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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1259089
審判番号 不服2011-7861  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-04-14 
確定日 2012-06-22 
事件の表示 特願2004-108607「側視型内視鏡」拒絶査定不服審判事件〔平成17年10月20日出願公開,特開2005-287851〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成16年4月1日に特許出願されたものであって,平成23年1月6日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年4月14日に拒絶査定に対する不服の審判請求がなされるとともに,同日付けで手続補正書を提出して補正(以下「本件補正」という)がなされたものである。さらに,同年9月22日付けで審尋がなされ,回答書が同年12月1日付けで請求人より提出されたものである。

第2 本件補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。
[理由]
1 補正後の請求項1に係る発明
本件補正により,補正前の特許請求の範囲の請求項1は,次のとおりに補正された。(下線は補正箇所を示す。)

「【請求項1】
対物レンズを備えた直視型対物系を有する対物系と、観察体を照明する発光体と照明レンズを有する照明系と、前記照明レンズが配置された側面を有し、内視鏡挿入部の先端に向け対物系と照明系とが順に配置された先端部と、前記照明系の発光体端部中心から前記照明レンズを透過して出射する照明光軸と前記対物系の対物光軸とが交わる光軸交点と、前記照明光軸と前記照明系の第1面とが交わる第1交点と、前記対物光軸と前記対物系の第1面とが交わる第2交点と、前記側面に平行かつ前記第2交点を通る平面上に前記光軸点から下ろした垂直の距離Dが下記条件式(1)を満たし、さらに、前記第1交点と第2交点とを前記側面を含む平面上に投影したときの距離Lが条件式(3)を満たし、前記第1交点を通り前記側面に垂直な直線と、前記光軸交点と前記第2交点とを通る直線とが角φにて交差し、その交点が前記対物系の第1面より像側にあり、前記角φが条件(2)を満たすことを特徴とする側視型内視鏡。
(1) 4mm<D<10mm
(2) 3°≦φ≦20°
(3) 3mm≦L≦5mm 」

上記補正は,補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「対物光軸」について,「前記第1交点を通り前記側面に垂直な直線と、前記光軸交点と前記第2交点とを通る直線とが角φにて交差し、その交点が前記対物系の第1面より像側にあり、前記角φが条件(2)を満たす」と限定するとともに,不明りょうな記載を明りょうとするものである。
そうすると,前記補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下「平成18年法改正前」という)の特許法第17条の2第4項第2,4号の特許請求の範囲の減縮および明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。

なお,前置報告において審査官は「補正後の『角φ』の定義は、当初明細書等の『角φ』の定義と異なるものである。したがって、この補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである」としている。
しかしながら,本願明細書の段落【0048】および【0049】の記載
「また、本発明の側視型内視鏡において、対物系の光軸を、図1に示すように内視鏡の長手方向に対し傾斜させ配置することが好ましい。つまり、対物系の第1面に垂直な方向と照明系の第1面に垂直な方向とが角φにて交差するように構成し、その交点Qが前記の第1面よりも像側に存在するようにし、次の条件(2)を満足することが望ましい。」および
「(2)3°≦φ≦20°
この条件(2)は、対物系と照明系との位置関係を規定するものである。」
からみて,図1には明記されていないものの,「角φ」の定義は明らかであり,補正後の請求項1に係る発明における特定と矛盾するものではない。
してみると,補正後の「角φ」の定義は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものあり,特許法第17条の2第3項の規定を満たすというべきである。

そこで,補正後の請求項1に記載された発明(以下「補正発明」という)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 引用刊行物の記載内容
本願の出願前に頒布された刊行物である特開平5-113541号公報(以下「刊行物1」という)には,「内視鏡照明装置」に関して,図面とともに次の事項が記載されている。

(1-ア)
「【請求項2】 先端硬性部の側面に照明窓と観察窓とを備え、該照明窓の内側にライトガイドの射出端面を配置した内視鏡照明装置において、以下の条件を満足することを特徴とする内視鏡照明装置。
10≦Lsinθ_(1)sinθ_(2)/sin(θ_(1)-θ_(2))≦50
ただし、Lは該観察窓端面での該観察光軸と該照明窓端面での該照明光軸との距離(単位はmm)、θ_(1)は該観察光軸と該観察窓端面とのなす角度、θ_(2)は該照明光軸と該照明窓端面とのなす角度。」

