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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61B
管理番号 1259395
審判番号 不服2011-6120  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-03-18 
確定日 2012-07-05 
事件の表示 特願2008-163726「X線コンピュータ断層診断装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 9月25日出願公開、特開2008-221016〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成14年7月2日(国内優先権主張 平成13年7月4日)に出願した特願2002-193254号の一部を平成20年6月23日に新たな特許出願としたものであって,平成22年12月15日付けで拒絶査定がされ,これに対し,平成23年3月18日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに,同日付けで手続補正がなされたものである。そして,当審において,同年5月12日付け前置報告の内容を同年6月6日付けで審尋し,同年8月8日付けで回答書が提出された後,当審で,同年12月7日付けで拒絶理由を通知したところ,その応答期間中の平成24年2月13日に意見書および手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?4に係る発明は,平成24年2月13日付け手続補正書により補正された,特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ,その請求項1に係る発明は,次のとおりのものである。

「【請求項1】
X線を曝射するX線源と,
被検体を透過したX線を検出する複数の検出素子を有するX線検出器と,
前記X線検出器の出力に基づいて,前記被検体に関する少なくとも一つのスキャノ像を生成するスキャノ像生成セクションと,
前記少なくとも一つのスキャノ像のX線吸収率に基づいて前記被検体の体厚方向の長さを求め,前記少なくとも一つのスキャノ像のX線吸収率を前記体厚方向と実質的に垂直な方向である体幅方向について積算し得られる積算値に基づいて前記被検体の体幅方向の長さを求め,前記体厚方向の長さと前記体幅方向の長さとに基づいて前記被検体のサイズを判別するサイズ判別セクションと,
判別された前記被検体のサイズに応じて,第1のX線量を曝射する第1の撮影モードと,当該第1のX線量より低線量である第2のX線量を曝射する第2の撮影モードとを選択する撮影モード選択セクションと,
選択された前記撮影モードに基づいて,前記被検体のコンピュータ断層撮影に関する制御を行うコントローラと,
を具備することを特徴とするX線コンピュータ断層撮影装置。」
(以下,「本願発明」という。)

第3 当審の拒絶理由通知
当審における拒絶理由通知の概略は,以下のとおりである。

1) 本件出願は,明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。

2) 本件出願の請求項1?5に係る発明は,その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である特開2001-8930号公報(以下,「刊行物1」という。)に記載された発明,特開2001-43993号公報(以下,「刊行物2」という。)及び特開2000-152924号公報に記載された技術事項,及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

第4 引用刊行物とその記載事項

1 刊行物1
本願出願の優先権主張の日前に頒布された刊行物1には,図面とともに,次の事項が記載されている。(なお,下線は当審にて記したものである。以下同様。)

(1-ア)「【請求項1】 被検体の周囲からX線を照射し得られたデータを処理することで被検体の断層撮像を行うX線CT装置において,
被検体の体軸方向に沿って一方向からX線を照射し得られた被検体の平面像にに関するデータから前記被検体の体厚を測定する体厚測定手段と,
標準体厚データから外れた体厚を有する被検体に適した撮像条件を記憶する撮像条件記憶手段と,
前記体厚測定手段によって測定された体厚データと前記標準体厚データとを比較し,測定された体厚データが標準体厚データから外れている場合,その体厚に適した撮像条件を前記撮像条件記憶手段から読み出し,読み出した撮像条件に基づいて断層像の撮影がなされるよう必要な設定を行う撮像条件設定手段とを備えたことを特徴とするX線CT装置。」

(1-イ)「【0003】X線CT装置を用いて被検体の撮像を行う場合,診断部位,たとえば頭部,胸部,腹部毎に適した管電圧,管電流,撮像時間などの撮像条件を設定することでそれぞれの部位に適した断層像を得ることができる。」

