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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C04B
管理番号 1259608
審判番号 不服2009-12934  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-07-16 
確定日 2012-07-06 
事件の表示 特願2002- 50234「多層セラミック基板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 9月 2日出願公開、特開2003-246680〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年2月26日の出願であって、平成19年7月26日付けの拒絶理由が通知され、同年10月17日に意見書が提出され、平成20年1月7日付けの拒絶理由が通知され、同年3月26日に意見書とともに手続補正書が提出され、同年8月18日付けの拒絶理由が通知され、同年11月7日に意見書とともに手続補正書が提出され、平成21年3月31日付けで平成20年11月7日付け手続補正が却下されるとともに拒絶査定されたものである。
これに対し、同年7月16日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書が提出されたものであり、その後、平成23年8月30日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋がなされ、これに対する回答書が同年11月17日に提出されている。

第2 平成21年7月16日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年7月16日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.本件補正の内容
本件補正は、補正前の特許請求の範囲(平成20年3月26日付け手続補正書により補正されたもの)を、以下のようにする補正を含むものである。
(補正前)
「【請求項1】 セラミック絶縁材料粉末を含む複数のセラミックグリーン層を積層して生の多層集合基板を作製する工程と、
前記生の多層集合基板の上下両主面を、前記セラミック絶縁材料粉末の焼結温度では焼結しない無機材料粉末を含む収縮抑制層で挟み、積層方向に圧着して、生の複合積層体を作製する工程と、
前記生の複合積層体の一方主面に、一方の収縮抑制層および生の多層集合基板を貫通して他方の収縮抑制層に到達し、かつ前記生の複合積層体の他方主面に届かない深さで、切り込みを溝設ける工程と、
前記切り込み溝が設けられ、かつ前記生の多層集合基板が他方の収縮抑制層により一体化されている生の複合積層体を、その状態を保持しつつ前記セラミック絶縁材料粉末は焼結するが前記無機材料粉末は焼結しない条件下で焼成し、前記収縮抑制層に挟まれた焼結後の多層集合基板を得る工程と、
前記焼結後の多層集合基板から、上下に配置された未焼結の前記収縮抑制層を除去する工程と、
前記焼結後の多層集合基板から、前記切り込み溝に沿って分割された複数の多層セラミック基板を取り出す工程と、を備えることを特徴とする多層セラミック基板の製造方法。
【請求項2】 前記切り込み溝は、互いにほぼ直交するように縦方向と横方向に配列されていることを特徴とする請求項1記載の多層セラミック基板の製造方法。
【請求項3】 前記セラミックグリーン層は、ガラスまたは結晶化ガラスを含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の多層セラミック基板の製造方法。」を、
(補正後)
「【請求項1】 セラミック絶縁材料粉末を含む複数のセラミックグリーン層を積層して生の多層集合基板を作製する工程と、
前記生の多層集合基板の上下両主面を、前記セラミック絶縁材料粉末の焼結温度では焼結しない無機材料粉末を含む収縮抑制層で挟み、積層方向に圧着して、生の複合積層体を作製する工程と、
前記生の複合積層体の一方主面に、一方の収縮抑制層および生の多層集合基板を貫通して他方の収縮抑制層に到達し、かつ前記生の複合積層体の他方主面に届かない深さで他方の収縮抑制層の厚みの1/10?4/10まで届くように、切り込み溝を設ける工程と、
前記切り込み溝が設けられ、かつ前記生の多層集合基板が他方の収縮抑制層により一体化されている生の複合積層体を、その状態を保持しつつ前記セラミック絶縁材料粉末は焼結するが前記無機材料粉末は焼結しない条件下で焼成し、前記収縮抑制層に挟まれた焼結後の多層集合基板を得る工程と、
前記焼結後の多層集合基板から、上下に配置された未焼結の前記収縮抑制層を除去する工程と、
前記焼結後の多層集合基板から、前記切り込み溝に沿って分割された複数の多層セラミック基板を取り出す工程と、を備えることを特徴とする多層セラミック基板の製造方法。
【請求項2】 前記切り込み溝は、互いにほぼ直交するように縦方向と横方向に配列されていることを特徴とする請求項1記載の多層セラミック基板の製造方法。
【請求項3】 前記セラミックグリーン層は、ガラスまたは結晶化ガラスを含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の多層セラミック基板の製造方法。」とする。
(当審注:アンダーラインが補正箇所。)

