• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01S
管理番号 1259407
審判番号 不服2011-12808  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-06-15 
確定日 2012-07-05 
事件の表示 特願2006-314510「半導体発光素子および半導体発光素子の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 6月 5日出願公開、特開2008-130832〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成18年11月21日の出願であって、平成22年5月21日付けで拒絶理由が通知され、同年7月23日に手続補正がなされたが、平成23年3月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年6月15日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものであって、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次の事項により特定されるものと認められる。

「第1導電型の略単一のAl組成を有するAlGaNよりなるクラッド層と、
前記クラッド層上に形成された、略単一のIn組成を有するIn_(s)Ga_(1-s)N(0≦s<1)よりなる中間層と、
前記中間層上に形成された、略単一のIn組成を有するIn_(t)Ga_(1-t)N(0≦t<0.5)よりなる緩衝層と、
前記緩衝層上に形成されたInGaNよりなる量子井戸発光層とを備え、
前記量子井戸発光層はIn濃度が相対的に高いIn_(u)Ga_(1-u)N(0<u<0.5)よりなる井戸層と、In濃度が相対的に低いIn_(v)Ga_(1-v)N(0≦v<u)よりなる障壁層とを有し、
前記緩衝層のIn濃度は前記中間層のIn濃度よりも高く、かつ前記井戸層のIn濃度は前記緩衝層のIn濃度よりも高く、
Al_(w)Ga_(1-w)N(0≦w≦1)よりなる基板をさらに備え、
前記クラッド層は前記基板の一方の主面上に形成されることを特徴とする、半導体発光素子。」

2.刊行物の記載
(1)刊行物1
原査定の拒絶理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2000-299532号公報(以下「刊行物1」という。)には、図とともに次の記載がある。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 基板上に、少なくともn型クラッド層、n型ガイド層、活性層、p型ガイド層及びp型クラッド層を有する窒化物半導体レーザ素子において、前記n型及び/又はp型クラッド層が、活性層に接近するにつれて、Al組成が少なくなるように組成傾斜されているAl_(a)Ga_(1-a)N(0≦a<1)を有する第1の窒化物半導体を含んでなり、前記活性層が、In_(b)Ga_(1-b)N(0≦b<1)を含んでなる量子井戸構造であり、前記n型及び/又はp型ガイド層が、活性層に接近するにつれて、Inの組成が多くなるように組成傾斜され、但しInの組成が活性層の井戸層のInの組成より少ないようにされているIn_(d)Ga_(1-d)N(0≦d<1)を有する第2の窒化物半導体を含んでなることを特徴とする窒化物半導体レーザ素子。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、LED(発光ダイオード)、SLD(スーパールミネッセントダイオード)、LD(レーザダイオード)等の発光素子、太陽電池、光センサー等の受光素子、あるいはトランジスタ、パワーデバイス等の電子デバイスに使用される窒化物半導体(In_(X)Al_(Y)Ga_(1-X-Y)N、0≦X、0≦Y、X+Y≦1)素子に関し、特に、光閉じ込めが良好な青色(およそ400nm付近)よりも長波長のレーザ光の得られる窒化物半導体レーザ素子に関する。」

ウ 「【0007】…、本発明の目的は、ガイド層や活性層等の結晶性を向上させ、長波長のレーザ光を得ることができる窒化物半導体レーザ素子を提供することである。」

エ 「【0012】…、本発明は、…、窒化物半導体を用いて長波長のレーザ光の発振を達成しようとする場合に生じる結晶性の著しい低下という窒化物半導体における特有の問題点を、クラッド層やガイド層の組成を傾斜させることで格子定数の差を徐々に変化させ結晶にかかる歪みを緩和することにより解決するものである。本発明において、組成傾斜されている層としては、n型及びp型クラッド層の少なくとも一方と、n型及びp型ガイド層の少なくとも一方とが組成傾斜されていればよいが、好ましくは、n型又はp型クラッド層と、n型及びp型ガイド層が組成傾斜され、より好ましくはn型クラッド層、n型ガイド層、p型クラッド層及びp型ガイド層が組成傾斜されていると、結晶性の向上の点で好ましい。」

