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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B05C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B05C
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 B05C
管理番号 1259338
審判番号 不服2011-1585  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-01-24 
確定日 2012-06-27 
事件の表示 平成11年特許願第297394号「薄膜の形成方法、及び形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 4月24日出願公開、特開2001-113214〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成11年10月19日の出願であって、平成21年5月15日付けの拒絶理由通知に対して平成21年7月15日付けで意見書とともに手続補正書が提出され、平成22年1月29日付けの最後の拒絶理由通知に対して平成22年4月1日付けで意見書とともに手続補正書が提出されたが、平成22年10月20日付けで上記平成22年4月1日付け手続補正書による補正が却下されるとともに同日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年1月24日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に、同日付けの手続補正書によって明細書を補正する手続補正がなされたものである。

第2 平成23年1月24日付けの手続補正についての補正却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成23年1月24日付けの手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正について
(1)本件補正の内容
平成23年1月24日付けの手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、明細書の特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成21年7月15日付けの手続補正書により補正された)明細書の特許請求の範囲の下記(a)を、下記(b)と補正するものである。

(a)本件補正前の明細書の特許請求の範囲
「【請求項1】
溶液の塗布対象である基板を所定の温度に加熱する加熱工程と、
所定の温度に加熱された前記基板と、前記溶液を供給するダイの先端に供給された溶液とを接触させる接触工程と、
前記基板を水平方向に所定の速度で移動させて、該基板上の所定の塗布領域に前記溶液を塗布する塗布工程と、
前記塗布工程により前記溶液を前記基板上に塗布している間に、前記基板の表面と前記ダイの先端との距離を測定し、測定された前記距離の値に基づいて前記基板又は前記ダイの何れか一方を垂直方向に移動させて、前記基板と前記ダイとの間隔を調整して、前記塗布領域において前記間隔を所定の値に保つ位置調整工程と、
を備えることを特徴とする薄膜の形成方法。
【請求項2】
前記位置調整工程は、前記塗布領域が前記基板上に離間して複数配置されているときに、離間した前記各塗布領域の間の領域において前記間隔を大きくして、前記基板と前記ダイの先端に供給された前記溶液とを引き離して、前記溶液を、前記各塗布領域に応じて、前記基板上に断続して塗布する工程を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の薄膜の形成方法。
【請求項3】
前記塗布工程は、前記溶液として有機エレクトロルミネッセンス材を含む溶液を使用する工程を備える、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の薄膜の形成方法。
【請求項4】
溶液の塗布対象である基板を所定の温度に加熱する加熱手段と、
所定の温度に加熱された前記基板上に前記溶液を供給するダイと、
前記基板を水平方向に所定の速度で移動させて、前記ダイによって供給された前記溶液を該基板上の所定の塗布領域に塗布する塗布手段と、
前記基板の表面と前記ダイの先端との距離を測定する距離測定手段を有し、前記塗布手段による前記溶液の塗布を行っている間に、前記距離測定手段により測定された前記距離の値に基づいて前記基板又は前記ダイの何れか一方を垂直方向に移動させて、前記基板と前記ダイとの間隔を調整して、前記塗布領域において前記間隔を所定の値に保つ位置調整手段と、
を備えることを特徴とする薄膜の形成装置。
【請求項5】
前記塗布領域が前記基板上に離間して複数配置されているときに、前記位置調整手段は、離間した前記各塗布領域の間の領域において前記間隔を大きくして、前記基板と前記ダイの先端に供給された前記溶液とを引き離して、前記溶液を、前記各塗布領域に応じて、前記基板上に断続して塗布する、
ことを特徴とする請求項4に記載の薄膜の形成装置。
【請求項6】
前記ダイは、前記溶液を吐出するための複数の開口を有する、ことを特徴とする請求項4又は5に記載の薄膜の形成装置。
【請求項7】
前記ダイは、毛細管現象を利用して前記溶液を前記基板上に供給する、ことを特徴とする請求項4乃至6の何れか1項に記載の薄膜の形成装置。
【請求項8】
前記塗布手段は、前記溶液として有機エレクトロルミネッセンス材を含む溶液を使用する、ことを特徴とする請求項4乃至7の何れか1項に記載の薄膜の形成装置。」

