• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04J
管理番号 1259319
審判番号 不服2010-11314  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-05-26 
確定日 2012-06-27 
事件の表示 特願2006-553165「OFDMをベースにした通信システムのためのサブバンドをベースにした復調」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 8月25日国際公開、WO2005/079033、平成19年 8月 9日国内公表、特表2007-522767〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、本願は、2005年2月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年2月9日、米国)を国際出願日とする出願であって、原審において平成21年4月27日付け拒絶理由通知に対し意見書および手続補正書の提出はなく、平成22年1月20日付けで拒絶査定となり、これに対し同年5月26日に審判請求がなされるとともに手続補正書の提出があったものである。
なお、平成23年9月15日付けで当審より審尋を発したが、その指定期間内に回答書の提出はなされなかった。


第2.補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年5月26日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本願発明と補正後の発明
上記手続補正(以下、「本件補正」という。)は、
補正前の平成18年9月11日付けの国際出願翻訳文提出書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、

「 Nの合計サブバンドの中でNcのサブバンド(但し、N>Nc>1)のためにフーリエ変換を実行する方法において、
Nの入力サンプルの第1のシーケンスをローテートし、Nのローテートされた入力サンプルの第2のシーケンスを得ることと、
前記Nのローテートされた入力サンプルの第2のシーケンスを累算し、Ncの時間領域値の第3のシーケンスを得ることであって、前記累算は、Lのローテートされた入力サンプルのNcのセットの各々に対して実行される(但しNc・L=Nである)ことと、
前記Ncの時間領域値の第3のシーケンスに対してNcポイントの高速フーリエ変換(FFT)を実行し、NcのサブバンドのためのNcの周波数領域値を得ることとを備えた方法。」
という発明(以下、「本願発明」という。)を、

「 Nの合計サブバンドの中でNcのサブバンド(但し、N>Nc>1)のためにフーリエ変換を実行する方法において、
Nの入力サンプルの第1のシーケンスをローテートし、Nのローテートされた入力サンプルの第2のシーケンスを得ることと、ここにおいて、前記Nの入力サンプルの各々は、前記入力サンプルを
【数1】

で乗算することによりローテートされ、但し、nは、前記第1のシーケンス内の前記入力サンプルのためのインデックスであり、mは前記Ncのサブバンドを含むサブバンドグループのためのインデックスである、
前記Nのローテートされた入力サンプルの第2のシーケンスを累算し、Ncの時間領域値の第3のシーケンスを得ることであって、前記累算は、Lのローテートされた入力サンプルのNcのセットの各々に対して実行される(但しNc・L=Nである)ことと、
前記Ncの時間領域値の第3のシーケンスに対してNcポイントの高速フーリエ変換(FFT)を実行し、NcのサブバンドのためのNcの周波数領域値を得ることとを備えた方法。」
という発明(以下、「補正後の発明」という。)に補正することを含むものである。


2.補正の適否
(1)新規事項の有無、補正の目的要件
上記補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において、補正前の特許請求の範囲の請求項1に、
「ここにおいて、前記Nの入力サンプルの各々は、前記入力サンプルを
【数1】

で乗算することによりローテートされ、但し、nは、前記第1のシーケンス内の前記入力サンプルのためのインデックスであり、mは前記Ncのサブバンドを含むサブバンドグループのためのインデックスである、」
との構成を追加して限定することにより特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第17条の2第3項(新規事項)及び第4項第2号(補正の目的)の規定に適合している。

(2)独立特許要件
上記補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、上記補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下に検討する。

[補正後の発明]
上記「1.本願発明と補正後の発明」の項で「補正後の発明」として認定したとおりである。

[引用発明]
A.原審の拒絶理由に引用された、"A Discrete Multi Carrier Multiple Access Technique for Wireless Communications", Vehicular Technology Conference, 1998.VTC 98. 48th IEEE,1998年 5月18日,pp. 1533-1537(邦訳「無線通信のための個別マルチキャリア多重アクセス技術」、以下、「引用例」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「II. SYSTEM DESCRIPTION AND IMPLEMENTATION

The multi carrier multiple access (MCMA) scheme and its
discrete implementation is discussed in this section. It is
assumed that the communication channel is a frequency
selective fading channel and a bandwidth “sufficiently larger”
than the channel coherence bandwidth is available.
“Sufficiently large”bandwidth is one which provides with the
required order of frequency diversity in the system. Typically
an order of diversity between two to four should be sufficient.
The available frequency band is divided into a number of flat
fading orthogonal subbands. A set of non-adjacent subbands
are dedicated to each user.
For instance, as is shown in Fig.1 every one of 3 subbands is
given to each of 3 users sharing the same frequency band.
Such a frequency assignment guarantees a high order of
frequency diversity as non-adjacent subbands are expected to
fade independently or with a smaller correlation.