オ 「【0062】
【実施例】以下に本発明の一実施の形態である実施例を示す。しかし本発明はこれに限定されない。
【0063】[実施例1]実施例1として、図1に示される本発明の一実施の形態である窒化物半導体レーザ素子を製造する。また発明の詳細な説明に記載したように、In組成比の理論値の計算式の値と、量子井戸構造をとる量子準位の形成による短波長へのシフトなどによる実際の発振波長とは異なるために、実施例の活性層のIn組成比は近似的な値である。
【0064】異種基板として、図3に示すようにステップ状にオフアングルされたC面を主面とし、オフアングル角θ=0.15°、ステップ段差およそ20オングストローム、テラス幅Wおよそ800オングストロームであり、オリフラ面をA面とし、ステップがA面に垂直であるサファイア基板を用意する。このサファイア基板を反応容器内にセットし、温度を510℃にして、キャリアガスに水素、原料ガスにアンモニアとTMG(トリメチルガリウム)とを用い、サファイア基板上にGaNよりなる低温成長のバッファ層を200オングストロームの膜厚で成長させる。バッファ層成長後、TMGのみ止めて、温度を1050℃まで上昇させ、1050℃になったら、原料ガスにTMG、アンモニア、シランガスを用い、アンドープのGaNからなる高温成長のバッファ層を5μmの膜厚で成長させる。次に、高温成長のバッファ層を積層したウェーハ上にストライプ状のフォトマスクを形成し、CVD装置によりストライプ幅18μm、窓部の幅3μmのSiO_(2)よりなる保護膜を0.1μmの膜厚で形成する。保護膜のストライプ方向はサファイアA面に対して垂直な方向である。保護膜形成後、ウェーハを反応容器に移し、1050℃にて、原料ガスにTMG、アンモニアを用い、アンドープのGaNよりなる窒化物半導体層を15μmの膜厚で成長させELOG基板1とする。得られたELOG基板1上に以下の素子構造を積層成長させる。
【0065】(アンドープn型コンタクト層)[図1には図示されていない]
ELOG基板1上に、1050℃で原料ガスにTMA(トリメチルアルミニウム)、TMG、アンモニアガスを用いアンドープのAl_(0.05)Ga_(0.95)Nよりなるn型コンタクト層を1μmの膜厚で成長させる。
(n型コンタクト層2)次に、同様の温度で、原料ガスにTMA、TMG及びアンモニアガスを用い、不純物ガスにシランガス(SiH_(4))を用い、Siを3×10^(18)/cm^(3)ドープしたAl_(0.05)Ga_(0.95)Nよりなるn型コンタクト層2を3μmの膜厚で成長させる。成長されたn型コンタクト層2には、微細なクラックが発生しておらず、微細なクラックの発生が良好に防止されている。また、ELOG基板1に微細なクラックが生じていても、n型コンタクト層2を成長させることで微細なクラックの伝播を防止でき結晶性の良好な素子構造を成長さることができる。結晶性の改善は、n型コンタクト層2のみの場合より、上記のようにアンドープn型コンタクト層を成長させることによりより良好となる。
【0066】(クラック防止層3)次に、温度を800℃にして、原料ガスにTMG、TMI(トリメチルインジウム)及びアンモニアを用い、不純物ガスにシランガスを用い、Siを5×10^(18)/cm^(3)ドープしたIn_(0.08)Ga_(0.92)Nよりなるクラック防止層3を0.15μmの膜厚で成長させる。
【0067】(n型クラッド層4)次に、温度を1050℃にして、原料ガスにTMA、TMG及びアンモニアを用い、アンドープのAl_(0.15)Ga_(0.86)Nよりなる第1の窒化物半導体を25オングストロームの膜厚で成長させ、続いて、TMAを止め、不純物ガスとしてシランガスを用い、Siを5×10^(18)/cm^(3)ドープしたGaNよりなる第3の窒化物半導体を25オングストロームの膜厚で成長させる。そして、この操作をそれぞれ140回繰り返して第1の窒化物半導体と第3の窒化物半導体を積層し、総膜厚7000オングストロームの多層膜(超格子構造)よりなるn型クラッド層4を成長させる。但し、2回目以降の第1の窒化物半導体のAl組成は、徐々に少なくなるように原料ガスのTMAの流量を調整して、140回目の第1の窒化物半導体には、Al組成が含まれないGaNとなるようにAl組成が組成傾斜されている。
【0068】(n型ガイド層5)次に、温度を850℃にして、原料ガスにTMI、TMG及びアンモニアを用い、アンドープのIn_(d)Ga_(1-d)Nよりなる第2の窒化物半導体を25オングストロームの膜厚で成長させ、続いて、TMIを止め、アンドープのGaNよりなる第4の窒化物半導体を25オングストロームの膜厚で成長させる。そして、この操作をそれぞれ40回繰り返して第2の窒化物半導体と第4の窒化物半導体を積層し、総膜厚2000オングストロームの多層膜層よりなるn型ガイド層を成長させる。但し、第2の窒化物半導体のIn組成比を示すdの値を、1回目は0とし、2回目以降は徐々に値を大きくしていき、活性層に最も接近している第2の窒化物半導体のdの値が0.1となるように、In組成が組成傾斜されている。
【0069】(活性層6)次に、温度を800℃にして、原料ガスにTMI、TMG及びアンモニアを用い、不純物ガスとしてシランガスを用い、Siを5×10^(18)/cm^(3)ドープしたIn_(0.01)Ga_(0.99)Nよりなる障壁層を100オングストロームの膜厚で成長させる。続いて、シランガスを止め、アンドープのIn_(0.3)Ga_(0.7)Nよりなる井戸層を30オングストロームの膜厚で成長させる。この操作を4回繰り返し、最後に障壁層を積層した総膜厚620オングストロームの多重量子井戸構造(MQW)の活性層6を成長させる。」

