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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1260028
審判番号 不服2010-28628  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-12-17 
確定日 2012-07-11 
事件の表示 特願2004-182875「回折光学素子とこれを含む照明系及びこれを利用した半導体素子製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 2月17日出願公開,特開2005- 43869〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成16年6月21日(パリ条約による優先権主張2003年7月24日,韓国)に特許出願されたものであって,平成22年3月5日付けの拒絶理由通知に応答して同年6月8日付けで手続補正がなされたが,同年8月20日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年12月17日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに,同日付けで手続補正がなされたものである。


第2 平成22年12月17日付け手続補正の適否
1.補正の内容
平成22年12月17日付け手続補正(以下,「本件補正」という。)は,特許請求の範囲について,補正前の請求項3が,
「【請求項3】
垂直方向の前記ポールでは中心に近いほど,前記照明形状で使われる半径方向範囲が大きくなり,水平方向の前記ポールでは中心から遠くなるほど,前記照明形状で使われる半径方向範囲が大きくなるように前記凹凸面を具備することを特徴とする請求項2に記載の回折光学素子。」
であったものを,
「【請求項3】
垂直方向(y軸)の前記ポールでは中心に近いほど,前記照明形状で使われる半径方向範囲が大きくなり,水平方向(x軸)の前記ポールでは中心から遠くなるほど,前記照明形状で使われる半径方向範囲が大きくなるように前記凹凸面を具備することを特徴とする請求項2に記載の回折光学素子。」(審決注:下線部は補正箇所)
と補正しようとするものである。

2.補正の適否
本件補正は,拒絶理由通知において,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないと指摘され,拒絶査定の拒絶の理由の一つ(理由2)となった,補正前の「垂直方向」及び「水平方向」という明りょうでない記載を釈明することを目的とするものと認める。
さらに,本件補正により補正された事項は,出願当初明細書の【0034】等に記載されているから,本件補正は,出願当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
よって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項及び第4項に規定する要件を満たしており,適法になされたものであるから,本件補正を認める。


第3 本願発明について
1.本願発明
上記のとおり,本件補正は認められるから,本願の請求項1?20に係る発明は,平成22年12月17日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?20に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。
「【請求項1】
半導体素子製造のための露光工程で多重極照明形状を提供する回折光学素子において,
前記照明形状で使われる半径方向範囲によって相異なる形状の照明を作るように,照明形状の円周方向成分が半径と角度の関数である照明形状を提供するように形成された凹凸面を具備し,
前記照明形状を極座標系で表現したI(r,Θ)は,半径方向範囲成分であるA(r)と円周方向成分であるC(r,Θ)との積であり,ここでrは半径であり,Θは極座標系の角度であることを特徴とする回折光学素子。」

2.原査定の拒絶の理由(理由3)の概要
原査定の拒絶の理由のうち,理由3は,本願優先日前に頒布された特開平7-263313号公報及び国際公開第02/095811号をそれぞれ引用文献1及び引用文献2として引用し,本願の請求項1,2に係る発明は,引用文献1に記載された発明,または,引用文献2に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない,というものである。
そこで,本願発明が,特開平7-263313号公報(以下,「刊行物1」という。)に記載された発明,あるいは,国際公開第02/095811号(以下,「刊行物2」という。)に記載された発明と同一であるのか否かについて,以下に検討する。
検討を進める際の便宜上,本願発明を次のとおり分説し,Aに関する発明特定事項?Dに関する発明事項をそれぞれ「構成要件A」?「構成要件D」ということとする。
「A 半導体素子製造のための露光工程で多重極照明形状を提供する回折光学素子において,
B 前記照明形状で使われる半径方向範囲によって相異なる形状の照明を作るように,照明形状の円周方向成分が半径と角度の関数である照明形状を提供するように形成された凹凸面を具備し,
C 前記照明形状を極座標系で表現したI(r,Θ)は,半径方向範囲成分であるA(r)と円周方向成分であるC(r,Θ)との積であり,ここでrは半径であり,Θは極座標系の角度であることを特徴とする
D 回折光学素子。」

