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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04L
管理番号 1260038
審判番号 不服2011-4860  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-03-03 
確定日 2012-07-11 
事件の表示 特願2006-249530「通信システムおよび端末」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 3月27日出願公開、特開2008- 72472〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯と本願発明
本願は、平成18年9月14日の出願であって、平成22年12月1日に拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年3月3日に審判請求がなされたが、当審において平成24年2月27日に拒絶理由通知がなされ、これに対し、平成24年4月26日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものであって、特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成24年4月26日付け手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。

「 【請求項1】
複数の端末が相互通信可能なネットワークに接続され、第1の端末から複数の第2の端末にそれぞれ同一内容のデータパケットを送信し、このデータパケットを受信した前記第2の端末は受信確認パケットを前記第1の端末に送信する通信システムにおいて、
前記第1の端末はデータパケットの宛先である複数の前記第2の端末毎にエントリを持ち、前記受信確認パケットを受信したか否かを記憶する受信確認チェックリストを保持する手段と、
データパケットの送信時には、複数の前記第2の端末にそれぞれ送信した同一内容のデータパケットのうち1つのみをオリジナルパケットとして保存すると共にタイマの計時を開始し、前記受信確認チェックリストの各エントリを未受信確認状態に設定し、
前記第2の端末からの受信確認パケットを受信したときには、前記受信確認チェックリストの該当エントリを受信確認状態に更新し、
前記タイマの計時結果が所定時間経過したときには、前記受信確認チェックリストが未受信確認状態である端末に限定して前記オリジナルパケットを再送信し、前記タイマの計時を再度開始する手段と
を備えたことを特徴とする通信システム。」


2.引用発明
これに対して、当審の拒絶の理由に引用された特開平1-147926号公報(以下、「引用例」という。)には、「同報無線通信方式」として図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「1.1つのディジタル情報源から、無線により複数の情報受信者に同一の情報を伝送するARQ式パケット無線通信システムにおいて、情報送信者が複数の受信者の識別番号を宛先として記載した情報フレームを送信し、情報送信者側において、複数の受信者を宛先とした情報フレームを送出後、あらかじめ定められた時間内に宛先として指定した受信者のうち、少なくとも1つの受信者から該情報フレームに対する確認応答フレームが返送されなかつた場合にあつては、該情報フレームの宛先から既に確認応答フレームが返送された受信者の識別番号を取残き、再送することを特徴とする同報無線通信方式。」(1頁左下欄)

ロ.「第3図は上記概念で提示した同報通信システムをパケット無線通信システムとして実現させるための情報フレームの構造の一実施例を示したものである。同図において301はフレームの始まりを表すフレーム開始フラグ、302は情報送信者の識別番号、303は受信者の識別番号、304は制御フィールド、305は情報フィールド、306は誤り検出のための検査記号、307はフレームの終了を表すフレーム終了フラグである。この中で制御フィールド304はフレームの種類を示したり、情報フレームの番号を示すために使用される。情報フィールド305は伝送すべき情報そのものが記載されている。」(3頁右上欄)

ハ.「受信者111?133は情報フレームが受信されるとフレームの宛先内に自身の識別番号が含まれているか否かを調べ、含まれていない場合は単に上記フレームを破棄する。含まれている場合は上記フレームの誤り検査をフレーム内の検査記号306を用いて行い、その結果もし誤りが発見されれば上記フレームを破棄し、誤りがなければ自身宛ての情報として上記フレームを受領する。また誤り検査の結果に応じて否定確認応答または確認応答フレームを情報送信者に返送する。ただし否定確認応答フレームは必ずしも返送する必要はない。」(3頁右上欄?左下欄)

ニ.「第7図は情報送信者101が受信者111,112,113に対し情報フレームを送出している場合のタイムチャートの一例を示す。情報送信者101は情報フレーム220送出後、受信者からの確認応答フレーム受信待ち状態に移る。第6図に示す実施例では受信者のうち、受信者111より確認応答フレームが、受信者112より否定確認応答フレームが受信された状態を示している。情報送信者は引き続き受信者113よりの確認応答フレームが返送されるまで待つが、一定時間T3経過後、時間切れとして再度情報フレームを送出する。但し、この時点では受信者111にはフレームが確実に届いている事が確認されているため、情報送信者101は情報フレーム220の宛先から受信者111を取り除き、情報フレーム421として再送を行う。以後同様の手順に従い、最終的に全ての受信者から確認応答フレームが得られるまで再送が繰り返される。」(4頁左下欄?右下欄)