(2)刊行物2
同じく、特開2003-229638号公報(以下「刊行物2」という。)には、図とともに次の記載がある。

「【0027】…。本実施形態例の窒化物系半導体レーザ素子10は、図1に示すように、n型GaN基板12上に、n型AlGaNクラッド層14、n型GaN第1光ガイド層16、InGaN活性層18、p型InGaN第2光ガイド層20、p型AlGaNクラッド層22、及びp型GaNコンタクト層24を、順次、積層した積層構造を備えている。」

「【0031】実施形態例2
本実施形態例は、第2の発明に係る窒化物系化合物半導体発光素子を窒化物系半導体レーザ素子に適用した実施形態の一例であって、図3は窒化物系半導体レーザ素子の断面図である。本実施形態例の窒化物系半導体レーザ素子40は、図3に示すように、p側電極42が、p型コンタクト層24上に延在し、更に絶縁膜28を介して高密度欠陥領域30上まで延在していること、及びn側電極44がn型GaN基板12の高密度欠陥領域12a間の低密度欠陥領域上に設けられていることを除いて、実施形態例1の窒化物系半導体レーザ素子10と同じ構成を備えている。」

そして、図1及び図3には、n型GaN基板12の一方の主面上に、n型AlGaNクラッド層14、n型GaN第1光ガイド層16、InGaN活性層18が順次積層された構造の窒化物系半導体レーザ素子が図示されている。
なお、図1及び図3は、次のものである。


3.引用発明
(1)上記2.(1)アによれば、刊行物1には、
「基板上に、少なくともn型クラッド層、n型ガイド層、活性層を有する窒化物半導体レーザ素子において、前記n型クラッド層が、活性層に接近するにつれて、Al組成が少なくなるように組成傾斜されているAl_(a)Ga_(1-a)N(0≦a<1)を有する第1の窒化物半導体を含んでなり、前記活性層が、In_(b)Ga_(1-b)N(0≦b<1)を含んでなる量子井戸構造であり、前記n型ガイド層が、活性層に接近するにつれて、Inの組成が多くなるように組成傾斜され、但しInの組成が活性層の井戸層のInの組成より少ないようにされているIn_(d)Ga_(1-d)N(0≦d<1)を有する第2の窒化物半導体を含んでなる窒化物半導体レーザ素子。」
が記載されているものと認められる。

