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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1259312
審判番号 不服2009-18467  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-09-30 
確定日 2012-06-27 
事件の表示 特願2003-508352「ビタミンC組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 1月 9日国際公開、WO03/02113、平成16年 7月22日国内公表、特表2004-521943〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成13年(2001年)6月26日を国際出願日とする出願であって、拒絶理由に応答して平成21年5月7日付けで手続補正がなされたが、同年5月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月30日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がなされ、同年12月24日付けで審判請求書の請求の理由の手続補正(方式)がされたものであり、その後、前置報告書を用いた審尋に応答して平成23年8月10日付けで回答書が提出されたものである。


第2 平成21年9月30日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成21年9月30日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1.補正の内容

本件補正は、特許請求の範囲を補正するものであり、補正前の特許請求の範囲(平成21年5月7日付け手続補正書を参照。):
「【請求項1】 (a)薬理学的に許容し得るアスコルビン酸の塩ならびに(b)4-ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノンおよび3-ヒドロキシ-コウジ酸からなる群より選択される少なくとも1つの二次化合物を含有する医薬用組成物であり、かつ該二次化合物の濃度は該組成物総重量の0.01ないし1.0重量%である医薬用組成物。
【請求項2】 該二次化合物が4-ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノンである請求項1記載の医薬用組成物。
【請求項3】 該二次化合物が3-ヒドロキシ-コウジ酸である請求項1記載の医薬用組成物。」
を、以下の補正後の特許請求の範囲(平成21年9月30日付け手続補正書を参照。):
「【請求項1】 (a)薬理学的に許容し得るアスコルビン酸の塩ならびに(b)4-ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノンおよび3-ヒドロキシ-コウジ酸からなる群より選択される少なくとも1つの二次化合物からなる有効成分を含有する医薬用組成物であり、かつ該二次化合物の濃度は該組成物総重量の0.01ないし1.0重量%であるヒト腫瘍細胞のアポトーシスを誘導する医薬用組成物。
【請求項2】 該二次化合物が4-ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノンである請求項1記載の医薬用組成物。
【請求項3】 該二次化合物が3-ヒドロキシ-コウジ酸である請求項1記載の医薬用組成物。」
に補正するものである。(下線は原文のとおり。下線部分が変更箇所である。)

上記補正は、補正前の請求項1において、医薬用組成物が含有する成分を「(a)薬理学的に許容し得るアスコルビン酸の塩ならびに(b)4-ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノンおよび3-ヒドロキシ-コウジ酸からなる群より選択される少なくとも1つの二次化合物からなる有効成分」とし、組成物の性質が、「ヒト腫瘍細胞のアポトーシスを誘導する」医薬用組成物であるとして、補正後の請求項1としたものであり、いわゆる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.特許法第29条第2項について

(1)引用例

刊行物1.国際公開第01/15692号(原審の引用文献1。以下、「引用例1」という。)
刊行物2.国際公開第99/39580号(原審の引用文献2。以下、「引用例2」という。)

原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前に頒布されたことが明らかな上記引用例1,2には、次の事項が記載されている。(引用例1,2は英文のため、翻訳文で示す。翻訳文は、それぞれ、特表2003-508437号公報(引用例1)、特表2002-513426号公報(引用例2)による。)

