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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23L
管理番号 1259459
審判番号 不服2010-9725  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-05-07 
確定日 2012-07-04 
事件の表示 特願2005-264761「吸い口付き密封容器入りゼリー状食品及びその製法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 3月29日出願公開、特開2007- 74945〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯

本願は、平成17年9月13日の出願であって、平成22年1月12日付けで手続補正がなされた後、平成22年1月28日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年5月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明

本願の請求項1及び2に係る発明は,平成22年1月12日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ,そのうち請求項2は,以下のとおりである。(以下,請求項2に係る発明を「本願発明」という。)
「【請求項2】
下記工程を順次備え、かつ可溶性固形分の含有量がゼリー状食品全体重量中15重量%を超えることを特徴とする吸い口付き密封容器入りゼリー状食品の製法。
(1)下記成分(a)、(b)、(c)及び(d)を、非加熱の水性媒体中に分散し、調合液を得る工程
(a)ゲル化温度が27?35℃のカラギナン
(b)ローカストビーンガム
(c)コンニャク精粉
(d)キサンタンガム
(2)上記調合液を加熱して少なくとも上記成分(a)?(d)を溶解し、1次殺菌する工程
(3)上記1次殺菌した調合液を、吸い口付き容器に充填し密封する工程
(4)上記密封した調合液を、2次殺菌する工程
(5)上記2次殺菌した調合液を、40℃以下に冷却し、ゲル化させる工程」

第3 刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物1?3には、以下の事項がそれぞれ記載されている。なお、下線は当審が付した。

(1)刊行物1:特開2003-125715号公報の記載事項

(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】下記のA?C成分を含み、ゲル化点が25?50℃となるように調整されたゲル化剤を含むことを特徴とするドリンクゼリー。
A成分:キサンタンガム
B成分:コンニャク芋抽出物及び/又はローカストビーンガム
C成分:紅藻類由来のガム質
【請求項2】pH3.4?4.4である請求項1記載のドリンクゼリー。
【請求項3】A?C成分の添加量が、それぞれドリンクゼリーに対して、A成分0.025?0.1重量%、B成分0.025?0.1重量%、C成分0.03?0.15重量%である、請求項1又は2に記載のドリンクゼリー。
【請求項4】A成分とB成分の配合割合が、重量比でA:B=3:7?8:2である、請求項1乃至3に記載のドリンクゼリー。
【請求項5】A成分とB成分の総量とC成分の配合割合が、重量比でA+B:C=4:6?8:2である、請求項1乃至4に記載のドリンクゼリー。
【請求項6】更に乳成分を含む請求項1乃至5に記載のドリンクゼリー。
【請求項7】更に大豆多糖類、ハイメトキシルペクチン及びカルボキシメチルセルロースから選ばれる一種以上を含む請求項6に記載のドリンクゼリー。
【請求項8】更にゲル化剤にジェランガム、タマリンド種子多糖類、タラガム及びグァーガム等の増粘多糖類から選ばれる1種以上を含む請求項1乃至7に記載のドリンクゼリー。」

(1b)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】本発明は、かかる事情に鑑みて開発されたものであり、常温以上の温度(25?50℃)でゲル化し、また、常温流通を行っても保存安定性が高く、弾力のある食感を有し、ゼリーの容器への付着が少なくなったドリンクゼリーを提供することを目的とする。」

(1c)「【0012】本発明で用いるA成分であるキサンタンガムは、広く市販されているものを使用することができる。B成分はコンニャク芋抽出物及び/又はローカストビーンガムである。これらをそれぞれ単独で用いることができるが、両者併用で使用するのが特に好ましい。コンニャク芋抽出物はグルコマンナンを主成分としたものであればよく、ローカストビーンガムは、精製もしくは未精製タイプのいずれも使用することができる。
【0013】C成分である紅藻類由来のガム質としてカラギナン、寒天、ファーセレラン等を挙げることが出来るが、本発明ではカラギナンを必須成分として用いる。カラギナンは、κタイプのカラギナンとιタイプのカラギナンを用いることができるが、κタイプのカラギナンを用いるのが特に好ましい。本発明では、C成分として、カラギナンを必須成分として用いるが、その他の紅藻類由来のガム質として、寒天、ファーセレラン等を併用することもできる。
【0014】A?Cの3成分を必須成分とするゲル化剤を使用して、最終的にゲル化点が25?50℃となるように設定することにより、常温でゲル化が可能となり、製造時冷却水槽のような設備を必要とせず、容器充填等の作業性も有意に向上し、製品の大量生産が可能となったものである。
【0015】次に、本発明では、従来ゲルの調製が難しいとされていた酸性、詳細には、pH3.4?4.4、より好ましくは、pH3.7?4.0の範囲にドリンクゼリーのゲルを設定することができる。従来これらの酸性のドリンクゼリーを調製する時、多糖類の加水分解によるゼリーの性状の劣化が問題となっていたが、本発明の前記3成分を必須成分としたゲル化剤を用いることにより、ドリンクゼリーが酸性であっても、その課題を解決し、ゲルの性状の安定なドリンクゼリーが得られたものである。
【0016】酸味付けをする酸味料としては、例えば、クエン酸、乳酸、グルコノデルタラクトン(グルコン酸)、アジピン酸、酒石酸、リンゴ酸等を挙げることができる。中でも好ましくは、クエン酸、乳酸とすることにより、さっぱりとした爽快な酸味を付与することが出来る。」