上記摘記事項ロ.によれば、情報フレームに含まれる情報フィールドは伝送すべき情報そのものであるところ、上記摘記事項イ.によれば引用例に記載のものは複数の受信者に同一の情報を伝送するためのシステムであることから、複数の受信者に伝送される情報フィールド及び再送される情報フィールドは同一内容のものということができる。
そして、情報フィールドは後に再送されるから、複数の受信者に送信した時に情報フィールドは送信者側に保存されるものといえ、また複数の受信者に送信される情報フィールドは同一内容の一つのものであるから、保存される情報フィールドも一つの情報フィールドであると考えるのが自然である。

上記摘記事項ニ.に「情報送信者101は情報フレーム220送出後、・・・一定時間T3経過後、時間切れとして再度情報フレームを送出する。」と記載されていることからみて、情報フレーム送出から一定時間T3を計時するタイマを有していると考えるのが自然である。
そして、一定時間T3が経過したときには確認応答フレームが送信されてきた受信者を除いて情報フィールドを再送しており、「以後同様の手順に従い、最終的に全ての受信者から確認応答フレームが得られるまで再送が繰り返される」と記載されていることから、再送時に再びタイマが計時を行うものと考えられる。
(なお、上記摘記事項ニ.は第7図について記載されているが、引用例の図面は第1図ないし第6図であること。及び、記載内容は第6図に関するものであるとして齟齬をきたさないので、「第7図」は「第6図」の誤記であるとした。)

したがって、上記摘記事項イ.?ニ.の記載及び図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、上記引用例には次の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されていると認められる。

(引用発明)
「情報送信者と複数の受信者が無線により接続され、前記情報送信者から前記複数の受信者にそれぞれ同一内容の情報フィールドを送信し、この情報フィールドを受信した前記受信者は確認応答フレームを前記情報送信者に返送する通信システムにおいて、
情報フィールドの送信時には、複数の前記受信者にそれぞれ送信した同一内容の情報フィールドのうちの一つのみを保存するとともにタイマの計時を開始し、
前記タイマの計時結果が一定時間T3を経過したときには、前記確認応答フレームが送信されてきた受信者を除いた受信者に限定して保存された情報フィールドを再送し、前記タイマの計時を再度始める手段と
を備えたことを特徴とする通信システム。」


3.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、

引用発明の「情報送信者」「受信者」は、本願発明の「第1の端末」「第2の端末」に相当し、当該「情報送信者」と「受信者」が接続された引用発明における「無線」は、相互に通信が可能であるから、本願発明の「相互通信可能なネットワーク」に相当する。

引用発明は、パケット無線通信システムに関するのであり、情報送信者と受信者間の各種情報はパケットにより送受信されるものであるから、引用発明の「情報フィールド」は、本願発明の「データパケット」に相当する。

引用発明の「確認応答フレーム」「タイマ」「一定時間T3」は、本願発明の「受信確認パケット」「タイマ」「所定時間」にそれぞれ相当する。

引用発明の「保存された情報フィールド」は、本願発明の「オリジナルパケット」に相当する。


したがって、本願発明と引用発明は、以下の点で一致ないし相違している。


(一致点)
「 複数の端末が相互通信可能なネットワークに接続され、第1の端末から複数の第2の端末にそれぞれ同一内容のデータパケットを送信し、このデータパケットを受信した前記第2の端末は受信確認パケットを前記第1の端末に送信する通信システムにおいて、
データパケットの送信時には、複数の前記第2の端末にそれぞれ送信した同一内容のデータパケットのうち1つのみをオリジナルパケットとして保存すると共にタイマの計時を開始し、
前記タイマの計時結果が所定時間経過したときには、前記オリジナルパケットを再送信し、前記タイマの計時を再度開始する手段と
を備えたことを特徴とする通信システム。」