2.補正の目的について
本件補正は、「生の複合積層体の他方主面に届かない深さで、切り込み溝を設ける」ことについて、前記「他方主面に届かない深さ」を「他方の収縮抑制層の厚みの1/10?4/10まで届くように」と特定するものを含むものであり、この補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)について、特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3.独立特許要件について
3-1.本件補正発明
本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)は、次の事項により特定されるものである。
「【請求項1】 セラミック絶縁材料粉末を含む複数のセラミックグリーン層を積層して生の多層集合基板を作製する工程と、
前記生の多層集合基板の上下両主面を、前記セラミック絶縁材料粉末の焼結温度では焼結しない無機材料粉末を含む収縮抑制層で挟み、積層方向に圧着して、生の複合積層体を作製する工程と、
前記生の複合積層体の一方主面に、一方の収縮抑制層および生の多層集合基板を貫通して他方の収縮抑制層に到達し、かつ前記生の複合積層体の他方主面に届かない深さで他方の収縮抑制層の厚みの1/10?4/10まで届くように、切り込み溝を設ける工程と、
前記切り込み溝が設けられ、かつ前記生の多層集合基板が他方の収縮抑制層により一体化されている生の複合積層体を、その状態を保持しつつ前記セラミック絶縁材料粉末は焼結するが前記無機材料粉末は焼結しない条件下で焼成し、前記収縮抑制層に挟まれた焼結後の多層集合基板を得る工程と、
前記焼結後の多層集合基板から、上下に配置された未焼結の前記収縮抑制層を除去する工程と、
前記焼結後の多層集合基板から、前記切り込み溝に沿って分割された複数の多層セラミック基板を取り出す工程と、を備えることを特徴とする多層セラミック基板の製造方法。」

3-2.引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由(平成20年8月18日付け拒絶理由)に引用された、特開2002-43757号公報(以下、「引用文献1」という。)、特開昭60-186010号公報(以下、「引用文献2」という。)には、それぞれ次の事項が記載されている。

(1)引用文献1
(1-ア)「【発明の属する技術分野】本願発明は、多層基板及びその製造方法に関し、詳しくは、低温焼成が可能なガラスセラミック材料を用いてなる多層基板及びその製造方法に関する。」(段落【0001】)
(1-イ)「以下、図1に示す多層基板の製造方法について説明する。
[多層基板用のグリーンシートの作製]まず、多層基板の製造に用いたグリーンシートの作製方法について以下に説明する。
[1]表1の番号1?4に示すような、組成、結晶化前の粘度、及び結晶化開始温度を有する結晶化ガラス粉末を用意する。なお、表1の番号1?3の結晶化ガラス粉末(SiO_(2)-CaO-Al_(2)O_(3)-B_(2)O_(3)系ガラス粉末)については、成分構成を同じとする一方、成分割合(組成)を調整して、結晶化前の粘度と結晶化開始温度を異ならせた。・・・・・・
・・・・・・
[2]それから、表1の番号1?4の各結晶化ガラスの粉末と、アルミナ(Al_(2)O_(3))粉末を、表2に示すような含有率となるような割合で混合する。
[3]次に、配合された原料粉末(ガラス・セラミック系原料粉末)に、有機バインダー及びトルエン(溶媒)を添加、混合し、ボールミルにより十分に混練して均一に分散させた後、減圧下で脱泡処理することにより原料スラリーを調製する。なお、バインダー、溶媒、可塑剤などの有機ビヒクルの構成成分や組成については、特に制約はなく、種々のものを用いることが可能である。
[4]それから、原料スラリーを、例えばドクターブレードを用いたキャスティング法により、フィルム上にシート成形して、例えば、0.1mm厚のグリーンシートを作製する。
[5]次に、このグリーンシートを乾燥させた後、フィルムから剥離し、これを所定の寸法に打ち抜いて、多層基板製造用のグリーンシートを得る。」(段落【0040】?【0047】)
(当審注:[1]?[5]はマル数字。以下、同様とする。)
(1-ウ)「拘束層用のグリーンシートの作製]次に、無収縮工法に用いるための、拘束層用のグリーンシートの製造方法について説明する。なお、拘束層用のグリーンシートとは、上述の多層基板用のグリーンシートの焼成工程では焼結しない無機系材料を主成分とするグリーンシートであり、多層基板を構成するグリーンシートの積層圧着体の両面又は片面に積層され、その状態で焼成を行った後、除去されることになる層として機能するものである。
[1]まず、Al_(2)O_(3)粉末を用意し、有機バインダー及びトルエン(溶媒)を添加混合して、ボールミルにより十分に混練し、均一に分散させて減圧下で脱泡処理することにより原料スラリーを調製する。なお、バインダー、溶媒、可塑剤などの有機ビヒクルの構成成分や組成については、特に制約はなく、種々のものを用いることが可能である。
[2]それから、原料スラリーを、例えばドクターブレードを用いたキャスティング法により、フィルム上にシート成形して、例えば、0.1mm厚のグリーンシートを作製する。
[3]次に、このグリーンシートを乾燥させた後、フィルムから剥離し、これを所定の寸法に打ち抜いて、拘束層用のグリーンシートを得る。」(段落【0048】?【0051】)
(1-エ)「[多層基板の作製]次に、多層基板の製造方法について説明する。
[1]まず、ガラス含有絶縁層(絶縁体層)用のグリーンシートにビアホール用の孔を形成し、孔に導体ペーストや導体粉を充填してビアホールを形成する。
・・・・・・
[3]そして、得られたグリーンシートをそれぞれ所定枚数積層するとともに、その積層体の上下両面側に、上述のようにして作製した拘束層用のグリーンシートを所定枚数積層した後、圧着し、積層圧着体を形成する。」(段落【0052】?【0054】)
(1-オ)「[4]次に、上記積層圧着体を、必要に応じて、適当な大きさに切断したり、あるいは分割溝を形成したりした後、例えば、800?1100℃程度の温度条件で焼成する。その後、拘束層を除去することにより、図2に示すような多層基板2が得られる。なお、図2において、図1と同一符号を付した部分は、図1と同一の部分を示している。」(段落【0055】)
(1-カ)「【発明の効果】・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・積層圧着体を焼成するにあたって、無収縮工法を適用することにより、平面方向の収縮ががなく、・・・・・・このようにして製造される多層基板を用いることにより、実装部品が所望の位置に確実に実装されたハイブリッドICなどの電子部品を効率よく製造することが可能になる。」(段落【0067】?【0080】)
(当審注:「収縮ががなく」は、「収縮がなく」の誤記と認める。)