(1A)引用例1の記載事項

(a-1)
「【請求項1】 腫瘍細胞を、
(a)アスコルビン酸の血漿溶解性金属塩;及び
(b)(i)アルドン酸、及びアルドノ-ラクトン、アルドノ-ラクチド及びこれらの非毒性金属塩、並びに
(ii)デヒドロアスコルビン酸、トレオース、エリトレオース、4-ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノン、3-ヒドロキシコウジ酸及び5-ヒドロキシマルトール、
からなる群から選択される1つ又はそれより多くのビタミンC代謝物、
を含んでいる組成物と接触させる工程からなることを特徴とする選択的化学療法。
【請求項2】 薬理学的に許容可能な静脈内担体中に請求項1に記載の化学療法組成物を含んでいることを特徴とする組成物。」(【特許請求の範囲】)
(a-2)
「(発明を実施するための最良の形態)
上記した化学療法組成物の構成成分は適当な割合で単純に一緒に混合される。正確な割合はそれ程臨界的ではない。使用可能で且つ最適な割合は、当該技術分野の熟練者が不当な実験を行うことなく、例えば以下に記載されているようなインビトロ試験を使用することによって決定でき、そして決定できる範囲内で変動することができる。或いは、本発明の現在好ましい実施態様に従って、上記構成成分を適当な割合で含有する適当なミネラルアスコルベート-代謝物組成物は、登録商標ESTER-C^(R)でインター・カル・コーポレーション(Inter-Cal Corporation)、米国アリゾナ州プレスコット、から商業的に入手可能である。これらの組成物は米国特許4,822,816;4,968,716;及び5,070,085(これらは本明細書で参照する)中で更に記載されている。」(7頁13行?8頁7行;対応公表公報段落【0015】参照)
(a-3)
「実施例
・・・
幾つかの腫瘍細胞系及び対応する正常な非悪性細胞系は、Ester-C^(R)(アスコルビン酸カルシウム+代謝物)によるアポトーシスに関して、他の4種の試験組成物、即ち、アスコルビン酸カルシウム(CA)単独、トレオニン酸カルシウム(CT)単独及びアスコルビン酸カルシウム+トレオニン酸カルシウム(CA+CT)並びに滅菌水(sH_(2)O)に対して試験する。
実施例1
試験方法
細胞系は次のとおりである:
Malme-3M メラノーマ、ヒト(ATCC番号HTB-64)
Malme-3 正常ヒト皮膚線維芽細胞(ATCC番号HTB-102)
SK-Hep-1 肝腺癌、ヒト(ATCC番号HTB-52)
WRL 正常ヒト肝細胞(ATCC番号CL-98)
SK-N-MC 神経芽腫、ヒト(ATCC番号HTB-10)
T-84 結腸癌、ヒト(ATCC番号CCL-248)
・・・
試験材料はインター・カル・コーポレーション(アリゾナ州プレスコット)から得られ、次のとおりである:
試験1 Ester-C^(R)ミネラルアスコルベート(以下参照)
試験2 アスコルビン酸カルシウム(米国薬局方等級)、82.15%
アスコルビン酸(AA)当量
試験3 トレオニン酸カルシウム、87.08% L-トレオニン酸
(TA)当量
試験4 アスコルビン酸カルシウム(米国薬局方)+カルシウム
(米国薬局方)、81.21 %AA、1% TA当量
試験5 アスコルビン酸
試験1の材料は実験室分析によって以下のものを含有している:
アスコルビン酸カルシウム 78.4% AA当量
トレオニン酸カルシウム 0.9% TA当量
他のAA代謝物^(1) 10.4% AA当量
結晶水 残り
・・・
^(1) アルドン酸、アルドノ-ラクトン、アルドノ-ラクチド及びアルドン酸の非毒性金属塩、デヒドロアスコルビン酸、トレオース、エリトレオース、4-ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノン、3-ヒドロキシコウジ酸並びに5-ヒドロキシマルトール。」(10頁6行?13頁最下行;対応公表公報段落【0021】?【0024】参照)
(a-4)
「実施例4
試験1(Ester-C^(R)アスコルビン酸カルシウム+代謝物)及び試験4(アスコルビン酸カルシウム+トレオニン酸カルシウム)による細胞培養物の処理
・・・
実施例5
細胞生存及び細胞死(アポトーシス)のアッセイ
・・・
実施例1に記載した試験組成物及び対照で種々の腫瘍細胞型を処理した後のアポトーシス誘発は、ベーリンガー・マンハイム(Boehringer-Mannheim)(インジアナ州インジアナポリス)によって開発された固相酵素免疫検定法(「エリザ(ELISA)」)を使用して評価する。・・・
・・・データは次のようにして処理する:410nmでの平均吸光度を試験化合物の濃度に対してプロットして、各処理で測定されそして比較された相対的アポトーシス誘発投与量と比較する。最小アポトーシス誘発投与量はアポトーシス(即ち、核タンパク質値)における変化を非処理対照における変化の2倍引き起こすのに必要な投与量として定義される。最大アポトーシスは対照に対するアポトーシスにおける最大変化倍率として定義される。
【表1】

