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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16H
管理番号 1260103
審判番号 不服2011-14041  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-07-01 
確定日 2012-07-12 
事件の表示 特願2005- 27136「車両」拒絶査定不服審判事件〔平成18年2月16日出願公開、特開2006- 46633〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成17年2月3日(優先権主張平成16年7月2日)の出願であって、平成23年4月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年7月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、その後、当審において、平成24年2月28日付けで拒絶理由が通知されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?15に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明15」という。)は、平成22年12月3日付け手続補正、平成23年7月1日付け手続補正、及び平成24年4月9日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1は次のとおりである。
「【請求項1】
駆動力発生手段と、
前記駆動力発生手段を運転者が制御するための第1スイッチと、
前記駆動力発生手段から駆動力が伝達される第1駆動力伝達手段と、前記第1駆動力伝達手段からの駆動力を前記駆動輪に伝達する第2駆動力伝達手段とを含み、前記駆動力発生手段で発生された駆動力を駆動輪に伝達するベルト式無段変速機と、
前記ベルト式無段変速機の変速比を制御するとともに、前記運転者により前記第1スイッチがオフされることにより前記駆動力発生手段に対して停止が指示された後、前記駆動力発生手段が駆動力を発生していない状態で、車速に基づく場合には、車速が略停止状態に対応する所定の値よりも大きい場合に前記ベルト式無段変速機の変速比をロー側に向かって継続して制御するとともに、車速が前記所定の値以下になったときには、ロー側に向かって制御する途中であっても前記ベルト式無段変速機の制御を停止し、前記第1駆動力伝達手段および前記第2駆動力伝達手段の少なくとも一方の回転速度に基づく場合には、前記第1駆動力伝達手段および前記第2駆動力伝達手段の少なくとも一方の回転速度が略停止状態に対応する所定の値よりも大きい場合に前記ベルト式無段変速機の変速比をロー側に向かって継続して制御するとともに、前記第1駆動力伝達手段および前記第2駆動力伝達手段の少なくとも一方の回転速度が前記所定の値以下になったときには、ロー側に向かって制御する途中であっても前記ベルト式無段変速機の制御を停止する変速制御手段とを備える、車両。」

3.本願発明1について
(1)本願発明1
本願発明1は上記のとおりである。
(2)引用例
(2-1)引用例1
特開昭62-122827号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。なお、全角半角等の文字の大きさ、促音、拗音、句読点は記載内容を損なわない限りで適宜表記した。以下、同様。
(あ)「2.特許請求の範囲
(1)電源と、電源から電子制御装置へ通電するためのキースイッチと、キースイッチがオフのとき電源から電子制御装置への通電を保持する自己保持回路と、自己保持回路をオフする手段と、を有することを特徴とする電子制御装置における電源制御装置。
(2)前記自己保持回路は所望の変速制御が行なわれ、回転エンジンセンサ、車速センサからの信号が停止したときオフされることを特徴とする特許請求の範囲第(1)項に記載の電源制御装置。」(第1ページ左下欄第4?15行)
(い)「(従来技術及びその問題点)
車両制御に用いられる従来の電子制御装置は、キースイッチがオンされると、その電子制御装置内の定電源回路が働かされて、電子制御装置を作動状態にし、一方キースイッチがオフされると定電源回路への通電がしゃ断され、電子制御装置が不作動にされる。このような構成であるので、走行中にキースイッチを誤操作によりオフにしたり、またはバッテリとキースイッチとの間のヒューズが切れたりした場合には次のような不都合が生じる。すなわち、
(1)電子制御装置により制御される電子制御トランスミッションまたは電子制御クラッチは、ギヤ変更ができず、またはクラッチ切断ができない。」(第1ページ右下欄第5?19行)
