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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) D06F
管理番号 1259419
審判番号 不服2011-27411  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-12-20 
確定日 2012-07-05 
事件の表示 特願2010-272545号「洗濯乾燥機」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 3月10日出願公開、特開2011- 45776号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成11年3月31日にした特願平11-90650号の一部を平成20年12月15日に新たな特許出願とした特願2008-318414号の一部を、平成22年6月11日に、さらに新たな特許出願とした特願2010-133755号の一部を平成22年12月7日に、さらに新たな特許出願としたものであって、その請求項1に係る発明は、平成24年4月12日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲請求項1に記載された次の事項により特定されるものである(以下「本願発明」という。)。

「洗濯乾燥機本体を構成する外箱と、
前記外箱内に支持された外槽と、
前記外槽内に回転自在に配置された脱水孔を有する洗濯兼脱水槽と、
前記洗濯乾燥機本体内に設けられ、発熱装置で生成された温風を前記洗濯兼脱水槽に向けて開口した温風ダクトの排出口に送り出す送風ファンを有する温風発生手段と、
洗い運転、すすぎ運転、脱水運転の順からなる洗濯運転と、前記温風発生手段を所定時間動作して前記洗濯兼脱水槽内部および前記外槽壁面を乾燥させる槽乾燥コースとを制御する制御部とを備え、
前記洗濯運転が終了した後であって、前記洗濯兼脱水槽が停止している状態で該洗濯兼脱水槽内の洗濯物が取り出される工程と、該洗濯物が取り出される工程の後に前記槽乾燥コースをスタートさせ、前記脱水運転で前記洗濯兼脱水槽内部および前記外槽壁面に付着した水滴を乾燥させる工程とを備える洗濯乾燥機。」

2.引用例
(1)当審における拒絶理由において引用した特開平10-99586号公報(以下「引用例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア「【請求項4】 洗濯機本体内に設置された水槽内に水平軸を中心に回転できる回転ドラムを備えるとともに上記水槽の外部に該水槽の下部と上部間を連通し途中に送風ファンと乾燥ヒータを備えたダクトを設け、上記回転ドラム内に投入された洗濯物に対してを洗い、すすぎ、脱水及び乾燥等を行う回転ドラム式洗濯機であって、該洗濯機は洗浄キーを備え、該洗浄キーとスタートキーをONすることによって、上記水槽内に給水を行い、給水の完了後、上記回転ドラムを所定時間回転させて洗浄を行い、この洗浄の終了後は所定時間の間上記回転ドラムの回転を停止して浸け置き状態とするとともに、この浸け置きの終了後に水槽内の水を排水し、該排水終了後上記回転ドラムを回転させて脱水し、その脱水終了後上記送風ファンと乾燥ヒータを駆動して上記水槽、回転ドラム及びダクトを乾燥させるようにしたことを特徴とする回転ドラム式洗濯機。」(【特許請求の範囲】)

イ「【発明の属する技術分野】 本発明は回転ドラム式洗濯機及びその洗浄方法に関するものである。」(段落【0001】)

ウ「【発明が解決しようとする課題】 一般に上記構造の回転ドラム式乾燥機能付き洗濯機では、回転ドラムの外側、水槽の内側、ドアパッキン等に汚れが堆積し黒黴が発生することがあり、このような黒黴等が発生しないように回転ドラム、水槽等を十分洗浄する必要がある。
しかし乍ら、従来のドラム式乾燥機能付き洗濯機では、自動的に洗浄動作を行う機能を備えておらず、使用者が取扱説明書に従って手動で洗浄作業を行っていた。・・・
以上のような手順で洗浄作業をする場合、使用者において手間がかかる上に、一旦運転を停止した後の再スタートを忘れることもあり、特に、塩素系の洗浄クリーナを使用した場合には、洗濯槽クリーナを投入したままの状態で長時間放置するとステンレス製の回転ドラム、水槽及びゴム部品が腐食或いは劣化すると云う惧れがあった。従来の洗濯機で、槽洗い機能を備えている実例としては、特開昭62-142587号公報に示されたものがあるが、このものは水槽及び回転ドラムを縦方向に設け、回転ドラムを垂直軸を中心に回転させるタイプの全自動洗濯機であり、ドアパッキン、接続用ダクト、乾燥システムが設けられた回転ドラム式乾燥機能付き洗濯機には適用できないものであった。」(【0003】?【0005】)