(2)引用文献2
(2-ア)「(1) セラミツク粉末を主成分とする複数のグリーンシートを含む積層体の裏面に焼成用の敷粉を主成分とする敷粉グリーンシートを一体化する工程と、積層体をカツターにて、敷粉グリーンシートが分離されないように賽目状に切断してチップ化する工程と、この敷粉グリーンシートをチップと共にセツターに載置した上で焼成する工程とを含むことを特徴とする積層セラミツク部品の製造方法。
(2) 敷粉としてアルミナ、ジルコニア、マグネシア、などよりなる群から選択された一種以上を用いることを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の積層セラミツク部品の製造方法。」(特許請求の範囲)
(2-イ)「まず、第1図に示すように、粒径が1?30μm程度のアルミナ、ジルコニア、マグネシアなどの焼成用敷粉、有機系のバインダー、溶剤を含む泥しようからドクターブレード法にて肉厚が200μmの敷粉グリーンシート1を形成し、型枠(図示せず)に収納する。」(第2頁左下欄第13?18行)
(2-ウ)「次に、第3図に示すように、積層体6をステージの所定位置に真空吸着などによつて固定する。この状態において、積層体6の所定部分をカツター7にて、敷粉グリーンシート1が切断分離されないように賽目状に切断する。この切断操作によつて積層体6は第4図に示すように、敷粉グリーシート1に一体化されたままで、切断溝8によりチツプ(9)化される。次に、第5図に示すように、焼成用セツター10に敷粉グリーンシート1と共にチツプ9を載置する。そして、焼成炉への挿入によつてチツプ9は焼成される。この際、敷粉グリーンシート1のバインダー、溶剤が除去され、敷粉のみがチツプ9とセツター10との間に粉末状になつて残存する。これによつてチツプ9は第6図に示すように、敷粉より容易に分離される。
この実施例によれば、積層体6の裏面には敷粉グリーンシート1が一体化されているので、積層体6をカツター7にて完全に切断しても、チツプ9がバラバラになることはない。このために、切断に当たつて積層体6に樹脂シートを貼着したり、さらにはそれから剥離したりする操作を完全に省略でき、切断作業を能率的に行うことができる。」(第2頁右下欄第10行?第3頁左上欄第12行)