(1-イ)
「【0002】
【従来の技術】従来、先端硬性部の側面に照明窓と観察窓とを備え、該照明窓の内側にライトガイドの射出端面を配置した内視鏡(側視型内視鏡)の先端硬性部は、図14,図15に示す構造になっている。図14は、内視鏡先端部の観察光学系と照明光学系を含む断面図、図15は、内視鏡の軸に直交する断面図である。
【0003】両図において、2は照明窓であり、照明窓端面2b,照明レンズ2c等から構成してある。3は観察窓であり、観察窓端面3b,観察レンズ3c等から構成してある。4はライトガイド束で、ライトガイド射出端面4bにおいて照明レンズ2cと光学的に連結している。5はプリズム、6は結像光学系であり、プリズム5,結像光学系6は観察光学系の一部を構成している。また、2aは照明窓2の光学的中心軸である照明窓光軸、3aは観察窓3の光学的中心軸である観察窓光軸、4aはライトガイド束4の中心軸であるライトガイド光軸を示している。なお、直線9は照明範囲を、直線10は観察視野範囲を明示する。」

(1-ウ)
「【0009】また、本発明は、先端硬性部の側面に照明窓と観察窓とを備え、該照明窓の内側にライトガイドの射出端面を配置した内視鏡照明装置において、下記の(1)式を満足するものである。
10≦Lsinθ_(1)sinθ_(2)/sin(θ_(1)-θ_(2))≦50・・・・・・・・(1)
ただし、Lは該観察窓端面での該観察光軸と該照明窓端面での該照明光軸との距離(単位はmm)、θ_(1)は該観察光軸と該観察窓端面とのなす角度、θ_(2)は該照明光軸と該照明窓端面とのなす角度。」

(1-エ)
「【0024】次に、設計条件式である(1)式について説明する。本発明が対象とする側視型内視鏡は、直視型内視鏡に比べて、照明窓と観察窓の間隔が広く、また、観察窓端面から物体までの観察距離は比較的近いことが多い。このように、照明窓と観察窓の間隔が広く観察距離が近い場合は、図14で示したように、照明窓光軸2aと観察窓光軸3aが平行であると、観察視野範囲内に照明光の当たらない部分を生じてしまう。これを防ぐために、図11で示すように照明光軸を観察光軸側に傾けて、両光軸を交差させることが、本発明の構成要素になっている。
【0025】図11において、7は照明光軸、8は観察光軸であり、両光軸はP0 点で交差する。観察光軸8が観察窓端面3bとなす角度をθ_(1),照明光軸7が照明窓端面2bとなす角度をθ_(2) ,照明窓端面2bと観察窓端面3bでの照明光軸7と観察光軸8との間隔をL,両光軸の交差するP0 点から照明窓端面2bと観察窓端面3bを含む平面への垂直距離をDとすれば、平面三角法の正弦法則から(7)式が得られる。
【0026】
D=Lsinθ_(1)sinθ_(2)/sin(θ_(1)-θ_(2))・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
【0027】(7)式におけるDの値に関し、実用的な面からの選択範囲を検討し、その結果を示したのが(1)式である。内視鏡の観察距離は、一般に5mm?30mmである。また、内視鏡における観察光学系の最適焦点位置は20mm前後であるので、この二つのことを考慮し、照明光軸7と観察光軸8の交差するP0 点の位置で決まるDの値は、20mm前後が望ましいといえる。しかし、D=10mm程度までは、実用上、問題なく使用可能であることが確認された。D=10mmより小さくなると、照明光軸7と観察光軸8の交差角が大きくなり、近点での配光は良好なものが得られるが、遠点に接近するにしたがって、視野内において配光不足の部分が増加する。照明窓と観察窓の間隔が広くなるほど、この配光不足の部分の増加が大きい。結局、Dの最小値として10mmを採用した。
【0028】一方、照明窓と観察窓の間隔が狭い場合は、Dの値が小さいと、遠点での視野内における配光が不足する。したがって、Dの値を大きくする必要があり、特に観察深度の深い光学系においては、Dの値を大きくすることが望ましい。しかし、Dの値が大き過ぎると、照明光軸7と観察光軸8が平行な場合と何ら変わらぬことになる。そこで、通常の観察光学系においては、観察深度が100mm前後のものが多いので、遠点でも近点でも同様な配光がえられるように、Dの最大値として50mmを採用した。」