(1d)「【0025】本発明のドリンクゼリーは、一般的に、例えば、缶、ビン、紙パック、ペットボトル、ラミネートパック、チュアパック等に充填、密封され、密封状態で流通、販売されるもので、気軽に摂取する事ができる形態であるのが好ましい。また常温で販売されるものであっても、冷蔵(チルド)状態で流通販売されるものであっても良い。また、本発明のドリンクゼリーは、容器からそのまま飲用することができるのが特徴であるが、ストローやスプーン等で食してもよい。また、ドリンクゼリーと同等のゲル強度を有する食品、例えば、嚥下困難者用食品などにも適用することが可能である。」

(1e)「【0026】また、本発明では、ゲル化剤に上記A?Cの3成分の他に、ジェランガム、タマリンド種子多糖類、タラガム及びグァーガムから選ばれる1種以上を含むことができる。これらのゲル化剤を更に併用することにより、前記の食感改良効果、ゲルの性状の保存安定性、乳成分中タンパク質の安定性など、本願発明の効果に補助的に作用する。これらその他のゲル化剤の添加量は、ドリンクゼリーに対して、0.02?0.5重量%を例示することができる。
【0027】更に、本発明のドリンクゼリーは、本発明の効果を損なわないことを限度として、その他のゲル化剤、果汁、果肉、着色料、着香料及び風味調整剤などを含むことができ、これによって対象とする組成物に所望の色、香り並びに味を均一に付与することができる。また、必要に応じて、乳化剤、酸化防止剤、保存料、ビタミン類、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム等のカルシウム類、鉄、マグネシウム、リン、カリウム等のミネラル類などを添加してもよい。
【0028】その他のゲル化剤として、一般的に用いられているものを適宜用いることができ、例えばアルギン酸、アルギン酸ナトリウム、ネイティブジェランガム、マクロホモプシスガムなどが挙げられる。また、コーンスターチ、タピオカ澱粉等の澱粉を添加してもよい。これらゲル化剤や澱粉を、飲み心地に影響を与えない程度の粘度を付与する量の添加を行うことで、乳化安定化効果に補助的に作用する。
【0029】甘味料としては、特に限定されず、従来甘味料として公知のものがいずれも使用でき、例えば、砂糖、果糖、ブドウ糖、水飴、還元水飴、はちみつ、異性化糖、転化糖、オリゴ糖(イソマルトオリゴ糖、還元キシロオリゴ糖、還元ゲンチオオリゴ糖、キシロオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖、ニゲロオリゴ糖、テアンデオリゴ糖、大豆オリゴ糖等)、トレハロース、糖アルコール(マルチトール、エリスリトール、ソルビトール、パラチニット、キシリトール、ラクチトール等)、砂糖結合水飴(カップリングシュガー)、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、アリテーム、ネオテーム、カンゾウ抽出物(グリチルリチン)、サッカリン、サッカリンナトリウム、ステビア抽出物、ステビア末等の甘味成分が挙げられる。甘味料の配合割合としては、特に制限されず、甘味度が3?30度となるように配合するのが好ましく、好ましくは5?20度、より好ましくは8?15度となるように配合するのがよい。」