3.各刊行物の記載事項及び各刊行物に記載された発明
(1)刊行物1
刊行物1には,次の事項が記載されている。
ア.「【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は,投影露光装置に用いる照明光学系に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
最近の半導体の集積度の向上に伴い,投影露光装置に要求される解像力も年々高まりつつある。解像力を向上させるため,光源の短波長化,位相シフト法の採用,変形照明法の採用等の種々の方法が研究開発されており,その中でも変形照明法は従来装置に対し大幅な変更を加える必要がないという利点を有している。
変形照明法の代表的な例としては,照明光学系の開口絞りを光束が通過する際に光束の通過位置が光軸から離間した4箇所に制限される4極照明もしくは4点照明と称される方法・・・(中略)・・・がある。4極照明は,特に,縦横の線から成るパターンについて,解像力の向上および焦点深度増大の効果が顕著であることが知られている。・・・(中略)・・・
【0003】
4極照明の従来例としては,例えば図42および図43に示すものがある。・・・(中略)・・・
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記図42の従来例では,開口絞り109aに設けた開口に到達することができた照明光束のみしか透過し得ないので,光源部からの光束の利用効率が大幅に低下するとともに著しい照度ムラが生じてしまう。また,上記図43の従来例では,光源部からの光束の利用効率を高めることはできるが,多数の光ファイバを必要とするため,構成が複雑化し,製作が困難になり,機械的な信頼性が低下してしまう。また,上記図44の従来例では,開口絞り109bに設けた開口に到達することができた照明光束のみしか透過し得ないので,光源部からの光束の利用効率が大幅に低下してしまう。また,上記図45の従来例では,光源部からの光束の利用効率を高めることはできるが,製作が困難なアキシコンレンズを必要とするため,コストアップが避けられない。
【0006】
本発明は,上記問題に着目してなされたものであり,光源からの光の利用効率が高くなるとともに構成が簡略化されて容易に実現し得る投影露光装置用照明光学系を提供することを目的とする。」
イ.「【0007】
【課題を解決するための手段】
この目的のため,本発明の請求項1の構成は,光源からの光束を分離する光束分離光学系と,該光束分離光学系により分離された光束をレチクル上へ導くコンデンサ光学系とを有する投影露光装置用照明光学系において,前記光束分離光学系が,前記光源からの光束を4つに分離する直線格子パターンを有する回折光学手段を具えることを特徴とする。
【0008】
また,本発明の請求項2の構成は,上記において,前記回折光学手段の直線格子パターンは境界をほぼ十字型になすように配されるとともにほぼ等間隔の格子ピッチを有する4つの直線格子パターンであり,互いに隣合う直線格子パターンの格子方向がほぼ直交することを特徴とする。」
ウ.「【0022】
【実施例】
以下,本発明の実施例を図面に基づき詳細に説明する。図1は本発明の投影露光装置用照明光学系の第1実施例の構成を示す図である。図中1は光源部であり,楕円鏡2,水銀ランプ3およびレンズ4から成る。また,図中51は光束分離部であり,透過型の回折光学素子61および71から成る。
【0023】
回折光学素子61は例えば石英から成り,図2(a)の平面図,(b)の側面図,(c)のA部詳細図に示すように,その一方の面に境界をほぼ十字型にして配された4つの領域には,等間隔の直線回折格子61aが形成され,各領域の格子パターンの方向は隣接する領域間で互いに直交するようになっている。直線回折格子61aの断面形状は1次回折光に対しブレーズ化されている。」
エ.「【0025】
次に,上記第1実施例の照明光束の流れを図4?5を用いて説明する。
光源部1により形成されたほぼ平行な光束は回折光学素子61に入射される・・・(中略)・・・。照明光束14は,回折光学素子61,71の近傍の斜視図である図4に示すように,回折光学素子61により4つの照明光束15に分離(波面分割)される。このように波面分割されるのは,回折光学素子61に直線回折格子61aが格子方向またはブレーズ化方向が夫々異なるように形成されており,光束が入射された領域毎に所望の角度に回折されるようになっているからである。
【0026】
照明光束15は,回折光学素子71により夫々光軸にほぼ平行な方向に変換された後,フライアイレンズ8に入射される。このとき,直線回折格子61a,71aの断面形状がブレーズ化されているためほぼ100%の回折効率が得られるので,光源光の利用効率が高まることになる。
フライアイレンズ8の射出側端面は2次光源の作用を有するので,その位置に4箇所の円形開口を有する開口絞り9が配置してある。4箇所の開口の形状は,分離された光束の形状に合わせて方形とすることができるが,円形としてもよい。円形とした場合,光束の一部がしゃ断されることになるが,本発明の技術を用いずに,単にこのような開口絞りを設けた場合に比べると,光源光の利用効率は遥かに高くなる。開口絞り9の4箇所の開口を通過した照明光束は夫々,コンデンサレンズ10を介してレチクル11を4極照明することになり,レチクル11の像は,結像光学系12によりウエハ13に結像される。」
オ.図1,図2,図4は次のとおりである。


