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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F
管理番号 1260076
審判番号 不服2010-17726  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-08-06 
確定日 2012-07-12 
事件の表示 特願2001-519451「電気工学部材を絶縁する方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 3月 1日国際公開、WO01/15179、平成15年 2月25日国内公表、特表2003-507905〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は,平成12年7月31日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1999年8月21日,ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって,平成21年7月28日付けの拒絶理由通知に対して,平成22年1月15日に手続補正書及び意見書が提出されたが,同年4月16日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年8月6日に審判請求がなされたものである。

2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は,平成22年1月15日の手続補正書で補正された明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものと認められるところ,その請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりである。

「重合可能な注入-及び含浸剤及び/又は塗料からなる層を流動可能な形で電気工学部材の表面に設け,前記の部材の含浸を,浸漬,液浸,真空含浸,真空圧含浸又は細流含浸により行い,引き続き高エネルギー放射線を用いて完全に硬化させる電気工学部材の絶縁方法において,前記の高エネルギー放射線が近赤外線(NIR)であり,前記近赤外線は500nm?1400nmの波長を有し,前記部材は変圧器又は巻線を備えた他の部材並びに導線であることを特徴とする,電気工学部材を絶縁する方法。」

3 引用例に記載された発明及び引用例の記載
(1)引用例1に記載された発明及び引用例1の記載
本願の優先権主張の日前に頒布され,原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された刊行物である特開平10-225071号公報(以下「引用例1」という。)には,「コイルの製造方法」(発明の名称)に関して,図1?5とともに以下の記載がある(なお,下線は当合議体にて付加したものである。以下同様。)。

ア 「【請求項1】 巻線を所定のコイル形状に巻回した巻装体に,充填材を配合したレジンの所定量を含浸させ,しかる後前記レジンを硬化することを特徴とするコイルの製造方法。」

イ 「【0002】
【従来の技術】電気機器,例えば小型回転機の固定子を製造する場合には,巻線を所定の形状に巻回してなる巻装体に,レジンを含浸させ,硬化させて,電気絶縁性,放熱性等の特性の向上を図ることが行われている。
【0003】図5,はこの種の従来の小型コイルの製造方法の一例を示す図である。
【0004】同図に示されるように,固定子としての所定の形状に巻回された巻装体1は,鉄心2ごと,タンク3内の熱硬化性樹脂(常温または比較的低温で硬化する樹脂を含む)からなるレジン4に浸漬され該レジンが含浸された後,図示しない加熱炉において,含浸されたレジン4が加熱硬化されて固定子コイルが得られる。」

ウ 「【0023】図2は,このようにしてレジンの含浸された巻装体18を加熱硬化させるための加熱硬化装置19を概略的に示したものである。
【0024】この加熱硬化装置19は,巻装体18を搬送するための多数のハンガー20を所定間隔で吊架したチエンコンベア21と,このチエンコンベア21が通過する加熱装置本体22とから構成されている。加熱装置本体22は赤外線ヒータ22aや加熱を均一に行うためのファン22b等を有している。【0025】レジン14が含浸された未硬化の巻装体18は順次ハンガー20に懸架され,チエンコンベア21が進行するにつれて加熱装置本体22に入り,加熱装置本体22を通過する過程でレジン14が加熱硬化される。」

エ 「



オ 「【0033】図4は本発明の第3の実施形態を概略的に示す図である。
【0034】巻装体41は鉄心42上に巻線を所定のコイル形状に巻回してつくられている。 この巻装体41の端部には,ノズル43からレジン44が所定量滴下して巻線の間隙にレジン44が含浸される。【0035】レジン44の含浸された巻装体41は,第1の実施形態と同様に,加熱硬化装置19に入れられ,所定の熱処理が行われてレジン44が硬化される。
【0036】本発明の第3の実施形態によれば,巻装体41の端部にレジン44を滴下するようにしているので,巻線間に確実にレジン44が充填される。」