(b)本件補正後の明細書の特許請求の範囲
「【請求項1】
一面に溶液の塗布対象である塗布領域が設けられた基板を所定の温度に加熱する加熱工程と、
ダイの先端に設けられた、前記基板の前記一面との間の距離が前記基板の一の方向側で大きくなる段差を有して形成された少なくとも一つの開口を有するノズル部に前記溶液を供給し、前記ノズル部の前記開口から吐出される前記溶液と前記所定の温度に加熱された前記基板の前記塗布領域とを接触させる接触工程と、
前記基板を前記一の方向に所定の速度で移動させて、該基板の前記一面上の前記塗布領域に前記ノズル部の前記開口から吐出された前記溶液を塗布する塗布工程と、
前記ダイに設けられたセンサによって前記基板の前記一面と前記ダイの先端との距離が測定され、測定された前記距離の値に基づいて前記基板又は前記ダイの何れか一方を垂直方向に移動させて、前記基板の前記一面と前記ダイの前記先端との間隔を調整して、前記塗布工程において前記塗布領域に前記溶液を塗布する間に前記間隔の最短距離を所定の値に保つ位置調整工程と、
を備えることを特徴とする薄膜の形成方法。
【請求項2】
前記位置調整工程は、前記塗布領域が前記基板上に離間して複数配置されているときに、離間した前記各塗布領域の間の領域において前記間隔を大きくして、前記基板と前記ダイの先端に供給された前記溶液とを引き離して、前記溶液を、前記各塗布領域に応じて、前記基板上に断続して塗布する工程を備えることを特徴とする請求項1に記載の薄膜の形成方法。
【請求項3】
前記塗布工程は、前記溶液として有機エレクトロルミネッセンス材を含む溶液を使用する工程を備える、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の薄膜の形成方法。
【請求項4】
一面に溶液の塗布対象である塗布領域が設けられた基板が設置され、該基板を所定の温度に加熱する加熱手段と、
前記基板の前記一面との距離が該基板の一の方向側で大きくなる段差を有して形成された少なくとも一つの開口を有するノズル部を先端に有し、前記ノズル部に前記溶液が供給され、該ノズル部の前記開口から前記溶液を吐出するダイと、
前記ノズル部から吐出される前記溶液と前記所定の温度に加熱された前記基板の前記塗布領域とを接触させた後、前記基板を前記一の方向に所定の速度で移動させて、前記ノズル部の前記開口から吐出された前記溶液を該基板の前記一面上の前記塗布領域に塗布する塗布手段と、
前記ダイに設けられて、前記基板の前記一面と前記ダイの前記先端との距離を測定するセンサを有し、測定された前記距離の値に基づいて、前記基板又は前記ダイの何れか一方を垂直方向に移動させて、前記基板の前記一面と前記ダイの前記先端との間隔を調整して、前記塗布手段により前記塗布領域に前記溶液を塗布する際に、前記基板上の塗布領域において前記間隔の最短距離を所定の値に保つ位置調整手段と、
を備えることを特徴とする薄膜の形成装置。
【請求項5】
前記塗布領域が前記基板上に離間して複数配置されているときに、前記位置調整手段は、離間した前記各塗布領域の間の領域において前記間隔を大きくして、前記基板と前記ダイの先端に供給された前記溶液とを引き離して、前記溶液を、前記各塗布領域に応じて、前記基板上に断続して塗布する、ことを特徴とする請求項4に記載の薄膜の形成装置。
【請求項6】
前記ダイは、前記ノズル部に、前記溶液を吐出するための前記開口を複数有する、ことを特徴とする請求項4又は5に記載の薄膜の形成装置。
【請求項7】
前記ダイは、毛細管現象を利用して前記ノズル部の前記開口より前記溶液を前記基板上に供給する、ことを特徴とする請求項4乃至6の何れか1項に記載の薄膜の形成装置。
【請求項8】
前記塗布手段は、前記溶液として有機エレクトロルミネッセンス材を含む溶液を使用する、ことを特徴とする請求項4乃至7の何れか1項に記載の薄膜の形成装置。」(なお、下線は審判請求人が補正箇所を明示するために付したものである。)

(2)本件補正の目的について
明細書の特許請求の範囲の請求項4についての本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項4における(a)「溶液の塗布対象である基板」を「一面に溶液の塗布対象である塗布領域が設けられた基板」と限定し、(b)「所定の温度に加熱された前記基板上に前記溶液を供給するダイ」を「前記基板の前記一面との距離が該基板の一の方向側で大きくなる段差を有して形成された少なくとも一つの開口を有するノズル部を先端に有し、前記ノズル部に前記溶液が供給され、該ノズル部の前記開口から前記溶液を吐出するダイ」と限定し、(c)「前記基板の表面と前記ダイの先端との距離を測定する距離測定手段」を「前記ダイに設けられて、前記基板の前記一面と前記ダイの前記先端との距離を測定するセンサ」と限定し、(d)「前記塗布手段による前記溶液の塗布を行っている間に、前記距離測定手段により測定された前記距離の値に基づいて前記基板又は前記ダイの何れか一方を垂直方向に移動させて、前記基板と前記ダイとの間隔を調整して、前記塗布領域において前記間隔を所定の値に保つ位置調整手段」を「測定された前記距離の値に基づいて、前記基板又は前記ダイの何れか一方を垂直方向に移動させて、前記基板の前記一面と前記ダイの前記先端との間隔を調整して、前記塗布手段により前記塗布領域に前記溶液を塗布する際に、前記基板上の塗布領域において前記間隔の最短距離を所定の値に保つ位置調整手段」と限定すると共に、(e)「前記基板を水平方向に所定の速度で移動させて、前記ダイによって供給された前記溶液を該基板上の所定の塗布領域に塗布する塗布手段」を「前記ノズル部から吐出される前記溶液と前記所定の温度に加熱された前記基板の前記塗布領域とを接触させた後、前記基板を前記一の方向に所定の速度で移動させて、前記ノズル部の前記開口から吐出された前記溶液を該基板の前記一面上の前記塗布領域に塗布する塗布手段」とするものである。
このうち、上記(a)ないし(d)は、請求項4に係る発明を特定する事項を限定する補正であるが、上記(e)は、前記基板を「水平方向に」移動させるという限定を削除する内容を含む補正であるから、本件補正は、全体として、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。
また、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号の請求項の削除、同第3号の誤記の訂正、同第4号の明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しない。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

2 独立特許要件についての検討
本件補正は、上記のように、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項各号のいずれを目的とするものにも該当しないが、仮に、本件補正が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとした場合に、本件補正後の請求項4に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。

2-1 引用文献に記載された発明
原査定の拒絶理由に引用された本件出願前に頒布された刊行物である特開平8-224528号公報(以下、「引用文献」という。)には、例えば、以下の記載がある。(なお、下線は、理解の一助のために当審で付したものである。)

