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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61F
管理番号 1259472
審判番号 不服2010-24960  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-11-05 
確定日 2012-07-04 
事件の表示 特願2007-525138号「眼用器具及び関連した方法及び組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 2月16日国際公開、WO2006/015490、平成20年 3月27日国内公表、特表2008-508959号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成17年8月12日(パリ条約による優先権主張 2004年8月13日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成22年6月30日付けで拒絶査定がなされたところ、同査定を不服として平成22年11月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同平成22年11月5日付けで特許請求の範囲についての手続補正がなされたものである。

II.平成22年11月5日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年11月5日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。

「白色光透過率が少なくとも85%であり、かつ白色光散乱が3%未満である、架橋コラーゲンを含んでなる光学的に透明かつ移植可能な生合成組成物であって、
前記架橋コラーゲンは、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド及びN-ヒドロキシスクシンイミドを使用してコラーゲン重合体を架橋するプロセスによって製造され、
当該組成物は5%(w/w)から50%(w/w)の間のある量のコラーゲンを含む組成物。」(下線部は補正個所を示す。)

2.補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無
本件補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「生合成組成物」に「かつ移植可能な」との限定を付加し、さらに、同じく補正前の請求項1に記載した発明特定事項である「架橋コラーゲン」に「前記架橋コラーゲンは、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド及びN-ヒドロキシスクシンイミドを使用してコラーゲン重合体を架橋するプロセスによって製造され」との限定を付加するものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、本件補正は、新規事項を追加するものではない。

3.独立特許要件
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)、以下検討する。

3-1.引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、米国特許第4581030号明細書(以下、「引用例」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。(和文は当審において仮訳したものである。)

イ)「FIELD OF THE INVENTION
This invention relates to a prosthetic replacement for the cornea and particularly to a transparent collagen material useful for making such a prosthesis and to methods for making such transparent collagen material.
(発明の技術分野
本発明は、人工角膜、特に、そのような人工身体器官の作製に有用な透明なコラーゲン材料及びそのような透明なコラーゲン材料の作製方法に関係する。)」(1欄8?12行)

ロ)「BACKGROUND OF THE INVENTION
Most synthetic polymer membranes are extruded from the cornea after intralamellar implantation. This is explained by their impermeability, both to water and metabolites, which causes desiccation of the corneal stroma anterior to the membrane. It has been suggested that an approach to the problem of finding a suitable corneal implant material is the use of collagen.
・・・(中略)・・・
To date, no one to the knowledge of the present applicants has successfully produced a collagen material that can be used as a prosthetic replacement for the cornea. Typically collagen materials, although transparent when used in thin membranes, are not sufficiently transparent when made in a thickness suitable for use as a prosthetic replacement for the cornea.
Thus, there remains a desire for a native collagen material suitable for making a prosthetic replacement for the cornea.
(発明の背景
ほとんどの合成ポリマー膜は、層内移植後に角膜から押し出される。これは、水と代謝物質とに対する不透過性によって説明され、(この不透過性は)膜の前の角膜のストローマの乾燥を引き起こす。角膜インプラントに適した材料を見つけるという問題へのアプローチとしてコラーゲンの使用が提案されてきた。
・・・(中略)・・・
現在まで、本発明者の知る限り、いかなる者も人工角膜に使用できるコラーゲン材料を作製することに成功していない。典型的にコラーゲン材料は、薄い膜で使用される時には透明であるものの、人工角膜での使用に適した厚さに作製された時には十分に透明ではない。
したがって、人工角膜を行うのに適した天然のコラーゲン材料に対する要望が依然としてある。)」(1欄14行?2欄18行)

