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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1260184
審判番号 不服2010-17123  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-07-30 
確定日 2012-07-13 
事件の表示 特願2004-563438「光ディスクを再生する装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年7月15日国際公開、WO2004/059625、平成18年4月13日国内公表、特表2006-512704〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯
本願は、平成15年12月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年12月30日 ヨーロッパ特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成21年6月2日付けで通知した拒絶の理由に対し、平成21年12月4日付けで手続補正がされたが、平成22年4月1日付けで拒絶査定がされ、同年7月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし19に係る発明は、平成21年12月4日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし19に記載された事項により特定されるものであるところ、そのうち、請求項17に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「【請求項17】
ジャンプの間レンズアクチュエータを制御する方法であって、前記レンズアクチュエータのための制御信号が、少なくとも部分的にアクチュエータの位置とスレッジの位置との差を表すアクチュエータ偏差信号に基づいて生成される方法。」

ここにおいて、「レンズアクチュエータ」と「アクチュエータ」とが特定事項に含まれるところ、本願の明細書に、
「【0008】 以下において、対物レンズ及びアクチュエータは一体化した統一体とみなされ、スレッジに対する対物レンズの移動は単にレンズアクチュエータの移動として示される。また、特に他の記載がない限り、「アクチュエータ」という表記はレンズアクチュエータを示す。」、
「【0031】 以下において、対物レンズ34及びアクチュエータ21は一体化した統一体とみなされ、スレッジ10に対する対物レンズ34の移動は単にレンズアクチュエータ21の移動として示される。また、特に他の記載がない限り、「アクチュエータ」という表記はレンズアクチュエータ21を示す。」
と記載されていることからすると本願発明においても「アクチュエータ」は「レンズアクチュエータ」を示すものと解することができ、また、他に両者を別異のものと解すべき根拠もないことから、上記「レンズアクチュエータ」と「アクチュエータ」とは、表記上で不統一であるにすぎず、両者は同一のものを示すものと解し、以下、検討を進める。

3.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日の前に頒布された刊行物である特開2001-176089号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに以下の技術事項が記載されている(下線は、当審で付した。)。

ア.「【0006】
【作用】このディスク装置では、3スポットのレーザ光が光ピックアップからディスク面に照射される。ディスク面で反射された反射光は光ピックアップに設けられた光検出器で検出され、差動プッシュプル方式によりトラッキングエラー信号が検出される。このトラッキングエラー信号に基づいてトラッキングアクチュエータを制御することにより、対物レンズをトラックに追従させている。たとえば、演算手段が、プッシュプル信号を演算し、そのプッシュプル信号に含まれる直流成分が検出される。曲飛ばしのようなシークの指示が与えられ、目的位置までのトラックをジャンプする場合には、検出した直流成分でトラッキングアクチュエータを制御することにより、対物レンズのラジアル方向への揺れを補正することができる。」

イ.「【0010】
【実施例】図1を参照して、この実施例のディスク装置10は、光ピックアップ12を含む。光ピックアップ12は光学レンズ(対物レンズ)14を含み、対物レンズ14はトラッキングアクチュエータ16およびフォーカスアクチュエータ18によって支持される。したがって、レーザダイオード20から出力されたレーザ光が、対物レンズ14で収束され、ASMO(Advanced Strage Magneto Optical)ディスクのような光磁気ディスク(MOディスク)44の再生面に照射される。これによって、所望の信号がMOディスク44から読み出される。
【0011】なお、MOディスク44は、ランド・グルーブ記録可能なディスクである。また、光ピックアップ12は、スレッドモータ42とたとえばラックピニオン方式で連結され、したがってMOディスク44の外周方向および内周方向(ラジアル方向)に移動される。」