(a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 毛管状隙間(13;113)を備えた部材(12;112)によるサブストレートのコーティング又は被覆のための装置であって、ラッカ又は被覆液(以下流体11;111と呼ぶ)により充填された容器(10;110)が設けられており、かつ、毛管状隙間(13;113)が容器内の流体(11;111)に接続されて流体が毛管状隙間(13;113)に供給されるように前記部材(12;112)が前記容器内に配置されており、かつ、毛管状隙間(13;113)の出口(40;140)を容器(10;110)に対して相対的に高さ方向(16,28)で運動させるための手段が設けられていることを特徴とするサブストレートのコーティング又は被覆のための装置。
【請求項2】 毛管状隙間(13;113)の出口(40;140)が、高さ方向で行われる運動により完全に流体(11;111)内に浸漬可能である請求項1記載の装置。
【請求項3】 高さ方向で行われる運動により、毛管状隙間(13;113)の出口(40;140)がサブストレート(29;129)の下側(50)に接近可能であり、又はサブストレートの下側が出口に接近可能である請求項1又は2記載の装置。
【請求項4】 部材(12;112)の運動がその鉛直方向の運動(16)として構成されている請求項1から3までのいずれか1項記載の装置。
【請求項5】 容器(10;110)がトラフ又は槽の形態で形成されている請求項1から4までのいずれか1項記載の装置。
【請求項6】 装置(100)の非使用時に容器(10;110)を外部に対して閉鎖するために容器(10;110)のための閉鎖装置(19;119)が設けられている請求項1から5までのいずれか1項記載の装置。
【請求項7】 閉鎖装置が、容器(10;110)のための側方向に移動可能な上方の閉鎖部材(19;119)を備えている請求項6記載の装置。
【請求項8】 容器(10;110)内の流体(11;111)のレベル(24;124)をコンスタントに保つために、容器(10;110)にオーバフロー管(32;132)が対応して配置されている請求項1から7までのいずれか1項記載の装置。
【請求項9】 被覆により消費された流体(11;111)を貯蔵容器(33;133)から容器(10;110)の中空室(10a;110a)に供給するためにポンプ(34;134)が設けられている請求項1から8までのいずれか1項記載の装置。
【請求項10】 容器(10;110)内に存在する流体(11;111)を循環中に濾過するためにフィルタ装置(35;135)とポンプ(34;134)とが設けられている請求項1から9までのいずれか1項記載の装置。
【請求項11】 被覆過程又はコーティング過程中に濾過が中断される請求項10記載の装置。
【請求項12】 容器内の流体のレベル(24;124)を、特にコーティング過程又は被覆過程の終了時点で迅速に低下させる手段(25,125)が設けられている請求項1から11までのいずれか1項記載の装置。
【請求項13】 容器(10;110)内に存在する流体(11;111)内に、容積可変の部材(25;125)が配置されている請求項12記載の装置。
【請求項14】 容積可変の部材がベロー(25;125)として形成されている請求項13記載の装置。
【請求項15】 ベロー(25;125)の容積が直線駆動装置(60;160)により可変である請求項14記載の装置。
【請求項16】 部材(12;112)の毛管状隙間(13;113)の出口(40;140)の領域が2つのナイフ状部分(43,44;143,144)により形成されており、これら両方のナイフ状部分の間に毛管状隙間(13;113)が延びている請求項1から15までのいずれか1項記載の装置。
【請求項17】 容器(10;110)の上側に設けられた開口(119′)の寸法が、ナイフ状部分(143;144)をわずかな間隔で囲むようにナイフ状部分の寸法に適合している請求項16記載の装置。
【請求項18】 ナイフ状部分(43,44;143,144)がそれぞれ出口(40;140)の領域内に水平な面(177もしくは178)を備えており、その幅(d_(2)もしくはd_(3))がそれぞれ0.1から0.5mmの範囲内、有利にはほぼ0.2mmである請求項16又は17記載の装置。
【請求項19】 毛管状隙間(113)を有する部材(112)によりサブストレート(129)をコーティング又は被覆するための装置において、流体(111)により充填された容器(110)が設けられており、毛管状隙間(113)が容器内の流体(111)に接続されてこの流体が毛管状隙間(113)に供給されるように容器(110)内に部材(112)が配置されており、かつ、この部材(112)にナイフ状部分(143,144)が設けられており、これらのナイフ状部分がそれらの間に、出口(140)の領域内で毛管状隙間(113)を形成していることを特徴とするサブストレートをコーティング又は被覆するための装置。
【請求項20】 ナイフ状部分(143,144)がそれぞれ出口(140)の領域内に水平な面(177もしくは178)を備えており、その幅(d_(2)もしくはd_(3))がそれぞれ0.1から0.5mmの範囲内、有利にはほぼ0.2mmである請求項19記載の装置。
【請求項21】 流体によりサブストレートをコーティング又は被覆するための方法において、
流体を保有する容器から流体を毛管状隙間を介してサブストレートに供給し、コーティング又は被覆の終了時に、コーティング又は被覆の過程を中断するために、容器内の流体のレベルを迅速に降下せしめることを特徴とするサブストレートをコーティング又は被覆するための方法。
【請求項22】 毛管状隙間を介して供給される流体によりサブストレートをコーティング又は被覆するための方法において、
a) 被覆過程又はコーティング過程の開始時に毛管状隙間の出口をサブストレートの下側へ接近せしめ、これにより、出口のところで流体をサブストレートの下側に接触せしめ、
b) 次いで、この出口とサブストレートの下側との間隔をコーティング又は被覆のために充分な値まで増大せしめることを特徴とするサブストレートをコーティング又は被覆するための方法。
【請求項23】 サブストレートを毛管状隙間の出口の上方へ案内するか又は出口をサブストレートの下方に案内する請求項22記載の方法。」(【特許請求の範囲】)

(b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は毛管状隙間によりサブストレートをコーティング又は被覆するための方法と装置に関する。(以下略)」(段落【0001】)