3-3.引用発明
(a)引用文献1には、記載事項(1-ア)に、「本願発明は、・・・ガラスセラミック材料を用いてなる多層基板・・・の製造方法に関する。」と記載されている。
(b)上記「ガラスセラミック材料を用いてなる多層基板の製造方法」について、記載事項(1-イ)には、[1]?[5]の工程で、「結晶化ガラス粉末(SiO_(2)-CaO-Al_(2)O_(3)-B_(2)O_(3)系ガラス粉末)」と「アルミナ(Al_(2)O_(3))粉末」を混合・配合した「原料粉末(ガラス・セラミック系原料粉末)」に、有機バインダーや溶媒を添加・混合して原料スラリー化し、該原料スラリーを成形して、「原料粉末(ガラス・セラミック系原料粉末)」を含む「多層基板用のグリーンシート」を作製することが記載されている。
(c)次に、記載事項(1-ウ)には、[1]?[3]の工程で、「多層基板用のグリーンシートの焼成工程では焼結しない無機系材料を主成分とする」「拘束層用のグリーンシート」を作製することが記載されている。
(d)次に、記載事項(1-エ)には、「得られたグリーンシートをそれぞれ所定枚数積層するとともに、その積層体の上下両面側に、上述のようにして作製した拘束層用のグリーンシートを所定枚数積層した後、圧着し、積層圧着体を形成する。」と記載されている。前記「得られたグリーンシート」とは、上記(b)で検討した「原料粉末(ガラス・セラミック系原料粉末)を含む多層基板用のグリーンシート」であることは明らかであり、上記(c)の検討と併せみると、記載事項(1-エ)には、「原料粉末(ガラス・セラミック系原料粉末)を含む多層基板用のグリーンシートを所定枚数積層するとともに、その積層体の上下両面側に、前記多層基板用のグリーンシートの焼成工程では焼結しない無機系材料を主成分とする拘束層用のグリーンシートを所定枚数積層した後、圧着し、積層圧着体を形成する」ことが記載されているといえる。
(e)次に、記載事項(1-オ)には、「上記積層圧着体を、必要に応じて、適当な大きさに切断したり、あるいは分割溝を形成したりした後、例えば、800?1100℃程度の温度条件で焼成する。その後、拘束層を除去することにより、図2に示すような多層基板2が得られる。」と記載されている。「上記積層圧着体」とは、記載事項(1-エ)の「積層圧着体」を指すことは明らかであり、前記「必要に応じて、適当な大きさに切断したり、あるいは分割溝を形成したり」することは、「適当な大きさに切断」したり、「分割溝を形成」したりすることであり、適宜選択出来ることは明らかである。
また、前記「800?1100℃程度の温度条件で焼成する」ことは、上記(c)で述べたとおり、「拘束層用グリーンシート」用の無機材料が焼結しない温度、すなわち、「原料粉末(ガラス・セラミック系原料粉末)は焼結するが無機材料が焼結しない温度」であるといえる。
そして、得られた「多層基板2」は、上記(a)で述べた「ガラスセラミック材料を用いてなる多層基板」であるといえる。

(f)上記(a)?(e)の検討を踏まえ、記載事項(1-ア)?(1-オ)を本件補正発明の記載ぶりに則して整理すると、引用文献1には、
「原料粉末(ガラス・セラミック系原料粉末)を含む多層基板用のグリーンシートを所定枚数積層するとともに、その積層体の上下両面側に、前記多層基板用のグリーンシートの焼成工程では焼結しない無機系材料を主成分とする拘束層用のグリーンシートを所定枚数積層した後、圧着して積層圧着体を形成し、前記積層圧着体に分割溝を形成し、前記分割溝が形成された前記積層圧着体を、前記原料粉末(ガラス・セラミック系原料粉末)は焼結するが無機材料が焼結しない温度で焼成し、その後、拘束層を除去することにより多層基板を得る、ガラスセラミック材料を用いてなる多層基板の製造方法。」なる発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