(相違点)
(1)本願発明が「前記第1の端末はデータパケットの宛先である複数の前記第2の端末毎にエントリを持ち、前記受信確認パケットを受信したか否かを記憶する受信確認チェックリストを保持する手段」を有しているのに対して、引用発明では受信したか否かをどのように管理しているのか不明な点。

(2)本願発明では、データパケットの送信時に「前記受信確認チェックの各エントリを未受信状態に設定し」ているのに対して、引用発明ではこのような設定を行うか記載がない点。

(3)本願発明においては「前記第2の端末からの受信確認パケットを受信したときには、前記受信確認チェックリストの該当エントリを受信確認状態に更新し」ているのに対して、引用発明ではこのような更新を行うか否か記載がない点。

(4)本願発明においては、計時結果が所定時間経過したときに「前記受信確認チェックリストが未受信確認状態である端末に限定して前記オリジナルパケットを再送信し」ているのに対して、引用発明では「確認応答フレームが送信されてきた受信者を除いて」再送信を行っている点。


4.当審の判断
上記相違点(1)ないし(4)について検討する。

ある条件を満たしたか否か、あるいはある動作を行ったか否かなどの二者択一的な条件や事項の管理にチェックリストを用いる技術は、広く慣用されている周知の技術にすぎない(例えば、当審の拒絶の理由においても引用した、山本幹,他3名、高信頼マルチキャスト通信プロトコルの遅延解析、電子情報通信学会技術研究報告 Vol.96 No.253、日本、1996.09.発行、第96巻、p61-66、特にp62左欄下から13?11行目参照。)。そうしてみると、受信確認パケットを受信したか否かを管理するために、送信してくる相手毎に管理できるようなチェックリストを用いるようにすることは、当業者が必要により適宜採用できた手法にすぎないから、相違点(1)とした本願構成は、当業者が周知技術を勘案して格別な創意工夫を要することなく容易に想到し得た程度の事項である。

上述したように、チェックリストを用いることは容易であるが、このチェックリストを用いるにあたり、最初にリセットし、初期の状態にセットすることは通常行われる事項にすぎないから、チェックリストを使用する際に相違点(2)とした「前記受信確認チェックの各エントリを未受信状態に設定」する構成とすることは格別の事項ではない。
そして、チェックリストを使用するにあたり、管理している事項の更新に伴ってチェックリストを更新することは通常なされる事項であるから、相違点(3)とした「前記第2の端末からの受信確認パケットを受信したときには、前記受信確認チェックリストの該当エントリを受信確認状態に更新」する本願発明の構成も格別なものではない。
さらに、チェックリストを用いる構成とすれば、これをオリジナルパケットの再送信先の端末の選択に用いるようにすることは当然に想到する事項であるから、相違点(4)とした「前記受信確認チェックリストが未受信確認状態である端末に限定して」オリジナルパケットを再送信する構成とすることは格別な事項とはいえない。

したがって、各相違点は格別のものではない。そして、本願発明の作用効果も引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲のものである。


5.請求人の主張に対して
請求人は平成24年4月26日に提出した意見書において、本願発明はユニキャスト通信を利用している点で引用例とは前提が異なる旨主張をしている。
しかしながら、本願請求項1の記載のように「複数の第2の端末にそれぞれ同一内容のパケットを送信」すると規定しても、それが、ユニキャスト、すなわち単一のアドレスを指定して特定の相手にデータを送信することによって行われるかどうかとは無関係であり、請求項1の「複数の前記第2の端末にそれぞれ送信した同一内容のデータパケットのうち1つのみをオリジナルパケットとして保存する」との記載についても、ユニキャスト通信に限定したものということはできない。
したがって、請求人の主張を採用することはできない。


6.むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-05-17 
結審通知日 2012-05-18 
審決日 2012-05-29 
出願番号 特願2006-249530(P2006-249530)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安藤 一道  
特許庁審判長 藤井 浩
特許庁審判官 矢島 伸一
山本 章裕
発明の名称 通信システムおよび端末  
代理人 本山 泰  
代理人 豊田 義元  

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