(1-ウ)「【0008】【発明の実施の形態】図1は本発明のX線CT装置の概略構成を示す図である。X線管4及びX線検出器3は対向してガントリ2に配設されており,X線管4からファン状のX線FBを照射しながらガントリ2を連続的に回転させることで寝台1に載置した被検体Mの周囲多方向からの透過X線が多数のX線検出素子3aをアレイ状に配設したX線検出器3によって検知される。」

(1-エ)「【0010】本実施形態のX線CT装置では,被検体Mの平面像(以下,「CR像」という。)を撮像する機能を備えると共に,断層像撮像に先立ってCR像上で撮像すべき断層像の撮像部位を特定できる機能を備えている。CR像は,寝台1を被検体Mの体軸方向に沿って移動させながらガントリ2を静止させた状態でX線管4からX線を照射し続け,X線検出器3より検知されたデータを再構成手段11において合成することで得られる。」

(1-オ)「【0012】CPU13は,コンソール5の指示に基づき,得られたCR像から被検体Mの体厚を算出すると共に,計算された体厚データに基づいて適当な撮像条件を撮像条件-体厚テーブル14から読み出し,コンソール5に読み出した撮像条件を出力する。コンソール5はCPU13から得た撮像条件に基づいて被検体Mの撮像がなされるよう装置全体を制御する。

【0013】図2は,撮像条件-体厚テーブル14に記憶されている体厚に関連した撮像条件が階層的に記憶された状態を示した図である。撮像条件-体厚テーブル14には,撮像部位,CR像の撮像方向,体厚に応じて撮像条件が階層的に記憶されている。腹部と胸部それぞれにおいて,被検体正面から撮像されたA-PのCR像場合と,被検体側面から撮像されたLATERALのCR像の場合とに分けられる。

【0014】腹部及び胸部が撮像される場合共に,A-PのCR像の場合について,標準体厚TAにおける撮像条件,測定された体厚が標準体厚TAより小さい場合,及び大きい場合における撮像条件がそれぞれ記憶されており,また, LATERALのCR像の場合について,同様に標準体厚TLの場合における撮像条件,測定された体厚が標準体厚TLより小さい場合,及び大きい場合における撮像条件がそれぞれ記憶されている。また,それぞれの撮像条件は,測定された体厚が標準体厚TAより小さい場合は,標準体厚に対応する撮像条件よりもX線強度が低くなるように,また,大きい場合は標準体厚に対応する撮像条件よりもX線強度が高くなるように設定される。

【0015】図2のテーブルでは,各体厚毎に複数の撮像条件が記憶可能に構成されており,これは,図4に示されるように,被検体Mに対して1から4のスライス計画線で示されるように複数の撮像を行う場合各撮像毎の撮像条件を記憶するためである。」

(1-カ)「【0021】体厚データT1の測定が終了すると,CPU13は撮像部位,CR像の種類,及び標準体厚データTA又はTLと体厚データT1との比較結果により必要な,撮像条件を撮像条件-体厚テーブル14から読み出し,コンソール5に出力する(S5)。図2に示される例では, 撮像部位,CR像の種類,及び体厚データT1によって特定される撮像条件は複数あり,CPU13はこれら複数の撮像条件をコンソール5に出力し,コンソール5は操作者に適当なものを選択させるようにこれらの複数条件を表示する。
【0022】最終的に撮像条件が操作者によって特定されるとコンソール5は特定された撮像条件で断層撮像がなされるように装置全体に対して撮像制御を行う(S6)。」

(1-キ)「【0025】さらに,患者の性別や,大人,小児でそれぞれ別途標準体厚TA及びTLを設定しておき,それぞれ標準体厚から外れる場合及び標準体厚について適切な撮像条件を記憶させるよう構成してもよい。」