3-4.対比・判断
(a)引用発明の「原料粉末(ガラス・セラミック系原料粉末)」は、上記3-3.(b)で述べたとおり、「結晶化ガラス粉末(SiO_(2)-CaO-Al_(2)O_(3)-B_(2)O_(3)系ガラス粉末)」と「アルミナ(Al_(2)O_(3))粉末」を混合・配合したものであり、得られた「多層基板用のグリーンシート」は、記載事項(1-エ)に、「ガラス含有絶縁層(絶縁体層)用のグリーンシート」と記載されている。
一方、本件補正発明の「セラミック絶縁材料粉末」について、本願明細書の段落【0019】に、「SiO_(2)、CaO、Al_(2)O_(3)、B_(2)O_(3)を混合したガラス粉末と、アルミナ粉末を等重量比率で混合したセラミック絶縁材料粉末」と記載されており、両者とも「SiO_(2)、CaO、Al_(2)O_(3)、B_(2)O_(3)を混合したガラス粉末」と「アルミナ粉末」を混合したものであるから、引用発明の「原料粉末(ガラス・セラミック系原料粉末)」は、本件補正発明の「セラミック絶縁材料粉末」に相当する。
(b)引用発明の「多層基板用のグリーンシートを所定枚数積層」した「積層体」は、本件補正発明の「セラミック絶縁材料粉末を含む複数のセラミックグリーン層を積層し」た「生の多層集合基板」に相当する。
(c)上記(a)、(b)の検討を併せみると、引用発明の「原料粉末(ガラス・セラミック系原料粉末)を含む多層基板用のグリーンシートを所定枚数積層」して「積層体」を得ることは、本件補正発明の「セラミック絶縁材料粉末を含む複数のセラミックグリーン層を積層して生の多層集合基板を作製する工程」に外ならない。
(d)引用発明の「前記多層基板用のグリーンシートの焼成工程では焼結しない無機系材料を主成分とする」「拘束層用のグリーンシート」を「所定枚数積層」することについて、この「拘束層」は、記載事項(1-ウ)に記載されるように「無収縮工法」に用いるためのものである。この「無収縮工法」について、記載事項(1-カ)には、「積層圧着体を焼成するにあたって、無収縮工法を適用することにより、平面方向の収縮ががなく」と記載されており、前記「拘束層」は、積層圧着体を焼成する際の、平面方向の収縮を抑制するためのものであるといえる。
一方、本件補正発明の「収縮抑制層」について、本願明細書の段落【0005】に、「この多層セラミック基板の製造方法によれば、収縮抑制層がセラミックグリーン層を拘束するので、セラミックグリーン層の長さ(X)、幅(Y)方向での収縮が生じにくい。」と記載されており、この「収縮抑制層」はxy平面の収縮を抑制しているといえる。
そうすると、引用発明の「拘束層」は、本件補正発明の「収縮抑制層」に相当し、引用発明の「その積層体の上下両面側に、前記多層基板用のグリーンシートの焼成工程では焼結しない無機系材料を主成分とする拘束層用のグリーンシートを所定枚数積層」することは、本件補正発明の「前記生の多層集合基板の上下両主面を、前記セラミック絶縁材料粉末の焼結温度では焼結しない無機材料粉末を含む収縮抑制層で挟み」に相当する。
(e)引用発明の「積層圧着体」は、「その積層体の上下両面側に、・・・拘束層用のグリーンシートを所定枚数積層した後、圧着して」「形成」するものである。
一方、本件補正発明の「生の複合積層体」は、「前記生の多層集合基板の上下両主面を、・・・収縮抑制層で挟み、積層方向に圧着して、」「作製する」ものであるから、引用発明の「積層圧着体」は、本件補正発明の「生の複合積層体」に相当し、上記(d)の検討を併せみると、引用発明の「その積層体の上下両面側に、前記多層基板用のグリーンシートの焼成工程では焼結しない無機系材料を主成分とする拘束層用のグリーンシートを所定枚数積層した後、圧着して積層圧着体を形成し」は、本件補正発明の「前記生の多層集合基板の上下両主面を、前記セラミック絶縁材料粉末の焼結温度では焼結しない無機材料粉末を含む収縮抑制層で挟み、積層方向に圧着して、生の複合積層体を作製する工程」に相当する。
