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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04D
管理番号 1259402
審判番号 不服2011-11252  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-05-30 
確定日 2012-07-05 
事件の表示 特願2006-239945「防火・防水外装構造」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 3月21日出願公開、特開2008- 63735〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成18年9月5日の出願であって,平成23年3月4日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年5月30日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同時に手続補正がなされたものである。
その後,同年9月7日付けで,審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったが回答はなされなかった。

第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年5月30日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正後の本願発明
平成23年5月30日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,特許請求の範囲の請求項1を,次のように補正しようとする補正事項を含むものである。
「【請求項1】下地の表面全域に,予め金属板及び防水シートを部分的に接着した複合防水シート材を複数枚敷設,固定して各複合防水シート材における金属板同士を重合して固定することにより防火層を形成し,その重合部に何れか一方の複合防水シート材における防水シートを被覆すると共に防水シート同士を熱融着した防水層を構築してなることを特徴とする防火・防水外装構造。」

上記補正は,請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である複数枚敷設,固定される複合防水シート材の「金属板」により形成される層について,「金属板同士を重合状又は対向状に敷設」していたものを「重合して固定」したものに限定し,防水シートの下側に形成される層を「金属層」から「防火層」に限定するものであると認められるから,本件補正は,少なくとも,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正事項を含むものである。

そこで,本件補正後の上記請求項1に係る発明(以下,「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか,すなわち,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしているか,について以下に検討する。

2 独立特許要件違反(特許法第29条第2項違反)
2-1 引用刊行物
(1)刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された刊行物である,特開昭62-107148号公報(以下「刊行物1」という。)には,以下の記載がある(下線は当審にて付与。)
(1a)「2.特許請求の範囲
【1】(イ)モジュール寸法に形成され,かつ適度な重量を有する裏地板(1)の上に防水シート(2)を一体的に貼付けると共に該防水シート(2)の周辺部は裏地板(1)よりも突出させた重ね代(2a)として成る防水シートユニット(A)を予め製作し,
(ロ)被防水面(B)に前記防水シートユニット(A)の裏地板(1)を順次敷きつめると共に,重ね代(2a)を隣接の防水シートユニット(A)の防水シート(2)上に重ねて一体的に接合する工程より成ることを特徴とするシート防水工法。
【2】特許請求の範囲第1項に記載した重ね代(2a)の接合は,接着又は熱溶着として行なうことを特徴とするシート防水工法。」(特許請求の範囲)

(1b)「この発明は,木造,鉄骨造,鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造建物の例えば屋上スラブ,屋根,ベランダ,ひさしあるいは地下室の床面等々に高分子系防水シートを張設することにより行なうシート防水工法と,該シート防水工法の実施に直接使用される防水シートユニットに関する。」(第2頁左上欄第18行?同頁右上欄第4行)

(1c)「そして,防水シート2は相互に重ね代2aで一体的に接合することによって一枚シート状となり,被防水面Bの全面にわたり完全なシート防水の効能を発揮することになるのである。」(第4頁左上欄第2行?同欄第5行)

(1d)「まず第1図?第3図は,この発明に係る防水シートユニットAの第1実施例を示している。図中1はたて×よこが90×180cm位の長方形で,厚さが10?20mm位のモジュール寸法に形成された裏地板である。これは材質上の特性として重しとなる程度の重量があり,収縮せず,吸水性がなく,耐候性に優れ,動的耐荷重性,断熱性の良い材料,であることが必要であり,本実施例のものはコンクリートで作られている。但し,プラスチック板や木板,合板,陶板,セラミック板,鉄板なども裏地板1として利用でき,シート防水の目的,用途に応じて裏地板1の材質が選択される。」(第4頁左上欄第9行?同欄第20行)