ハ)「SUMMARY OF THE INVENTION
The present invention provides a transparent native, non-fibrilized collagen material having an absorbance at a wavelength 900 nm of less than 5% in a sample 5 mm thick. This collagen material of the present invention is useful for prosthetic replacement of the cornea because of the high transparency and because it is a native material, and thus less susceptible to immunogenic responses.
The collagen material is preferably made by ultracentrifuging a cold collagen solution, i.e., centrifuging at about 80,000 or more times gravity, preferably at about 100,000-120,000 times gravity until the level of supernate is constant. The supernate is removed and the pellet is fixed by treating it to produce cross-linking between the molecules of collagen.
(発明の要約
本発明は、5mmの厚さの試験片にて900nmの波長で5%より小さい吸光率を有する、透明な天然の繊維化されていないコラーゲン材料を提供する。本発明のこのコラーゲン材料は、透明度が高く、天然材料であるため免疫反応の影響を受けにくいので、人工角膜に有用である。
コラーゲン材料は、好ましくは冷たいコラーゲン溶液を超遠心分離、すなわち約8万倍もしくはそれ以上の重力で、好ましくは約10万?12万倍の重力で、上澄みの液面が一定となるまで遠心分離することによって作製される。上澄みは取り除かれ、ペレットはコラーゲンの分子間を架橋する処理によって固定化される。)」(2欄20?34行)

ニ)「DETAILED DESCRIPTION OF THE INVENTION
Prior to the present invention the use of collagen based materials in cases where transparency is important has been limited to use as thin membranes, because prior art collagen materials were not sufficiently transparent for optical use except in such membrane from where the thinness made up for the lack of transparency.
The collagen material of the present invention, however, is a highly transparent, relatively hard non-fibrilized gel, and thus it is advantageous for use in corneal replacement. The collagen material of this invention is made from soluble native collagen. ・・・
(発明の詳細な説明
本発明より前には、コラーゲンベースの材料の使用は、透明性が重要となるケースでは、薄い膜として使用することに限定されていた。なぜなら、先行技術のコラーゲン材料は、透明性の不足を埋め合わせるような厚さとされた膜である場合を除き、光学用途用には十分な透明度ではなかった。
しかしながら、本発明のコラーゲン材料は、透明性が高く、比較的硬質の繊維化されていないゲルであるので、人工角膜に使用するのに都合がよい。本発明のコラーゲン材料は可溶性の天然コラーゲンから作られる。・・・)」(2欄44?57行)

ホ)「The transparent pellet formed by ultracentrifuging is then fixed to form a rigid structure. It can be fixed by chemicals or by irradiation to form crosslinks in the gel. One method of chemically crosslinking the gel is to treat it with a fixing agent, many of which are known, such as a solution of formaldehyde and/or glutaraldehyde. However, any other well-known method for fixing the gel is suitable. After fixing, the gel becomes rigid and tough, having a leatherlike consistency when cutting it with a razor. The gel can then be cut, machined, or otherwise shaped as desired for a prosthesis.
The collagen gel thus prepared differs greatly from previously known collagens. A striking difference is the transparency. Instead of having to utilize thin layers in order to obtain lens material, the collagen gel produced in accordance with the present invention appears optically clear through thickness of one centimeter or more. The density, hardness and toughness are also much higher than previous native gels. Without asking to be bound by theory, it is believed that the reason for the unique properties of the present material is that the extremely high G centrifugation for extended periods (10 to 60 hours, preferably 20 to 40 hours) results in alignment of the collagen molecules in a particular direction with respect to the axis of rotation.
(超遠心分離によって形成された透明なペレットは、剛構造を形成するように固定化される。化学物質又は照射によって、ゲル内に架橋を形成することによって固定化され得る。化学的に架橋する方法の1つは、固定剤で処理することである。ホルムアルデヒド及び/又はグルタルアルデヒドの溶液のように、これらの固定剤の多くは知られている。しかしながら、他のいかなる周知のゲルの固定化方法も適している。固定化後、ゲルは硬く強くなり、刃で切断したときに革のような硬度を備える。ゲルは、切断され得、機械加工され得、あるいは人工身体器官に必要とされる形状とされ得る。
したがって、用意されたコラーゲンゲルは、先に知られていたコラーゲンとは大きく異なる。著しい相違点は、その透明性である。レンズ材料を得るために薄い層を利用する必要がある代わりに、本発明にしたがって作製されたコラーゲンゲルは、1センチメートルかそれ以上の厚さにわたって光学的に透明である。密度、硬度及び靭性もまた先の天然ゲルに比べて遙かに高い。理論に束縛されることを求めることなく、本材料が独特の特性を呈する理由は、長時間(10?60時間、好ましくは20?40時間)の極高Gの遠心力により、コラーゲン分子が回転軸に対して特定の方向に配列したからと考えられる。
)」(3欄25?49行)