エ「この発明によるならば、給水が完了すると直ちに回転ドラムを所定時間の間回転させ、その後は浸け置き状態にすることができ、しかも、この浸け置きが終了すると、排水の後、脱水し、更に乾燥動作を経て洗浄を終了することになる。その結果、洗浄動作に入る前に水槽内に洗濯槽クリーナを投入しておいた場合、上記回転ドラムの回転で、その洗濯槽クリーナを水に十分溶かすことができ、しかも浸け置き工程において、その洗濯槽クリーナの混じった水で水槽、回転ドラム及びダクト内に付着している汚物を取り除くことができる。しかも、排水の後に、脱水し乾燥するので、水槽や回転ドラム及びダクト内の水や洗濯槽クリーナを十分取り除き、再び汚物が付着するのを防止することができる。」(段落【0013】)

オ「【発明の実施の形態】 以下、本発明の実施の形態を図に従って詳細に説明する。図1及び図2は本発明の実施の形態にかかる洗浄方法を具現化した回転ドラム式乾燥機能付き洗濯機の側面断面図及び正面断面図であり、図中1は洗濯機本体、2はこの洗濯機本体
1内に吊りバネ3で懸架された水槽、4はこの水槽2内に配置された回転ドラムであり、水槽2の後壁に軸受けで水封止的に回転支持された回転軸5に後面を固着されて回転軸の回転に伴って水槽2内で回転できるようになっている。
この回転ドラム4は、その内側面に3個の撹拌バッフル5を等間隔に配置し、又、その外周面全体に亙って多数の小孔を備えている。
・・・(中略)・・・
23は冷却ダクトであり、その下端を排気ダクト24を介して水槽2の底部に連通され、また上端を乾燥ユニット25を介して水槽2の上部に連通されている。この冷却ダクト23内には図示していないが、上記給水管13からの給水を乾燥用給水弁を介して受け、水道水を冷却ダクト23内にシャワー状に散水するようになっている。上記乾燥ユニット25は送風ファン26、乾燥ヒータ27、熱風ダクト28、この熱風ダクト28に設けた温度センサー29及び上記冷却ダクト23に設けた温度センサー30を備えている。 乾燥工程時には、乾燥ヒータ27によってめられた空気が送風ファン26により回転ドラム4内に送り込まれ、回転ドラム4内の濡れた洗濯物から蒸発した水分を含む高温多湿の空気となって水槽2の排気口から排気ダクト24を通って冷却ダクト23に入る。そして、この冷却ダクト23内において、上記乾燥用給水弁を介して給水されたシャワー状の冷水が湿気に接触するときの熱交換によって、湿気を凝縮し除去する。このようにして冷却され湿気を除去された空気は再び送風ファン26に送られて、乾燥ヒータ27で再加熱され回転ドラム4に再度循環される。温度センサー29、30は循環される温風の温度を検知して乾燥終了の判定や異常な温度上昇の検知に用いられる。
又、図中、31は洗濯機本体1の上部前面に配置されている操作・表示パネルであり、図3に示されるようにパネル入力部32、表示部33から構成されている。34はこの操作・表示パネル31の裏側に設けられた制御回路であり、図4に示されるように、種々入力系統からの入力信号を受けて所定の演算動作を行い制御信号を出力するマイクロコンピュータ(以下マイコンと云う)35と、このマイコン35の制御信号に基づいて各種負荷部を駆動する駆動信号を出力する出力回路36とからなっている。」(段落【0016】?【0021】)