Fig.1: An example frequency assignment for users sharing the
same bandwidth」
(1533頁右欄下から10行?1534頁左欄9行)

(イ.邦訳)
「II. システムの記述および実装

このセクションでは、マルチキャリア多重アクセス(MCMA)スキームおよびその個別の実装について議論されます。ここでは通信チャネルは、周波数選択性フェージング・チャンネルであって、チャンネルコヒーレンス帯域幅より”十分に大きな”帯域幅が利用可能であると仮定されています。
”十分に大きな”帯域幅とは、システムで必要とされる程度の周波数ダイバーシチを提供するものです。典型的には、2から4程度のダイバーシチで充分です。
利用可能な周波数帯は、フラットフェージングで直交する多くのサブバンドに分割されます。隣接していないサブバンドの1組が各ユーザーに割り当てられます。
例えば、図1に示されるように、3つのサブバンドの1つがそれぞれ、3人のユーザの各々に与えられて同じ周波数帯を共有することになります。
隣接していないサブバンドのフェージングは独立しており、より小さな相関性を有すると期待されるので、そのような周波数割り当ては、高次の周波数ダイバーシチを保証します。

(イメージは省略)

図1:同じ帯域幅を共有するユーザーのための例示的な周波数割当」

ロ.「 An straightforward digital implementation of the proposed
scheme uses the formal DFT-based multi carrier
implementation [3-6,8] with information sent only over a
subset of frequency subbands for each user. The transceiver
functional block diagram for such an implementation is shown
in Fig.2. In Fig.2, the "equivalent discrete channel" is an
equivalent block for the transmit and receive filters,
Quadrature modulator and demodulator, the physical wireless
channel and also the Nyquist rate sampler.



Fig. 2 : An straightforward digital implementation of MCMA
( see Fig. 3 for a reduced complexity implementation )」
(1534頁左欄10行?下から11行)

(ロ.邦訳)
「 提案されたスキームの直接的なディジタル実装は、フォーマルなDFTベースのマルチキャリア実装を使用し[3-6,8]、そこでは情報は周波数サブバンドの一つの部分集合のみを使って各ユーザーに送られます。そのような実装の送受信機の機能ブロック図は、図2に示されます。図2では、「等価な個別的通信路」は、送受信フィルタ、直角位相変復調器、物理的な無線チャンネルおよびさらにナイキスト速度サンプラーなどの等価ブロックからなっています。

(イメージは省略)

図2:MCMAの直接的なディジタル実装
(複雑さを減少された実装については図3を参照)」

ハ.「It is assumed that root Nyquist filters are used both in the
transmitter and the receiver. The cyclic extension blocks help
to minimize both inter symbol and other-user interference as is
discussed in section III. The Discrete Fourrier Transform
(DFT) and its inverse (IDFT) are used to partition the channel
along the frequency axis [3,4,6]. A total of MN frequency
subbands are generated, N of them for each of M users sharing
the available frequency band. The coded and digitally
modulated complex-valued sequence of N components {Vn}^(N-1)_(n=0)is up-sampled ;

…(Eq.1)

and cyclically shifted right m times where m = 0,1,2, ... ,M-1
is the user index. At the receiver the DFT output sequence is
decimated ;


, n = 0,1,2,...,N-1 …(Eq.2)
after being cyclically shifted left m times. The complexity of
the multi carrier multiplexer and demultiplexer as marked in
Fig. 2 can be reduced noting the equivalent operations shown
in Fig.3 [7].