(2)また、同オには、実施例として、【0064】に前記基板がELOG基板であり、【0067】に前記n型クラッド層がAl_(0.15)Ga_(0.86)NからGaNまで、すなわち、a=0.15から0までの組成傾斜であり、【0068】に前記n型ガイド層がGaNからIn_(0.1)Ga_(0.9)Nまで、すなわち、d=0から0.1までの組成傾斜であり、【0069】に活性層がIn_(0.01)Ga_(0.99)Nよりなる障壁層とIn_(0.3)Ga_(0.7)Nよりなる井戸層の多重量子井戸構造(MQW)の活性層である旨記載されている。

(3)以上によれば、刊行物1には
「ELOG基板上に、少なくともn型クラッド層、n型ガイド層、活性層を有する窒化物半導体レーザ素子において、前記n型クラッド層が、活性層に接近するにつれて、Al組成が少なくなるように組成傾斜されているAl_(a)Ga_(1-a)N(0≦a<1)を有する第1の窒化物半導体を含んでなり、前記活性層が、In_(b)Ga_(1-b)N(0≦b<1)を含んでなる量子井戸構造であり、前記n型ガイド層が、活性層に接近するにつれて、Inの組成が多くなるように組成傾斜され、但しInの組成が活性層の井戸層のInの組成より少ないようにされているIn_(d)Ga_(1-d)N(0≦d<1)を有する第2の窒化物半導体を含んでなる窒化物半導体レーザ素子であって、
前記n型クラッド層のAl組成aは、a=0.15から0までの組成傾斜であり、
前記n型ガイド層のIn組成dは、d=0から0.1までの組成傾斜であり、
前記活性層は、In_(0.01)Ga_(0.99)Nよりなる障壁層とIn_(0.3)Ga_(0.7)Nよりなる井戸層の多重量子井戸構造の活性層である窒化物半導体レーザ素子。」(以下「引用発明」という。)
が記載されているものと認められる。

4.対比
本願発明と引用発明を対比する。
引用発明の「n型クラッド層」と本願発明の「クラッド層」は、「第1導電型のAlGaNよりなるクラッド層」の点で一致する。
引用発明の「n型ガイド層」と本願発明の「緩衝層」は、「In組成を有するIn_(t)Ga_(1-t)N(0≦t<0.5)よりなる層」の点で一致する。
また、引用発明の「n型ガイド層」は、上記2.(1)エ【0012】に記載されるように「結晶にかかる歪みを緩和する」機能を有するものであるから、「緩衝層」といえる。
引用発明の「活性層」は、「n型ガイド層」の上に形成されており、「In_(0.01)Ga_(0.99)Nよりなる障壁層とIn_(0.3)Ga_(0.7)Nよりなる井戸層」からなるから、本願発明と同様に「緩衝層上に形成されたInGaNよりなる量子井戸発光層」といえる。
引用発明の「活性層」は、「In_(0.01)Ga_(0.99)Nよりなる障壁層とIn_(0.3)Ga_(0.7)Nよりなる井戸層の多重量子井戸構造」であるから、「In濃度が相対的に高いIn_(u)Ga_(1-u)N(0<u<0.5)よりなる井戸層と、In濃度が相対的に低いIn_(v)Ga_(1-v)N(0≦v<u)よりなる障壁層とを有」する「量子井戸発光層」といえる。
また、引用発明の「井戸層」のIn濃度は、0.3で、「n型ガイド層」のIn濃度より高いから、引用発明と本願発明は、「前記井戸層のIn濃度は前記緩衝層のIn濃度よりも高く」の点で一致する。
また、本願発明と引用発明は、「基板」を備える点及び「半導体発光素子」の点で一致する。

したがって、両者は、
「第1導電型のAlGaNよりなるクラッド層と、
In_(t)Ga_(1-t)N(0≦t<0.5)よりなる緩衝層と、
前記緩衝層上に形成されたInGaNよりなる量子井戸発光層とを備え、
前記量子井戸発光層はIn濃度が相対的に高いIn_(u)Ga_(1-u)N(0<u<0.5)よりなる井戸層と、In濃度が相対的に低いIn_(v)Ga_(1-v)N(0≦v<u)よりなる障壁層とを有し、
前記井戸層のIn濃度は前記緩衝層のIn濃度よりも高く、
基板をさらに備える、半導体発光素子。」
である点で一致し、次の(1)及び(2)の点で相違するものと認められる。