以上の記載事項(1-ア)?(1-キ)を総合すると,上記刊行物1には,以下の発明が記載されていると認められる。

「X線を照射するX線管4と,
被検体Mの周囲多方向からの透過X線を検知する,多数のX線検出素子3aをアレイ状に配設したX線検出器3と,
前記X線検出器3の出力に基づいて,前記被検体Mに関し,被検体正面から撮像されたA-PのCR像と,被検体側面から撮像されたLATERALのCR像を得る手段と,
測定された体厚が標準体厚より小さい場合は,標準体厚に対応する撮像条件よりもX線強度が低くなるように,また,大きい場合は,標準体厚に対応する撮像条件よりもX線強度が高くなるように設定された,複数の撮像条件を記憶する撮像条件記憶手段と,
前記A-PのCR像に基づいて,前記被検体Mの体厚を求めると共に,前記LATERALのCR像に基づいて,前記被検体Mの体厚を求め,測定された各体厚が,各標準体厚より大きいか小さいかを判別する手段と,
前記判別した結果に基づいて,測定された各体厚に適した撮像条件を前記撮像条件記憶手段から読み出し,読み出した撮像条件に基づいて断層像の撮影がなされるよう必要な設定を行う撮像条件設定手段と,
前記読み出した撮像条件で断層撮像がなされるように装置全体に対して制御を行うコンソール5と,
を備えたX線CT装置。」(以下,「引用発明」という。)

2 刊行物2
本願出願の優先権主張の日前に頒布された刊行物2には,図面とともに,次の事項が記載されている。

(2-ア)「【請求項1】 透過X線による撮像対象のプロジェクションの面積および前記撮像対象の断面を楕円と仮定したときの長径と短径の比に基づいてX線管の管電流を調節する管電流調節方法であって,
前記長径または短径のいずれかの方向において前記撮像対象をX線で透視したプロジェクションの面積を求め,
前記透視した方向の径の長さを前記プロジェクションの中央部の値に基づいて定め,前記定めた径に垂直な径の長さを前記求めたプロジェクションの面積と前記求めた径の長さを用いて計算する,ことを特徴とする管電流調節方法。」

(2-イ)「【0004】X線照射・検出装置を撮影対象の周りで回転(スキャン:scan)させて,撮影対象の周囲の複数のビュー(view)方向でそれぞれX線による撮影対象の投影像(プロジェクション:projection)を求め,それらプロジェクションデータ(projection data)に基づいてコンピュータ(computer)により断層像を生成(再構成)する。

【0005】再構成画像の品質を表す指標のひとつとして標準偏差(SD:Standard Deviation)が用いられる。SDは,X線管の管電流を一定としたとき,撮像対象のプロジェクションの面積と強い相関があるので,適正なSDの断層像を得るために,プロジェクションの面積に応じて管電流を自動調節することが行われる。

【0006】管電流の自動調節に当たっては,予め撮像対象をX線で透視してプロジェクションを求め,その面積に応じて適正な管電流を求める。その際,撮像対象となる人体等の断面は概ね楕円形であり,長径方向と短径方向ではX線の透過量が異なるので,オーバルレシオ(oval ratio)すなわち長径と短径の比に応じて,上記求めた管電流を補正するようにしている。

【0007】長径および短径の長さを求めるために,撮像対象を正面(0°方向)および側面(90°方向)からそれぞれX線で透視し,0°方向のプロジェクションの中央部の値を短径の長さとし,90°方向のプロジェクションの中央部の値を長径の長さとする。

【0008】
【発明が解決しようとする課題】上記の管電流調節では,撮像対象を0°方向および90°方向からそれぞれX線で透視しなければならないので能率が悪いという問題があった。また,透視を2度行わなければならないので,撮像対象のX線の被曝量が増えるという問題があった。
【0009】本発明は上記の問題点を解決するためになされたもので,その目的は,能率の良い管電流調節方法および装置,並びに,そのような管電流調節装置を備えたX線CT装置を実現することである。また,撮像対象のX線の被曝量が少ない管電流調節方法および装置,並びに,そのような管電流調節装置を備えたX線CT装置を実現することを目的とする。」

(2-ウ)「【0034】プロジェクション面積計算を図6によって説明する。同図に示すように,撮像対象8についてX線ビーム400により例えば0°方向のプロジェクションを得たとすると,プロジェクション面積計算ユニット602は,データ収集バッファ64から入力した各チャンネルのプロジェクションデータの総和を求め,これをプロジェクションの面積s1とする。