Fig. 3 : Equivalent discrete operations」
(1534頁左欄下から10行?右欄下から16行)

(ハ.邦訳)
「送信機及び受信機においては、ルート・ナイキストフィルタが用いられていると仮定されています。周期的な拡張のブロックは、セクションIIIで議論されるように、シンボル間干渉および他ユーザー干渉の双方を最小化するのに役立ちます。離散フーリエ変換(DFT)およびその逆変換(IDFT)は、周波数軸に沿ってチャンネルを分割するために使用されます。[3、4、6]
その結果全部でMN個の周波数サブバンドが生成され、それらのうちN個づつが利用可能な周波数帯を共有するM人のユーザーの各々に割り当てられます。符号化されデジタル変調されたN個の複素数値の構成要素からなるシーケンス{Vn}^(N-1)_(n=0)がアップサンプリングされ;


…(式1)

となり、循環的なm回の右シフトを受ける、ここでm=0、1、2、...、M-1はユーザー・インデックスである。受信機側では、DFT出力シーケンスは循環的なm回の左シフトの後、間引きされて;


,n=0,1,2,…,N-1 …(式2)
となる。
図2にマークされたマルチキャリア・マルチプレクサーおよびデマルチプレクサーの複雑性は、図3[7]の中で示される等価なオペレーションに注意して縮小することができます。

(イメージは省略)

図3:等価な離散的演算」

ニ.「 In Fig.3 the phase adjustment and the phase correction
blocks are respectively defined as ;


, k=0,1,2,…,MN-1 …(Eq.3)

…(Eq.4)

where m = 0 ,1 , 2 , ... ,M-1 is the user index.The sequence
repeater and the sequence accumulator blocks are respectively
defied as;


, k=0,1,2,…,MN-1 …(Eq.5)


, k=0,1,2,…,N-1 …(Eq.6)

Using equivalent operations shown in Fig.3a and Fig.3c, the
multi carrier multiplexer is reduced to what is shown in Fig.4a
Using Fig.3b and Fig.3d, the multi carrier demultiplexer is
reduced to Fig.4b. Reduction in complexity is made mainly
because of reduction in the DFT and the IDFT frame lengths
from MN points to N points.


Fig. 4 : Reduced complexity multi carrier multiplexer (a) and
demultiplexer (b).」
(1534頁右欄下から15行?1535頁左欄14行)

(ニ.邦訳)
「 図3では、位相調整および位相補正ブロックはそれぞれ以下のように定義されます;


, k=0,1,2,…,MN-1 …(式3)

…(式4)

ここで、m=0、1、2、...、M-1はユーザー・インデックスである。.シーケンスリピーターおよびシーケンス・アキュムレーター・ブロックはそれぞれ以下のように定義されます;


, k=0,1,2,…,MN-1 …(式5)

, k=0,1,2,…,N-1 …(式6)

図3aおよび図3cで示される等価なオペレーションを使用して、マルチキャリア・マルチプレクサーは、図4aで示されるものに単純化されます。
同様に図3bおよび図3dを使用して、マルチキャリア・デマルチプレクサーは図4bのようになります。複雑さの減少は、主にDFTおよびIDFTフレーム長がMNポイントからNポイントまで減少したことによるものです。

(イメージは省略)

図4:複雑さの減少されたマルチキャリア・マルチプレクサー(a)および
デマルチプレクサー(b).」

なお、以降の便宜のため、摘記箇所中の数式に(Eq.1)?(Eq.6)、対応する訳文に(式1)?(式6)の番号を付した。
また、以降の議論においては、受信側の信号のみに言及するため、送信側の対応する信号と区別するための符号「~」は省略する。


上記引用例の記載及び関連する図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、
まず、引用例記載の「Multi Carrier Multiple Access Technique」(マルチキャリア多重アクセス技術)は、上記イ.図1に3ユーザの例が例示され、上記ハ.前段に「A total of MN frequency subbands are generated, N of them for each of M users sharing the available frequency band」(全部でMN個の周波数サブバンドが生成され、それらのうちN個づつが利用可能な周波数帯を共有するM人のユーザーの各々に割り当てられます)とあるように、「全部でMN個の周波数サブバンド」の中で一人のユーザーあたりN個のサブバンドを割り当てるものである。
また、上記ハ.前段に「The Discrete Fourrier Transform(DFT) and its inverse(IDFT) are used to partition the channel along the frequency axis」(離散フーリエ変換(DFT)およびその逆変換(IDFT)は、周波数軸に沿ってチャンネルを分割するために使用されます。)とあって、図4(b)の「Multi Carrier Demultiplexer」(マルチキャリア・デマルチプレクサー)の左のブロックに「DFT(N)」とあるように、Nのサブバンドのために「DFT」(離散フーリエ変換)を実行するものであって、そのための方法が開示されていると言うことができる。
また、上記図4(b)の「Multi Carrier Demultiplexer」(マルチキャリア・デマルチプレクサー)においては、
その右のブロック「Phase Correction」(位相補正ブロック)に右端から信号「{y_(k)}」が入力されて「位相補正」がなされ、信号「{u_(k)}」として得られることが記載されており、
ここにおいて、上記ニ.(式4)によれば、当該「位相補正」は、入力信号「{y_(k)}」の各々の信号サンプルの値y_(k)に、いわゆる位相因子

