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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04B
管理番号 1259466
審判番号 不服2010-21139  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-09-21 
確定日 2012-07-04 
事件の表示 特願2006-533557「エラーを起こしやすいシステムにおいて帯域幅とQoSを管理するための移動局-中心方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年12月23日国際公開、WO2004/112372、平成19年 1月25日国内公表、特表2007-501593〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成16年6月2日(パリ条約に基づく優先権主張 2003年6月12日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成22年5月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成22年9月21日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。


第2.本願発明
平成22年9月21日付けの手続補正により、請求項1と請求項2が補正され、請求項3が削除され、補正前の請求項4-14について、項番がそれぞれ一繰り上がり、新たな請求項3-13となった。したがって、請求項8は、補正前の請求項9と同じ内容である。
本願の請求項8に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年9月21日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項8】
下記を具備する、少なくともNの層を有するデジタルマルチメディアデータを少なくとも1つの基地局(BTS)に無線で送信するための移動局(MS):
前記層を前記BTSにより成功裏に受信し、復調し、および復号可能にするために十分なFECレート、電力レベル、チャネル条件、移動局、移動局制約、ユーザー優先度、コンテンツ優先度、および請求計画の少なくとも1つに基づいて、N-1の層またはそれより少ない層のみを送信する手段。」


第3.引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1(DAPENG WU, YIWEI THOMAS HOU, and YA-QIN ZHANG,"Scalable Video Coding and Transport over Broad-Band Wireless Networks" , PROCEEDINGS OF THE IEEE, VOL.89, NO.1,JANUARY 2001,p.6-20)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

(a)第12頁右欄「B. Adaptation」の第5-16行
「To illustrate the adaptation process, in Fig.10 we present an architecture including a network-aware mobile sender, a base station, and a receiver. The architecture in Fig.10 is applicable to both live and stored video. In Fig.10, at the sender side, the compressed video bit stream is first filtered by the scaler, the operation of which is to select certain video layers to transmit. Then the selected video representation is passed through transport protocols. Before being transmitted to the base station, the bit stream has to be modulated by a modem (i.e., modulator/demodulator). Upon receipt of the video packets, the base station transmits them to the destination through the network (e.g., the Internet). 」
(当審訳:適応プロセスを説明するために、我々は、図10に、ネットワークに接続されたモバイルの送り手、基地局および受け手を含むアーキテクチャーを示す。図10の中のアーキテクチャーは、ライブのビデオと記録されているビデオの両方に適用可能である。図10では、送り手側では、圧縮したビデオ・ビットストリームは、スケーラーによって最初にフィルタリングされる。そのオペレーションは、送信するあるビデオ層を選択することである。その後、選択されたビデオ表現は、トランスポート・プロトコルを通して渡される。基地局へ送信される前に、モデム(つまり、変調器/復調器)によってビットストリームは変調されなければならない。ビデオ・パケットを受け取ると、基地局はネットワーク(例えば、インターネット)を通して目的地へそれらを送信する。)

(b)第13頁左欄第5-17行
「Another scenario is that the network monitor notifies the sender about the channel quality(i.e.,BER)[5]. Upon receiving this information, the rate control module at the sender commands the scaler to perform the following operations (suppose that the video is compressed into two layers): 1) If the BER is above a threshold, discard the enhancement layer so that the bandwidth allocated for the enhancement layer can be utilized by forward error correction (FEC) to protect the base layer, 2) otherwise, transmit both layers. For representations with multiple layers (more than two), an open problem is: Given a fixed bit budget, how many less important layers (higher layers) should be discarded so that more important layers (lower layers) can be protected by FEC?」
(当審訳:別のシナリオは、チャンネル品質(すなわち,BER)について、ネットワーク・モニターが送り手に通知するということである[5]。この情報を受信すると、送り手のレート制御モジュールは、スケーラーに対して、以下のオペレーションを行なうことを命ずる。(ビデオが2層に圧縮されていると仮定しなさい。)1)BERがしきい値より大きければ、エンハンスメント層に割り付けられた帯域幅が、基層を守るために前方誤り訂正(FEC)によって利用されることができるようにするために、エンハンスメント層を放棄しなさい。2)そうでなければ、両方の層を送信しなさい。多層(2層より多い)の表現についての未解決な問題は、次のとおりである。予算として固定されたビット数が与えられた時に、より重要な層(より低い層)をFECで守るために、どれだけ多くの余り重要でない層(より高い層)が放棄されるべきか?)

したがって、刊行物1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ネットワークに接続されたモバイルの送り手、基地局および受け手を含むアーキテクチャーであり、送り手のビデオについては、ライブのビデオと記録されているビデオの両方に適用可能であり、送り手側では、圧縮したビデオ・ビットストリームは、スケーラーによって最初にフィルタリングされ、そのオペレーションは、送信するあるビデオ層を選択することであり、その後、モデム(つまり、変調器/復調器)によってビットストリームは変調され、選択されたビデオ表現は、トランスポート・プロトコルを通して渡され、基地局は、ビデオ・パケットを受け取ると、ネットワーク(例えば、インターネット)を通して目的地へそれらを送信し、
ネットワーク・モニターが送り手にチャンネル品質(すなわち,BER)について通知し、送り手がこの情報を受信すると、送り手のレート制御モジュールは、スケーラーに対して、以下のオペレーションを行なうことを命じ(ここで、ビデオが2層に圧縮されていると仮定する。)、
1)BERがしきい値より大きければ、エンハンスメント層に割り付けられた帯域幅が、基層を守るために前方誤り訂正(FEC)によって利用されることができるようにするために、エンハンスメント層を放棄しなさい。
2)そうでなければ、両方の層を送信しなさい。
多層(2層より多い)の表現についての未解決な問題は、予算として固定されたビット数が与えられた時に、より重要な層(より低い層)をFECで守るために、どれだけ多くの余り重要でない層(より高い層)が放棄されるべきかということである、
アーキテクチャー。」