【0035】第1径確定ユニット604は,データ収集バッファ64から入力したプロジェクションデータに基づいて,撮像対象8の断面を楕円と仮定したときの第1の径,すなわち,プロジェクション方向に平行な径の長さを確定する。第1径確定ユニット604は,本発明における径確定手段の実施の形態の一例である。

【0036】プロジェクション方向に平行な径の長さは,プロジェクションの中央部の高さすなわちプロジェクションの中央部におけるプロジェクションデータで表されるので,例えば検出器アレイ24の中央チャンネルで測定したデータに基づくプロジェクションデータを抽出し,これを第1の径の長さr0とする。ここでは,第1の径は,0°方向のプロジェクションから求めたものであるから楕円の短径となる。なお,第1の径を求めるに当たり,中央チャンネルおよびその近傍の複数チャンネルによるプロジェクションデータの平均値を採用することが,確度の高い値を得る点で好ましい。

【0037】第2径計算ユニット606は,プロジェクション面積計算ユニット602から入力したプロジェクション面積と,第1径確定ユニット604から入力した第1の径を用いて,撮像対象8の断面が楕円であると仮定したときの第2の径,すなわち,第1の径に垂直な径(ここでは長径)を計算する。」

(2-エ)「【0049】先ず,ステップ(step)902で,スカウト(scout)撮影を行う。スカウト撮影は,撮像対象8のこれから断層像を撮像しようとする部位について,所定の方向から透視撮影を行うものである。スカウト撮影の方向は例えば0°方向すなわち撮像対象8の正面からとする。なお,0°方向とする代わりに90°方向すなわち撮像対象8の側面から行うようにしても良い。以下,0°方向の例で説明するが,90°方向の場合も同様になる。

【0050】次に,ステップ904でプロジェクション面積s1を計算する。プロジェクション面積s1の計算は,プロジェクション面積計算ユニット602により上述のようにして行われる。

【0051】次に,ステップ906で第1径を確定する。第1径の確定は,第1径確定ユニット604により上述のようにして行われる。次に,ステップ908で第2径を計算する。第2径の計算は,第2径計算ユニット606により上述のようにして行われる。

【0052】次に,ステップ910で管電流を計算する。管電流の計算は,管電流計算ユニット608,オーバルレシオ計算ユニット610および管電流補正ユニット612により上述のようにして行われる。

【0053】このようにして,透視撮影を一方向から行うだけでオーバルレシオによる補正済みの管電流を得ることができる。したがって,管電流調節の能率を高め,また,撮像対象8の被曝量を従来の半分に減らすことができる。」

(2-オ)図6には,撮像対象のプロジェクションの概念図が示されており,ここで,縦軸は信号強度(-ln(I/I_(0))),横軸はチャンネル位置である。

第5 対比・判断

1 対比

本願発明と引用発明とを対比する。

(ア)引用発明における「CR像」は,上記(1-エ)のとおり,「寝台1を被検体Mの体軸方向に沿って移動させながらガントリ2を静止させた状態でX線管4からX線を照射し続け,X線検出器3より検知されたデータを再構成手段11において合成することで得られる」ものであるから,本願発明における「スキャノ像」に相当する。

(イ)引用発明における「A-PのCR像に基づいて」求められた「被検体Mの体厚」は,「A-PのCR像」が「被検体正面から撮像された」CR像であるから,本願発明における「被検体の体厚方向の長さ」に相当し,同様に,引用発明における「LATERALのCR像に基づいて」求められた「被検体Mの体厚」は,「LATERALののCR像」が「被検体側面から撮像された」CR像であるから,本願発明における「被検体の体幅方向の長さ」に相当する。

