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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  F16C
管理番号 1259973
審判番号 無効2009-800132  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-06-23 
確定日 2012-07-17 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4206716号「転がり軸受装置」の特許無効審判事件についてされた平成22年 2月16日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の決定(「平成22年(行ケ)第10098号」平成22年9月7日付け)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第4206716号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由
1.手続の経緯

(1)本件特許第4206716号の請求項1及び2に係る発明(以下、「本件特許発明1」及び「本件特許発明2」という。)についての出願は、平成14年9月17日になされ、平成20年7月7日付けの手続補正を経て、平成20年10月31日にその発明について特許権の設定登録がなされたものである。
(2)これに対して、平成21年6月23日付けで請求人篠山明男より、本件特許発明1及び2の特許を無効にするとの審決を求める無効審判の請求がなされた。
(3)被請求人株式会社ジェイテクトは、平成21年9月14日付けで訂正請求書を提出して訂正を求めるとともに、同日付けで答弁書を提出した。
(4)その後、請求人は、平成21年12月3日付けで口頭審理陳述要領書を提出し、被請求人は、同日付けで口頭審理陳述要領書を提出し、同日に口頭審理が行われた。
(5)口頭審理実施後、被請求人は、平成21年12月25日付けで上申書を提出した。これを受けて、請求人は、平成22年1月20日付けで上申書を提出した。
(6)そして、平成22年2月16日付けで請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする旨の審決がなされた。
(7)これに対し、被請求人は、平成22年3月26日付けで審決の取消しを求める訴え(平成22年(行ケ)第10098号)を知的財産高等裁判所に提起し、その後90日の期間内である同年6月4日付けで特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正審判(訂正2010-390055)を請求したところ、当該裁判所は、平成22年9月7日付けで、特許法181条2項の規定を適用して審決の取消しの決定をした。
(8)その後、被請求人は同法第134条の3第2項により指定された期間内である同年9月27日付けで答弁書(第2回)(以下、単に「答弁書」という。)を提出するとともに訂正請求書を提出して訂正(以下「本件訂正」という。)を求めた。なお、これにより、上記同年6月4日付の訂正審判は、同法第134条の3第4項の規定により、取り下げられたものとみなし、平成21年9月14日にされた訂正請求は、特許法第134条の2第4項の規定により取り下げられたものとみなす。
(9)これに対し、請求人は、平成22年11月12日に弁駁書を提出した。

2.訂正の適否

2-1.訂正の内容

本件訂正の内容は、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)を平成22年9月27日付け訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものである。すなわち、明細書を次のとおり訂正することを求めるものである。なお、本審決においてアルファベットに付加された下付数字は適宜半角数字で表記した。

(1)訂正事項1
本件特許明細書における特許請求の範囲の請求項1に、
「軸方向一方側の外周面にフランジを有し、軸方向他方側の外周面に軸方向二列の第1、第2内輪軌道面を有する内輪部材と、
内周面に前記内輪部材の二列の第1、第2内輪軌道面と径方向でそれぞれ対向する軸方向二列の第1、第2外輪軌道面を有し、前記第1外輪軌道面より軸方向他方側における外周面にフランジを有する外輪部材と、
前記外輪部材の第1、第2外輪軌道面と前記内輪部材の第1、第2内輪軌道面との間に介装される複数の玉からなる軸方向二列の第1、第2転動体群とを含み、
前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間において、前記第1転動体群のピッチ円直径D1と、前記第2転動体群のピッチ円直径D2との関係がD1>D2に設定され、
前記第1転動体群の転動体の直径が、前記第2転動体群の転動体の直径よりも小さく、
前記第1転動体群の転動体の数が、前記第2転動体群の転動体の数よりも多く、
前記外輪部材の内周面の第1外輪軌道面と第2外輪軌道面との間に、第1外輪軌道面よりも小径となるように連続的に内径が変化する径変化部分を有している転がり軸受装置。」とあるのを、
「軸方向一方側の外周面に車両アウタ側のフランジを有するハブ軸と、前記ハブ軸の軸方向他方側の外周面に一体回転可能に嵌合装着された内輪とからなり、前記ハブ軸の軸方向他方側の外周面および前記内輪の外周面に軸方向二列の第1、第2内輪軌道面を有する内輪部材と、
内周面に前記内輪部材の二列の第1、第2内輪軌道面と径方向でそれぞれ対向する軸方向二列の第1、第2外輪軌道面を有し、前記第1外輪軌道面より軸方向他方側における外周面に車両インナ側のフランジを有する外輪部材と、
前記外輪部材の第1、第2外輪軌道面と前記内輪部材の第1、第2内輪軌道面との間に介装される複数の玉からなる軸方向二列の第1、第2転動体群とを含み、
前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間において、車両アウタ側の前記第1転動体群のピッチ円直径D1と、車両インナ側の前記第2転動体群のピッチ円直径D2との関係がD1>D2に設定され、
前記第1、第2転動体群の転動体の直径が同じ場合に比べて、さらに軸受負荷中心間距離の増大を図るように、前記第1転動体群の転動体の直径が、前記第2転動体群の転動体の直径よりも小さく、
前記第1転動体群の転動体の数が、前記第2転動体群の転動体の数よりも多く、
前記外輪部材の内周面の第1外輪軌道面と第2外輪軌道面との間に、第1外輪軌道面よりも小径となるように連続的に内径が変化する径変化部分を有している転がり軸受装置。」と訂正する。(下線は訂正箇所を示す。以下同様。)

(2)訂正事項2
特許明細書の段落【0006】の
「【課題を解決するための手段】
本発明の転がり軸受装置は、軸方向一方側の外周面にフランジを有し、軸方向他方側の外周面に軸方向二列の第1、第2内輪軌道面を有する内輪部材と、内周面に前記内輪部材の二列の第1、第2内輪軌道面と径方向でそれぞれ対向する軸方向二列の第1、第2外輪軌道面を有し、前記第1外輪軌道面より軸方向他方側における外周面にフランジを有する外輪部材と、前記外輪部材の第1、第2外輪軌道面と前記内輪部材の第1、第2内輪軌道面との間に介装される複数の玉からなる軸方向二列の第1、第2転動体群とを含み、前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間において、前記第1転動体群のピッチ円直径D1と、前記第2転動体群のピッチ円直径D2との関係がD1>D2に設定され、前記第1転動体群の転動体の直径が、前記第2転動体群の転動体の直径よりも小さく、前記第1転動体群の転動体の数が、前記第2転動体群の転動体の数よりも多く、前記外輪部材の内周面の第1外輪軌道面と第2外輪軌道面との間に、第1外輪軌道面よりも小径となるように連続的に内径が変化する径変化部分を有している。」とあるのを、
「【課題を解決するための手段】
本発明の転がり軸受装置は、軸方向一方側の外周面に車両アウタ側のフランジを有するハブ軸と、前記ハブ軸の軸方向他方側の外周面に一体回転可能に嵌合装着された内輪とからなり、前記ハブ軸の軸方向他方側の外周面および前記内輪の外周面に軸方向二列の第1、第2内輪軌道面を有する内輪部材と、内周面に前記内輪部材の二列の第1、第2内輪軌道面と径方向でそれぞれ対向する軸方向二列の第1、第2外輪軌道面を有し、前記第1外輪軌道面より軸方向他方側における外周面に車両インナ側のフランジを有する外輪部材と、前記外輪部材の第1、第2外輪軌道面と前記内輪部材の第1、第2内輪軌道面との間に介装される複数の玉からなる軸方向二列の第1、第2転動体群とを含み、前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間において、車両アウタ側の前記第1転動体群のピッチ円直径D1と、車両インナ側の前記第2転動体群のピッチ円直径D2との関係がD1>D2に設定され、前記第1、第2転動体群の転動体の直径が同じ場合に比べて、さらに軸受負荷中心間距離の増大を図るように、前記第1転動体群の転動体の直径が、前記第2転動体群の転動体の直径よりも小さく、前記第1転動体群の転動体の数が、前記第2転動体群の転動体の数よりも多く、前記外輪部材の内周面の第1外輪軌道面と第2外輪軌道面との間に、第1外輪軌道面よりも小径となるように連続的に内径が変化する径変化部分を有している。」と訂正する。

(3)訂正事項3
特許明細書の段落【0008】の
「本発明の転がり軸受装置では、内輪部材のフランジと外輪部材のフランジとの間にできる自由空間を有効利用して軸方向一方側の転動体群のピッチ円直径を、軸方向他方側に比べて大きく設定している。そのため、各列の転動体群同士の軸受負荷中心間距離を増大させることができる。その結果、装置の大型化を避けつつ、転がり軸受装置の高剛性化および長寿命化を図ることができる。」とあるのを、
「本発明の転がり軸受装置では、内輪部材のフランジと外輪部材のフランジとの間にできる自由空間を有効利用して車両アウタ側の転動体群のピッチ円直径を、車両インナ側に比べて大きく設定している。そのため、各列の転動体群同士の軸受負荷中心間距離を増大させることができる。その結果、装置の大型化を避けつつ、転がり軸受装置の高剛性化および長寿命化を図ることができる。」と訂正する。

(4)訂正事項4
特許明細書の段落【0015】の
「【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態に係る転がり軸受装置を、図面を参照して詳細に説明する。この転がり軸受装置は、車両用車軸の軸受用に適用して説明する。この転がり軸受装置は、従動輪側を例にとっている。図1は本発明の一実施形態に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図、図2は、図1の転がり軸受装置の上半分断面図である。図1で軸方向左側は車両アウタ側(軸方向一方側)を、軸方向右側は車両インナ側(軸方向他方側)を示す。」とあるのを、
「【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態に係る転がり軸受装置を、図面を参照して詳細に説明する。この転がり軸受装置は、車両用車軸の軸受用に適用して説明する。この転がり軸受装置は、従動輪側を例にとっている。図1は本発明の前提となる一実施形態に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図、図2は、図1の転がり軸受装置の上半分断面図である。図1で軸方向左側は車両アウタ側(軸方向一方側)を、軸方向右側は車両インナ側(軸方向他方側)を示す。」と訂正する。

(5)訂正事項5
特許明細書の段落【0037】の
「(1)図3は、本発明の他の実施形態に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図、図4は、図3の転がり軸受装置の上半分断面図、図5は、車両アウタ側の玉の配列を示す説明図である。図3で軸方向左側は車両アウタ側(軸方向一方側)を、軸方向右側は車両インナー側(軸方向他方側)を示す。」とあるのを、
「(1)図3は、本発明の実施形態に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図、図4は、図3の転がり軸受装置の上半分断面図、図5は、車両アウタ側の玉の配列を示す説明図である。図3で軸方向左側は車両アウタ側(軸方向一方側)を、軸方向右側は車両インナー側(軸方向他方側)を示す。」と訂正する。

(6)訂正事項6
特許明細書の段落【0050】の
「(2)図6は、本発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図である。」とあるのを、
「(2)図6は、参考例の実施形態に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図である。」と訂正する。

(7)訂正事項7
特許明細書の段落【0062】の
「(3)本発明は、図7で示すように、駆動輪側の転がり軸受装置300にも適用することができる。」とあるのを、
「(3)本発明の前提となる一実施形態は、図7で示すように、駆動輪側の転がり軸受装置300にも適用することができる。」と訂正する。

(8)訂正事項8
特許明細書の段落【0064】の
「(4)本発明は、図8で示すように、ハブ軸2の外周面に軸方向一対の内輪3a、3bを嵌合装着した転がり軸受装置400にも適用することができる。」とあるのを、
「(4)図8は、ハブ軸2の外周面に軸方向一対の内輪3a、3bを嵌合装着した転がり軸受装置400に適用した参考例を示している。」と訂正する。

(9)訂正事項9
特許明細書の【図面の簡単な説明】の欄の
「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図
【図2】図1の転がり軸受装置の上半分断面図
【図3】本発明の他の実施形態に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図
【図4】図3の転がり軸受装置の上半分断面図
【図5】車両アウタ側の玉の配列を示す説明図
【図6】本発明の他の実施形態に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図
【図7】本発明の他の実施形態に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図
【図8】本発明の他の実施形態に係る転がり軸受装置の上半分を示す断面図
【図9】参考例の実施形態に係る転がり軸受装置の上半分を示す断面図
【図10】従来の転がり軸受装置の全体構成を示す断面図」とあるのを、
「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の前提となる実施形態に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図
【図2】図1の転がり軸受装置の上半分断面図
【図3】本発明の実施形態に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図
【図4】図3の転がり軸受装置の上半分断面図
【図5】車両アウタ側の玉の配列を示す説明図
【図6】参考例の実施形態に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図
【図7】本発明の前提となる実施形態に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図
【図8】参考例の実施形態に係る転がり軸受装置の上半分を示す断面図
【図9】参考例の実施形態に係る転がり軸受装置の上半分を示す断面図
【図10】従来の転がり軸受装置の全体構成を示す断面図」と訂正する。