(う)「次に、第7図を参照してトランスミッション制御と共に用いられる本発明の電源制御装置を説明する。第7図において、18はトランスミッション制御装置、19は車速センサ、20はエンジン回転センサである。
今、走行中、キースイッチがオフの誤操作がされたとき、変速が不可能となると危険である。このような場合、エンジン回転センサ20、車速センサ19からの信号を読み取り、電源制御装置を自己保持して、電子制御装置を作動状態に保ち、トランスミッション制御装置18を介してトランスミッションを制御して変速を行なう。そして、停止してもよい条件になったときに、自己保持を解除して、電子制御装置を停止させる。」(第3ページ右上欄第9行?左下欄第2行)
以上の記載事項及び図面の記載からみて、引用例1には、下記の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「エンジンと、
電源から電子制御装置へ通電するためのキースイッチと、
トランスミッションと、
トランスミッションを制御して変速を行なうトランスミッション制御装置18とを備え、
走行中、キースイッチがオフの誤操作がされたとき、エンジン回転センサ20、車速センサ19からの信号を読み取り、電源制御装置を自己保持して電子制御装置を作動状態に保ち、トランスミッション制御装置18を介してトランスミッションを制御して変速を行なうとともに、所望の変速制御が行なわれ、回転エンジンセンサ、車速センサからの信号が停止したとき自己保持がオフされ、変速制御が停止されるようにした車両。」
(2-2)引用例2
特開昭62-273188号公報(以下、「引用例2」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(か)「(従来の技術)
自動二輪車等において、内燃機関の動力伝達系に、クラッチの後段に無段自動変速機を備えるものがある。
この無段自動変速機は内燃機関の動力を所定の変速比で変速して出力し、内燃機関の効率的な運転を可能とし、燃費の改善を図っている。
この無段自動変速機は内燃機関に燃料を供給するスロットルの開度と、車速とから最適な目標変速比を演算し、その目標変速比となるように制御される。
このため、停車すると車速がなくなり、無段自動変速機の変速位置は変速比が大きいロー変速比位置となる。従って、内燃機関を始動して発進するとき等で、クラッチを接続するときは、無段自動変速機の変速比が大きく、大きいトルクが得られるようになっているから、クラッチや内燃機関にかかる負荷が軽減される。」(第1ページ右下欄第1?18行)
(き)「第1図はこの発明の構成を示すブロック図である。…(略)…また、無段自動変速機3は、例えば、トロイダル形無段変速機またはVベルト無段変速機等が用いられる。さらに、駆動機構4は駆動輪で構成されている。」(第2ページ左下欄第2?12行)
(3)対比
本願発明1と引用例1発明とを比較すると、後者の「エンジン」は前者の「駆動力発生手段」に相当し、同様に、「電源から電子制御装置へ通電するためのキースイッチ」は「前記駆動力発生手段を運転者が制御するための第1スイッチ」に、「トランスミッション」は「前記駆動力発生手段から駆動力が伝達される第1駆動力伝達手段と、前記第1駆動力伝達手段からの駆動力を前記駆動輪に伝達する第2駆動力伝達手段とを含み、前記駆動力発生手段で発生された駆動力を駆動輪に伝達する」「変速機」に、「走行中」は「車速が略停止状態に対応する」「値よりも大きい場合」に、「キースイッチがオフの誤操作がされたとき」は「前記運転者により前記第1スイッチがオフされることにより前記駆動力発生手段に対して停止が指示された後」に、「トランスミッション制御装置18」は「変速制御手段」に、それぞれ相当する。また、後者の「トランスミッション制御装置18を介してトランスミッションを制御して変速を行なう」と前者の「前記ベルト式無段変速機の変速比をロー側に向かって継続して制御する」は、「変速機の変速比を継続して制御する」という点において一致し、後者の「所望の変速制御が行なわれ、回転エンジンセンサ、車速センサからの信号が停止したとき自己保持がオフされ、変速制御が停止される」と前者の「車速が前記所定の値以下になったときには、ロー側に向かって制御する途中であっても前記ベルト式無段変速機の制御を停止し」は、「車速が所定の条件となったときに変速機の制御を停止し」という点で一致する。後者の「キースイッチがオフ」の状態は「前記駆動力発生手段が駆動力を発生していない状態」であるといえる。
以上より、両者は、本願発明1の用語に倣って整理すると、
「駆動力発生手段と、
前記駆動力発生手段を運転者が制御するための第1スイッチと、
前記駆動力発生手段から駆動力が伝達される第1駆動力伝達手段と、前記第1駆動力伝達手段からの駆動力を前記駆動輪に伝達する第2駆動力伝達手段とを含み、前記駆動力発生手段で発生された駆動力を駆動輪に伝達する変速機と、