(c)「【0002】
【従来の技術】薄膜技術分野において、特にLCD図式位置指示器、半導体製造のためのマスク、半導体サブストレート又はセラミックサブストレートの製作時に、ラッカ又はその他のはじめは液状の媒体から成る均一な層、例えば色フィルタ、フォトラッカ又は特別な保護層を方形又は円形のディスクに備えるという課題がしばしば生じる。その場合、公知技術ではコーティングのためのディスクが水平に回転テーブル上に固定される。ディスクの中心点上に、上方からノズルを介して所定量のラッカが滴下される。次いで、回転テーブルが運動させられる。遠心力の作用により、回転運動中にラッカがサブストレート上に分配される(スピンコーティング)。その際、ラッカの大部分がサブストレートの縁を介して撥ね飛ばされる。得られるべきラッカの厚さの均一性は回転の遠心力、回転速度並びにラッカの粘度に依存する。
【0003】方形又は円形のディスク状のサブストレート上でのラッカの厚さの均一性を得る困難はこの公知方法では特にサブストレートの縁の領域内において著しい。この公知方法によれば、ラッカの厚さが高くなっている縞、要するにラッカ隆起部が形成される。これにより、コーティングの均一性は著しく悪化する。
【0004】サブストレートの縁を介して跳ね飛ばされたラッカを捕集するために、かつコーティングステーションを保護するために、この種のコーティング用の回転テーブルは一般的には一種のポット内に組込まれる。これについては例えばドイツ連邦共和国実用新案登録第9103494号明細書を参照されたい。コーティング中に跳ね返りがサブストレートの表面に達することがある。このことはサブストレートのその後の加工に不都合である。その上、この公知方法では、使用されるラッカの90%より多い量がサブストレートの縁を介して跳ね飛ばされてしまう。このラッカ量の再使用のための費用は著しく高い。コーティング若しくは被覆できるディスクの大きさには上限がある。さらに、この種の装置の回転する部分に摩滅が生じて、その粒子が剥離してディスクの表面に堆積し、次のプロセスの障害となる。さらに、遠心処理の際にラッカがサブストレートの縁に達し、このことが次のプロセスで問題を生じる。その上、この種の回転テーブルの構造全体及び駆動装置は複雑かつ高価である。
【0005】コーティング液もしくは被覆液(以下には流体と呼ぶ)を毛管状に狭くされた隙間を介して下方からサブストレートの下向きの表面にもたらす形式のディスクのコーティング及び被覆のための装置(PCT/ドイツ連邦共和国93/00777号明細書)により、コーティング過程及び被覆過程の改善が得られている。サブストレートは均一な速度で隙間上を通過させられる。隙間は毛管として作用してラッカを自動的にかつ特別均一な速度で補充するように形成されている。毛管作用は、隙間が例えば0.5mmより小さい幅を有することにより得られる。この毛管作用により、流体は毛管状隙間内で自動的に一定速度で重力に逆らって上昇してその出口から流出する。隙間の上方でラッカの流れは狭い線状にサブストレートの被覆面上に衝突し、その間にサブストレートが出口に対して相対的に運動させられる際に、この被覆面上に均一な層として堆積する。
【0006】これによりコーティング過程若しくは被覆過程は毛管効果と付着効果とを組合わせて利用することにより行われる。この装置によれば、特に方形のサブストレート上のラッカ層の厚さの均一性が改善され、かつラッカ消費量が軽減される。しかし、この場合の欠点とするところは、装置の運転に関して長期的には流体が個々のコーティング過程もしくは被覆過程の間に毛管状隙間の出口の領域で乾燥して出口に付着もしくは出口を塞いでしまうことにある。このことは後続のコーティング過程もしくは被覆過程に著しく不利に作用する。さらに不都合にも、コーティングすべきもしくは被覆すべきサブストレートの端縁のところの付着作用により、ラッカ又は被覆材料の不所望な隆起部が生じる。」(段落【0002】ないし【0006】)

(d)「【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題とするところは、サブストレートのコーティング及び被覆のための新しい装置及び新しい方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】この課題を解決した本発明装置の構成によれば、毛管状隙間を備えた部材によるサブストレートのコーティング又は被覆のための装置であって、ラッカ又は被覆液(以下流体と呼ぶ)により充填された容器が設けられており、かつ、毛管状隙間が容器内の流体に接続されて流体が毛管状隙間に供給されるように前記部材が前記容器内に配置されており、かつ、毛管状隙間の出口を容器に対して相対的に高さ方向に運動させるための手段が設けられている。出口の運動性により、コーティング開始時に出口をサブストレートの特別近くまで接近させることができ、コーティング終了時に再びサブストレートから遠ざけることができる。」(段落【0007】及び【0008】)

(e)「【0018】図1は容器10の断面を示し、容器の中空室10aは以下に「流体11もしくは111」と呼ぶラッカ又は被覆媒体によりほぼ満杯に充填されている。長尺のトラフ又は長尺の槽の形状を有するこの容器10内には長尺の部材12が配置されており、この部材はコーティング過程に必要な毛管状隙間13を備えている。この毛管状隙間13は一般に0.1ないし0.8mmの範囲内の幅を有し、かつ部材内で鉛直に延びているスリットにより形成されており、このスリットは、毛管状隙間13へ流体11が妨げなく供給されるように、下向きに拡張した拡張部13aを有している。
【0019】この部材12の上端では毛管状隙間13が出口40を有しており、この出口はノズルということもでき、図7にその詳細が示されている。被覆しようとするサブストレート29(図2及び図3)の幅に応じて、この出口40は例えば50ないし75cmの範囲内の長さを有しているが、しかし、それより長い又はそれより短い寸法を有していてもよい。
【0020】部材12はほぼ断面方形の基本形を有しており、この基本形は上方では2つの斜めに下がった屋根状の面41,42により制限されており、その中央には2つのナイフ状突出部43,44が上向きに突出しており、各突出部はノズル即ち出口40の領域内ではほぼ0.1ないし0.5mmの幅しか有していない。要するに、これらの突出部43,44は上向きにテーパしていて、その上部では極めて薄く形成されている。
【0021】部材12はその下側ではロッド15に結合されている。このロッド15はたんに略示した装置44Aを介して矢印16で示す方向で鉛直方向に移動させられる。これにより部材12は鉛直方向に運動させられる。容器10の中空室10aはロッド15の貫通しているその底部のところで図示したようにベロー17によりシールされている。このベロー17はロッド15の右と左に分割されて示されている。装置44Aとしては例えば液圧的又は空気力的な作動シリンダが適している。
【0022】容器10の中空室10a(図1及び図2)は右上では定置の板18により、左上では移動可能なアングルプロフィール材19により閉鎖されている。板18は容器10の右側の側壁に直に固定されている。アングルプロフィール材19はたんに略示された直線運動装置46により矢印20で示す方向で側方向に移動可能である(図1)。この移動の案内は例えば図示のように、容器10の左側の側壁に固定されているガイドピン21により行われる。
【0023】中空室10aの閉鎖は2つのエラストマプロフィール22,23によりシールされる。エラストマプロフィール22は板18の端面に設けた適当な溝内に挿入されていて、アングルプロフィール材19の端面により、図1に示すように圧着される。シールプロフィール、要するにエラストマプロフィール23は容器10の左側の側壁に設けた適当な溝内に挿入されていてアングルプロフィール材19の鉛直方向に延びているフランジ19′により圧着される。圧着力はアングルプロフィール材19を推動する装置46によりもたらされる。選択的に、板18及びアングルプロフィール材19は耐溶剤性の適当なプラスチックにより厚さ0.5mmに被覆されていてもよい。その場合、閉鎖状態でこのプラスチックがシール機能を果す。
【0024】部材12はその毛管状隙間13を含めて図1では完全に流体11のレベル24の下方に浸漬されて示されている。この状態は、コーティングが行われていない状態に対応しており、換言すれば部材12の出口40が流体11のレベル24より低く位置している。
【0025】図2には図1に示す容器全体がコーティング過程中で断面して示されている。板18及びアングルプロフィール材19から成る、中空室10aの閉鎖部材は、アングルプロフィール材19が図1の図示に対比して矢印20の示す方向で左方へ移動させられることにより開放される。毛管状隙間13を備えた部材12は矢印28で示す方向でのロッド15の鉛直方向運動により上方へ運動させられている。これにより、ナイフ状突出部43,44が容器10内の流体11のレベル24の上方へ突出し、板18とアングルプロフィール材19との間の狭い開口48を貫通している。この状態は、コーティング過程中の状態に対応する。ナイフ状突出部43,44の形状が薄いことにより、この開口48は極めて狭くてよく、このことにより、開口48を介して流体11内に汚れの侵入する危険が軽減される。さらに、このことにより、流体11の蒸発が減少する。」(段落【0018】ないし【0025】)