(ウ)引用発明では,「A-PのCR像に基づいて」求められた「被検体Mの体厚」及び「LATERALのCR像に基づいて」求められた「被検体Mの体厚」が,各標準体厚より大きいか小さいかを判別しているから,引用発明では,「A-PのCR像に基づいて」求められた「被検体Mの体厚」及び「LATERALのCR像に基づいて」求められた「被検体Mの体厚」に基づいて,被検体のサイズを判別しているといえる。したがって,引用発明と本願発明とは,「体厚方向の長さ」と「体幅方向の長さ」とに基づいて「被検体のサイズを判別する」点で共通する。

(エ)引用発明における「標準体厚に対応する撮像条件」は,本願発明における「第1のX線量を曝射する第1の撮影モード」に相当し,引用発明における「標準体厚に対応する撮像条件よりもX線強度が低くなるよう」な「撮像条件」は,本願発明における「当該第1のX線量より低線量である第2のX線量を曝射する第2の撮影モード」に相当するのは,その構成からみて明らかである。

(オ)引用発明における「コンソール5」は,「前記読み出した撮像条件で断層撮像がなされるように装置全体に対して制御を行う」ものであり,上記(エ)のとおり,引用発明における「撮像条件」は,本願発明における「撮影モード」に相当するものであるから,引用発明における「コンソール5」は,本願発明における「選択された前記撮影モードに基づいて,前記被検体のコンピュータ断層撮影に関する制御を行うコントローラ」に相当する。

してみると,本願発明と引用発明は,
「X線を曝射するX線源と,
被検体を透過したX線を検出する複数の検出素子を有するX線検出器と,
前記X線検出器の出力に基づいて,前記被検体に関する少なくとも一つのスキャノ像を生成するスキャノ像生成セクションと,
前記少なくとも一つのスキャノ像に基づいて,前記被検体の体厚方向の長さ及び体幅方向の長さを求め,前記体厚方向の長さと前記体幅方向の長さとに基づいて前記被検体のサイズを判別するサイズ判別セクションと,
判別された前記被検体のサイズに応じて,第1のX線量を曝射する第1の撮影モードと,当該第1のX線量より低線量である第2のX線量を曝射する第2の撮影モードとを選択する撮影モード選択セクションと,
選択された前記撮影モードに基づいて,前記被検体のコンピュータ断層撮影に関する制御を行うコントローラと,
を具備するX線コンピュータ断層撮影装置」
である点で一致し,次の点で相違する。

(相違点1)本願発明では,前記少なくとも一つのスキャノ像のX線吸収率に基づいて前記被検体の体厚方向の長さを求め,前記少なくとも一つのスキャノ像のX線吸収率を前記被検体の体幅方向について積算し得られる積算値に基づいて前記被検体の体幅方向の長さを求めているのに対し,引用発明では,A-PのCR像に基づいて,前記被検体の体厚方向の長さを求めると共に,前記LATERALのCR像に基づいて,前記被検体の体幅方向の長さを求めている点。

2 判断

相違点1について検討する。

まず,被検体の体厚方向の長さについて検討すると,刊行物2には,上記記載事項(2-ア)?(2-ウ)のとおり,「X線による撮影対象の投影像」,すなわち「プロジェクション」を求め,それら「プロジェクションデータ」に基づいて,「撮像対象8の断面を楕円と仮定したときの第1の径,すなわち,プロジェクション方向に平行な径の長さ」を確定することが記載されている。ここで,「撮像対象8の断面を楕円と仮定したときの第1の径,すなわち,プロジェクション方向に平行な径の長さ」とは,「プロジェクション方向」が撮像対象に対する正面方向(0°方向)であることから,撮像対象の体厚方向の長さであることは明らかである。また,「プロジェクションデータ」とは,上記記載事項(2-オ)のとおり,各チャンネルにおける信号強度(-ln(I/I_(0)))のことであって,当該信号強度(-ln(I/I_(0)))が,X線吸収率を反映した信号であることは,技術常識である。してみると,刊行物2に記載された,プロジェクションデータに基づいて撮像対象の体厚方向の長さを求めるとの技術事項は,X線による投影像のX線吸収率に基づいて,撮像対象の体厚方向の長さを求めることと,実質的に差異がない。