カ「本発明の回転ドラム式乾燥機能付き洗濯機は上述のように構成されるが、以下に当該洗濯機が実行する槽洗浄の専用コースについて図5の動作フローチャートを使用して説明する。電源キー32aの操作で電源を入れ、槽洗浄キー32cを押すと(ステップS1)、槽洗浄の専用コースが設定されたことを示す表示灯33aが点灯する(ステップS2)。再び槽洗浄キー32cを押すと(ステップS3)、マイコン35の記憶部が槽乾燥運転が追加設定されたことを記憶し、槽乾燥運転が設定されたことを示す表示灯33bが点灯する(ステップS4)。
この状態において、操作・表示パネル31におけるスタートキー32bを押すと(ステップS5)、槽洗浄の進行を示す進行表示灯アレイ32cの該当部が点滅するとともに給水弁14をONして給水を開始する(ステップS6)。そして、この給水に伴って、マイコン35は水位センサーを介して水槽2内の水位が槽洗浄の設定水位(通常の洗濯コースの水位より高く設定)になったか否かを判断する(ステップS7)。
水槽2内の水位が槽洗浄の設定水位に達すると、マイコン35は給水弁14をOFFして給水を停止する(ステップS8)とともに駆動モータ6を駆動して回転ドラム4を所定時間回転させ(ステップS9)、洗濯槽クリーナを十分に撹拌させる。回転ドラム4の回転時間が所定時間に達すると(ステップS12)、回転ドラム4の回転を停止し(ステップS13)、浸け置きに入る。この際、この浸け置きの洗浄効果を高めるために、マイコン35は駆動モータ6を介して回転ドラム4を間欠回転させる(ステップS14)。
又、このとき、回転ドラム4を左右交互に回転させて洗浄液の動きを変え、排水17及び排気ダクト24の奥部まで十分に洗浄できるようにする。
に、このとき回転ドラム4の回転を360゜以内で間欠的に行うことで回転ドラム4の全周が洗濯槽クリーナの溶液に浸かる時間を均一にすることができる。・・・
洗いが終わると配水を行った後、回転ドラム4に付着している洗濯槽クリーナの溶液を除去するために脱水回転を行う(ステップS20)。この脱水運転の前に、回転ドラム4内部に洗濯物が入れられている場合を考慮して、通常の洗濯運転と同様にアンバランスの検知を行い(ステップS18及びS19)、アンバランス量が所定値以上の場合は、ほぐし運転を行って洗濯物の偏りを矯正し、駆動モータ6を介して回転ドラム4を高速回転させ高速脱水に入る(ステップS22)。
次に、再び給水を行いすすぎ工程に入る(ステップS23、S24)。このすすぎ工程は回転ドラム4を左右に交互に連続回転させて行う。このすすぎ工程の後においても、排水(ステップS25)後に脱水回転(ステップS28)を行うが、上記洗い工程の後のアンバランス検知において、アンバランス量が所定値以下の場合は(ステップS26)、アンバランス検知及びほぐし運転を省略して、直ちに高速脱水に入る(ステップS28)。この制御を行うことで、槽洗浄運転の時間短縮を図ることができる。
設定されたすすぎ回数の最後のすすぎ工程では、洗い工程及び直前のすすぎ工程の水位より、更に高い水位まで給水を行いすすぎを行う(ステップS29乃至ステップ39)。最終のすすぎ、排水及び脱水が終了した時点で、槽乾燥運転が設定されているか否かを判断し(ステップS40)、設定されていない場合には運転を停止し、ブザー等で終了を報知する。又槽乾燥運転が設定されている場合には、乾燥運転に自動的に移行する。
槽洗浄のコースでは洗濯物の負荷を投入しないため、水槽4内部の温度上昇が早く、温度センサ29、30で検知される温風温度が短時間で所定値異常になり、乾燥が終了したと判断して、乾燥を終了してしまう。1200Wの乾燥ヒータ27を用いた場合、無負荷での乾燥運転終了までの時間は20?30分程度であり、ドアッパキング12等の残水が乾燥してしまうまでには至らない。従って、本発明では槽乾燥の場合は温度センサ29、30で検出される温風温度が設定値に到達した時点で乾燥ヒータ27を弱に切り替え、所定時間運転を継続する。又、乾燥ヒータ27をON,OFF制御してもよい。
以上の実施形態では、ドラム回転式洗濯機として乾燥機能付きの洗濯機を例に挙げて説明したが、これに拘泥することなく、乾燥機能がない洗濯機にも本発明を適用できることはいうまでもない。」(段落【0023】?【0031】)

キ そして、摘記事項ア、カより、本件の回転ドラム式の洗濯機が、「洗い、すすぎ、脱水及び乾燥等を行う回転ドラム式洗濯機」であって、「槽洗浄キー32cを押すと・・・槽洗浄の進行」を行うことからみて、前記洗濯機が、槽洗浄以外の通常の、「洗い、すすぎ、脱水及び乾燥等」を行う制御を行うことは明らかである。

ク また、摘記事項ウの「【発明が解決しようとする課題】・・・回転ドラムの外側、水槽の内側、ドアパッキン等に汚れが堆積し黒黴が発生することがあり、・・・」の記載からみて、槽洗浄キー32cを押す槽洗浄コースは、洗い、すすぎ、脱水等の通常の洗濯運転を行った後、汚れが堆積した後に選択・動作されるものであることは明らかである。