(1)本願発明は、前記クラッド層が略単一のAl組成を有するものであり、前記クラッド層上に略単一のIn組成を有するIn_(s)Ga_(1-s)N(0≦s<1)よりなる中間層が形成され、前記緩衝層が前記中間層上に形成された略単一のIn組成を有するものであり、前記緩衝層のIn濃度は前記中間層のIn濃度よりも高いのに対し、引用発明は、クラッド層及びガイド層が傾斜組成である点(以下「相違点1」という。)。

(2)本願発明は、基板がAl_(w)Ga_(1-w)N(0≦w≦1)よりなるものであり、前記クラッド層が前記基板の一方の主面上に形成されているのに対し、引用発明は、基板がELOG基板である点(以下「相違点2」という。)。

5.判断
(1)相違点1について
引用発明において、クラッド層及びガイド層を傾斜組成としている理由について、刊行物1には、「本発明の目的は、ガイド層や活性層等の結晶性を向上させ、長波長のレーザ光を得ることができる窒化物半導体レーザ素子を提供することである。」(上記2.(1)ウ【0007】)と記載され、また、「窒化物半導体を用いて長波長のレーザ光の発振を達成しようとする場合に生じる結晶性の著しい低下という窒化物半導体における特有の問題点を、クラッド層やガイド層の組成を傾斜させることで格子定数の差を徐々に変化させ結晶にかかる歪みを緩和することにより解決するものである。」(上記2.(1)エ【0012】)と記載されている。
これら記載によれば、窒化物半導体を用いて長波長のレーザ光の発振を達成しようとして、活性層のIn混晶比を高くすると、クラッド層と活性層の格子定数の差が大きくなることにより、ガイド層や活性層の結晶性が著しく低下するという問題点があるところ、この問題点は、格子定数の差を徐々に変化させ、結晶にかかる歪みを緩和することにより解決されることが理解される。
してみると、ガイド層や活性層の結晶性を向上させるためには、格子定数の差を徐々に変化させ、結晶にかかる歪みを緩和するようにすればよく、引用発明のようにクラッド層及びガイド層を傾斜組成とまでしなくても、クラッド層から活性層にかけて徐々に結晶の格子定数が大きくなるようにすれば、クラッド層の結晶格子と活性層の井戸層の結晶格子との不整合が緩和され、ガイド層や活性層の結晶性が向上し、発光特性が向上するものと考えられるところであり、クラッド層から活性層にかけて徐々に結晶の格子定数が大きくなるようにするために、(格子定数がガイド層より小さい)略単一のAl組成を有するクラッド層と(格子定数がクラッド層より大きく活性層の井戸層より小さい)略単一のIn組成を有するガイド層との間に、格子定数がこれらの中間にある略単一のIn組成を有するIn_(s)Ga_(1-s)N(0≦s<1)よりなる中間層を設けるようにして、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものというべきである。

(2)相違点2について
上記2.(2)のとおり、刊行物2には、窒化物系半導体レーザ素子において、n型AlGaNクラッド層、n型GaN第1光ガイド層、InGaN活性層をn型GaN基板の一方の主面上に順次積層したものが記載されるところであり、引用発明におけるELOG基板をn型GaN基板、すなわち、本願発明においてw=0としたAl_(w)Ga_(1-w)N(0≦w≦1)基板とすることにより、相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が適宜になし得る程度のことというべきである。

(3)本願発明が奏する効果
本願発明が奏する効果についてみても、刊行物1及び2に記載された事項に基づいて当業者が予測可能な程度のものであって、格別顕著な効果とはいえない。

6.むすび
以上の検討によれば、本願発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-04-26 
結審通知日 2012-05-08 
審決日 2012-05-21 
出願番号 特願2006-314510(P2006-314510)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 道祖土 新吾  
特許庁審判長 服部 秀男
特許庁審判官 北川 創
小松 徹三
発明の名称 半導体発光素子および半導体発光素子の製造方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