(f)引用発明の「前記積層圧着体に分割溝を形成し」について、記載事項(1-オ)に、「適当な大きさに切断したり、あるいは分割溝を形成したり」と記載されていることからみて、前記「積層圧着体」に「分割溝を形成」することは、前記「積層圧着体」は切断されていないということができるから、前記「積層圧着体」の一方の面から「分割溝を形成」すると、その溝の深さは、他方の面に届かない深さであるといえる。
そうすると、引用発明の「前記積層圧着体に分割溝を形成し」は、本件補正発明の「前記生の複合積層体の一方主面に、一方の収縮抑制層および生の多層集合基板を貫通して他方の収縮抑制層に到達し、かつ前記生の複合積層体の他方主面に届かない深さで他方の収縮抑制層の厚みの1/10?4/10まで届くように、切り込み溝を設ける工程」と、「前記生の複合積層体の一方の主面から他方の主面に届かない深さで、切り込み溝を設ける工程」である点で共通する。
(g)引用発明の「前記分割溝が形成された前記積層圧着体を、前記原料粉末(ガラス・セラミック系原料粉末)は焼結するが無機材料が焼結しない温度で焼成し」について、前記「積層圧着体」は、上記(e)の検討で述べたとおり、「その積層体の上下両面側に、・・・拘束層用のグリーンシートを所定枚数積層した後、圧着して」「形成」するものであり、また、上記(b)、(e)の検討で述べたとおり、引用発明の「積層体」、「積層圧着体」は、それぞれ本件補正発明の「生の多層集合基板」、「生の複合積層体」に相当する。
また、上記(f)の検討で述べたとおり、引用発明の「前記分割溝が形成された前記積層圧着体」は、切断されていないから、その形態は「一体化」されているということができる。
そして、引用発明において、「前記分割溝が形成された前記積層圧着体を、前記原料粉末(ガラス・セラミック系原料粉末)は焼結するが無機材料が焼結しない温度で焼成」すると、「拘束層」に挟まれた焼結後の「積層体」が得られることは明らかである。
そうすると、引用発明の「前記分割溝が形成された前記積層圧着体を、前記原料粉末(ガラス・セラミック系原料粉末)は焼結するが無機材料が焼結しない温度で焼成し」は、本件補正発明の「前記切り込み溝が設けられ、かつ前記生の多層集合基板が他方の収縮抑制層により一体化されている生の複合積層体を、その状態を保持しつつ前記セラミック絶縁材料粉末は焼結するが前記無機材料粉末は焼結しない条件下で焼成し、前記収縮抑制層に挟まれた焼結後の多層集合基板を得る工程」と、「前記切り込み溝が設けられ、かつ前記生の多層集合基板が一体化されている生の複合積層体を、その状態を保持しつつ前記セラミック絶縁材料粉末は焼結するが前記無機材料粉末は焼結しない条件下で焼成し、前記収縮抑制層に挟まれた焼結後の多層集合基板を得る工程」である点で共通する。
(h)引用発明の「その後、拘束層を除去する」ことは、本件補正発明の「前記焼結後の多層集合基板から、上下に配置された未焼結の前記収縮抑制層を除去する工程」に相当する。
(i)上記(f)の検討で述べたとおり、引用発明の「積層圧着体」には、「分割溝」が形成されていることから、引用発明の「拘束層を除去することにより」「多層基板を得る」ことは、本件補正発明の「前記焼結後の多層集合基板から、前記切り込み溝に沿って分割された複数の多層セラミック基板を取り出す工程」に相当することは明らかである。