ヘ)「The pellet formed by the ultrafugation step contains between 0.5 and 20% collagen proteins, preferably about 1 to 8% collagen protein, most preferably about 4% collagen protein, with the balance water.
Other biocompatible materials can also be included in the prosthesis compositions of the percent invention, including polyhydroxyethylmethacrylate (poly-HEMA), vitrosin, a fibrous protein found in mammalian vitreous humor, and other additives known in the art, such as plasticizers, to reduce brittleness and increase flexibility, silicones to extend the collagen, and other materials known in the art. Such materials may tend to prevent cell migration into the prosthesis. Such materials may be incorporated in any amount which does not adversely affect transparency of the resultant compositions, or cause loss of biocompatibility, e.g. the material may cease to be non-immunogenic. Preferably, the additional material is added in amounts of 0.01 to 50 percent, more preferably from about 0.9% to about 20% by weight.
(超遠心分離工程によって形成されたペレットは、調整用の水とともに、0.5?20%のコラーゲンプロテイン、好ましくは約1?8%のコラーゲンプロテイン、最も好ましくは約4%のコラーゲンプロテインを含んでいる。
本発明の人工身体器官構成物にはまた、ポリメタクリル酸ヒドロキシエチル(ポリ-HEMA)、vistrosin、哺乳類の硝子体液内に見いだされる繊維状タンパク質、並びに、当該技術分野で知られている他の添加剤、脆性を減少させ柔軟性を増大させるための可塑剤、コラーゲンを延ばすためのシリコン、及び、当該技術分野で知られている他の材料といった他の生体適合性材料も含有され得る。そのような素材は人工身体器官への細胞の移動の抑制に貢献する。そのような素材は、逆に結果として生じる構成物に影響を及ぼしたり、例えば、材料が非免疫原性ではなくなり得るといった、生体適合性の低下を引き起こしたりしないような、任意の量にて組み込まれ得る。好ましくは、付加的な材料は0.01?50重量%、より好ましくは約0.9?約20重量%加えられる。)」(4欄57行?5欄8行)

ト)「The invention will be further illustrated by the following examples. Unless otherwise stated, all temperatures are in ℃. and all percents are by weight.
(本発明は以下の例によってさらに説明される。特に明記しない限り、全ての温度は℃(摂氏)におけるものであり、全てのパーセントは重量によるものである。)」(5欄18?20行)

チ)「1. A prosthetic cornea replacement comprising collagen wherein the collagen component consists essentially of a native, non-fibrillized, transparent, crosslinked collagen material that has less than 5% absorbance of light at 900 mm for a 5 nm thick cross section.
2. The cornea replacement of claim 1, wherein such replacement contains between 0.5 and 20% collagen protein.
(1. コラーゲンからなる人工角膜、ここでコラーゲン成分は、5nm厚の横断面にて900mmの波長の吸光率が5%より小さい、天然の繊維化されていない透明な架橋されたコラーゲン材料から実質的に構成される。
2. 0.5?20%のコラーゲンプロテインを含む請求項1に記載された人工角膜。)」(6欄32?39行)

