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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C09J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09J
管理番号 1259363
審判番号 不服2009-20825  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-28 
確定日 2012-07-05 
事件の表示 特願2000-353570「接着剤組成物及び半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 5月28日出願公開、特開2002-155262〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、平成12年11月20日の特許出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成21年 3月 6日付け 拒絶理由通知
平成21年 5月11日 意見書・手続補正書
平成21年 7月23日付け 拒絶査定
平成21年10月28日 本件審判請求
同日 手続補正書
平成21年11月16日付け 手続補正指令
平成21年12月17日 手続補正書(審判請求理由補充書)
平成21年12月24日付け 前置審査移管
平成22年 1月15日付け 前置報告書
平成22年 1月22日付け 前置審査解除
平成23年 8月19日付け 審尋
平成23年10月24日 回答書

第2 平成21年10月28日付け手続補正の却下の決定

<補正の却下の決定の結論>
平成21年10月28日付けの手続補正を却下する。

<理由>
I.補正の内容
上記手続補正(以下「本件補正」という。)では、特許請求の範囲につき以下の補正がなされている。

1.補正前(平成21年5月11日付け手続補正後のもの)
「【請求項1】 Tgが200℃以下の熱可塑性樹脂100重量部に対して、加熱硬化後の270℃における弾性率が5MPa以上となる熱硬化性樹脂0.1?200重量部、およびシランカップリング剤0.01?50重量部を含有してなることを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】 熱可塑性樹脂がポリイミド樹脂またはフェノキシ樹脂である請求項1記載の接着剤組成物。
【請求項3】 ポリイミド樹脂が、次の式(I)
【化1】


(ただし、n=2?20の整数を示す。)で表されるテトラカルボン酸二無水物および次の式(II)
【化2】


で表されるテトラカルボン酸二無水物のうち少なくとも一方の含量が全テトラカルボン酸二無水物の30モル%以上であるテトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとを反応させて得られるポリイミド樹脂である請求項2記載の接着剤組成物。
【請求項4】 ポリイミド樹脂が、テトラカルボン酸二無水物と、次の式(III)
【化3】


(式中、Q_(1)及びQ_(2)はそれぞれ独立に炭素数が1?5のアルキレン基、又はフェニレン基を示し、Q_(3)、Q_(4)、Q_(5)及びQ_(6)はそれぞれ独立に炭素数が1?5のアルキル基、フェニル基又はフェノキシ基を示し、mは1?50の整数を示す。)で表されるシロキサン系ジアミンが全ジアミンの3モル%以上を含むジアミンとを反応させて得られるポリイミド樹脂である請求項2または3記載の接着剤組成物。
【請求項5】 少なくとも半導体素子と支持部材とを含む半導体装置であって、半導体素子と支持部材とが、請求項1?4のいずれか記載の接着剤組成物により接着されていることを特徴とする半導体装置。」
(以下、各請求項毎に「旧請求項1」?「旧請求項5」という。)

2.補正後
「【請求項1】 Tgが200℃以下の熱可塑性樹脂100重量部に対して、加熱硬化後の270℃における弾性率が5MPa以上となる熱硬化性樹脂0.1?200重量部、およびシランカップリング剤0.01?50重量部を含有してなり、
前記Tgが200℃以下の熱可塑性樹脂は、次の式(I)
【化1】


(ただし、n=2?20の整数を示す。)で表されるテトラカルボン酸二無水物の含量が全テトラカルボン酸二無水物の30モル%以上であるテトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとを反応させて得られるポリイミド樹脂であるか、または
テトラカルボン酸二無水物と、次の式(III)
【化3】


(式中、Q_(1)及びQ_(2)はそれぞれ独立に炭素数が1?5のアルキレン基、又はフェニレン基を示し、Q_(3)、Q_(4)、Q_(5)及びQ_(6)はそれぞれ独立に炭素数が1?5のアルキル基、フェニル基又はフェノキシ基を示し、mは1?50の整数を示す。)で表されるシロキサン系ジアミンが全ジアミンの3モル%以上を含むジアミンとを反応させて得られるポリイミド樹脂であることを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】 少なくとも半導体素子と支持部材とを含む半導体装置であって、半導体素子と支持部材とが、請求項1記載の接着剤組成物により接着されていることを特徴とする半導体装置。」
(以下、各請求項毎に「新請求項1」及び「新請求項2」という。)

II.補正事項に係る検討

1.新規事項の追加の有無
そこで、まず、上記新請求項1及び2に記載された各事項が、本願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものかにつき検討すると、上記各新請求項における記載事項は、全ての事項につき上記明細書又は図面に記載されているか、上記明細書又は図面に記載された事項に基づき当業者に一応自明な事項のみである。
したがって、上記手続補正は、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内で行われたものである。

2.補正の目的の適否
次に、上記手続補正は、特許請求の範囲に係るものであるので、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる改正前の(以下「平成18年改正前」という。)特許法第17条の2第4項各号に掲げる事項を目的とするものか否かにつき検討する。
上記手続補正では、旧請求項1を引用する旧請求項2における「熱可塑性樹脂」の並列的選択肢の一部(フェノキシ樹脂)を削除すると共に、旧請求項2をいずれも引用する旧請求項3及び旧請求項4につき、旧請求項3における「テトラカルボン酸二無水物」の並列的選択肢の一部(「式(II)」の化合物)を削除しつつ、旧請求項3に記載された事項及び旧請求項4に記載された事項を択一的に付加して旧請求項1ないし4を総合し、新請求項1としている。
そして、旧請求項5につき、引用関係及び記載事項は従前どおりとして、新請求項2としている。
してみると、旧請求項1から新請求項1への補正については、旧請求項1に記載されている「熱可塑性樹脂」の種類を旧請求項2ないし4の記載に基づき限定し新請求項1とするものであって、旧請求項1に記載された発明と新請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許請求の範囲を限定的に減縮するものである。
また、旧請求項5から新請求項2への補正についても、旧請求項5が旧請求項1ないし4を引用するものであり、引用関係は従前どおりであるから、引用関係の被引用項である上記旧請求項1の新請求項1への減縮に伴い、特許請求の範囲を減縮するものといえる。
したがって、上記手続補正に係る補正事項は、いずれも特許請求の範囲を限定的に減縮しているものであるから、上記手続補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものである。

3.独立特許要件
上記2.のとおり、上記手続補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、新請求項1に記載されている事項で特定される発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かにつき検討する。

(1)新請求項1に係る発明
新請求項1に係る発明は、再掲すると以下のとおりの記載事項により特定されるものである。
「Tgが200℃以下の熱可塑性樹脂100重量部に対して、加熱硬化後の270℃における弾性率が5MPa以上となる熱硬化性樹脂0.1?200重量部、およびシランカップリング剤0.01?50重量部を含有してなり、
前記Tgが200℃以下の熱可塑性樹脂は、次の式(I)
【化1】


(ただし、n=2?20の整数を示す。)で表されるテトラカルボン酸二無水物の含量が全テトラカルボン酸二無水物の30モル%以上であるテトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとを反応させて得られるポリイミド樹脂であるか、または
テトラカルボン酸二無水物と、次の式(III)
【化3】