(f)「【0026】図2にはさらに、コーティング過程中のコーティングすべきサブストレート29(ディスク状)が示されている。このサブストレート29は矢印30で示す方向に均一速度で毛管状隙間13の出口40の上方へ極めてわずかな間隔(例えば0.2ないし0.5mm)をおいて接近させられる。その際、毛管作用と付着作用とにより極めて一様なラッカ層31がサブストレート29の下側50へ塗布される。この状態でラッカ層31の厚さは典型的に5ないし50μmである。
【0027】図3には容器10及び部材12の一部がコーティング過程中で縦断面して示されている。部材12は図2の図示と同様に、矢印28で示す方向で上方へ移動させられている。コーティングしようとするサブストレート29の下側50には均一なラッカ層31が塗布されている。このラッカ層31の厚さは著しく誇張されて示されている。
【0028】図3の部分縦断面は容器10及び部材12の左部分52と、部材12の鉛直方向の駆動に役立つロッド15とを示している。これに対して鏡面対称的に容器10の右部分にはロッド15に対応する第2のロッドが設けられているが、このロッドは図3には示されていない。対称平面が記号54で示されている。部材12の全長はすでに説明したように、例えば50ないし75cmであり、その場合、図3に示されているような外側の縁領域はコーティングのためには使用されない。ロッド15の平行な上下運動により、毛管状隙間13の出口(ノズル)40がいつでも所要の正確な水平位置に止まることができる。」(段落【0026】ないし【0028】)

(g)「【0034】コーティングすべきサブストレート29がコーティング過程の開始のために位置決めされると直ちに、アングルプロフィール材19を装置46により左方へ移動させることにより、容器10のカバーが開放される。次いで、部材12のナイフ状突出部43,44が上向きに、コーティングされるべきサブストレート29の前縁の下方へ例えば0.05mmの極めてわずかな間隔をおいた位置まで接近させられる。この場合、ポンプ34は遮断されているため、レベル24はわずかに、例えば0.1ないし0.5mmだけ低下するが、これは障害とならない。この低下がわずかである原因は、流体11から突出するナイフ状突出部43,44がわずかな容積しか有していないためであり、このことはこの場合極めて有利である。部材12の運動により、毛管状隙間13の出口40を介して浸漬浴即ち容器内の流体により留められたわずかな流体量と、コーティングすべきサブストレート29の前側の下縁との間の接触が生じる。この接触が生じた後、部材12の出口40とコーティングすべきもしくは被覆すべきサブストレート29との間隔が再び例えばほぼ0.2ないし0.5mmまで増大させられる。これにより、毛管効果が発動し、この毛管効果により流体11が重力に逆らって均一な速度で毛管状隙間13を通って上方へ搬送される。その際、サブストレート29が均一な速度で矢印30で示す方向で水平方向に運動させられる。その際、毛管状隙間13を通ってサブストレート29の下側に薄い流体層31が塗付される。」(段落【0034】)

(h)「【0039】図4から図10までは本発明装置100の有利な1実施例を示す。図1から図3までと同じ部分は同じ数字に100を加えた符号で、例えば13の代わりに113で示されている。
【0040】図4は装置100の断面を示す斜視図である。この装置100は長尺の槽状の容器110を有しており、その底部は符号110′で示されている。その中空室110aは図8に示されているように、オーバフロー管132の高さの所まで流体111により充填されている。レベルが図8では符号124で示されている。容器110内には長尺の部材112が配置されており、この部材112は図5から判るように、1つの毛管状隙間113によって互いに分離された2つの対称的な半部112a,112bから構成されている。この毛管状隙間113は図7によれば、使用される流体111に応じて、ほぼ0.1ないし0.8mmのギャップ幅d1を有している。毛管状隙間113はその下方の領域で拡張されて横断面漏斗状の拡張部113aを形成しており、この拡張部が図4.図5及び図6に示されている。この拡張部は毛管状隙間113への流体111の供給を容易にする。
【0041】図4、図5、図6及び図8から特に判るように、対称的な半部112a,112bはその中央領域内で鉛直方向で幅広く形成されており、これにより、たわみが回避されている。半部はその両方の端部で若干上げ底にされており、かつその箇所で適当に、例えば(図示されていない)ねじにより取付け板170若しくは171に固定されており、これらの取付け板は円筒状のロッド115もしくは115′に固定されている。これらのロッドは容器110の底部110′を貫通していて、その下端で結合ビーム172により互いに結合されている。これらのロッドは装置144Aにより鉛直方向に移動可能であり、これにより、すでに図1及び図2で説明したように、部材112が昇降させられる。装置144Aは任意の直線駆動装置、例えば空気力シリンダ又は電動式の直線駆動装置から成ることができる。」(段落【0039】ないし【0041】)