2-2.判断

(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「軸方向一方側の外周面にフランジを有し、軸方向他方側の外周面に軸方向二列の第1、第2内輪軌道面を有する内輪部材」について、「軸方向一方側の外周面に車両アウタ側のフランジを有するハブ軸と、前記ハブ軸の軸方向他方側の外周面に一体回転可能に嵌合装着された内輪とからなり、前記ハブ軸の軸方向他方側の外周面および前記内輪の外周面に軸方向二列の第1、第2内輪軌道面を有する内輪部材」と限定して構成を特定するものであり、同じく「前記第1外輪軌道面より軸方向他方側における外周面にフランジを有する外輪部材」について、「前記第1外輪軌道面より軸方向他方側における外周面に車両インナ側のフランジを有する外輪部材」と限定して構成を特定するものであり、同じく「前記第1転動体群」及び「前記第2転動体群」について、それぞれ「車両アウタ側の前記第1転動体群」及び「車両インナ側の前記第2転動体群」と限定して構成を特定する事項を含むものである。これらの点について、本件特許明細書の段落【0037】には、「図3で軸方向左側は車両アウタ側(軸方向一方側)を、軸方向右側は車両インナー側(軸方向他方側)を示す。」と記載され、段落【0038】には、「図3に示す転がり軸受装置100の基本的構成は、上記実施形態と同様であるが、異なる点は、車両アウタ側の玉4の直径を小さくしている点である。」と記載され、段落【0018】には、「ハブ軸2は、内輪部材の一部分として、車両アウタ側の外周面に車輪(不図示)を取り付けるためのフランジ15を有する・・・内輪3は、内輪部材の一部分として、ハブ軸2における車両インナ側の外周面に該ハブ軸2と一体回転可能に嵌合装着され、外周面に外輪1の車両インナ側の軌道面13と対向する一列の軌道面17を有する。」と記載され、段落【0023】には、「車両アウタ側の玉群4のピッチ円直径D1と、車両インナ側の玉群5のピッチ円直径D2との関係をD1>D2に設定している。」と記載され、図面の図3にはこれらの記載事項に整合する構成が図示されていることから、以上の点は、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。
また、訂正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「前記第1転動体群の転動体の直径が、前記第2転動体群の転動体の直径よりも小さく」について、「前記第1、第2転動体群の転動体の直径が同じ場合に比べて、さらに軸受負荷中心間距離の増大を図るように、前記第1転動体群の転動体の直径が、前記第2転動体群の転動体の直径よりも小さく」(以下、「構成要件E」という。)と訂正した点は、確かに本件特許明細書の段落【0039】には「このように、上記実施形態に加えて、車両アウタ側の玉4の直径を小さくすることによっても、転がり軸受装置100の剛性が向上する。」と記載され、段落【0041】には「車両アウタ側の玉4の直径を小さくすることにより、上記実施形態に比べてさらに軸受負荷中心間距離の増大を図ることができ、転がり軸受装置100の剛性をさらに向上させることができる。」と記載され、図面の図3及び図4にはこれらの記載事項に整合する構成が図示されている。しかしながら、図3及び図4に記載された転がり軸受装置は、いずれも、単に転動体の直径を小さくすることによって軸受負荷中心間距離を増大できるのではなく、外輪の軌道面の直径を一定に維持したまま転動体を小さくすることに加えて、転動体と軌道面の接触角を一定の角度に保ち(接触角を上記軸受負荷中心間距離が増大するような角度に変化させても軸受負荷中心間距離を増大できるが、当該接触角を変化させてまで当該距離を増大することは上記図面の記載や明細書の記載からは把握できない。)、かつ、内輪の直径を転動体の直径の変化に追従して大きくすることによってピッチ円直径D1を大きくするという条件において、上記構成要件Eの「さらに軸受負荷中心間距離の増大を図るように、前記第1転動体群の転動体の直径が、前記第2転動体群の転動体の直径よりも小さく」する構成が特定されるものである。ところが、この点に関する段落【0044】?【0048】及び表2に本発明の実施形態として記載されている試料1?3は、「剛性、寿命ともに最も向上するD1=73mmに設定し」てあり、転動体の直径を小さくしても軸受負荷中心間距離は一定のまま変化しないものであるから、「軸受負荷中心間距離の増大を図るように」転動体の直径を小さくする構成にはなっていない。そうすると、実施形態として記載された試料1?3による試験は、さらにピッチ円直径を変化させて検証する余地があるとしても、上記構成要件Eを裏付けるものではないから、上記構成要件Eは、図3及び図4とその幾何学的な関係を説明した上記段落【0039】及び【0041】に基づいて特定したものということができる。したがって、上記構成要件Eは、上記幾何学的な関係を満たす限りにおいて、訂正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「前記第1転動体群の転動体の直径が、前記第2転動体群の転動体の直径よりも小さく」について、構成を特定して限定したものと捉えられる。
以上のとおり、訂正事項1に係る訂正は、一応特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するといえるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものではない。
よって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とし、また、同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

なお、請求人は、弁駁書において、上記構成要件Eは、
「-本件特許の出願当初の明細書の記載から一義的に引き出せないものであるし、
-本件特許の明細書に、実施例として記載されているものが発明の技術的範囲に属さないものになる、
-明細書と請求項の記載とが齟齬する発明特定事項であると共に、
-発明の外延を決定することができない不明瞭な発明特定事項であるから、
本件訂正請求は、『特許請求の範囲の減縮』及び『明りょうでない記載の釈明』を目的としたものとは云えず、特許法第134条の2第1項の規定に違反するものである。」と主張している。
しかしながら、上記構成要件Eは、本件特許明細書の表2に本発明の実施形態として記載されている試料1?3が上記構成要件Eと整合しないものであるとしても、当業者が本件特許の図3及び図4とその幾何学的な関係を説明した本件特許明細書の上記段落【0039】及び【0041】を技術常識に照らして参酌すれば把握できる構成である以上、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる目的に該当しないとか、同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定を満たさないとまではいえない。
したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。

(2)訂正事項2ないし9について
訂正事項2ないし9は、請求項1の訂正(訂正事項1)に伴って、請求項1の記載と本件特許明細書又は図面の記載との整合を図るために訂正したものであるから、訂正事項2ないし9に係る訂正は、明りようでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、訂正事項2ないし9に係る訂正は、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
よって、訂正事項2ないし9に係る訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とし、また、同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

2-3.むすび

以上のとおり、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とし、また、特許法第134条の2第5項において準用する同法126条第3項及び第4項の規定に適合するものであるから、本件訂正を認める。

3.請求人の主張

請求人は、「特許第4206716号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」(請求の趣旨)との審決を求め、証拠方法として甲第1号証?甲第24号証(ただし、甲第18?21号証は欠番)及び参考図を提出し、審判請求書、口頭審理陳述要領書、上申書、及び弁駁書において、無効とすべき理由を次のように主張している。
なお、請求人は、本件訂正が「特許法第134条の2第1項の規定に違反するものである。」と主張しているが、この主張が採用できないものであることは上述のとおりである。

[理由]
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、甲第1?5号証に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。

[証拠方法]
・甲第1号証:特開昭57-6125号公報
・甲第2号証:米国特許第5226737号明細書
・甲第3号証:転がり軸受工学編集委員会編、「転がり軸受工学」、株式会社養賢堂、昭和51年5月20日第2版発行の表紙、目次、p.81?82、及び奥付けの写し
・甲第4号証:米国特許第4958944号明細書
・甲第5号証:特開平11-151904号公報
・甲第6号証:平成20年4月30日付け拒絶理由通知書
・甲第7号証:平成20年7月7日付け意見書
・甲第8号証:曽田範宗、「軸受」、株式会社岩波書店、1986年9月25日第15刷発行の表紙、目次、p.92?93,p.114?117,p.122?133、及び奥付けの写し
・甲第9号証:特公平8-3333号公報
・甲第10号証:特開平6-320903号公報
・甲第11号証:特開平10-181304号公報
・甲第12号証:特開平11-118816号公報
・甲第13号証:特開平6-307438号公報
・甲第14号証:特開2001-88510号公報
・甲第15号証:特開2001-180212号公報
・甲第16号証:特開平10-185717号公報
・甲第17号証:特開昭53-132641号公報
・甲第18号証?甲第21号証:(欠番)
・甲第22号証:「Koyo ENGINEERING JOURNAL No.147」、光洋精工株式会社(現在の株式会社ジェイテクト)、平成7年4月、内表紙の目次、51頁?56頁の「乗用車ホイール用ハブユニット軸受の動向」および奥付けの写し
・甲第23号証:「Koyo.ENGINEERING JOURNAL No.131」、光洋精工株式会社、昭和62年4月、内表紙の目次、16頁?22頁の「ホイール用軸受の変遷」および奥付けの写し
・甲第24号証:無効2009-800198事件の平成22年8月3日付け審決書の写し

4.被請求人の主張

被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、本件訂正の請求をするとともに、証拠方法として乙第1号証?乙第4号証及び参考図を提出し、答弁書において「本件訂正発明1及び2は、進歩性を有するとともに、その他の特許要件を有する」旨を次のように主張している。
なお、被請求人は、請求人が口頭審理陳述要領書とともに提出した「参考図2」の公知性について疑義があることを述べている(被請求人上申書の7.(2)の項を参照。)ものの、請求人が提出した甲第1?5号証の成立性と公知性については争っていない。

[理由]
被請求人は、本件訂正後の請求項1に係る発明について、
「A.軸方向一方側の外周面に車両アウタ側のフランジを有するハブ軸と、前記ハブ軸の軸方向他方側の外周面に一体回転可能に嵌合装着された内輪とからなり、前記ハブ軸の軸方向他方側の外周面および前記内輪の外周面に軸方向二列の第1、第2内輪軌道面を有する内輪部材と、
B.内周面に前記内輪部材の二列の第1、第2内輪軌道面と径方向でそれぞれ対向する軸方向二列の第1、第2外輪軌道面を有し、前記第1外輪軌道面より軸方向他方側における外周面に車両インナ側のフランジを有する外輪部材と、
C.前記外輪部材の第1、第2外輪軌道面と前記内輪部材の第1、第2内輪軌道面との間に介装される複数の玉からなる軸方向二列の第1、第2転動体群とを含み、
D.前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間において、車両アウタ側の前記第1転動体群のピッチ円直径D1と、車両インナ側の前記第2転動体群のピッチ円直径D2との関係がD1>D2に設定され、
E.前記第1、第2転動体群の転動体の直径が同じ場合に比べて、さらに軸受負荷中心間距離の増大を図るように、前記第1転動体群の転動体の直径が、前記第2転動体群の転動体の直径よりも小さく、
F.前記第1転動体群の転動体の数が、前記第2転動体群の転動体の数よりも多く、
G.前記外輪部材の内周面の第1外輪軌道面と第2外輪軌道面との間に、第1外輪軌道面よりも小径となるように連続的に内径が変化する径変化部分を有している転がり軸受装置。」(答弁書第2ページ第21行?第3ページ13行)に分説し、次のような主張をしている。

(1)「甲第1号証発明は、・・・内輪を一体化して内輪部材としたからこそ、特有な組立方法を採用し、この組立方法のもとで、一方の軌道に装入できる玉数が少ない点を補足するために他方のピッチ円直径(PCD)を大きくし、挿入できる全体の玉の数を増加して軸受全体の負荷容量を大きくしたものである。このため、内輪を別体として形成してハブ軸に組み込むとすれば、そもそもPCDを大きくする必要もなくなってしまうのである。・・・
甲第1号証発明は、上記のとおり、内輪の一部を分割した場合の欠点を解決することを課題の1つとしたものであるから、たとえ、『転がり軸受装置において、内輪を別体として形成してハブ軸に組み込むことにより一体化して内輪部材とすることは、周知事項』であったとしても、当該周知事項を甲第1号証に適用することは、甲第1号証が欠点の存在するものとした先行技術(甲第17号証)に逆行する行為であるから、甲第1号証には、当該周知事項の適用について阻害要因が存在することは、明らかである。」(答弁書第17ページ第6?24行)

(2)「本件訂正発明が課題とする剛性(モーメント剛性)とは、ブレーキディスクロータのロータ倒れなどにより発生する騒音や振動、車両走行安定性に係わるものであって、負荷容量や寿命のような耐久性を意味する指標とは、技術的課題としては明らかに異なるものである。・・・
本件特許明細書の段落【0004】に『上記転がり軸受装置500の場合、設計の容易さや生産コスト低減の観点から、両列の玉群4、5同士が互いの軸方向中間点に対して左右対称の構造に作られている。』と記載されているとおり、複列の転がり軸受装置の設計に当たっては、特別な目的・理由がない限り、2列の転動体群(転がり軸受)の構造は、左右対称ないし同一の構造で作る(PCD、玉径とも共通にする。)というのが、当業者の技術常識である。・・・
転動体のボール径(玉径)については、特に、左右共通化の要請が強い。なぜなら、特開2001-241434号公報(乙第4号証)の段落【0005】に記載されているとおり、左右の列の玉径を異ならせると、『玉の外径及び軌道の断面の曲率半径を、各列毎に大きく異ならせる分、各列毎に、玉だけでなく、内輪、保持器、シールリング等の部品の共通化を図れなくなり、コストが嵩む原因となる』からである。」(答弁書第18ページ第12行?第19ページ第29行)

(3)「本件訂正発明1の課題は、あくまでも、『装置を大型化させることなく高剛性化を図(る)』(【0005】ことにある。長寿命化も、本件特許明細書が開示する技術的思想の課題の一つではあるが、好ましい実施態様においてのみ、高剛性化の課題と同時に解決され得る、副次的な課題にすぎない。
その証拠に、本件特許明細書の記載自体が、『玉4の直径を小さくするにつれ、転がり軸受装置100の剛性は向上するものの、寿命は低下する傾向にある。』(【0043】)こと、すなわち、2列の転動体のアウタ側の玉径を小さくすること(構成要件e)が、高剛性化に繋がっても、必ずしも長寿命化には繋がらないことを認めている。
・・・本件訂正発明1においては、『前記第1の転動体群の転動体の直径が、前記第2の転動体群の転動体の直径よりも小さく』(構成要件E)と特定しているのみであるから、アウタ側の転動体の直径を小さくすることにより、従来例より剛性は向上しているが寿命は低下しているものも、寿命低下が許容範囲内であれば、その技術的範囲に含んでいるのである。
・・・甲第1号証の第7図の実施例において、軌道(I)(車両アウタ側)のピッチ円直径(PCD)を大きくしていることは、あくまでも、軌道(I)と(II)の全体において挿入可能な玉数を増加させて、軸受全体の負荷容量を、第1図の実施例よりもさらに増大させるためであって、なんら軸受負荷中心間距離の増大(それによるモーメント剛性の向上)を目的としたものではないことが明らかである。
・・・軸受け装置を大型化させることなく負荷容量を増大させることが甲第2号証の課題であり、その解決手段として、限られたボール収容空間の支持限界を最大限利用して、ボールの直径を可能な限り『大きく』するという技術思想を開示するものが、甲第2号証なのである。
・・・(ボール径を『小さく』することは、ボール径を大きくして負荷容量を増大するという甲第2号証発明の技術思想に対して逆行する行為である。)。
さらに、甲第2号証では、アウトボード側のボール(22)の直径を、負荷容量を上げるために『大きく』しているが(甲2の図1)、内部に点線で描かれた直径が元のままのボールの中心点の位置に比べ、実線で描かれている、直径を大きくしたボールサイズの中心点は下に下がっている(すなわち、軸受負荷中心間距離は、ボール径が左右同一の従来例よりも小さくなっている。)ことから、甲第2号証には、軸受負荷中心間距離を大きくする技術思想は存在しないことが明らかである。
以上を考慮すれば明らかなとおり、甲第2号証発明は、負荷容量を増大させる観点のみからなされた発明であり、二列の転動体の直径の一方を『小さく』することにより、軸受負荷中心間距離を大きくしてモーメント剛性を高くするという技術思想は全く考慮されていないものである・・・
・・・仮に甲第1号証発明に甲第2号証の技術思想を組み合わせたとしても、甲第1号証発明の軸受装置には分離可能な(別体の)軌道輪は存在しない(甲第1号証発明が、内輪を一体的に形成して内輪部材とした点を発明の必須の構成とすることは、前記6(1)で述べたとおりである。)から、当業者は、『できる限りボールの直径を大きくして負荷容量を増大する』という甲第2号証の技術思想の下、『玉径の共通化』という技術常識を考慮すればなおさら、甲第1号証発明における2列の玉径を『共に大きくする』という構成しか想到し得ない。すなわち、甲第1号証発明に甲第2号証の技術思想を組み合わせたとしても、本件訂正発明1の構成要件Eは想到し得ない。」(答弁書第21ページ第5行?第26ページ第7行)