(式中、Q_(1)及びQ_(2)はそれぞれ独立に炭素数が1?5のアルキレン基、又はフェニレン基を示し、Q_(3)、Q_(4)、Q_(5)及びQ_(6)はそれぞれ独立に炭素数が1?5のアルキル基、フェニル基又はフェノキシ基を示し、mは1?50の整数を示す。)で表されるシロキサン系ジアミンが全ジアミンの3モル%以上を含むジアミンとを反応させて得られるポリイミド樹脂であることを特徴とする接着剤組成物。」
(以下「本件補正発明」という。)

(2)独立特許要件に係る当審の判断
しかるに、上記本件補正発明は、下記の理由により特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

理由:本件補正発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物:
1.特開平11-140386号公報(原審における「引用文献3」)
2.特開2000-104040号公報(原審における「引用文献4」)
3.特開平10-1643号公報(新たに引用する周知例)
(以下、上記刊行物1.及び2.をそれぞれ「引用例1」及び「引用例2」といい、上記刊行物3.を「周知例」という。)

ア.各引用例及び周知例に記載された事項

(ア)引用例1について
上記引用例1には、以下の事項が記載されている。

(ア-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を含有する接着フィルムであって、前記接着フィルムを250℃で2分間加熱したときの重量減少量が、接着フィルム1mm^(3)当り100μg以下である接着フィルム。
【請求項2】熱可塑性樹脂がポリイミド樹脂である、請求項1の接着フィルム。
【請求項3】ポリイミド樹脂が、次の式(I)
【化1】


(式中、nは2?20の整数を示す。)のテトラカルボン酸二無水物の含量が全テトラカルボン酸二無水物の30モル%以上であるテトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとを反応させて得られるポリイミド樹脂である、請求項2の接着フィルム。
【請求項4】熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である、請求項1?3いずれかの接着フィルム。
・・(中略)・・
【請求項8】(1)熱可塑性樹脂と、分子量が400?1500の熱硬化性樹脂とを、有機溶媒中で混合し、(2)基材上に前記混合液の層を形成させ、(3)加熱・乾燥し、(4)基材を除去する、請求項1の接着フィルムの製造法。
【請求項9】請求項8の製造法において、熱可塑性樹脂としてポリイミド樹脂を用いる、請求項2の接着フィルムの製造法。
【請求項10】請求項9の製造法において、ポリイミド樹脂として、式(I)
【化2】


(式中、nは2?20の整数を示す。)のテトラカルボン酸二無水物の含量が全テトラカルボン酸二無水物の30モル%以上であるテトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとを反応させて得られるポリイミド樹脂を用いる、請求項3の接着フィルムの製造法。
【請求項11】請求項10の製造法において、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いる、請求項4の接着フィルムの製造法。
【請求項12】請求項8?11の製造法において、熱硬化性樹脂の使用量が、熱可塑性樹脂100重量部に対して1?100重量部である、請求項1?4いずれかの接着フィルムの製造法。
・・(中略)・・
【請求項17】半導体素子を請求項1?5のいずれかの接着フィルムで支持部材に接着し、半導体素子を封止材で封止した半導体装置。」

(ア-2)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、接着フィルム、その製造法、接着フィルム付き支持部材及び半導体装置に関し、更に詳しくは、半導体素子等の電子部品とリードフレームや絶縁性支持基板等の支持部材との接着材料、すなわちダイボンド用に好適な接着フィルム及びその製造法、並びにその接着フィルムを用いてつくられる接着フィルム付き支持部材及び半導体装置に関する。」

(ア-3)
「【0006】本発明の目的は、半導体素子等の電子部品とリードフレームや絶縁性支持基板とを接着させる接着フィルムであって、熱時における高い接着力と共に実装時における250℃前後の半田付け熱処理にも耐え、かつ、アウトガス(フューム)発生が少なく、それゆえ、半導体素子や加熱装置の汚染、ワイヤボンド特性の低下等の問題も解決する接着フィルムを提供することである。」

(ア-4)
「【0014】
【発明の実施の形態】本発明の接着フィルムは、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を含有する接着フィルムであって、これを250℃で2分間加熱したときの重量減少量は、接着フィルム1mm^(3)当り100μg以下、更に好ましくは60μg以下である。重量減少量が100μgを越えると、加熱時のアウトガス(フューム)発生量が多くなり、半導体素子を汚染させ、加熱装置にフュームが付着する危険性が高くなる。
【0015】本発明の接着フィルムに含まれる熱可塑性樹脂は、限定されるものではなく、例えば、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエステル樹脂、シロキサンポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂等あるが、好ましいものはポリイミド樹脂である。ポリイミド樹脂については、後に詳しく述べる。
【0016】本発明の接着フィルムに含まれる熱硬化性樹脂は、250℃で2分加熱したときの接着フィルムの重量減少量が接着フィルム1mm^(3)当り100μg以下となるような樹脂の中から選ぶ。そのような樹脂は種々の熱硬化性樹脂から選ぶことができるが、好ましいものはエポキシ樹脂である。使用される熱硬化性樹脂については、後に詳しく述べる。また、上記重量減少量は、接着フィルムを試験板に接近させ250℃で2分加熱後の試験板に付着するフューム量と相関する。そこで、このフューム量が接着フィルム1mm^(3)当り20μg以下となるように熱硬化性樹脂を選ぶことが更に好ましい。」

(ア-5)
「【0021】使用できる熱可塑性樹脂は、前記したように特に限定するものではないが、好ましいものはポリイミド樹脂である。ポリイミド樹脂は、通常、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて製造できる。
【0022】使用できるテトラカルボン酸二無水物としては、・・(中略)・・p-フェニレンビス(トリメリテート無水物)、・・(中略)・・2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス〔4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン二無水物、4,4′-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフイド二無水物、1,4-ビス(2-ヒドロキシヘキサフルオロイソプロピル)ベンゼンビス(トリメリット酸二無水物)、1,3-ビス(2-ヒドロキシヘキサフルオロイソプロピル)ベンゼンビス(トリメリット酸二無水物)、・・(中略)・・のほか、
【0026】次の式(I)
【化3】


(ただし、n=2?20の整数を示す。)
で表されるテトラカルボン酸二無水物がある。特に好ましいポリイミド樹脂は、前記の式(I)のテトラカルボン酸二無水物の含量が全テトラカルボン酸二無水物の30モル%以上であるテトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとを反応させて得られるポリイミド樹脂である。
【0027】前記式(I)のテトラカルボン酸二無水物としては、nが2?5のとき、1,2-(エチレン)ビス(トリメリテート二無水物)、1,3-(トリメチレン)ビス(トリメリテート二無水物)、1,4-(テトラメチレン)ビス(トリメリテート二無水物)、1,5-(ペンタメチレン)ビス(トリメリテート二無水物)、nが6?20のとき、1,6-(ヘキサメチレン)ビス(トリメリテート二無水物)、1,7-(ヘプタメチレン)ビス(トリメリテート二無水物)、1,8-(オクタメチレン)ビス(トリメリテート二無水物)、1,9-(ノナメチレン)ビス(トリメリテート二無水物)、1,10-(デカメチレン)ビス(トリメリテート二無水物)、1,12-(ドデカメチレン)ビス(トリメリテート二無水物)、1,16-(ヘキサデカメチレン)ビストリメリテート二無水物、1,18-(オクタデカメチレン)ビス(トリメリテート二無水物)、等があり、これら2種以上を併用してもよい。
【0028】上記式(I)のテトラカルボン酸二無水物は、無水トリメリット酸モノクロライド及び対応するジオールから合成することができる。また、全テトラカルボン酸二無水物に対して上記テトラカルボン酸二無水物の含まれる量を好ましくは30モル%以上とするのは、接着フィルムの低温接着性を保つためである。」