を乗算することにより位相補正がなされている。
また、上記図4(b)の真ん中のブロック「Sequence Accumulator(M)」(シーケンス・アキュムレーター・ブロック)においては、
その右の前記「位相補正ブロック」から「位相補正」がなされた信号「{u_(k)}」が入力されており、
上記ニ.(式6)によれば、「位相補正」がなされた信号「{u_(k)}」を「accumulate」(累算)して、信号「{v_(k)}」が得られているものである。
また、上記図4(b)の左のブロック「DFT(N)」においては、信号「{v_(k)}」に対して前述のように「DFT」(離散フーリエ変換)が実行されて信号「{V_(n)}」が得られており、
フーリエ変換が時間領域の信号を周波数領域の信号に変換することは技術常識であるから、信号「{v_(k)}」は時間領域の値であり、信号「{V_(n)}」は周波数領域の値である。
また、上記4つの信号{y_(k)}、{u_(k)}、{v_(k)}、{V_(n)}は、例えば上記ハ.に「The coded and digitally modulated complex-valued sequence of N components {V_(n)}^(N-1)_(n=0)」(符号化されデジタル変調されたN個の複素数値の構成要素からなるシーケンス{V_(n)}^(N-1)_(n=0))とあるように、添え字で識別され各々の値を有する「サンプル」の系列(シーケンス)であるのも技術常識であり、
図4(b)の各信号の添え字k,nの範囲を見れば明らかなように、
信号{y_(k)}、{u_(k)}は、MN個のサンプルからなるシーケンスであり、
信号{v_(k)}、{V_(n)}は、N個のサンプルからなるシーケンスである。
そして、上記図4(b)の左のブロック「DFT(N)」で実行される離散フーリエ変換は、図のブロックの「DFT(N)」という表記、上述のようにDFTブロックに入出力される信号「{v_(k)}」、「{V_(n)}」がN個のサンプルからなるシーケンスであること、および上記ニ.に「reduction in the DFT and the IDFT frame lengths from MN points to N points」(DFTおよびIDFTフレーム長がMNポイントからNポイントまで減少した)とあることから明らかなように、全部でN個の信号サンプルの点をまとめて離散フーリエ変換する「Nポイントの離散フーリエ変換」であるということができる。

したがって、上記引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されている。

(引用発明)
「 全部でMN個の周波数サブバンドの中で、N個のサブバンドのために離散フーリエ変換を実行する方法において、
MN個の入力サンプルのシーケンス{y_(k)}を位相補正し、MN個の位相補正された入力サンプルのシーケンス{u_(k)}を得ることと、ここにおいて、前記MN個の入力サンプルの各々は前記入力サンプルを


で乗算することにより位相補正され、
前記MN個の位相補正された入力サンプルのシーケンス{u_(k)}を累算し、N個の時間領域値のシーケンス{v_(k)}を得ることと、
前記N個の時間領域値のシーケンス{v_(k)}に対してNポイントの離散フーリエ変換を実行し、N個のサブバンドのためのN個の周波数領域値{V_(n)}を得ることを備えた方法。」