(j)上記(a)?(i)を踏まえると、両者は、
「セラミック絶縁材料粉末を含む複数のセラミックグリーン層を積層して生の多層集合基板を作製する工程と、
前記生の多層集合基板の上下両主面を、前記セラミック絶縁材料粉末の焼結温度では焼結しない無機材料粉末を含む収縮抑制層で挟み、積層方向に圧着して、生の複合積層体を作製する工程と、
前記生の複合積層体の一方の主面から他方の主面に届かない深さで、切り込み溝を設ける工程と、
前記切り込み溝が設けられ、かつ前記生の多層集合基板が一体化されている生の複合積層体を、その状態を保持しつつ前記セラミック絶縁材料粉末は焼結するが前記無機材料粉末は焼結しない条件下で焼成し、前記収縮抑制層に挟まれた焼結後の多層集合基板を得る工程と、
前記焼結後の多層集合基板から、上下に配置された未焼結の前記収縮抑制層を除去する工程と、
前記焼結後の多層集合基板から、前記切り込み溝に沿って分割された複数の多層セラミック基板を取り出す工程と、を備える多層セラミック基板の製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

・相違点A
「前記生の複合積層体の一方の主面から他方の主面に届かない深さで、切り込み溝を設ける工程」において、本件補正発明では、「一方の収縮抑制層および生の多層集合基板を貫通して他方の収縮抑制層に到達し、かつ前記生の複合積層体の他方主面に届かない深さで他方の収縮抑制層の厚みの1/10?4/10まで届くように」「切り込み溝」を設けるのに対し、引用発明では、「分割溝」の深さが、上面側の拘束層および積層体を貫通して下面側の拘束層に到達し、かつ積層圧着体の下面に届かない深さで、下面側の拘束層の厚みの1/10?4/10まで届いているか、特定されていない点。

・相違点B
本件補正発明は、「焼結後の多層集合基板を得る工程」において、「前記切り込み溝が設けられ、かつ前記生の多層集合基板が他方の収縮抑制層により一体化されている生の複合積層体を、その状態を保持しつつ」「焼成」するのに対し、引用発明では、「分割溝が形成された前記積層圧着体」を焼成する際に、「積層体が他方の拘束層によって一体化されている積層圧着体を、その状態を保持しつつ」「焼成」することについて特定されていない点。

上記相違点A、Bについて検討する。
・相違点Aについて
引用文献2には、記載事項(2-ア)に、「セラミツク粉末を主成分とする複数のグリーンシートを含む積層体の裏面に焼成用の敷粉を主成分とする敷粉グリーンシートを一体化する工程と、積層体をカツターにて、敷粉グリーンシートが分離されないように賽目状に切断してチップ化する工程」と記載され、同(2-ウ)に、「積層体6の所定部分をカツター7にて、敷粉グリーンシート1が切断分離されないように賽目状に切断する。この切断操作によつて積層体6は第4図に示すように、敷粉グリーシート1に一体化されたままで、切断溝8によりチツプ(9)化される。」と記載されるとともに、「この実施例によれば、積層体6の裏面には敷粉グリーンシート1が一体化されているので、積層体6をカツター7にて完全に切断しても、チツプ9がバラバラになることはない。」と記載されており、これらの記載から、引用文献2には、「切断操作により、積層体6を貫通して裏面の敷粉グリーンシート1に到達し、かつ、敷粉グリーンシート1が切断分離されない深さの切断溝8を設ける」ことが開示されているといえ、これにより、「積層体6の裏面には敷粉グリーンシート1が一体化されているので、積層体6をカツター7にて完全に切断しても、チツプ9がバラバラになることはない。このために、・・・切断作業を能率的に行うことができる。」という、本願明細書の段落【0035】に記載の「複合積層体は集合状態で取り扱えるので作業性に優れ」と同様の作用効果を奏しているといえる。
なお、切り込み溝の深さを、他方の収縮抑制層の厚みの1/10?4/10まで届くようにすることは、平成23年11月17日提出の回答書において請求人が認めるように、数値範囲に臨界的意義はなく、(他方の)収縮抑制層の厚さに応じて、当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。
そして、引用文献1と引用文献2では、多層セラミック基板の製造方法という同一の技術分野に属し、かつ、生産性の向上という、課題の共通性からみて、引用発明の多層基板の製造方法に、引用文献2の、「切断操作により、積層体6を貫通して裏面の敷粉グリーンシート1に到達し、かつ、敷粉グリーンシート1が切断分離されない深さの切断溝8を設ける」技術を適用し、相違点Aに係る本件補正発明の特定事項をなすことは、当業者であれば容易なし得ることである。