(ア-6)
「【0029】前記ポリイミド樹脂の他の原料の一つであるジアミンとしては、・・(中略)・・2,2-ビス(4-(3-アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(3-アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-(4-アミノフエノキシ)フエニル)ヘキサフルオロプロパン、・・(中略)・・等の芳香族ジアミンを挙げることができる。これは2種以上を混合して用いてもよい。」

(ア-7)
「【0035】本発明の製造法で用いられる熱硬化性樹脂は、熱により橋かけ反応を起こす反応性化合物である。このような化合物としては、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、ビスマレイミド樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、レゾルシノールホルムアルデヒド樹脂、キシレン樹脂、フラン樹脂、ポリウレタン樹脂、ケトン樹脂、トリアリルシアヌレート樹脂、ポリイソシアネート系樹脂、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌラートを含む樹脂、トリアリルトリメリタートを含む樹脂、シクロペンタジエンからの熱硬化性樹脂、芳香族ジシアナミドの3量化による熱硬化性樹脂、芳香族ニトリルからの熱硬化性樹脂、縮合多環芳香族を含む熱硬化性樹脂等があり、それらの樹脂の中から分子量が400?1500の熱硬化性樹脂を選ぶ。分子量が400未満では、接着フィルムの重量減少量も、またアウトガス発生量(ヒューム量)も多く、1500を超えると熱硬化性樹脂の軟化点及び高温溶融粘度が高くなり、接着フィルムの接着条件が高温化するため好ましくない。なお、これら熱硬化性樹脂は2種類以上を用いてもよい。
【0036】 硬化のために、硬化剤及び硬化促進剤(触媒)を適宜、使用することができる。例えば、エポキシ樹脂を使用する場合には、硬化剤としてはフェノール系化合物、脂肪族アミン、脂環族アミン、芳香族ポリアミン、ポリアミド、脂肪族酸無水物、脂環族酸無水物、芳香族酸無水物、ジシアンジアミド、有機酸ジヒドラジド、三フッ化ホウ素アミン錯体、イミダゾール類、第3級アミン等が挙げられ、その中で分子量が400?1500のものを選ぶ。硬化促進剤(触媒)としては熱硬化性樹脂を硬化させるものであれば特に制限はない。シアネート樹脂を使用する場合には、コバルト、亜鉛、銅等の金属塩や金属錯体を触媒とし、アルキルフェノール、ビスフェノール化合物、フェノールノボラック等のフェノール系化合物を助触媒とすることができる。
【0037】エポキシ樹脂を用いる場合、エポキシ樹脂は分子内に少なくとも2個のエポキシ基を含むものである。下記の式(II)?(IV)で表される化合物等があり、このうち、分子量が400?1500のものを選ぶ。
・・(中略)・・
【0039】エポキシ樹脂硬化剤としては、特に制限されるものではない。例えば、前記のフェノール系化合物、脂肪族アミン、脂環族アミン、芳香族ポリアミン、ポリアミド、脂肪族酸無水物、脂環族酸無水物、芳香族酸無水物、ジシアンジアミド、有機酸ジヒドラジド、三フッ化ホウ素アミン錯体、イミダゾール類、第3級アミン等が挙げられるが、分子中に少なくとも2個のフェノール性水酸基を有するフェノール系化合物が好ましく、分子量が400?1500のものから選ぶ。このようなものとしては例えば、フェノールノボラック樹脂、・・(中略)・・ビスフェノールノボラック樹脂、トリスフェノールノボラック樹脂、テトラキスフェノールノボラック樹脂等が挙げられる。」

(ア-8)
「【0044】
・・(中略)・・
以上の熱硬化性樹脂のうち、エポキシ樹脂が好ましく用いられる。
【0045】本発明の接着フィルムの製造においては、熱可塑性樹脂100重量部に対し熱硬化性樹脂を好ましくは1?100重量部、更に好ましくは2?50重量部用いる。熱硬化性樹脂の使用量が100重量部を越えると、接着フィルム加熱時の重量減少量及びアウトガス発生量(フューム発生量)が多くなり、また、フィルム形成性も悪くなる。1重量部未満では、熱時接着力が低下する。
【0046】熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である場合には、熱可塑性樹脂100重量部と、エポキシ基を有する化合物1?100重量部(更に好ましくは2?50重量部)と、エポキシ樹脂硬化剤を0.02?120重量部(更に好ましくは0.1?80重量部)と硬化促進剤(触媒)を有機溶媒に溶解し、基材上に塗布して層を形成させ、加熱・乾燥することにより製造できる。」

(ア-9)
「【0055】接着フィルムは、IC、LSI等の半導体素子と、42アロイリードフレーム、銅リードフレーム等のリードフレーム、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等のプラスチックフィルム、ガラス不織布等基材にエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等のプラスチックを含浸・硬化させたもの、アルミナ等のセラミックス等の支持部材との接着に用いることができる。すなわち、前記したような半導体素子と支持部材との間に本発明の接着フィルムを挾み、100?300℃、0.1?300秒間、加熱圧着して、両者を接着させる。その後、ワイヤーボンディング工程、封止材による封止工程を経て半導体装置(半導体パッケージ)とされる。」

(ア-10)
「【0056】
【実施例】以下、実施例により本発明を説明する。
実施例1?8、比較例1?4
下記ポリイミドA?Cを熱可塑性樹脂として用い、表1?3の配合表に示す通り、No.1?11のワニス(No.1?8:本発明の実施例1?8に関するもの、No.9?11:比較例1?3に関するもの)を調合した。ポリイミドA:デカメチレンビストリメリテート二無水物と4,4’-ジアミノジフェニルメタンとから合成した。ポリイミドB:エメチレンビストリメリテート二無水物と2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパンとから合成した。ポリイミドC:デカメチレンビストリメリテート二無水物と4,4’-ジアミノジフェニルエーテルとから合成した。
【0057】なお、表1?3において、種々の記号は下記のものを意味する。
エピコート834:油化シェルエポキシ、ビスフェノール型エポキシ樹脂(エポキシ当量250)
ESCN-195:住友化学、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量200)
エピコート1001:油化シェルエポキシ、ビスフェノール型エポキシ樹脂(エポキシ当量475)
BEO-60E:新日本理化学、エチレンオキシド付加体ビスフェノール型エポキシ樹脂(エポキシ当量373)
BPO-60E:新日本理化学、プロピレンオキシド付加体ビスフェノール型エポキシ樹脂(エポキシ当量314)
XB4122:旭チバ、アルキレンオキシド付加体ビスフェノール型エポキシ樹脂(エポキシ当量336)
【0058】BMI-P:三井東圧化学、ノボラック型ビスマレイミド樹脂
REX-371:旭チバ、ノボラック型シアネート樹脂
W-100:新日本理化学、ヘキサンジオール型エポキシ樹脂(エポキシ当量150)
DME-100:新日本理化学、シクロヘキサンジメタノール型エポキシ樹脂(エポキシ当量155)
ESR-288:旭チバ、フェニルエーテル型シアネート樹脂
【0059】H-1:明和化成、フェノールノボラック(OH当量106)
XL-225:三井東圧化学、キシリレン変性フェノールノボラック(OH当量175)
NH-7000:日本化薬、ナフトールノボラック(OH当量140)
テトラキスP-TPA:本州化学、テトラキスフェノールノボラック(OH当量118)
トリスフェノールTC:本州化学、トリスフェノールノボラック(OH当量160)
TrisP-PA:本州化学、トリスフェノールノボラック(OH当量141)
【0060】DMAc:ジメチルアセトアミド
DMF:ジメチルホルムアミド
NMP:N-メチルピロリドン
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】


