• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1259085
審判番号 不服2010-20971  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-09-17 
確定日 2012-06-22 
事件の表示 特願2003-304019「薄層電界効果トランジスターの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 3月17日出願公開、特開2005- 72528〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年8月28日の特許出願であって、平成21年7月24日に意見書及び手続補正書が提出され、平成22年6月23日付けで拒絶査定がされ、それに対して、同年9月17日に審判が請求されるとともに、同日に手続補正書が提出され、その後、平成23年12月2日付けで審尋がされ、平成24年1月17日に回答書が提出されたものである。


第2 平成22年9月17日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正の却下の決定

【補正の却下の決定の結論】

本件補正を却下する。

【理由】
1 補正の内容
本件補正のうち、特許請求の範囲についてする補正は、次のとおりである(下線を付した部分は、補正箇所である。)。

ア 補正前の請求項1、2及び3を削除すること。

イ 補正前の請求項4について、同項中に「重量平均分子量2,000を超え1,000,000以下の半導体層形成用高分子化合物を上記絶縁層を溶解させない有機溶剤に溶解させた溶液を絶縁層上に塗布、乾燥して半導体層を形成すること」とあるのを、「重量平均分子量2,000を超え1,000,000以下の半導体層形成用高分子化合物をクロロホルム、トルエン、ヘキサン、アルコール類から選ばれる上記絶縁層を溶解させない有機溶剤に溶解させた溶液を絶縁層上に塗布、乾燥して半導体層を形成すること」と限定し、請求項1とすること。

ウ 補正前の請求項5,6,7をそれぞれ補正後の請求項2,3,4に、繰り上げるとともに、引用する請求項を補正前の「請求項1」から補正後の「請求項1」へと変更し限定すること。

2 新規事項の有無及び補正の目的の適否
(1)上記補正イ、ウは、いずれも、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本願の出願当初の明細書等」という。)の段落【0014】の記載から、本願の出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内において行われたものであることは明らかである。
したがって、上記補正イ、ウは、いずれも、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

(2)そして、上記補正イ、ウは、いずれも、補正前の請求項に規定されている技術的事項をより限定する補正を含むものであり、平成18年法律55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項(以下、「特許法第17条の2第4項」という。以下同じ。)第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、また、上記補正アは、同法第17条の2第4項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当するから、同法第17条の2第4項柱書きに規定する目的要件を満たす。

3 独立特許要件(容易想到性)についての検討
上記2で検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであるから、補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、更に検討する。

(1)本願補正発明
本件補正による補正後の請求項1?4に係る発明のうち、請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
金属層からなるゲート電極上に重量平均分子量2,000を超え1,000,000以下のシアノ基を有する絶縁性高分子化合物をN-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、及びγ-ブチルラクトンから選ばれる有機溶剤に溶解した高分子溶液を塗着、乾燥させて絶縁層を形成後、重量平均分子量2,000を超え1,000,000以下の半導体層形成用高分子化合物をクロロホルム、トルエン、ヘキサン、アルコール類から選ばれる上記絶縁層を溶解させない有機溶剤に溶解させた溶液を絶縁層上に塗布、乾燥して半導体層を形成することを特徴とする薄層電界効果トランジスターの製造方法。」

(2)引用例の記載と引用発明
(2-1)引用例とその記載内容
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開2003-119255号公報(以下「引用例」という。)には、「導電性有機化合物及び電子素子」(発明の名称)について、図1とともに、次の記載がある(下線は当審で付加したもの。以下同じ。)。

ア 特許請求の範囲
「【請求項1】 π共役系電気伝導性を示す主鎖部分に、屈折率異方性及びσ共役系電気伝導性を同時に示す側鎖部分が結合していることを特徴とする導電性有機化合物。」
「【請求項8】 請求項1?7のいずれか1項に記載の導電性有機化合物から形成された構成要素をその構造中に含んでなることを特徴とする電子素子。
【請求項9】 基板上に、ゲート電極、ゲート絶縁層、ソース電極、ドレイン電極及びチャネル層を含む有機薄膜トランジスタの形態をとり、前記チャネル層が前記導電性有機化合物から形成されていることを特徴とする請求項8に記載の電子素子。」

イ 発明の属する技術分野
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は導電性有機化合物に関し、さらに詳しく述べると、トランジスタなどの電子素子に用いることのできる有機半導体、特に電子ペーパなどのフレキシブルな電子素子に適用可能な有機半導体に関する。本発明はまた、かかる有機半導体を使用した電子素子に関する。」