(4)「甲第3号証の記載事項は、あくまでも転がり軸受『単体』についての『一般的な』記載事項であるから、仮に、甲第1号証発明の複列の転がり軸受について、甲第3号証の『剛性を上げるには、…一般に、小さい転動体を多数使う方がよい』との記載事項を適用したとしても、前記6(2)で述べた『玉径の共通化』という当業者の技術常識からすれば、当業者は、『両列の玉径を同じく小さくする』という構成しか想到し得ない。」(答弁書第26ページ第12?17行)

(5)「甲第4又は5号証発明には、少なくとも、車両アウタ側の転動体群の直径を小さくして軸受負荷中心間距離を大きくする技術思想は開示ないし示唆されていないから、これらを甲第1号証発明に組み合わせたとしても、当業者は、少なくとも本件訂正発明1の要件Eにかかる構成は想到し得ない。」(答弁書第26ページ22?25行)

(6)「甲第1号証発明の目的は、『部品が増加し製造工程が煩雑化し高原価となる』ような『公知のフランジ付軸受の欠点を改良し高性能でより低原価のフランジ付軸受及びその組立方法』を提供することにあるところ・・・甲第1号証発明において、左右の列の玉径を異ならせれば・・・、玉を大小2種類用意しなければならないのみならず、内輪、保持器、シールリング等の部品の共通化も図れなくなり、コストが嵩むことになってしまうが、このような事態は、まさに、甲第1号証発明が従来技術の欠点とし克服すべき課題とした『部品が増加し製造工程が煩雑化し高原価となる』状況である。
よって、甲第1号証発明には、左右2列の玉径を異ならせることについて、阻害要因がある。
さらに、当業者には、『PCD・玉径の共通化』の技術常識があるから、特別な目的がない限り、左右の列のPCD及び玉径(特に玉径)は同一にする意思が働くところ、甲第1号証、甲第2号証のいずれも、その他甲各号証、技術常識、周知事項として、モーメント剛性を向上させるために一方の玉径を他方より小さくすることを開示・示唆する記載はなく、2列の玉径を異ならせる動機付けとなり得るような記載も、一切存在しない・・・
仮に『長寿命化』という目的のために当業者は剛性の向上を試みる動機があるとしても、それが、『2列のうちの一方の玉径を他方より小さくする』動機づけには、到底なり得ない。2列の玉径を双方ともに小さくしたほうが、軸受全体の玉の介装数を増加させることができるからである。長寿命化という観点からみれば、軸受全体の玉数が多いほど、玉一個当たりの荷重を分散することができるので、その分長寿命化が期待できるし、剛性の向上という観点からみても、甲第3号証に示された『剛性は、転動体の『個数』の方が、転動体の『直径』よりも影響が大きい』との技術常識を前提とすれば、全体の玉数が多い方が、より剛性も向上することになるはずだからである。」(答弁書第27ページ5行?第28ページ第24行)

(7)「本件訂正発明1では、外輪のフランジとハブ軸のフランジとの間の環状の自由空間を有効活用することで、そのような問題を生じることなく、軸受負荷中心間距離の増大を図ることができる。
また、本件訂正発明1は、車両アウタ側の第1転動体群の玉の直径を小さくすることにより(構成要件E)、第1転動体群の玉と第2転動体群の玉の直径が同一で、第1転動体群のピッチ円直径D1と第2転動体群のピッチ円直径D2をD1>D2に設定した場合より、さらに軸受負荷中心間距離の増大を図ることができ、ボール間スパン、転がり軸受け装置全体の軸方向長さを増加させることなく、転がり軸受装置のモーメント剛性をさらに向上させることができる。
さらに、本件訂正発明1は、ハブ軸回転であるから、車両アウタ側のPCDを大、玉の直径を小にすることにより、ハブ軸の車両アウタ側において軸径を太くすることができ、これにより軸部の剛性を高くすることができる。また、タイヤにかかるラテラルフォースによる曲げに対しても、車両アウタ側のPCDを大、玉の直径を小にすることで、フランジ下端部又はボルト締結部周辺と内輪軌道面との間の距離が小さくなるので、車両アウタ側のフランジ最下端部周辺の変位量が減少して、剛性を高くすることができるのである。」(答弁書第29ページ第8?23行)

(8)「以上のとおり、甲各号証、技術常識、周知技術をどのように組み合わせても本件訂正発明1にはなり得ないし、また、仮に『車両アウタ側の転動体の直径を車両インナ側より小さくするという技術思想』が開示・示唆されていたとしても、それを甲第1号証の発明に組み合わせることには阻害要因があるか、少なくとも動機付けが存在せず、本件訂正発明1は当業者が容易に想到することはできないものであって、進歩性を有するものである。本件訂正発明1の従属項である本件訂正発明2についても、同様である。
よって、本件訂正発明1及び2は、進歩性を有するとともに、その他の特許要件を有する。」(答弁書第29ページ第29行?第30ページ第8行)

[証拠方法]
・乙第1号証 JIS B 1518-1992「転がり軸受の動定格荷重及び定格寿命の計算方法」
・乙第2号証 ARVID PALMGREN著「BALL AND ROLLER BEARING」(1946年発行)
・乙第3号証 特開2008-80459号公報
・乙第4号証 特開2001-241434号公報

5.本件発明

上記「2.訂正の適否」で示したとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」「本件発明2」という。)は、平成22年9月27日付け訂正請求書に添付した訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

(1)本件発明1
「軸方向一方側の外周面に車両アウタ側のフランジを有するハブ軸と、前記ハブ軸の軸方向他方側の外周面に一体回転可能に嵌合装着された内輪とからなり、前記ハブ軸の軸方向他方側の外周面および前記内輪の外周面に軸方向二列の第1、第2内輪軌道面を有する内輪部材と、
内周面に前記内輪部材の二列の第1、第2内輪軌道面と径方向でそれぞれ対向する軸方向二列の第1、第2外輪軌道面を有し、前記第1外輪軌道面より軸方向他方側における外周面に車両インナ側のフランジを有する外輪部材と、
前記外輪部材の第1、第2外輪軌道面と前記内輪部材の第1、第2内輪軌道面との間に介装される複数の玉からなる軸方向二列の第1、第2転動体群とを含み、
前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間において、車両アウタ側の前記第1転動体群のピッチ円直径D1と、車両インナ側の前記第2転動体群のピッチ円直径D2との関係がD1>D2に設定され、
前記第1、第2転動体群の転動体の直径が同じ場合に比べて、さらに軸受負荷中心間距離の増大を図るように、前記第1転動体群の転動体の直径が、前記第2転動体群の転動体の直径よりも小さく、
前記第1転動体群の転動体の数が、前記第2転動体群の転動体の数よりも多く、
前記外輪部材の内周面の第1外輪軌道面と第2外輪軌道面との間に、第1外輪軌道面よりも小径となるように連続的に内径が変化する径変化部分を有している転がり軸受装置。」

(2)本件発明2
「【請求項2】
請求項1の転がり軸受装置において、
前記D1と前記D2との関係が、D1≦1.49×D2に設定されている転がり軸受装置。」

6.証拠方法

6-1.甲第1号証(特開昭57-6125号公報)

甲第1号証には、「フランジ付ユニット軸受及び組立方法」に関して、図面とともに、次の事項が記載されている(甲第1号証の摘記にあたり、促音等の表記を適宜変更した。以下、同様)。

(ア)「2.特許請求の範囲
(1)少なくとも内輪の一側に径方向外方に延びるフランジを有する一体形内輪、および内輪と同心位置に配置された外輪、内外輪間に介装された2列のボール、各ボール列にそれぞれ組込まれた保持器とからなり、内輪のフランジ寄りの列のボール数を他列のボール数より多くし、かつ外輪内径を内輪外径より僅かに大としたことを特徴とするフランジ付ユニット軸受。」(第1ページ左下欄第4?12行)

(イ)「この発明は主として自動車の車軸などに用いるフランジ付ユニット軸受に関するものである。
この種の軸受は、一般に内部に複列の軌道を有し、それぞれの軌道にボールと保持器が配されており、外輪には車輪(または車両の支持部材)に固定するためのフランジを有し、内輪には車両の支持部材(または車輪)に固定するためのフランジを有する構造である。
このような軸受は例えば・・・(中略)・・・したものである。しかし、自動車の車軸などに用いられる軸受にはラジアル荷重のほかに大きなしかも突然のスラスト荷重やモーメント荷重が作用するから2列のボール列間に公転差がでることは必至であり、この場合2列のボールを一体の保持器で保持するとボールの自由な転動をさまたげることになり軸受の性能をいちじるしく低下させるばかりでなく保持器破損などの故障の原因となる。」(第1ページ右下欄第4行?第2ページ左上欄第14行)

(ウ)「第1図は自動車の従動輪用の軸受ユニットであって、外輪(1)の内周には複列の軌道溝(13)、(14)が形成されていて、一側より半径方向外方に延びるフランジ(3)が形成されている。また、フランジ(3)には取付孔(11)が穿設されていて図示していないボルトをとおし車輪(または車体の取付部材)にとりつけられる。
一方、内輪(2)の外周には複列の軌道溝(15)、(16)が形成されていて一側より半径方向外方に延びるフランジ(4)が形成されており、フランジ(4)に穿設された取付孔(12)には図示していないボルトをとおし、車体の支持部材(または車輪)にとりつけられるようになっている。
外輪(1)の軌道溝(14)と内輪(2)の軌道溝(16)との間に形成されるフランジ(4)寄りの軌道(I)にボール個数ができるだけ多くなるように設計されポケットにボールをスナップ形式で圧入した保持器(8)付きボール(6)がいわゆるマキシマム形に介装されている。一方、外輪(1)の軌道溝(13)と内輪(2)の軌道溝(15)との間に形成される軌道(II)には軌道(I)より少ない個数のボール(5)が介装され、保持器(7)が装入されている。」(第2ページ左下欄第13行?右下欄第13行)

(エ)「次にこの発明の別の実施例について説明する。
第5図は駆動車輪用のフランジ付一体形軸受であり外輪(1)に設けたフランジ(3)には取付孔(11)が穿設されていて、該取付穴に図示していないボルトをとおして車体の支持部材にとりつけられる。内輪(2)に設けたフランジ(4)の取付孔(12)にボルトをとおし、これによって駆動車輪にとりつけられる。・・・(中略)・・・。
第7図は従動車輪用のフランジ付一体形軸受のさらに別の実施例について示したものである。この実施例を第1図のものと比較して説明すると、第1図の軌道(I)には軌道(II)に比較して充分多くのボールが介装され、したがって軌道(I)の負荷容量は充分に大きいが、第7図の実施例ではこの負荷容量をさらに大きくするため軌道(I)の直径を大きくしてボール(6)の個数をさらに多く組み込めるようにしたものである。したがって、第7図の実施例の軸受全体の負荷容量は第1図のそれに比較してさらに大きくなっている。たゞし、第7図の実施例の軸受を使用するときは車輪からの荷重は第1図の実施例の場合よりもさらに軌道(I)の方にかたよった位置に負荷して使用するようにするが、どれだけかたよらせるかはラジアル荷重、スラスト荷重、モーメント荷重等を考慮して軌道(I)および(II)の組合せ寿命が最大になるような位置とする。」(第4ページ左上欄第2行?左下欄第15行)

(オ)第7図及び上記記載事項(ウ)から、内輪(2)は、軸方向一方側の外周面に車両アウタ側のフランジ(4)を有し、軸方向他方側の外周面に軸方向二列の軌道溝(16)(15)を有していることが看取される。

(カ)第7図及び上記記載事項(ウ)から、外輪(1)は、内周面に上記内輪(2)の二列の軌道溝(16)(15)と径方向でそれぞれ対向する軸方向二列の軌道溝(14)(13)を有し、軌道溝(14)より軸方向他方側における外周面に車両インナ側のフランジ(3)を有していることが看取される。

(キ)第7図及び上記記載事項(ウ)から、外輪(1)の軌道溝(14)(13)と内輪(2)の軌道溝(16)(15)との間には複数のボール(6)(5)からなる二列のボール(6)(5)が介装されていることが看取される。

上記記載事項及び図面の記載からみて、甲第1号証には、「フランジ付ユニット軸受」の発明に関して、次の発明が記載されているものと認められる。
「軸方向一方側の外周面に車両アウタ側のフランジ(4)を有し、軸方向他方側の外周面に軸方向二列の軌道溝(16)(15)を有する一体形内輪(2)と、
内周面に上記内輪(2)の二列の軌道溝(16)(15)と径方向でそれぞれ対向する軸方向二列の軌道溝(14)(13)を有し、軌道溝(14)より軸方向他方側における外周面に車両インナ側のフランジ(3)を有する外輪(1)と、
外輪(1)の軌道溝(14)(13)と内輪(2)の軌道溝(16)(15)との間に介装された複数のボール(6)(5)からなる二列のボール(6)(5)とを含み、
負荷容量をさらに大きくするため外輪(1)の軌道溝(14)と内輪(2)の軌道溝(16)との間に形成されるフランジ(4)寄りの軌道(I)の直径を大きくして内輪(2)のフランジ(4)寄りの列のボール(6)の個数をさらに多く組み込めるようにした、フランジ付ユニット軸受。」(以下、「甲第1号証発明」という。)

6-2.甲第2号証(米国特許第5226737号明細書)

甲第2号証には、「Two row angular contact wheel bearing with improved load capacity」(高負荷容量の二列アンギュラコンタクト車輪軸受)に関して、図面とともに、次の事項が記載されている。なお、甲第2号証の翻訳文として、請求人が甲第2号証とともに提出した翻訳文を採用するが、翻訳文の解釈は別として、翻訳文そのものには当事者間の争いはない。なお、当該翻訳文は、表現を一部変更して整合させた。

