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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1259478
審判番号 不服2011-3269  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-02-14 
確定日 2012-07-04 
事件の表示 特願2008- 56735「有機電界発光表示装置及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 9月18日出願公開、特開2008-218415〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2008年3月6日(パリ条約による優先権主張 2007年3月7日 大韓民国)の出願(特願2008-56735号)であって、平成22年6月17日付けで拒絶理由が通知され、同年9月21日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされ、同年10月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成23年2月14日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同日付けで手続補正がなされたものである。
その後、平成23年8月31日付けで前置報告書の内容について請求人の意見を求める審尋がなされ、同年12月5日付けで回答書が提出された。

第2 本願の請求項1に係る発明
平成23年2月14日付けの手続補正による補正は特許請求の範囲の請求の削除を目的とする補正であって適法なものである。
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成23年2月14日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「基板と;
前記基板上に位置する第1電極と;
前記第1電極上に位置し、有機発光層を含む有機膜層と;
前記有機膜層上に位置する第1金属層、及び該第1金属層上に積層された第2金属層を含む第2電極と、を具備する背面発光構造を有する有機電界発光表示装置であって、
前記第2金属層は、反射特性を向上させるために、Al、Ag、Ti、Mo及びPdで構成された群から選択されたいずれか一つの金属で構成される単一層であり、
前記第2金属層は300ないし3000Åで構成されたことを特徴とする有機電界発光表示装置。」

第3 引用例
1 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平10-223367号公報(以下「引用例1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。(下記「2 引用例1に記載された発明の認定」において直接引用した記載に下線を付した。)

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は有機電界発光素子に関する。詳しくは、高輝度化された有機電界発光素子に関する。」

【0005】
【課題を解決するための手段】本発明の有機電界発光素子は、基板の一方の板面上に、陽極、有機発光層及び陰極が積層された有機電界発光素子であって、該基板がプラスチック製マイクロレンズアレイ構造を有することを特徴とする。
【0006】本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、プラスチック製マイクロレンズアレイ構造を有機電界発光素子に組み込むことで、軽量で、高輝度、低電圧の有機電界発光素子を実現できることを見出し、本発明に到達した。
【0007】即ち、通常の平板状の基板を用いた場合には、発光部の発光光線はそのまま基板を通過するのに対し、プラスチック製マイクロレンズアレイ構造の基板であれば、発光部の発光光線はマイクロレンズアレイ構造の凸部に集光される。このため、高輝度化が図れる。また、プラスチック製マイクロレンズアレイ構造であれば軽量化が可能である。」

「【0034】次に、図4?6を参照して、このようなプラスチック製マイクロレンズアレイ構造を有する基板を用いた本発明の有機電界発光素子の構成を説明する。
【0035】図4?6は本発明の有機電界発光素子の構造例を示す模式的断面図であり、図中、1は基板、6は陽極、7は有機発光層、7aは正孔輸送層、7bは電子輸送層、7cは正孔注入層、8は陰極、10,10A,10Bは有機電界発光素子である。
【0036】基板1は有機電界発光素子の支持体となるものであり、光学特性、耐熱性、表面精度、機械的強度、軽量性、ガスバリア性などの特性に優れていることが要求される。
【0037】本発明においては、この基板1として、図1(a)?(c)に示す如く、これらの特性に優れたプラスチック製マイクロレンズアレイ構造或いはガラス板とマイクロレンズアレイ構造との積層体を用いる。
【0038】なお、基板は、ガスバリア性をより高める目的で、少なくともその片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けても良い。
【0039】基板1上に形成された陽極6は、有機発光層7への正孔注入の役割を果たすものである。この陽極6は、通常、アルミニウム、金、銀、白金、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウム及び/又はスズの酸化物などの金属酸化物、ヨウ化銅などのハロゲン化金属、カーボンブラック、或いは、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子など、好ましくは、インジウム・スズ酸化物により形成される。陽極6の形成は通常、スパッタリング法、真空蒸着法などにより行われることが多い。銀などの金属微粒子、ヨウ化銅などの微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末などを用いる場合には、これを適当なバインダー樹脂溶液に分散し、基板1上に塗布することにより陽極6を形成することもできる。また、導電性高分子を用いる場合には、電解重合により直接基板1上に薄膜を形成するか、基板1上に導電性高分子を塗布することにより、陽極6を形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。陽極6は異なる物質を積層して形成することも可能である。
【0040】陽極6の厚みは、透明性の要求の有無により異なる。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常、60%以上、好ましくは80%以上とすることが望ましく、この場合、厚みは、通常、5?1000nm、好ましくは10?500nm程度である。陽極6が不透明でよい場合には、基板1と同一材料であってもよい。また、陽極6の上に異なる導電材料を積層することも可能である。
【0041】陽極6の上に形成される有機発光層7は、電界が与えられた電極間において、陽極6から注入された正孔と陰極8から注入された電子を効率よく輸送して再結合させ、かつ、再結合により効率よく発光する材料から形成される。通常、この有機発光層7は発光効率の向上のために、図5に示す様に、正孔輸送層7aと電子輸送層7bに分割した機能分離型にすることが行われる(Appl.Phys.Lett.,51巻,913頁,1987年)。」