(1e)「図中2は例えば塩化ビニル,ポリエチレン,ポリエチレン等を主原料とする高分子系防水シートであり,これは接着剤により前記裏地板1の上に一体的に貼付けられている。なお,この防水シート2の材質に関しては,歩行用,非歩行用,兼用型の用途に応じてその都度適性のあるものが選択使用される。
防水シート2の周辺部の特に直角2辺部分は,幅寸にして約10cm位を裏地板1よりも突出させてこれが重ね代2aとして形成されている。この重ね代2aの一体的接着又は熱溶着を達成するために,防水シート2の材質は,塩ビ系シート,非加硫シート,アスファルト系シートであることが望ましい。」(第4頁右上欄第1行?同欄第14行)

(1f)第1図



(1g)第4図



記載(1a),(1d),(1g)からみて,裏地板1は被防水面Bに敷きつめられており,裏地板の材料として鉄板を利用する点についても記載されていることから,鉄板で作られた裏地板1同士を対向状に敷きつめることにより,複数の防水シートユニットAも敷きつめられているものと認められる。
また,記載(1a),(1e),(1g)からみて,一方の防水シートユニットAの裏地板1の対向部を含む端部を,隣接する他方の防水シートユニットAの防水シート2の重ね代2aが被覆しているものと認められる。
以上を総合すると,上記記載(1a)?(1g)からみて,刊行物1には,以下の発明が記載されていると認められる(以下,「刊行物1記載の発明」という。)。
「被防水面Bの表面に,予め鉄板で作られた裏地板1の上に防水シート2を一体的に貼り付けた防水シートユニットAを複数枚敷きつめ固定して各防水シートユニットAにおける裏地板1を対向状に敷きつめて固定しており,一方の防水シートユニットAの裏地板1の端部を隣接する他方の防水シートユニットAの防水シート2の重ね代2aで被覆すると共に,隣接する防水シート2同士を熱溶着した一枚シート状とした屋上スラブ,屋根,ベランダ,ひさし等の防水構造。」

(2)刊行物2
原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された刊行物である,実願昭54-099285号(実開昭56-016719号)のマイクロフィルム(以下「刊行物2」という。)には,以下の記載がある(下線は当審にて付与。)。
(2a)「実用新案登録請求の範囲
1 断熱作用あるいは緩衝作用を有する保護シートが防水シート本体と積層一体化されてなる防水シートにおいて,前記保護シートと防水シート本体とは互いに積層されない部分が形成され,しかも積層されてなく外部に突出している防水シート部分側の保護シート縁部は防水シートと非接着の状態となつていることを特徴とする防水シート。」(実用新案登録請求の範囲)

(2b)「第3図は,この考案の防水シートを数枚用いてコンクリート屋根の表面へ,継ぎの施工状態を示したものである。
その施工作業状況によれば,先ず衝き合わせ作業においては,防水シート同志を巾方向に衝き合わせた訳であるが,第4図にも示すように,防水シート本体9の突出面11を上方向に少々曲げれば両方の発泡ポリエチレンシート10,10の非積層面12及び非接着面13は露出されるので,作業者はその両方の発泡ポリエチレンシート10,10の衝き合わせ面14,15同志が接触しているか否か極めて簡単にチェックすることができることが判つた。しかもそのため衝き合わせ面部に生ずる恐れのあるすき間発生を防止できた。」(明細書第4頁第9行?第5頁第2行)

(2c)「またこの施工例は,発泡ポリエチレンシート10と10同志をシーラントテープ16を用いてシールして二重の防水効果をねらつたもので,その際のシール作業については,第4図にも示すように防水シート本体9の突出面11を上方向に曲げれば,発泡ポリエチレンシート10及び10の非接着面13部と非積層面13(12の誤記と認められる)部が容易に露出されるので,それらのシート10,10同志のシート作業も極めて簡単にしかも確実に行うこともできる。」(明細書第5頁第14行?第6頁第2行)