ウ 発明の実施の形態
「【0034】以上に説明したように、本発明の導電性有機化合物は、上述のような要件を満足させる範囲において広範囲の有機化合物を包含することができる。本発明の範囲を制限するつもりはないが、このような導電性有機化合物は、通常、約1,000?100,000の分子量(重量平均分子量)を有していることが好ましい。もちろん、所期の作用効果が奏されるのであるならば、この有機化合物は、上記した範囲以外の分子量を有していてもよい。」
「【0040】本発明の導電性有機化合物は、好ましくは、溶媒に溶解した形で用いられる。適当な溶媒は、以下に列挙するものに限定されるわけではないけれども、例えば、トルエン、キシレン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、クロロホルム、エタノールなどである。本発明の導電性有機化合物は、したがって、これらの溶媒に所定の濃度で溶解して塗液となした後、キャスト法、ディップコート法、スピンコート法などの塗布法や、スクリーン印刷法などの印刷法で基板等の上に塗布し、硬化させることができる。このような成膜法は、従来の蒸着法などに比較して簡便に、しかも低コストで実施することができる。」
「【0070】さらに具体的に説明すると、図1は、本発明による電子素子の一例として有機薄膜トランジスタ10を模式的に示したものである。この有機薄膜トランジスタ10は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0071】まず、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのフレキシブルなプラスチック材料製の基板1の上に、金などのスパッタリングやエッチングなどの適当な手法によってゲート電極4を形成する。その後、ゲート電極4を含む基板1の表面にポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、シアノエチル化プルランなどの高誘電率有機物を塗布し、硬化させてゲート絶縁膜2を形成する。必要ならば、ゲート絶縁膜2に配向処理を施して配向膜としての機能を持たせるか、ゲート絶縁膜2の上にさらに配向膜(図示せず)を成膜することも可能である。この場合、ゲート絶縁膜上に形成する配向膜の種類としては、以下に列挙するものに限定されないけれども、ラビング処理を施したポリイミド膜、偏向紫外光を照射したポリイミド膜、あるいは偏向紫外光によって特定の方向に分子が配向重合されたポリイミド膜又はポリビニルシンナメート膜などを挙げることができる。次に、このゲート絶縁膜2の上に、ソース電極5及びドレイン電極6を配置し、トランジスタ基板とする。ここで、トランジスタのゲート、ソース、そしてドレインの電極材料としては、得られるトランジスタの機能に悪影響を及ぼさないかぎり、いかなる材料であってもよく、例えば、上記したような金などの金属以外に、インジウム錫酸化物(ITO)、酸化錫(SnO_(2))などの無機化合物系材料や、ドーピングされたポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンなどの導電性高分子材料を電極材料として使用することができる。
【0072】上記のようにしてトランジスタ基板を作製した後、本発明による導電性有機化合物をトルエンなどの適当な溶媒に溶解し、得られた塗液をキャスト法、ディップコート法、スピンコート法などによってトランジスタ基板上に塗布し、硬化させる。図示のように、チャネル層3が形成される。・・・
【0073】以上のような一連の製造工程を経て製造した有機薄膜トランジスタ10において、ソース-ドレイン電極間に流れる電流量をゲート電圧によって変調可能であり、本発明の目的である分子配向と側鎖の導電性への寄与の効果によって、従来の可溶性の有機半導体では得られなかった高い移動度を達成できる。また、従来蒸着法で成膜されていた有機半導体化合物と同様な高い移動度を溶液から塗布法、印刷法などによって達成できるため、低コスト化に貢献できる。さらに、ここで説明のために使用した基板は、フレキシブルなプラスチック基板であるが、シリコン基板やその他の可とう性のない基板においても同様な効果が得られる。従って、プラスチック基板上に作製した電界効果トランジスのみならず、高移動度化と簡易なプロセスによる低コスト化が要求される他の電子素子にも本発明の導電性有機化合物は応用可能である。」