(1f)「【0030】本発明のドリンクゼリーの製造方法であるが、前記記載の原料を水、好ましくは蒸留水に加熱攪拌溶解し(75?95℃で5?15分程度)、香料、色素等を添加してpH調整、全量補正後、40℃で無菌条件下に容器充填を行う方法か、或いは、全量補正後、90?95℃で容器充填(ホットパック充填)後、例えば、シャワー等で荒熱を取ってから、箱詰めし、流通経路に乗せる方法等が挙げられる。本発明では、製造時冷却水槽のような設備が必要なく、大量生産が可能となったものである。
【0031】本発明により、常温流通においてもゲルの性状の保存安定性が高く、なおかつ弾力のある食感を有し、ゼリーの容器への付着が少ないドリンクゼリーを提供できるようになった。更には、常温でゲル化するため、製造時に冷却水槽のような設備が必要なく、大量生産が可能となった。」

(1g)「【0033】実施例1:りんご味のドリンクゼリー
下記のゼリー部処方に示す組成のうち、水に、ゲル化剤(ゲルアップJ-3660;キサンタンガム、グルコマンナン、ローカストビーンガム、カラギナンを配合、詳細は下記)、果糖ブドウ糖液糖及びクエン酸三ナトリウムを加え、90℃10分間攪拌溶解し、更に、少量のお湯でといたクエン酸及びりんご5倍濃縮果汁を添加し、pHを3.8に調整し、全量補正する。93℃達温後に香料を加え、ペットボトルに充填し、ペットボトル入りりんご味のドリンクゼリーを得た(ゲル化点34℃)。
【0034】
処方 部
ゲル化剤(ゲルアップ J-3660*※) 0.17
果糖ブドウ糖液糖 11.0
りんご5倍濃縮果汁 2.0
クエン酸(無水)* pH3.8まで
クエン酸三ナトリウム 0.07
香料(アップルエッセンスNo.57064*) 0.1
香料(マルチハンサー No.1*) 0.03
イオン交換水にて全量 100とする
【0035】※ゲルアップJ-3660:キサンタンガム29%、カラギナン17%、グルコマンナン17%、寒天13%、ローカストビーンガム12%、デキストリン12%配合。」

(1h)「【0055】実施例5:ヨーグルト風味の酸乳ドリンクゼリー
下記の処方に示す組成のうち、水に粉末発酵乳を攪拌溶解し、75℃まで加熱する。別に、水に、ゲル化剤、ハイメトキシルペクチン、砂糖及び脱脂粉乳の粉体混合物、液糖及び乳化油脂を加え、90℃10分間攪拌溶解し、75℃とした後、前記発酵乳含有溶液を加え、更に、少量のお湯でといたクエン酸、ピーチピューレ及び白桃5倍濃縮果汁を添加し、pHを3.8に調整し、全量補正、93℃達温後、40℃にてチュアパックに無菌充填し、チュアパック入りピーチ風味の酸乳ドリンクゼリーを得た(ゲル化点32℃)。」

(2)刊行物2:特開平11-75726号公報の記載事項

(2a)「【0002】
【従来の技術】近年、例えば糖類、果汁、ミネラル、ビタミン等の栄養分を含有する、流動性が損なわれない程度にゲル化したゼリー様飲食品を、チアーパック等と呼ばれる、蓋のできる吸い口を有する柔軟性容器に充填した製品が市販され、手軽に摂取できる栄養補助食品として脚光を浴びている。」

(2b)「【0019】また、本発明において、蓋のできる吸い口を有する柔軟性容器としては、ラミネートフィルムからなるパウチ形状の容器であって、蓋のついたストロー状の吸い口を有するもの、いわゆるチアーパックと呼ばれるものが好ましく用いられるが、蓋の付いた中空のブロー成形容器等を用いることもできる。図1は、チアーパックの一例を示し、この容器11は、ラミネートフィルムからなる袋状の容器本体12の開口部に、ストロー状の吸い口13を挿入してヒートシールし、吸い口13の頭部にキャップ14を螺着して構成されている。」

(3)刊行物3:特開平7-236434号公報の記載事項

(3a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】ゲル化温度が10?25℃のカラギナンローカストビーンガムコンニャク精粉からなるゲル化剤を用いることを特徴とするドリンクゼリーの製造法。」