前記変速機の変速比を制御するとともに、前記運転者により前記第1スイッチがオフされることにより前記駆動力発生手段に対して停止が指示された後、前記駆動力発生手段が駆動力を発生していない状態で、車速が略停止状態に対応する値よりも大きい場合に変速機の変速比を継続して制御するとともに、車速が所定の条件となったときに変速機の制御を停止する変速制御手段とを備える、車両。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点]
本願発明1は、変速機が「ベルト式無段変速機」であって、「前記運転者により前記第1スイッチがオフされることにより前記駆動力発生手段に対して停止が指示された後、前記駆動力発生手段が駆動力を発生していない状態」において、「車速に基づく場合には、車速が略停止状態に対応する所定の値よりも大きい場合に前記ベルト式無段変速機の変速比をロー側に向かって継続して制御するとともに、車速が前記所定の値以下になったときには、ロー側に向かって制御する途中であっても前記ベルト式無段変速機の制御を停止し」、「前記第1駆動力伝達手段および前記第2駆動力伝達手段の少なくとも一方の回転速度に基づく場合には、前記第1駆動力伝達手段および前記第2駆動力伝達手段の少なくとも一方の回転速度が略停止状態に対応する所定の値よりも大きい場合に前記ベルト式無段変速機の変速比をロー側に向かって継続して制御するとともに、前記第1駆動力伝達手段および前記第2駆動力伝達手段の少なくとも一方の回転速度が前記所定の値以下になったときには、ロー側に向かって制御する途中であっても前記ベルト式無段変速機の制御を停止」する「変速制御手段」を備えるのに対し、引用例1発明は、「トランスミッションを制御して変速を行なうトランスミッション制御装置18」を備え、「走行中、キースイッチがオフの誤操作がされたとき、エンジン回転センサ20、車速センサ19からの信号を読み取り、電源制御装置を自己保持して電子制御装置を作動状態に保ち、トランスミッション制御装置18を介してトランスミッションを制御して変速を行なうとともに、所望の変速制御が行なわれ、回転エンジンセンサ、車速センサからの信号が停止したとき自己保持がオフされ、変速制御が停止される」ものである点。
(4)判断
本願発明1の「所定の値」に関して、本願の特許請求の範囲には、「【請求項7】前記車速の所定の値は、0である、請求項1?6のいずれか1項に記載の車両。」、「【請求項13】前記所定の値は、0である、請求項1、10および12のいずれか1項に記載の車両。」と記載されており、「所定の値」は「0」を包含している。一方、引用例1には、上記に摘記したように、「走行中、キースイッチがオフの誤操作がされたとき、…自己保持して、…トランスミッションを制御して変速を行なう。」(上記(う))、「(2)前記自己保持回路は所望の変速制御が行なわれ、回転エンジンセンサ、車速センサからの信号が停止したときオフされる」(上記(あ))と記載されている。ここで、「走行中、キースイッチがオフの誤操作がされたとき」には、車速は0より大きいとともに、通常、エンジンは回転しており、また、「回転エンジンセンサ、車速センサからの信号が停止した」とは、エンジンの回転が止まり停止したこと、車両が停止し車速が0になったことと解するのが当業者の通常の理解であるから、結局、引用例1発明は、車速ないしエンジン回転速度が0より大きいときにトランスミッションを制御して変速を行ない、車速ないしエンジン回転速度が0に至ったときに変速制御が停止されるものであるということができる。本願発明1の「所定の値」が0でない場合であっても、引用例1発明においてキースイッチがオフの誤操作がされたとき、車速ないしエンジン回転速度が略0であれば、所期の変速制御が略終了しているから、特に変速制御を継続する必要性は小さい。したがって、車速ないしエンジン回転速度が略0である所定の値より大きい場合に変速制御を継続するように構成することは技術合理的であり、適宜の設計的事項にすぎない。
引用例1発明の「変速機」の種類、形式、及び「トランスミッションを制御して変速を行なう」ないし「所望の変速制御」における変速は特定されていないが、引用例2(特に上記(き))に示されているように、「無段自動変速機」として例えば「Vベルト無段変速機」が用いられることは周知であり、同じく、引用例2(特に上記(か))には、このような例えばVベルト無段変速機が用いられる自動二輪車等において、停車時にロー変速比位置になるようにすれば、始動・発進時にクラッチや内燃機関にかかる負荷が軽減されるという事項が示されている。そして、引用例1発明の「変速機」が「Vベルト無段変速機」である場合にも、停車時にロー変速比位置になるようにすれば、始動・発進時にクラッチや内燃機関にかかる負荷が軽減される点において格別異なるところはない。したがって、引用例1発明に引用例2の上記事項を適用して、Vベルト無段変速機が用いられる自動二輪車等の車両において、走行中、キースイッチがオフの誤操作がされたとき、停車時にロー変速比位置になるようにトランスミッションを制御して変速を行なうとともに、所望の変速制御が行なわれ、回転エンジンセンサ、車速センサからの信号が停止したとき自己保持がオフされ、変速制御が停止されるようにすることは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。