上記記載事項ア?オを含む刊行物1の全記載からは,刊行物1には,次の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「 4極照明によりウエハ13にレチクル11の像を結像する投影露光装置用照明光学系に用いられる回折光学素子61であって,
その一方の面に境界をほぼ十字型にして配された4つの領域に,ほぼ等間隔の格子ピッチを有するとともに,各領域の格子パターンの方向が隣接する領域間で互いに直交するよう構成され,かつ,断面形状が1次回折光に対しブレーズ化された直線回折格子61aがそれぞれ形成されており,
光源部1により形成された照明光束14を,形状が方形である4つの照明光束15に分離(波面分割)する回折光学素子61。」

(2)刊行物2
刊行物2には,次の事項が記載されている。
カ.「技術分野
本発明は,主に半導体素子,液晶表示素子,撮像素子,薄膜磁気ヘッド,その他のマイクロデバイスをフォトリソグラフィ技術により製造する際に用いられるパターンを照明する照明光学装置,当該照明装置を備える露光装置,及び当該露光装置を用いたマイクロデバイスの製造方法に関する。
背景技術
半導体素子,液晶表示素子,撮像素子,薄膜磁気ヘッド,その他のマイクロデバイスの製造工程の一つであるフォトリソグラフィ工程においては,マスクやレチクル(以下,これらを総称する場合は,マスクと総称する)に形成されたパターンを,フォトレジスト等の感光剤が塗布されたウェハやガラスプレート等(以下,これらを総称する場合は,基板と称する)に転写する露光装置が用いられる。」(明細書1頁3?13行)
キ.「ところで,近年の露光装置に要求される解像力等の性能は,理論的に算出される限界に極めて近付いている。一般に良く知られているように,マスクに形成されたパターンにより,最適な光学系の定数(投光学系の開口数,照明系の開口数等)の設定値は異なるが,装置能力の理論的限界付近で露光が行われている関係上,当然の事ながら装置側には,マスクのパターンに合わせて最適な光学系の定数が選択できることが求められる。
このことを照明系について見ると,少なくとも照明系の開口数が可変であることが必要となる。・・・(中略)・・・開口数を可変にする為には,開口絞り118の系をカメラの絞りの如く可変絞りにする,又は絞りを切り替え可能として対応するのが一般的である。ただし,単に開口絞り118の絞り系を切り替えただけでは,絞り系を小さなものに変更した場合,光束を遮光する面積が大きくなり,照度が低下してしまう。」(明細書4頁12?23行)
ク.「また,近年では,開口絞り117として円形以外の形状の開口を有する開口絞りを用いる場合がある。・・・(中略)・・・マスクに形成されたパターンが微細になり,装置の解像限界付近にて露光がおこなわれるようになると,照明系の開口絞りから発した光束のうち,解像に寄与するのは,開口絞りの周辺部から発した光のみになり,開口の中央部から発した光は像のコントラストを下げるだけの働きしか持たなくなる。・・・(中略)・・・従って,開口絞りの中央部からは光を発しないほうが望ましいといえる。この様な発想から,図32Aに示した輪帯状の開口が形成された開口絞り118aが案出された。図32Bに示した開口絞り118bは,更に解像するパターンを縦方向のライン及び横方向のラインのみに限定した場合の絞りである。この場合は,更に,開口絞りの上下,左右から発する光もノイズにしかならないので,開口絞りの上下,左右も更に遮光するようにしている。」(明細書5頁11?末行)
ケ.「発明の開示
本発明は,・・・(中略)・・・レンズ等の光学部材の数を低減して光量低下を防止するとともに,輪帯照明等の変形照明を行う場合であっても光の利用効率を上昇させることができ,更にランニングコストの低減を図ることができる照明光学装置,当該照明光学装置を備える露光装置,及び当該露光装置を用いたマイクロデバイスの製造方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために,本発明の第1の観点による照明光学装置は被照射面(R,W)を照明する照明光学装置において,光束を供給する光源部(1)と,前記光源部(1)からの光束を所定の断面形状の光束に変換する光束変換手段・・・(中略)・・・と,前記光束変換手段・・・(中略)・・・にて変換された光束の光強度分布を変更するために,変倍比が2.3倍以下で焦点距離可変の変倍光学系(6,30)と,を含み,前記光束変換手段・・・(中略)・・・は,変換される光束の断面形状の種類毎に変換特性が異なる複数の変換光学素子・・・(中略)・・・と,前記変換光学素子・・・(中略)・・・の一つを光路内に設定する設定部・・・(中略)・・・とを含むことを特徴としている。」(明細書7頁21行?8頁12行)