【0063】
【表3】


【0064】このワニスを50μmの厚さに基材(ポリプロピレンフィルム)上に塗布し、80℃で10分、続いて120℃で30分加熱し、その後、室温で基材から剥がして、接着フィルムを得た。得られた接着フィルム(実施例1?8:ワニス番号No.1?8に対応;比較例1?3:ワニス番号No.9?11に対応)はいずれも室温でベタツキはなく、自己支持性をもつフィルムであった。
【0065】実施例1?8及び比較例1?3の接着フィルムの接着特性(剪断接着力及びピール強度)、並びに250℃で2分間加熱したときの重量減少量及びフューム付着量についての評価試験結果を表4、表5に示す。なお、比較例4は銀ペースト(日立化成工業株式会社製、商品名エピナール)である。
【0066】
【表4】


【0067】<剪断接着力及びピール強度の測定法> 接着フィルムを4×4mm及び8×8mmの大きさに切断し、これを4×4mm及び8×8mmの大きさシリコンチップと42アロイ製リードフレームの間にそれぞれ挾み、500gの加重をかけて、260℃で3秒間圧着させたのち、次の方法で剪断接着力及びピール強度を測定した。剪断接着力:4×4mmのシリコンチップを4×4mmの接着フィルムで接着したサンプルを用いて、室温及び350℃、20秒加熱時の剪断接着力をプッシュプルゲージにより測定した。ピール強度:8×8mmのシリコンチップを8×8mmの接着フィルムで接着したサンプルを用いて、250℃、20秒加熱時のピール強度をプッシュプルゲージにより測定した。
【0068】
【表5】



(イ)引用例2について
上記引用例2には、以下の事項が記載されている。

(イ-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 ガラス転移温度90℃以下の熱可塑性ポリイミド樹脂及び熱硬化性樹脂を含有してなるダイボンディング用接着剤。
【請求項2】 多数の半導体素子が形成されたウェハ裏面に、ガラス転移温度90℃以下の熱可塑性ポリイミド樹脂と熱硬化性樹脂からなるフィルム状単層接着剤を熱圧着して接着剤付ウエハとし、得られた接着剤付ウエハをダイシングテープに貼り付け固着して個別半導体素子に分割切断後、前記ダイシングテープを剥離して得られる接着剤付き半導体素子を支持部材にダイボンディングすることを特徴とする半導体装置の製造方法。」

(イ-2)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ダイボンディング用接着剤及びそれを用いた半導体装置の製造方法に関する。」

(イ-3)
「【0006】
【発明が解決しようとする課題】請求項1記載の発明は、ウエハ裏面に接着剤を熱圧着する際、300μm以下のウェハでもクラックが発生せず、反りは小さく、また、幅広い温度で接着剤をウェハに接着でき、かつ簡単な装置でダイボンディングできる接着剤を提供するものである。請求項2に記載の発明はこの接着剤を用いた半導体装置の製造方法を提供するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、ガラス転移温度90℃以下の熱可塑性ポリイミド樹脂と熱硬化性樹脂を含有してなるダイボンディング用接着剤に関する。本発明は、また、多数の半導体素子が形成されたウエハ裏面に、ガラス転移温度80℃以下の熱可塑性ポリイミド樹脂と熱硬化性樹脂からなるフィルム状単層接着剤を熱圧着して接着剤付ウエハとし、得られた接着剤付ウエハをダイシングテープに貼り付け固着して個別半導体素子に分割切断後、前記ダイシングテープを剥離して得られる接着剤付き半導体素子を支持部材にダイボンディングすることを特徴とする半導体装置の製造方法に関する。」

(イ-4)
「【0012】本発明において用いられる接着剤としては、例えば、ガラス転移温度(Tg)が90℃以下の熱可塑性ポリイミド樹脂とエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂の混合物を主体としたものが使用され、適宜、無機フィラー等の添加剤が混合される。
【0013】本発明において、熱可塑性ポリイミド樹脂のTgは90℃以下であるが、30?80℃であることが好ましい。熱可塑性ポリイミド樹脂のTgが高すぎると本発明の効果が低下し、低すぎると接着剤の表面が粘着性を示すようになる。本発明の熱可塑性ポリイミド系樹脂は常温では粘着性がないものが好ましい。上記の熱可塑性ポリイミド樹脂は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得ることができ、熱可塑性を有するものが選択して使用される。
【0014】このようなポリイミド樹脂の製造に用いられるテトラカルボン酸二無水物としては、1,2-(エチレン)ビス(トリメリテート二無水物)、1,3-(トリメチレン)ビス(トリメリテート二無水物)、1,4-(テトラメチレン)ビス(トリメリテート二無水物)、1,5-(ペンタメチレン)ビス(トリメリテート二無水物)、nが6?20のとき、1,6-(ヘキサメチレン)ビス(トリメリテート二無水物)、1,7-(ヘプタメチレン)ビス(トリメリテート二無水物)、1,8-(オクタメチレン)ビス(トリメリテート二無水物)、1,9-(ノナメチレン)ビス(トリメリテート二無水物)、1,10-(デカメチレン)ビス(トリメリテート二無水物)、1,12-(ドデカメチレン)ビス(トリメリテート二無水物)、1,16-(ヘキサデカメチレン)ビストリメリテート二無水物、1,18-(オクタデカメチレン)ビス(トリメリテート二無水物)、・・(中略)・・等があり、2種類以上を混合して用いてもよい。」

(イ-5)
「【0026】接着力を向上させるため、接着剤にシランカップリング剤、チタン系カップリング剤、ノニオン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、シリコーン系添加剤等を適宜加えてもよい。」

(ウ)周知例について
上記周知例には、以下の事項が記載されている。

(ウ-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】(A)有機溶剤に可溶なガラス転移温度が350℃以下のポリイミド樹脂100重量部、(B)1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有するエポキシ化合物5?100重量部、(C)一般式(1)で表される多官能性アミノ化合物0.1?20重量部及び(D)シランカップリング剤0.1?20重量部を主たる成分とする耐熱性フィルム接着剤。
【化1】
(式は省略)
(式中、nは2から10の整数)
【請求項2】 成分(A)が一般式(2)で表されるシロキサン化合物をアミン成分総量の5?50モル%含有してなるポリイミド樹脂である請求項1記載の耐熱性フィルム接着剤。
【化2】
(式は省略)
(式中、R_(1),R_(2):2価の、炭素数1?4の脂肪族基または芳香族基
R_(3),R_(4),R_(5),R_(6):1価の脂肪族基または芳香族基
k:1?20の整数)
【請求項3】シランカップリング剤が一般式(3)で表されることを特徴とする請求項1記載の耐熱性フィルム接着剤。
【化3】
(式は省略)
(式中、Yはアミノ基を有する有機基
P^(1)は炭素数1?4の2価の炭化水素基
P^(2)は炭素数1?4のアルキル基
P^(3)は炭素数1?4のアルキル基
mは1?3の整数を表す。)
・・(後略)」