ケ さらに、摘記事項カの「槽洗浄のコースでは洗濯物の負荷を投入しないため、水槽4内部の温度上昇が早く、」との記載から、槽洗浄のコースを行うに際し、洗濯物が取り出される工程の後に槽洗浄のコースが始まっているものと理解できる。

そして、上記摘記事項ア?カ、認定事項キ?ケ及び図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則して整理すると、引用例1には、
「洗濯機本体1と、
前記洗濯機本体1内に支持された水槽2と、
前記水槽2内に回転自在に配置された小孔を有する回転ドラム4と、
前記洗濯機本体1内に設けられ、乾燥ヒータ27で生成された温風を回転ドラム4に向けて熱風ダクト28から送り込む送風ファン26を有する乾燥ユニット25と、
洗い、すすぎ、脱水の順からなる洗濯運転と、水槽洗浄、排水の後、前記熱風供給装置17を所定時間動作して水槽、回転ドラム及びダクトを乾燥させる槽洗浄のコースとを制御するマイクロコンピュータ35とを備え、
前記洗濯運転が終わった後であって、回転ドラム4内の洗濯物が取り出される工程の後に水槽、回転ドラム及びダクトを乾燥させる工程とを備える回転ドラム式洗濯機。」(以下「引用発明」という。)が記載されている。

(2)同じく当審における拒絶理由において引用した特開平4-347199号公報(以下「引用例2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア「【請求項1】脱水槽を回転させてその遠心力により洗濯物の脱水をするようにしたものであって、熱風供給装置を具えると共に、脱水時にその熱風供給装置を作動させ前記脱水槽内に熱風を供給せしめる制御をする制御手段を具えたことを特徴とする脱水機。
【請求項2】脱水槽を回転させてその遠心力により洗濯物の脱水をするようにしたものであって、熱風供給装置を具えると共に、運転の最後にその熱風供給装置を作動させ前記脱水槽内に熱風を供給せしめる制御をする制御手段を具えたことを特徴とする脱水機。」(【特許請求の範囲】)

イ「脱水槽は、脱水運転後、洗濯物を取出してから、放置されているのが一般的であるが、その放置している間に、脱水運転により帯びた湿気のため、かびが発生することがあり、異臭を発生するようにまでなることもあった。」(段落【0005】)

ウ「本発明の第2の目的は、脱水槽にかびを発生したり、異臭を発生したりすることのない脱水機を提供するにある。」(段落【0007】)

エ「【実施例】以下、本発明を脱水兼用洗濯機に適用した一実施例につき、図面を参照して説明する。
まず図1に示す外箱1には、内部に水受用の外槽2を配設しており、この外槽2には、外下方部にモータ3を主とする駆動機構4及び排水弁5等を配設している。又、外槽2の内部には、脱水槽であり洗濯槽でもある内槽6を配設しており、この内槽6を洗い及びすすぎ時に制止させ脱水時に上記駆動機構4によって高速回転させるようにしている。なお、内槽6には周壁に脱水孔7を多数形成しており、又、底部には撹拌体8を配設していて、この撹拌体8を洗い及びすすぎ時に上記駆動機構4により正逆回転させ、脱水時に内槽6と共に回転させるようにしている。・・・
一方、外箱1の上面部にはトップカバー10を装着しており、このトップカバー10の背部から外箱1の背部にかけてバックケース11を設けている。しかして、そのバックケース11内には、モータ12を配設すると共に、このモータ12によって回転駆動されるファン13、ファン13を囲繞するケーシング14、及びケーシング14の出口部に位置するヒータ特にはPTCヒータ15を配設しており、そして、そのバックケース11内からはケーシング14の出口部に接続した導風ホース16をトップカバー10内を通し内槽6内に臨むように導出させていて、上記ファン13で生成する風をヒータ15により熱して熱風を生成し、それを導風ホース16により内槽6内に供給する熱風供給装置17を構成している。
加えて、トップカバー10内の前部には例えばマイクロコンピュータから成る制御装置18を制御手段として配設しており、この制御装置18に、図2に示すように、各種スイッチから成るスイッチ入力部19よりスイッチ信号が入力されると共に、外槽2内(内槽6内)の貯留水位を検出する水位センサ20より水位検出信号が入力され、更に、前記室温センサ9より室温検出信号が入力されるようにしている。そして、それらの入力並びにあらかじめ記憶された制御プログラムに基づき、制御装置18は、各種LED等から成る表示部21、内槽6内(外槽2内)に給水する給水弁22、前記駆動機構4のモータ3、排水弁5、及び前記熱風供給装置17特にはこれのモータ12とヒータ15とをそれぞれに駆動する駆動回路23?27に各駆動制御信号を与えるようにしている。」(段落【0013】?【0016】)