引用例1発明は、「所望の変速制御が行なわれ、回転エンジンセンサ、車速センサからの信号が停止したとき自己保持がオフされ、変速制御が停止される」ものであり、「所望の変速制御が行なわれ」る前に「回転エンジンセンサ、車速センサからの信号が停止したとき」に、同様に「変速機の制御を停止」するか、あるいは、「所望の変速制御が行なわれ」るまでさらに変速制御を継続するかは明らかではないが、いずれとするかは、所要の円滑な発進の程度、制御継続によるバッテリの消費、ベルトの張力等を考慮して適宜設計する事項にすぎず、「変速機の制御を停止」するように構成することに格別の困難性はない。
そして、本願発明1の効果も、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が予測し得たものであって、格別のものではない。

なお、請求人は、平成24年4月9日付け意見書(第3ページ第16?23行)において、「また、補正後の請求項1に規定した発明では、審判請求書でも記載しましたように、(車速、または、駆動力伝達手段の回転速度が)所定の値以下になったときには、ロー側に向かって制御する途中であってもベルト式無段変速機の制御を停止することによって、車速または駆動力伝達手段の回転速度が所定の値以下になったときには、変速比が目標とするロー側の所定の変速比に到達していない場合であってもベルト式無段変速機の制御を途中で停止して変速比がそれ以上変更されるのを抑制することができるので、「ベルト部材が弛むのを抑制して再始動時の発進を円滑にすることができる」という特有の効果を奏します。」と主張しているが、本願明細書の例えば【0022】、【0023】、【0027】、【0029】をみると、「ベルト部材が弛むのを抑制」できるのは、第2駆動力伝達手段と駆動輪との間に(遠心)クラッチが配置される等の特定の場合についてである。このような事項は本願の請求項1に記載されていないとともに、そのような場合に「ベルト部材が弛むのを抑制」できることは当業者に明らかである。また、ベルト部材が弛むことが望ましくないことはいうまでもなく、ベルトの弛みをきたすような変速制御を回避すべきことは当業者に明らかである。
同じく、
「(4)特許法第36条第6項第1号および第2号の要件(理由B)について
(a)制御を継続するのか停止するのか不明確であるという指摘について
上記補正後の請求項1の構成要件Dにおいて、「車速に基づく場合」と「第1駆動力伝達手段および第2駆動力伝達手段の少なくとも一方の回転速度に基づく場合」とに場合分けして、それぞれの場合における変速制御を別個に規定致しましたので、制御を継続するのか停止するのかが明確になったと考えます。
(b)「所定の値」がどのような値であるのか無限定であるという指摘について
上記補正後の請求項1では、「略停止状態に対応する」という内容を規定して、「所定の値」がどのような値であるかを明確にしました。
上記のとおり、特許請求の範囲の記載の不備を解消するように補正しましたので、特許法第36条第6項第1号および第2号の拒絶理由は解消したものと確信致します。」と主張するが、あえていうならば、第1スイッチがオフされたときに、第1駆動力伝達手段の回転速度が所定の値より大きく、第2駆動力伝達手段の回転速度が所定の値(略0)以下のとき、ベルト式無段変速機の変速比をロー側に向かって継続して制御するのかどうか、第1駆動力伝達手段の回転速度が所定の値以下になったときに制御を停止するのかどうか(それまでは継続して制御するのかどうか)、必ずしも明確でない。

(5)むすび
したがって、本願発明1は、引用例1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.結語
以上のとおり、本願発明1が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである以上、本願発明2?15について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-05-14 
結審通知日 2012-05-15 
審決日 2012-05-31 
出願番号 特願2005-27136(P2005-27136)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 竹下 和志  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 冨岡 和人
所村 陽一
発明の名称 車両  
代理人 宮園 博一  

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