(ウ-2)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、耐熱性と加工性を併せもち、エレクトロニクス用途、特に半導体実装材料として適したシリコン基板や金属に対する接着力に優れたフィルム接着剤と、その製造方法に関するものである。」

(ウ-3)
「【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、低温での加工性に優れた耐熱性フィルム接着剤を得るべく鋭意研究を重ねた結果、特定構造のポリイミド樹脂にエポキシ化合物および該エポキシ化合物と反応可能な活性水素基を有する多官能性アミノ化合物、およびシランカップリング剤を添加すると、上記課題を解決することができることを見出し、本発明に到達したものである。」

(ウ-4)
「【0019】また本発明の耐熱性樹脂組成物において使用する成分(D)シランカップリング剤は、成分(A)や成分(B)、(C)との相溶性、ポリイミド樹脂の溶媒への溶解性が良好なものが好ましく、特にビニルシラン、エポキシシラン、アミノシラン等が好適に挙げられる。中でも特に一般式(3)で表されるカップリング剤(アミノ系シラン)が好ましい。
【0020】
【化3】
(式は省略)
(式中、Yはアミノ基を有する有機基
P^(1)は炭素数1?4の2価の炭化水素基
P^(2)は炭素数1?4のアルキル基
P^(3)は炭素数1?4のアルキル基
mは1?3の整数を表す。)
【0021】具体例としては、・・(中略)・・γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、・・(中略)・・γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン 、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシランなどを挙げることができ、これらは併用することもできる。シランカップリング剤の配合割合は成分(A)のポリイミド樹脂100重量部に対して0.1?20重量部、より好ましくは0.5?10重量部である。0.1重量部未満では、当該樹脂組成物を接着用途に用いる場合、被着材との密着性を向上させる効果が現れない。20重量部をこえると樹脂組成物のライフが短くなり加工性が低下する場合があり、また樹脂組成物の耐熱性を損ない、好ましくない。」

(ウ-5)
「【0025】
【実施例】
(ポリイミド樹脂PI-1の合成)
・・(中略)・・
【0027】このようにして得たポリイミド樹脂は、ガラス転移温度が148℃、引っ張り弾性率が180kgf/mm^(2)、ジメチルホルムアミド(DMF)、1,4-ジオキサン(1,4-DO)に良く溶解することが確かめられた。
【0028】(ポリイミド樹脂PI-2およびPI-3の合成)前記のポリイミド樹脂PI-1の合成と同様にして、PI-2およびPI-3を得た。得られたポリイミド樹脂PI-1、PI-2およびPI-3の物性を表1に示した。
【0029】
【表1】


・・(中略)・・
【0031】(実施例1)
(塗布ワニスの調整)ガラス製フラスコにポリイミド樹脂PI-1、100gとDMF355gを入れ、室温で充分に撹拌し、ポリイミドを完全に溶解させる。均一に溶解した後、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エピコート828、油化シェルエポキシ(株)製)40gを加え室温にて2時間撹拌した。その後均一に溶解していることを確認して、シランカップリング剤(トリスメトキシエトキシビニルシラン、KBC1003、信越化学(株)製)5gを加え室温にて1時間撹拌した。均一に溶解していることを確認して、アニリン樹脂PR-AF-S(軟化点78℃、アミノ基含有量10.2重量%、住友デュレズ(株)製)5.0gを系を撹拌しながら徐々に加えた。引き続き2時間撹拌し塗布ワニスを作製した。この溶液組成物は、室温にて5日間放置してもゲル化せず均一な溶液の状態のままであった。
【0032】(耐熱性フィルム接着剤の製造)前記のワニスをリバースロールコーターでポリイミドフィルム(商品名ユーピレックスSGA、厚み50μm、宇部興産(株)製)の片面に塗布し、接着剤層の厚みが30μmの接着テープを得た。乾燥温度は最高195℃で乾燥時間20分であった。このフィルム接着剤を42アロイプレートに熱圧着して試験片を作製し(250℃2秒間熱圧着し、圧を解放後250℃で30秒間アニールした。接着面にかかる圧力はゲージ圧力と接着面積から計算の結果4kgf/cm^(2)であった。)、テンシロンにて180度ピール強度を測定した結果を表2に示す。接着強度は常態およびプレッシャークッカー(125℃、48時間、飽和100%)で処理した後の室温での180度ピール強度を測定したものである(引張り速度50mm/min)。試験片の破断面は接着樹脂層が凝集破壊し、発泡は全く認められなかった。
【0033】(実施例2)前記のワニスをリバースロールコーターで二軸延伸ポリエステルフィルム(商品名ダイヤホイル、厚さ50μm、ダイアホイルヘキスト(株)製)に塗布し、乾燥後ポリエステルフィルムから剥離し、30μm厚みの支持体なしの均一な単層フィルム接着剤を得た。剥離は容易で特に支障はなかった。実施例1と同様に42アロイのプレートに接着した結果を表2に示す。
【0034】(実施例3?5)実施例1および2と同様にして、表2に示す配合にて塗布ワニスを調整しフィルム接着剤を得た。得られた評価結果を表2に示す。
【0035】
【表2】


・・(中略)・・
【0037】(比較例1、2および3)ポリイミド樹脂のみの樹脂組成物あるいは成分(B)?(D)のうちで一種または二種加えた樹脂組成物を調整し、ポリイミドフィルム(ユーピレックス)の片面に塗布し、フィルム接着剤を得た。42アロイプレートとの接着強度を実施例と同様にして測定し、その結果を表3に示した。
【0038】
【表3】


【0039】表2、3の結果から、実施例のフィルム接着剤の接着強度は吸湿加熱後でもその強度はわずかしか低下していない。、また吸湿後熱時の接着強度は、常態と比べて低下するものの、比較例のそれと比べて強度が大きく低下することを防ぐことが可能である。以上のことから本発明により、吸熱時の接着強度が大きく低下することを防ぎ、耐熱性と成形加工性に優れたフィルム接着剤を得られることが示される。」

イ.検討

(ア)引用例1に記載された発明
上記引用例1に記載された事項に基づき検討すると、引用例1には、「熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を含有する接着フィルム」が記載され、当該「熱可塑性樹脂」が「ポリイミド樹脂」であり、当該「ポリイミド樹脂」が「式(I)・・のテトラカルボン酸二無水物の含量が全テトラカルボン酸二無水物の30モル%以上であるテトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとを反応させて得られる」ものであることも記載されている(摘示(ア-1)参照)。
また、当該「接着フィルム」において、「熱可塑性樹脂100重量部に対し熱硬化性樹脂を好ましくは1?100重量部、更に好ましくは2?50重量部用いる」ことも記載されている(摘示(ア-8)参照)。
そして、当該「接着フィルム」が「半導体素子と支持部材との間に本発明の接着フィルムを挾み、100?300℃、0.1?300秒間、加熱圧着して、両者を接着させる」ことも記載され(摘示(ア-9)参照)、当該「接着フィルム」が「接着剤組成物」として機能することも当業者に自明である。
してみると、上記引用例1には、本件補正発明に倣い表現すると、
「熱可塑性樹脂100重量部に対して、熱硬化性樹脂1?100重量部を含有してなり、
熱可塑性樹脂は、次の式(I)
【化1】