(i)「【0049】アングル板119の閉じた状態で(図示せず)容器110の上側を気密に閉鎖すると、ポンプ134が作動させられる。ポンプ134は流体111を貯蔵容器133から精密フィルタ135を介して容器110の中空室110a内へ吐出して中空室をオーバフロー管132の高さのところまで充填する(図8)。(コーティング過程では流体の消費量が少ないためレベル124はわずかにしか低下しない。)
次に図4から図10までに示した実施例の作業形式を説明する。
【0050】コーティングすべきサブストレート129がコーティング過程の開始のために位置決めされると直ちに、アングルプロフィール材119を両方の装置146,146′により開放方向に移動させることにより、容器110のカバーが開放される。次いで、部材112のナイフ状突出部143,144が駆動装置144Aにより上向きに、コーティングされるべきサブストレート129の前縁の下方へ例えば0.05mmの極めてわずかな間隔をおいた位置までもたらされる。これにより、毛管状隙間113の出口140を介して容器110内の流体111により留められているわずかな流体量と、コーティングすべきサブストレート129の前側の下縁との間に接触が生じる。この接触が生じた後、部材112の出口140とコーティングすべきもしくは被覆すべきサブストレート129との間隔が再び例えばほぼ0.2ないし0.5mmまで増大させられる。これにより、毛管効果が発動し、この毛管効果により流体111が重力に逆らって均一な速度で毛管状隙間113を通って上方へ搬送される。その際、サブストレート129が図2で説明したように均一な速度で水平方向に運動させられる。その際、毛管状隙間113を通ってサブストレート129の下側に薄い流体層が塗付される。この層はウエットな状態で通常5ないし50μm である。
【0051】コーティングすべきサブストレート129の(図示されていない)端縁が到達すると、ペロー125がすでに記載したように迅速に、例えば1秒以内で縮小される。これにより、中空室110a内のレベル124が迅速に低下する(その際、ポンプ134が停止される)。このようにして毛管状隙間113内には負圧が生じ、この負圧が毛管状隙間113内に保有されていた流体を下方へ吸込む。これにより、サブストレート129の下側での流体塗付が突然終了し、サブストレート129の図示されていない端縁のところの不所望な隆起部形成が確実に阻止される。ナイフ状突出部143,144の形状が出口140の領域内で極めて狭いことにより、サブストレート129の端縁のところにラッカ隆起部などが形成されない。」(段落【0049】ないし【0051】)

上記(a)ないし(i)及び図面の記載を参酌すると、以下のことが分かる。

(ア)上記(a)ないし(i)及び図面の記載から、引用文献には、サブストレート29;129の下側に薄い流体層を塗付する塗付装置が記載されていることが分かる。

(イ)上記(a)ないし(i)及び図面の記載から、引用文献に記載された塗付装置は、少なくとも一つの開口を有するノズル40を先端に有し、前記ノズル40に流体11;111が供給され、該ノズル40の開口から前記流体11;111を吐出する部材12;112と、前記ノズル40から吐出される前記流体11;111とサブストレート29;129の塗付領域とを接触させた後、前記サブストレート29;129を一の方向に所定の速度で移動させて、前記ノズル40の前記開口から吐出された前記流体11;111を該サブストレート29;129の一面上の前記塗付領域に塗付する塗付手段と、を備えるものであることが分かる。

(ウ)上記(a)ないし(i)及び図面の記載から、引用文献に記載された塗付装置は、前記サブストレート29;129又は前記部材12;112の何れか一方を垂直方向に移動させて、前記サブストレート29;129の前記一面と前記部材12;112の前記先端との間隔を調整する位置調整手段であるロッド115もしくは115′を備えるものであることが分かる。

上記(a)ないし(i)、(ア)ないし(ウ)及び図面の記載を参酌すると、引用文献には以下の発明が記載されているといえる。

「少なくとも一つの開口を有するノズル40を先端に有し、前記ノズル40に流体11;111が供給され、該ノズル40の開口から前記流体11;111を吐出する部材12;112と、
前記ノズル40から吐出される前記流体11;111とサブストレート29;129の塗付領域とを接触させた後、前記サブストレート29;129を一の方向に所定の速度で移動させて、前記ノズル40の前記開口から吐出された前記流体11;111を該サブストレート29;129の一面上の前記塗付領域に塗付する塗付手段と、
前記サブストレート29;129又は前記部材12;112の何れか一方を垂直方向に移動させて、前記サブストレート29;129の前記一面と前記部材12;112の前記先端との間隔を調整する位置調整手段と、
を備える塗付装置。」(以下、「引用文献に記載された発明」という。)

2-2 対比
本願補正発明と引用文献に記載された発明とを対比すると、引用文献に記載された発明における「ノズル40」は、その機能及び作用又は技術的意義からみて、本願補正発明における「ノズル部」に相当し、以下同様に、「流体11;111」は「溶液」に、「部材12;112」は「ダイ」に、「サブストレート29;129」は「基板」に、「塗付」は「塗布」に、それぞれ相当する。
また、引用文献に記載された発明における「塗付装置」は、基板に溶液を塗布することにより、基板の表面に薄膜を形成する装置であるから、本願補正発明における「薄膜の形成装置」に相当する。
そうすると、本願補正発明と引用文献に記載された発明とは、
「少なくとも一つの開口を有するノズル部を先端に有し、前記ノズル部に溶液が供給され、該ノズル部の開口から前記溶液を吐出するダイと、
前記ノズル部から吐出される前記溶液と基板の塗布領域とを接触させた後、前記基板を一の方向に所定の速度で移動させて、前記ノズル部の前記開口から吐出された前記溶液を該基板の一面上の前記塗布領域に塗付する塗布手段と、
前記基板又は前記ダイの何れか一方を垂直方向に移動させて、前記基板の前記一面と前記ダイの前記先端との間隔を調整する位置調整手段と、
を備える薄膜の形成装置。」の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
(1)本願補正発明においては、「一面に溶液の塗布対象である塗布領域が設けられた基板が設置され、該基板を所定の温度に加熱する加熱手段」を備えるのに対し、引用文献に記載された発明においては、そのような加熱手段を備えているかどうか明らかでない点(以下、「相違点1」という。)。
(2)本願補正発明においては、ダイに「前記基板の前記一面との距離が該基板の一の方向側で大きくなる段差を有して形成された少なくとも一つの開口を有するノズル部を先端に有し」ているのに対し、引用文献に記載された発明においては、ダイの先端にそのような段差を有しているかどうか明らかでない点(以下、「相違点2」という。)。
(3)「位置調整手段」について、本願補正発明においては、「ダイに設けられて、基板の一面と前記ダイの先端との距離を測定するセンサを有し、測定された前記距離の値に基づいて、前記基板又は前記ダイの何れか一方を垂直方向に移動させて、前記基板の前記一面と前記ダイの前記先端との間隔を調整して、前記塗布手段により前記塗布領域に前記溶液を塗布する際に、前記基板上の塗布領域において前記間隔の最短距離を所定の値に保つ位置調整手段」を備えているのに対し、引用文献に記載された発明においては、本願補正発明における「前記基板又は前記ダイの何れか一方を垂直方向に移動させて、前記基板の前記一面と前記ダイの前記先端との間隔を調整する位置調整手段」に相当する「前記サブストレート29;129又は前記部材12;112の何れか一方を垂直方向に移動させて、前記サブストレート29;129の前記一面と前記部材12;112の前記先端との間隔を調整する位置調整手段」を備えているものの、該位置調整手段が、「ダイに設けられて、基板の一面と前記ダイの先端との距離を測定するセンサを有し、測定された前記距離の値に基づいて」、「前記塗布手段により前記塗布領域に前記溶液を塗布する際に、前記基板上の塗布領域において前記間隔の最短距離を所定の値に保つ位置調整手段」であるかどうか明らかでない点(以下、「相違点3」という。)。