上記表1において、「最小アポトーシス投与量」はアポトーシスにおける変化を対照の2倍引き起こすのに必要な組成物の濃度である。「処理数」は組成物による処理の総数である。「アポトーシスの最大増加倍率」は対照に対するアポトーシスにおける最大変化倍率であり、そして「最大投与量」は、対照と比較して、「最大のアポトーシス倍率」を誘発する組成物の濃度である。
(結論)
上記した試験結果から次の結論が導かれる:
試験1の組成物で示されているミネラルアスコルベート/ビタミンC代謝物組成物は、投与量依存性態様で、多様な腫瘍細胞型の選択的細胞死(アポトーシス)を誘発する。
ミネラルアスコルベート/ビタミンC代謝物組成物(試験1の組成物で示されているような)はアポトーシス、即ち、細胞死亡率における最小限2倍の増加を、ミネラルアスコルベート単独(試験2の組成物で示されているような)か又はアスコルビン酸単独のどちらかによってこのような減少を達成するのに必要な濃度より低い濃度(AA当量)で達成する。
特定の細胞型に対してミネラルアスコルベート/ビタミンC代謝物組成物(試験1の組成物で示されているような)で達成可能なアポトーシスの最大値は、ミネラルアスコルベート又はアスコルビン酸単独で達成可能な値より高い。
腫瘍細胞のアポトーシスを誘発するのに必要なミネラルアスコルベート/ビタミンC代謝物組成物(試験1の組成物で示されているような)のAA当量濃度は正常細胞に対する濃度より低く、そして正常細胞の細胞死の規模は腫瘍細胞よりかなり小さい。」(16頁16行?22頁13行;対応公表公報段落【0032】?【0041】参照)

(1B)引用例2の記載事項

(b-1)
「【特許請求の範囲】
1.(a)少なくとも1つのミネラルアスコルビン酸塩;および
(b)前記ミネラルアスコルビン酸塩のための少なくとも1つの製薬上認められる液体有機ポリオール溶剤;
を含有し、pHが約5から7までの範囲であることを特徴とする、液体ビタミンC濃縮組成物。
・・・
3.(a)少なくとも1つのミネラルアスコルビン酸塩;および
(b)前記ミネラルアスコルビン酸塩のための少なくとも1つの製薬上認められる液体有機ポリオール溶剤;
を含有する反応混合物の反応生成物、
を含有し、pHが約5から7までの範囲であることを特徴とする、液体ビタミンC液体濃縮組成物。
・・・
8.請求項1の濃縮組成物から調製されるビタミンC生成物。
・・・
11.4-ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノンを含有することを特徴とする請求項3に記載の反応生成物。
12.3-ヒドロキシ-コウジ酸を含有する請求項3に記載の反応生成物。
13.4-ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノンを含有することを特徴とする請求項1に記載の組成物。
14.3-ヒドロキシ-コウジ酸を含有することを特徴とする請求項1に記載の組成物。
15.4-ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノンを含有することを特徴とする請求項8に記載の生成物。
16.3-ヒドロキシコウジ酸を含有することを特徴とする請求項8に記載の生成物。」(【特許請求の範囲】)
(b-2)
「発明の簡単な説明
私は今安定性を改良したビタミンC濃縮組成物を発見したが、これは完成製品を調製するために特に適している。これらの濃縮組成物は、ミネラルアスコルビン酸塩用の少なくとも1つの製薬上認められる液体有機ポリオール溶剤に溶解された少なくとも1つのミネラルアスコルビン酸塩を含有する。この濃縮組成物は少なくとも約5、好ましくは約5から約7までの範囲のpHを有する。
・・・
本発明はまた少なくとも1つのミネラルアスコルビン酸塩とミネラルアスコルビン酸塩用の少なくとも1つの製薬上認められる液体ポリオール溶剤の反応生成物を含有する液体ビタミンC組成物を包含する。
本発明はさらに少なくとも1つのアルドン酸化合物および/または製薬上認められる亜鉛化合物も含有するこのような組成物ばかりでなく、また、4-ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノンおよび/または3-ヒドロキシ-コウジ酸を含有する液体ビタミンC組成物も包含する。
本発明はまた濃縮組成物から調製された完成製品および/または上記に定義された反応生成物を考慮している。
・・・
さらに別の態様において、本発明はビタミンCを投与する方法も包含しており、これは上記定義された濃縮組成物から調製された完成製品をヒトまたは動物に局所的に、経口的に、腸溶的にまたは腸管外的に投与する段階を包含する。
さらに別の実施態様により、上記に定義された濃縮組成物/反応生成物は、溶剤前方ピークの後でアスコルビン酸塩ピークの前に現れる285nm高性能液体クロマトグラフ(HPLC)ピークにより特徴付けられる化合物を含有するが、これは現在4-ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノン、すなわち下記式:


で表される化合物と同定されており、またこのような組成物および反応生成物は3-ヒドロキシ-コウジ酸、すなわち


を含有する。」(5頁2行?7頁5行;対応公表公報6頁16行?7頁下から2行参照)
(b-3)
「ピーク3により表される化合物は4-ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノンである。このフラノン誘導体は本発明の濃縮生成物中に約0.001重量%から約0.1重量%以上までの範囲の量が含まれる。
本発明の濃縮組成物はまた図4aのピーク3aにより表される化合物3-ヒドロキシコウジ酸を含有する。このコウジ酸誘導体は公知の皮膚美白剤である。現在の情報によると、このコウジ酸誘導体は本発明の濃縮生成物中に約0.001重量%から約0.1重量%以上までの範囲の量が含まれる。
上記で確認されたフラノンとコウジ酸誘導体は、アルドン酸化合物をこれらの濃縮組成物が得られる反応混合物に加えたかどうかにかかわらず、本発明の濃縮組成物中に存在する。」(27頁15行?28頁10行;対応公表公報20頁10?19行参照)

(2)対比・判断

引用例1には、(a)アスコルビン酸の血漿溶解性金属塩;及び(b)(i)アルドン酸、及びアルドノ-ラクトン、アルドノ-ラクチド及びこれらの非毒性金属塩、並びに(ii)デヒドロアスコルビン酸、トレオース、エリトレオース、4-ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノン、3-ヒドロキシコウジ酸及び5-ヒドロキシマルトール、からなる群から選択される1つ又はそれより多くのビタミンC代謝物、を含んでいる化学療法組成物(摘記事項a-1)が記載されている。
また、実施例の試験1には、アルコルビン酸カルシウム78.4%AA当量、トレオニン酸カルシウム 0.9TA当量、他のAA(アスコルビン酸)代謝物^(1) 10.4%AA当量、結晶水 残りを含有するEster-C^(R)ミネラルアスコルベートで、ヒトのメラノーマ、肝腺癌、神経芽腫、結腸癌の細胞を処理した後のアポトーシス誘発の試験結果、並びにその結論として、試験1の組成物で示されているミネラルアスコルベート/ビタミンC代謝物組成物は、投与量依存性態様で、多様な腫瘍細胞型の選択的細胞死(アポトーシス)を誘発すること(摘記事項a-3,4)が記載されている。さらに、他のAA代謝物^(1)の具体的な組成について、「^(1) アルドン酸、アルドノ-ラクトン、アルドノ-ラクチド及びアルドン酸の非毒性金属塩、デヒドロアスコルビン酸、トレオース、エリトレオース、4-ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノン、3-ヒドロキシコウジ酸並びに5-ヒドロキシマルトール。」と記載されること(摘記事項a-3)から、試験1の材料であるEster-C^(R)ミネラルアスコルベートは、ビタミンC代謝物である4-ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノン並びに3-ヒドロキシコウジ酸を含むものであることが明らかである。
これらの引用例1の摘記事項の記載からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「アスコルビン酸の血漿溶解性金属塩、並びにビタミンC代謝物である4-ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノン及び3-ヒドロキシコウジ酸を含んでいる化学療法組成物であって、ヒト腫瘍細胞のアポトーシスを誘発する組成物。」

そこで、本件補正発明と引用発明とを対比する。
(i)引用発明の「アスコルビン酸の血漿溶解性金属塩」は、本件補正発明の「薬理学的に許容し得るアスコルビン酸の塩」に相当する。
(ii)本件補正発明の「二次化合物」は、本願明細書の段落【0003】において、「本発明の組成物は、ビタミンCと、ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノン、3-ヒドロキシコウジ酸、トレオース、エリトロース、および5-ヒドロキシマルトールからなる群より選択される少なくとも1つの化合物である二次成分を含有する。」と記載され、ビタミンCについて、「該ビタミンCはアスコルビン酸ミネラル、すなわち、薬理学的に許容し得るアスコルビン酸の塩であり」と記載されることから、薬理学的に許容し得るアスコルビン酸の塩と併用される成分を意味するものであると認められる。そうしてみると、引用発明の「ビタミンC代謝物」は、アスコルビン酸の血漿溶解性金属塩、すなわち、薬理学的に許容し得るアスコルビン酸の塩と併用される成分であることから、本件補正発明の「二次化合物」に相当する。
(iii)引用発明の「化学療法組成物」は、本件補正発明の「医薬用組成物」に相当する。