第4.本願発明と引用発明の一致点・相違点
引用発明の圧縮したビデオ・ビットストリームは、デジタルデータである。引用発明のモバイルがビデオ層を基地局へ送信する時には、無線で送信することは技術常識である。引用発明では、ビデオが2層に圧縮されていると仮定している。本願発明の「Nの層」は、2の層の場合を含んでいる。
したがって、本願発明の移動局(MS)と引用発明のモバイルとは、「2の層を有するデジタルデータを少なくとも1つの基地局(BTS)に無線で送信するための移動局(MS)」である点で一致している。

引用発明では、BERがしきい値より大きい場合に、エンハンスメント層を放棄し、基層を守るために、エンハンスメント層に割り付けられた帯域幅を前方誤り訂正(FEC)に利用している。この時、モバイルが、あるFECレート及び電力レベルで無線送信していることは、技術常識である。そして、モバイルの送り手から基地局へ無線送信し、BERの報告まで受けているからには、そのFECレート及び電力レベルについては、基地局が受信に成功し、モデムによって復調され、および復号可能にするために十分な程度のものに設定されていることは、当然、為されている事項である。本願発明では、「少なくとも1つに基づいて、」とされているから、引用発明のFECレート及び電力レベルに基づくことは、本願発明の「FECレート、電力レベル、チャネル条件、移動局、移動局制約、ユーザー優先度、コンテンツ優先度、および請求計画の少なくとも1つに基づいて、」に合致している。したがって、引用発明と本願発明とは、「前記層を前記BTSにより成功裏に受信し、復調し、および復号可能にするために十分なFECレート、電力レベル、チャネル条件、移動局、移動局制約、ユーザー優先度、コンテンツ優先度、および請求計画の少なくとも1つに基づいて」いる点で、一致している。

引用発明では、BERがしきい値より大きければ、エンハンスメント層を放棄している。したがって、この場合、引用発明では基層のみ、すなわち1層を送信している。したがって、本願発明の移動局(MS)と引用発明のモバイルとは、「1層のみを送信する手段」を具備する点で一致している。

したがって、本願発明と引用発明の一致点・相違点は、次のとおりである。

[一致点]
「下記を具備する、2の層を有するデジタルデータを少なくとも1つの基地局(BTS)に無線で送信するための移動局(MS):
前記層を前記BTSにより成功裏に受信し、復調し、および復号可能にするために十分なFECレート、電力レベル、チャネル条件、移動局、移動局制約、ユーザー優先度、コンテンツ優先度、および請求計画の少なくとも1つに基づいて、1層のみを送信する手段。」

[相違点1]
本願発明では、少なくともNの層を有するデジタルデータの内のN-1の層またはそれより少ない層のみを送信するのに対して、引用発明では、基層とエンハンスメント層の内の基層のみを送信する点。

[相違点2]
本願発明では、移動局(MS)が送信するデジタルデータが、デジタルマルチメディアデータであるのに対して、引用発明において、モバイルが送信するデジタルデータは、ビデオデータである点。


第5.相違点についての検討

[相違点1について]
引用発明には、「多層(2層より多い)の表現についての未解決な問題は、予算として固定されたビット数が与えられた時に、より重要な層(より低い層)をFECで守るために、どれだけ多くの余り重要でない層(より高い層)が放棄されるべきかということである、」と記載されているから、エンハンスメント層の数を2以上とし、そのうちの一部の層を放棄するように一般化することが考慮されている。したがって、引用発明において、層の数をNとし、N-1の層またはそれより少ない層のみを送信することは、記載されているに等しい事項である。

[相違点2について]
モバイルから基地局へデジタルマルチメディアデータを送信することは、周知技術である。デジタルマルチメディアデータの中には、テキストデータ、オーディオデータ、静止画データ、動画データなどが含まれるが、引用発明は、それらの中でも技術的に難しい動画データに対する技術であるから、テキストデータ、オーディオデータ、静止画データも含むデジタルマルチメディアデータを送信する前記周知技術へ、引用発明の技術を適用することは、当然、容易に想到できたことである。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第6.むすび
以上のとおり、本願の請求項8に係る発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-01 
結審通知日 2012-02-07 
審決日 2012-02-20 
出願番号 特願2006-533557(P2006-533557)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 齋藤 哲阿部 圭子  
特許庁審判長 江口 能弘
特許庁審判官 稲葉 和生
安島 智也
発明の名称 エラーを起こしやすいシステムにおいて帯域幅とQoSを管理するための移動局-中心方法  
代理人 砂川 克  
代理人 白根 俊郎  
代理人 勝村 紘  
代理人 野河 信久  
代理人 佐藤 立志  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 福原 淑弘  
代理人 中村 誠  
代理人 竹内 将訓  
代理人 峰 隆司  
代理人 岡田 貴志  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 山下 元  
代理人 村松 貞男  
代理人 河野 哲  
代理人 河野 直樹  
代理人 堀内 美保子  
代理人 市原 卓三  

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