2-3 判断
相違点について検討する。
(1)相違点1について
薄膜の形成装置において、「一面に溶液の塗布対象である塗布領域が設けられた基板が設置され、該基板を所定の温度に加熱する加熱手段」を備える点は、周知技術(以下、「周知技術1」という。例えば、平成22年1月29日付け拒絶理由通知書において引用された特開平10-270169号公報の段落【0047】及び図面、国際公開第94/27737号の明細書第13ページ第10ないし12行及び図面、特開平10-284397号公報の段落【0010】ないし【0013】及び図面、国際公開第98/20720号(翻訳文として特表2001-504272号公報を参照。)の特許請求の範囲及び図面等の記載を参照。)にすぎない。
そして、引用文献に記載された発明と、上記周知技術1とは、いずれも、薄膜の形成装置という共通の技術分野において、均一な薄膜を得るという共通の課題を解決するためのものである。
してみれば、引用文献に記載された発明において、上記周知技術1を適用し、もって上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことである。

(2)相違点2について
薄膜の形成装置において、ダイとして「前記基板の前記一面との距離が該基板の一の方向側で大きくなる段差を有して形成された少なくとも一つの開口を有するノズル部を先端に有」するダイを備える点は、周知技術(以下、「周知技術2」という。例えば、平成23年9月12日付け当審における審尋において引用された特開平8-155365号公報の段落【0050】及び図面、特開平9-38560号公報の段落【0037】ないし【0039】及び図面、特開平9-276770号公報の段落【0023】及び図面等の記載を参照。)にすぎない。
そして、引用文献に記載された発明と、上記周知技術2とは、いずれも、薄膜の形成装置という共通の技術分野において、均一な薄膜を得るという共通の課題を解決するためのものである。
してみれば、引用文献に記載された発明において、上記周知技術2を適用し、もって上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことである。

(3)相違点3について
薄膜の形成装置において、「ダイに設けられて、基板の一面と前記ダイの先端との距離を測定するセンサを有し、測定された前記距離の値に基づいて、前記基板又は前記ダイの何れか一方を垂直方向に移動させて、前記基板の前記一面と前記ダイの前記先端との間隔を調整して、前記塗布手段により前記塗布領域に前記溶液を塗布する際に、前記基板上の塗布領域において前記間隔の最短距離を所定の値に保つ位置調整手段」を備える点は、周知技術(以下、「周知技術3」という。例えば、平成23年9月12日付け当審における審尋において引用された特開平8-155365号公報の段落【0025】及び図面、平成22年1月29日付け拒絶理由通知書において引用された特開平10-421号公報の段落【0004】ないし【0007】、【0021】ないし【0026】及び図面、同じく特開平11-165111号公報の【特許請求の範囲】、段落【0008】ないし【0011】、【0014】、【0015】ないし【0018】、【0020】ないし【0024】及び図面、同じく実願平5-34480号(実開平7-31168号)のCD-ROMの段落【0011】ないし【0015】、【0020】、【0021】、【0027】ないし【0030】及び図面、特開平10-284397号公報の段落【0010】ないし【0013】並びに図面、等の記載を参照。)にすぎない。
そして、引用文献に記載された発明と、上記周知技術3とは、いずれも、薄膜の形成装置という共通の技術分野において、均一な薄膜を得るという共通の課題を解決するためのものである。
してみれば、引用文献に記載された発明において、上記周知技術3を適用し、もって上記相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことである。

そして、本願補正発明を全体としてみても、その奏する効果は、引用文献に記載された発明及び周知技術1ないし3から当業者が予測できた範囲内のものであり、格別に顕著な効果ではない。

以上のように、本件補正が、仮に平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとしても、本願補正発明は、引用文献に記載された発明及び周知技術1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また、本件補正は、仮に平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとしても、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 手続の経緯及び本願発明
平成23年1月24日付けの手続補正は前述したとおり却下されたので、本件出願の請求項1ないし8に係る発明は、平成21年7月15日付けの手続補正書により補正された明細書及び願書に最初に添付された図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項4に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2の〔理由〕1(1)の(a)の請求項4に記載したとおりのものである。

2 引用文献
原査定の拒絶理由に引用された引用文献(特開平8-224528号公報)の記載は、前記第2の〔理由〕2-1のとおりである。
そして、引用文献には、次の発明(以下、「引用文献に記載された発明2」という。)も記載されているといえる。

「サブストレート29;129上に流体11;111を供給する部材12;112と、
前記サブストレートを水平方向に所定の速度で移動させて、前記部材12;112によって供給された流体11;111を該サブストレート29;129上の所定の塗付領域に塗付する塗付手段と、
前記サブストレート29;129又は前記部材12;112の何れか一方を垂直方向に移動させて、前記サブストレート29;129と前記部材12;112との間隔を調整する位置調整手段と、
を備える塗付装置。」