(2d)第2図



(2e)第4図



(3)刊行物3
本願出願前に頒布された刊行物である,特開2001-132177号公報(以下「刊行物3」という。)には,以下の記載がある(下線は当審にて付与。)。
(3a)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】上記のような従来の防水工法は,施工の際と防水の際ともに,地層を平らにする平坦作業を前処理工程で行なうのみならず,現場で直接施工しなければならないので,本発明は,このような従来の防水工法の難題を解消すべく,耐亀裂抵抗性と引張強度及び耐火性などの材質的な特性の優れた硬質シートを素材にした防水シートを用いて現場で直接施工ができるようにするのみならず,硬質シートを素材にして単位規格化した防水シートを予め用意した後,これを現場で簡単に施工できるようにすることによって,工事期間を短縮し,地層の亀裂から発生する防水層の瑕疵要因を完全に一掃し,硬質シートの前後処理工程による多数個の層とともに復層構造をなすことによって,断熱性を優秀にすると同時に外観が美麗な高品質の防水層を得ようとするものである。」

(3b)「【0006】
【発明の実施の形態】図1及び図2は,本発明による防水工程図であり,図3?図8は,本発明による工法で施工された防水層の各部断面図であって,建物の地層(1)表面に合成樹脂または合成ビニルなどの材質からなる防湿布(2)を敷設するが,地層(1)の表面が過大に不均一である場合,層均し工程が先行されなければならず,必要の場合,地層(1)表面に水傾斜句配処理工程を行なった後,その表面に防湿布(2)を敷設する。防湿布(2)の上層に地層(1)の規格及び形態を勘案して切断した金属材硬質シート(3)を敷設するが,各硬質シート(3)の継ぎ部が対面するようにするか,重なるようにし,必要に応じて選択的に固定釘(7)を用いて地層(1)に貫通・打釘した後,継ぎ部に不織布(6’)を敷設してその表面にテープ(6)をテーピングする。」

(3c)「【0009】このような本発明は,前述のように施工しようとする現場の条件に応じ,全工程を現場で直接行なう一般工法,工場などで硬質シート(3)に塗膜防水層(4)を予め形成させ,単位規格化した防水シート(5)を現場へ運搬して後続工程のみで施工を行なうようにした乾式工法,及び一般工法と乾式工法を混合した半乾式工法で防水層の施工ができるようになり,いかなる工法で施工しても硬質シート(3)は,防湿布(2)や断熱材(11)上に単に積層された状態であるため,地層(1)より水分が蒸発する場合,これらの間の微細な間隙を通じて防水層の縁部から排出されるので,建物自体が発生する水分は,外部へ無理なく放出させるだけでなく,硬質シート(3)の弾性が平滑度を維持するようになるので,地層(1)の表面が不均一であっても,地層均し工程が省略できるとともに,塗膜防水層(4)の毀損を防止して寿命の長期化ができるとともに塗膜または接着式工法を採択した従来の防水層とは異なって簡便・容易な補修作業をも提供するようになる。」

(3d)「【0010】一方,各硬質シート(3)の縁部が対面する継ぎ部は,図4?図6に図示しているように,対面継ぎと重なり継ぎ法を選択して施工することができるが,温度変化が激しいところや,防水層表面を活用しなければならない用途を有するところでは,固定釘(7)を用いて硬質シート(3)の縁部を地層(1)に貫通固定することによって,伸縮及び流動による防水層の毀損を防止するようになり,図7に図示しているように,建物の縁部などに発生する引上げ部(1’)のような端部の内向端部(1a’)には,硬質シート(3)を角度45°程度になるよう面接機処理を行なうとともに,外向端部(1b’)との間に余裕間隙(8)を形成することにより,気候条件によって硬質シート(3)が柔軟に伸縮されるようにして毀損を防止するようにし,引上げ部(1’)と近接される平滑面側には,ループ形態の伸縮部(9)を形成することによって,温度変化の際,硬質シート(3)が伸縮されても,伸縮部(9)がその長さを補正するようにして防水層に皺や亀裂などの欠陥が発生されるのを防止することができる。」