(3b)「【0002】
【従来の技術】従来よりドリンクゼリーとして、フルーツゼリー用のゲル化剤製剤(カラギナン、ローカストビーンガム、寒天、ファーセレラン等)を使用し、非常に柔らかい組織を飲食するものは既に知られている(特開平2-283250)。また、比較的柔らかなフルーツゼリーで、フルーツゼリーから生じる離水をゼリーと一緒にストローで喫食するものは既に知られている(特開昭61-96961)。これらのドリンクゼリーに使用されるゲル化剤のゲル化温度は30?35℃であり、そのドリンクゼリーは既に商品化されて知られている。
【0003】また、ただ単にソフトで柔らかなゲルを得るには、キサンタンガムとローカストビーンガム又はキサンタンガムとグルコマンナンを使用する方法が知られているが、この物のゲル化温度は45℃以上と高い。これらの既存のドリンクゼリーはゲル化剤および砂糖に果汁やクエン酸等の酸性物質を添加し、80?90℃で加熱溶解してから容器に充填するホットパック法か、容器に充填した後更に殺菌する2次殺菌の方法で製造される。これらの製造方法ではゼリー溶液を高温の酸性領域で容器に充填するまで保持する必要があり、長時間の加熱によりゼリー強度の低下を生ずる。更に、2次殺菌の方法では、容器に充填してから加熱殺菌することにより、更にゼリー強度の低下を生じる。
【0004】この様に、通常のゲル化剤で調整したゼリー溶液は比較的ゲル化温度が高い為、製造時に高温に長時間さらされるので、ゲル強度が劣化しやすく、大量の製造には十分な温度管理が必要である。」

(3c)「【0008】カラギナンにはカッパータイプ、アイオタータイプ、ラムダタイプの3種類があるが本発明に用いるカラギナンは、ゲル化性を有するカッパータイプまたはアイオータタイプのカラギナンである。一般のゲル化性を有するカラギナン(カッパーカラギナン、アイオーターカラギナン)は、カラギナンに含まれるカリウムイオン含量が8?15%で、ゲル化温度が27?35℃に対し、本発明に使用する低ゲル化点カラギナンのカリウムイオン含量は3?7%で、ゲル化温度が10?25℃である。
【0009】コンニャク精粉は、コンニャクイモから得られたグルコマンナンを主成分とするもので、本発明では未精製のコンニャク粉やコンニャク粉を精製して得られたグルコマンナンも用いることが出来る。ローカストビーンガムは、カロブビーンから得られたガラクトマンナンを主成分とするもので、本発明では、未精製、精製のローカストビーンガムのどちらも使用することが出来る。
【0010】低ゲル化点カラギナン、ローカストビーンガム及びコンニャク精粉の併用比率は、低ゲル化点カラギナン1部(重量、以下同じ)に対して、ローカストビーンガムは0.1?1部であり、コンニャク精粉は0.01?0.5部である。また、ゲル化剤の添加量はドリンクゼリーに対し2.0%(重量%,以下同じ)以下量で、より好ましくは、0.2?1.0%が適当である。」

(3d)「実施例2
ドリンクゼリー(ストロベリー味)
清水83.85部に砂糖15部、低ゲル化点カラギナン0.25部、コンニャク粉0.1部、ローカストビーンガム 0.1部、ファーセレラン0.1部を加え攪拌機(新東化学機械株式会社品3000H)で攪拌しながら80℃10分間加熱する。次に1/5濃縮ストロベリー果汁、クエン酸0.3部、クエン酸三ナトリウム0.1部、赤キャベツ色素0.1部、ストロベリーフレーバー0.1部加え、蒸発水を補正しUHT殺菌機(株式会社イズミフードマシナリ)で100℃4秒間殺菌し、ゼリー溶液を20℃でとりだし、100ml入りのペンシル型の透明なポリ容器に密封し冷蔵庫(8℃)でゲル化させた。得られたポリ容器入りのストロベリーゼリーは容器から直接吸引できる粘弾性のあるストロベリーゼリーのドリンクゼリーであった。」

第3 対比・判断
刊行物1の上記記載(特に上記(1a),(1f))から、刊行物1には、
「下記のA?C成分を含み、ゲル化点が25?50℃となるように調整されたゲル化剤を含むドリンクゼリーの製造方法であって、
下記のA?C成分を含み、ゲル化点が25?50℃となるように調整されたゲル化剤を含む原料を水、好ましくは蒸留水に加熱撹拌溶解し(75?95℃で5?15分程度)、
A成分:キサンタンガム
B成分:コンニャク芋抽出物及び/又はローカストビーンガム
C成分:紅藻類由来のガム質
香料、色素等を添加してpH調整、全量補正後、
40℃で無菌条件下に容器充填を行う方法か、或いは、全量補正後、90?95℃で容器充填(ホットパック充填)後、
例えば、シャワー等で荒熱を取ってから、箱詰めし、流通経路に乗せる、ドリンクゼリーの製造方法」
の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