オ「そこで、以下には上記制御装置18による運転の制御内容について述べる。
すなわち、制御装置18は、運転を、例えば洗い-脱水-すすぎ-脱水-すすぎ-脱水の順に行なうようにしており、その洗い及びすすぎ時には、前述のように内槽6を制止させて撹拌体8を正逆回転させることにより、洗濯物の水中での撹拌を行なう。一方、脱水時には、内槽6を撹拌体8と共に高速回転させるもので、その遠心力により、上記洗い及びすすぎ後の洗濯物から水分を振切ることを行なう。そして、この脱水時の中でも最終の脱水時には、図3に示すように、熱風供給装置17を作動させて熱風を内槽6内に供給することを行なう。これによって、この最終の脱水時の洗濯物には熱風が供給されて通されることになり、その熱風が通って温められることによる水分の蒸発作用が、上記内槽6の回転遠心力による脱水作用に加わるから、洗濯物の脱水率は現在以上に向上する。又、この場合、内槽6の回転速度を増すのではないから、騒音や振動の増加は伴わず、又、耐久性等に問題を生じることもない。
しかして又、上記最終の脱水後の運転の最後にも、ある時間、熱風供給装置17を作動させて熱風を内槽6内に供給することを行なう。これによって、内槽6の乾燥が行なわれ、湿気が取除かれるから、内槽6にかびが発生したり、異臭を発生したりするようになることも防止される。更にこの場合、制御装置18は、室温センサ9から入力される室温検出信号をもとに、熱風供給装置17を作動させる時間を室温に応じた長さに定めるようにしている。その一例としては、図3に示すように、室温が5℃未満では熱風供給装置17を作動させる時間は100分、5?15℃では60分、15?25℃では30分、25℃超では10分に定めているのであり、要するに、内槽6が乾燥しにくい低温時に熱風供給装置17を長く作動させ、内槽6が乾燥しやすい高温時には熱風供給装置17を短く作動させることによって、内槽6の乾燥を効率良く行ない得るのである。
なお、本発明は上記し且つ図面に示した実施例にのみ限定されるものではなく、例えば室温に応じて制御するのは、上述の運転の最後の熱風供給装置17の作動時間でなく、熱風供給装置17を作動させることを伴う最終の脱水の時間であっても良いもので、更にその双方であっても良いものであり、又、熱風供給装置17は最終の脱水時だけでなく各中間の脱水時にもそれぞれ作動させるようにしても良いものであって、そのほか、全体も、脱水兼用洗濯機でなく、脱水機能のみを有するものであっても良いなど、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施し得る。」(段落【0017】?【0020】)
上記摘記事項及び図面によると、引用例2には、
「外箱1と、
前記外箱1内に支持された外槽2と、
前記外槽2内に回転自在に配置された脱水孔7を有する脱水槽であり洗濯槽である内槽6と、
前記外箱1内に設けられ、PTCヒータ15で生成された温風を前記内槽6に向けて開口した導風ホース16の排出口に送り出すファン13を有する熱風供給装置17と、
洗い、すすぎ、脱水の順からなる洗濯運転と、前記熱風供給装置17を所定時間動作して前記内槽6を乾燥させる脱水機。」(以下「引用例2記載事項」という。)が記載されている。