コ.「この発明によれば,光源から供給される光束を変換光学素子によって,照明瞳面において基準光軸に対して偏心した複数の光束に変換しているため,光路上における光学部材の数を極めて少なくすることができ,その結果として照明光学系における光量低下を防止することができる。」(明細書11頁24?27行)
サ.「〔第1実施形態〕
図1は,本発明の第1実施形態による照明光学装置及び本発明の第1実施形態による照明光学装置を備える露光装置の概略構成を示す図である。・・・(中略)・・・整形光学系としてのビームエキスパンダ2を介した光束は,折り曲げミラー3でY方向に偏向された後,レボルバ4に設けられている回折光学素子(DOE:Diffractive Optical Element)又はレボルバ5に設けられている回折光学素子に順に入射する。これらの回折光学素子は,入射する光束を所定の断面形状,例えば,円形の断面形状を持つ光束,輪帯状の断面形状を持つ光束,及び基準光軸としての光軸AXに対して偏心した複数の光束の内の少なくとも2種の光束に変換するものであり,本発明にいう光束変換手段の一部をなす変換光学素子に相当するものである。」(明細書15頁16行?16頁11行)
シ.「そこで,本実施形態では,変換する光束の断面形状の種類毎に変換特性が異なる複数の回折光学素子をリボルバ4,5に設け,この回折光学素子の何れかによって断面形状が変換された光束の光強度分布を,構成が簡素なズーム光学系6で微調整している。」(明細書17頁18?21行)
ス.「図2はレボルバ4,5の一例を示す斜視図であり,図3はその正面図である。図2に示したように,レボルバ4,5は,その回転軸が光軸AXに対して平行となり且つ光軸AXから偏心した状態に配置され,レボルバ4に設けられた複数の回折光学素子及び開口の何れか一つ,並びに,レボルバ5に設けられた複数の回折光学素子及び開口の何れか一つが光軸上に配置されるように構成される。
図3Aは,レボルバ5の一例を示す正面図であり,図3Bは,レボルバ4の一例を示す正面図である。図3Aに示したように,レボルバ5には,その円周方向に沿って回折光学素子5a?5l及び開口5mが円周方向に配列されている。回折光学素子5a?5lは,入射した光束を回折して光軸AXに対して偏心した複数の光束に変換するものであり,各々の回折特性(例えば,回折角)が異なるように設定される。」(明細書20頁16?26行)
セ.「回折光学素子4a?4l及び回折光学素子5a?5lは位相型回折光学素子であり,複数の微小な位相パターンや透過率パターンを配設して構成されている。図4Aは,回折光学素子4a?4l及び回折光学素子5a?5lをX方向から見た断面形状を示す図・・・(中略)・・・である。」(明細書21頁8?14行)
ソ.「次に,光軸AXに対して偏心した複数の光束に変換する場合について説明する。この場合には,主制御系15が回転駆動装置11を制御してレボルバ4を回転させることにより開口4m(図3B参照)を光軸上に配置するとともに,回転駆動装置12を制御してレボルバ5を回転させることにより回折光学素子5a?5lの何れか一つを光軸AX上に配置する。・・・(中略)・・・回折光学素子5a?5lは,回折後の光束の断面形状を4方向に分離した形状に変換する。そして,ズーム光学系6を介した後,フライアイレンズ7の入射面上で図7に示すように四極状の光強度分布である照明領域IAを形成する。・・・(中略)・・・図8Aから図8Eは,回折光学素子5a?5lを用いて光軸AXに対して偏心した複数の光束に変換する場合における光束の断面形状の他の例を示す図である。図8Aは,フライアイレンズ7の入射面上に形成される4つの照明領域IAの形状を楕円形状とした例を示している。・・・(中略)・・・また,図8Cに示すように,4つの照明領域IAの形状を円形状としてもよい。・・・(中略)・・・回折光学素子5a?5l及びズーム光学系6が形成する複数の照明領域IAの形状としては,図8Dに示すような六角形状であっても良い。・・・(中略)・・・図8Eに示すように,照明領域IAの形状は矩形状であってもよい。」(22頁21行?24頁24行)
タ.図1?図4A,図8A?図8Eは次のとおりである。


