミングの周期ずれにより以下のような特徴的な誤りが記録されることになる。
【0035】
要するに、図6に示すエラー状態では、データの途中で1ドット52分の余計な記録データビットが紛れ込み、それ以降のデータビットの記録位置は、物理的に1ドットずつ後にずれた位置に記録される。従って、データ記録が完了するまでに、実際に記録されたデータドットの総数(記録データの総ビット数)が、本来の10個から余計なドット52を含む11ドット(11ビット)に増加することになる。
【0036】
一方、データ記録周期の方が、実際のデータドット周期よりもわずかに短い場合には、図7(A),(B)に示すようなエラーが発生する。即ち、図7(B)に示すように、データの途中で、本来記録されるべき必要な記録データの1ドット(1ビット)53が消失するエラー状態である。この場合には、下向きのドット53が残らず、それ以降のデータの記録位置(ビット位置)は、物理的に1ドットずつ前にずれた位置になる。従って、データ記録が完了するまでに、実際に記録されたデータドットの総数(記録データの総ビット数)が、本来の10個から、消失したドット53だけ、1つ足りない9ドット(9ビット)に減少することになる。
【0037】
本実施形態のディスクドライブは、以上のように、データ記録周期とデータ記録領域25のドット周期との間にずれが発生して、記録タイミングに誤りが生じた場合に、本来記録すべきである元のデータビット列(データ系列)を推定し、かつ誤り訂正を行なうことができるデータ誤り訂正機能を有するものである。」