3 対比
本願発明と引用文献に記載された発明2とを対比すると、引用文献に記載された発明2における「サブストレート29;129」は、その機能及び作用又は技術的意義からみて、本願発明における「基板」に相当し、以下同様に、「流体11;111」は「溶液」に、「部材12;112」は「ダイ」に、「塗付」は「塗布」に、それぞれ相当する。
また、引用文献に記載された発明2における「塗付装置」は、基板に溶液を塗布することにより、基板の表面に薄膜を形成する装置であるから、本願補正発明における「薄膜の形成装置」に相当する。
そうすると、本願発明と引用文献に記載された発明2とは、
「少なくとも一つの開口を有するノズル部を先端に有し、前記ノズル部に溶液が供給され、該ノズル部の開口から前記溶液を吐出するダイと、
前記ノズル部から吐出される前記溶液と基板の塗布領域とを接触させた後、前記基板を一の方向に所定の速度で移動させて、前記ノズル部の前記開口から吐出された前記溶液を該基板の一面上の前記塗布領域に塗付する塗布手段と、
前記基板又は前記ダイの何れか一方を垂直方向に移動させて、前記基板と前記ダイの前記先端との間隔を調整する位置調整手段と、
を備える薄膜の形成装置。」の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
(1)本願発明においては、「溶液の塗布対象である基板を所定の温度に加熱する加熱手段」を備えるのに対し、引用文献に記載された発明2においては、そのような加熱手段を備えているかどうか明らかでない点(以下、「相違点1’」という。)。
(2)「位置調整手段」について、本願発明においては、「基板の表面とダイの先端との距離を測定する距離測定手段を有し、塗布手段による前記溶液の塗布を行っている間に、前記距離測定手段により測定された前記距離の値に基づいて前記基板又は前記ダイの何れか一方を垂直方向に移動させて、前記基板と前記ダイとの間隔を調整して、前記塗布領域において前記間隔を所定の値に保つ位置調整手段」を備えているのに対し、引用文献に記載された発明2においては、本願発明における「前記基板又は前記ダイの何れか一方を垂直方向に移動させて、前記基板と前記ダイとの間隔を調整して、前記塗布領域において前記間隔を所定の値に保つ位置調整手段」に相当する「前記サブストレート29;129又は前記部材12;112の何れか一方を垂直方向に移動させて、前記サブストレート29;129と前記部材12;112との間隔を調整して、前記塗布領域において前記間隔を所定の値に保つ位置調整手段」を備えているものの、該位置調整手段が、「前記基板の表面と前記ダイの先端との距離を測定する距離測定手段を有し、前記塗布手段による前記溶液の塗布を行っている間に、前記距離測定手段により測定された前記距離の値に基づいて」前記基板又は前記ダイの何れか一方を垂直方向に移動させて、前記基板と前記ダイとの間隔を調整して、前記塗布領域において前記間隔を所定の値に保つ位置調整手段であるかどうか明らかでない点(以下、「相違点2’」という。)。

4 判断
相違点について検討する。
(1)相違点1’について
薄膜の形成装置において、「溶液の塗布対象である基板を所定の温度に加熱する加熱手段」を備える点は、周知技術(以下、「周知技術1’」という。例えば、平成22年1月29日付け拒絶理由通知書において引用された特開平10-270169号公報の段落【0047】及び図面、国際公開第94/27737号の明細書第13ページ第10ないし12行及び図面、特開平10-284397号公報の段落【0010】ないし【0013】及び図面、国際公開第98/20720号(翻訳文として、特表2001-504272号公報を参照。)の特許請求の範囲及び図面等の記載を参照。)にすぎない。
そして、引用文献に記載された発明2と、上記周知技術1’とは、いずれも、薄膜の形成装置という共通の技術分野において、均一な薄膜を得るという共通の課題を解決するためのものである。
してみれば、引用文献に記載された発明2において、上記周知技術1’を適用し、もって上記相違点1’に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことである。

(2)相違点2’について
薄膜の形成装置において、位置調整手段として、「前記基板の表面と前記ダイの先端との距離を測定する距離測定手段を有し、前記塗布手段による前記溶液の塗布を行っている間に、前記距離測定手段により測定された前記距離の値に基づいて前記基板又は前記ダイの何れか一方を垂直方向に移動させて、前記基板と前記ダイとの間隔を調整して、前記塗布領域において前記間隔を所定の値に保つ位置調整手段」を備える点は、周知技術(以下、「周知技術3’」という。例えば、平成22年1月29日付け拒絶理由通知書において引用された特開平10-421号公報の段落【0004】ないし【0007】、【0021】ないし【0026】及び図面、特開平11-165111号公報の【特許請求の範囲】、段落【0008】ないし【0011】、【0014】、【0015】ないし【0018】、【0020】ないし【0024】及び図面、実願平5-34480号(実開平7-31168号)のCD-ROMの段落【0011】ないし【0015】、【0020】、【0021】、【0027】ないし【0030】及び図面、特開平10-284397号公報の段落【0010】ないし【0013】並びに図面、等の記載を参照。)にすぎない。
そして、引用文献に記載された発明2と、上記周知技術3’とは、いずれも、薄膜の形成装置という共通の技術分野において、均一な薄膜を得るという共通の課題を解決するためのものである。
してみれば、引用文献に記載された発明2において、上記周知技術3’を適用し、もって上記相違点2’に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことである。

そして、本願発明を全体としてみても、その奏する効果は、引用文献に記載された発明2並びに周知技術1’及び3’から当業者が予測できた範囲内のものであり、格別に顕著な効果ではない。

したがって、本願発明は、引用文献に記載された発明2並びに周知技術1’及び3’に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献に記載された発明2並びに周知技術1’及び3’に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-13 
結審通知日 2012-04-03 
審決日 2012-04-16 
出願番号 特願平11-297394
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B05C)
P 1 8・ 121- Z (B05C)
P 1 8・ 57- Z (B05C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 土井 伸次  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 鈴木 貴雄
金澤 俊郎
発明の名称 薄膜の形成方法、及び形成装置  

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