(1-オ)
「【0029】
【実施例】図1?図3は、本発明の第1実施例を示し、図1は内視鏡の先端硬性部の軸方向断面図、図2は内視鏡の先端硬性部の平面図、図3は内視鏡の先端硬性部1の概略立体図である。照明窓2の内側には、照明レンズ2c,ライトガイド束4を配設し、ライトガイド束4のもう一方の端面である入射端面(図示省略)は、光源に接続されている。光源からの光は、ライトガイド束4内を伝送され、射出端面4bより射出し、照明窓2を通過して観察物体を照明する。また、観察窓3の内側には、プリズム5,結像光学系6を配設し、結像光学系6と光学的に接続しているイメージガイド、もしくは固体撮像素子(ともに図示省略)等の像伝送手段の端面に、物体を結像する。
【0030】本実施例では、照明窓2から射出した照明光の照明光軸7が、照明窓端面2bとθ_(2) の角度をなすように、ライトガイド光軸4aを傾けてあり(したがって、ライトガイド束4も傾けてあり)、しかも、ライトガイド射出端面4bは、照明窓端面2bと平行にしてある。また、観察光軸8と観察窓端面3bとはθ1 の角度をなしており、照明窓端面2bと観察窓端面3bでの照明光軸7と観察光軸8との間隔は、Lになっている。
【0031】ここで、θ_(1)=77°,θ_(2)=64°,L=44mm(当審注:「4.0mm」の誤記)であれば、(7)式を用いて計算して、D=15.6mmとなる。すなわち、観察窓端面3bを含む平面から垂直距離で15.6mmのところで、照明光軸7と観察光軸8は交差し、また、特許請求の範囲における限定数値である、10mm<D<50mmを満足する。本実施例は、内視鏡先端方向に対し後方斜視をするような内視鏡により、観察するのに最適な配光を得る場合を示している。」

これらの記載事項および図1?図3ならびに図11を勘案すると,刊行物1には,次の発明が記載されていると認められる。

「先端硬性部の側面において,先端に向け順に観察窓3と照明窓2とを備え,該観察窓3の内側には,プリズム5および結像光学系6を配設し、結像光学系6と光学的に接続しているイメージガイドもしくは固体撮像素子を備え,該照明窓2の内側に照明レンズ2c,ライトガイド束4および該ライトガイド束4の射出端面4bを配置した内視鏡照明装置において,該観察窓端面3bでの該観察光軸8と該照明窓端面2bでの該照明光軸7との距離Lが4.0mmであり,該観察光軸8と該観察窓端面3bとのなす角度θ_(1)が77°であり,該照明光軸7と該照明窓端面2bとのなす角度θ_(2)が64°であり,該観察窓端面3bを含む平面から該照明光軸7と該観察光軸8とが交差する点までの垂直距離Dが15.6mmである内視鏡照明装置。」(以下「引用発明1」という。)

3 対比・判断
(1) 対比
補正発明と引用発明とを対比すると,
その機能・構造からみて,引用発明1の「プリズム5および結像光学系6」,「照明レンズ2c,ライトガイド束4」,「先端硬性部」,「射出端面4b」,「照明光軸7」,「観察光軸8」および「該照明光軸7と該観察光軸8とが交差する点」が,補正発明の「対物レンズを備えた対物系」,「観察体を照明する発光体と照明レンズを有する照明系」,「先端部」,「発光体端部」,「照明光軸」,「対物光軸」および「光軸交点」に相当することは明らかである。
そして,引用発明1の「垂直距離Dが15.6mm」と,補正発明の「4mm<D<10mm」とは,「4mm<D」の点で共通するといえる。また,引用発明1の「距離Lが4.0mm」と,補正発明の「3mm≦L≦5mm」とは,「L=4.0mm」の点で共通するといえる。
さらに,引用発明1における「角度θ_(1)」と「角度θ_(2)」との差が,補正発明の「角φ」に相当することは,幾何学的に明らかである。