(3)「【0043】
また、データ系列は、ユーザデータに付加されるエラー訂正コード(ECC)として、例えばパリティ符号を適用する。具体例としては、図11に示すように、2次元パリティ符号を適用する。即ち、元のデータ系列を正方行列{dnm}に置換し、各行・各列のデータに対し、その内容をチェックするパリティ符号{Pn0}および{P0m}を生成して付与する。パリティ符号の生成ルールは、例えば当該行または当該列のデータの総和値または相乗値などとする。
【0044】
次に、図9のフローチャートを参照して、本実施形態の誤り訂正処理を含むデータ再生プロセスを説明する。
【0045】
ディスクドライブは、ディスクコントローラ12がホストシステム15からリードコマンドを受信すると、データ再生動作を実行する(ステップS11)。データ再生動作では、CPU13は、アクチュエータ5を駆動制御して、ディスク媒体21上の目標位置、即ちアクセス対象のデータセクタが存在する目標トラック上にヘッド4を位置決めする。
【0046】
リード/ライトチャネル11は、ヘッド4のリードヘッド素子により読出されたリード信号から記録データ(ここでは、NRZI符号のデータ系列)を再生して、ディスクコントローラ12に出力する。ディスクコントローラ12は、再生アクセス単位として、データセクタ22のデータ記録領域25に記録された余剰ビット分(26)を含む全データ(データ系列と余剰ビット)を、リード/ライトチャネル11から取得する(ステップS12)。
【0047】
ディスクコントローラ12は、図11に示すように、再生されたデータ系列内に予め配置したパリティ符号を使用して、データ系列の整合性を判定する(ステップS13)。ここで、整合性とは、再生されたデータ系列の全符号化データ列{dnm}と、パリティ符号とが生成ルールに基づいた整合性が取れている場合である。従って、データ系列の総ビット数は、記録すべきデータビット列の総ビット数と一致することになる。
【0048】
データ系列の整合性が取れている場合には、前述の記録タイミング誤りは発生していないことになる。ディスクコントローラ12は、再生されたデータ系列に対して、パリティ符号を使用した通常のECC処理、即ち特定ビット位置のビット誤り訂正を実行する(ステップS13のOK,S16)。ディスクコントローラ12は、ECC処理後の再生データをホストシステム15に転送する。
【0049】
一方、記録タイミング誤りが発生している場合には、データ系列の全符号化データ列{dnm}とパリティ符号との間には、整合性の取れないデータが発生する。ディスクコントローラ12は、前述したように、記録タイミング誤りに伴って、過剰のデータドットが加えられた先頭位置、またはデータドットが消失したと思われる先頭位置を推定する(ステップS13のNG,S14)。
【0050】
ここで、図10(A),(B)は、記録タイミングの誤り(位相ずれ)の発生に伴うエラーパターンの一例を示す図である。図10(A)は「Spread」と呼ばれるパターンであり、記録磁界の反転タイミングが、あるスレッシュホールド位置を超えて1ドット分だけ後にずれる場合のエラーパターンを示す。本来のデータ列(Original)に対して、誤ったデータ列(Error)は、当該位置で“0”が一つ余計に加わっている。この時、誤って記録される余剰ビットは常に“0”であり、“1”に誤る可能性はない。
【0051】
図10(B)は「Shrink」と呼ばれるパターンであり、記録磁界の反転タイミングが1ドット分前にずれる場合のエラーパターンを示す。誤ったデータ系列(Error 1)は、当該位置の“0”が一つ消失したデータとなる。また、連続した磁化反転時にタイミングずれが起きた場合には、稀に本来“11”の2ビットのデータ系列が、“0”の1ビット系列に化ける可能性がある(Error 2)。
【0052】
しかしながら、NRZIコードを適用した際の誤りパターンは、以上の3通りのみに分類整理できる。即ち、誤ったデータ系列の当該位置を、パリティ符号などによって推定できれば、3通りの誤りパターンを逆想定して適用した3通りのデータ系列を再構成することができる。3通りのうち、再構成後のデータ系列は、パリティ符号整合性が最も取れているものが、本来の記録データであることが確認できる。
【0053】
図11に示すように、具体例のデータ系列において、例えばデータビット{d45}の位置において、記録タイミング誤りが発生した場合には、以降のデータ系列の位置が一つずつずれているため、データ符号とパリティ符号との整合関係は、データビット{d45}以降の位置において完全に破綻することになる。即ち、ディスクコントローラ12は、整合性が取れているパリティ符号から、当該4行5列の誤り始め位置としてデータビット{d45}を先頭位置として推定する。
【0054】
ディスクコントローラ12は、データビット{d45}の位置のデータが“0”であれば、それを削除し、以降のデータ系列を矢印のように前にずらして、全データ系列を再構成する(ステップS15)。この場合、データ系列の一番最後のデータビットを追加する必要があるが、ディスクコントローラ12は、データビットの総数を予め数ビット分余計(余剰ビット分26)に再生しているため、その余剰データ列の最初の1ビットを追加すればよい。
【0055】
なお、再構成するデータ系列としては、その他にも、データビット{d45}の位置に新たに“0”を追加して、以降のデータを一つずつ後にずらすパターンも考えられる。また、データビット{d45}の位置のデータが“0”であれば、そのデータを“11”に変換して、以降のデータを一つずつ後にずらすパターンも考えられる。
【0056】
要するに、ディスクコントローラ12は、推定されたデータ系列の誤り先頭位置に、本来存在したと推定されるデータビットを1ビット分だけ追加、もしくは余剰に加えられたと推定されるデータビットを1ビット分だけ削除する。ディスクコントローラ12は、以降のデータ系列を、追加又は削除したデータビットに続いて1ビットずれた位置に存在するものとし、全データ系列を再構成する。
【0057】
ディスクコントローラ12は、再構成したデータ系列において、前述したように、データ符号とパリティ符号との関係に整合性が取れていれば、再構成のデータ系列は正しいデータに誤り訂正できたと判定する(ステップS13のOK)。以上の3通りの再構成パターンの中で、最も整合性がとれているパターンを訂正パターンと判定する。再構成後に、更にデータの後部でパリティ符号の整合性破綻が発生している場合には、その当該位置において、前記のデータ系列の再行構成処理を繰り返す(ステップS13のNG?S15)。」

上記摘示事項及び図面の記載を総合勘案すると、先願明細書等には、次の発明(以下「先願発明」という。)が記載されているものと認める。

「ビットパターンメディアから読み出されたデータ系列内に記録タイミング誤りが発生しているか否かを判定するステップと、
記録タイミング誤りが発生している場合に、記録タイミング誤りに伴って、過剰のデータドットが加えられた先頭位置、またはデータドットが消失したと思われる先頭位置を推定するステップと、
推定されたデータ系列の誤り先頭位置のデータが“0”であれば、それを削除し、以降のデータを一つずつ前にずらして、全データ系列を再構成するステップと、
推定されたデータ系列の誤り先頭位置に新たに“0”を追加して、以降のデータを一つずつ後にずらして、全データ系列を再構成するステップと、
推定されたデータ系列の誤り先頭位置のデータが“0”であれば、そのデータを“11”に変換して、以降のデータを一つずつ後にずらして、全データ系列を再構成するステップと、
以上の3通りの再構成パターンの中で、データ符号とパリティ符号との関係に最も整合性がとれているパターンを訂正パターンと判定するステップと、
を含むデータ再生プロセス。」