以上から,引用例1には,以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「巻線を所定のコイル形状に巻回した巻装体に,レジン44をノズル43から所定量滴下して含浸させ,赤外線ヒータ22aを有している加熱装置19に入れられ,レジン44が熱処理,硬化されることを特徴とするコイルの製造方法。」

(2)引用例2の記載
本願の優先権主張の日前に頒布され,原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された刊行物である特開平9-180920号公報(以下「引用例2」という。)には,以下の記載がある。

ア 「【0009】同じく,本発明に係わる希土類ボンド磁石の製造方法の実施態様においては,請求項8に記載しているように,輻射ないしは照射加熱源として波長のピークが0.75?2.0μmの近赤外線を用いるようになすことができ,また,請求項9に記載しているように,近赤外線加熱に併せて雰囲気対流加熱などの補助加熱法を用いるようになすことができる。」

イ 「【0011】
【発明の作用】本発明に係わる希土類ボンド磁石およびその製造方法ならびに希土類ボンド磁石の熱処理装置では,バインダーの硬化処理に波長のピークが0.75?2.0μm程度の近赤外線を用いることとしているので,このような近赤外線はこれよりも波長の長い遠赤外線(例えば,波長は50?100μm)に比べてエネルギ密度が高く,しかもバインダーを構成する樹脂に対する透過率が高いために,樹脂の内部より急速に加熱されることとなって,バインダーはかなり短時間のうちに硬化することとなり,従来の電気加熱炉を用いた場合に比べて10分の1程度以上も短い2?3分程度の加熱でバインダーは十分に硬化することとなる。」
(審決注:0.75?2.0μmは換算すると750nm?2000nmに相当する。)

(3)引用例3の記載
本願の優先権主張の日前に頒布され,原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された刊行物である特開平6-136299号公報(以下「引用例3」という。)には,以下の記載がある。

ア 「【0022】
【実施例1】銅粒子(平均粒子径2mm,純度99.9%以上)228.6g,銀粒子(平均粒子径3mm,純度99.9%以上)43.2gを混合して黒鉛るつぼに入れ,高周波誘導加熱装置を用いて窒素雰囲気中で1700℃まで加熱溶解した。溶解後,るつぼ先端より窒素雰囲気中へ噴出した。噴出と同時に,窒素ガス(純度99.99%以上)(30kg/cm^(2)G)を融液に対して噴出し,アトマイズした。得られた粉末は,平均粒子径12μmの球状粉末であった。得られた粉末の表面の銀濃度の測定をしたところ,表面より0.6,0.54,0.45,0.3,0.26であり,表面の銀濃度は0.57,平均の銀濃度xは0.1であり,表面の銀濃度は平均の銀濃度の5.7倍であった。
【0023】また,同様にして,銅粒子63.5g,銀粒子972gを混合して黒鉛るつぼ中で1700℃まで加熱溶解して窒素雰囲気中で30kg/cm^(2)Gの圧力で融液をアトマイズした。得られた銀合金粉末の平均粒子径は10μmの球状であった。平均の銀濃度yは0.9,銅濃度は0.1であった。得られた銅合金粉末の中10μm以下の粉末(平均5ミクロン)10g,及び得られた銀合金粉末の中10μm以下の粉末(平均5ミクロン)2g,レゾール型フェノール樹脂0.6g,トリエタノールアミン0.01g,ロジン0.03g,ヘキシルセロソルブ0.3g,チタンカップリング剤0.001g,チキソ剤0.0001gを混合してペーストとした。」

イ 「【0028】
【実施例6】実施例1で得られたペーストを紙フェノール基板の銅箔を既にエッチングして作製された100μmの導体間(間隔1mm)にジャンパー回路としてスクリーン印刷した。170℃で近赤外線を用いて加熱硬化した。導電性は,10^(-4)Ω・cmであった。さらに,ジャンパー線の一部にはんだペーストを印刷し,230℃リフロー炉ではんだ付けした。はんだ付け性は100%であった。また,接着強度は8kgと高かった。」