そこで、本願発明と刊行物1発明とを比較する。

(ア)刊行物1発明の「コンニャク芋抽出物」について、刊行物1には、グルコマンナンを主成分としたものであればよいことが記載されており(1c)、一方、本願発明の「(c)コンニャク精粉」は、本願の明細書【0015】を参照すると、コンニャクイモから得られたグルコマンナンを主成分とするもので、未精製のコンニャク粉、コンニャク粉を精製して得られたグルコマンナン等が挙げられ、適宜単独もしくは複数組合せて用いればよいことが記載されている。そうすると、いずれもコンニャクイモから得られたグルコマンナンを主成分とするものが例示されるものであるので、刊行物1の「コンニャク芋抽出物」は、本願発明の「コンニャク精粉」に相当する。

(イ)刊行物1発明の「紅藻類由来のガム質」として、刊行物1には、カラギナンを必須成分として用いること、κタイプのカラギナンを用いることが好ましいことが記載されており(1c)、また、κタイプ(カッパータイプ)のカラギナンは、刊行物3に、一般のゲル化性を有するカラギナン(カッパーカラギナン、アイオーターカラギナン)はゲル化温度が27?35℃であると記載されているように(3c)、ゲル化温度が27?35℃のカラギナンである。そうすると、刊行物1発明の「紅藻類由来のガム質」は、本願発明の「ゲル化温度が27?35℃のカラギナン」に相当する。

(ウ)上記(ア)と(イ)から、刊行物1発明の「下記のA?C成分を含み、ゲル化点が25?50℃となるように調整されたゲル化剤
A成分:キサンタンガム
B成分:コンニャク芋抽出物及び/又はローカストビーンガム
C成分:紅藻類由来のガム質」は、
本願発明の「(1)下記成分(a)、(b)、(c)及び(d)
(a)ゲル化温度が27?35℃のカラギナン
(b)ローカストビーンガム
(c)コンニャク精粉
(d)キサンタンガム」に相当する。

(エ)本願発明の「水性媒体」について、本願の明細書【0022】を参照すると、水性媒体は、上水道水、井戸水、イオン交換水、純水等が挙げられ、適宜選択して用いればよいことが記載されており、刊行物1発明の「水、好ましくは蒸留水」は、本願発明の「水性媒体」に相当する。

(オ)本願発明の「一次殺菌する工程」について、本願の明細書【0023】を参照すると、溶解と殺菌が別工程である必要はなく、殺菌時の昇温により上記成分を溶解させることも含む意味であること、1次殺菌の殺菌条件は、92℃で1?2分間と同等であればよいことが記載されている。
そうすると、刊行物1発明の「ゲル化剤を含む原料を水、好ましくは蒸留水に加熱撹拌溶解し(75?95℃で5?15分程度)」との工程と、
本願発明の「成分(a)、(b)、(c)及び(d)を、非加熱の水性媒体中に分散し、調合液を得る工程
(2)上記調合液を加熱して少なくとも上記成分(a)?(d)を溶解し、1次殺菌する工程」とは、
成分(a)、(b)、(c)及び(d)を水性媒体中で加熱して、少なくとも成分(a)?(b)を溶解し、一次殺菌する工程である点で共通する。

(カ)刊行物1発明の「容器充填」について、刊行物1には、本発明のドリンクゼリーは、一般的に、例えば、缶、ビン、紙パック、ペットボトル、ラミネートパック、チュアパック等に充填、密封され、密封状態で流通、販売されるもので、気軽に摂取する事ができる形態であるのが好ましいことが記載されており(1d)、この中で、チュアパックとは、刊行物2((2a),(2b))に記載されるように、吸い口付き容器のことであることから、刊行物1発明の「容器」は、本願発明の「吸い口付き密封容器」に相当する。