(3e)第6図



2-2 補正発明と刊行物1記載の発明との対比
刊行物1記載の発明と補正発明とを対比すると,
刊行物1記載の発明の「被防水面B」は,補正発明の「下地」に相当し,以下同様に,
「裏地板1」は,「金属板」に,
「防水シート2」は,「防水シート」に,
「防水シートユニットA」は,「複合防水シート材」に,
「熱溶着」は,「熱融着」に,
それぞれ相当する。
ここで,刊行物1の記載(1a)の「被防水面(B)に前記防水シートユニット(A)の裏地板(1)を順次敷きつめる」からみて,刊行物1記載の発明では「裏地板」を「被防水面(B)」の表面全域に敷設することにより,「裏地板」からなる「層」を形成しているものと認められる。よって,刊行物1記載の発明の「敷きつめ(ること)」は,補正発明の「敷設」に相当する。
また,補正発明の「防火層」は,本願明細書【0025】に「金属層があるために飛び火等による延焼を防ぐことができる」とあるように,複数の金属板により形成された層が飛び火等の延焼を防ぐための防火の機能も有していると認められるところ,刊行物1記載の発明において「被防水面Bの表面に,・・・各防水シートユニットAにおける裏地板1を敷きつめて」いることと,補正発明において「下地の表面全域に,・・・各複合防水シート材における金属板同士を重合して固定すること」は,「金属板を下地の表面全域に配置して固定」している点で共通していると認められることから,刊行物1記載の発明も補正発明と同様に複数の金属板により層が形成されており,当該層は防火の機能も有しているものと認められる。よって,刊行物1記載の発明の鉄板で作られた裏地板1を敷きつめて形成した「層」は,補正発明の「防火層」に相当する。
さらに,刊行物1記載の発明において「一方の防水シートユニットAの裏地板1の端部を隣接する他方の防水シートユニットAの防水シート2の重ね代2aで被覆する」点と補正発明において「その重合部に何れか一方の複合防水シート材における防水シートを被覆する」点は,「一方の複合防水シート材の金属板の端部に他方の複合防水シート材における防水シートを被覆する」において共通しているものと認められる。

したがって,両者は以下の点で一致している。
「下地の表面全域に,予め金属板及び防水シートを接着した複合防水シート材を複数枚敷設,固定して各複合防水シート材における金属板を下地の表面全域に配置して固定することにより防火層を形成し,一方の複合防水シート材の金属板の端部に他方の複合防水シート材における防水シートを被覆すると共に防水シート同士を熱融着した防水層を構築してなる防火・防水外装構造。」

そして,以下に示す点で相違している。
<相違点>
(相違点1)
予め金属板及び防水シートを接着した複合防水シート材について,
補正発明では,部分的に接着しているのに対し,
刊行物1記載の発明では,接着が部分的なものであるのかについては明らかでない点。

(相違点2)
一方の複合防水シート材の金属板の端部に他方の複合防水シート材における防水シートを被覆する防火・防水外装構造について,
補正発明では,「金属板同士を重合して」,「その重合部に何れか一方の複合防水シート材における防水シートを被覆」しているのに対して,
刊行物1記載の発明では,「金属板を敷きつめて固定」しているため,金属板同士を「重合して」固定しておらず,それに伴い「重合部を防水シートで被覆」してはいない点。

2-3 判断
(相違点1について)
刊行物2には,記載(2a)の「保護シートが防水シート本体と積層一体化されてなる防水シート」,記載(2d),(2e)の「シート10」(保護シート)と「防水シート本体9」の位置関係からみて,上側層である「防水シート本体」と下側層である「保護シート」とを積層一体化して「防水シート」を形成していると認められることから,刊行物2の「防水シート本体」,「防水シート」は,それぞれ補正発明の「防水シート」,「複合防水シート材」に相当する。
また,記載(2a)の「保護シートと防水シート本体とは互いに積層されない部分が形成され,しかも積層されてなく外部に突出している防水シート部分側の保護シート縁部は防水シートと非接着の状態となつている」,記載(2b)の「防水シートを複数用いてコンクリート屋根の表面へ,継ぎの施工状態を示したものである」,及び,「防水シート本体9の突出面11を上方向に少々曲げれば両方の発泡ポリエチレンシート10,10の非積層面12及び非接着面13は露出されるので,作業者はその両方の発泡ポリエチレンシート10,10の衝き合わせ面14,15同志が接触しているか否か極めて簡単にチェックすることができる」,記載(2c)の「防水シート本体9の突出面11を上方向に曲げれば,発泡ポリエチレンシート10及び10の非接着面13部と非積層面13(12の誤記と認められる)部が容易に露出されるので,それらのシート10,10同志のシート作業も極めて簡単にしかも確実に行うこともできる」からみて,刊行物2では,作業者のチェック作業・シート作業の容易化のために,予め「保護シート」と「防水シート本体」を部分的に接着しているものと認められる。