[対比・判断]
補正後の発明と引用発明を対比すると、
まず、引用発明の「M」、「N」、「MN」は、補正後の発明の「L」、「Nc」、「N」に相当し、
引用発明の「全部でMN個の周波数サブバンド」、「N個のサブバンド」は、補正後の発明の「Nの合計サブバンド」、「Ncのサブバンド」にあたり、
M,Nはいずれも2以上の整数であるのは技術常識として明らかであるから、引用発明においては「MN>N>1」であり、これはすなわち、補正後の発明における「N>Nc>1」にあたる。
また、「位相補正」とは、複素数値としての信号サンプルの値の偏角、位相角成分を、複素平面上において位相回転すなわち「rotate」することであるから、「ローテート」ということができ、
引用発明の「MN個の入力サンプルのシーケンス{y_(k)}」、「MN個の位相補正された入力サンプルのシーケンス{u_(k)}」、「N個の時間領域値のシーケンス{v_(k)}」を、それぞれ「Nの入力サンプルの第1のシーケンス」、「Nのローテートされた入力サンプルの第2のシーケンス」、「Ncの時間領域値の第3のシーケンス」と呼ぶのは任意である。
また、引用発明の


において、関数「exp(・)」は指数関数「e(・)」の別表現であり、右の式を左の値に代入すれば、指数部の符号と添え字(インデックス)の表現を除き、補正後の発明の「W_(N)^(mn)」と同じ形式となるから、両者は「位相因子」として一致する。
そして、引用発明の「離散フーリエ変換」はフーリエ変換の一種であるが、「離散フーリエ変換」を高速に計算するためのアルゴリズムである「高速フーリエ変換(FFT)」であるか否かは不明である。
したがって、両者は以下の点で一致し、また相違している。

(一致点)
「 Nの合計サブバンドの中でNcのサブバンド(但し、N>Nc>1)のためにフーリエ変換を実行する方法において、
Nの入力サンプルの第1のシーケンスをローテートし、Nのローテートされた入力サンプルの第2のシーケンスを得ることと、
ここにおいて、前記Nの入力サンプルの各々は、
前記入力サンプルを
位相因子
で乗算することによりローテートされ、
前記Nのローテートされた入力サンプルの第2のシーケンスを累算し、Ncの時間領域値の第3のシーケンスを得ることであって、
前記Ncの時間領域値の第3のシーケンスに対してNcポイントのフーリエ変換を実行し、NcのサブバンドのためのNcの周波数領域値を得ることとを備えた方法。」

(相違点1)
位相因子(ローテートのために乗算される値「W_(N)^(mn)」)に関し、
補正後の発明では、指数部の符号が負であり、その指数部の項の表記が「mn」であり、
また、添え字(インデックス)の意味が「但し、nは、前記第1のシーケンス内の前記入力サンプルのためのインデックスであり、mは前記Ncのサブバンドを含むサブバンドグループのためのインデックスである、」であるのに対し、
引用発明では指数部の符号が正であり、指数部の項の表記が「mk」であり、添え字(インデックス)の意味は記載がない点。

(相違点2)
「累算」に関し、補正後の発明では「前記累算は、Lのローテートされた入力サンプルのNcのセットの各々に対して実行される(但しNc・L=Nである)」のに対し、引用発明では不明である点。

(相違点3)
「Ncポイントのフーリエ変換」が、補正後の発明では「Ncポイントの高速フーリエ変換(FFT)」であるのに対し、引用発明は「Nポイントの離散フーリエ変換」である点。


上記相違点1の位相因子(ローテートのために乗算される値「W_(N)^(mn)」)について検討する。
まず、指数部の符号について検討すると、フーリエ変換は順変換と逆変換が対となって定義されるものであって、その位相因子の符号についても順変換と逆変換で符号が反対であればよい(すなわち、引用例(式3)と(式4)でWの指数部の符号は反対であれば良い)ので、正負の符号は任意に定義可能なものであり、実質的な相違ではない。
また、その指数部の項の表記(「mn」と「mk」)については、指数部の項を構成する添え字(インデックス)の表記にアルファベットのどれを採用するかは任意なことであるから、これも格別のことではない。
また、添え字(インデックス)の意味について検討すると、
補正後の発明の「mは前記Ncのサブバンドを含むサブバンドグループのためのインデックス」であるが、引用発明の添え字「m」も、引用例の上記ニ.の(式4)の後に、「where m = 0 ,1 , 2 , ... ,M-1 is the user index.」(m=0、1、2、...、M-1はユーザー・インデックスである。)とあって、引用例のM人の各ユーザーはN個のサブバンドを含む「サブバンドグループ」を各々割り当てられていると言えるから、引用発明の添え字「m」も「Nのサブバンドを含むサブバンドグループのためのインデックス」であって、実質的な相違はない。
同様に、補正後の発明の「nは、前記第1のシーケンス内の前記入力サンプルのためのインデックス」であるが、引用発明の添え字「k」についてみれば、引用例の上記ニ.の(式3)には「k=0,1,2,…,MN-1」として添え字「k」の動く範囲が規定されており、これは(式4)の「MN個の入力サンプルのシーケンス{y_(k)}」(第1のシーケンス)の添え字kの動く範囲と同じであるから、引用発明の添え字「k」も「第1のシーケンス内の入力サンプルのためのインデックス」であると言うことができ、実質的な相違はない。
したがって、位相因子(ローテートのために乗算される値「W_(N)^(mn)」)についての相違点1は、全体としても格別のものではない。