よって、両者は、
「(a)薬理学的に許容し得るアスコルビン酸の塩ならびに(b)4-ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノンおよび3-ヒドロキシ-コウジ酸からなる群より選択される少なくとも1つの二次化合物を含有する医薬用組成物であり、ヒト腫瘍細胞のアポトーシスを誘導する医薬用組成物。」である点で一致するが、以下の点で相違する。(なお、以下の下線は当審で付したものである。)
(i)本件補正発明は、(a)薬理学的に許容し得るアスコルビン酸の塩ならびに(b)4-ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノンおよび3-ヒドロキシ-コウジ酸からなる群より選択される少なくとも1つの二次化合物からなる有効成分を含有する医薬組成物であるのに対し、引用発明は、そのような特定がなされていない点。(以下、「相違点(i)」という。)
(ii)本件補正発明は、二次化合物の濃度が、該組成物総重量の0.01ないし1.0重量%であるのに対し、引用発明は、そのような特定がなされていない点。(以下、「相違点(ii)」という。)

上記相違点(i)について検討する。
本件補正発明は、「(a)薬理学的に許容し得るアスコルビン酸の塩ならびに(b)4-ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノンおよび3-ヒドロキシ-コウジ酸からなる群より選択される少なくとも1つの二次化合物からなる有効成分」を含有する医薬組成物であり、本件補正発明の医薬組成物は、「(a)ならびに(b)からなる有効成分」の他に、他の有効成分を含めた種々の成分を含有する医薬組成物をも包含するものである。
このことは、発明の詳細な説明の実施例1において、製品Aとして、アスコルビン酸カルシウム95.00重量%、4-ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノン1.0重量%の他に、その他(アスコルビン酸、デヒドロアスコルビン酸など)4.00重量%を含有する組成物が、製品Bとして、アスコルビン酸ナトリウム96.5重量%、3-ヒドロキシ-コウジ酸0.2%の他に、その他3.3重量%を含有する組成物が具体的に例示されていることからも明らかである。
そうしてみると、本件補正発明は「・・・二次化合物からなる有効成分を含有する医薬組成物」と特定されたものであるとしても、本件補正発明と引用発明の組成物とは、それを構成する成分を明確に区別することができないものであることから、上記相違点(i)は、実質的な相違点であるとは認められない。

なお、「・・・二次化合物からなる有効成分を含有する医薬組成物」なる特定により、「・・・二次化合物」が、当該医薬組成物において、有効成分として配合されたものであることを意味するものであるとしても、本件補正発明と引用発明の組成物は、両発明の構成成分が同一である以上、それを構成する成分は、主観的な添加目的にかかわらず、同一の作用効果を奏することは自明である。本件補正発明において添加された4-ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノンおよび3-ヒドロキシ-コウジ酸からなる群より選択される少なくとも1つの二次化合物がアポトーシスを誘導するという有効成分としての効果を奏する一方、引用発明の組成物が含有する4-ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノンおよび3-ヒドロキシ-コウジ酸が、そのような効果を奏さないというようなことは起こり得ない。 したがって、本件補正発明において、「(a)薬理学的に許容し得るアスコルビン酸の塩ならびに(b)4-ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノンおよび3-ヒドロキシ-コウジ酸からなる群より選択される少なくとも1つの二次化合物からなる有効成分」と、本件補正発明の有効成分が「(a)薬理学的に許容し得るアスコルビン酸の塩ならびに(b)4-ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノンおよび3-ヒドロキシ-コウジ酸からなる群より選択される少なくとも1つの二次化合物からなる」ことが特定されているとしても、このことにより、本件補正発明と引用発明とを区別することができるとは認められない。

