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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C25D
管理番号 1260171
審判番号 不服2011-18905  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-09-01 
確定日 2012-07-09 
事件の表示 特願2009- 60560「金多孔質膜の製造方法および金多孔質膜」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 9月30日出願公開、特開2010-215930〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年3月13日を出願日とする出願であって、平成22年7月23日付け拒絶理由通知に応答して同年9月27日付けで意見書が提出され、同年10月28日付け拒絶理由通知に応答して同年12月28日付けで意見書が提出され、平成23年3月17日付け拒絶理由通知に応答して同年5月18日付けで手続補正がなされたが、同年6月3日付け(送達日:同年6月8日)で拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされたが、その後当審において、平成24年1月23日付けで最初の拒絶理由が通知され、それに応答して同年4月23日付けで意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成23年5月18日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明は、次のとおりである。(以下「本願発明」という。)
「カルボン酸またはカルボン酸塩を含む水溶液中で金をアノード酸化し、アノード酸化後、金多孔質膜に加熱処理、光照射処理の一方或いは両方を行うことを特徴とする金多孔質膜の製造方法。」

第3 引用刊行物の記載事項
1.刊行物1
当審において通知した拒絶の理由に引用され、本願出願前に日本国内において頒布された、「西尾和之、金のアノード酸化による多孔質皮膜の形成、第119回講演大会 講演要旨集、日本、2009.03.02発行、第123頁」(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1a)「【緒言】金のアノード酸化による多孔質皮膜の作製は・・・電気化学的に最も安定な金属であるAuを用いて,カルボン酸水溶液中でのアノード酸化によりナノスケールの多孔質皮膜を作製した結果を報告する.」(第1?4行)
(1b)「【結果・考察】図1に,0.3Mしゅう酸水溶液中でAuのアノード酸化を実施した際の電位制御の例と,その時の電流値の変化を示す.」(第7?8行)
(1c)「厚さ800nmの均質な3次元網目状細孔を有する多孔質膜が形成され,図2b)の拡大像から,細孔径は30nm程度であることがわかった.」(第13?14行)
(1d)「しゅう酸以外の各種カルボン酸を用いた場合には挙動が大きく異なり,更に微細な細孔を有する厚い膜が得られた.」(第23?26行)
(1e)図1には、「0.3Mしゅう酸水溶液中でのAuアノード酸化時の電位制御例と電流値の変化」が記載されている。
(1f)図2には、「0.3Mしゅう酸水溶液中でのAuアノード酸化により形成された多孔質膜のSEM像」により、3次元網目状細孔を有する多孔質膜が形成されている様子が示されている。

これら記載事項によれば、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されている。
「カルボン酸水溶液中で金をアノード酸化する、金の多孔質皮膜の製造方法。」

2.刊行物2
同じく、特開平3-94032号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(2a)「その合金は、より電気化学的に活性な金属の全部または一部がその合金から溶出してポーラス金属が残るまでアノードとして振る舞う。」(第2ページ左下欄第1?3行)
(2b)「腐食工程の後に結果として生じたポーラス金属構造物は熱処理(粗大化)して気孔サイズ、機械的安定性及び構造物の延性を増加させてもよい。」(第3ページ左下欄下から第3行?右下欄第1行)
(2c)「その場熱処理は、結果として得られるポーラス構造物の腐食したままの延性を増加させた。さらに、その場熱処理は平面状以外の機械的に安定な形状の膜の製造を可能にした。」(第6ページ左上欄下から第4行?下から第1行)
(2d)「脱成分腐食処理の次に、いまやナノポーラス金で構成されたアノードは、熱処理(粗大化)工程のための温度制御炉に搬送されることができる。」(第6ページ右上欄下から第5行?下から第2行)
(2e)「<I>は膜の平均気孔サイズ」(第6ページ左下欄第10行)
(2f)第6ページ右下欄の表には、膜の平均気孔サイズとして、25℃(室温)で0.002μm、熱処理後の100℃で0.005μm、200℃で0.02μm、300℃で0.04μmであることが示されている。

これらの記載事項によれば、刊行物2には、次の事項(以下、「刊行物2事項」という。)が記載されている。
「アノード処理によって得られたナノポーラス金に加熱処理を施すことによって機械的安定性及び構造物の延性を増加させること。」

第4 対比
本願発明と刊行物1発明とを対比すると、機能又は構造等からみて、後者の「カルボン酸水溶液」は前者の「カルボン酸を含む水溶液」に相当し、以下同様に、後者の「金の多孔質皮膜」は前者の「金多孔質膜」に相当する。