(ク)「If a way could be found to enlarge the diameter of even one of the ball rows, without otherwise increasing the size of or weakening the hub or spindle, load capacity would be improved.・・・(中略)・・・Instead, the installation surface is designed to be at the inner limit of the envelope, which does maximize the space available between its pathway and the integral hub pathway that it faces, maximizing the size of the inboard ball row. However, the inboard ball row is thereby made smaller than the outboard ball row, unlike a conventional bearing.」(第1欄第66行?第2欄第25行)
(ハブあるいは主軸のサイズを大きくすることなく、またハブあるいは主軸を弱体化させることなく、ボール列の1つであってもその直径を拡大できる方法が見つかれば、負荷容量を高くすることができる。・・・(中略)・・・その代わり、設置表面は、支持限界の内部境界と一致するように設計されており、それにより、軌道と対面するハブと一体に設けられた軌道との間の空間を最大にすることができ、インボード側のボール列のサイズを最大にすることができる。しかしながら、そのために従来の軸受と異なり、インボード側のボール列が、アウトボード側寄りのボール列より小さく形成される。)

(ケ)「Referring to FIG. 1, a preferred embodiment of the angular contact, two row wheel bearing of the invention includes two main components, a cylindrical outer hub, indicated generally at (10), which coaxially surrounds a central spindle, indicated generally at (12).
Hub (10) would be bolted to a vehicle suspension not illustrated, so the basic dimensions of its outer surface (14) are already determined, and not alterable by a designer seeking to increase capacity.
Likewise, spindle (12) would be bolted to a standard driven wheel and a standard drive shaft would be inserted down its central tunnel (16), so its inner dimensions are already determined and inalterable.
Another design limitation is the radial thickness of hub (10) and spindle (12), which cannot be less than a certain minimum in order to handle the radial loads expected in operation.」(第2欄第51?66行)
(図1を参照すると、本発明のアンギュラ・コンタクト二列車輪軸受は、主軸を軸方向に囲む全体を(12)で示した部品と、全体を(10)で示された円筒形の外ハブの2つの主部品から成る。ハブ(10)は、車体懸架装置(図示なし)にボルト締めされるため、その外部表面(14)の基準寸法は既定であり、容量を増加させることを目的として設計変更することは不可能である。同様に、軸(12)は標準的な駆動車輪にボルト締めされ、その中央孔(16)に標準的な駆動軸が挿入される。したがって、その内寸法は既定であり、変更が不可能である。他の設計限界は、ハブ(10)及び主軸(12)の半径方向の厚みであり、運転中において予測される半径方向の負荷に対応するために、その最小値にはある程度限界がある。)

(コ)「Separable race ring (28) is ground of a material similar to spindle (12), and has a certain minimum thickness T, which is necessary for the structural integrity of the part. As a consequence, the space potentially available between the inboard pathways (24) and (30) is significantly less than S, and the diameter D_(2) of the the inboard row of balls (34) that can run between them is significantly less that D_(1). However, this diminution in ball size is necessitated by the general geometry of the hub (10), spindle (12), and by the way they are assembled, described below.」(第3欄第60行?第4欄第2行)
(分離可能な軌道輪(28)は、主軸(12)に同種の材料から形成され、部品の構造を一体化させるために必要な特定の最小限の厚さTを有する、その結果、インボード側の軌道(24)と(30)の間の潜在的に利用可能な空間は、Sよりかなり小さくなる、そして、軌道(24)と(30)の間を走行するインボード側のボール列(34)の直径D2は、D1よりかなり小さい。しかし、ボールのサイズにおけるこの縮小はハブ(10)と主軸(12)の一般的な形状寸法には不可欠であり、以下に記載するこれらの組み立てにとっても不可欠である。)

(サ)「Finally, separable race ring (28) is installed by press fitting its installation surface (32) tightly over spindle (12), which brings the other inboard pathway (30) up against inboard ball row (34). Finally, race ring (28) is fixed in place by a keeper ring (36) to create and maintain the desired preload and axial end play. 」(第4欄第20?26行)
(最後に分離可能な軌道輪(28)は、主軸(12)上の設置表面(32)に強固に圧入されることにより設置され、それによりインボード側のボール列(34)がもう一方のインボード側の軌道(30)に接する。最後に、必要な予圧および軸方向端面のあそびを維持するために、軌道輪(28)は、止め輪(36)により適所に固定される。)

(シ)「Variations in the preferred embodiment could be made. For example, either the hub (10) or spindle (12) could be the rotating, wheel carrying member. For example, if the wheel were nonpowered and attached to the hub (10), then the spindle (12) would not have to receive a drive shaft through its center, and so could be solid. In the event that the outer hub carried the wheel, and not the spindle, then the race ring (28) could be on the other side, carrying a pathway for the outboard ball row, not the inboard row, and the inboard ball row would be the larger diameter row.」(第4欄第58?68行)
(好適な実施形態を変更することも可能である。例えば、ハブ(10)あるいは主軸(12)のいずれかは、車輪支持部材とすることができる。例えば、もし車輪に動力を供給せずに、その車輪がハブ(10)に付けられる場合、主軸(12)はその中心に駆動軸を保持する必要がないので、中実にすることができる。軸でなく外側のハブに車輪が支持される場合、軌道輪(28)は、外側に(審決注:脱字の「に」を補った。)することができ、インボード側の列ではなく、アウトボード側のボール列の軌道を保ち、インボード側のボール列が大きな直径を有する。)

上記記載事項(ク)?(シ)及び図面の記載からみて、甲第2号証に記載された「高負荷容量の二列アンギュラコンタクト車輪軸受」の発明は、次の技術事項(A)?(C)を含むものと認められる。

(A)アンギュラ・コンタクト二列車輪軸受において、全体を(12)で示した主軸と、全体を(10)で示された円筒形の外ハブの2つの主部品からなり、ハブ(10)は、車体懸架装置にボルト締めされ、軸(12)は標準的な駆動車輪にボルト締めされ、インボード側のボール列(34)の直径D2は、アウトボード側のボール列(22)の直径D1よりかなり小さいものとする。この場合、図1から、ピッチ円直径は、インボード側とアウトボード側の転動体の直径が相違することに伴って大小関係が生じるようになっていることが看取される。
(B)ハブ(10)あるいは主軸(12)のいずれかは、車輪支持部材とすることができ、軸でなく外側のハブに車輪が支持される場合、軌道輪(28)は、外側にすることができ、インボード側の列ではなく、アウトボード側のボール列の軌道を保ち、インボード側のボール列が大きな直径を有する。
(C)分離可能な軌道輪(28)は、主軸(12)上の設置表面(32)に強固に圧入されることにより設置される。

6-3.甲第3号証(転がり軸受工学編集委員会編、「転がり軸受工学」、株式会社養賢堂、昭和51年5月20日第2版発行の表紙、目次、p.81?82、及び奥付けの写し)

甲第3号証には、「転がり軸受の剛性」に関して、次の技術事項(ス)及び(セ)が記載されている(以下、句読点を適宜変更して表記した)。

(ス)「転がり軸受で支えられた軸系は外力によりたわみや振動を起こす。これには転がり軸受の剛性が軸の剛性とともに影響する。たとえば、高速回転軸の危険速度には、軸剛性のほかに軸受の半径方向剛性も影響する。工作機械主軸は加工精度の向上や振動防止のため軸受剛性を高める必要がある。自動車の差動歯車系では、たわみが大きいと歯車のかみ合いに悪影響が出るため高い軸受剛性が必要である。」(第81ページ本文第1?5行)

(セ)「軸系中で使われている軸受の剛性を高めたい場合には、軸受の内部設計を変える方法、その使い方を考慮する方法がとられる。内部設計から剛性を上げるには、
(a)転がり接触部の変形を小さくする。
(b)転がり接触部の変形量が軸受の変位量に変換されるとき、後者が小さくなる形をとる。
(a)は玉径、軌道溝半径やころ径、ころ長さと転動体数に関係し、一般に、小さい転動体を多数使う方がよい。(b)では軸受の接触角を変え、転動体と内外輪の接点を結ぶ方向を外部荷重の方向に近づけることが行われる。使い方では、つぎを利用する。
(a)転がり接触部の剛性は荷重の増加で高まる。
(b)軸受剛性は荷重を支えている転動体数が多いほど高い。」(第81ページ本文第16?25行)

6-4.甲第4号証(米国特許第4958944号明細書)

甲第4号証には、「BEARING FOR WHEEL MOUNT」(車輪用転がり軸受)に関して、次の事項が記載されている。

(ソ)図面から、車輪用転がり軸受は、外輪部材(1)の内周面に直径の異なる2つの外輪軌道(1")を有し、直径が大きな外輪軌道(1")と直径が小さな外輪軌道(1")との間に、大径側から小径側に向かって連続的に内径が変化する径変化部分を有していることが、看取される。

6-5.甲第5号証(特開平11-151904号公報)

甲第5号証には、「車輪用転がり軸受ユニット」に関して、次の事項が記載されている。

(タ)「【0039】次に、図11は、請求項4に対応する、本発明の実施の形態の第8例を示している。本例の場合には、ハブ4dの内端寄り部分で内輪6を外嵌固定する部分の外径D_(4) を、このハブ4dの中間部で第一の内輪軌道11を形成した部分の外径D_(11)よりも大きく(D_(4) >D_(11))している。従って本例の場合には、上述した第1?7例の場合に比べても、上記第一の内輪軌道11の直径を上記内輪6の外周面に形成した第二の内輪軌道12の直径に比べて、より小さくできる。又、外輪1の外端開口部と上記ハブ4dの中間部外周面との間をシールする為のシールリング14aを、このハブ4dの中間部外周面に外嵌固定している。このシールリング14aは、このハブ4dの中間部に外嵌固定する芯金62と、この芯金62の外周面及び内側面に添着した弾性材製のシールリップ63とから成る。このシールリップ63の先端縁は、上記外輪1の外端開口部に嵌合固定したスリンガ64の内周面及び外側面に摺接させている。上記ハブ4dの中間部で上記シールリング14aを外嵌固定する部分の外径D_(14)は、上記内輪6を外嵌固定する部分の外径D_(4) 以上(D_(14)≧D_(4) )として、上記シールリング14aを上記内輪6を外嵌固定する部分を通過させられる様にしている。」

(チ)図11に記載された転がり軸受は、外輪1の内周面に、大径の外輪軌道3bと小径の外輪軌道3aが形成され、大径側から小径側に向かって連続的に内径が変化する径変化部分を有していることが看取される。

(ツ)上記記載事項(タ)及び図11の記載からみて、車輪用転がり軸受ユニットの内輪6は、ハブ4dの内端寄り部分で外嵌固定されていることが看取される。

7.無効理由に対する当審の判断

7-1.本件発明1について

(1)対比

本件発明1と甲第1号証発明とを対比すると、甲第1号証発明の「一体形内輪(2)」は、その機能からみて、本件発明1の「内輪部材」に相当し、以下同様に、「外輪(1)」は「外輪部材」に相当し、「ボール(6)(5)」は「玉」または「転動体」に相当し、「二列のボール(6)(5)」は「軸方向二列の第1、第2転動体群」に相当し、「フランジ付ユニット軸受」は「転がり軸受装置」に相当する。
そうすると、甲第1号証発明の「軸方向一方側の外周面に車両アウタ側のフランジ(4)を有し、軸方向他方側の外周面に軸方向二列の軌道溝(16)(15)を有する一体形内輪(2)」は、該一体形内輪(2)がハブ軸としての機能も有するものであることから、ハブ軸の軸方向他端側の内輪が外周面に一体回転可能に嵌合装着されたものではない点を相違点として別途検討することとすると、少なくとも、「軸方向一方側の外周面に車両アウタ側のフランジを有するハブ軸と、前記ハブ軸に軸方向二列の第1、第2内輪軌道面を有する内輪部材」である限りにおいて本件発明1と共通するものである。
甲第1号証発明の「内周面に上記内輪(2)の二列の軌道溝(16)(15)と径方向でそれぞれ対向する軸方向二列の軌道溝(14)(13)を有し、軌道溝(14)より軸方向他方側における外周面に車両インナ側のフランジ(3)を有する外輪(1)」は、実質的に、本件発明1の「内周面に前記内輪部材の二列の第1、第2内輪軌道面と径方向でそれぞれ対向する軸方向二列の第1、第2外輪軌道面を有し、前記第1外輪軌道面より軸方向他方側における外周面に車両インナ側のフランジを有する外輪部材」に相当するものである。
甲第1号証発明の「外輪(1)の軌道溝(14)(13)と内輪(2)の軌道溝(16)(15)との間に介装された複数のボール(6)(5)からなる二列のボール(6)(5)」は、実質的に、本件発明1の「前記外輪部材の第1、第2外輪軌道面と前記内輪部材の第1、第2内輪軌道面との間に介装される複数の玉からなる軸方向二列の第1、第2転動体群」に相当するものである。
さらに、甲第1号証発明の「負荷容量をさらに大きくするため外輪(1)の軌道溝(14)と内輪(2)の軌道溝(16)との間に形成されるフランジ(4)寄りの軌道(I)の直径を大きくして内輪(2)のフランジ(4)寄りの列のボール(6)の個数をさらに多く組み込めるようにした」構成は、軸受負荷中心間距離と転動体の直径の大小関係を相違点として別途検討することとすると、少なくとも、「前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間において、車両アウタ側の前記第1転動体群のピッチ円直径D1と、車両インナ側の前記第2転動体群のピッチ円直径D2との関係がD1>D2に設定され、前記第1転動体群の転動体の数が、前記第2転動体群の転動体の数よりも多く」した限りにおいて本件発明1と共通するものである。

したがって、本件発明1の用語にならってまとめると、両者は、
「軸方向一方側の外周面に車両アウタ側のフランジを有するハブ軸と、前記ハブ軸に軸方向二列の第1、第2内輪軌道面を有する内輪部材と、
内周面に前記内輪部材の二列の第1、第2内輪軌道面と径方向でそれぞれ対向する軸方向二列の第1、第2外輪軌道面を有し、前記第1外輪軌道面より軸方向他方側における外周面に車両インナ側のフランジを有する外輪部材と、
前記外輪部材の第1、第2外輪軌道面と前記内輪部材の第1、第2内輪軌道面との間に介装される複数の玉からなる軸方向二列の第1、第2転動体群とを含み、
前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間において、車両アウタ側の前記第1転動体群のピッチ円直径D1と、車両インナ側の前記第2転動体群のピッチ円直径D2との関係がD1>D2に設定され、
前記第1転動体群の転動体の数が、前記第2転動体群の転動体の数よりも多い、
転がり軸受装置。」
である点で一致し、以下の点で相違する(審決注:「2列」は、適宜「二列」に表記を統一した。以下、同じ。)。