(ただし、n=2?20の整数を示す。)で表されるテトラカルボン酸二無水物の含量が全テトラカルボン酸二無水物の30モル%以上であるテトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとを反応させて得られるポリイミド樹脂であることを特徴とする接着剤組成物」
に係る発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものといえる。

(イ)対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「式(I)」と本件補正発明における「式(I)」は明らかに同一であるから、引用発明における「熱可塑性樹脂」及び「熱可塑性樹脂は、次の式(I)(式は省略)で表されるテトラカルボン酸二無水物の含量が全テトラカルボン酸二無水物の30モル%以上であるテトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとを反応させて得られるポリイミド樹脂」は、本件補正発明における「熱可塑性樹脂」及び「熱可塑性樹脂は、次の式(I)(式は省略)で表されるテトラカルボン酸二無水物の含量が全テトラカルボン酸二無水物の30モル%以上であるテトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとを反応させて得られるポリイミド樹脂」に相当する。
そして、引用発明における「熱可塑性樹脂100重量部に対して、熱硬化性樹脂1?100重量部を含有」することは、本件補正発明における「熱可塑性樹脂100重量部に対して、・・熱硬化性樹脂0.1?200重量部・・を含有」することと、「1?100重量部」の範囲で重複することが明らかである。
してみると、本件補正発明と引用発明とは、
「熱可塑性樹脂100重量部に対して、熱硬化性樹脂1?100重量部を含有してなり、
熱可塑性樹脂は、次の式(I)
【化1】


(ただし、n=2?20の整数を示す。)で表されるテトラカルボン酸二無水物の含量が全テトラカルボン酸二無水物の30モル%以上であるテトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとを反応させて得られるポリイミド樹脂であることを特徴とする接着剤組成物」
の点で一致し、以下の3点で相違する。

相違点1:「熱可塑性樹脂」につき、本件補正発明では、「Tgが200℃以下」であるのに対して、引用発明では、ガラス転移温度(Tg)につき特定されていない点
相違点2:「熱硬化性樹脂」につき、本件補正発明では、「加熱硬化後の270℃における弾性率が5MPa以上となる」ものであるのに対して、引用発明では、「加熱硬化後の270℃における弾性率」につき特定されていない点
相違点3:本件補正発明では、「シランカップリング剤0.01?50重量部を含有して」いるのに対して、引用発明では、「シランカップリング剤」の使用につき特定されていない点

(ウ)各相違点についての検討

(ウ-1)相違点1について
上記相違点1につき検討すると、引用発明に係るものと認められる引用例1の実施例で使用されているポリイミド樹脂である「ポリイミドA」及び「ポリイミドB」は、いずれも「式(I)」で表されるテトラカルボン酸二無水物と4,4’-ジアミノジフェニルメタン又は2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパンとからなるものであるところ、本件補正後の明細書の記載(【0053】の「ポリイミドC」及び「ポリイミドD」に係る記載)からみて、それらはTg200℃以下であるものと認められ、引用発明で使用されるポリイミド樹脂は、Tg200℃以下であるものと理解するのが自然である。
また、上記引用例2及び周知例にも記載されているとおり、半導体実装やダイボンディングに使用されるポリイミド樹脂などの熱可塑性樹脂とエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂とを含有する接着剤組成物において、ウェハの反りの防止又は低温接着性改善などを意図し、ポリイミド樹脂などの熱可塑性樹脂としてTgが一定温度(例えば90℃又は350℃)以下のもの(上記摘示(ウ-5)の【表1】も参照)を使用することは、当業者の周知技術であり、その上限Tg温度を規定することも、当業者が実験的に適宜なし得ることである。
してみると、上記相違点1に係る事項は、実質的な相違点でないか、当業者が上記周知技術に基づき、適宜なし得ることである。

(ウ-2)相違点2について
上記相違点2につき検討すると、引用発明に係るものと認められる引用例1の実施例では、「ESCN195」なる商品名のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂が熱硬化性樹脂として使用されているところ、本件補正後の明細書の記載(【0054】及び【表1】)からみて、本件補正発明のものと認められる実施例1でも当該商品名のエポキシ樹脂が使用されていることからみて、引用発明で使用される熱硬化性樹脂も、「加熱硬化後の270℃における弾性率が5MPa以上となる」蓋然性が高いものと理解するのが自然である。
してみると、上記相違点2に係る事項についても、実質的な相違点であるとはいえない。

(ウ-3)相違点3について
上記相違点3につき検討すると、上記引用例2及び周知例にも記載されている(さらに必要ならば下記参考文献参照)とおり、半導体実装やダイボンディングに使用されるポリイミド樹脂、フェノキシ樹脂などの熱可塑性樹脂とエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂とを含有する接着剤組成物において、被着材との密着性を改善しもって(高温)接着性を向上させることなどを意図し、さらにシランカップリング剤を配合・使用することは、当業者の周知技術であり、その量比についても、熱可塑性樹脂100重量部に対して0.1?20重量部程度であることが、当業者に周知であるものと認められる。
してみると、上記相違点3に係る事項は、更なる(高温)接着性の改善などを意図して、当業者が上記周知技術に基づき、適宜なし得ることである。

参考文献:特開平8-41438号公報
特開平8-34969号公報
特開平8-34968号公報
特開平8-34966号公報
特開平8-27429号公報
特開平8-332696号公報

(エ)本件補正発明の効果について
本件補正発明の解決課題は、本件補正後の明細書の記載(【0010】)からみて、「半導体素子等の電子部品とリードフレームや絶縁性支持基板とを接着させる接着剤組成物であって、実装時の高温半田付け熱履歴にも耐え、かつ、銅リードフレームまたは絶縁性支持基板にも好適に使用できる低応力・低温接着性を兼ね備える接着剤組成物を提供すること」であるものと認められる。
それに対して、上記引用例1には、引用発明につき、「半導体素子等の電子部品とリードフレームや絶縁性支持基板とを接着させる接着フィルムであって、熱時における高い接着力と共に実装時における250℃前後の半田付け熱処理にも耐え、かつ、アウトガス(フューム)発生が少なく、それゆえ、半導体素子や加熱装置の汚染、ワイヤボンド特性の低下等の問題も解決する接着フィルムを提供すること」と記載されている。
そして、上記(ウ)(ウ-1)において説示したとおり、半導体実装やダイボンディングに使用されるポリイミド樹脂などの熱可塑性樹脂とエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂とを含有する接着剤組成物において、ウェハの反りの防止又は低温接着性改善などを意図し、ポリイミド樹脂などの熱可塑性樹脂としてTgが一定温度(例えば90℃又は350℃)以下のものを使用することは、当業者の周知技術である。
してみると、引用発明に上記当業者の周知技術を組み合わせた場合、熱時における高い接着力と共に実装時における250℃前後の半田付け熱処理にも耐えるとともに、低応力によるウェハの反りの防止及び低温接着性の改善などが図られるであろうことは、当業者が予期し得ることと認められる。
したがって、本件補正発明の効果は、上記引用発明に当業者の周知技術を組み合わせた場合のものに比して、当業者が予期し得ない程度の顕著なものであるとは認められない。