そこで、本願発明の用語を用いて表現すると、両者は次の点で一致する。
「カルボン酸を含む水溶液中で金をアノード酸化することを特徴とする金多孔質膜の製造方法。」

そして、両者は次の点で相違する。
相違点:本願発明は、「アノード酸化後、金多孔質膜に加熱処理、光照射処理の一方或いは両方を行う」ものであるのに対し、刊行物1発明は、アノード酸化後、金多孔質膜に加熱処理または光照射処理を行っていない点。

第5 相違点の判断
1.相違点の容易想到性について
上記(1c)及び(1d)より、刊行物1発明においては、微細な細孔が、30nm以下の径となることが明らかであり、また一般に、孔のない材料に比べ、多孔質材料における、機械的安定性、靭性や延性が小さいことは、技術的に明らかであるから、刊行物1発明においても、得られた物質の安定性を高めるという、当業者が考慮すべき一般的な課題が内在する。
よって、刊行物1発明における金多孔質皮膜の製造方法及び膜形成機構が、刊行物2に記載のナノポーラス金と異なっているとしても、刊行物1発明における金多孔質皮膜も、刊行物2に記載のナノポーラス金も、何れもアノード酸化により、金を多孔化したものであり、微細な細孔が設けられたことによる機械的安定性、靭性や延性の低下という課題を有する点において共通するから、刊行物1発明に対し、刊行物2に記載の熱処理を適用することは、当業者が容易になし得たことである。

ところで、刊行物2に記載された加熱処理によって粗大化する、平均気孔サイズのオーダーはナノオーダであり、刊行物2に記載された加熱処理を、刊行物1発明の多孔質膜に適用しても、刊行物1発明の多孔質膜における微細な細孔構造が消失するものではない。
すなわち、刊行物1に記載された細孔の径は、上記(1c)及び(1d)のように、30nm程度あるいはそれ以下であるのに対し、刊行物2に記載された熱処理後の平均気孔サイズは、上記(2f)の記載によると、本願明細書(【0031】)に記載された温度と同様の200℃の場合、25℃(室温)時に比べ、10倍の気孔サイズとなるものの、その径は20nm程度である。そうすると、そのような熱処理を刊行物1に適用したとしても、粗大化の程度は、30nm以下の径が300nm程度以下に大きくなるにとどまると考えられるから、安定性向上のために刊行物2に記載の熱処理を適用することを阻害する要因があるとはいえない。
そして、本願発明においても、直径数nm?数百nmの微細孔(本願明細書【0019】)を有する金多孔質膜を製造対象としており、この数値範囲は刊行物2に記載された粗大化後の平均気孔サイズと同程度の細孔径であり、加熱処理により「細孔サイズが若干拡大した様子が見られるものの、微細な多孔質構造が維持されている」(本願明細書【0031】)と記載されているように、本願発明の製造方法も、若干の径の粗大化を許容しつつ、微細な多孔質構造、すなわち、直径数nm?数百nmの微細孔を有する金多孔質膜を製造対象としているものである。

したがって、刊行物1発明における金多孔質皮膜について、その安定性を向上させるために、刊行物2に記載の事項を適用し、金多孔質皮膜に加熱処理を行うことは、当業者が容易に想到し得たことである

2.効果について
本願発明による効果、特に、平成24年4月23日付けの意見書で主張され、明細書【0028】に記載されている、アノード酸化後、金多孔質膜に加熱処理、光照射処理の一方或いは両方を行うことにより、安定性が向上するという効果については、明細書【0028】に、「黒色化が進行し、安定性が向上する」との記載にとどまり、黒色化により具体的に何が安定するのか、たとえば、機械的あるいは物理的な性質が安定するのか、化学的な性質が安定するのかは、明細書全体を参酌したとしても不明である。
一方、刊行物2においても、「腐食された(25℃において)支持されていない金スポンジは自重による崩壊を極めて受けやすい。」(刊行物2の公報第6ページ左上欄第5?7行)という、金のポーラス構造物の性質を踏まえ、上記(2b)?(2c)に記載の、アノード処理によって得られたナノポーラス金に加熱処理を施す方法をとることにより、機械的あるいは物理的な安定性を増加させ、崩壊を防ぐことにより、素材の変質を防止することができるという効果を奏するのであるから、本願発明が刊行物1発明及び刊行物2事項からは予測し得ない、格別の効果を奏するものとはいえない。

3.まとめ
よって、本願発明は、刊行物1発明、刊行物2事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-05-17 
結審通知日 2012-05-18 
審決日 2012-05-29 
出願番号 特願2009-60560(P2009-60560)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C25D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 瀧口 博史  
特許庁審判長 鈴木 正紀
特許庁審判官 松岡 美和
井上 茂夫
発明の名称 金多孔質膜の製造方法および金多孔質膜  
代理人 土屋 徹雄  
代理人 内藤 和彦  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 大貫 敏史  
代理人 江口 昭彦  

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