そうすると,両者は,
(一致点)
「対物レンズを備えた対物系と,観察体を照明する発光体と照明レンズを有する照明系と,前記照明レンズが配置された側面を有し,内視鏡挿入部の先端に向け対物系と照明系とが順に配置された先端部と,前記照明系の発光体端部中心から前記照明レンズを透過して出射する照明光軸と前記対物系の対物光軸とが交わる光軸交点と,前記照明光軸と前記照明系の第1面とが交わる第1交点と,前記対物光軸と前記対物系の第1面とが交わる第2交点と,前記側面に平行かつ前記第2交点を通る平面上に前記光軸点から下ろした垂直の距離Dが下記条件式(1)を満たし、さらに、前記第1交点と第2交点とを前記側面を含む平面上に投影したときの距離Lが条件式(3)を満たし、前記第1交点を通り前記側面に垂直な直線と、前記光軸交点と前記第2交点とを通る直線とが角φにて交差し、その交点が前記対物系の第1面より像側にあり、前記角φが条件(2)を満たすことを特徴とする側視型内視鏡。
(1) 4mm<D
(2) φ=13°
(3) L=4.0mm 」
の点で一致し,次の点で相違する。

(相違点1)
対物レンズを備えた対物系が,補正発明では「直視型対物系を有する」のに対し,引用発明1ではそのような構成ではない点。

(相違点2)
距離Dが,補正発明では,「D<10mm」であるのに対し,引用発明1では「D=15.6mm」である点。

(2)相違点についての判断
(相違点1について)
そもそも,側視型内視鏡において,「対物レンズを備えた直視型対物系を有する対物系を採用する」ことは,本願出願前周知の事項である。例えば,原査定において例示された特開2004-8638号公報おける図1についての記載,あるいは,同特開平9-192091号公報における図7についての記載参照。
そして,内視鏡の分野において,その「対物系」を小型化することは,通常考慮されている一般的な課題に過ぎず,引用発明においても,当然考慮される課題であるといえる。そうすると,引用発明1において周知の「直視型対物系を有する対物系」を採用することは,十分動機付けがあり,阻害要因もないといえる。
してみると,引用発明1において,上記周知の事項を適用して,その「対物系」を「直視型対物系を有する対物系」に置換し,相違点1における補正発明の構成とすることは,当業者ならば容易に相当し得る範囲の事項であるというべきである。

(相違点2について)
上記記載事項(1-ウ)【0027】の「内視鏡の観察距離は、一般に5mm?30mmである・・・・・D=10mmより小さくなると、照明光軸7と観察光軸8の交差角が大きくなり、近点での配光は良好なものが得られる」との記載からみて,刊行物1には,近点を観察する内視鏡では「D<10mm」とすることが一般的であることが示唆されているといえる。
してみると,引用発明1において,近点を観察するために,「D=15.6mm」に替えて「D<10mm」とすることは,その上限値に臨界的意義もないことは明らかであり,当業者ならば適宜選択し得る設計的事項であるというべきである。

そして,相違点1および2により奏する効果も,刊行物1の記載事項および上記周知の事項から当業者ならば予測し得る範囲の事項であり,格別顕著なものとはいえない。

したがって,補正発明は,引用発明1および周知の事項に基づいて容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により,独立して特許を受けることができないものである。

(3)回答書について
回答書において,請求人は,審査官の前置報告について,以下のように主張している。

36条6項2号について
「審査官の指摘された『第1交点、第2交点を受けるものがない』は理解し得ない。これら交点は、いずれも照明レンズの第1面、対物レンズの第1面との交点であり、レンズ面上の点である。
又、『先端部」が有する『照明レンズが配置された側面』は、図1における左右方向(矢印方向)が、内視鏡の長手方向で、図面は先端部のみを示してある。又、図面上方が側面である。つまり図1のように内視鏡先端部側面に照明レンズ、対物レンズが配置されている。つまり上記内容(側面)は、照明レンズ、対物レンズが配置されている内視鏡先端部の側面を意味する。
以上のように、請求項1は、当業者であれは、十分理解し得るもので、明確さを解くものでもない。」