エ 実施例
「【0207】
【実施例】次いで、本発明をその実施例を参照してさらに説明する。なお、本発明は下記の実施例によって限定されるものではないことを理解されたい。
実施例1
ポリエーテルスルホンからなるプラスチックシートを基板として用意し、ゲート電極を金のスパッタリングにより形成した後、アセトンに溶解させたシアノエチル化プルランを塗布し、溶媒を乾燥させて膜厚150nmの絶縁層を成膜した。さらに、この絶縁層の上にポリイミド前駆体の溶液を塗布し、140℃で1時間にわたって熱処理を行った後、ラビング処理を施すことによって、ポリイミド配向膜を形成した。次いで、このポリイミド配向膜の上に、電極間距離すなわちチャネル長が5μmのソース電極及びドレイン電極を膜厚50nmで形成した。このようにして電極などを作り込んだプラスチック基板上に、ポリチオフェン主鎖にポリシラン基を導入した重量平均分子量約30,000のポリチオフェン誘導体(下式参照):
【0208】
【化11】
(略)
【0209】をトルエンに溶解加熱し、スピンコートによって塗布した後、溶媒を徐々に乾燥させ、膜厚100nmのチャネル層を得た。なお、本例で使用したポリチオフェン誘導体は、3-チオフェンメタノールを主構造とするポリマーと、末端クロロ化したオリゴシラン6量体及びピリジンとを混合し、トルエン中で5時間にわたって攪拌混合することによって合成したものである。
【0210】引き続いて、上記のようにして作製した有機薄膜トランジスタについて、ドレイン電圧及びゲート電圧とドレイン電流の関係から、導電性有機化合物の移動度を算出した。移動度は、室温で最大μ=0.03cm^(2)/Vsであった。」

(2-2)引用発明
上記ア?エによれば、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「プラスチックシートを基板として用意し、ゲート電極を金のスパッタリングにより形成した後、アセトンに溶解させたシアノエチル化プルランを塗布し、溶媒を乾燥させて絶縁層を成膜し、ポリイミド配向膜を形成し、次いで、ポリチオフェン主鎖にポリシラン基を導入した重量平均分子量約30,000のポリチオフェン誘導体をトルエンに溶解加熱し、スピンコートによって塗布した後、溶媒を徐々に乾燥させ、チャネル層を得た有機薄膜トランジスタの製造方法。」

(3)対比
(3-1)本願補正発明と引用発明とを対比すると、
ア 引用発明は、「ゲート電極を金のスパッタリングにより形成」していることから、ゲート電極は金属層からなることは明らかである。

イ 引用発明の「シアノエチル化プルラン」は、本願補正発明の「シアノ基を有する絶縁性高分子化合物」に相当し、引用発明の「アセトン」は、「有機溶剤」である点で、本願補正発明と共通する。
そうすると、引用発明の「アセトンに溶解させたシアノエチル化プルランを塗布し、溶媒を乾燥させて絶縁層を成膜」することは、「シアノ基を有する絶縁性高分子化合物」を「有機溶剤に溶解した高分子溶液を塗着、乾燥させて絶縁層を形成」する点で本願補正発明と共通する。

ウ 引用発明の「ポリチオフェン誘導体」、「チャネル層」は、それぞれ、本願補正発明の「半導体層形成用高分子化合物」、「半導体層」に相当する。
そうすると、引用発明の「基板上に、ポリチオフェン主鎖にポリシラン基を導入した重量平均分子量約30,000のポリチオフェン誘導体をトルエンに溶解加熱し、スピンコートによって塗布した後、溶媒を徐々に乾燥させ、チャネル層を得た」ことは、本願補正発明の「重量平均分子量2,000を超え1,000,000以下の半導体層形成用高分子化合物をクロロホルム、トルエン、ヘキサン、アルコール類から選ばれる有機溶剤に溶解させた溶液を塗布、乾燥して半導体層を形成すること」に相当することは、当業者にとって明らかである。

エ 引用発明の「有機薄膜トランジスタ」は、引用例の段落【0073】の「有機薄膜トランジスタ10において、ソース-ドレイン電極間に流れる電流量をゲート電圧によって変調可能」との記載より、電界効果トランジスタであることは、当業者にとって明らかである。
そうすると、引用発明の「有機薄膜トランジスタ」は、本願補正発明の「薄層電界効果トランジスター」に相当する。

(3-2)したがって、本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりとなる。

〈一致点〉
「金属層からなるゲート電極上にシアノ基を有する絶縁性高分子化合物を有機溶剤に溶解した高分子溶液を塗着、乾燥させて絶縁層を形成後、重量平均分子量2,000を超え1,000,000以下の半導体層形成用高分子化合物をクロロホルム、トルエン、ヘキサン、アルコール類から選ばれる有機溶剤に溶解させた溶液を塗布、乾燥して半導体層を形成することを特徴とする薄層電界効果トランジスターの製造方法。」