3.対比

そこで、本件補正発明と先願発明とを対比する。

(1)先願発明の「ビットパターンメディア」「データ系列」は、それぞれ、本件補正発明の「ビットパターン化された媒体」「データストリング」に相当する。先願発明の「記録タイミング誤り」は、「同期領域24から再生した同期信号の周期と、データ記録領域25の磁気ドットの周期との間にずれが生じた場合」(先願明細書【0031】)に、「データの途中で1ドット52分の余計な記録データビットが紛れ込み、それ以降のデータビットの記録位置は、物理的に1ドットずつ後にずれた位置に記録され」(先願明細書【0035】)たり、あるいは、「データの途中で、本来記録されるべき必要な記録データの1ドット(1ビット)53が消失」し、「それ以降のデータの記録位置(ビット位置)は、物理的に1ドットずつ前にずれた位置になる」(先願明細書【0036】)ものであり、本件補正発明の「サイクルスリップ」は、「同期化のロスにより特定のビットが適切な場所に書き込まれなかったりあるいは連続した場所に書き込まれて、データストリングの残りの部分を左または右にシフトさせる場合に生じる」(本願明細書【0017】)ものであるから、先願発明の「記録タイミング誤り」は、本件補正発明の「サイクルスリップ」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明とは、「ビットパターン化された媒体から読み出されたデータストリング内のサイクルスリップを検出するステップ」を含む点で共通する。
(2)先願発明の「過剰のデータドットが加えられた先頭位置、またはデータドットが消失したと思われる先頭位置」は、本件補正発明の「サイクルスリップの」「場所」に相当するから、本件補正発明と引用発明とは、「サイクルスリップの」「場所を決定するステップ」を含む点で共通する。
(3)先願発明は、「データ系列」について、3通りの再構成を行うものであるから、3通りの再構成のために、それぞれ、「データ系列」のコピーを作成することは、明らかである。先願発明の「推定されたデータ系列の誤り先頭位置に新たに“0”を追加して、以降のデータを一つずつ後にずらして、全データ系列を再構成するステップ」と、「推定されたデータ系列の誤り先頭位置のデータが“0”であれば、そのデータを“11”に変換して、以降のデータを一つずつ後にずらして、全データ系列を再構成するステップ」とは、「推定されたデータ系列の誤り先頭位置に、本来存在したと推定されるデータビットを1ビット分だけ追加」(先願明細書【0056】)するものである。
したがって、本件補正発明と引用発明とは、「データストリングのを作り出すステップ」と、「第1のコピー内のサイクルスリップの」「場所を決定するステップ」と、「サイクルスリップの」「場所において第1のコピーにデータビットを挿入するステップ」とを含む点で共通する。
(4)先願発明の「推定されたデータ系列の誤り先頭位置のデータが“0”であれば、それを削除し、以降のデータを一つずつ前にずらして、全データ系列を再構成するステップ」は、「推定されたデータ系列の誤り先頭位置に、」「余剰に加えられたと推定されるデータビットを1ビット分だけ削除する」(先願明細書【0056】)ものである。
したがって、本件補正発明と引用発明とは、「データストリングの第2のコピーを作り出して第2のコピーからデータビットを削除するステップ」を含む点で共通する。
(5)上記(3)及び(4)を踏まえると、先願発明の「以上の3通りの再構成パターン」の内、「推定されたデータ系列の誤り先頭位置に新たに“0”を追加して、以降のデータを一つずつ後にずらして、全データ系列を再構成」したパターンと、「推定されたデータ系列の誤り先頭位置のデータが“0”であれば、そのデータを“11”に変換して、以降のデータを一つずつ後にずらして、全データ系列を再構成」したパターンとは、本件補正発明のデータビットを挿入した「第1のコピー」に相当し、「推定されたデータ系列の誤り先頭位置のデータが“0”であれば、それを削除し、以降のデータを一つずつ前にずらして、全データ系列を再構成」したパターンは、本件補正発明のデータビットを削除した「第2のコピー」に相当する。
先願発明において、「以上の3通りの再構成パターンの中で、データ符号とパリティ符号との関係に最も整合性がとれているパターンを訂正パターンと判定する」ためには、3通りの再構成パターンについて、データ符号とパリティ符号との整合関係を比較して、いずれの再構成パターンがより良く「記録タイミング誤り」を訂正するパターンであるかを判定する必要があるが、3通りの再構成パターンの内、2通りの再構成パターンは「第1のコピー」に相当し、他の1通りの再構成パターンは「第2のコピー」に相当するから、本件補正発明と引用発明とは、「第1のコピーと第2のコピーを比較してどちらがより良くサイクルスリップを補償するかを決定するステップ」と、「データストリングを第1のコピーと第2のコピーの一方で置き換えるステップ」とを含む点で共通する。
(6)先願発明において、データ符号とパリティ符号との整合関係はエラーの発生状態を示すから、本件補正発明と引用発明とは、「前記第1のコピーと第2のコピーを比較するステップは、前記第1のコピーのエラー」「と前記第2のコピーのエラー」「とを比較するステップを含む」点で共通する。
(7)先願発明は、「データ記録周期とデータ記録領域25のドット周期との間にずれが発生して、記録タイミングに誤りが生じた場合に、本来記録すべきである元のデータビット列(データ系列)を推定し、かつ誤り訂正を行なう」(先願明細書【0037】)ものであるから、本件補正発明と引用発明とは、「データストリングを調節してサイクルスリップを補償するステップ」を含む点で共通する。
(8)先願発明の「データ再生プロセス」は、本件補正発明の「方法」に相当する。