(キ)刊行物1発明は、「ゲル化点が25?50℃となるように調整されたゲル化剤を含むドリンクゼリー」であって、また、刊行物1には、常温流通においてゲルの性状の保存安定性が高いものであることが記載されていることから(1f)、常温でゲル化して流通させるものである。
そうすると、刊行物1発明の「40℃で無菌条件下に容器充填を行う方法か、或いは、全量補正後、90?95℃で容器充填(ホットパック充填)後、例えば、シャワー等で荒熱を取ってから、箱詰めし、流通経路に乗せる、」ことと、
本願発明の
「吸い口付き容器に充填し密封する工程
(4)上記密封した調合液を、2次殺菌する工程
(5)上記2次殺菌した調合液を、40℃以下に冷却し、ゲル化させる工程」とは、
吸い口付き容器に充填し密封する工程の後、40℃以下に冷却し、ゲル化させる工程である点で共通する。

(ク)刊行物1発明の「ドリンクゼリー」は、本願発明の「ゼリー状食品」に相当する。

しがっって、両者の間には、以下の一致点及び相違点がある。

(一致点)
「下記工程を順次備えた吸い口付き密封容器入りゼリー状食品の製法。
(1)下記成分(a)、(b)、(c)及び(d)を水性媒体中で加熱して、少なくとも成分(a)?(b)を溶解し、一次殺菌する工程
(a)ゲル化温度が27?35℃のカラギナン
(b)ローカストビーンガム
(c)コンニャク精粉
(d)キサンタンガム
(2)吸い口付き容器に充填し密封する工程
(3)40℃以下に冷却し、ゲル化させる工程」

(相違点1)成分(a)、(b)、(c)及び(d)を水性媒体中で加熱して溶解する前に、本願発明では、「成分(a)?(d)を非加熱の水性媒体中に分散させ、調合液を得る」のに対し、刊行物1発明では、成分(a)?(d)を水に分散させた調合液を得ることについては特に規定していない点。

(相違点2)吸い口付き容器に充填し密封する工程について、本願発明では、吸い口付き容器に充填し密封した後、密封した調合液を2次殺菌するのに対し、刊行物1発明では40℃で無菌条件下に容器充填を行う方法か、或いは、全量補正後、90?95℃で容器充填(ホットパック充填)を行う点。

(相違点3)ゼリー状食品が、本願発明では「可溶性固形分の含有量がゼリー状食品全体重量中15重量%を超える」ものであるのに対し、刊行物1発明では、可溶性固形分の含有量について、特に規定していない点。

そこで、上記各相違点について検討する。

(相違点1について)
刊行物1発明の「ゲル化点が25?50℃となるように調整されたゲル化剤を含む原料を水、好ましくは蒸留水に加熱撹拌溶解」することについて、刊行物1には、その実施例に、水にゲル化剤等を加え、90℃10分間撹拌溶解することが記載されている(1g)。
そして、ゲル化剤を水に加え、加熱して溶解させる際には、加熱の前にダマにならないよう、よく撹拌しながら水に投入するなどして、ゲル化剤を水に分散させた混合液にしておくことは、例えば特開2002-204662号公報(【0017】)、特開2002-119225号公報(【0028】)などに記載されているように、本願出願前の周知の技術である。
そうすると、刊行物1発明において、ゲル化剤を水に加え加熱して溶解させる前に、非加熱の蒸留水にゲル化剤を分散させた混合液、すなわち、調合液としておくことは、周知技術を適用して、当業者が適宜に設計し得たことである。

(相違点2について)
ドリンクゼリーを容器に充填する方法として、刊行物1発明では、無菌条件下に容器充填を行う方法か、或いは、ホットパック充填を行うこととしているが、これらの方法の他、ドリンクゼリーを容器に充填した後に、加熱殺菌する方法は、例えば刊行物3(3b)、特開2002-204662号公報(【0019】)、特開平7-274915号公報(【0017】,【0018】)などに記載されているように、本願出願前の周知の技術である。
よって、刊行物1発明について、40℃で無菌条件下に容器充填を行う方法か、或いは、90?95℃で容器充填(ホットパック充填)する方法に代えて、容器に充填した後に加熱して殺菌する方法を採用することも、周知の技術を参照して当業者が容易に設計し得たことである。