そして、上記イ)の記載事項「・・・本発明は、人工角膜、特に、そのような人工身体器官の作製に有用な透明なコラーゲン材料及びそのような透明なコラーゲン材料の作製方法に関係する。」、上記ロ)の記載事項「・・・角膜インプラントに適した材料を見つけるという問題へのアプローチとしてコラーゲンの使用が提案されてきた。・・・」、上記ハ)の記載事項「・・・本発明のこのコラーゲン材料は、透明度が高く、天然材料であるため免疫反応の影響を受けにくいので、人工角膜に有用である。・・・」、及び上記ニ)の記載事項「・・・本発明のコラーゲン材料は可溶性の天然コラーゲンから作られる。・・・」を併せみると、引用例には、透明度が高くかつ角膜インプラントに適した、天然コラーゲンから作られるコラーゲン材料が記載されている。
また、上記ハ)の記載事項「・・・コラーゲン材料は、好ましくは冷たいコラーゲン溶液を超遠心分離・・・することによって作製される。上澄みは取り除かれ、ペレットはコラーゲンの分子間を架橋する処理によって固定化される。」、上記ホ)「・・・化学物質又は照射によって、ゲル内に架橋を形成することによって固定化され得る。化学的に架橋する方法の1つは、固定剤で処理することである。・・・」、上記ト)の記載事項「・・・特に明記しない限り、全ての温度は℃(摂氏)におけるものであり、全てのパーセントは重量によるものである。」、及び上記チ)の記載事項「1. コラーゲンからなる人工角膜、ここでコラーゲン成分は、5nm厚の横断面にて900mmの波長の吸光率が5%より小さい、天然の繊維化されていない透明な架橋されたコラーゲン材料から実質的に構成される。2. 0.5?20%のコラーゲンプロテインを含む請求項1に記載された人工角膜。」を併せみると、引用例には、コラーゲン材料は、分子間を架橋する処理によって固定化されたコラーゲンプロテインを0.5?20重量%含み、前記分子間を架橋する処理によって固定化されたコラーゲンプロテインは、化学的に架橋する方法によって固定化されるものであることが記載されている。

したがって、記載事項を総合し整理すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「分子間を架橋する処理によって固定化されたコラーゲンプロテインを含んでなる透明度が高くかつ角膜インプラントに適した、天然コラーゲンから作られるコラーゲン材料であって、
前記分子間を架橋する処理によって固定化されたコラーゲンプロテインは、化学的に架橋する方法によって固定化され、
当該コラーゲン材料は0.5?20重量%のコラーゲンプロテインを含むコラーゲン材料。」

3-2.対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、各文言の意味、機能または作用等からみて、引用発明の「コラーゲン材料」は、本願補正発明の「組成物」に相当し、以下同様に、「コラーゲンプロテイン」は「コラーゲン」に、「分子間を架橋する処理によって固定化されたコラーゲンプロテイン」は「架橋コラーゲン」に、「透明度が高く」は「光学的に透明」に、「角膜インプラントに適した」は「移植可能な」に、「天然コラーゲンから作られるコラーゲン材料」は「生合成組成物」に、「重量%」は「%(w/w)」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「分子間を架橋する処理によって固定化されたコラーゲンプロテインは、化学的に架橋する方法によって固定化され」ることと、本願補正発明の「架橋コラーゲンは、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド及びN-ヒドロキシスクシンイミドを使用してコラーゲン重合体を架橋するプロセスによって製造され」ることとは、「架橋コラーゲンは、化学的に架橋するプロセスによって製造され」るという点において共通する。

そこで、本願補正発明の用語及び表現ぶりを用いて記載すると、両発明は下記の一致点及び相違点を有する(対応する引用発明の用語を()内に記載する。)。
(一致点)
「架橋コラーゲンを含んでなる光学的に透明かつ移植可能な生合成組成物であって、
架橋コラーゲンは、化学的に架橋するプロセスによって製造される、組成物。」
(相違点1)
組成物(コラーゲン材料)の物性について、本願補正発明では、白色光透過率が少なくとも85%であり、かつ白色光散乱が3%未満であると特定しているのに対して、引用発明では、そのような特定はない点。
(相違点2)
化学的に架橋するプロセスが、本願補正発明では、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド及びN-ヒドロキシスクシンイミドを使用してコラーゲン重合体を架橋するプロセスであるのに対して、引用発明では、そのような特定はない点。
(相違点3)
組成物(コラーゲン材料)に含まれるコラーゲン(コラーゲンプロテイン)量が、本願補正発明では、5%(w/w)から50%(w/w)の間のある量であるのに対して、引用発明では、0.5?20%(w/w)(重量%)である点。