・相違点Bについて
引用文献2には、記載事項(2-ア)に、「積層体をカツターにて、敷粉グリーンシートが分離されないように賽目状に切断してチップ化する工程と、この敷粉グリーンシートをチップと共にセツターに載置した上で焼成する工程」と記載され、同(2-ウ)に、「積層体6の所定部分をカツター7にて、敷粉グリーンシート1が切断分離されないように賽目状に切断する。この切断操作によつて積層体6は第4図に示すように、敷粉グリーシート1に一体化されたままで、切断溝8によりチツプ(9)化される。次に、第5図に示すように、焼成用セツター10に敷粉グリーンシート1と共にチツプ9を載置する。そして、焼成炉への挿入によつてチツプ9は焼成される。」と記載されるとともに、「この実施例によれば、積層体6の裏面には敷粉グリーンシート1が一体化されているので、積層体6をカツター7にて完全に切断しても、チツプ9がバラバラになることはない。」と記載されており、これらの記載から、引用文献2には、「切断操作により、積層体6を貫通して裏面の敷粉グリーンシート1に到達し、かつ、敷粉グリーンシート1が切断分離されないように、切断溝8を設ける」ことにより、「敷粉グリーンシート1により一体化されている積層体6を、その状態を保持しつつ」「焼成」することが開示されているといえる。
そして、上記相違点Aの検討で述べたとおり、引用文献1と引用文献2では、多層セラミック基板の製造方法という同一の技術分野に属し、かつ、生産性の向上という、課題の共通性からみて、引用発明の多層基板の製造方法に、引用文献2の、「切断操作により、積層体6を貫通して裏面の敷粉グリーンシート1に到達し、かつ、敷粉グリーンシート1が切断分離されないように、切断溝8を設ける」ことにより、「敷粉グリーンシート1により一体化されている積層体6を、その状態を保持しつつ」「焼成」する技術を適用し、相違点Bに係る本件補正発明の特定事項をなすことは、当業者が容易になし得ることである。

よって、本件補正発明は、引用文献1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件補正発明は、引用文献1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、出願の際独立して特許を受けることができないものであり、本件補正は、平成18年法律第55条改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成21年7月16日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年3月26日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】 セラミック絶縁材料粉末を含む複数のセラミックグリーン層を積層して生の多層集合基板を作製する工程と、
前記生の多層集合基板の上下両主面を、前記セラミック絶縁材料粉末の焼結温度では焼結しない無機材料粉末を含む収縮抑制層で挟み、積層方向に圧着して、生の複合積層体を作製する工程と、
前記生の複合積層体の一方主面に、一方の収縮抑制層および生の多層集合基板を貫通して他方の収縮抑制層に到達し、かつ前記生の複合積層体の他方主面に届かない深さで、切り込みを溝設ける工程と、
前記切り込み溝が設けられ、かつ前記生の多層集合基板が他方の収縮抑制層により一体化されている生の複合積層体を、その状態を保持しつつ前記セラミック絶縁材料粉末は焼結するが前記無機材料粉末は焼結しない条件下で焼成し、前記収縮抑制層に挟まれた焼結後の多層集合基板を得る工程と、
前記焼結後の多層集合基板から、上下に配置された未焼結の前記収縮抑制層を除去する工程と、
前記焼結後の多層集合基板から、前記切り込み溝に沿って分割された複数の多層セラミック基板を取り出す工程と、を備えることを特徴とする多層セラミック基板の製造方法。」
(当審注:「切り込みを溝設ける」は、「切り込み溝を設ける」の誤記と認める。)

2.引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1及び2、およびその記載事項は、上記第2の3-2.に記載したとおりである。

3.引用発明
引用発明については、上記第2の3-3.で述べたとおりである。

4.対比・判断
本願発明は、本件補正発明から「他方の収縮抑制層の厚みの1/10?4/10まで届くように」を削除して上位概念化するものであり、本件補正発明を含むものであるから、上記第2の3-4.で述べたものと同様の理由により、本願発明は、特許を受けることができない。

第5 回答書の補正案について
請求人は回答書において、請求項1中の「多層集合基板」を「多層集合配線基板」とする補正の機会を求めている。

しかしながら、引用文献1の段落【0053】に、各グリーンシート上に電極や配線パターンを施すことが開示されており、上記補正案のとおりに補正されたとしても、本願は依然として独立して特許を受けることができないので、採用できない。

第6 回答書における主張について
請求人は回答書において、「引用文献3(当審注:審決の引用文献2)に開示されているのは積層セラミックコンデンサの製造技術であり、本願発明のように多層セラミック基板の製造技術とは異なります。」と主張しているので一応検討する。

引用文献2は、「積層セラミツク部品の製造方法」に関するものであり、第3頁右上欄第1?3行に記載されるように、積層セラミックコンデンサのみに特化されるものでもないので、上記主張は採用できない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願は他の請求項について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。

よって、上記のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-27 
結審通知日 2012-04-17 
審決日 2012-05-01 
出願番号 特願2002-50234(P2002-50234)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C04B)
P 1 8・ 121- Z (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 武石 卓  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 小川 慶子
吉川 潤
発明の名称 多層セラミック基板の製造方法  

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