3 対比
引用発明の「コイル」は,「巻線を備えた」部材と「導線」で構成される電気工学部材の1つであることは明らかであるから,本願発明の「巻線を備えた」「部材並びに導線」である「電気工学部材」に相当する。
また,引用発明において,「レジン44をノズル43から所定量滴下して含浸」していることから,レジン44が流動性があること,含浸が細流により行われていることが分かり,そうすることにより,表面にレジン44の層ができることも分かる。また「レジン44が熱処理,硬化される」ことから,レジンが加熱により架橋して硬化していることは当業者にとって明らかであるから,レジン44が重合可能であることが分かる。そうすると,引用発明の「レジン44をノズル43から所定量滴下して含浸」することは,本願発明の「重合可能な注入-及び含浸剤を流動可能な形」で,「液浸」していることに相当する。
また,引用発明の「赤外線ヒータ」からは赤外線が放射されること,赤外線が高エネルギー放射線であることは当業者にとって明らかであるから,引用発明の「赤外線ヒータ22aを有している加熱装置19に入れられ,レジン44が熱処理,硬化されること」は,本願発明の「高エネルギー放射線を用いて完全に硬化させる」ことに相当する。
また,引用発明の「コイルの製造方法」と,本願発明の「電気工学部材」を「絶縁する方法」とは,「電気工学部材を製造する方法」である点で共通する。

したがって,本願発明と,引用発明とを対比すると,両者は,
「重合可能な含浸剤からなる層を流動可能な形で電気工学部材の表面に設け,前記の部材の含浸を,細流含浸により行い,引き続き高エネルギー放射線を用いて完全に硬化させる電気工学部材の製造方法において,前記部材は巻線を備えた部材並びに導線であることを特徴とする,電気工学部材を製造する方法。」
である点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)
本願発明は,含浸材を硬化させるための「高エネルギー放射線」が「500nm?1400nmの波長を有」する「近赤外線(NIR)であ」るのに対して,引用発明では,「赤外線」である点。

(相違点2)
本願発明は,「絶縁方法」であるのに対して,引用発明は,「製造方法」であって,絶縁に関しては特定されていない点。

4 判断
(1)相違点1について
熱硬化性の樹脂を硬化させるために近赤外線を照射することは,引用例2,3に記載されているように樹脂硬化の技術分野において周知の技術であり,3(2)イによれば,近赤外線を用いると,「近赤外線はこれよりも波長の長い遠赤外線(例えば,波長は50?100μm)に比べてエネルギ密度が高く,しかもバインダーを構成する樹脂に対する透過率が高いために,樹脂の内部より急速に加熱される」という効果があることも周知といえる。
そして,コイル等の電気機器の絶縁方法においても近赤外線を照射して絶縁性の樹脂を熱硬化させることも以下の周知例1,2にも記載されているように普通に用いられている技術である。
また,近赤外線の波長として「500nm?1400nm」に特定することについては,引用例2に近赤外線の波長として750nm?2000nmが例示されているように,近赤外線の範囲を表現したものに過ぎず,本願明細書の記載を見ても500nm?1400nmと限定したことによる臨界的意義も認められない。
以上から,引用発明において,含浸材を硬化させるための高エネルギー放射線として,赤外線に換えて500nm?1400nmの波長を有する近赤外線(NIR)とすることは当業者が容易になし得たことといえる。