「【0050】また、正孔注入効率を更に向上させ、かつ、有機層全体の陽極6への付着力を改善する目的で、図6に示す如く、正孔輸送層7aと陽極6との間に正孔注入層7cを形成することも行われている。正孔注入層7cに用いられる材料としては、イオン化ポテンシャルが低く、導電性が高く、更に陽極6上で熱的に安定な薄膜を形成し得る材料が望ましく、フタロシアニン化合物やポルフィリン化合物(特開昭57-51781号公報、特開昭63-295695号公報)が用いられる。このような正孔注入層7cを介在させることで、初期の素子の駆動電圧が下がると同時に、素子を定電流で連続駆動した時の電圧上昇も抑制される効果が得られる。正孔注入層7cもまた、正孔輸送層7aと同様にしてアクセプタをドープすることで導電性を向上させることが可能である。」

「【0061】陰極8は、有機発光層7に電子を注入する役割を果たす。陰極8として用いられる材料は、前記陽極6に使用される材料を用いることが可能であるが、効率よく電子注入を行うには、仕事関数の低い金属が好ましく、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属又はそれらの合金が好適である。陰極8の膜厚は、通常、陽極6と同程度である。
【0062】低仕事関数金属からなる陰極を保護する目的で、この陰極上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層することにより、素子の安定性を増すことができる。この目的のための金属層には、アルミニウム、銀、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が用いられる。」

「【0067】
【実施例】次に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
-----< 中 略 >-----
【0075】正孔注入層、正孔輸送層及び電子輸送層を形成した基板に、マグネシウムと銀の合金電極(Mg:Ag=10:1.5(原子比))よりなる陰極を、二元同時蒸着法によって膜厚40nmとなるように蒸着して形成した。蒸着はモリブデンボードを用いて真空度2×10^(-4)Pa、蒸着時間4分20秒で行い、光沢のある膜を得た。更に、保護層としてアルミニウムを40nmの膜厚に蒸着した。」

「【図6】



2 引用例1に記載された発明の認定
上記記載(図面の記載も含む)を総合すれば、引用例1には、
「有機電界発光素子の支持体となる基板1と、
基板1上に形成された陽極6と、
陽極6の上に形成される有機発光層7であって、正孔輸送層7a、電子輸送層7b、正孔注入層7cからなる有機発光層7と、
有機発光層7の上に形成される仕事関数の低い金属の陰極8及びこの陰極8上に更に積層される、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層とを備えた、発光部の発光光線はそのまま基板を通過する有機電界発光素子であって、
陰極8上に積層される上記金属層は、低仕事関数金属からなる陰極8の保護層として、アルミニウムを40nmの膜厚に蒸着したものである有機電界発光素子。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

第4 本願発明と引用発明の対比
1 対比
ここで、本願発明と引用発明を対比する。

ア 引用発明の「有機電界発光素子の支持体となる基板1」、「基板1上に形成された陽極6」及び「陽極6の上に形成される有機発光層7であって、正孔輸送層7a、電子輸送層7b、正孔注入層7cからなる有機発光層7」が、それぞれ、本願発明の「基板」、「前記基板上に位置する第1電極」及び「前記第1電極上に位置し、有機発光層を含む有機膜層」に相当する。

イ 引用発明の「有機発光層7の上に形成される仕事関数の低い金属の陰極8」及び「この陰極8上に更に積層される、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層」が、それぞれ、本願発明の「前記有機膜層上に位置する第1金属層」及び「該第1金属層上に積層された第2金属層」に相当するから、引用発明の「有機発光層7の上に形成される仕事関数の低い金属の陰極8及びこの陰極8上に更に積層される、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層」からなる層が、本願発明の「前記有機膜層上に位置する第1金属層、及び該第1金属層上に積層された第2金属層を含む第2電極」に相当する。