ウ.「【0014】そして、MOディスク44の再生面で反射された反射光が、それぞれ対応する光検出素子22a?22hに入力される。この光検出素子22a?22hの出力がTE信号検出回路24および和信号検出回路30に入力され、また光検出器22a?22dの出力がFE信号検出回路26に入力され、各回路で異なる演算が施される。つまり、TE信号検出回路24では、差動プッシュプル方式によって、数1に示すようなTE信号(差信号)が検出される。また、FE信号検出回路26では、数2に示すようなFE信号が検出される。さらに、和信号検出回路30では、メインビームのプッシュプル(PP)信号とサブビームのPP信号とを加算することにより、数3に示すような和信号(PP信号の直流成分)が検出される。なお、数1?数3において、光検出器22a?22hの出力は、領域A?Hと同じ文字で示してある。
【0015】
【数1】TE={(A+D)-(B+C)}-α{(F+G)-(E+H)}ただし、α≒2である。
【0016】
【数2】FE=(A+C)-(B+C)
【0017】
【数3】和信号={(A+D)-(B+C)}+α{(F+G)-(E+H)}ただし、α≒2であ
る。」
エ.「【0024】光ピックアップ12がトラックをジャンプする間に、DSPコア38aはTZC信号の立ち上がりエッジおよび立ち下がりエッジでダウンカウンタ38bをディクリメントし、カウント値が0になると、ブレーキパルス(PWM信号)をスレッドモータ42に与える。DSP38aはさらに、トラッキングサーボおよびスレッドサーボをオンする。この結果、目的位置から所望の信号の再生が開始される。
【0025】ジャンプ中において、対物レンズ14が揺れないと仮定すると、図3(A)に示すような、規則的なTE信号が検出される。したがって、図3(B)に示すようなTZC信号がで生成され、DSPコア38aはTZC信号に基づいてジャンプしたトラック本数をカウントする。このとき、光ピックアップ12の静的なオフセットすなわちPP信号の直流(DC)成分は、図3(C)に示すように、一定の電圧である。このように、対物レンズ14に揺れが生じないような理想的な状況においては、一旦検出したDC成分でトラッキングアクチュエータ16を制御することにより、オフセットを除去することができる。
【0026】しかし、実際には、光ピックアップ12の加減速などによって対物レンズ14が揺れるため、TE信号の周期は図3(D)に示すように不規則に変動し、DCレベルも図3(E)に示すように正極性と負極性の間で変動する。TE信号の周期が密になるとき、対物レンズ14は光ピックアップ12の移動方向と同方向に振れ、TE信号の周期が粗になるとき、対物レンズ14は光ピックアップ12の移動方向と逆方向に振れる。対物レンズ14が逆方向に揺れたとき、外周方向から内周方向に横切ってしまうと、DSPコア38aは同じトラックを合計3回カウントしてしまう。このような、トラック本数の誤カウントが生じると、所望のトラックにジャンプできず、シークに時間がかかってしまう。この実施例では、このような不都合を回避するために、トラックジャンプ時に和信号を取り込み、これに基づいて対物レンズ14の揺れを防止するようにしている。」

オ.「【0027】DSPコア38aは、具体的には、シークの指示に応答して、図4に示すフロー図を処理する。なお、実際にはDSPコア38aには、以下の処理を実行するためのロジックが形成されており、説明の便宜上、フロー図を用いて説明する。
【0028】DSPコア38aはまず、ステップS1およびS3のそれぞれでスレッドサーボおよびトラッキングサーボをオフする。ステップS5では、ジャンプするランド(またはグルーブ)の本数データNをホストコンピュータから取り込み、カウント値(2N-1)をダウンカウンタ38bに設定し、続くステップS7では、光ピックアップ12を移動させるために、スレッド制御信号をPWMドライバ40cを介してスレッドモータ42に出力する。
【0029】なお、ジャンプするランドまたはグルーブの本数(N)は、ホストコンピュータによって現在位置のアドレスと目的位置のアドレスとに基づいて算出される。
【0030】DSP38bはその後、ステップS9でTZC信号の取り込みを開始する。ダウンカウンタ38bは、取り込まれたTZC信号のの立ち上がりエッジおよび立ち下がりエッジでディクリメントされる
【0031】続くステップS11では、ダウンカウンタ38bのカウント値が“0”になったかどうかを判断する。ここで、カウント値が“1”以上の値を示せば、ステップS19に進み、PP信号に含まれるDC成分を取り込む。すなわち、A/D変換器36dに入力されるLPF32を介した和信号検出回路30の出力(DC成分)を取り込む。続いて、ステップS21でDC成分増減量P×ゲインGを算出する。
【0032】ここで、DC成分増減量Pは、対物レンズ14の揺れの方向および大きさである。ただし、対物レンズ14は、固有の静的なオフセットを有するため、DC成分増減量PはこのオフセットとDC成分との差分で表される。図3(E)に示す基準値は、図3(C)の静的なオフセット(DC成分)に一致し、この基準値に対する和信号の正方向の差分量および負方向の差分量がDC成分差分量Pとなる。光ピックアップ12が内周方向から外周方向に移動している場合に、正の差分量が得られたとき、その差分量に対応する距離だけ対物レンズ14が外周方向に揺れ(ずれ)ている。一方、負の差分量が得られたとき、その差分量に対応する距離だけ対物レンズ14が内周方向に揺れ(ずれ)ている。なお、光ピックアップ12が外周方向から内周方向に移動している場合には、対物レンズ14の揺れ方向が逆になる。また、ゲインGは、トラッキングアクチュエータ16の感度に応じて決定され、実験等により得られる値である。
【0033】そして、ステップS23では、ステップS21で算出した値(P×G)をトラッキングアクチュエータ制御信号(トラック出力)として、PWMドライバ40aを介してトラッキングアクチュエータ16に与え、ステップS9に戻る。このようにして、ジャンプ中では、対物レンズ14の揺れが補正される。」