〈相違点〉
相違点1
本願補正発明では、「重量平均分子量2,000を超え1,000,000以下のシアノ基を有する絶縁性高分子化合物」であるのに対し、引用発明では、「シアノエチル化プルラン」の重量平均分子量が特定されていない点。

相違点2
絶縁層の形成において、本願補正発明では、「シアノ基を有する絶縁性高分子化合物をN-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、及びγ-ブチルラクトンから選ばれる有機溶剤」に溶解した高分子溶液を塗着、乾燥させているのに対し、引用発明では、「アセトンに溶解させたシアノエチル化プルラン」を塗布し、溶媒を乾燥させている点。

相違点3
本願補正発明では、「絶縁層上」に「半導体層」を形成するのに対し、引用発明では、「絶縁層を成膜し、ポリイミド配向膜を形成し、次いで」、「チャネル層を得た」ものである点。

相違点4
半導体層形成用高分子化合物を溶解させる有機溶剤について、本願補正発明では、「絶縁層を溶解させない有機溶剤」であるのに対し、引用発明では、「トルエン」が「シアノエチル化プルラン」から形成された「絶縁層」を溶解させないことは特定されていない点。

(4)相違点についての検討
ア 相違点1について
(ア)分子量を2,000を超え1,000,000以下の範囲とするシアノエチルプルランは、例えば以下の周知例1及び2に記載されているとおり、本願の出願前に周知である。

(周知例1:特開平5-315185号公報)
上記周知例1には、以下の記載がある。

「【0003】従来、コンデンサ用の高誘電率誘電体としては、シアノエチルセルロース、シアノエチルプルラン、ニトロセルロース等の多糖類誘導体、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂が知られている。これらの内では、シアノエチルセルロース、シアノエチルプルランが誘電率15?20と高く有利であるが、シアノエチルセルロースは造膜性、塗膜性に劣り、得られた被膜の電極面への接着性が弱く、これを改良するために多量の可塑剤を添加すると、誘電率が低下したり誘電正接が増加したりする欠点が生じた。他方、シアノエチルプルランは一般に分子量が10×10^(4) ?50×10^(4 )程度で、・・・」

(周知例2:特開平9-6032号公報)
上記周知例2には、表1とともに、以下の記載がある。

「【0005】シアノエチルプルラン、シアノエチルポリビニルアルコール等のシアノエチル化ポリマーは、適度な抵抗値を有し、また比較的吸湿性が低いものの、これら樹脂も分子内に水との親和性が大きい水酸基を有しているため、耐吸湿性が不十分であり、上記と同様の問題が指摘されている。」
「【0048】(比較例1)プルラン(林原研究所製PF-20)30gを純水120gに溶解し、25%水酸化ナトリウム水溶液36gを添加後アセトン120g、次いでアクリロニトリル150gを加え、室温下14時間反応した。酢酸13.5gを添加して中和後、純水中に攪拌しながら注ぎ込み反応物を晶出させた。得られた晶出物をアトン再溶解後、純水で再晶出させて精製した。この操作を3回繰り返した後、精製物を60℃で減圧下で乾燥して、白色の精製シアノエチル化プルラン55gを得た。窒素分析の結果から、シアノエチル化度が85%であった。このものの抵抗値、フィルム物性等を合成例1と同様の方法で求めた結果を表1に示す。」

表1について、
表1の「シアノエチルプルラン」の「数平均分子量×10^(5)」の欄に、「2.3」と記載されている。

(イ)したがって、引用発明の「シアノエチル化プルラン」として、上記周知の分子量を勘案すれば、「分子量を2,000を超え1,000,000以下」の範囲のものを選択することは、当業者が必要に応じて適宜選択し得る程度のものである。

イ 相違点2について
(ア)有機半導体素子の絶縁層を高分子溶液の塗着により形成するに際し、「シアノエチル化プルラン」をジメチルホルムアルデヒド、アセトニトリルの溶媒に溶解することは、例えば以下の周知例3?5に記載されているとおり、本願の出願日前における周知技術である。

(周知例3:特開平8-191162号公報)
上記周知例3には、以下の記載がある。

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、電界効果トランジスタに関し、特に有機半導体材料をチャネル層に用いた電界効果トランジスタに関するものである。」
「【0165】ここで、ゲート絶縁層の十分な絶縁を確保するために、n型高濃度ドープのシリコン基板18上の熱酸化膜(シリコン酸化膜:厚さ104.6nm)上に、2g/10mlのジメチルホルムアミドとアセトニトリルとの等体積混合溶媒のCYEPL溶液を1000rpmでスピンコートし、ドライヤーでスピンコート膜を乾燥して絶縁層13とした。」