次に、上記相違点(ii)について検討する。
引用例1には、化学療法組成物の構成成分は適当な割合で単純に一緒に混合され、正確な割合はそれ程臨界的ではないこと、使用可能で且つ最適な割合は、当該技術分野の熟練者が不当な実験を行うことなく、インビトロ試験を使用することによって決定でき、そして決定できる範囲内で変動することができること(摘記事項a-2)が記載されている。
また、引用例2には、安定性が改良されおり、ヒトに局所的に、経口的に、腸溶的にまたは腸管外的に投与される完成製品を調製するために特に適しているミネラルアスコルビン酸塩を含有するビタミンC濃縮組成物が記載され(摘記事項b-1?3)、該組成物において、4-ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノン、3-ヒドロキシコウジ酸は濃縮生成物中にそれぞれ約0.001重量%から約0.1重量%以上までの範囲の量が含まれること(摘記事項b-3)が記載されている。
そして、従来技術で示された各成分の割合について、その近傍範囲において適宜変更することは、当業者にとって特段の創意工夫を要することなくなし得ることであるから、二次化合物の濃度を、該組成物総重量の0.01ないし1.0重量%とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

また、本願明細書には、二次成分に関して「本発明の組成物は、ビタミンCと、4-ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノン、3-ヒドロキシ-コウジ酸、トレオース、エリトロース、および5-ヒドロキシマルトールからなる群より選択される少なくとも1つの化合物である二次成分を含有する。」(段落【0003】)、「これら組成物における二次成分の濃度は非常に低く、すなわち、組成物総重量の約0.01ないし約1.0重量%であってもよい。」(段落【0004】)と記載され、実施例には、実施例1として、アスコルビン酸の塩、ならびに4-ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノンまたは3-ヒドロキシ-コウジ酸、その他を含有する組成物の配合例が、実施例2として、実施例1の組成物を用いる食品の製造例が記載されるにとどまり、本件補正発明において、二次化合物の濃度を、該組成物総重量の0.01ないし1.0重量%の範囲としたことによる、ヒト腫瘍細胞のアポトーシス誘導効果についての具体的な説明や裏付けが何らなされいない。
そして、これらの本願明細書の記載を検討しても、本件補正発明が、公知技術から当業者が予測できない格別顕著な効果を奏するものと認めることができない。

なお、請求人は、審判請求の理由(平成21年12月24日付けの手続補正書)において、以下のことを主張している。
(i)引例1の記載から、有効成分は当該AA代謝物とAAであることが理解される一方、上記9種以上の有効成分から本願2成分を選択する確率は1/36以下となり、また、上記各成分が各々平均的に含有されているという保障はなく、仮にそうだとしても実際に検証してみなければ本願発明の効果は認識することは不可能でって、上記記載から本願発明の組成物における当該二次化合物の配合割合を決定することは容易であると判断することはできないこと。
(ii)引例2は、本願二次化合物が同引例の請求項3に記載の「反応生成物」中に存在することを示したに過ぎず、それらをアスコルビン酸の塩と併用するとヒト腫瘍細胞のアポトーシスを誘導する作用を生ずる旨の記載は全くなく、引例1?8の発明は、本願二次化合物とアスコルビン酸の塩との併用が本願薬理作用を発揮させるということを想起する動機付けが非常に小さいこと。
さらに、平成23年8月10日付けの回答書において、参考資料1-2の実験例、参考資料1-3の実験例を添付し、以下のことを主張している。
(iii)参考資料1-2の図3,4として、CA/FR(質量比)を3通りに変更した水溶液を被験細胞に処理し、増殖抑制効果を示し、本件発明の方が効果があることは明白であること、また、図1,2は、図3,4において、FRをCT(トレオン酸カルシウム)に置き換えたものであるが、明らかに本件発明より被検細胞の増殖抑制効果が劣ることは明らかであること、図5,6は、図1,2において、FRを用いないか本件範囲に更に混合したものであるが、FRを所定に含むと、効果が促進されることは明らかであること、図6に示すようにヘパトーマに対して図4よりも効果が改善されており、図6Aは、FRを本件範囲に含むCA/CT/FR(92.5/7.5/7.5)(FR濃度は、約0.07重量%)の混合水溶液は、ヘパトーマに対しては増殖抑制効果があり、正常肝臓細胞に対しては、増殖抑制がないことを示していること。
(iv)参考資料1-3の図から、CA/CT/FR混合水溶液は、コントロール(水のみ)、0.1%CA水溶液に比べてヘパトーマの増殖を抑制していること、本件発明は、ADRの併用に有効であること。
(v)引例2は、安定性を改善する意図でビタミンC組成物を開示するものであり、特に顕著な治療効果は記載がなく、引例2とこれ以外の上記引例とを組合せる合理的な理由が希薄であること、引例2は、二次化合物のFR及び3-ヒドロキシ-コウジ酸を0.001?0.1重量%含有できることを開示するが、本件発明のように組成物総重量に対して二次化合物を本件発明が定義する0.01?1重量%含有することは明確には開示していないこと。