そうすると、本件補正発明と先願発明とは、次の点で一致する。

<一致点>

「ビットパターン化された媒体から読み出されたデータストリング内のサイクルスリップを検出するステップと、
データストリングを調節してサイクルスリップを補償するステップと、
を含む方法であって、
データストリングを調節するステップは、
データストリングの第1のコピーを作り出すステップと、
第1のコピー内のサイクルスリップの近似場所を決定するステップと、
サイクルスリップの近似場所において第1のコピーにデータビットを挿入するステップと、
データストリングの第2のコピーを作り出して第2のコピーからデータビットを削除するステップと、
第1のコピーと第2のコピーを比較してどちらがより良くサイクルスリップを補償するかを決定するステップと、
データストリングを第1のコピーと第2のコピーの一方で置き換えるステップとを含み、
前記第1のコピーと第2のコピーを比較するステップは、前記第1のコピーのエラーレートと前記第2のコピーのエラーレートとを比較するステップを含む方法。」の点。

そして、次の点で一応相違する。

<一応の相違点>

(1)決定する「サイクルスリップの」「場所」について、本件補正発明は、「近似」のものである限定があるのに対し、先願発明は、その旨限定がない点。

(2)比較する「エラー」について、本件補正発明は、エラー「レート」である限定があるのに対し、先願発明は、その旨限定がない点。

4.判断

そこで、上記一応の相違点について検討する。

相違点(1)について
先願発明において、過剰のデータドットが加えられる、またはデータドットが消失することによって、過剰のデータドットが加えられた先頭位置、またはデータドットが消失した先頭位置において実際に記録されたデータの値が、本来記録されるべきデータの値と異なるものとなるとは限らないから、データ符号とパリティ符号との整合関係による「過剰のデータドットが加えられた先頭位置、またはデータドットが消失したと思われる先頭位置」の推定は「近似」的なものとならざるを得ない。
よって、実質的な相違点ではない。

相違点(2)について
先願発明において、データ符号とパリティ符号との整合関係は、「過剰のデータドットが加えられた先頭位置、またはデータドットが消失したと思われる先頭位置」以降の位置において完全に破綻する。このことは、「過剰のデータドットが加えられた先頭位置、またはデータドットが消失したと思われる先頭位置」以降の位置において「エラーレート」が非常に高いことを意味するから、データ符号とパリティ符号との整合関係を比較することと、「エラーレート」を比較することとは、等価である。
よって、実質的な相違点ではない。

したがって、本件補正発明は、先願発明と実質的に同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.本件補正についてのむすび

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1.本願発明

平成22年6月11日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし15に係る発明は、平成21年10月14日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2[理由]1.」に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2.先願明細書等

原査定の拒絶の理由で引用された先願明細書等及びその記載事項は、上記「第2[理由]2.」に記載したとおりである。

3.対比・判断

本願発明は、上記「第2[理由]3.及び4.」で検討した本件補正発明から、発明特定事項である「第1のコピーと第2のコピーを比較してどちらがより良くサイクルスリップを補償するかを決定するステップ」について「前記第1のコピーのエラーレートと前記第2のコピーのエラーレートとを比較するステップを含む」との限定を削除したものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の限定を付加したものに相当する本件補正発明が、上記「第2[理由]3.及び4.」に記載したとおり、先願発明と実質的に同一であるから、本願発明も、同様の理由により、先願発明と実質的に同一である。

4.むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-01-19 
結審通知日 2012-01-24 
審決日 2012-02-06 
出願番号 特願2008-174720(P2008-174720)
審決分類 P 1 8・ 161- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 堀 洋介  
特許庁審判長 小松 正
特許庁審判官 関谷 隆一
早川 学
発明の名称 ライト同期化に対するリトライおよびリリード  
代理人 荒川 伸夫  
代理人 仲村 義平  
代理人 深見 久郎  
代理人 森田 俊雄  
代理人 佐々木 眞人  
代理人 酒井 將行  
代理人 堀井 豊  

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