次に,被検体の体幅方向の長さについて検討すると,刊行物2には,上記記載事項(2-ウ)のとおり,撮像対象についてX線ビームにより0°方向の「プロジェクション」を得,「各チャンネルのプロジェクションデータの総和」を求めてこれを「プロジェクションの面積s1」とし,前記「プロジェクション面積」と,撮像対象の体厚方向の長さである「第1の径」を用いて,「撮像対象8の断面が楕円であると仮定したときの第2の径,すなわち,第1の径に垂直な径(ここでは長径)」を計算することが記載されている。ここで,「第2の径」とは,撮像対象の体厚方向の長さである「第1の径」に垂直な径であるから,撮像対象の体幅方向の長さであることは明らかである。また,上記「プロジェクション面積」とは,0°方向のプロジェクションに関する「各チャンネルのプロジェクションデータの総和」のことであるから,上記「プロジェクション面積」は,プロジェクションデータを前記被検体の体幅方向について積算し得られる積算値であるといえる。さらに,「プロジェクションデータ」とは,上記したとおりX線吸収率を反映した信号であるといえるから,上記「プロジェクション面積」は,X線による投影像のX線吸収率を前記被検体の体幅方向について積算し得られる積算値と実質的に差異はない。

そして,上記したとおり,刊行物2には,X線CT装置において,0°方向すなわち撮像対象の正面から撮影されたプロジェクションデータに基づいて,撮像対象の体厚方向の長さ及び体幅方向の長さを求めることが記載されており,これにより,上記記載事項(2-イ)および(2-エ)のとおり,撮像対象のX線の被曝量を少なくするという課題を解決している。

さらに,引用発明と刊行物2に記載された技術事項とは,共にX線コンピュータ断層診断装置に関するものであり,また,撮像対象のX線被曝量を少なくするという課題は,当該技術分野における技術常識であるから,撮像対象のX線被曝量を低減する目的で,引用発明に刊行物2に記載された技術事項を組み合わせ,本願発明となすことは,当業者であれば容易に想到し得ることである。

そして本願発明の有する効果は,刊行物1及び2の記載事項から,当業者が予測できる範囲のものであり,格別顕著なものとはいえない。

3 請求人の主張について
請求人は,平成24年2月13日に提出した意見書において,「本願発明によれば,以下の非自明な効果を実現することができます。すなわち,少なくとも一つのスキャノ像のX線吸収率に基づいて被検体の体厚と体幅とを求めることで被検体のサイズを判別しています。従って,単なる幾何学的な大きさのみならず,体厚方向及び体軸方向に関する質的な違い(X線吸収率の違い)をも考慮して被検体のサイズを判別することができます。…これに対し,刊行物1に記載の発明及び刊行物2に記載の発明は,被検体の体幅,体厚の少なくともいずれか一方については単なる幾何学的な情報に基づいて計算するに過ぎないため,本願発明の様な効果を実現することはできません。」と主張している。
しかしながら,刊行物2に記載された「プロジェクション面積」は,上記したとおり,X線吸収率を反映した信号に基づいたものであって,単なる幾何学的な情報に基づいて計算したものではないから,請求人の上記主張は採用できない。

4 まとめ
以上のことから,本願発明は,引用発明,刊行物2記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるというべきである。

第6 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないから,その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-04-27 
結審通知日 2012-05-08 
審決日 2012-05-21 
出願番号 特願2008-163726(P2008-163726)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 南川 泰裕五閑 統一郎  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 後藤 時男
小野寺 麻美子
発明の名称 X線コンピュータ断層診断装置  
代理人 峰 隆司  
代理人 岡田 貴志  
代理人 佐藤 立志  
代理人 竹内 将訓  
代理人 砂川 克  
代理人 野河 信久  
代理人 村松 貞男  
代理人 河野 哲  
代理人 白根 俊郎  
代理人 福原 淑弘  
代理人 中村 誠  
代理人 河野 直樹  
代理人 堀内 美保子  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 幸長 保次郎  

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