(相違点3について)
本願発明の「可溶性固形分の含有量をゼリー状食品全体重量中15重量%を超える」ものとすることの技術的意義について、本願の明細書には、従来技術である特許文献3で示される吸い口付き密封容器入りゼリー状食品によれば、可溶性固形分がゼリー状食品に対して特に15重量%以下程度の少量である場合には、特有の伸びと弾力のある食感を有し、繋がった塊状のゼリー状食品を弱い吸い出し力で連続的に味わうことができるという効果を好適に奏するが、可溶性固形分が15重量%を超えて含有される場合には、弾力と伸び等の食感に改良の余地があったとの課題を有していたこと(【0004】)、そして、本発明者らは、可溶性固形分量に拘わらず、コンニャクのような特有の弾力を有すると共に、弱い吸い出し力で、吸い口から連続的に繋がった塊状のゼリー状食品を吸い出せる特有の伸びを有し、更には、最小限の熱履歴でも常温で9ヶ月以上の長期保存可能なゼリー状食品の組成について種々検討を重ねた結果、ゲル化剤の組合せと配合に着目し、キサンタンガムを用いたゲル化剤の組合せとし、ローカストビーンガムとコンニャク製粉の配合比率を高くするという特定配合とすることにより、上記ゼリー状食品が得られることを見出し、本発明に到達したこと(【0010】)、さらに、ゼリー状食品の可溶性固形分の含有量は、特に限定するものではないが、ゼリー状食品全体重量中15重量%を超えていることが、更に好ましくは20?50重量%であることが、反復咀嚼が顕著に楽しめ、満腹感・満足感を付与し得る点で特に望ましい旨(【0019】)記載しており、ゲル化剤の組合せと配合を特定のものとすることにより、従来課題を有していた可溶性固形分が15重量%を超えて含有される場合でも弾力と伸び等の食感を得たゼリー状食品となり、反復咀嚼が顕著に楽しめ、満腹感・満足感を付与し得ることが記載されている。しかし、本願発明は、ゲル化剤の組合わせについては特定しているものの、ゲル化剤の配合比率については特定していないので、上記数値限定について、格別の臨界的意義があるとすることはできない。
一方、刊行物1発明のドリンクゼリーは、ゲル化剤は本願発明と同様の組合せを用いているが、可溶性固形分の含有量については特に規定していない。そして、刊行物1発明のドリンクゼリーについて、刊行物1には、常温流通を行っても保存安定性が高く、弾力のある食感を有し、ゼリーの容器への付着が少なくなったドリンクゼリーを提供することを目的としたこと(1b)、ドリンクゼリーに用いる原料として、ゲル化剤の他に、可溶性固形分である、酸味付けをする酸味料としてのクエン酸(1c)や、甘味料としての砂糖(1e)などの公知のものが使用できること、さらに、その実施例ではゲル化剤の他に、果糖ブドウ糖液糖11.0部、りんご5倍濃縮果汁2.0部、クエン酸(無水)、クエン酸三ナトリウム0.07部等を処方したことなど(1g)が例示されている。
そして、刊行物3には、容器から直接吸引できる粘弾性のあるストロベリーゼリーのドリンクゼリーであって、清水83.85部、砂糖15部、低ゲル化点カラギナン0.25部、コンニャク粉0.1部、ローカストビーンガム 0.1部、ファーセレラン0.1部、1/5濃縮ストロベリー果汁、クエン酸0.3部、クエン酸三ナトリウム0.1部、赤キャベツ色素0.1部、ストロベリーフレーバー0.1部を原料とすることが記載されており(3d)、低ゲル化点カラギナンを含むゲル化剤の他、砂糖を15部、クエン酸0.3部、クエン酸三ナトリウム0.1部など、可溶性固形分の含有量がドリンクゼリー全体の15重量%を超える量を原料としたドリンクゼリーが記載されている。
そうすると、刊行物1発明において、所望の酸味や甘みを持ち、また弾力のある食感を有したドリンクゼリーとすることを考えて、酸味料としてのクエン酸や甘味料としての砂糖を、所望の酸味や甘みが得られる分量を使用して可溶性固形分の含有量をドリンクゼリー全体重量中の15重量%を超えたものとし、所望の食感を有したドリンクゼリーとすることは、刊行物3に記載されたドリンクゼリーの処方を参照して、当業者が容易になし得たことである。

(本願発明の効果について)
本願発明の効果も、刊行物1及び3に記載された事項及び周知の技術から当業者が予測し得た程度のものであり、格別顕著なものとはいえない。

したがって、本願発明は、刊行物1及び3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび

以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は、拒絶をすべきものである。
 
審理終結日 2012-05-08 
結審通知日 2012-05-09 
審決日 2012-05-22 
出願番号 特願2005-264761(P2005-264761)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三原 健治  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 齊藤 真由美
菅野 智子
発明の名称 吸い口付き密封容器入りゼリー状食品及びその製法  

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