(オ)小括
以上のとおりであるから、本件補正発明は、上記引用発明及び当業者の周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

(3)独立特許要件に係るまとめ
よって、本願の新請求項1に係る本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

III.補正の却下の決定のまとめ
以上のとおりであるから、上記手続補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項に違反するものであるから、その余のことを検討するまでもなく、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願に係る発明
平成21年10月28日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願に係る発明は平成21年5月11日付け手続補正により補正された本願明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものであり、再掲すると下記のとおりである。
「【請求項1】 Tgが200℃以下の熱可塑性樹脂100重量部に対して、加熱硬化後の270℃における弾性率が5MPa以上となる熱硬化性樹脂0.1?200重量部、およびシランカップリング剤0.01?50重量部を含有してなることを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】 熱可塑性樹脂がポリイミド樹脂またはフェノキシ樹脂である請求項1記載の接着剤組成物。
【請求項3】 ポリイミド樹脂が、次の式(I)
【化1】


(ただし、n=2?20の整数を示す。)で表されるテトラカルボン酸二無水物および次の式(II)
【化2】


で表されるテトラカルボン酸二無水物のうち少なくとも一方の含量が全テトラカルボン酸二無水物の30モル%以上であるテトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとを反応させて得られるポリイミド樹脂である請求項2記載の接着剤組成物。
【請求項4】 ポリイミド樹脂が、テトラカルボン酸二無水物と、次の式(III)
【化3】


(式中、Q_(1)及びQ_(2)はそれぞれ独立に炭素数が1?5のアルキレン基、又はフェニレン基を示し、Q_(3)、Q_(4)、Q_(5)及びQ_(6)はそれぞれ独立に炭素数が1?5のアルキル基、フェニル基又はフェノキシ基を示し、mは1?50の整数を示す。)で表されるシロキサン系ジアミンが全ジアミンの3モル%以上を含むジアミンとを反応させて得られるポリイミド樹脂である請求項2または3記載の接着剤組成物。
【請求項5】 少なくとも半導体素子と支持部材とを含む半導体装置であって、半導体素子と支持部材とが、請求項1?4のいずれか記載の接着剤組成物により接着されていることを特徴とする半導体装置。」
(以下、請求項1に記載された事項で特定される発明を「本願発明」という。)

第4 原審の拒絶査定の概要
原審において、平成21年3月6日付け拒絶理由通知書で以下の内容を含む拒絶理由が通知され、当該拒絶理由が解消されていない点をもって下記の拒絶査定がなされた。

<拒絶理由通知>
「1.・・(中略)・・
2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
・・(中略)・・

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・・(中略)・・
・理由1-2
・請求項1-6
・引用文献1-4
・備考
(イ)請求項1,3-4,6について
引用文献3には、熱可塑性樹脂100重量部と熱硬化性樹脂1?100重量部とを含有してなる接着フィルム、及び接着フィルムにより半導体素子と支持部材とが接着されてなる半導体装置が開示されている([請求項1-16])。
そして、熱可塑性樹脂として、ポリイミド樹脂やシロキサンポリイミド樹脂などを用いることができ([0015])、デカメチレンビストリメリテート二無水物と4,4’-ジアミノジフェニルメタンとから合成されるポリイミド樹脂(以下、「ポリイミド樹脂A」という。)が具体的に記載されている([0056]及び[実施例])。
また、熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂やシアネート樹脂などを用いることができることが開示されており([0035])、例えば、実施例1にはビスフェノール型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック、及び硬化促進剤を含むものが具体的に記載されている。

本願の発明の詳細な説明の[0053]及び[表2]をみれば、1,2-(エチレン)ビス(トリメリテート二無水物)と4,4’-ジアミノジフェニルメタンとから合成されるポリイミド樹脂(以下、「ポリイミド樹脂B」という。)のTgが200℃であることが記載されている。
一方、引用文献3には、「ポリイミド樹脂A」のTgは記載されていないが、「ポリイミド樹脂A」は、「ポリイミド樹脂B」に比して、ポリイミド樹脂の主鎖骨格中のアルキレン鎖が長いものであるから、「ポリイミド樹脂A」のTgは、「ポリイミド樹脂B」のTgより低い、すなわち200℃より低いと推認される。
また、引用文献3の実施例1に記載の熱硬化性樹脂は、本願発明の熱硬化性樹脂と同様の組成のものであるから、それらの加熱硬化後の270℃における弾性率は、5MPa以上となる蓋然性が高い。

よって、本願の請求項1,3-4,6に係る発明と引用文献3に記載された発明は、特に相違するものではない。

(ロ)請求項2について
引用文献1及び4に示されているように(引用文献1の[0022]、引用文献4の[0026])、ポリイミド樹脂と熱硬化性樹脂とを含有する接着剤において、接着力を向上させるためにシランカップリング剤を配合することは周知であるから、引用文献3に記載された発明においても、シランカップリング剤を配合することとし、その配合量を特定する程度のことは、当業者が容易になし得ることである。

(ハ)請求項4-6について
引用文献2に記載されているように([0017])、ポリイミド樹脂を得るためのテトラカルボン酸二無水物として、引用文献2の[0017]に記載された(化15)で表される構造ものは公知であるから、引用文献3に記載された発明においても、テトラカルボン酸二無水物として、引用文献3の請求項3に記載された式(I)で表されるものと共に、係る公知のものを併用する程度のことに格別の困難性は認められない。

(ニ)請求項5-6について
引用文献3には、熱可塑性樹脂としてシロキサンポリイミド樹脂を用いることができることが記載されており、また、引用文献1に記載されているように([請求項1])、引用文献1の請求項1に記載された式(II)で表される構造のジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られるシロキサンポリイミド樹脂は公知であるから、引用文献3に記載された発明においても、シロキサンポリイミド樹脂として係る公知のものを選択する程度のことに格別の困難性は認められない。
・・(中略)・・
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開平11-092744号公報
2.特開平05-078481号公報
3.特開平11-140386号公報
4.特開2000-104040号公報」

<拒絶査定>
「この出願については、平成21年 3月 6日付け拒絶理由通知書に記載した理由2-3によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考
・・(中略)・・
(iii)
・理由2
1.本願発明
この出願(以下、「本願」という。)の請求項1-5に係る発明は、特許請求の範囲に記載されたとおりのものと認める。
2.公知刊行物に記載された発明
これに対して、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平11-140386号公報(以下、「引用文献3」という。)には、次の発明が記載されている。

引用文献3の[請求項1-17]、[0035]及び[0056]の記載から、引用文献3には、
「デカメチレンビストリメリテート二無水物と4,4’-ジアミノジフェニルメタンとから合成されたポリイミド樹脂(以下、「ポリイミド樹脂B」という。)100重量部と熱硬化性樹脂1?100重量部とを含有してなる接着フィルム」の発明及び「半導体素子が特定のポリイミド樹脂100重量部と熱硬化性樹脂1?100重量部とを含有してなる接着フィルムにより支持部材に接着されてなる半導体装置」の発明が記載されていると認める。