3.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、各文言の意味、機能または作用等からみて、引用発明の「洗濯機本体1」は本願発明の「洗濯機本体を構成する外箱」に相当し、以下同様に、「水槽2」は「外槽」に、「小孔」は「脱水孔」に、「回転ドラム4」は「洗濯兼脱水槽」に、「乾燥ヒータ27」は「発熱装置」に、「熱風ダクト」は「温風ダクト」に、「温風を回転ドラム4に向けて熱風ダクト28から送り込む送風ファン26」は「温風を洗濯兼脱水槽に向けて開口した温風ダクトの排出口に送り出す送風ファン」に、「乾燥ユニット25」は「温風発生手段」に、「洗い」は「洗い運転」に、「すすぎ」は「すすぎ運転」に、「脱水」は「脱水運転」に、「水槽、回転ドラム及びダクトを乾燥させる槽洗浄のコース」は「洗濯兼脱水槽および外槽を乾燥させる槽乾燥コース」に、「マイクロコンピュータ35」は「制御部」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「水槽、回転ドラム及びダクトを乾燥させる工程」も本願発明の「前記脱水運転で前記洗濯兼脱水槽内部および前記外槽壁面に付着した水滴を乾燥させる工程」も、「乾燥させる工程」である点で共通する。
そうすると、両者は、
「洗濯乾燥機本体を構成する外箱と、
前記外箱内に支持された外槽と、
前記外槽内に回転自在に配置された脱水孔を有する洗濯兼脱水槽と、
前記洗濯乾燥機本体内に設けられ、発熱装置で生成された温風を前記洗濯兼脱水槽に向けて開口した温風ダクトの排出口に送り出す送風ファンを有する温風発生手段と、
洗い運転、すすぎ運転、脱水運転の順からなる洗濯運転と、前記温風発生手段を所定時間動作して前記洗濯兼脱水槽および前記外槽を乾燥させる槽乾燥コースとを制御する制御部とを備え、
前記洗濯運転が終了した後であって、該洗濯兼脱水槽内の洗濯物が取り出される工程と、該洗濯物が取り出される工程の後に乾燥させる工程とを備える洗濯乾燥機。」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点ア
槽乾燥コースにおける乾燥箇所につき、本願発明では「前記洗濯兼脱水槽内部および前記外槽壁面」とするのに対し、引用発明では「前記洗濯兼脱水槽(回転ドラム)および前記外槽(水槽)及びダクト」としている点。

相違点イ
洗濯物が取り出される工程につき、本願発明では、「洗濯兼脱水槽が停止している状態で該洗濯兼脱水槽内の洗濯物が取り出される工程」としているのに対し、引用発明では、「洗濯兼脱水槽(回転ドラム)内の洗濯物が取り出される工程」としている点。

相違点ウ
槽乾燥コースにおける動作内容につき、本願発明では、「洗濯物が取り出される工程の後に前記槽乾燥コースをスタートさせ」るのに対し、引用発明では、「外槽(水槽)洗浄、排水の後、洗濯兼脱水槽(回転ドラム)及びダクトを乾燥させる」点。

相違点エ
槽乾燥コースにおける乾燥の対象物につき、本願発明では、「脱水運転で洗濯兼脱水槽内部及び外槽壁面に付着した水滴」であるとしているのに対し、引用発明では、当該構成は明らかではない点。

そこで、上記相違点について検討する。
[相違点アについて]
洗濯水等は槽の内面や壁面に付着するのが普通であるから、乾燥箇所を洗濯兼脱水槽内面及び外槽壁面とした点は、こられを十分に乾燥する必要に応じ、当業者であれば、何の困難もなく想到し得たことである。

[相違点イについて]
洗濯物を取り出す際に、洗濯兼脱水槽が動作している間は、取り出しにくいということは、技術常識ともいうべきである。したがって、引用発明において、洗濯兼脱水槽から洗濯物が取り出される工程を、該槽が停止している状態で洗濯物が取り出される工程とすることは、当業者であれば、容易に想到し得たことである。

[相違点ウについて]
まず、槽乾燥コースの内容についてみると、確かに、本願発明は、「温風発生手段を所定時間動作して洗濯兼脱水槽内部および前記外槽壁面を乾燥させる」とあり、発明の詳細な説明をみても、槽乾燥の前に、「水槽洗浄、排水」を行う例は示されていない。
他方、引用発明のものは、槽洗浄を行った後に、外槽(「水槽2」)、脱水槽(「回転ドラム4」)等を乾燥するものであるが、請求人が平成24年4月12日付け意見書で主張する(2頁最下段7行)ように、洗浄槽クリーナの化学力で分解・除去することを必須の構成とするものではなく(上記摘記事項「2.(1)ア」「・・・水槽内に給水を行い、・・・」同「2.(1)エ」「洗濯槽クリーナを投入しておいた場合、」)、単に、給水を乾燥させるものを含むものである。
また、洗濯、脱水後に、洗浄運転を経ずに洗濯兼脱水槽を乾燥させることは、本件出願遡及出願の出願前、公知の技術である(上記した「引用例2記載事項」参照。)。
そして、引用発明と引用例2記載事項とは、共に、洗濯兼脱水槽の乾燥を行い「かび」の発生を防止するという共通の技術分野に属するものである。 そうすると、引用発明において、槽乾燥コースの内容を、「温風発生手段を所定時間動作して洗濯兼脱水槽内部および前記外槽壁面を乾燥させる」ものとした点は、引用例2記載事項に基づいて、当業者であれば、容易に想到することができたものである。