29条2項について
「引用例4(特開平5-11354号公報)には、図1等に示すように、内視鏡の先端部の対物系や照明系の配置が本願発明と類似する構成の内視鏡照明装置が記載されている。
しかし、この引用例には、本願発明の条件(1)にて規定するDに関して、公報の[0027]に『D=10mmより小さくなると、照明光軸7と観察光軸8の交差角が大きくなり、近点での配光は良好なものが得られるが、遠点に接近するにしたがって、視野内において配光不足の部分が増加する。照明窓と観察窓の感覚が広くなるほど、この配光不足の部分の増加が大きい。結局、Dの最小値として10mmを採用した。』と記載されている。
この記載から明らかなように、引用例4の内視鏡照明装置は、近点及び遠点での配光バランスが悪くなるためにDの値を10mmより小さくすることはできないことを明確に指摘している。
この記載からも明らかなように、この引用例4のDの値により、本願発明の条件(1)が容易に推定し得るものではない。
この引用例4には、本願発明の条件(2)にて規定するφの値を規定する記載は全くない。
この引用例4には、本願発明の条件(3)にて規定するLに関して、公報の[0035]にL=4.5mmと記載されている。
しかし、上記のように距離D=16.8mmで本願条件(1)の上限値10mmより大きく離れた値である。さらに引用例4の図8に示され構成からも明らかなように内視鏡先端方向に対し前方傾斜するような構成の内視鏡装置である。
このように、本願発明は、引用例4とは明らかに異なる構成であり、単にLの値が本願の条件(3)の範囲内であるということだけであり、このことにより本願発明にて得られる特有の効果を得られるとは到底考えられない。
よって、本願発明は引用例4により容易に発明し得るものではない。 」

(ア 36条6項2号について)
審査官が指摘しているのは,請求項1に係る発明においては,「・・・対物系と、・・・照明系と、・・・先端部と、・・・光軸交点と、・・・第1交点と、・・・第2交点と」を受ける述語が見当たらず,日本語の文章として正確ではないということであり,前記請求人の主張は,前置報告の内容を正しく理解していない。
しかしながら,技術常識を考慮すれば,前記各特定事項が,請求項1に係る発明が対象としている「側視型内視鏡」の各構成要素であることは明らかであるから,日本語の文章として正確ではないとしても,技術的に意味が不明であり,36条6項2号の要件を満たしていない,と迄はいえないというべきである。

(イ 29条2項について)
上述のとおり,補正発明は,引用発明1および周知の事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,上記請求人の主張は採用出来ない。
なお,本件審決における刊行物1である特開平5-113541号公報は,前置報告にて新たに追加されたものであるが,上記摘記のとおり,回答書において請求人は「補正発明」と直接比較して意見を述べているから,刊行物1に基づく拒絶理由をあらためて通知しないこととする。

(4) まとめ
以上のとおりであるから,本件補正は,平成18年法改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により,却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されることとなったので,本願の請求項1?11に係る発明は,平成22年4月26日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるものであって,その請求項1は次のとおりである(以下「本願発明」という)。

「内視鏡先端部に向け順に対物系と照明系が配置された構成で、前記対物系は対物レンズを備えた直視型対物系であり、前記照明系が観察物体を照明する発光体と照明レンズとを有し、前記発光体端部から前記照明レンズを透過して出射する照明光軸と前記対物系の対物光軸とが光軸交点で交わり、前記光軸交点と前記対物系の第1面との交点を通るとともに前記内視鏡の長手方向に平行な面に前記光軸交点から下ろした垂直距離Dが下記条件式(1)を満たし、さらに、前記照明系の第1面と前記照明光軸との交点および前記対物系の第1面と前記対物光軸との交点とを前記内視鏡の長手方向を含む平面上に投影したときの交点間距離Lが下記条件式(3)を満たすことを特徴とする側視型内視鏡。 (1) 4mm<D<10mm
(3) 3mm≦L≦5mm」