[相違点1]
内輪部材について、本件発明1は、ハブ軸の「軸方向他方側の外周面に一体回転可能に嵌合装着された内輪とからなり、前記ハブ軸の軸方向他方側の外周面および前記内輪の外周面」に軸方向二列の第1、第2内輪軌道面を有するものであるのに対し、甲第1号証発明は、一体形内輪(2)の軸方向他方側の外周面に軸方向二列の軌道溝(16)(15)を有するものである、すなわち、内輪(2)に軸方向二列の軌道溝(16)(15)を一体的に形成したものである点。

[相違点2]
本件発明1が、「前記第1、第2転動体群の転動体の直径が同じ場合に比べて、さらに軸受負荷中心間距離の増大を図るように、前記第1転動体群の転動体の直径が、前記第2転動体群の転動体の直径よりも小さく」したのに対し、甲第1号証発明は、転動体(二列のボール(6)(5))の直径の大小関係が明らかではなく、図面からは同一に見える点。

[相違点3]
本件発明1が、「前記外輪部材の内周面の第1外輪軌道面と第2外輪軌道面との間に、第1外輪軌道面よりも小径となるように連続的に内径が変化する径変化部分を有している」のに対し、甲第1号証発明は、上記径変化部分の具体的構成が明らかではない点。

(2)判断

(2-0)転がり軸受装置の技術水準について
本件発明1と甲第1号証発明の相違点を検討するにあたって、甲各号証から把握できる転がり軸受装置の負荷容量・剛性・寿命及び基本構造(型式)に関する技術的、力学的、又は幾何学的観点からみた技術水準又は技術常識を転がり軸受装置に関する基本的事項として整理すると、その概要は以下のとおりである。(甲各号証の技術用語の後の[ ]内の用語は、本件訂正明細書において用いられている表現である。)
(i)「ホイール軸受[転がり軸受装置]に要求される基本的な性能として寿命、剛性が挙げられる。」(甲第22号証の第52ページ右欄中段)
(ii)「作用点間距離[軸受負荷中心間距離]は、軸受の内部諸元により幾何学的に求まる。作用点間距離をSとすると、
S=DM・tanα+L
ここで、L:球心距離
DM:ボールのピッチ円直径
α:接触角
・・・(中略)・・・
(1)トータルでの外輪肉厚を薄くできることから、DMを大きくできる。
(2)軸シール内蔵タイプにすることで、Lを大きくすることができる。
その結果作用点間距離を大きくすることが可能、言い換えれば、剛性を大きくすることが可能となる。」(甲第22号証の第53ページ左欄中段(審決注:丸数字の1、2をそれぞれ(1)、(2)と表記した。))
(iii)「耐モーメント剛性は、軸受の作用点間距離S[軸受負荷中心間距離]が長く、軸方向及び径方向の支持剛性が高いほど有利となる。」(甲第23号証第20ページ左欄下段)
(iv)「同一空間内で軸受のスパン[軸受負荷中心間距離]を広く採る設計が可能と」なれば、「軸受剛性を大きく向上させることが可能となる。」(甲第14号証の段落【0011】)
(v)「同一空間内で内部諸元を変更し、転動体個数を増加させて軸受剛性を向上させたり、外方部材[外輪部材]の肉厚やフランジの肉厚を最適化して外方部材の変形を抑え、軸受剛性を向上させることが可能となる。」(甲第14号証の段落【0011】)
(vi)「ハブユニット軸受50[転がり軸受装置]の耐久性や寿命を向上させるためには、ボール54[転動体]の径の大径化、ボール54のPCD[ピッチ円直径]拡大、ボール54間のスパン[軸受負荷中心間距離]拡大、等で対応することが可能である。」(甲第11号証の段落【0006】)
(vii)「軸受の内外輪または転動体のいずれかにこの疲れによるはく離がおこりはじめるまでの総回転数を、与えられた一定荷重のもとにおける寿命とよぶ。」(甲第8号証第123ページ中段)
(viii)「一般的にボール数[転動体数]が多いほど剛性は向上するが、動定格荷重は低下する。」(甲第22号証の第54ページ左欄中段)
なお、甲第22号証の第54ページの図6から、ボール数に対する動定格荷重と剛性の関係は、逆の相関を有していることが把握される。
(ix)甲第8号証第126ページ上段の式(3.56)から、寿命Lは、軸受の基本負荷容量C(審決注:「動負荷容量」として捉えられる。以下、同じ。)が一定の条件において、荷重Pを下げると寿命が延びることが把握される。
(x)甲第8号証の第128ページ「(i)転動体の直径,d」の項の式、及び同第128ページ「(ii)一列中の転動体数,Z」の項の式(第129ページ)から、基本負荷容量Cは、転動体の直径の1.8乗に比例し、転動体数の2/3乗に比例することが把握される。
(xi)甲第3号証の上記記載事項(セ)から、転がり軸受の剛性、すなわち、軸受荷重に対する内外輪の間の相対変位量の関係は、主として、点接触や線接触部の変形によって与えられ、その変形は甲第8号証の第117ページの式(3.42)によれば、転動体数(Z)の2/3乗の逆数に比例し、転動体の直径(d)の1/3乗の逆数に比例することから、剛性は転動体数(Z)の2/3乗に比例し、転動体の直径(d)の1/3乗に比例するものと解される。
(xii)上記(x)及び(xi)から、基本負荷容量と軸受の剛性は、いずれも転動体の直径と個数に影響されるものであるが、基本負荷容量においては転動体の直径の影響が大きく、軸受の剛性においては転動体の個数の影響が大きいことが理解できる。
(xiii)「第2世代ハブユニットは外輪回転タイプと内輪回転タイプに大別される。外輪回転タイプは・・・。これに対し内輪回転タイプは、外輪に一体化されたフランジ部をナックル(車体側)に取り付け、内輪に圧入嵌合されたハブシャフトにホイールを取り付けて使用するタイプで、駆動輪にも従動輪にも使用されている。・・・
第3世代ハブユニットは内輪回転タイプ第2世代ハブユニットのアウタ側内輪とハブシャフトを一体化した形状で、よりユニット化が進んだ構造となっている。」(甲第22号証の第52ページ右欄上段と左欄の図1)
(xiv)甲第23号証の第21ページの図8には、第1世代?第4世代の転がり軸受装置の構造図とともにその特性が記載されている。特に、第3世代を示す構造図は、左側に「分離内輪付」、右側に「内輪一体型」が示されており、当該分離内輪付は、甲第22号証に記載された第3世代ハブユニットと同様に内輪回転タイプ第2世代ハブユニットのアウタ側内輪とハブシャフトを一体化した形状を有しており、当該内輪一体型は、アウタ側内輪及びインナ側内輪をハブシャフトに一体化した形状を有している。
(上記(i)?(xiv)を、以下、それぞれ「基本的事項(i)?(xiv)」という。)

(2-1)相違点1について
転がり軸受装置において、第1世代?第4世代の型式的な構造は広く知られており(上記基本的事項(xiv))、当該転がり軸受装置の用途が駆動輪か従動輪かといった使用条件や必要な負荷容量、剛性、モーメント剛性、寿命などの仕様に応じて、設計上の観点から甲第22号証の図1や甲第23号証の図8に記載された型式ないし構造を選択することは、当業者が通常の創作活動として行っていることである。そして、転がり軸受装置の内輪についても、甲第23号証の図8の「第3世代」の図にあるように、車両アウタ側と車両インナ側の内輪の双方をハブシャフトに一体的に形成したり、車両アウタ側の内輪をハブシャフトに一体化するとともに車両インナ側の内輪は嵌合装着することも設計上の観点から当業者が適宜行っていることである。
そうすると、内輪をハブ軸の機能も含めて一体的に形成して内輪部材とするか、内輪を別体として形成してハブ軸に嵌合装着して組み込むことにより一体化して内輪部材とするかは、組み込む転動体の必要数や組み立ての手段を考慮して、当業者が設計上の観点から決定できる事項であるものと解される。換言すれば、設計上の観点から、一つの部材で内輪とハブ軸が有する機能を共有することによって、部品点数を減少させることによるメリットを得るか、逆に、機能ごとに特化した内輪とハブ軸を個別に用意することによって、部品点数の増加によるデメリットはあっても、組付けの容易性や機能ごとの設計変更等への対応の便宜を図るといった程度のことは、当業者が適宜選択できるところ、転がり軸受装置において、内輪を別体として形成してハブ軸に嵌合装着して組み込むことにより内輪部材とすることは、適宜行われている周知事項(甲第2号証に記載された発明は、転がり軸受の内輪に相当する軌道輪(28)が別体として形成され、主軸(12)に嵌合装着されて組み込まれ(上記技術事項(C))、甲第5号証に記載された発明は、内輪(6)がハブ(4d)に嵌合されて一体化され(上記記載事項(ツ))、甲第17号証に記載された発明は、内輪50が車軸14に嵌合されている(第4ページ左上欄第7、8行参照)。)であるから、甲第1号証発明に上記周知事項を適用して上記相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到できたことである。

(2-2)相違点2について
まず、本件発明1の課題について検討するに、本件特許明細書には次のような記載がある。
(あ)「【0005】
したがって、本発明は、狭隘な車体に対して、装置を大型化させることなく高剛性化を図れる構造でもって、転がり軸受装置の長寿命化を図れるようにすることを解決課題とする。」
(い)「【0014】
このような構成とした場合、上記作用、効果に加えて、転動体群の直径が小さく設定されており、それに伴い、転動体の周方向の介装数が多く設定されている。その結果、転がり軸受装置の剛性をさらに向上させることができる。」
(う)「【0026】
これらの距離L_(1),L_(2)は、軸受負荷中心間距離を示しており、これらL_(1),L_(2)が大きいほど、転がり軸受装置100の剛性が大きくなる。したがって、D1>D2に設定することにより、軸受負荷中心間距離が増大し、転がり軸受装置100の剛性を向上させることができ、ひいては転がり軸受装置100の長寿命化につながる。
【0027】
ところで、D1>D2に設定すると、当該玉群4の周方向における介装スペースが増大する。その分、玉群4の介装数を増やすことにより、玉4の一個当たりの荷重を分散することができるので、転がり軸受装置100の剛性および寿命をさらに向上させることができる。」
(え)「【0042】
さらに、以上のように車両アウタ側の玉4の直径を小さくすることにより、上記実施形態に比べてさらに車両アウタ側の玉群4の周方向における介装数を増やすことができる。図5に示すように、玉4の直径を小さくすると、周方向に隣り合う玉4同士の配置間隔を狭めることができるので、玉4の介装数を増やすことができる。これにより、玉一個当たりの荷重を分散することができ、転がり軸受装置100の剛性がさらに向上する。
【0043】
ただし、玉4の直径を小さくするにつれ、転がり軸受装置100の剛性は向上するものの、寿命は低下する傾向にある。そのため、玉4の直径は、従来例に比べて転がり軸受装置100の寿命が低下しない範囲で適切に設定する必要がある。」
(お)「【0047】
試料3では、玉4の直径を玉5の直径の75%としており、玉4の介装数を21個としている。この場合、従来例との比較で、剛性は82%と向上している。しかし、寿命は、従来例との比較で、玉5側が117%と向上しているのに対して、玉4側が78%と低下している。
【0048】
以上より、玉4の直径の下限値は、D1=73mmとしたとき、玉5の直径の81%、すなわち約10.32mmとするのが好ましく、さらには、玉4の直径を約10.32mm、玉4の介装数を20個に設定すると、極めて剛性が高く、しかも長寿命な転がり軸受装置100とすることができる。」
(か)「【0066】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の転がり軸受装置によれば、車輪が取り付けられる内輪部材のフランジと、車体に固定される外輪部材のフランジとの間にできる自由空間を有効利用して車両アウタ側の転動体のピッチ円直径を大きく設定している。これにより、装置の大型化を避けつつ各列の転動体の軸受負荷中心間距離を増大させると同時に、転動体の介装数を多くすることができる。その結果、転がり軸受装置の剛性が向上し、その長寿命化を図ることができる。」

以上の記載から、本件発明1は、転がり軸受装置の寿命とは無関係に剛性を向上させることを課題としたものではなく、転がり軸受装置の寿命も十分に考慮した上で剛性に着目したものと解される。このことは、上記記載事項(う)の「転がり軸受装置100の剛性を向上させることができ、ひいては転がり軸受装置100の長寿命化につながる」及び上記記載事項(か)の「その結果、転がり軸受装置の剛性が向上し、その長寿命化を図ることができる。」の記載や、上記記載事項(お)において試料3の剛性が最も高くなったにもかかわらず、寿命の観点から、「以上より、玉4の直径の下限値は、D1=73mmとしたとき、玉5の直径の81%、すなわち約10.32mmとするのが好ましく」としていることとも整合するものである。
他方、甲第1号証発明は、上記記載事項(エ)に記載された「第7図の実施例ではこの負荷容量をさらに大きくするため軌道(I)の直径を大きくしてボール(6)の個数をさらに多く組み込めるようにした」ものであることから、負荷容量に着目しているが、同記載事項(エ)の「したがって、第7図の実施例の軸受全体の負荷容量は第1図のそれに比較してさらに大きくなっている。たゞし、第7図の実施例の軸受を使用するときは車輪からの荷重は第1図の実施例の場合よりもさらに軌道(I)の方にかたよった位置に負荷して使用するようにするが、どれだけかたよらせるかはラジアル荷重、スラスト荷重、モーメント荷重等を考慮して軌道(I)および(II)の組合せ寿命が最大になるような位置と」していることは、軌道(I)と(II)の位置によって転がり軸受装置の負荷容量及びモーメント剛性が変化し、その両者の影響による寿命が変化することを考慮していることにほかならないから、結局、甲第1号証発明は、転がり軸受装置の負荷容量に着目しつつ、剛性にも配慮して転がり軸受装置を長寿命化することを課題の本質としているものと解される。そうすると、本件発明1と甲第1号証発明は、転がり軸受装置の寿命を従来に比べて向上させることを課題としている点においては共通するものであり、その課題を実現するために本件発明1は剛性に着目し、甲第1号証発明は負荷容量に着目したものといえる。
ところで、転がり軸受装置には、その使用条件に応じて、ラジアル荷重、スラスト荷重、及びモーメント荷重が作用することは、甲第1号証の記載事項(イ)にも示唆されているように、広く知られた技術常識であり、想定されるラジアル荷重、スラスト荷重、及びモーメント荷重の大小に応じて必要とされる負荷容量やモーメント剛性は、上記基本的事項(i)?(xiv)などに基づいて力学的、幾何学的に計算することができるばかりでなく、実験やシミュレーションなどによって容易に確認ができることである。したがって、寿命を向上させるために、ラジアル荷重、スラスト荷重、及びモーメント荷重との関連において、負荷容量に重点を置いて設計するか、剛性に重点を置いて設計するかは、転がり軸受装置を使用する車両が、高速車両か低速車両か、大型車両か小型車両か、などに応じて、上記のそれぞれの荷重がどのような条件で付加されるかを分析・検討して決定できる設計事項であるということができる。そして、甲第1号証発明は、当該設計事項の範ちゅうにおいて負荷容量に着目して転がり軸受装置の長寿命化を図ったものといえるが、そのために車両アウタ側のピッチ円直径を大きくしていることは、ピッチ円直径に伴って軸受負荷中心間距離(本件特許の願書に添付した図面の図2のL_(1)、L_(2)に相当する。)も大きくなっているから、甲第1号証発明は、上述の軌道(I)と(II)の位置を考慮することに加えて、ピッチ円直径を大きくした点において転がり軸受装置の負荷容量だけでなく剛性も向上させて寿命の向上を図っているものと解される。これらのことからも、甲第1号証発明と本件発明1とは、着目した具体的な課題に差異があるとはいえ、寿命に配慮して転がり軸受装置の機能を向上させるという課題は共通しているということができる。