刊行物1記載の発明,刊行物2記載の「防水シート」は,下側層と上側層である防水シートを予め接着しており,刊行物1に記載の発明も作業者のチェック作業・シート作業を容易化したいとの課題を有していることは明らかであることから,当該課題を解決するために刊行物1記載の発明の上側層である「防水シート2」と下側層である「金属板」の接着構造として,刊行物2記載の上側層と下側層を部分的に接着する構造を採用して,相違点1に係る発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

(相違点2について)
刊行物3には,記載(3a)の「耐火性などの材質的な特性の優れた硬質シートを素材にした防水シートを用いて現場で直接施工ができるようにするのみならず,硬質シートを素材にして単位規格化した防水シートを予め用意した後,これを現場で簡単に施工できるようにすることによって,工事期間を短縮」,記載(3b)の「防湿布(2)の上層に地層(1)の規格及び形態を勘案して切断した金属材硬質シート(3)を敷設するが,各硬質シート(3)の継ぎ部が対面するようにするか,重なるようにし,必要に応じて選択的に固定釘(7)を用いて地層(1)に貫通・打釘した後,継ぎ部に不織布(6’)を敷設してその表面にテープ(6)をテーピングする。」,記載(3c)の「工場などで硬質シート(3)に塗膜防水層(4)を予め形成させ,単位規格化した防水シート(5)を現場へ運搬して後続工程のみで施工を行なう」,記載(3d)の「固定釘(7)を用いて硬質シート(3)の縁部を地層(1)に貫通固定することによって,伸縮及び流動による防水層の毀損を防止する」,記載(3e)において金属材硬質シート3同士を重合して固定していると認められることからみて,「工事期間を短縮するために金属材硬質シート3と塗膜防水層4を単位規格化した防水シート5において,各金属材硬質シート3の継ぎ部が対面するようにするか,重なるようにし,金属材硬質シートを地層1に固定釘7を用いて固定した構造」が記載されているものと認められ,刊行物3に記載の「金属材硬質シート3」,「塗膜防水層4」,「防水シート5」,「地層1」は,それぞれ補正発明の「金属板」,「防水シート」,「複合防水シート材」,「下地」に相当する。

刊行物1記載の発明と刊行物3記載の「構造」は,いずれも予め金属板及び防水シートを接着した複合防水シート材を用いるものである点で共通しており,刊行物3には「金属材硬質シート3」の継ぎ部について,対面するように配置しても重なるように配置してもよい旨記載されていることを踏まえると,刊行物1記載の発明における「裏地板1」の継ぎ部の配置について,敷きつめた(対面するようにした)配置に代えて,刊行物3に記載の重なるようにした配置を採用することは当業者が容易に想到し得たことである。
また,刊行物1記載の発明では「一方の防水シートユニットAの裏地板1の端部を隣接する他方の防水シートユニットAの防水シート2の重ね代2aが被覆して」おり,「隣接する防水シート2同士を熱溶着した一枚シート状」としていることから,刊行物1記載の発明における「裏地板1」の配置について,対面するようにした配置に代えて,重なるように配置した場合に,各裏地板1の重なる部分の上にも防水シート2が位置し,該重なる部分を防水シート2が被覆することは明らかである。