カ.「【0035】この実施例によれば、差動プッシュプル方式で使用されるメインビームのPP信号とサブビームのPP信号とを加算することにより、PP信号に含まれるDC成分を検出し、このDC成分を用いて対物レンズのラジアル方向への揺れを補正することができる。つまり、簡単な構成で揺れをなくすことができる。このため、誤ってトラック本数をカウントすることがないので、目的位置が存在するトラックに正確にジャンプできる。したがって、シークにかかる時間を短縮することができる。」


上記「ア.」ないし「カ.」の記載によれば、引用例には、トラッキングアクチュエータを制御する方法に関して、次の発明(以下、「引用例発明」という。)が記載されている。
「光ピックアップがトラックをジャンプする間に、トラッキングアクチュエータを制御する方法であって、
前記光ピックアップは、スレッドモータとたとえばラックピニオン方式で連結され、ディスクの外周方向および内周方向(ラジアル方向)に移動され、
前記光ピックアップは光学レンズ(対物レンズ)を含み、対物レンズはトラッキングアクチュエータおよびフォーカスアクチュエータによって支持され、
ジャンプ中、対物レンズの揺れの方向、すなわち対物レンズが内周方向に揺れ(ずれ)ているか外周方向に揺れ(ずれ)ている、および揺れの大きさを示す信号に基づいてトラッキングアクチュエータ制御信号を算出し、トラッキングアクチュエータに与え、対物レンズの揺れが補正されるようにした、
トラッキングアクチュエータを制御する方法。」

4.対比・判断
本願発明と引用例発明とを対比する。
(1)引用例において、「トラッキングアクチュエータ」について、上記「3 ア.」の「トラッキングアクチュエータを制御することにより、対物レンズをトラックに追従させている。」と記載され、一方で、本願明細書には「レンズアクチュエータ」について、「【0018】・・・トラッキングモード、すなわちアクチュエータがトラックを追従するように制御される場合においては、アクチュエータはトラック上に留まるように常に動かされる(すなわち、アクチュエータの位置とトラックの位置との差が常にゼロであるように制御される)。」、及び「【0031】 以下において、対物レンズ34及びアクチュエータ21は一体化した統一体とみなされ、スレッジ10に対する対物レンズ34の移動は単にレンズアクチュエータ21の移動として示される。また、特に他の記載がない限り、「アクチュエータ」という表記はレンズアクチュエータ21を示す。」と記載されていることを参酌すると、両者はいずれも対物レンズを保持し、トラックに追従させる駆動手段のことであるから、引用例発明の「トラッキングアクチュエータ」は、本願発明の「レンズアクチュエータ」に相当する。

(2)引用例発明の「光ピックアップがトラックをジャンプする間に、トラッキングアクチュエータを制御する方法」は、本願発明の「ジャンプの間レンズアクチュエータを制御する方法」に相当する。