次に、転がり軸受装置を設計するにあたり、転がり軸受を単体でみたときの転動体(以下、「玉」又は「ボール」を「転動体」と称する。)の「直径」と「個数」が、「負荷容量」と「剛性」にどのように影響するかについて検討するに、請求人及び被請求人の主張は、それぞれ平成21年12月3日付けの陳述要領書からみて、以下の2点で一致している。
(1)転がり軸受の剛性は、転動体の「個数」の方が、転動体の「直径」よりも影響が大きい。
(2)これとは逆に、転がり軸受の負荷容量は、転動体の「直径」の方が、転動体の「個数」よりも影響が大きい。
すなわち、請求人が提出した甲第3、8号証、被請求人が提出した乙第1、2号証から、転がり軸受の負荷容量、剛性、及び寿命は、転動体の直径、ピッチ円直径、及び個数を基本的な要素として変化するものであり、これらの大きさや個数をさまざまに組み合わせるシミュレーションによって、設計上あるいは計算上の予測が可能であることが理解できる。さらに、甲第3号証には、単体の転がり軸受についてではあるが、「内部設計から剛性を上げるには、(a)転がり接触部の変形を小さくする。・・・(a)は玉径、軌道溝半径やころ径、ころ長さと転動体数に関係し、一般に、小さい転動体を多数使う方がよい。」(上記記載事項(セ))と記載されていることに照らせば、単体の転がり軸受の剛性と負荷容量は、転動体の直径、軌道溝半径(すなわち、ピッチ円直径)、及び個数に関連し、そのうちの剛性は、転動体の「個数」の方が、転動体の「直径」よりも影響が大きいことは上述のとおりである。そうすると、このような転がり軸受を二列の転動体群を有する転がり軸受装置として構成するにあたって、転がり軸受装置の使用条件や要求される仕様に応じて、単体の転がり軸受における転動体の直径、ピッチ円直径、及び個数を考慮しつつ、当該転がり軸受を軸方向に二列配置して転がり軸受装置としたときの負荷容量、剛性、及び寿命を設計し、必要に応じて設計上の値ないし最適値やそれぞれの特性の重み付けを決定することは当業者の通常の創作能力の発揮ということができる。このうち、転がり軸受装置としての剛性は、構造上、各列の転がり軸受の剛性と転がり軸受装置全体のモーメント剛性によって評価されるものであって、転動体の直径や個数及び二列の転動体の間隔ないし軸受負荷中心間距離などに関わるものであるところ、当該剛性に着目することは、例えば、甲第10号証の段落【0007】、【0030】、甲第11号証の段落【0006】、【0020】、甲第12号証の段落【0024】、甲第13号証の段落【0011】、【0016】、【0017】、甲第14号証の段落【0008】、【0011】、【0024】、甲第15号証の段落【0003】、【0046】、及び甲第16号証の段落【0004】などにみられるように、周知事項であるから、甲第1号証発明の寿命を向上させるために転がり軸受装置の剛性を高めることも必要に応じて当業者が試みる動機がある。
そして、甲第2号証をみると、ハブ(10)あるいは主軸(12)のいずれかを車輪支持部材とすることができることが記載されており(上記甲第2号証の技術事項(B))、このことは、甲第2号証の図1のハブ(10)に車輪を取り付けることも適宜実施できることが示唆されているものと解される。この場合には、甲第2号証に記載された転がり軸受装置は、車両アウタ側、すなわち車輪側の軌道(24)と軌道(30)に直径の小さな転動体が支持され、車両インナ側、すなわち車体側の軌道に直径の大きな転動体が支持されるとともに、そのピッチ円直径は、幾何学的に、車両アウタ側が大きく車両インナ側が小さくなる。このことから、甲第2号証には、転がり軸受装置において、その転動体とピッチ円直径は、設計上の必要に応じて車両アウタ側と車両インナ側で適宜大小関係を変更することができるという技術事項が示唆されているものと解される。
ところで、上記相違点2に係る本件発明1の構成は、上記2-2.(1)で述べたとおり、外輪の軌道面の直径を一定に維持したまま転動体を小さくすることに加えて、転動体と軌道面の接触角を一定の角度に保ち、かつ、内輪の直径を転動体の直径の変化に追従して大きくすることによってピッチ円直径D1を大きくするという条件において特定されるものであるところ、本件特許明細書及び図3、図4からは、車両アウタ側の転動体の直径を小さくすることによって、結果的に軸受負荷中心間距離が増大することは理解できるものの、本件特許明細書には上記条件について何ら記載されていない。さらに、本件特許明細書の段落【0044】?【0048】及び表2に本発明の実施形態として記載されている試料1?3は、軸受負荷中心間距離を「剛性、寿命ともに最も向上するD1=73mmに設定し」たものであり、転動体の直径を小さくしても軸受負荷中心間距離は一定のまま変化しないものであるから、「軸受負荷中心間距離の増大を図るように」転動体の直径を小さくする構成の実施形態にはなっていないばかりでなく、当該試料1?3の試験結果もこれらの構成に基づく特性を裏付けるものではない。また、「前記第1転動体群の転動体の直径が、前記第2転動体群の転動体の直径よりも小さく」という構成は、単に第1転動体と第2転動体の大小関係を特定するものであって、一方の転動体がある特定の基準となる大きさを有し、他方の転動体をその基準に対して小さくしたというものではないから、甲第2号証に記載された車両アウタ側と車両インナ側の転動体が相対的に大小関係を有する構成と構成上の差異はない。そうすると、上記相違点2に係る本件発明1の構成は、甲第1号証発明に対して、上記周知事項に挙げた剛性に着目して、上記基本的事項(ii)?(iv)に記載されている作用点間距離又は軸受負荷中心間距離を大きくするための幾何学的関係を考慮して甲第2号証の技術事項を適用したにすぎないということができる。
以上の理由により、甲第1号証発明において、上記周知事項に例示した転がり軸受装置の剛性に着目し、上記基本的事項を考慮しながら甲第2号証に記載された技術事項を適用することにより、上記相違点2に係る本件発明1の構成とすることは当業者が容易に想到できたことである。

(2-3)相違点3について
転がり軸受装置において、車両アウタ側の転動体群のピッチ円直径と車両インナ側の転動体群のピッチ円直径の大きさが異なる場合、外輪部材の車両アウタ側の内周面の軌道面と車両インナ側の内周面の軌道面との間をどのような形状に形成するかは、当業者が適宜決定できる設計事項であるところ、車両アウタ側と車両インナ側の転動体群のピッチ円直径の大小関係は別にして、上記形状をピッチ円直径の大きな軌道面からピッチ円直径の小さな軌道面の方向に小径となるように連続的に内径が変化する径変化部分を設けたものは、甲第4号証の記載事項(ソ)及び甲第5号証の記載事項(チ)に記載されていることに照らせば、甲第1号証発明に、甲第4号証に記載された発明又は甲第5号証に記載された発明を適用して上記相違点3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到できたことである。
なお、この点について付言するに、上記相違点3に係る本件発明1の構成は、審査の過程における平成20年4月30日付けの拒絶理由の通知に応答して平成20年7月7日付けの手続補正によって追加されたものであり、その補正の根拠は、「願書に最初に添付された明細書中、段落0027の記載事項『ところで、D1>D2に設定すると、当該玉群4の周方向における介装スペースが増大する。その分介装数を増やすことにより、玉4の一個当たりの荷重を分散することができる』や、図面の図1?図8には、『外輪部材1の内周面の第1外輪軌道面12と第2外輪軌道面13との間に、第1外輪軌道面12よりも小径となるように連続的に内径が変化する径変化部分を有していること』が認められることに基づく補正であって、新規事項を追加するものではありません。」(平成20年7月7日付け意見書の「【意見の内容】(3)補正の根拠など」の項参照)というものであるが、上記明細書の段落0027からは上記構成を把握することはできず、結局、上記補正は図面の記載を根拠にしたものといわざるを得ない。
そうすると、上記構成は、明細書に記載はないが新規事項でもない以上、図1?図8の図面に記載された構造から「自明な事項」でなければならず、自明な事項といえるためには「当初明細書等に記載がなくても、これに接した当業者であれば、出願時の技術常識に照らして、その意味であることが明らかであって、その事項がそこに記載されているのと同然であると理解する事項でなければならない」(審査基準第III部第I節新規事項3.(3)を参照)ことから、上記構成と同様の構成を有する上記甲第4号証又は甲第5号証に記載された発明と異なるような格別の技術的意義は認められない。

(2-4)効果について
転がり軸受装置が奏する基本的特性は、ラジアル荷重、スラスト荷重、及びモーメント荷重が作用する使用条件や要求される仕様に基づいて設計される構造、転動体の直径、ピッチ円直径、個数、軸負荷中心間距離等を用いた計算やシミュレーションなどによって予測可能なものであるところ、本件発明1が甲第1?5号証に記載された発明及び上記周知事項から当業者が予測できないような効果を奏するとは認められない。

(3)小括
したがって、本件発明1は、甲第1?5号証に記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

7-2.本件発明2について

(1)対比
本件発明2と甲第1号証発明を対比すると、上記一致点で一致し、上記相違点1?3に加えてさらに以下の点で相違している。

[相違点4]
本件発明2は、前記D1と前記D2との関係が、D1≦1.49×D2に設定されているのに対し、甲第1号証発明は、上記D1相当するピッチ円直径と上記D2に相当するピッチ円直径の比率が明らかではない点。

(2)判断
上記相違点1?3については上記7-1.において検討したので、上記相違点4について以下に検討する。
転がり軸受装置の使用条件や要求される仕様に応じて転動体の直径、ピッチ円直径、及び個数を考慮した負荷容量、剛性、及び寿命を予測し、必要に応じて設計上の最適値を決定することは当業者の通常の創作能力の発揮であることは上記に説示したとおりであり、具体的に車両アウタ側と車両インナ側のピッチ円直径の大小関係をどの程度にするかは、設計事項にすぎない。そして、上記数値についてみても、本件特許明細書には上記1.49の値を境にして特性が急変したり極大化するといった臨界的意義は何ら記載されていない。
よって、相違点4に係る本件発明2の構成は、甲第1号証発明に、甲第2号証に記載された発明を適用するにあたって、ピッチ円直径の最適値を見いだすことにより当業者が容易に想到できたものである。

(3)小括
したがって、本件発明2は、甲第1?5号証に記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

7-3.被請求人の主張に対して

(1)被請求人は、甲第1号証発明は、内輪が一体化して内輪部材として特有の組立方法を採用したものであるから、軸受負荷中心間距離を増加させてモーメント剛性の向上を図るという思想はまったくないと主張している。
確かに、転がり軸受装置において、上記基本的事項が知られてなく、剛性を向上することが新規の課題であれば、甲第1号証の構造に拘泥せざるをえないが、上述のとおり、上記基本的事項は技術水準として広く知られ、剛性を向上することもごく一般的な課題であり、当該技術分野においては転がり軸受単体の技術を含めて基本的な技術は適宜相互に融通して適用されていることに照らせば、甲第1号証発明が内輪が一体化して内輪部材として特有の組立方法を採用したものであっても、上記周知事項や上記基本的事項は転がり軸受装置の設計変更にあたっては適宜組み合わせて用いられる基礎的な技術であって、これらを適用することを妨げる事情もない以上、上記被請求人の主張は採用の限りでない。

(2)被請求人は、設計の容易さや生産コスト低減の観点から、上記転がり軸受の構造は、左右対称ないし同一のピッチ円直径(PCD)及び玉径で作るというのが技術常識であることを主張している。
確かに、実際に商業生産ないし量産するにあたっては設計の容易さや生産コスト低減は重要な観点であるが、当業者の通常の創作活動や技術的創作はこれらの観点には何ら制限されることなく行われていることは明らかであり、車両アウタ側のピッチ円直径を車両インナ側より大きくするという技術事項は甲第1号証に開示され、車両アウタ側と車両インナ側に玉径の異なる転動体を用いる技術事項は甲第2号証に開示されている以上、これらの技術事項に接した当業者であれば、当該転がり軸受装置の用途が駆動輪か従動輪かといった使用条件や必要なモーメント剛性などの仕様に応じてこれらを適宜組み合わせて設計変更する程度のことは上記基本的事項に照らして容易に想到できたことである。

(3)被請求人は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明は、いずれもモーメント剛性を高くするという技術思想は全く考慮されていないと主張している。
しかしながら、本件発明1は、甲第1号証発明と着目した具体的課題に差異があるとはいえ、寿命に配慮して転がり軸受装置の機能を向上させるという課題は共通しているものであることは7-1.(2-2)に述べたとおりであるが、仮にそうでないとしても、転がり軸受装置を設計するにあたってモーメント剛性に配慮することは、上記基本的事項及び周知事項に例示したとおり、きわめて一般的な課題にすぎない以上、これを甲第1号証発明に適用できない事情はないものと解される。