次に、相違点2の「累算」に関し、補正後の発明では「前記累算は、Lのローテートされた入力サンプルのNcのセットの各々に対して実行される(但しNc・L=Nである)」点について検討する。
引用発明における「累算」は、引用例の上記ニ.(式6)にあるように、各M個の位相補正された入力サンプル{u_((mN+k))}を総和して1個の時間領域値v_(k)に変換することをN回繰り返すことによってなされており、各M個の位相補正された入力サンプルからなるN組の「セット」に対して累算が実行されると言えるから、「累算は、Mのローテートされた入力サンプルのNのセットの各々に対して実行される」ものである。
また、当然ながらN・M=MNであるから、結局、各変数の対応関係を考慮すれば、引用発明も実質的に補正後の発明と同様に「前記累算は、Lのローテートされた入力サンプルのNcのセットの各々に対して実行される(但しNc・L=Nである)」ものであって、相違点2も格別のことではない。

最後に、相違点3の「Ncポイントのフーリエ変換」が、「Ncポイントの高速フーリエ変換(FFT)」である点について検討する。
離散フーリエ変換(DFT)を高速に計算する算法(アルゴリズム)としての「高速フーリエ変換(FFT)」は、本願出願前に既に広く知られた方法であるが、これをOFDMのようなマルチキャリア信号の復調に用いることも、例えば原審拒絶理由通知においても参照された、
周知例1:特開平8-88617号公報
(【0001】?【0007】、図13(b)の「FFT21」参照)、
周知例2:特開平7-15393号公報
(【0016】、【0017】、【0021】、【0022】、図4の「FFT111」参照)
などにあるように周知の技術である。
したがって、引用発明の「Nポイントの離散フーリエ変換」を「Ncポイントの高速フーリエ変換(FFT)」とした相違点3も格別のことではない。

また、補正後の発明が奏する効果も前記引用発明及び周知技術から容易に予測出来る範囲内のものである。
そして、当審の審尋に対する回答書を参酌しても、上記認定を覆すに足りるものは見あたらない。

よって、補正後の発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


3.結語
以上のとおり、本件補正は、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、
平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合していない。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本願発明について
1.本願発明
平成22年5月26日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は上記「第2.補正却下の決定」の項中の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。

2.引用発明及び周知技術
引用発明及び周知技術は、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「(2)独立特許要件」の項中で認定したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は上記補正後の発明から本件補正に係る限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成に補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「(2)独立特許要件」の項で検討したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明できたものであるから、本願発明も同様の理由により、容易に発明できたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、上記引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-01-26 
結審通知日 2012-01-31 
審決日 2012-02-13 
出願番号 特願2006-553165(P2006-553165)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H04J)
P 1 8・ 121- Z (H04J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 洋  
特許庁審判長 石井 研一
特許庁審判官 菅原 道晴
小宮 慎司
発明の名称 OFDMをベースにした通信システムのためのサブバンドをベースにした復調  
代理人 福原 淑弘  
代理人 白根 俊郎  
代理人 村松 貞男  
代理人 河野 直樹  
代理人 佐藤 立志  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 市原 卓三  
代理人 堀内 美保子  
代理人 峰 隆司  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 竹内 将訓  
代理人 河野 哲  
代理人 中村 誠  
代理人 山下 元  
代理人 砂川 克  
代理人 野河 信久  
代理人 岡田 貴志  
代理人 勝村 紘  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