そこで、事案に鑑み、以下、これらの点について当審の見解を示す。
(i),(ii),(v)について
上記検討したとおり、本件補正発明における「(a)・・・ならびに(b)・・・の二次化合物からなる有効成分」を含有する医薬組成物なる特定により、本件補正発明と引用発明の組成物とは、それを構成する成分を明確に区別することができないものであって、上記相違点(i)は、実質的な相違点であるとは認められないものである。そして、引用例1(引例1),引用例2(引例2)の記載から、本願発明の組成物における当該二次化合物の配合割合を決定することが容易であることについては、上記検討したとおりである。
(iii),(iv)について
本件補正発明は、有効成分が(a)薬理学的に許容し得るアスコルビン酸の塩ならびに(b)4-ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノンおよび3-ヒドロキシ-コウジ酸からなる群より選択される少なくとも1つの二次化合物の2成分からなるものであり、参考資料1-2,1-3に記載される実験例において、本件補正発明の2成分からなる組成物の効果に関するものは、参考資料1-2の図3,4に示される結果のみである。
そして、参考資料1-2の図3,4は、いずれもCA/FR(質量比)を3通りに変更した場合の被験細胞の増殖抑制効果についての結果を示すにとどまり、FR濃度を組成物総重量の0.01ないし1.0重量%の範囲としたことによる腫瘍細胞のアポトーシス誘導効果を具体的に裏付けるものではなく、これらの結果を検討しても、図4(ヘパトーマ)においては、CAとFRの質量比による差を認めることができず、図3(メラノーマ)においては、FR濃度が0.075重量%、0.001重量%である組成物の結果を記載するものであり、質量比により効果の差が認められるとしても、いずれもCA濃度が異なり、図3に示される結果を検討しても、本件補正発明が、有効成分を(a)薬理学的に許容し得るアスコルビン酸の塩ならびに(b)二次化合物の濃度を、該組成物総重量の0.01ないし1.0重量%の範囲としたことによって、ヒト腫瘍細胞のアポトーシス誘導効果において当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏したものと認めることはできない。
してみると、上記請求人の主張は、いずれも理由がなく、採用することができない。

(3)むすび

したがって、本件補正発明は、特許法第29条第2項に規定する要件を満たしていないものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.まとめ

以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について

平成21年9月30日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成21年5月7日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの以下のものである。
「【請求項1】 (a)薬理学的に許容し得るアスコルビン酸の塩ならびに(b)4-ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノンおよび3-ヒドロキシ-コウジ酸からなる群より選択される少なくとも1つの二次化合物を含有する医薬用組成物であり、かつ該二次化合物の濃度は該組成物総重量の0.01ないし1.0重量%である医薬用組成物。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1,2及びその記載事項は、前記「第2 2.(1)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記「第2 2.」で検討した本件補正発明である「(a)薬理学的に許容し得るアスコルビン酸の塩ならびに(b)4-ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノンおよび3-ヒドロキシ-コウジ酸からなる群より選択される少なくとも1つの二次化合物からなる有効成分を含有する医薬用組成物であり、かつ該二次化合物の濃度は該組成物総重量の0.01ないし1.0重量%であるヒト腫瘍細胞のアポトーシスを誘導する医薬用組成物。」を包含する「(a)薬理学的に許容し得るアスコルビン酸の塩ならびに(b)4-ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノンおよび3-ヒドロキシ-コウジ酸からなる群より選択される少なくとも1つの二次化合物を含有する医薬用組成物であり、かつ該二次化合物の濃度は該組成物総重量の0.01ないし1.0重量%である医薬用組成物。」であるから、前記「第2 2.」に記載した理由と同じ理由で、引用例1,2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に記載された発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-01-24 
結審通知日 2012-01-31 
審決日 2012-02-13 
出願番号 特願2003-508352(P2003-508352)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61K)
P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三上 晶子渕野 留香  
特許庁審判長 横尾 俊一
特許庁審判官 上條 のぶよ
大久保 元浩
発明の名称 ビタミンC組成物  
代理人 小栗 昌平  
代理人 本多 弘徳  
代理人 市川 利光  

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