3-3.相違点の判断
上記相違点について、以下に検討する。

(相違点1について)
引用発明は、透明度が高く人工角膜に有用な組成物(コラーゲン材料)を得ること(上記ハ)の記載事項)を目的としている。
そして、人工角膜の技術分野において、白色光透過率を高めつつ白色光散乱を抑制すべきであることは、当業者において自明の技術的課題である(必要ならば、国際公開2004/014969号の31頁4?8行を参照)ところ、引用発明において、透明度を評価する指標として白色光透過率及び白色光散乱を選択し、これらの値が人工角膜としての使用に適した数値範囲に収まるよう組成物(コラーゲン材料)の調製を行うことは、当業者が容易に想到し得ることである。
また、人の角膜の光透過率及び後方散乱がそれぞれ約85%及び3%程度であること(必要ならば、前述の国際公開2004/014969号の37頁29行?38頁9行及びFIGURE 12を参照)から、人工角膜を作製する際、その光透過率及び光散乱を人の角膜と同程度ないしこれを凌駕する数値範囲の値とすることは当業者が当然に期待することであり、引用発明において、白色光透過率を少なくとも85%、白色光散乱を3%未満とした構成を採る点に格別の困難性は見いだせない。

(相違点2について)
引用例には、「・・・化学的に架橋する方法の1つは、固定剤で処理することである。ホルムアルデヒド及び/又はグルタルアルデヒドの溶液のように、これらの固定剤の多くは知られている。しかしながら、他のいかなる周知のゲルの固定化方法も適している。・・・」(上記ホ)の記載事項)と、コラーゲン(コラーゲンプロテイン)を化学的に架橋するプロセスにおいて、任意の固定剤が使用し得ることが示唆されている。
そして、インプラント組成物の技術分野において、コラーゲン重合体を架橋する固定剤として、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド及びN-ヒドロキシスクシンイミドを使用することは、本願の優先権主張日前に周知であること(例えば、Olde Damink L.H.H., Dijkstra P.J, van Luyn M.J.A, et al, Cross-linking of dermal sheep collagen using a water-soluble carbodiimide, Biomaterials, (英), 1996年, Vol. 17, No.8, P.765-773、特表平9-502372号公報の6頁24行?7頁5行、R. Gordon Paul, Allen J Bailey, Chemical Stabilisation of Collagen as a Biomimetic, The Scientific World Journal, (米), 2003年, Vol. 3, P.138-155を参照)に鑑みれば、引用発明において、コラーゲン(コラーゲンプロテイン)を架橋する固定剤として、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド及びN-ヒドロキシスクシンイミドを使用することは、当業者が容易に想到し得ることである。

(相違点3について)
本願補正発明の組成物に含まれるコラーゲン量の下限値及び上限値である「5%(w/w)」及び「50%(w/w)」について、本願の国際出願翻訳文提出書には、段落【0010】に「本発明の組成物は、光学的に透明であり、約1%(w/vまたはw/w)から約50%(w/vまたはw/w)の間のある量のコラーゲンを有し得る。・・・(中略)・・・本明細書において使用される限りでは、組成物及び器具のコラーゲン及び/またはその他の構成成分の量は、発明の精神から逸脱しない範囲でw/wまたはw/v パーセントのどちらかであると理解するものとする。さらなる実施形態では、コラーゲンの量は約5.0%より多い。・・・」、段落【0026】に「・・・例えば、コラーゲンの量を約5.0%以上とすることができる。ある実施形態では、コラーゲンの量は、2.5%から約50%の間というように、約1%(w/w)から約50%(w/w)の間にある。・・・」、段落【0036】に「・・・本発明による視力を向上させる眼用器具は、屈折力を持つように形成された、約1%(w/w)から約50%(w/w)の間のある量のコラーゲンをもつコラーゲン成分を有する。・・・」、段落【0061】に「・・・例えば、組成物は、水和状態で約1%(w/w)、または約2.5%、または約5%から約30%(w/w)の間のある量のコラーゲンを有し得る。・・・」と記載されているのみであって、これらの値の臨界的意義については明らかでない。
また、下限値の「5%(w/w)」に関して、本願の国際出願翻訳文提出書の段落【0092】?【0093】に、「実施例15 in vitroのオンレイ性能(表2)・・・(中略)・・・ゲルがより濃いほど(>5%コラーゲン)、For denser gels (>5% コラーゲン), 伸展する神経のゲル上の成長(300ミクロンの伸び)が多くの処方においてin vitroの試験で見られた。・・・」との記載があるが、同書の表2に、「ゲル中の最終コラーゲン濃度(w/v%)」と記載されており、上記実施例15に係る記載を参酌しても、コラーゲン量の下限値を「5%(w/w)」とした組成物の有効性を、当業者が推認することはできない。
そうするとこれらの数値限定の意義は、単に当業者が通常に採用する設計的事項の範囲を超えるものでなく、引用発明において0.5?20%(w/w)(重量%)とされた組成物(コラーゲン材料)に含まれるコラーゲン(コラーゲンプロテイン)量を、本願補正発明のような範囲の量とすることは、当業者が適宜なし得ることにすぎない。