ウ 引用発明の「発光部の発光光線はそのまま基板を通過する有機電界発光素子」が、本願発明の「背面発光構造を有する有機電界発光表示装置」に相当する。

エ 引用発明における「アルミニウム」は本願発明の「Al、Ag、Ti、Mo及びPdで構成された群から選択されたいずれか一つの金属」に含まれ、また、引用発明における「40nm」は本願発明の「300ないし3000Å」の範囲に包含される値であるから、引用発明の「陰極8上に積層される上記金属層は、低仕事関数金属からなる陰極8の保護層として、アルミニウムを40nmの膜厚に蒸着したものである」ことと、本願発明の「前記第2金属層は、反射特性を向上させるために、Al、Ag、Ti、Mo及びPdで構成された群から選択されたいずれか一つの金属で構成される単一層であり、前記第2金属層は300ないし3000Åで構成され」たことは、「前記第2金属層は、Al、Ag、Ti、Mo及びPdで構成された群から選択されたいずれか一つの金属で構成される単一層であり、前記第2金属層は300ないし3000Åで構成され」た点で一致する。

2 本願発明と引用発明の一致点
したがって、本願発明と引用発明とは、
「基板と;
前記基板上に位置する第1電極と;
前記第1電極上に位置し、有機発光層を含む有機膜層と;
前記有機膜層上に位置する第1金属層、及び該第1金属層上に積層された第2金属層を含む第2電極と、を具備する背面発光構造を有する有機電界発光表示装置であって、
前記第2金属層は、Al、Ag、Ti、Mo及びPdで構成された群から選択されたいずれか一つの金属で構成される単一層であり、
前記第2金属層は300ないし3000Åで構成された有機電界発光表示装置。」の発明である点で一致し、次の点で一応相違しているといえる。

3 相違点
「第2金属層」(引用発明においては陰極8上に積層される金属層)を設ける目的が、本願発明においては「反射特性を向上させるために」であるのに対して、引用発明においては「低仕事関数金属からなる陰極8の保護層として」設けられたものである点。

第5 当審の判断
「第2金属層」を設ける目的が「反射特性を向上させるために」であることに関連した事項として本願の明細書の発明の詳細な説明に記載されている事項は、次の事項のみである。

「【0016】
続いて、前記有機膜層120全面に第2電極130を形成する。この時、前記第2電極130は第1金属層131及び第2金属層132で構成されることが望ましい。ここで、前記第1金属層131としてはMgとAgの合金で構成されることが望ましく、MgAgの原子比はカソードで作用することができればいずれの範囲でも構わなくて9:1ないし1:9、望ましくは8:2ないし2:8である。この時、前記第1金属層131は50ないし500Åの厚さを有することが望ましい。前記第1金属層131の電子注入特性を考慮すると、50Å以上の厚さを有することが望ましく、駆動電圧等の発光効率を考慮すると、500Å以下の厚さを有することが望ましい。
【0017】
また、前記第2金属層132は背面発光構造の場合には反射特性が優秀なAl、Ag、Ti、Mo及びPdで構成された群から選択されたいずれか一つの金属を用いることができ、反射効率が最も優秀なAlを用いることが望ましい。この時、第2金属層132は300ないし3000Åの厚さを有することが望ましいが、前記第2金属層132が反射膜役割をすることを考慮する時、300Å以上の厚さを有することが望ましく、工程時間及び製造効率を考慮する時、3000Å以下の厚さを有することが望ましい。」
(なお、【0027】及び【0028】、並びに、【0040】及び【0041】に、上記の【0016】及び【0017】と同様の事項が記載されている。)

上記の本願の明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、「第2金属層」が「反射特性」を向上させるために要請される構成(特定事項)は、「Al、Ag、Ti、Mo及びPdで構成された群から選択されたいずれか一つの金属を用いること」及び「300Å以上の厚さを有すること」の2点であることがわかる。
すなわち、本願発明の(「第2金属層」についての)「反射特性を向上させるために」の特定により規定される特定事項は、上記の「Al、Ag、Ti、Mo及びPdで構成された群から選択されたいずれか一つの金属を用いること」及び「300Å以上の厚さを有すること」である。
そして、上記「第4 本願発明と引用発明の対比」の「1 対比」の「エ」において述べたように、上記の「Al、Ag、Ti、Mo及びPdで構成された群から選択されたいずれか一つの金属を用いること」及び「300Å以上の厚さを有すること」は、引用発明の「(陰極8上に積層される上記金属層は)アルミニウムを40nmの膜厚に蒸着したものである」こととの一致点であるから、本願発明の上記の「反射特性を向上させるために」要請される特定事項は引用発明も有する事項である。
よって、本願発明と引用発明との間に実質的な相違点はなく、本願発明は引用発明と同一である。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は引用発明と同一であり、特許法第29条第1項3号の発明に該当するから、特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2012-02-01 
結審通知日 2012-02-07 
審決日 2012-02-20 
出願番号 特願2008-56735(P2008-56735)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横川 美穂  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 森林 克郎
吉川 陽吾
発明の名称 有機電界発光表示装置及びその製造方法  
代理人 村山 靖彦  
代理人 佐伯 義文  
代理人 渡邊 隆  

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