(4)被請求人は、甲第3号証に記載された転がり軸受は単体であって、当業者は両列の玉径を同じく小さくするという構成しか想到し得ないと主張している。
しかしながら、上記7-3.(2)に示したとおり、この点の主張は採用できない。

(5)被請求人は、甲第4又は5号証発明には、車両アウタ側の転動体群の直径を小さくして軸受負荷中心間距離を大きくする技術思想は開示されていない旨を主張している。
確かに、甲第4又は5号証発明には軸受負荷中心間距離を大きくする技術思想は開示されていないが、モーメント剛性を高くすることは上記基本的事項及び周知事項に例示したとおりきわめて一般的な課題であり、甲第1?5号証に接した当業者にとって、当該課題に基づいてその具体的構成を検討することは、力学的・幾何学的な設計事項にすぎない。

(6)被請求人は、甲第1号証発明には、左右2列の玉径を異ならせることに阻害要因があり、2列の玉のうちの一方の玉径を他方より小さくする動機付けもない旨を主張している。
しかしながら、転がり軸受装置を設計するにあたってモーメント剛性に配慮することは、上記基本的事項及び周知事項に例示したとおり、きわめて一般的な課題にすぎないから、甲第1号証に記載された転がり軸受装置に対してモーメント剛性に着目して設計変更することに当業者が困難を要するものとは解されない。さらに、「2列の玉のうちの一方の玉径を他方より小さくする」ことは単に2列ある玉の径の大小関係を特定するものであって、甲第2号証に開示された技術事項と差異がなく、当該大小関係を特定しそのピッチ円直径から力学的・幾何学的に転がり軸受装置の負荷容量やモーメント剛性を想定することに格別の困難性はない以上、モーメント剛性に対する設計上の観点から車両アウタ側と車両インナ側にある玉の径の大小関係を設定することは当業者が容易に推考できたことである。そして、甲第1号証に記載された転がり軸受装置にこのような設計変更を加えることを当業者がためらうような事情も存在しない。したがって、甲第1号証発明には被請求人が主張するような阻害要因はないから、被請求人の上記主張は採用できない。
(7)被請求人は、本件発明1は、外輪のフランジとハブ軸のフランジとの間の環状の自由空間を有効活用して軸受負荷中心間距離の増大を図ることができるとともに、ハブ軸の車両アウタ側において軸径を太くすることができること、車両アウタ側のフランジ最下端部周辺の変位量が減少して剛性を高くすることができることなどを主張している。
しかしながら、車両を構成する部品やレイアウトを検討するにあたっては、そのデッドスペース(自由空間)を活用することは設計上の基本ともいえる技術常識であり、甲第1号証の第7図に記載された実施例も結果的に外輪のフランジとハブ軸のフランジとの間の環状の自由空間を有効活用して軸受負荷中心間距離が増大しているものであるところ、上記自由空間を利用するために、さらに本件発明1が転がり軸受装置の周辺の部材との関連においてその構成を工夫したというものではない。また、ハブ軸の車両アウタ側において軸径を太くすることができること、車両アウタ側のフランジ最下端部周辺の変位量が減少して剛性を高くすることができるといった効果は、本件特許明細書には記載のない事項であるが、車両アウタ側のピッチ円直径を車両インナ側より大きくしたことから派生する力学的・幾何学的に自明の効果ともいえる。

(8)以上のとおり、被請求人の主張はいずれも理由がなく、採用できない。

7-4.まとめ

以上のとおり、本件発明1及び本件発明2は、いずれも甲第1?5号証に記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

8.むすび

以上のとおりであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当するから、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。



 
発明の名称 (54)【発明の名称】
転がり軸受装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】軸方向一方側の外周面に車両アウタ側のフランジを有するハブ軸と、前記ハブ軸の軸方向他方側の外周面に一体回転可能に嵌合装着された内輪とからなり、前記ハブ軸の軸方向他方側の外周面および前記内輪の外周面に軸方向二列の第1、第2内輪軌道面を有する内輪部材と、
内周面に前記内輪部材の二列の第1、第2内輪軌道面と径方向でそれぞれ対向する軸方向二列の第1、第2外輪軌道面を有し、前記第1外輪軌道面より軸方向他方側における外周面に車両インナ側のフランジを有する外輪部材と、
前記外輪部材の第1、第2外輪軌道面と前記内輪部材の第1、第2内輪軌道面との間に介装される複数の玉からなる軸方向二列の第1、第2転動体群とを含み、
前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間において、車両アウタ側の前記第1転動体群のピッチ円直径D_(1)と、車両インナ側の前記第2転動体群のピッチ円直径D_(2)との関係がD_(1)>D_(2)に設定され、
前記第1、第2転動体群の転動体の直径が同じ場合に比べて、さらに軸受負荷中心間距離の増大を図るように、前記第1転動体群の転動体の直径が、前記第2転動体群の転動体の直径よりも小さく、
前記第1転動体群の転動体の数が、前記第2転動体群の転動体の数よりも多く、
前記外輪部材の内周面の第1外輪軌道面と第2外輪軌道面との間に、第1外輪軌道面よりも小径となるように連続的に内径が変化する径変化部分を有している転がり軸受装置。
【請求項2】請求項1の転がり軸受装置において、
前記D_(1)と前記D_(2)との関係が、D_(1)≦1.49×D_(2)に設定されている転がり軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両用や各種産業機器等に適用する転がり軸受装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
図10を参照してこの種の転がり軸受装置を複列外向きのアンギュラ玉軸受装置に適用して説明する(例えば特許文献1参照)。この複列外向きのアンギュラ玉軸受装置500は、外輪1と、ハブ軸2と、内輪3と、玉群4、5とを有する。外輪1は、不図示の車体に固定され、内周面に軸方向二列の軌道面12,13を有するとともに、車両アウタ側の軌道面の車両インナ側における外周面に前記車体に固定するためのフランジ14を有する。ハブ軸2は、車両アウタ側の外周面に車輪を取り付けるためのフランジ15を有するとともに、軸方向中間の外周面に車両アウタ側の軌道面16を有する。内輪3は、ハブ軸2の車両インナー側の外周面に一体回転可能に嵌合装着され、外周面に車両インナー側の軌道面17を有する。玉群4,5は、外輪1とハブ軸2と内輪3それぞれの軌道面間において設けられる。
【0003】
【特許文献1】
特開2000-38004号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記転がり軸受装置500の場合、設計の容易さや生産コスト低減の観点から、両列の玉群4,5同士が互いの軸方向中間点に対して軸方向左右対称の構造に作られている。このように軸方向左右対称の構造を有する転がり軸受装置500において、その長寿命化を図る手段の一つとして各列の玉群4,5の軸方向距離やピッチ円直径を大きくすることにより各列の玉群4,5の軸受負荷中心間距離を大きくし、その高剛性化を図ることが考えられる。しかしながら、このような高剛性化構造では、転がり軸受装置全体の寸法が大型化せざるを得なくなる一方、転がり軸受装置500それ自体が狭隘な車体の一部に取り付けられる構造となっているから、装置を大型化する余地はほとんどない。そのため、従来の転がり軸受装置では、その高剛性化を図ることは困難である。
【0005】
したがって、本発明は、狭隘な車体に対して、装置を大型化させることなく高剛性化を図れる構造でもって、転がり軸受装置の長寿命化を図れるようにすることを解決課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の転がり軸受装置は、軸方向一方側の外周面に車両アウタ側のフランジを有するハブ軸と、前記ハブ軸の軸方向他方側の外周面に一体回転可能に嵌合装着された内輪とからなり、前記ハブ軸の軸方向他方側の外周面および前記内輪の外周面に軸方向二列の第1、第2内輪軌道面を有する内輪部材と、内周面に前記内輪部材の二列の第1、第2内輪軌道面と径方向でそれぞれ対向する軸方向二列の第1、第2外輪軌道面を有し、前記第1外輪軌道面より軸方向他方側における外周面に車両インナ側のフランジを有する外輪部材と、前記外輪部材の第1、第2外輪軌道面と前記内輪部材の第1、第2内輪軌道面との間に介装される複数の玉からなる軸方向二列の第1、第2転動体群とを含み、前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間において、車両アウタ側の前記第1転動体群のピッチ円直径D_(1)と、車両インナ側の前記第2転動体群のピッチ円直径D_(2)との関係がD_(1)>D_(2)に設定され、前記第1、第2転動体群の転動体の直径が同じ場合に比べて、さらに軸受負荷中心間距離の増大を図るように、前記第1転動体群の転動体の直径が、前記第2転動体群の転動体の直径よりも小さく、前記第1転動体群の転動体の数が、前記第2転動体群の転動体の数よりも多く、前記外輪部材の内周面の第1外輪軌道面と第2外輪軌道面との間に、第1外輪軌道面よりも小径となるように連続的に内径が変化する径変化部分を有している。
【0007】
ここで、D_(1)>D_(2)の関係は、D_(1)を大きく設定することにより実現し、D_(2)は一定とする。
【0008】
本発明の転がり軸受装置では、内輪部材のフランジと外輪部材のフランジとの間にできる自由空間を有効利用して車両アウタ側の転動体群のピッチ円直径を、車両インナ側に比べて大きく設定している。そのため、各列の転動体群同士の軸受負荷中心間距離を増大させることができる。その結果、装置の大型化を避けつつ、転がり軸受装置の高剛性化および長寿命化を図ることができる。
【0009】
本発明の転がり軸受装置は、具体的には、前記D_(1)と前記D_(2)との関係がD_(1)≦1.49×D_(2)に設定されている。
【0010】
このような構成とした場合、D_(1)をD_(2)よりも大きくしつつ、D_(1)をD_(2)の149%以下にとどめている。そのため、拡径スペースを超過して転がり軸受装置が大型化したり、転がり軸受装置の重量や製造コストが上昇するのを最小限度に抑えつつ、転がり軸受装置の高剛性化および長寿命化を図ることができる。なお、前記D_(1)と前記D_(2)との関係を1.10×D_(2)≦D_(1)≦1.49×D_(2)とすれば、上記作用・効果がより顕著となり好ましい。
【0011】
また、本発明の転がり軸受装置は、前記D_(1)の増大にともない、前記第1転動体群の転動体数が増大されている。
【0012】
このような構成とした場合、上記作用、効果に加えて、転動体群の介装数を多くしているので、各転動体群の1個あたりの荷重を分散することができる。その結果、転がり軸受装置の剛性をさらに向上させることができる。
【0013】
さらに、本発明の転がり軸受装置は、前記第1転動体群の各転動体の直径が小さく設定されているとともに、前記第1転動体群の転動体数が増大されている。
【0014】
このような構成とした場合、上記作用、効果に加えて、転動体群の直径が小さく設定されており、それに伴い、転動体の周方向の介装数が多く設定されている。その結果、転がり軸受装置の剛性をさらに向上させることができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態に係る転がり軸受装置を、図面を参照して詳細に説明する。この転がり軸受装置は、車両用車軸の軸受用に適用して説明する。この転がり軸受装置は、従動輪側を例にとっている。図1は本発明の前提となる一実施形態に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図、図2は、図1の転がり軸受装置の上半分断面図である。図1で軸方向左側は車両アウタ側(軸方向一方側)を、軸方向右側は車両インナ側(軸方向他方側)を示す。
【0016】
図例の転がり軸受装置100は、複列外向きアンギュラ玉軸受装置として、外輪1と、ハブ軸2と、内輪3と、一対の玉群4,5と、一対の保持器6,7と、一対のシール部材8,9とを有する。
【0017】
外輪1は、外輪部材として、内周面に軸方向二列の軌道面12,13を有するとともに、車両アウタ側の軌道面12の車両インナ側における外周面に車両(不図示)に固定するためのフランジ14を有する。
【0018】
ハブ軸2は、内輪部材の一部分として、車両アウタ側の外周面に車輪(不図示)を取り付けるためのフランジ15を有するとともに、軸方向中間の外周面に外輪1の車両アウタ側の軌道面12と対向する一列の軌道面16を有する。内輪3は、内輪部材の一部分として、ハブ軸2における車両インナ側の外周面に該ハブ軸2と一体回転可能に嵌合装着され、外周面に外輪1の車両インナ側の軌道面13と対向する一列の軌道面17を有する。
【0019】
玉群4,5は、転動体として、外輪1の軌道面12,13とハブ軸2および内輪3の各軌道面16,17との間において軸方向に二列介装される。
【0020】
一対の保持器6,7それぞれは、各列の玉群4,5を保持する。
【0021】
各列のシール部材8,9は、外輪1の内周の軸方向両側において、外輪1とハブ軸2との間、外輪1と内輪3との間それぞれの環状空間を軸方向で仕切っており、当該環状空間内にグリースを密封している。
【0022】
ハブ軸2の車両インナ側端部は、内輪3の外端面に対してかしめられており、かしめ部10を形成する。このかしめによりハブ軸2と内輪3は一体回転可能になるとともに、転がり軸受装置100に対して所要の予圧が付与される。
【0023】
本実施形態では、次の構成を有することを特徴とする。すなわち、上述した構成を有する転がり軸受装置100の場合、外輪1のフランジ14の車両インナ側が車両の一部であるナックル(不図示)に固定され、ハブ軸2のフランジ15の車両アウタ側に車輪(不図示)が取り付けられる。このとき、外輪1のフランジ14とハブ軸2のフランジ15との間には環状の自由空間11が存在する。本実施形態では、この環状の自由空間11に着目して、図1に示すように、車両アウタ側の玉群4のピッチ円直径D_(1)と、車両インナ側の玉群5のピッチ円直径D_(2)との関係をD_(1)>D_(2)に設定している。但し、このD_(1)>D_(2)の関係は、D_(1)を大きく設定することにより実現し、D_(2)は一定とする。これに伴い、ハブ軸2の軌道面16を内輪3の軌道面17よりも拡径し、あわせて外輪1の車両アウタ側の軌道面12を車両インナ側の軌道面13よりも拡径している。
【0024】
このように、D_(1)>D_(2)に設定することにより、転がり軸受装置100の剛性が向上する。以下、D_(1)>D_(2)に設定することと、転がり軸受装置100の剛性向上との因果関係を説明する。
【0025】
図2において、D_(1)=D_(2)としたとき(図中の点線)の各列の玉群4,5の中心からハブ軸2および内輪3の各軌道面16,17に加わる力の作用方向を示す作用線をそれぞれF_(1),F_(2)とし、これらと転がり軸受装置100の中心軸線Oとの交点をそれぞれO_(1),O_(2)とする。一方、D_(1)>D_(2)としたときの車両アウタ側の玉群4の中心からハブ軸2の軌道面16に加わる力の作用方向を示す作用線をF_(3)とし、これと転がり軸受装置100の中心軸線Oとの交点をO_(3)とする。このとき、交点O_(1),O_(2)間の距離をL_(1)とし、交点O_(1),O_(3)間の距離をL_(2)とすると、L_(2)>L_(1)の関係となる。
【0026】
これらの距離L_(1),L_(2)は、軸受負荷中心間距離を示しており、これらL_(1),L_(2)が大きいほど、転がり軸受装置100の剛性が大きくなる。したがって、D_(1)>D_(2)に設定することにより、軸受負荷中心間距離が増大し、転がり軸受装置100の剛性を向上させることができ、ひいては転がり軸受装置100の長寿命化につながる。
【0027】
ところで、D_(1)>D_(2)に設定すると、当該玉群4の周方向における介装スペースが増大する。その分、玉群4の介装数を増やすことにより、玉4の一個当たりの荷重を分散することができるので、転がり軸受装置100の剛性および寿命をさらに向上させることができる。
【0028】
以下、D_(1)および玉群4の介装数の最適な設定について試験により検証しているので、説明する。
【0029】
この試験に用いた転がり軸受装置100は、車両インナ側の玉5について、D_(2)=49mm、直径は12.7mm、介装数は11個とし、車両アウタ側の玉4については、その直径を玉5と同じ12.7mmとした。この試験では、車両アウタ側の玉4について、D_(1)および介装数をいろいろ変化させて転がり軸受装置100の剛性および寿命を確認した。従来例としては、玉4,5について、D_(1)=D_(2)=49mm、直径は共に12.7mm、介装数は共に11個に設定した。
【0030】
転がり軸受装置100の剛性は、転がり軸受装置100に径方向に一定の荷重をかけたときの転がり軸受装置100の傾きを計測して確認し、寿命は、転がり軸受装置100を回転させ寿命に至るまでの走行距離を計測して確認する。なお、転がり軸受装置100の剛性を示す傾き(単位:分)は、その値が小さいほど転がり軸受装置100の剛性が高いことを示しており、転がり軸受装置100の寿命を示す走行距離(単位:万km)は、その値が大きいほど転がり軸受装置100の寿命が長いことを示す。
【0031】
【表1】