次に、「スタートさせ」る点について検討する。
一般に、「スタート」とは、「動き出すこと。出発。始まり。」を意味するものと解される(広辞苑第4版)が、本願明細書において、「外槽乾燥コースをスタートすれば」(【0029】、【0033】、【図7】、【図8】)とあり、図5,図6との関連で「開始」【0018】、【0023】との記載がある。そして、同様の表現として「この乾燥コースを選択」(【0010】、【0012】?【0014】、【0031】)があり、「発熱装置20と送風ファン22が動作する。」(【0033】)、「発熱装置を動作させ」(【0038】)との記載がある。
そして、本願発明の態様に関連付けて解釈すると、「スタートさせ」は「選択する」と解され、明細書の他の記載からみると、送風ファンへの通電により「動作」させると解することができる。
そこで、「スタートさせ」を「選択する」と解釈した場合について検討する。
槽乾燥コースの開始と、通常の洗濯運転を個別に制御できる装置であれば、槽乾燥コースのスタートを、どの時点で行うようにするか、換言すると、槽乾燥コースを選択した当初とするか、動作開始直前とするかは、当業者が適宜設定もしくは選択し得る設計的事項である。
そして、引用発明のものは、前記のとおり、洗い運転、すすぎ運転、脱水運転の順からなる洗濯運転と、前記温風発生手段を所定時間動作して前記洗濯兼脱水槽を乾燥させる槽乾燥コースとを制御する制御部とを備えるものであるから、上記相違点に係る構成は、当業者が容易に想到し得たことである。
仮に、通電により送風ファン等を「動作」させると解釈した場合においても、当業者が適宜選択できる事項である点は、同様である。

なお、特許請求の範囲において、「槽乾燥コースをスタート」させる時期をみると、「洗濯運転が終了した後であって、」とあり、洗濯運転が終了した後であれば、いずれの時点をも含むものであり、「水槽洗浄、排水」の後に行うものをも含むものと理解できる。(少なくとも、水槽洗浄、排水を排除するものとはいえない。)

[相違点エについて]
前記のとおり、引用発明における洗浄運転において、給水とあるものの、洗濯槽クリーナは、必ずしも必須のものとして記載されていない。そうすると、給水後の排水、脱水は、通常洗濯運転のものと異ならず、乾燥の対象となるものは、通常の洗濯運転において、洗濯兼脱水槽内部及び外槽壁面に付着した水滴と変わるところはない。
また、引用例2記載事項のものは、洗濯物を取り出すものとはいえないが、通常の洗濯運転である、洗い、すすぎ、脱水の順からなる洗濯運転により、洗濯兼脱水槽(「脱水槽であり洗濯槽である内槽6」)内部に付着した水滴を乾燥するものが示されている。
そして、引用発明と引用例2記載事項は、共通の技術分野に属するものである。
そうすると、引用発明において、脱水運転で洗濯兼脱水槽内部及び外槽壁面に付着した水滴を乾燥の対象とした点は、引用例2記載事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。

また、本願発明の奏する効果を全体としてみても、引用発明及び引用例2記載事項から当業者が予測できる範囲のものである。

そうすると、本願発明は、引用発明及び引用例2記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用例2記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-05-01 
結審通知日 2012-05-08 
審決日 2012-05-21 
出願番号 特願2010-272545(P2010-272545)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (D06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 由希子  
特許庁審判長 岡本 昌直
特許庁審判官 長浜 義憲
亀田 貴志
発明の名称 洗濯乾燥機  
代理人 中鶴 一隆  
代理人 稲葉 忠彦  
代理人 稲葉 忠彦  
代理人 中鶴 一隆  
代理人 高橋 省吾  
代理人 高橋 省吾  
代理人 村上 加奈子  
代理人 村上 加奈子  

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