上記記載事項カ?タを含む刊行物2の全記載からは,刊行物2には,次の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「 半導体素子をフォトリソグラフィ技術により製造する際に用いられる露光装置において,パターンを4極照明する照明光学装置に用いられる回折光学素子5a?5lであって,
表面に複数の微小な位相パターンを配設して構成された位相型回折光学素子であり,
かつ,入射した光束を,楕円形状,円形状,六角形状,あるいは,矩形状の断面形状で,光軸AXに対して偏心した4つの光束に分離する回折光学素子5a?5l。」

4.本願発明と引用発明1の同一性についての判断
(1)構成要件A及びDについて
引用発明1は,「4極照明によりウエハ13にレチクル11の像を結像する投影露光装置用照明光学系に用いられる」ものであって,「光源部1により形成された照明光束14を,形状が方形である4つの照明光束15に分離(波面分割)する」という機能を有する回折光学素子であるのだから,構成要件Aにおける「露光工程で多重極照明形状を提供する回折光学素子」及び構成要件Dにおける「回折光学素子」に相当する。
また,引用発明1が用いられる「投影露光装置用照明光学系」は,記載事項ア中の「最近の半導体の集積度の向上に伴い,投影露光装置に要求される解像力も年々高まりつつある。」(【0002】)という記載からみて,「半導体素子製造のための露光工程」において照明を提供するための装置であると認められるから,引用発明1が多重極照明形状を提供する「露光工程」とは,「半導体素子製造のための露光工程」にほかならない。
よって,引用発明1は,構成要件A及びDに相当する構成を具備している。

(2)構成要件Bについて
本願明細書の【0023】の「DOE 110は,レーザー光源105からの光をいくつかのビームに分離し,角度を決めて第1多重極照明形状115に変える。DOE 110からの第1多重極照明形状115は可変倍率ズームレンズ120を通過しながら拡大される。ズームレンズ120から拡大された第1多重極照明形状115は,均一化レンズ125によってその強さが均一された後,環型絞り130を通過しながら使用される半径範囲が決まり,第2多重極照明形状116を形成する。・・・(中略)・・・DOE 110は,照明形状の円周方向成分が半径と角度の関数である第1多重極照明形状115を生成する凹凸面を具備し,ズームレンズ120及び絞り130と組合わせて用いられることで,使用する半径方向範囲によって相異なる形状の照明とされた第2多重極照明形状116を作るように構成されている。」という記載,及び,図7A,図7Bの記載等を踏まえれば,構成要件Bの「前記照明形状で使われる半径方向範囲によって相異なる形状の照明を作る」とは,DOE110が生成した第1多重極照明形状115について,ズームレンズ120及び環型絞り130を用いて第1多重極照明形状115のうちの使用する半径方向範囲(図7A,図7Bに示されるようなドーナツ状の領域)を変化させることによって,相異なる形状の第2多重極照明形状116を形成することを表現したものと解されるところ,本願発明は,「回折光学素子」の発明であって,上記ズームレンズ120及び環型絞り130は,本願発明の構成ではないのだから,構成要件Bの「前記照明形状で使われる半径方向範囲によって相異なる形状の照明を作るように,照明形状の円周方向成分が半径と角度の関数である照明形状を提供するように形成された凹凸面」とは,光源からの光を,照明形状の円周方向成分が半径と角度の関数である照明形状(第1多重極照明形状)に変える凹凸面であって,当該照明形状が,異なる半径方向範囲で相異なる形状となるような形状であることを意味していると解するのが相当である。
しかるに,引用発明1の一方の面に形成された4つの直線回折格子61aは,「断面形状が1次回折光に対しブレーズ化され」ているのだから,引用発明1は「凹凸面を具備」するものである。
そして,引用発明1は,4つの直線回折格子61aによって,「光源部1により形成された照明光束14を,形状が方形である4つの照明光束15に分離(波面分割)する」ものであって,当該4つの照明光束15により構成された照明形状(断面形状)は,どのような位置を極座標系の原点と定めたとしても,その円周方向成分が半径と角度の関数で表されるものとなり,異なる半径方向範囲では相異なる形状となることは,明らかである。
よって,引用発明1は,構成要件Bに相当する構成を具備している。