(3)本願発明の「アクチュエータ偏差信号」について検討する前提として、「スレッジ」と「レンズアクチュエータ」の技術的意義について検討する。
本願の明細書には、
「【0005】
動作中、光ビームはディスク上に集束されたままであるべきである。この目的のために、上記対物レンズは軸方向に移動可能に配され、光ディスクドライブは対物レンズの軸方向の位置を制御する焦点アクチュエータ手段を有している。また、焦点スポットはトラックと位置合わせされて配されるか、又は新しいトラックに対して位置決めされることができるべきである。この目的のために、少なくとも対物レンズは半径方向に移動可能に取り付けられ、光ディスクドライブは対物レンズの半径方向の位置を制御する半径方向アクチュエータ手段を有している。
【0006】
より詳細には、上記光ディスクドライブはディスクドライブのフレームに対して移動可能にガイドされるスレッジ(sledge)を有しており、上記フレームはディスクを回転させるスピンドルモータも支持している。スレッジの移動経路はディスクに対してほぼ半径方向に配され、スレッジはトラックの内径からトラックの外径までの範囲にほぼ対応する範囲にわたって位置が変わる。上記半径方向アクチュエータ手段は、例えばリニアモータ、ステッパモータ又はウォームギアモータを有する制御可能なスレッジドライブを有している。
【0007】
スレッジの移動は、対物レンズを大まかに位置決めすることを目的とするものである。対物レンズの位置を微調整するために、対物レンズは上記スレッジに対して移動可能に取り付けられており、光ディスクドライブは上記スレッジに対して対物レンズを移動させるレンズアクチュエータを有している。この設計は、対物レンズがスレッジに対してほぼ直線的に移動するタイプのものであるか又は対物レンズがスレッジに対して曲線ラインを移動するピボットタイプのものであり得る。スレッジに対する対物レンズの移動範囲はかなり小さいが、スレッジに対する対物レンズの位置決め精度は上記フレームに対するスレッジの位置決め精度よりも広範である。
【0008】
以下において、対物レンズ及びアクチュエータは一体化した統一体とみなされ、スレッジに対する対物レンズの移動は単にレンズアクチュエータの移動として示される。また、特に他の記載がない限り、「アクチュエータ」という表記はレンズアクチュエータを示す。」
等と記載されている。
上記の記載によると本願では、光ディスク装置は、
「半径方向アクチュエータ手段によりディスクの半径方向に移動される「スレッジ」を有し、当該「スレッジ」には、対物レンズと一体とみなすことのできる「レンズアクチュエータ」が移動可能に取り付けられている構造」
を前提としていると解することができる。

一方で、引用例発明には、
「前記光ピックアップは、スレッドモータと連結され、ディスクの外周方向および内周方向(ラジアル方向)に移動され、
前記光ピックアップは光学レンズ(対物レンズ)を含み、対物レンズはトラッキングアクチュエータおよびフォーカスアクチュエータによって支持され」
との特定が含まれている。
ここで、「対物レンズはトラッキングアクチュエータおよびフォーカスアクチュエータによって支持され」とは、すなわち、対物レンズとトラッキングアクチュエータおよびフォーカスアクチュエータとが一体とみなすことができるように光ピックアップにおいて移動可能に取り付けられていることに他ならないから、引用例発明のディスク装置は、
「スレッドモータによりディスクの半径方向に移動される「光ピックアップ」を有し、当該「光ピックアップ」には、対物レンズを支持し、したがって対物レンズと一体とみなすことのできる「トラッキングアクチュエータ」が、移動可能に取り付けられている構造」
を前提としていると解することができる。

上記本願において、光ディスク装置が前提としている構造についてさらに検討すると、技術常識上、光ディスク装置において、「対物レンズ」のみでは光ディスクの記録再生ができないことは自明であり、したがって、「対物レンズと一体化した統一体とみなされる」レンズアクチュエータは、光ディスクを記録再生するために必要な光学的、電気的要素等を備えた「光ピックアップ」の一部であり、したがって本願発明の「スレッジ」は、「光ピックアップ」を搭載していると解するのが技術的に妥当である。
一方で、上記引用例発明が前提とする構造についてさらに検討すると、技術常識上、「光ピックアップ」と「スレッドモータ」とを連結するためには、「光ピックアップ」を搭載した、何らかの構造も含めて構成されることは自明である。
すると、本願発明の「スレッジ」と、引用例発明の「光ピックアップ」とは、スレッドモータのような半径方向アクチュエータによって駆動される被駆動体に着目したものか、光ディスクを再生するための機能的な要素に着目したものか、の点で相違する程度のことであり、技術常識上、被駆動体に光ピックアップが搭載され、スレッドモータのような半径方向アクチュエータによって一体的に駆動されることとなるのは自明のことである。
請求人は、「上述の引用文献に記載の発明は、本願発明とは全く異なり、そもそも『スレッジ』に対して更に移動可能に『レンズアクチュエータ』が取り付けられているような構成を想定していない。」との主張を行っているが、光記録再生技術における技術常識をもって理解すると、本願発明と引用例発明とは、いずれも、
ディスク装置の固定部分である「フレーム」に取り付けられ、被駆動体を半径方向に駆動する「半径方向アクチュエータ」(又は「スレッドモータ」)、
前記「半径方向アクチュエータ」(又は「スレッドモータ」)により、ディスクのほぼ半径方向に移動させられる構造要素すなわち「スレッジ」及び前記構造要素に搭載された光ピックアップ、
及び、前記光ピックアップに設けられ、光ピックアップの他の部分に対して相対的に変位する、対物レンズと一体とみなされるフォーカス及びトラックキングアクチュエータ、
の各要素を備える光ディスク装置を前提とする点で一致すると解するのが妥当である。