そして,補正発明の作用効果は,刊行物1記載の発明及び刊行物2,3に記載の事項から予測できる程度のものである。

したがって,補正発明は,刊行物1記載の発明及び刊行物2,3に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 補正の却下の決定のむすび
以上より,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
1 本願発明
平成23年5月30日付けの手続補正は却下されたので,本願の請求項1?3に係る発明は,平成22年7月8日付けで手続補正された請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ,そのうち,請求項1に係る発明は,以下のとおりのものである。
「【請求項1】 下地の表面全域に予め金属板及び防水シートを部分的に接着した複合防水シート材を複数枚敷設,固定して各複合防水シート材における金属板同士を重合状又は対向状に敷設して金属層を形成し,その重合部又は対向部に何れか一方の複合防水シート材における防水シートを被覆すると共に防水シート同士を熱融着した防水層を構築してなることを特徴とする防火・防水外装構造。」(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

2 引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された,刊行物1,2とその記載事項は,前記「第2 2 2-1 」の「(1)」,「(2)」に記載したとおりである。

3 対比・判断
刊行物1記載の発明と本願発明とを対比すると,
刊行物1記載の発明の「被防水面B」は,本願発明の「下地」に相当し,以下同様に,
「裏地板1」は,「金属板」に,
「防水シート2」は,「防水シート」に,
「防水シートユニットA」は,「複合防水シート材」に,
「熱溶着」は,「熱融着」に,
それぞれ相当する。
ここで,刊行物1の記載(1a)の「被防水面(B)に前記防水シートユニット(A)の裏地板(1)を順次敷きつめる」からみて,刊行物1記載の発明では「裏地板」を「被防水面(B)」の表面全域に敷設することにより,「裏地板」からなる「層」を形成しているものと認められる。よって,刊行物1記載の発明の「敷きつめ(ること)」は,補正発明の「敷設」に相当する。
また,本願発明の「防火層」は,本願明細書【0025】に「金属層があるために飛び火等による延焼を防ぐことができる」とあるように,複数の金属板により形成された層が飛び火等の延焼を防ぐための防火の機能も有していると認められるところ,刊行物1記載の発明も同様に複数の金属板により層が形成されていることから,当該層は防火の機能も有しているものと認められる。よって,刊行物1記載の発明の裏地板1を敷きつめて形成した「層」は,本願発明の「防火層」に相当する。

したがって,両者は以下の点で一致している。
「下地の表面全域に予め金属板及び防水シートを接着した複合防水シート材を複数枚敷設,固定して各複合防水シート材における金属板同士を対向状に敷設して金属層を形成し,その対向部に何れか一方の複合防水シート材における防水シートを被覆すると共に防水シート同士を熱融着した防水層を構築してなる防火・防水外装構造。」

そして,「第2 2 2-2」の「相違点1」と同様の以下の点について,相違している。

<相違点>
予め金属板及び防水シートを接着した複合防水シート材について,
本願発明では,部分的に接着しているのに対し,
刊行物1記載の発明では,接着が部分的なものであるのかについては明らかでない点。

「第2 2 2-3」の「相違点1について」で示したのと同様の理由により,刊行物1記載の発明の上側層である「防水シート2」と下側層である「金属板」の接着構造として,刊行物2記載の上側層と下側層を部分的に接着する構造を採用して,相違点1に係る発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

そして,本願発明の作用効果は,刊行物1記載の発明及び刊行物2に記載の事項から予測できる程度のものである。

したがって,本願発明は,刊行物1記載の発明及び刊行物2に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は特許を受けることができないものであることから,本願の他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-04-24 
結審通知日 2012-05-08 
審決日 2012-05-22 
出願番号 特願2006-239945(P2006-239945)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E04D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西村 隆  
特許庁審判長 鈴野 幹夫
特許庁審判官 中川 真一
横井 巨人
発明の名称 防火・防水外装構造  
代理人 福田 賢三  
代理人 福田 伸一  
代理人 加藤 恭介  

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