ア 周知例1:特開平7-161521号公報
周知例1には,図1とともに以下の記載がある。

(ア)「【0009】
【実施例】(実施例1)以下,本発明の第一の実施例を図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施例に係わる超電導電磁石に用いる超電導線の断面図である。超電導線12の表面上には電気絶縁被覆16が施され,さらにこの電気絶縁被覆16表面上には,自己融着層17を設けることにより,自己融着超電導線18を形成する。電気絶縁被覆16としてはポリビニルホルマール,ポリエステル,エポキシ,ポリイミド,ポリイミドエステル,ポリアミドイミド,ポリイミドヒダントイン,無機ポリマー等のエナメルや,これらエナメル上にガラスやポリエステル,ケブラー(ポリパラフェニレンテレフタラミドのデュポン社商品名),アルミナ等の繊維を巻回しワニス処理したもの等を用いる。この電気絶縁被覆16の厚さは,超電導電磁石に発生する電圧を考慮して決めるが,通常は5?200μm程度必要である。また自己融着層17としてはフェノキシ,エポキシ,ポリアミド,ポリエステル,ポリイミド,ポリビニルプチラール等の自己融着性を有する接着剤を用いる。この自己融着層17はエナメル皮膜を形成するのと同じ方法で形成できる。自己融着層17は室温では粘着性が全く無いものを用いる。また融着させるための加熱温度は200℃以下とする。これは,なるべく低い温度で処理する方が残留応力による歪を小さくでき,超電導線12を劣化させないためである。自己融着層17の厚さは5?100μm程度とする。これは,5μm未満では接着力が不足するためであり,100μm超過では超電導電磁石使用時に液体ヘリウムが侵入しにくくなり冷却能力が低減するからである。」

(イ)「【0012】この際の加熱方法としては,ニクロム線等の抵抗体による電気ヒータ,赤外線あるいは近赤外線ヒータ,温風ヒータ等により行う。また加熱には,図1における自己融着層17が軟化し,テンションコントローラ26により調整された張力によって電気絶縁被覆16同士が接触した状態ならば良い。極端に高温に加熱することは,超電導特性や電気絶縁被覆16が劣化するので避ける。」

イ 周知例2:特開平10-314658号公報
周知例2には,以下の記載がある。

(ア)「【0014】図1において,本形態の粉体塗装装置100は,ワーク投入部11からワーク取出部12に向かって,予備加熱部10,塗装部20,成形部30,硬化部40,冷却部50がこの順に構成されている。ワーク投入部11からワーク取出部12までは,スクリューコンベア装置の2本の搬送用スクリュー13が通っている。
【0015】予備加熱部10は,搬送用スクリュー13で搬送されていく塗装前のワークWに予熱を加えるためのものであり,そこには高周波加熱装置14が配置されている。加熱装置としては,熱風や赤外線(遠赤外線,近赤外線)などを利用したものであってもよい。
【0016】塗装部20は,そこを通過するワークWに粉体塗料Rを付着させるためのものであり,ハウジング(図示せず。)で囲まれた塗装室22になっている。粉体塗料Rとしては,エポキシ系,ポリエステル樹脂,アクリル樹脂等が使用可能である。」

(イ)「【0019】硬化部40は,成形部30で余分な粉体塗料Rを払い落とされた後のワークWを粉体塗料Rのゲル化温度以上にまで加熱し,それを溶融させるためのエリアであり,そこには高周波加熱装置41が構成されている。加熱装置としては,熱風や赤外線(遠赤外線,近赤外線)などを利用したものであってもよい。」

(2)相違点2について
3(1)エによれば,引用例1には,レジンとしてエポキシ樹脂を使用していることが記載されている。エポキシ樹脂が熱硬化性の絶縁材料であることは当業者にとって自明であるから,引用発明においても,巻線を絶縁してるといえる。したがって,相違点2は,実質的なものではない。

(3) 判断についてのまとめ
以上検討したとおり,本願発明は,引用発明に基づき,当該技術分野における周知の技術を勘案することにより,当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって,本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5 むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-13 
結審通知日 2012-02-17 
審決日 2012-02-28 
出願番号 特願2001-519451(P2001-519451)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久保田 昌晴  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 西脇 博志
小川 将之
発明の名称 電気工学部材を絶縁する方法及び装置  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 久野 琢也  

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