3.請求項1について
3.1 対比・判断
本願の請求項1に係る発明と、引用文献3に記載された発明とを対比する。
後者の「ポリイミド樹脂B」について、引用文献3にはTgの具体的な数値が記載されていないものの、1,2-(エチレン)ビス(トリメリテート二無水物)と4,4’-ジアミノジフェニルメタンとから合成されるポリイミド樹脂が200℃(本願明細書の[0053]及び[表2]を参照のこと。)であり、また、ポリイミド樹脂において、一般に、主鎖骨格中のメチレン鎖長を長くすることにより、ポリイミド樹脂自体のTgは下がることから、後者の「ポリイミド樹脂B」のTgは200℃以下であると認められるので、後者の「ポリイミド樹脂B」は前者の「Tgが200℃以下の熱可塑性樹脂」に相当する。
また、後者の「熱硬化性樹脂」について、引用文献3(実施例2)で具体的に挙げられているものは、本願明細書の実施例1において用いられている熱硬化性樹脂(加熱硬化後の270℃における弾性率が30MPa)と同じ組成であるので、これも「加熱硬化後の270℃における弾性率が5MPa以上」のものであると認められるから、後者の「熱硬化性樹脂」は、前者の「加熱硬化後の270℃における弾性率が5MPa以上となる熱硬化性樹脂」に相当する。
さらに、後者の「接着フィルム」は、本願明細書の[0057]の記載からも、フィルム状の接着剤組成物であると認められるから、それは前者の「接着剤組成物」に相当する。
したがって、両者は、
「 Tgが200℃未満の熱可塑性樹脂100重量部に対して、加熱硬化後の270℃における弾性率が5MPa以上となる熱硬化性樹脂1?100重量部含有する接着剤組成物」の点で一致し、以下の点で相違する。

本願発明は、シランカップリング剤を0.01?50重量部含有するものであるのに対して、引用文献3に記載された発明は、シランカップリング剤を含有させることに直接触れた記載がない点で相違するが、引用文献1及び4に示されているように(主に、引用文献1の[0022]、引用文献4の[0026])、ポリイミド樹脂と熱硬化性樹脂とを含有する接着剤において、接着力を向上させるためにシランカップリング剤を配合することは周知であるから、引用文献3に記載された発明においても、シランカップリング剤を配合することとし、その配合量を特定する程度のことは、当業者が容易になし得ることである。
また、上記「(i)・理由2の「3.1」」に記載した理由と同様の理由により、シランカップリング剤を所定の量含有させることによる格別顕著な効果は認められない。
・・(中略)・・
6.結論
したがって、本願の請求項1-3,5に係る発明は、引用文献3,1,4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
・・(後略)」

第5 当審の判断
本願発明につき、上記原査定における「理由2」の「(iii)」と同一の理由が成立するか否かにつき検討する。

1.引用例等に記載された事項
上記原査定における「引用文献3」及び「引用文献4」は、いずれも上記第2の「補正の却下の決定」のII.3.(2)においてそれぞれ示した「引用例1」及び「引用例2」である。(以下においても、それぞれ「引用例1」及び「引用例2」と称呼する。)
したがって、引用例1及び2には、上記第2のII.3.(2)ア.の(ア)及び(イ)で摘示した(ア-1)ないし(ア-10)及び(イ-1)ないし(イ-5)の各事項がそれぞれ記載されている。
また、上記第2のII.3.(2)において「周知例」として新たに引用した特開平10-1643号公報には、上記第2のII.3.(2)ア.の(ウ)で摘示した(ウ-1)ないし(ウ-5)の各事項が記載されている。(以下においても「周知例」と称呼する。)

2.引用例1に記載された発明
引用例1には、上記第2のII.3.(2)イ.(ア)で示したとおりのものであり、再掲すると、
「熱可塑性樹脂100重量部に対して、熱硬化性樹脂1?100重量部を含有してなり、
熱可塑性樹脂は、次の式(I)
【化1】


(ただし、n=2?20の整数を示す。)で表されるテトラカルボン酸二無水物の含量が全テトラカルボン酸二無水物の30モル%以上であるテトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとを反応させて得られるポリイミド樹脂であることを特徴とする接着剤組成物」
に係る引用発明が記載されている。

3.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「熱可塑性樹脂」は、本願発明における「熱可塑性樹脂」に相当する。
そして、引用発明における「熱可塑性樹脂100重量部に対して、熱硬化性樹脂1?100重量部を含有」することは、本願発明における「熱可塑性樹脂100重量部に対して、・・熱硬化性樹脂0.1?200重量部・・を含有」することと、「1?100重量部」の範囲で重複することが明らかである。
してみると、本願発明と引用発明とは、
「熱可塑性樹脂100重量部に対して、熱硬化性樹脂1?100重量部を含有してなることを特徴とする接着剤組成物」
の点で一致し、以下の3点で相違する。

相違点1’:「熱可塑性樹脂」につき、本願発明では、「Tgが200℃以下の」ものであるのに対して、引用発明では、「次の式(I)
【化1】


(ただし、n=2?20の整数を示す。)で表されるテトラカルボン酸二無水物の含量が全テトラカルボン酸二無水物の30モル%以上であるテトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとを反応させて得られるポリイミド樹脂」であり、ガラス転移温度(Tg)につき特定されていない点
相違点2’:「熱硬化性樹脂」につき、本願発明では、「加熱硬化後の270℃における弾性率が5MPa以上となる」ものであるのに対して、引用発明では、「加熱硬化後の270℃における弾性率」につき特定されていない点
相違点3’:本願発明では、「シランカップリング剤0.01?50重量部を含有して」いるのに対して、引用発明では、「シランカップリング剤」の使用につき特定されていない点

4.各相違点についての検討
上記相違点1’ないし3’は、上記第2のII.3.(2)イ.(イ)で示した相違点1ないし3とそれぞれ実質的に同一であることが明らかである。
してみると、相違点1’ないし3’に係る事項は、上記第2のII.3.(2)イ.(ウ)の(ウ-1)ないし(ウ-3)で説示した理由と同一の理由により、いずれも実質的な相違点ではないか、引用発明及び当業者の周知技術に基づき、当業者が適宜なし得ることである。

5.本願発明の効果について
本願発明の効果につき検討すると、本願発明の効果は、上記第2のII.3.(2)イ.(エ)で示した「本件補正発明」のものと同一であるから、同(エ)の欄で説示した理由と同一の理由により、上記引用発明に当業者の周知技術を組み合わせた場合のものに比して、当業者が予期し得ない程度の顕著なものであるとは認められない。

6.中括
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び当業者の周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第6 まとめ
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余につき検討するまでもなく、本願は、特許法第49条第2号の規定に該当し、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-04-26 
結審通知日 2012-05-08 
審決日 2012-05-22 
出願番号 特願2000-353570(P2000-353570)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C09J)
P 1 8・ 121- Z (C09J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松原 宜史  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 目代 博茂
橋本 栄和
発明の名称 接着剤組成物及び半導体装置  
代理人 三好 秀和  

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