表1において、試料1では、D_(1)をD_(2)の110%とし、玉4の介装数を玉5と同じ11個としている。この場合、転がり軸受装置100は、従来例との比較において、剛性が98%と向上しており、寿命も玉4側が108%、玉5側が107%と向上している。
【0032】
試料2では、D_(1)をD_(2)の149%とし、玉4の介装数を16個としている。この場合、転がり軸受装置100は、従来例との比較において、剛性が84%と向上しており、寿命も玉4側が257%、玉5側が121%と向上している。しかも、試料1との比較においても、剛性、寿命ともに向上している。
【0033】
ただし、D_(1)をD_(2)の149%より大きく設定すると、転がり軸受装置100の大型化、重量化の問題があるため、D_(1)はD_(2)の149%以下に設定するのが好ましい。
【0034】
以上より、1.10×D_(2)≦D_(1)≦1.49×D_(2)に設定するのが好ましく、さらには、D_(1)=1.49×D_(2)、つまりD_(1)=73mmに設定すれば、剛性、寿命ともに優れた転がり軸受装置100とすることができる。
【0035】
以上のように、本実施形態では、車両アウタ側の玉群4のピッチ円直径を大きく設定している。そのため、外輪1のフランジ14と内輪3のフランジ15との間に生じるスペースを有効に活用して転がり軸受装置100における玉群4,5の互いの軸受負荷中心間距離を増大させることができ、転がり軸受装置100の剛性を向上させることができる。しかも、車両アウタ側の玉群4の周方向における介装スペースも増大するため、その分、玉群4の介装数を増やすことができ、転がり軸受装置100の剛性をさらに向上させることができる。
【0036】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、以下に述べる実施形態にも適用可能である。
【0037】
(1)図3は、本発明の実施形態に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図、図4は、図3の転がり軸受装置の上半分断面図、図5は、車両アウタ側の玉の配列を示す説明図である。図3で軸方向左側は車両アウタ側(軸方向一方側)を、軸方向右側は車両インナー側(軸方向他方側)を示す。
【0038】
図3に示す転がり軸受装置100の基本的構成は、上記実施形態と同様であるが、異なる点は、車両アウタ側の玉4の直径を小さくしている点である。これに伴い、ハブ軸2の軌道面16は、上記実施形態よりもさらに径方向外側に拡径する。
【0039】
このように、上記実施形態に加えて、車両アウタ側の玉4の直径を小さくすることによっても、転がり軸受装置100の剛性が向上する。以下、車両アウタ側の玉4の直径の縮小と、転がり軸受装置100の剛性向上との因果関係を説明する。
【0040】
図4において、車両アウタ側の玉4の直径を小さくしないとき(図中の点線)の各列の玉群4,5の中心から内輪およびハブ軸の各軌道面16,17に加わる力の作用方向を示す作用線をそれぞれF_(1),F_(3)とし、これらと転がり軸受装置100の中心軸線Oとの交点をそれぞれO_(1),O_(3)とする。一方、車両アウタ側の玉4の直径を小さくしたときのこの車両アウタ側の玉群4の中心からハブ軸2の軌道面16に加わる力の作用方向を示す作用線をF_(4)とし、これと転がり軸受装置100の中心軸線Oとの交点をO_(4)とする。このとき、交点O_(1),O_(3)間の距離をL_(2)とし、交点O_(1)O_(4)間の距離をL_(3)とすると、L_(3)>L_(2)の関係となる。
【0041】
既に説明したように、これらの距離L_(2),L_(3)は、軸受負荷中心間距離を示しており、これらL_(2),L_(3)が大きいほど、転がり軸受装置100の剛性が大きくなる。したがって、車両アウタ側の玉4の直径を小さくすることにより、上記実施形態に比べてさらに軸受負荷中心間距離の増大を図ることができ、転がり軸受装置100の剛性をさらに向上させることができる。
【0042】
さらに、以上のように車両アウタ側の玉4の直径を小さくすることにより、上記実施形態に比べてさらに車両アウタ側の玉群4の周方向における介装数を増やすことができる。図5に示すように、玉4の直径を小さくすると、周方向に隣り合う玉4同士の配置間隔を狭めることができるので、玉4の介装数を増やすことができる。これにより、玉一個当たりの荷重を分散することができ、転がり軸受装置100の剛性がさらに向上する。
【0043】
ただし、玉4の直径を小さくするにつれ、転がり軸受装置100の剛性は向上するものの、寿命は低下する傾向にある。そのため、玉4の直径は、従来例に比べて転がり軸受装置100の寿命が低下しない範囲で適切に設定する必要がある。
【0044】
以下、玉4の直径および介装数の最適な設定について試験により検証しているので説明する。この試験に用いた転がり軸受装置100は、車両インナ側の玉5について、D_(2)=49mm、直径は12.7mm、介装数は11個とする。車両アウタ側の玉4について、D_(1)は、上記実施形態での試験の結果に基づき、転がり軸受装置100の剛性、寿命ともに最も向上するD_(1)=73mmに設定した。この試験では、車両アウタ側の玉4について、直径および介装数をいろいろ変化させて転がり軸受装置100の剛性および転がり寿命を確認した。従来例としては、玉4,5について、D_(1)=D_(2)=49mm、直径は共に12.7mm、介装数は共に11個に設定した。なお、転がり軸受装置100の剛性および寿命の測定方法は上記実施形態と同様である。
【0045】
【表2】

表2において、試料1では、玉4の直径を玉5の直径の88%としており、玉4の介装数を18個としている。この場合、従来例との比較で、剛性は84%と向上しており、寿命も玉4側が147%、玉5側が120%といずれも向上している。
【0046】
試料2では、玉4の直径を玉5の直径の81%としており、玉4の介装数を20個としている。この場合も、従来例との比較で、剛性は83%と向上しており、寿命も玉4側が115%、玉5側が117%といずれも向上している。ちなみにこの場合、玉4側の寿命が試料1に比べて低下している。
【0047】
試料3では、玉4の直径を玉5の直径の75%としており、玉4の介装数を21個としている。この場合、従来例との比較で、剛性は82%と向上している。しかし、寿命は、従来例との比較で、玉5側が117%と向上しているのに対して、玉4側が78%と低下している。
【0048】
以上より、玉4の直径の下限値は、D_(1)=73mmとしたとき、玉5の直径の81%、すなわち約10.32mmとするのが好ましく、さらには、玉4の直径を約10.32mm、玉4の介装数を20個に設定すると、極めて剛性が高く、しかも長寿命な転がり軸受装置100とすることができる。
【0049】
以上のように、上記実施形態に加えて、車両アウタ側の玉4の直径を小さくすることによって、転がり軸受装置100における軸受負荷中心間距離をさらに増大させることができるので、転がり軸受装置100のさらなる剛性化を図ることができる。また、車両アウタ側の玉群4の周方向の介装数を多くすることができるので、転がり軸受装置100の剛性がさらに向上する。
【0050】
(2)図6は、参考例の実施形態に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図である。
【0051】
図6において、図1から図2と対応する部分には同一の符号を付しており、その同一の符号に係る部分の詳しい説明は省略する。図6で軸方向左側は車両アウタ側(軸方向一方側)を、軸方向右側は車両インナー側(軸方向他方側)を示す。
【0052】
転がり軸受装置200は、内輪部材としてハブホイール43と等速ジョイント40とを有する。
【0053】
この転がり軸受装置200においても、外輪部材として外輪1、これと同心に配置された内輪部材としてハブホイール43および等速ジョイントの軸部42とを有する。
【0054】
外輪1は、内周面に軸方向二列の軌道面12,13を有するとともに、車両アウタ側の軌道面12の車両インナ側における外周面に車両(不図示)に固定するためのフランジ14を有する。
【0055】
ハブホイール43は、車両アウタ側外周面に車輪(不図示)を取り付けるためのフランジ15を有するとともに、車両インナ側の外周面に一列の軌道面16を有する。
【0056】
等速ジョイント40は、車両インナ側に椀形外輪41を、車両アウタ側に軸部42をそれぞれ有する。軸部42は、車両インナ側の外周面に一列の軌道面17を有し、車両アウタ側の外周面に対してハブホイール43が一体回転可能に嵌合装着される。なお、椀形外輪41の内部詳細は省略する。
【0057】
外輪1の二列の軌道面12,13のそれぞれと、ハブホイール43、軸部42それぞれの各軌道面16,17との間において、転動体としての玉群4,5が介装される。一対の保持器6,7それぞれは、各列の玉群4,5を保持する。
【0058】
軸部42の車両アウタ側の端部は、ハブホイール43の車両アウタ側端面にかしめられており、かしめ部10を形成する。
【0059】
このような構成の転がり軸受装置200も、外輪1のフランジ14の車両インナ側が車両の一部であるナックル(不図示)に固定され、ハブホイール43のフランジ15の車両アウタ側に車輪(不図示)が取り付けられる。このとき、外輪1のフランジ14とハブホイール43のフランジ15との間には環状の自由空間11が存在する。
【0060】
この転がり軸受装置200でも、車両アウタ側の玉群4のピッチ円直径D_(1)と、車両インナ側の玉群5のピッチ円直径D_(2)との関係をD_(1)>D_(2)に設定している。また、当該車両アウタ側の玉4の直径を小さく設定し、当該玉4の介装数を増やすこともできる。
【0061】
このように設定したときの具体的構成および作用、効果は、基本的に上述の実施形態と同様である。
【0062】
(3)本発明の前提となる一実施形態は、図7で示すように、駆動輪側の転がり軸受装置300にも適用することができる。
【0063】
図示例の転がり軸受装置300は、基本的には上記実施形態の転がり軸受装置100と同様であるが、異なる点は、ハブ軸2が中空とされている点である。このハブ軸2の中空部分に、図示しないが、アクスルシャフトが挿入され、結合される。
【0064】
(4)図8は、ハブ軸2の外周面に軸方向一対の内輪3a、3bを嵌合装着した転がり軸受装置400に適用した参考例を示している。
【0065】
また、このような形式の転がり軸受装置において、参考例として、図9に示すように、転動体群を円錐ころ群18、19とするものがある。この場合、車両アウタ側の各円錐ころ18の径を小さくしてもよい。
【0066】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の転がり軸受装置によれば、車輪が取り付けられる内輪部材のフランジと、車体に固定される外輪部材のフランジとの間にできる自由空間を有効利用して車両アウタ側の転動体のピッチ円直径を大きく設定している。これにより、装置の大型化を避けつつ各列の転動体の軸受負荷中心間距離を増大させると同時に、転動体の介装数を多くすることができる。その結果、転がり軸受装置の剛性が向上し、その長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の前提となる実施形態に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図
【図2】
図1の転がり軸受装置の上半分断面図
【図3】
本発明の実施形態に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図
【図4】
図3の転がり軸受装置の上半分断面図
【図5】
車両アウタ側の玉の配列を示す説明図
【図6】
参考例の実施形態に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図
【図7】
本発明の前提となる実施形態に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図
【図8】
参考例の実施形態に係る転がり軸受装置の上半分を示す断面図
【図9】
参考例の実施形態に係る転がり軸受装置の上半分を示す断面図
【図10】
従来の転がり軸受装置の全体構成を示す断面図
【符号の説明】
1 外輪
2 ハブ軸
3 内輪
4 玉(車両アウタ側)
5 玉(車両インナ側)
11 自由空間
14 フランジ
15 フランジ
100 転がり軸受装置
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2010-12-27 
結審通知日 2011-01-06 
審決日 2011-01-18 
出願番号 特願2002-270208(P2002-270208)
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (F16C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鳥居 稔山崎 勝司  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 川上 溢喜
大山 健
登録日 2008-10-31 
登録番号 特許第4206716号(P4206716)
発明の名称 転がり軸受装置  
代理人 三橋 真二  
代理人 島田 哲郎  
代理人 青木 篤  
代理人 三橋 真二  
代理人 大橋 康史  
代理人 青木 篤  
代理人 島田 哲郎  
代理人 幸田 全弘  
代理人 大橋 康史  
代理人 鶴田 準一  
代理人 鶴田 準一  

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