2 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭62-65010号公報(以下「刊行物2」という)には,「内視鏡」に関して,図面とともに次の事項が記載されている。

(2-ア)
「〔実施例〕
以下、この発明を第1図ないし第5図に示す第1の実施例にもとづいて説明する。第3図は起上機構をもつ側視型の内視鏡の先端部分の平面を示し、1は先端部、2はその先端部1につながる彎曲部である。先端部1は、金属で成形された先端金物3(この発明の先端部本体に相当)の周囲から先端かけて絶縁カバー4を設ける他、その先端金物3の軸心から一側部りに観察照明系5の大部分を内蔵し、また他側寄りに起上系6を内蔵して構成される。そして、このうちの観察照明系5が第1図に示され、また起上系6が第2図に示されている。」(2頁左上欄17行?同頁右上欄9行)

(2-イ)
「つぎに、観察照明系5について説明すれば、これは、先端金物3の中央から先端側寄りに内蔵された観察系10と、それとは反対の後端側寄りに内蔵された照明系11とから構成されている。観察系10につき述べれば、12はユニット部である。ここで、ユニット部12について説明すれば、13は凹陥状に成形された、シールド枠を兼ねる金属のSID枠、14はそのSID枠部13の底部壁上、若干偏心した位置に形成された装着孔に、絶縁性接着剤15を使い撮像面を後方に向けた状態で取着されたSID(固体撮像素子)、16はそのSID14の足に半田により固定された、先端電気部品17・・・を搭載したPC板(プリント基板)、18はSID枠13の底部壁の外面に接着により固定された、絶縁材(プラスチックなど)より成形された継部材、19は内部に6枚のレンズ20・・・を内装したレンズ枠である。そして、絶縁性接着剤15によるSID14の固定によって、接着時、SID14をスラスト方向へ変位できるようにしている。またSID14とPC板l6との間には、SID14の足を挿通させるための孔21・・・を形成した絶縁スペーサ22が介装されていて、半田付け時、半田がPC板l6からSID14へ流れて短絡するのを防止している。そして、SID枠13の開口部にその開口を遮蔽するようシールド板23が設けられ、SID14ならびにPC板l6の周囲をSID枠およびシールド板23よりなるシールド部材で覆っている。そして、あらかじめSID枠13に固定された継部材18に、レンズ枠19が接着固定され、SID14廻りを1つのユニットにしている。」(2頁左下欄7行?同頁右下欄17行)

(2-ウ)
「そして、こうしたユニット部12のレンズ枠19が、先端金物3の先端側に形成された支持孔30に嵌挿されるとともに、先端金物3の周壁からレンズ枠19に向け螺挿される固定ビス31で先端金物3に固定され、SID14廻りを絶縁カバー4の内側に配してユニット部12全体を先端金物3の軸方向沿いに設置している。詳しくは、レンズ枠19の突出した端部上、前記固定ビス31と対応する外周部にはSID14側へ傾斜した斜面部32が周方向に渡り形成されていて、この斜面部32に向かい螺挿される固定ビス31でレンズ枠19を支持孔30の後方に形成したストッパ一部33部へ押付けて固定している。そして、これにより先端金物3の後部側の周壁に設けた観察窓34とレンズ20・・・とを、前記観察窓34の裏面側に設けたプリズム35を介し光学的に結合させ、レンズ20・・・、嵌挿孔27などで構成される光路を通じ先端部1の側方における光学像をSID14で捕えることができるようにしている。またストッパ一部33と、これに対向する斜面部32との間には、たとえば厚みが0.02mmと0.03mmの2種類のスペーサ36,37が介在され、こうしたスペーサ36,37の種類および枚数の適宜な選定からプリズム35と、これに対向する最終のレンズ20との間隔を最も最高のレンズ性能を出すよう調整している。もちろん、修理の際、加工上、光路長さのばらつきがあるプリズム35を交換するときは、各スペーサ36,37にて厚みを変化させて間隔を調整する。なお、39はSID14の撮像面の前段に位置してSID枠13と一体をなして設けた、光軸方向からの電磁ノイズをカットする働きを兼ねるフレアー絞りである。但し、このフレアー絞り39は内径が小さく、またSID14から離れている方がその性能上、好ましい。」(3頁右上欄1行?同頁左下欄15行)