そして、本願補正発明による効果は、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3-4.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を、「本願発明」という。)は、平成22年6月4日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「白色光透過率が少なくとも85%であり、かつ白色光散乱が3%未満である、架橋コラーゲンを含んでなる光学的に透明な生合成組成物であって、当該組成物は5%(w/w)から50%(w/w)の間のある量のコラーゲンを含む組成物。」

IV.引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、前記II.3-1に記載したとおりである。

V.対比・判断
本願発明は、前記II.1の本願補正発明の「生合成組成物」に係る限定事項である「かつ移植可能な」との特定を省くとともに、「架橋コラーゲン」に係る限定事項である「前記架橋コラーゲンは、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド及びN-ヒドロキシスクシンイミドを使用してコラーゲン重合体を架橋するプロセスによって製造され」との特定を省くものであり、前記II.3-2に記載したとおり、両発明は、以下の相違点A、Bの点で相違し、残余の点で一致している。
(相違点A)
組成物(コラーゲン材料)の物性について、本願補正発明では、白色光透過率が少なくとも85%であり、かつ白色光散乱が3%未満であると特定しているのに対して、引用発明では、そのような特定はない点。
(相違点B)
組成物(コラーゲン材料)に含まれるコラーゲン(コラーゲンプロテイン)量が、本願補正発明では、5%(w/w)から50%(w/w)の間のある量であるのに対して、引用発明では、0.5?20%(w/w)(重量%)である点。

これら相違点について検討すると、相違点A、Bは、前記II.3-3の(相違点1について)、及び(相違点3について)に記載したとおり、引用発明に基づき当業者が容易になし得るものであり、本願発明の奏する効果は、引用発明から予測される以上の格別のものとは認められない。

VI.付言
なお、審決の理由には直接関係しない事項であるが、請求人が、平成23年10月28日付け回答書において、請求項1に係る発明の特定事項である「1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド及びN-ヒドロキシスクシンイミドを使用してコラーゲン重合体を架橋するプロセス」に「ゼロ長のアミド結合により」との限定事項を付加する旨補正案を提示している点に鑑み付言すれば、「1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド及びN-ヒドロキシスクシンイミドを使用してコラーゲン重合体をゼロ長のアミド結合により架橋する」点は、例えば、前述のOlde Damink L.H.H., Dijkstra P.J, van Luyn M.J.A, et al, Cross-linking of dermal sheep collagen using a water-soluble carbodiimide, Biomaterials, (英), 1996年, Vol. 17, No.8, P.765-773中の771頁41?45行に記載されているように周知の技術であるので、仮にこのような補正を行ったとしても、本願発明が、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとの上記判断を左右するものではない。

VII.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-02 
結審通知日 2012-02-07 
審決日 2012-02-21 
出願番号 特願2007-525138(P2007-525138)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61F)
P 1 8・ 575- Z (A61F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高山 芳之川端 修見目 省二  
特許庁審判長 亀丸 広司
特許庁審判官 関谷 一夫
田合 弘幸
発明の名称 眼用器具及び関連した方法及び組成物  
代理人 鷲田 公一  
代理人 鷲田 公一  

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