なお、ここまでの検討における光記録再生技術における技術常識について根拠となる周知例を示しておくと、「対物レンズ」及び「トラッキングアクチュエータ」を有する光ピックアップが、本願発明のスレッジに相当する、スレッドモータにより移動される構造要素に搭載され、一体的に移動させられるような構造は、例えば特開平7-326062号公報(対物レンズ9とスレッドモータ34に駆動されるスレッド機構44に光ピックアップが搭載され対物レンズ6はトラッキングアクチュエータ16によりトラッキング制御される)、特開平10-275346号公報(対物レンズ4を含む光ピックアップ5がスレッド5A上に搭載されている)、特開2001-67680号公報(トラッキングアクチュエータ4、対物レンズ2等を含む光ピックアップが送りモータ26により移動する送り機構5に搭載されている)、特開2001-195753号公報(スレッドモータ7により送られる光学ヘッド本体(光ピックアップベース)30にトラッキングアクチュエータ41,対物レンズ8を含む光学ヘッド3が搭載されている)、及び特開2002-230794号公報(不図示のスレッドモータにより移動されるスレッド11に不図示のトラッキングアクチュエータ、対物レンズ4aを含むピックアップヘッド4が搭載されている)等の周知例から明らかなように、それ自体は、ごく普通の構成にすぎない。

以上のことからすると、引用例発明において「対物レンズの揺れ」とは、当該対物レンズを有する光ピックアップに対する相対的な位置の変位のことであるから、光ピックアップが搭載される構造要素との位置の変位でもあり、「レンズアクチュエータの位置とスレッジの位置との差」とは表現上で相違する程度のことである。
したがって、引用例発明の、
「ジャンプ中、対物レンズの揺れの方向、すなわち対物レンズ14が内周方向に揺れ(ずれ)ているか外周方向に揺れ(ずれ)ている、および揺れの大きさを示す信号に基づいてトラッキングアクチュエータ制御信号を算出し、トラッキングアクチュエータに与え、対物レンズの揺れが補正されるようにした」
ことは、本願発明の、
「レンズアクチュエータのための制御信号が、少なくとも部分的にアクチュエータの位置とスレッジの位置との差を表すアクチュエータ偏差信号に基づいて生成される」
ことに相当する。

また、審判請求書における「本願発明は、『スレッジ』に対して更に移動可能に『レンズアクチュエータ』が取り付けられた構成を採用することによって、レンズ位置の粗い移動と微調整とを双方可能とするという目的を達成し、そのうえ更に、慣性によって『レンズアクチュエータ』の位置が『スレッジ』に対して行き過ぎてしまう又は遅れてしまう問題を解決できるので、引用文献に記載の構成に比して著しく正確にレンズ位置制御も可能とできる利点があるのである。」との主張に対しても、引用例発明においては、スレッドモータとトラッキングアクチュエータにより粗い移動と微調整を可能とするとともに、「対物レンズの揺れが補正される」ことで行き過ぎ遅れの問題を解決しているので、作用効果においても本願発明と引用例発明とで特段相違する点はない。

(4)以上のとおりであるから、本願発明と引用例発明は、
「ジャンプの間レンズアクチュエータを制御する方法であって、前記レンズアクチュエータのための制御信号が、少なくとも部分的に前記レンズアクチュエータの位置とスレッジの位置との差を表すアクチュエータ偏差信号に基づいて生成される方法。」
である点で一致し、相違するところがない。

5.むすび
以上のとおり、本願の請求項17に係る発明は、本願の優先権主張の日の前に頒布された刊行物である特開2001-176089号公報に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-09 
結審通知日 2012-02-14 
審決日 2012-03-02 
出願番号 特願2004-563438(P2004-563438)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 古河 雅輝中野 浩昌  
特許庁審判長 山田 洋一
特許庁審判官 小松 正
関谷 隆一
発明の名称 光ディスクを再生する装置  
代理人 津軽 進  
代理人 笛田 秀仙  

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