(周知例4:特開平8-18125号公報)
上記周知例4には、以下の記載がある。

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、電界効果型トランジスタ(以下FETと略称する)、特に半導体層に有機化合物を用いたFET、その製造方法及びそれを用いた液晶表示装置に関するものである。」
「【0117】(実施例2)ガラス基板上にCrを真空蒸着法により作製し、ゲート電極とした。次に、アセトニトリルージメチルホルムアミドの1:1混合溶媒にシアノエチルプルランを溶解した溶液からキャスト法を用いて8μmのシアノエチルプルラン膜を作製して、ゲート絶縁膜とした。次に、真空蒸着法により合成例2の化合物の薄膜を50nmの膜厚で作製した。」

(周知例5:特開2002-9290号公報)
上記周知例5には、以下の記載がある。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、有機化合物を用いた、電界効果トランジスタとして利用可能な有機電子素子の製造方法、および、該製造方法により製造された有機電子素子に関するものである。」
「【0051】(c)絶縁性膜形成工程
ポリプルラン CRS(商品名、信越化学社製、シアノ樹脂)の15%(質量基準)アセトニトリル溶液を、図2(b)に示す状態の有機半導体膜4上にスピンコートし、図2(c)に示すように絶縁性膜5を形成した。このときスピンコートは、回転数:4000rpm、回転時間:60秒の条件で、大気中で行った。スピンコートの後、100℃に保った炉の中で30分間放置し、十分に乾燥させた。」

(イ)したがって、引用発明において、「シアノエチル化プルラン」を溶解する溶媒として、上記周知技術を勘案し、「アセトン」に代えて、ジメチルホルムアルデヒド、アセトニトリルを選択することは、当業者が容易になし得たものである。

ウ 相違点3について
引用発明では、「絶縁層の上」に「ポリイミド配向膜を形成」している。しかしながら、上記ウの発明の実施の形態において、段落【0071】の「必要ならば、・・・ゲート絶縁膜2の上にさらに配向膜(図示せず)を成膜することも可能である。」と記載されていることから、引用発明において、配向膜の成膜は任意の事項であり、配向膜を形成しないことは、当業者が必要に応じて適宜選択し得る設計的事項といえる。

エ 相違点4について
「トルエン」が、「シアノエチル化プルラン」から形成された「絶縁層」を溶解させないことは、シアノエチル化プルランの材料自体が有する特性であって、当業者にとって明らかであり、相違点4は実質的なものではない。
(5)小括
以上検討したとおり、本願補正発明と引用発明との相違点は、本願の出願日前の周知技術を勘案することにより、当業者が容易に想到し得たものであるから、本願補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本願補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(6)独立特許要件についてのまとめと補正却下の結び
以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでないから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明

1 以上のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項4に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成21年7月24日の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項4に記載の次のとおりのものである。

「【請求項4】
金属層からなるゲート電極上に重量平均分子量2,000を超え1,000,000以下のシアノ基を有する絶縁性高分子化合物をN-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、及びγ-ブチルラクトンから選ばれる有機溶剤に溶解した高分子溶液を塗着、乾燥させて絶縁層を形成後、重量平均分子量2,000を超え1,000,000以下の半導体層形成用高分子化合物を上記絶縁層を溶解させない有機溶剤に溶解させた溶液を絶縁層上に塗布、乾燥して半導体層を形成することを特徴とする薄層電界効果トランジスターの製造方法。」

2 引用例の記載と引用発明
引用例の記載と引用発明については、前記第2の3(2)で認定したとおりである。

3 対比・判断
前記第2の1及び2で検討したように、本願補正発明は、補正前の請求項4の規定をより技術的に限定するものである。逆に言えば、本願発明(補正前の請求項4に係る発明)は、本願補正発明から、このような限定をなくしたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、これより限定したものである本願補正発明が、前記第2の3で検討したとおり、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということができる。

第4 結言

以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-30 
結審通知日 2012-04-04 
審決日 2012-05-08 
出願番号 特願2003-304019(P2003-304019)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 571- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小出 輝  
特許庁審判長 齋藤 恭一
特許庁審判官
松田 成正
恩田 春香
発明の名称 薄層電界効果トランジスターの製造方法  
代理人 小林 克成  
代理人 重松 沙織  
代理人 石川 武史  
代理人 小島 隆司  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