(2-エ)
「つぎに照明系11について説明する。50は上記観察窓34に隣接して彎曲部2側に配した照明レンズである。照明レンズ50の固定には、レンズ装着孔の下縁のたとえば3方に形成されたレンズ受部51の座面に、レンズ受52を接着した後、そのレンズ受52の座面に照明レンズ50を接着する構造が用いられている。そして、この構造から照明レンズ50の接着時、レンズ受52を遮蔽物として接着剤が先端部1内に流れ出すことがないようにしている。一方、53は、周囲がライトガイドファイバー保護チューブ54で保護されたライトガイドファイバーである。ライトガイドファイバー53は先端部1からそれに可撓管および操作部を介してつづくユニバーサルコードに渡り挿通されていて、その入射端部(図示しない)がユニバーサルコード先端のコネクターに接続されている。すなわち、コネクターと接続される光源装置(図示しない)から照明光を受けることができるようになっている。またライトガイドファイバー53の出射端部は硬質曲げを伴って円弧状に成形されていて、そのファイバー硬質曲げ成形部55が、先端金物3上、照明レンズ50の内側軸心方向沿い形成された円筒状の収容空間56aに収容されて固定されている。ここで、この固定構造について説明すれば、56は収容空間56aに、軸方向および回軸方向に移動可能に配置された第1の口金、57はファイバー硬質曲げ成形部55の根元側に装着された第2の口金である。そして、第2の口金57を第1の口金56の中心軸から先端部1の中央寄りに偏心した位置に装着するとともに、第1の口金56を先端金物3の周壁から螺挿される固定ビス58で固定している。しかるに、ライトガイドファイバー53の出射側は固定される。そして、この偏心固定構造にて、照明レンズ50からライトガイドファイバー53までの距離が大きくなる分、ファイバー硬質曲げ成形部55の曲率半径を大きくできるとともに、ファイバー硬質曲げ成形部55の先端部に直線部59を形成することができるようにしていて、それらで照明光の出射方向を安定させている。またこうした偏心固定構造は、その他、照明方向自在に調整できるようにもなっている。すなわち、ライトガイドファイバー53を軸方向,回軸方向に変位させることにより、ライトガイドファイバー53の直線部59における中心軸と照明レンズ50の中心軸を偏心および偏角させて照明方向を変化(ユツ節)させることができるようになっている。そして、この変化(調節)から、最良の配光を得るよう、照明光軸60を観察窓34の端面から距離L(最も良い配光が得られる距離)離れた地点で観察光軸61に交差させるよう設定している。この距離Lは近接観察用内視鏡では10mm前後、十二指腸用内視鏡では15mm前後、胃用内視鏡では15mm前後である。なお、62,62は第1の口金56とこれに接する先端金物3との間に介装されたOリングで、またライトガイドファイバー保護チューブ54の先端部は第1の口金56に接続されている。」(4頁左上欄12行?同頁右下欄9行)

これらの記載事項および第1図を勘案すると,刊行物2には,次の発明が記載されていると認められる。

「先端金物3の中央から先端側寄りに内蔵された観察系10と,それとは反対の後端側寄りに内蔵された照明系11とから構成され,ライトガイドファイバー53を軸方向,回軸方向に変位させることにより,ライトガイドファイバー53の直線部59における中心軸と照明レンズ50の中心軸を偏心および偏角させて照明方向を変化(調節)させることができるようになっており,この変化(調節)から,最良の配光を得るよう,照明光軸60を観察窓34の端面から距離L(最も良い配光が得られる距離)離れた地点で観察光軸61に交差させるよう設定していて,この距離Lが10mm前後である近接観察用内視鏡。」(以下「引用発明2」という。)