(3)構成要件Cについて
(2)で述べたとおり,引用発明1によって生成される,4つの照明光束15により構成された照明形状(断面形状)は,どのような位置を極座標系の原点と定めたとしても,その円周方向成分が半径と角度の関数で表されるものとなるのだから,当該関数をC(r,Θ)と表現することができ,半径方向範囲成分をA(r)で表現すれば,照明形状I(r,Θ)をA(r)とC(r,Θ)との積で表現することができることは明らかである。
よって,引用発明1は,構成要件Cに相当する構成を具備している。

(4)まとめ
以上のとおり,引用発明1は,全構成要件に相当する構成を具備するものであるから,本願発明は引用発明1と同一である。

5.本願発明と引用発明2の同一性についての判断
(1)構成要件A及びDについて
引用発明2は,「半導体素子をフォトリソグラフィ技術により製造する際に用いられる露光装置において,パターンを4極照明する照明光学装置に用いられる」ものであって,「入射した光束を,断面形状が楕円形状,円形状,六角形状,あるいは,矩形状で,光軸AXに対して偏心した4つの光束に分離する」という機能を有する回折光学素子であるのだから,構成要件Aにおける「半導体素子製造のための露光工程で多重極照明形状を提供する回折光学素子」及び構成要件Dにおける「回折光学素子」に相当する。
よって,引用発明2は,構成要件A及びDに相当する構成を具備している。

(2)構成要件Bについて
4.(1)で述べたとおり,構成要件Bの「前記照明形状で使われる半径方向範囲によって相異なる形状の照明を作るように,照明形状の円周方向成分が半径と角度の関数である照明形状を提供するように形成された凹凸面」とは,光源からの光を,照明形状の円周方向成分が半径と角度の関数である照明形状(第1多重極照明形状)に変える凹凸面であって,当該照明形状が,異なる半径方向範囲で相異なる形状となるような形状であることを意味していると解するのが相当であるところ,引用発明2の回折光学素子5a?5lは,「表面に複数の微小な位相パターンを配設して構成された位相型回折光学素子」であるのだから,引用発明2は「凹凸面を具備」するものである。
そして,引用発明2は,当該複数の微小な位相パターンによって,「入射した光束を,楕円形状,円形状,六角形状,あるいは,矩形状の断面形状で,光軸AXに対して偏心した4つの光束に分離する」ものであって,楕円形状,円形状,六角形状,あるいは,矩形状の断面形状を有する4つの光束により構成された照明形状(断面形状)は,どのような位置を極座標系の原点と定めたとしても,その円周方向成分が半径と角度の関数で表されるものとなり,異なる半径方向範囲では相異なる形状となることは,明らかである。
よって,引用発明2は,構成要件Bに相当する構成を具備している。

(3)構成要件Cについて
(2)で述べたとおり,引用発明2によって生成される,楕円形状,円形状,六角形状,あるいは,矩形状の断面形状を有する4つの光束により構成された照明形状(断面形状)は,どのような位置を極座標系の原点と定めたとしても,その円周方向成分が半径と角度の関数で表されるものとなるのだから,当該関数をC(r,Θ)と表現することができ,半径方向範囲成分をA(r)で表現すれば,照明形状I(r,Θ)をA(r)とC(r,Θ)との積で表現することができることは明らかである。
よって,引用発明2は,構成要件Cに相当する構成を具備している。

(4)まとめ
以上のとおり,引用発明2は,全構成要件に相当する構成を具備するものであるから,本願発明は引用発明2と同一である。


第4 まとめ
以上のとおり,本願発明は,引用発明1及び引用発明2のいずれとも同一であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
したがって,本願は,その余の請求項について論究するまでもなく,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-10 
結審通知日 2012-02-14 
審決日 2012-02-27 
出願番号 特願2004-182875(P2004-182875)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 慎平  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 金高 敏康
清水 康司
発明の名称 回折光学素子とこれを含む照明系及びこれを利用した半導体素子製造方法  
代理人 実広 信哉  
代理人 渡邊 隆  

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