3 対比・判断
(1) 対比
本願発明と引用発明2とを対比すると,
その機能・構造からみて,引用発明2の「観察系10」,「照明系11」,「先端金物3」,「ライトガイドファイバー53」,「照明光軸60」,「観察光軸61」および「距離L(最も良い配光が得られる距離)離れた地点」が,補正発明の「対物レンズを備えた対物系」,「観察体を照明する発光体と照明レンズを有する照明系」,「先端部」,「発光体端部」,「照明光軸」,「対物光軸」および「光軸交点」に相当することは明らかである。
そして,引用発明2の「距離Lが10mm前後」と,本願発明の「4mm<D<10mm」とは,「10mm弱」の点で共通するといえる。

そうすると,両者は,
(一致点)
「内視鏡先端部に対物系と照明系が配置された構成で,前記対物系は対物レンズを備えた対物系であり,前記照明系が観察物体を照明する発光体と照明レンズとを有し,前記発光体端部から前記照明レンズを透過して出射する照明光軸と前記対物系の対物光軸とが光軸交点で交わり,前記光軸交点と前記対物系の第1面との交点を通るとともに前記内視鏡の長手方向に平行な面に前記光軸交点から下ろした垂直距離Dが10mm弱である側視型内視鏡。」
で一致し,次の点で相違する。

(相違点3)
本願発明が「内視鏡先端部に向け順に対物系と照明系が配置された」のに対し,引用発明2では「先端金物3の中央から先端側寄りに内蔵された観察系10と,それとは反対の後端側寄りに内蔵された照明系11」である,すなわち,「内視鏡先端部に向け順に照明系と対物系が配置された」点

(相違点4)
対物レンズを備えた対物系が,本願発明では「直視型対物系を有する」のに対し,引用発明2ではそのような構成ではない点。

(相違点5)
距離Lが,本願発明では,「3mm≦L≦5mm」であるのに対し,引用発明2では不明である点。

(2)相違点についての判断
(相違点3について)
そもそも,側視型内視鏡において,「内視鏡先端部に向け順に対物系と照明系が配置」することは,本願出願前周知の事項である。例えば,原査定において例示された特開2004-8638号公報における図1についての記載,あるいは,刊行物1における図1についての記載参照。
そして,本願明細書には,「内視鏡先端部に向け順に対物系と照明系が配置」することによる技術的意義が全く記載されていないことからみて,当業者が必要に応じて適宜選択する範囲の事項であると云わざるを得ない。
してみると,引用発明2において,上記周知の事項を適用して,その「対物系」と「照明系」の順を逆にし,相違点3における本願発明の構成とすることは,当業者ならば容易に相当し得る範囲の事項であるというべきである。

(相違点4について)
相違点4は,前述した相違点1と全く同一であるから,上記「第2 3 (2) (相違点1について)」において述べたとおりである。

(相違点5について)
距離Lの技術的意義に関して本願明細書の段落【0053】には,「また、本発明の側視型内視鏡において、対物系と照明系との間隔Lは、通常5mm以下が望ましい。また、間隔Lが4.5mm以下であれば更に望ましい。この間隔Lは小であるほど好ましいが、L=0にするには内視鏡の長手方向に垂直な方向に対物系と照明系を配置しなければならない。しかし、この場合、内視鏡の長手方向に垂直な方向に大きなスペースが必要になり、内視鏡の外径が大になる。つまり、内視鏡の長手方向に本発明のように対物系と照明系を配置するためには、対物系と照明系とが干渉しない程度の間隔が必要になる。そのため間隔Lは、少なくとも3mm程度必要になる。」と記載されている。このことは,引用発明2にも共通にいえることであり,また,引用発明1においても「L=4.0mm」が採用されていることからみて,間隔Lを4mm前後の「3mm≦L≦5mm」とすることは,当業者において技術常識であるといいえ,その上下限値に臨界的意義もないことは明らかである。

そして,これらの相違点に係る事項を採用したことによる効果も,予測し得る範囲内のもので格別のものとはいえない。

(3)まとめ
したがって,本願発明は,引用発明2および周知の事項に基づいて容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により,独立して特許を受けることができないものである。

4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないから,その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-04-09 
結審通知日 2012-04-17 
審決日 2012-05-02 
出願番号 特願2004-108607(P2004-108607)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 門田 宏  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 横井 亜矢子
信田 昌男
発明の名称 側視型内視鏡  
代理人 向 寛二  

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